ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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109話

 バンギラスを壱号さんに送り付け、他にもいないか数日に渡りワイルドエリアを探し回った帰り。

 今日はエンジンシティに泊まることにし、ホテルを探していると声を掛けられた。

 

「おっ、ハチじゃねぇか! いいところにいやがった。よし! んじゃ行くぜ!」

 

 いやこれ拉致だわ。

 ギリギリ知り合いの類に入れてやらなくもないクソ親父に拉致されようとしているわ。

 

「はっ? あ、おい……ちょ……!」

 

 有無を言わせない強制連行っぷり。

 へい、お巡りさん! こっちです!

 あ、俺もお巡りだったわ………。

 公務執行妨害?

 そんなことで捕まえていたら仕事が無くならないのでやめておこう。

 

「いやー、いいところにいてくれたぜ。これからド・面白そうなもんが見れるからな。お前も見たいだろ? つか、オレが一緒に見たいんだがな! ガッハッハッハッ!」

「いや聞けよ」

 

 誰だよ、こんな街中にピオニートラップを仕掛けた奴は。

 話は聞かないわ声はデカいわ無駄に力は強いわ、これ捕まったが最後、終わるまで解放されない系のトラップだぞ。

 クソ、誰だよ本当に。

 こんな危険なトラップを仕掛けるとか正気の沙汰じゃないぞ。

 それに一体どこへ連れて行かれるというのだろうか。

 このまま話を聞かない一方的な会話でもない無駄話を聞かされたまま、訳も分からず連行とか…………。

 

「いやー、久々にオレも熱いバトルをしたなー。ハチが中々バトルしてくれねぇからな! よし、今度オレとバトルしようぜ!」

「やらねぇよ」

 

 そしてうるさい。

 通行人がこっちを見てるだろうが。

 おっさんは気にしないだろうが、無駄に注目を浴びているおっさんと一緒にいる俺の立場も考えろ。つか、鋼の大将だー、って指刺されてるぞ。バレバレじゃねぇか。

 いーやーだー、かーえーりーたーいー。

 抵抗という抵抗をさせてもらえないまま、ドナドナされてエンジンジムの前に辿り着くと、一人見たことのある少女がムスッとした表情で待ち構えていた。

 

「あ、親父! やっと来たし! 遅い!」

「だっはっはっはっ! 野暮用終わらせたらこいつを見つけてよぉ! 連れてきたぜ!」

 

 おっさんに気付くと駆け寄ってきたのだが、ガッチリとホールドされている俺を見て、顔を青くしている。

 

「ハチ兄………クソ親父がごめん。マジでごめん。見た目のせいで一瞬マジで親父が犯罪者になったかと思った」

「いや、シャクヤが謝るようなことじゃないから。つか、ここにシャクヤがいてくれてよかったわ。いつまでもアレと一緒とか…………」

 

 何がどうして拉致されていたのか分からないまま永遠とおっさんの無駄話を一方的に聞かされるのはごめんだからな。

 それにここに来てシャクヤが登場ということは、少なくとも何かしらの悪いことが起きるってことはないように思える。

 マジでシャクヤがいてくれて助かったわ。

 頭を撫でておこう。

 

「………取り敢えず、詳しいことは中に入れば分かると思うから」

「お、おう………そうか。因みにエンジンジムってことはカブさんも?」

「いるいる。だから大丈夫なやつ」

「うん、カブさんがいるなら多分危険はないと思うわ」

 

 加えてカブさんも絡んでいるのなら大丈夫だろう。

 いや、本当。おっさんの説明の無さに加えてこの顔だから、単体で事を起こされると犯罪をまず疑ってしまうわ。

 しかも自覚のないやつ。そこまでバカだとは思っちゃいないが、おっさんだからという意味不明な理由で納得出来てしまうくらいには、俺の中での印象が酷いからな。

 うん、カブさんとは大違いである。

 

「いよーし、いくぞー!」

 

 一人俺たちの会話に耳も傾けず、ドカドカとエンジンジムの中に入っていくおっさんの背中を見て、シャクヤが大きな溜め息を吐いた。シャクヤには何か奢ってやろう。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「おや? 来たみたいだね」

「おー、悪ィ悪ィカブちゃん! ここに来る途中でこいつを拾ってな! 連れてくんのに手こずってたんだ」

 

