ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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111話

 コマチのジムチャレンジの推薦状をカブさんが出すことになり、俺とピオニーのおっさんも応援コメントを添える形で丸く収まってから三日後のこと。

 壱号さんからレイドバトルで捕まえたバンギラスの診断結果が届いた。

 内容的には予想通り。

 何か黒い禍々しいオーラを纏っており、以前送ったシェルダーと同じ状態だった。

 この一年、俺が出くわす中では動きを全く見せていなかったシャドーの連中が、一年越しで動き出したということなのだろうか。

 一体何をやろうとしているのだろうか。

 ルギアのこともある。アレもシャドーの仕業だったということが判明した今、ルギア以上の力を持ったポケモンを利用しようと企んでいるのではないかとさえ思えてくる。

 去年捕まえたラブなんとかって女からは、俺が尋問して聞き出したGOロケット団というロケット団に罪をなすり付けるための組織名であることと、ダークポケモンよりもさらに凶暴化させたシャドーポケモンを作り出していること以外、大した情報を引き出せていないらしいし。これだけ時間をかけても情報を引き出せないとなると、尋問班が無能なのか、あの女には大した情報が与えられていなかったか、だ。

 まあ、ジャキラに囮に使われるくらいには、捨て駒でしかなかったのだろう。

 だから誰も手掛かりという手掛かりを見つけられずにいる。

 

「はぁ………」

 

 焦っても仕方がないのは分かっているが、俺の暗殺事件まで一ヶ月を切っているのだと思うと、そうも言ってられない。

 さっさとこの案件を片付けてカロスに行かないと、ヒラツカ先生が魂の抜け殻のような姿になってしまう。しかもそうなる原因がカイリキーたちの死によるものであり、カイリキーたちが死ななければならなかったそもそもの原因は、俺が暗殺されかけたからなのは間違いない。恐らく事件を知って真っ先に犯人を捜索しに行ったのだと思うが、そこで返り討ちに遭って言葉に言い表すのも憚られるような仕打ちを受けたのは確かだ。そんな未来は永久に来なくていいと思うのだが、未来を変えたことで他のことへの影響もないわけではないだろう。そのせいで全員が苦しい思いをするのは間違っているだろうし、そもそも俺が未来を変えてしまってもいいのかという葛藤と、本当に未来を変えられるのかっていう疑問が湧き上がってくる。

 所詮、人間なんてこんなもんである。

 どんなに力を付けようが、ポケモンたちの力をを使えるようになろうが、時を超えようが、俺の身体は一つしかないわけで…………出来ることなんてたかが知れており、時間だけが過ぎていく。

 何とも歯痒い。

 

「大事なもんを作り過ぎた弊害かね………」

 

 昔は家族のこと、特にコマチのことだけを守れば………って感じだったからな。そのコマチも基本的に家にいるわけで、俺が守らなければならないことなんて数少なかった。それがユキノやザイモクザなんかが関わるようになって、カロスに来てからはユイやイロハもと増えていき、今ではハルノやヒラツカ先生もって感じだからな………。

 昔の俺からは考えられないような状況ではあるが、あいつらもただ守られる側でいるのを良しとせず、肩を並べようとしてくれているのだ。

 ああ、でもそれが原因でヒラツカ先生が………なんだよな。くそっ、堂々巡りもいいところじゃねぇか。

 

「ああ、もう本当嫌になる」

 

 問題がないのなら、当日あの時間に張り込み未然に防ぎにいくところであるが、あの時俺は確かに刺されたのだ。フレア団とやり合ってる時はちゃんと未来の俺が時を渡って干渉していたが、その事実がない以上、今の俺があの時に干渉すれば、間違いなく改変になってしまう。それでヒラツカ先生が犯人を探しに行くことがなくなり、あんなことにならなくなったとしても、別のことで問題が出てくる可能性もあるのだ。

 

「………クソッ」

 

 本当に腹が立つ。何で未来の俺は干渉してないんだよ。というか何で干渉させてもらえないんだよ。しかも未だに迎えが来ねぇし、正規ルートじゃない方法で過去に飛ばされてるし、一体全体俺にどうしろって言うのだ。

 だから思わず建物の壁を拳で叩いてしまった。結構指が痛い。

 すると何の変哲もない空が歪み、穴が開くと勢いよく何かが落ちてきた。

 

「うおっ?! あぶね………ロトム?」

 

 地面にぶつかった何かはロトムだった。

 どゆこと?

 何でいきなりロトムが落ちてくんの?

 訳が分からない。

 

「気絶してんな………」

 

 ロトムをつついてみても起きる気配はない。

 だが、俺には身に覚えがある事態でもある。

 

「今のってウルトラホール………か?」

 

 そう。

 何を隠そうロトムを落ちてきた空間が歪んで出来た穴が、ウルトラホールのそれだったのだ。

 何でまたこんなところに? とも思わなくもないが、現にジュカインがガラル地方の南部にある森に落ちてきている。ウルトラホールがガラルに繋がった過去がある以上、こうしてロトムが落ちてきてもおかしくはない。

 

「おかしくはないんだが、まさか俺が建物の壁を叩いた影響でウルトラホールが開いた、とかじゃねぇだろうな」

 

 ないとは言えないのが、俺の経験則だ。

 だが、そんなポンポン開かれても困る。

 さて、ロトムをどうするか。

 気絶しているし、このまま放置しておくのはよくないだろう。

 となると捕獲しておくか?

 ガラルではスマホに入ってトレーナーのサポートをしているくらいだ。アローラでもムーンの図鑑に入っていたし、何ならザイモクザもそれっぽいのを持っていた。

 それに機械の中に潜れるという能力は喉から手が出る程欲しい力である。今後いろんなところで役立ちそうだし、バトル面以外においてのサポート役としては打ってつけだ。

 まあ、何にせよこのままというわけにはいかないので、まずはボールに入れておくか。

 

「…………今更だが、ボールに入ったってことは野生のロトムだったんだな」

 

 入れてからそこに気付いた。

 既に誰かのポケモンだったという可能性もあったのだ。

 まあ、誰かのならば弾かれてボールに入れられないため、その時はその時ですぐに分かるんだがな。

 ボール開発者たちもよくそんなシステムを組み込めたなと感心する。だが、そのシステムを乗っ取って、他人のポケモンでも捕獲出来るようにしてしまうマシンもこの世にはあるんだから恐ろしい。

 そんなもんを開発した組織の奴らが今俺が追っている奴らってのも何の因果なんだろうか。

 

「スナッチマシン………か」

 

 俺も一台持っている。

 脱走する時に掻っ払ってきたからな。それでエンテイやスイクンを解放することが出来たのだ。今は不要な産物と成り果てているが、一応まだ動く。

 そういえばオリモトも一台持っていたはずだ。あいつも使うことはないだろうが。

 

「よし………ん?」

 

 気持ちを切り替えて奴らの捜索を再開しようと立ち上がると、ふと、視界の端に白衣の男の姿が目に入った。

 普段なら特に気にも留めないのだが、妙に目がそっちへと惹かれていってしまった。

 

「あれは………」

 

 ボルグ……か?

 眼鏡をかけた白衣の男なんてそこら辺にいそう………白衣を着て外にいることはなかなかないか。いや、ウカッツなんていかれた研究者がワイルドエリアにいるくらいだ。普通に白衣で外に出ててもガラルでは日常なのかもしれない。だが、少なくとも俺の生活圏では目にしなかった光景で、それで目が惹かれたのだろう。そういうことにしておく。

 何にせよ、可能性があるのなら追ってみないとな。外れたならそれでいい。

 

「もういっそのことガラルからいなくなってくれると有難いんだがな………」

 

 気配を断ちながら追いかけると路地裏に入っていった。エンジンシティは表通りは綺麗なんだが、路地裏に入ると怪しさが広がる。日の光が入りにくいというのもあるのだろう。どんよりとした雰囲気に沿うように嫌な空気が肌にひしひしと伝わってくる。