 おっさんの背中を追ってジムの中に入っていくと、そのままスタジアムの方へと行ってしまったので、俺たちもそれに続いた。

 そしてフィールドが見えてくるとカブさんともう二人の影が。

 

「………なんかごめんね? ハチ君。ピオニー君に無理矢理連れて来られたんでしょ?」

 

 俺に気付いたカブさんが、即座に察してくれた。

 なんて物分かりのいいイケおじなのだろうか。説明するまでもなく、状況を把握してくれるとか、流石っす。

 

「あー、まあ、そっすね。暇っちゃ暇でしたけど、目的も聞かされぬまま連れて行かれそうになりましたよ。シャクヤがいなけりゃ拉致されたかと思っちゃうレベル」

「おわっ!? おま、マジでそういうことサラッと言うのやめろよ!」

「いや、事実だろ。なあ、シャクヤ」

「うん、親父ハチ兄を拉致しようとしてるようにしか見えなかった」

「シャクちゃん……っ!」

 

 シャクヤにまで犯罪者扱いされて涙目なおっさん。

 自業自得である。

 何なら今ここで俺が国際警察だとバラせば少しは肝が冷えてくれるだろうか。やらないけど。

 それよりも、だ。

 どうしてここにコマチとトツカがいるんでしょうかね………。

 あっちも不思議そうに俺のことを見ているし。

 

「んで、結局俺を連れてきた理由は何なの?」

「いやー、昨日面白ぇトレーナー見つけたからよ! ハチにも会わせてやりてぇなって」

 

 ああ、そういうことか。

 コマチたちも可哀想に。

 ガラルに来て早々、こんなのに出くわしちまって。

 

「………はぁ、負けたんだろ?」

「おうよ!」

「メガシンカポケモンに」

「おう………えっ? お前何でそれを……」

「んで、今日はカブさんとでもバトルすんの?」

「お、おお………オレ、お前のその洞察力が怖くて夢にまで出てきそうだぜ」

「いい歳したおっさんが気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ」

 

 いや、面白ぇトレーナーってところで分かったわ。要は昨日コマチとバトルしてメガシンカ使われて負け、今日はカブさんとバトルからお前も一緒に見ようぜ! ってことなのだろう。

 取り敢えず、ざまぁ。

 

「さて、コマチ君。彼らの話から何となく察せたと思うけど、僕とバトルしてくれないかな?」

 

 あ、コマチにもまだ説明してなかったのか。

 このおじさんたち、強いトレーナーに飢えてない?

 そんなにバトルしたいのん?

 

「えっと……現役ジムリーダーとジム戦以外でバトルしても大丈夫なんですかね………。その、ガラル地方は他とはちょっと違うシステムみたいですし」

 

 どうやらコマチはジムリーダーと私闘をしていいのか、気になっているようだ。

 確かに他の地方とはジム戦のシステムが違うからな。それと同時にジムリーダーの立場も他とは少し違うから、それを認識しているからこそ出てくる疑問なのだろう。

 ちゃんとガラルのことを勉強しているようで何よりだ。

 

「大丈夫だよ。僕たちはオフでも結構バトルしてるんだ。ジムチャレンジに向けての調整とか、オフシーズン中のイベントに向けた演目とか入れ替え戦とか色々あるからね。それに、ポケモンたちのガス抜きもしなくちゃならない。でも現役でジムリーダーやってるとバトル相手を見つけるのも一苦労でね。僕のポケモンを助けると思ってバトルしてくれないかな?」

 

 カブさんも元はホウエン民。

 コマチが思う疑問を察したのか、上手い口実を並べて理由を作ってくれたようだ。

 まあ、嘘ではないのだろう。実際のところは分からないが、現役ジムリーダーとて定期的にバトルしないと感覚が鈍るだろうし、エキシビジョンマッチとかもやってたりするから、その調整なんかも必要になってくるだろうから、バトル相手が必要になってくるのは理解出来る。

 

「そういうことであれば……」

「ありがとう。ルールは二対二の交代有り、技の方はコマチ君がどういう展開を見せてくれるのか見たいから制限はなし、でどうかな?」

「いいですよ。じゃあ、準備しますね」

「なら、俺が審判するよ。おっさんだと雑だし、シャクヤには荷が重いだろうし」

 

 取り敢えず、俺は審判を買って出ることにした。

 だって、おっさんがやったら判断が雑そうだし、シャクヤにさせるわけにもいかないしな。残るはトツカであるが、ダイマックスをそこまでまだ理解していないだろうから、無理だろうし。

 あ、ってことはこれ俺が着いて来なかったら、消去法的におっさんが審判してたってことだよな………?