 追いかけながらも手持ちのメンバーを入れ替えておくか。サーナイトは残すとしてもガオガエンたちまでいたら、俺が仮面のハチと見破られる可能性が高くなる。

 となるとそれ以外のメンバーということになり、ジュカイン、エンニュート、ウオノラゴン………はやめておくか。目立ちすぎる。ザルード、ウツロイド、ダークライにしておこう。

 半数がヤバい奴らになってしまうが、相手がヤバい奴らなため構うまい。

 

「困りましたね……。こうも跡をつけられてしまうとオチオチ帰還も出来ないではないですか」

 

 角を曲がったところで白衣の男は待ち構えていた。

 

「シャドー………今はGOロケット団だったか? サカキに罪をなすり付けて何をするつもりだ?」

 

 やはり男はボルグで間違いなさそうだ。

 

「おや? 我々のことをご存知とは。もしや島の時の………? なるほど、よくそこまで調べ上げましたね。………ああ、そういえばラブリナはどうです? 捕まえたのでしょう? ですが、残念ですね。あれには詳しい情報は与えていませんから、大した情報は引き出せなかったでしょう? それにバカなので、強いポケモンという認識しかないでしょう。まあ、所詮は我々が捕まった後に再編したシャドーの幹部でしかない。我々が築き上げた汗と涙の結晶を利用していたに過ぎない存在。どこかのタイミングで処分する予定でしたが、捕まえてくれたのなら結構。感謝しますよ」

「相変わらずの外道だな」

 

 不適な笑みで眼鏡をくいっと上げる仕草が昔を思い出させてくる。

 そんなに関わりがあったわけではないが、人を煽る時はこんな感じだった。

 外道なのは相変わらずなようだ。

 

「外道? そもそもあれを仲間だなどと思ったことは一度もない」

 

 再編後のシャドーがどういう組織図だったのかは知らないが、少なくとも今のこいつらの主要メンバーは俺が知っている頃のシャドーで間違いなさそうだな。

 

「………復讐ですよ。我々の組織を一度壊滅させたクソガキと、大事な戦力を奪っていったクソガキへの。まあ、片方は有名人になってくれましたからね。隙が大きくなった分、仲間共々絶望の淵へ落としてやりますよ」

 

 なるほど。

 こいつらの標的の中にも俺が含まれているのか。

 何となくだが、敵の繋がりは見えてきたような気がする。鍵となるのはカラマネロたちだろう。クチバの時も未来のミアレの時もカラマネロはいた。鎧島ではこいつらともいた。それも誰かのポケモンという形ではなく、単体として。

 遡れば育て屋に襲撃してきたのが事の始まり、あるいは戦闘開始の狼煙だったのかもしれない。

 ただ、現状分からないことだらけなのも確かだ。情報を集めようにもこの一年、組織的に気配を絶っていたような感じだし、急に動き出されると振り出しに戻った気分である。恐らく、拠点にしている場所も変えていることだろう。

 そうなると、やはりこいつを捕らえて情報を吐き出させるのが得策なんまろうな。

 

「ああ、そうそう。今わたしに攻撃した場合、この街にシャドーオーラが一気に散布されるようになってますので悪しからず」

 

 俺の思考を読んだかのような忠告。

 嘘かどうかはおいておき。

 俺が手を出しにくくなるような巧妙な忠告だということは確かだな。

 真偽を確かめる時間的猶予もない。組織的なのは事実なため、ボルグ本人に何かあった場合の仕掛けが施されている可能性は大いにあり得る。

 とはいえ、このまま見逃すのもーーー。

 

「ライボルト、ほうでん」

 

 ーーーッ!?

 あっぶねぇ…………!