 うん、拉致されて正解だったかもしれない。

 

「それじゃ、まずはこの子からだよ! マルヤクデ!」

 

 二対二にしたのは恐らくコマチにキョダイマックスを体験してもらうためだろう。そして、その印象を持たせた上でのバシャーモの投入。

 うん、サプライズを用意したいのは分かったが、急にバトルを申し込まれてこのサプライズはなかなか辛いところがある。どうしてもキョダイマックスにメガシンカを切ってしまうだろうし、それだとバシャーモ相手に本来の目的であるコマチの本気を見られなくなってしまうだろう。

 本当にこのおじさんたちは…………。

 バトルのことになると先が見えなくなるというか何というか………。

 

「カブさん、最初から本気ってこと!?」

「マルヤクデはカブちゃんのガラル地方でのエースだからな」

 

 仕方ない、取り敢えず安全のためにもサーナイトは出しておこう。

 あと黒いのにはコマチの影に潜んでいてもらおう。

 静かに影に合図を送るとゆらりと影が揺れてコマチの方へと向かっていった。

 

「サナ?」

「取り敢えず、俺と一緒に審判な」

「サナ!」

「いくよ、プテくん!」

 

 コマチももうカブさんしか見えていないようだ。

 俺のことなんて気にも留めていない。

 お兄ちゃん悲しい。

 

「プテラか………冠雪原で偶に見かける珍しいポケモンだけど………そうか、コマチ君は外から来ているんだったね。ということは化石から復元したのかな?」

「一応化石から復元されてますけど、元々化石研究所のポケモンでして、懐かれたといいますか託されたといいますか………」

「なるほど、実に興味深い話だね」

 

 そういえば、ガラルの南の方の雪原地帯を超えたところには、化石ポケモンが蔓延ってるんだよなー。俺もシャドーの奴らを探しに足を踏み入れた時に見かけたことがある。とはいえ、かなり寒いし遺跡ばかりだし、何より雪原地帯もあるため、危険過ぎてそれっぽいところすら見つけられなかった。

 因みに雪原地帯の方にはなるが村もあって、離れたところには駅もあるため、ガラルの鉄道を使って行くことも可能だ。

 …………うーん、やっぱりあいつらって雪原地帯の方に潜んでいるのかね。

 

「では、僕からいかせてもらおうかな。マルヤクデ、とぐろをまく!」

 

 マルヤクデが鳥栖を巻きながら上昇していく。

 まずは攻撃力を上げて確実に技を当てにいくっていう意思表示なのだろう。

 

「プテくん、こうそくいどう!」

 

 なら、攻撃力の上がった技を受けなければいい、とか考えてるんだろうなー、コマチは。

 鳥栖を巻いているマルヤクデの周りをプテラが高速で移動していく。

 

「マルヤクデ、ほのおのうず!」

 

 だが、そこはカブさん。

 プテラが旋回するのよりも内側に炎の渦を作り出し、マルヤクデを守る防壁にしてしまった。

 

「いわなだれ!」

 

 プテラが空白地帯となった炎の渦の中央目掛けて、岩を次々と落としていく。

 

「パワーウィップで弾き落として!」

 

 まあ、カブさんには読まれてるわな。

 炎の渦の中でマルヤクデがビシバシ触手で岩を弾き落としていく音が聞こえてくる。

 

「……ピオニー君に勝っただけのことはあるね。鳥栖を巻く間にこうそくいどうで隙を伺い、こちらがそれを警戒してほのおのうずで壁を作れば、上からいわなだれで狙ってくる。………若手のジムリーダーたちではいいようにされちゃうかもね」

 

 何言ってんだか。

 それは枕詞に「他の地方の」が付くだろうに。

 一番若手であるサイトウでもこれくらいなら突破してくると思うぞ。

 あ、サイトウはもう一番若手ってわけじゃなかったな。マクワがジムリーダーに就任したんだったか。

 とはいえ、年齢的にはサイトウの方が若手になるんだけども。

 