 急に電撃が飛んでくるとか、絶対殺しに来てるよな。

 咄嗟にダークライが黒いオーラで逸らしてくれなかったら、電撃で焼け焦げていただろう。

 この容赦のない感じ。懐かしさすら覚えるわ。

 

「………奇妙な力を使いますね」

「いきなり攻撃とは随分なご挨拶だな。ジュカイン、リーフブレード」

 

 そっちがその気ならこっちも容赦するまい。

 すぐにジュカインをボールから出してライボルトに斬り掛かっていく。

 

「ライボルト、まもる」

 

 どうやら斬り掛かってくるなり、反撃してくることは織り込み済みなようだ。

 ライボルトが張ったドーム型の防壁にジュカインが弾かれてしまった。

 それに、それだけじゃないのだろう?

 

「何の対策もしていないとでも?」

「思っちゃいねぇよ。エンニュート、ほのおのムチ」

 

 背後から音もなく噛み付いてきたクロバットをエンニュートが炎の鞭で捕らえ地面に叩きつけていく。

 やっぱり後ろにいたか。

 シャドーの頭脳派がこういうことを仕掛けていないはずがないもんな。俺の知っているボルグで安心したわ。

 

「やれ、ドサイドン!」

 

 すると今度は地面が揺れたかと思うと、俺の足下が綺麗に崩れていった。

 咄嗟に黒いオーラが足場になって落ちることはなかったものの、がっぽりと穴が空いてしまっている。

 

「がんせきほう!」

 

 その穴より一回り小さい岩石が打ち上げられた。

 

「ザルード、アームハンマー」

 

 それをザルードが拳で叩き割り、そのまま地面の中にドサイドンに向けて落下していく。

 

「ソーラーブレード」

 

 それならば、とザルードには太陽光からエネルギーを得た剣を握らせた。

 ただ、視界の端ではジュカインもザルードを真似て剣を携えてライボルトを斬りつけていた。斬り掛かるのではなく、既に斬りつけているというね。

 

「やはりルギアを退けただけのことはある。こうも一方的にやられるとは………。それもあのバカみたいに力任せではなく、わたしの思考も読んだ上での戦略。実に面白い」

「バカ言え、これがアンタの本気じゃなかろうに」

 

 こんな状況で余裕ぶっているのだ。

 これくらいでこの男の実力と図るのは早計である。

 

「フハハハ、察しの通りである。どうやら時間切れのようだ。貴様は危険だ。組織としてブラックリストに追加しておこう。あのクソガキと同じようにな。戻れお前たち」

 

 あ、こいつ逃げる気だろ。

 

「捕えろ」

 

 黒いのにボルグを捕えるように指示を出す。

 

「おっと、動くなよ。動けば、この街にシャドーオーラが散布されるぞ」

 

 だが、先に牽制されてしまい、迂闊に動けなくなってしまった。

 これが筋肉バカのダキム相手だったら楽だったものの、こうも頭の回る奴が相手だと動きにくいったらない。

 

「呪うなら自分を呪え。スターミー、テレポート」

 

 ボルグは外に出していたポケモンたちを全てボールに戻すと、スターミーを出してテレポートで消えていった。

 

「…………はぁぁぁ」

 

 あー嫌だ。

 逃げられちまったよ。

 ただまあ、俺が仮面のハチやヒキガヤハチマンだということがバレなかっただけよかったか。

 とはいえ、シャドーオーラを散布するとか………嘘だとは思うが、散布された場合、エンジンシティは終わるだろうな。シャドーポケモン

 こりゃ、アジトを突き止めてさっさと潰さないと終わらないのかもしれない。下手に地道に攻めるのは牽制させるだけなような気がする。

 

「面倒くさ………」

 

 本当に面倒くさい。

 何で俺がいるところに限ってこういう奴らが出てくるんだろうか。

 俺のいないところでやってくれよ。俺を巻き込むな。

 と言ってももう未来の一部を見てしまっているため、この運命からは逃れることも出来ないのだろう。改変しようとしてもどこかで世界の修正力が働いたりして意味がなくなるとか、余計悲惨なことになるとかで、さらに俺の心を抉ってくるんだろ?

 あー、やだやだ。

 セレビィさん、さっさと迎えに来てくれよ。

 

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