「ありがとうございます! でもまだまだコマチは未熟者ですよ。コマチの同期は四天王候補になってたり、ジムリーダーよりも強いジムトレーナーとかって言われてたりする人もいますから」

 

 コマチが言ってるのはイロハとユイのことだな。

 一応トレーナーとしては同期になるんだもんな。不思議な感覚だわ。

 まあ、いろはすは割と天才気質だし、ユイはユキノに扱かれてたから仕方ないところはある。

 それでもコマチも充分強い部類に入るんだし、気にし過ぎなければいいが………。

 

「なら、君の本気を見せてもらわないとね。そのためにもこちらも本気でいかせてもらおうか」

 

 お、やっと使うのか。

 疑ってたわけではないだろうが、今まではおっさんの言ってたことが本当なのか確かめてたってところなのだろう。それでカブさんのお眼鏡に適ったと。

 うん、やっぱりカブさんや癪だがピオニーのおっさんに実力を認められたんだから、充分誇っていいレベルだと思う。

 キバナ談ではあるが、カブさんはその辺り何気に結構シビアらしいから、本当に認められるってのは難しいらしい。

 

「マルヤクデ、キョダイマックス!」

 

 カブさんがマルヤクデをボールに戻すと、そのボールが肥大化していく。

 そして放り投げられて出てきたマルヤクデは巨大化したドラゴンのようにうねうねと長くなっていった。

 やっぱりマルヤクデのキョダイマックスした姿ってドラゴン感あってカッコいいよな。男心をくすぐってくるものがある。

 

「プテくん、何がくるか分からないから上に逃げて!」

 

 何が起こるのか分からないが、取り敢えず逃げておく、か。

 ダイマックスを相手に最初はそう考えてしまうけど、ただ上に逃げるだけじゃダメなんだよなー。

 

「逃がさないよ! マルヤクデ、キョダイヒャッカ!」

 

 ほら。

 巨大な炎の柱がプテラを追いかけるようにして立ち昇っていく。

 そして熱い。

 ポケモンバトルの審判程、過酷な職業はないのかもしれない、と思えてくるレベル。

 

「プテくん、メガシンカ!」

 

 コマチの持つキーストーンとプテラの持つメガストーンが共鳴し、炎の柱の中でメガシンカエネルギーが弾け、その周りの炎だけ弾けさせた。

 だが、すぐにその穴は埋まりプテラの脱出のチャンスを逃してしまっていた。

 あれ?

 逃げるのが目的じゃなかったのか?

 

「炎の渦の中から突っ切って! ゴッドバード!」

「アァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 エネルギーを充填させて一気に飛び出そうとしてくるプテラ。

 あっ………そうか。メガシンカエネルギーで炎が弾けるとは思っていなかったから、指示が間に合わなかったのか………。

 

「ダイサンダー!」

 

 だが、飛び出た直後に雷撃がプテラに降り注いだ。

 撃ち抜かれたプテラはバランスを崩して地面に真っ逆さまに落ちていく。決してディザイアではない。

 フィールドには電気が走り、エレキフィールドが展開されていく。

 

「強い………!」

 

 流石カブさんとマルヤクデだわ。

 コマチのミスから次の行動を先読みし、どの方向から出て来てもいいように巨大な炎の柱の周りを包囲するように雷撃を落としてくるとは………。抜け目がない。

 

「もう一度、キョダイヒャッカ!」

 

 地面に落ちたプテラは容赦なく巨大な炎の柱に呑み込まれていく。

 このままだとプテラが一方的にやられるだけだぞー。

 どうするんだ、コマチー?

 

「プテくん、こうそくいどうと併せてハイヨーヨー!」

「アァァァァッ!!」

 

 急上昇していくプテラを、一度捕らえた獲物を逃すまいと捕食するように巨大な炎の柱が追いかけていく。

 

「炎が届かなくなったら反転して、トルネードも併せて急降下!」

 

 何とか炎の柱が届かないところまで逃げ切ったプテラにコマチが指示を出すと、急降下し始めた。

 高く上昇した分だけ、急降下していく時の威力が上乗せされていく。それがハイヨーヨーであるが、何だかんだで皆使い始めてるんだよなー。

 元はと言えば、リザードン一体でカントーからジョウト地方にかけてのジムを制覇しようという無謀なことを始めた結果、ヤマブキジムのナツメに最初歯が立たなかったという苦い経験を得たことで、圧倒するためにも何かないか、という考えに考えを重ね、偶々あるアニメを目にして取り入れたというものである。

 おかげでチャンピオンにまでなっちゃったんですけどね。その後すぐにグリーンにコテンパンにされて、三日で辞めたけど。

 

「その渦を弾くよ! ぼうふう!」

 

 急降下に加えて回転を加えることで風が生まれ、プテラが新しい技を出してきた。

 内側から強引に逆回転を加えて相殺するつもりなのだろうか。

 

「もっと、もっと!」

 

 あー………その場合、規模が規模なため、俺やコマチにも被害が及びそうである。というか俺が一番危険な位置にいるんじゃなかろうか。

 炎の柱の中から外へと広がる暴風が上から一気に流れ込み、炎を弾き飛ばしていく。

 

「サーナイト、リフレクターとひかりのかべを同時展開」

「サナ!」

 

 俺のことはサーナイトに、コマチのことはダークライに任せて様子を伺う。

 

「…………あれ?」

 

 身を屈めたコマチがキョトンとしている。アホ面がアホ可愛い。

 

「……ッ!? キョダイヒャッカが完全に弾けた?!」

 

 対してカブさんはキョダイヒャッカが相殺されたことに驚いていた。

 それもZワザで相殺したとか、そういうやり方ではなく割と正攻法なやり方で。

 他の奴らに出来ないのとと言えば、メガシンカ状態というくらいか。

 要するにそれだけの力がメガシンカには秘められているというわけだ。

 そして、時間切れのようで、マルヤクデも元の大きさへと戻っていく。

 

「そのまま地面を叩いて! ストーンエッジ!」

 

 プテラは急降下する勢いをそのままに地面を翼で叩きつけた。

 

「熱い……熱いね、コマチ君! こんなに気が昂るバトルは久しぶりだよ!」

 

 あ、あのカブさんがハイになってる。

 目がキラキラしていてギラギラしている。

 取り敢えず嬉しそう。

 何だかんだで言って、この人も大概バトルバカなんだよなー…………。

 

「マルヤクデ、もえつきる!」

 

 地面から突き出す岩がマルヤクデに届きそうって瞬間。

 マルヤクデから岩をも溶かす炎が吹き荒れた。

 なんて技使ってるんだよ、カブさん…………。

 その炎はプテラの方にまで飛んでいき、プテラをコマチの方にまで吹き飛ばしていった。

 えげつねぇな、おい…………。

 

「パワーウィップ!」

 

 砂埃でコマチの視界が遮られた直後、その中から伸びてきたマルヤクデの触手の餌食になってしまい、プテラの翼が拘束されてしまった。

 多分、次の技を確実に当てるための拘束なのだろう。

 トドメは何使うんだろうな。

 ねっとうとか?

 

「プテくん、ゴッドバード!」

「かみなりのキバ!」

 

 あ、かみなりのキバだったか。

 電気を纏った大きな牙を携えて突進してくるマルヤクデに、プテラも負けじとぶつかっていく。

 

「サナ!」

 

 衝撃で地面が少し揺れてバランスを崩しそうになっているコマチ。

 俺はもちろんサーナイトのおかげでビクともしてないぞ。

 さて、判定を下すために様子を見に行きますかね。

 フィールドの中央付近で倒れている二体の様子を伺いに出ると、プテラのメガシンカは解けており、マルヤクデもピクリとも動く様子が見受けられなかった。

 

「マルヤクデ、プテラ、ともに戦闘不能」

 

 相打ちか。

 まあ、俺もカブさんのマルヤクデ相手にサーナイトでスキルスワップを使って特性もらいびを取り除いた上で、ガオガエンと相打ちって結果だからな。

 カブさんもねっとうを使ってこなかった辺り、少しは加減していたようだが、普通に誇っていい結果だと思うわ。

 

「ありがとう、プテくん。新しい技も覚えられたし、いい経験だったね」

 

 そう言ってプテラをボールに戻すコマチ。

 

「敢えて不利なほのおタイプを捨ててみたんだけど………、やっぱりメガシンカはすごいね」

 

 何言ってんだ、この人。

 すごいも何もあなたも今から使うんでしょうに。

 ほら、コマチなんかメガシンカのことよりも、ほのおタイプを捨てたってどういうこと? って顔をしているぞ。

 あいつ、やっぱり知らなかったか。

 

「もえつきるだ。この一撃にありったけの炎を込めて放つ代わりに、ほのおタイプを一時的に失う効果があるんだよ」

 

 説明して欲しそうだったので解説を加えると、ようやく合点がいったのか深く頷いている。

 

「だけど、僕の本気がマルヤクデだけだと思わないでね。最初から全力でいくよ、バシャーモ!」

 

 さて、案の定バシャーモが出てきたことだし、サプライズが弱いものいじめにならないように対処するとしますかね。

 

「カメくん、お願い!」

「サーナイト、これをコマチに」

 

 キーストーンの入ったペンダントを取り出すとサーナイトに超念力でコマチの方へと飛ばしてもらう。

 

「燃え上がれ、メガシンカ!!」

 

 さあ、この気の早ったイケおじに鉄槌を!

 

「コマチ、使え」

「えっ、ハチ君?」

「コマチの全力見たいんでしょ?」

「う、うん、まあ、そうなんだけど………大丈夫なの?」

 

 大丈夫とはどれのことだろうか。

 メガシンカを二連続で使うということなら、メガストーンの数だけキーストーンがあれば問題ないし、コマチのカメックスにもメガストーンはある。同時使用でもなければトレーナーへの負荷もないし、何も問題になるところはない。

 

「大丈夫っすよ。それにそっちはキョダイマックスにメガシンカなんすから、コマチももう一回メガシンカ使わないと不公平でしょ」

「そう、だね。僕も気が早ってたみたいだ」

 

 ようやく自分のしでかしたことを理解したカブさんがちょっと冷静になってくれた。

 うんうん、物分かりのいいイケおじは好きだぞ。

 どこぞのクソ親父より遥かにいい。

 

「カメくん、メガシンカ!」

「バシャーモ、ビルドアップ!」

 

 コマチがカメックスをメガシンカさせる間、バシャーモは気合いを入れていた。

 そういうところは抜け目がないな。

 

「からにこもる!」

「かみなりパンチ!」

 

 ほぼ同時に指示を出したのに、カメックスが頭と両手足を甲羅の中へ引っ込めた瞬間に、バシャーモが電気を纏った拳で殴りつけていた。

 全体的にカーブを描き楕円形な甲羅は、強い衝撃とともに傾いたために浮き上がり宙を舞う。

 

「続けてストーンエッジ!」

 

 バシャーモはカメックスの着地のタイミングに合わせて地面から岩を突き出した。

 

「こうそくスピンで砕いて!」

 

 カメックスはと言うと、落下しながらこうそくスピンで回転し、触れた瞬間から岩を砕き、バシャーモの方へと移動しながら次々と粉砕していっている。

 

「かげぶんしん!」

 

 そしてバシャーモを取り囲むように分身を増やして、円を描きながら回転し続けた。

 

「バシャーモ、カメックスをよく見るんだ!」

 

 その場から離脱することなく、隙を見て攻撃することを選んだバシャーモは、ジロジロと目線を泳がせている。

 

「インファイト!」

「カメくん、みずのはどう!」

 

 目が慣れてきたタイミングでカブさんの指示が飛んだが、それに合わせてコマチも指示を出した。

 バシャーモが踏み込んだ瞬間、全方位から水の衝撃波がバシャーモを襲い、拳が届くことはなく、逆に水に呑まれたバシャーモは次々と撃ちつけられ、地面に足が届かず身動きが取れない状態になってしまった。

 これ、ザイモクザが使ってたカウンターシールドとかいうやつか?

 それをまあ、こうも自分のものとしてアレンジしてくるとは………。

 妙なところで成長具合を見せてきやがる。

 

「これは………っ!? バシャーモ、足に当たった水を足場に全力でブレイブバードだよ!」

 

 うっわ、こっちはこっちでまた無茶苦茶なことを要求しているよ。

 そして、それをしれっと熟すバシャーモ。

 ジムリーダーに使用ポケモンの縛りがなければ、ダンデといい勝負になるんじゃなかろうか。下手したらカブさんがチャンピオンになってもおかしくはない。

 …………逆に今の状態でジムリーダーとして一、二を争う実力者でいるっていうのもすごくね?

 あ、でもその観点からいくとネズも自分に縛りプレイを課しているようなものか。

 ダイマックスなしで他のジムリーダーと遜色ない実力なわけだし。総じて、ガラルのジムリーダーは頭がおかしい奴らしかいないというわけだ。

 改めなくても分かってたことだな。

 それにしてもメガシンカとダイマックスか…………。

 

「バシャーモ、反転してきしかいせい!」

 

 バシャーモが水の包囲網から抜け出すと反転して一気に急降下していく。

 

「からをやぶる!」

 

 だが、これはコマチの読みが早かったな。

 バシャーモの拳が当たるのと同時に甲羅が弾けて吹き飛ばしてしまった。

 

「ハイドロカノン!」

 

 そして、すかさず背中の砲台で狙いを定めて打ち上げられたバシャーモに水の究極技を撃ち放つカメックス。

 流石のバシャーモも不意に受けた甲羅の脱皮に受身が取れていなかったのか、躱す動きすら見えず、究極技に呑まれていく。

 ドサッ! と地面に倒れた時にはメガシンカが解けて元の姿に戻っていた。

 あれまあ、勝っちゃったよ。

 

「バシャーモ、戦闘不能! よって、勝者コマチ!」

 

 タイプ相性と最後に究極技が諸に直撃したのが大きいだろう。

 コマチの戦い方も勝ちにいくバトルじゃなくて負けないように、攻撃を受けても次に繋げるように指示を出していたことで、結果的に勝てたって感じか。

 これを計算してではなく、何となくでやっちゃってるんだから、我が妹ながら末恐ろしいわ。

 

「ふっ、ははははっ! すごいバトルだったよ! これはピオニー君が負けてもおかしくない実力だ!」

 

 バシャーモをボールに戻しながら高笑いしているカブさん。

 あそこまで豪快に笑うって相当楽しかったんだろうな。

 

「カ、カブちゃーん、落ち着けー」

 

 うわ、おっさんが落ち着かせる程とか、レアケースもいいところだろ。

 

「コマチ、すごいね! あのカブさんに勝っちゃうなんて!」

「えっ? あ、うん、ありがとう……?」

 

 シャクちゃん? コマチは『あの』って言われてもカブさんのこと全然知らないと思うぞ?

 というか君たち距離近くね?

 

「コマチちゃん、お疲れさま。カブさんはどうだった?」

「トツカさん。はい、強かったですよ。一体目がキョダイマックスだったから何かあるんだろうとは思いましたけど、まさかバシャーモが出てきてメガシンカするなんて思いませんでしたよ」

「うん、僕も驚いたよ。ガラル地方にもメガシンカ使える人がいるんだって。これはハチマンたちへの土産話になりそうだね」

「ですねー」

 

 うん、俺ここにいるんだわ。

 土産も何もコマチたちよりもこの人たちのこと知ってるんだわ。

 ………………物凄ーく居た堪れない。

 

「ありがとう、コマチ君。僕とバトルしてくれて」

「いえ、めちゃくちゃ強かったです。ハチさんがキーストーン貸してくれなかったらどうなってたことやら」

「うん、それについてはごめんね。僕も君とバトルしたくて気が早ってたみたいだ。ハチ君が上手く公平的にしてくれてよかったよ」

 

 うん、この気を紛らわすためにも一つ実験でもしてみるか。

 場所も実験相手も揃っていることだし。

 

「そりゃどうも。んじゃ、一つ思いついたことがあるんだが、おっさん付き合ってくんね?」

「な、何だよ藪から棒に。怖ぇよ、ハチの思いつきとか。何させられんだよ」

 

 おい、何で俺の方から誘うとそんな後退りするんだよ。何も疾しいことなんてこれぽっちもねぇよ。

 

「俺とバトルだけど?」

「よーし、やろう! すぐやろう! 今度こそぶっ潰すぜ!」

 

 おい、何だこの変わり身の早さ。

 前言撤回。

 疾しいことを捻り出してでもコテンパンにしてやる!

 

「何するんだろうねー」

 

 一人、呑気にこの状況を見ているトツカは、ある意味大物かもしれない。

 

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