ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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112話

 翌日。

 再度ボルグと対峙した路地裏へと向かってみたものの、特に何も変わったことはなかった。そもそも近くにアジトがあるのかと思って昨日の内に一通り調べ回ってみたものの、それらしきものはなく、昨日の今日で変わってることなんて中々ないわけで………。

 結局、テレポートで逃げられてしまえばどうしようもない、という体験だけが残ってしまった。

 自分が使う上ではすごく便利な技ではあるが、敵に使われるとすげぇ腹立たしいわ。次ボルグに遭遇したら、というか誰かしらに遭遇したら、真っ先にサーナイトにふういんを使わせよう。あれならテレポートを確実に阻止出来る。

 

「エンジンジムはどーこーだー……」

 

 ………………………。

 

「おーい、エンジンジムやーい」

 

 …………………………………………。

 

「帰ろ」

 

 何もないならいい。

 ここに長居しても時間の無駄だ。

 

「お、そこにいるのはハチではないか!」

「…………すー………はぁぁぁぁぁー…………………」

 

 何でこういう時に限ってすぐに出てくるかな。人気がないため、バッチリ目が遭ってしまったじゃないか。

 いや、もう声で誰かは分かってたんだわ。しかもこんなところでエンジンジムを探してる奴なんて、それこそ一人しかいないだろう。

 だからこそ、さっさと帰りたかったのに…………。

 

「ハチ? ダレノコトデスカー?」

「いや、片言になってもハチはハチだからな。オレの嗅覚を舐めるなよ」

 

 おい、何でそこで嗅覚なんだよ。普通目で見た情報で判断するもんだろ。

 

「野生のダンデが現れた。どうする? たたかう、ポケモン、どうぐ、にげる………にげる一択に決まってるな。てなわけで、じゃ!」

「待て待て待て!」

 

 厄介事の臭いしかしないため、さっさとこの場から立ち去ろうと思ったのだが、ダンデに腕を掴まれてしまった。

 何でこういう時の動きだけは俊敏なんだよ。

 

「………何だよ」

「バトルしようぜ!」

「お前なぁ………。どう考えてもバトルしてる状況じゃないだろ、今のお前は」

 

 バカだろ、こいつ。

 どう見ても迷子なのに、道を教えてくれならまだしも、バトルしようぜ、なんて何を考えてるんだ?

 

「ったく………」

 

 とは言え、こいつの場合は何かしら仕事が待ち受けているのだと思われる。それをこいつの迷子癖で迷惑を被るのはスタッフたちだ。ルリナたちからもそういう話は耳にしているため、ここで俺がダンデを放置しておくとスタッフたちが不憫でならない。

 仕方ないか。

 

「お? おぉ? …………何故首根っこを掴むのだ?」

「勝手にどこでも行かないように捕獲しただけだが?」

 

 容赦なくぐいぐいと重たい身体を引っ張りながら、路地裏の出口へと歩き出す。

 無駄に筋肉を付けているため、無駄に重い。脳も筋肉なってしまっているのだろう。だから迷子になるし、バカなんだな。なるほどなるほど。

 

「んで、今日の仕事は?」

「エンジンジムでのバトル観戦だぞ」

 

 また観戦か。

 それが仕事ってどうなのよ………。

 曲がって曲がってくねくねと路地裏を進んで、ようやく出口の光が見えてきた。

 いや、まあ普通に外だから光しかないんだが、なんかこうダンデが絡むとようやくこれで解放される感が強くなってくるというか、そのせいで出口が余計に眩しく見えてくるというか…………だな。

 全てはダンデがいることでの余波ということだ。

 

「おおー、やっと人がいっぱいいるところに出られたぜ」

 

 辿り着いたのはこの街の名物、歯車エレベーターの前。

 エンジンシティの北側と南側では激しい高低差があるため、スロープを作るにしても場所を取るという理由で作られたとか。あと、この街自体が工業地帯なため、それを象徴する街の名物の制作物という側面もあるらしい。

 そして、この人集りはその待機列ってところだろう。

 

「ったく、何でお前はいつもいつも一人で外に出やがるんだ。自分が方向音痴だって自覚ねぇのかよ。お前のせいでどれだけの人間が迷惑を被ってるのか分かってんのか? 既に俺という無駄な犠牲が発生してんだぞ。何でよりによって俺の前で迷子になってるんだよ。違うやつの前で迷子になってろよ。こっちは余計な仕事が増えてんだぞ」

「わはははっ、オレは運がいいぜ。まさかエンジンジムを目指してたらハチに会えたんだからな」

「会える時点でおかしい状況だって気付けって言ってんだよ」

 

 このバカは本当にバトル以外においてはバカ過ぎる。

 特に方向音痴はユキノよりも酷いんじゃなかろうか。

 ユキノの場合は負けず嫌いが高じて迷子なのを認めないタイプだが、ダンデの場合は迷子であることすら自覚がないから尚タチが悪い。

 

「ほらね、早速にして最強の厄が来たでしょ」

「おっ! そこにいるのはネズとサイトウじゃないか! こんなところで何をしてるんだ?」

 

 そして、文句言ってる側からこれだ。

 興味のあるものが目の前に現れるとすくに意識がそっちに行ってしまう。

 お前は三歳児か!

 

「うるせーですよ。オマエは無駄に目立つってのに、声かけてくんじゃねーです」

 

 ほんとだよ。

 何堂々とネズを手招きしてるんだよ。

 ネズもネズで他人のフリしろよ。いや、無理か。ダンデにハッキリとネズと呼ばれちまったもんな。どう見てもネズな姿に人違いです、は通じなさそうだ。

 

「おいこら、迷子のクソチャンプ。少し黙っとれ。目立つだろうが」

 

 それよりもだ。

 何でネズと一緒にコマチたちもいるんだよ。

 

「おい、あれチャンピオンじゃね?」

「てか、あの白黒の髪、哀愁のネズじゃん」

「サイトウもいるくね?」

「つか、あの引きずってるの誰だ?」

「そりゃ、ねぇ?」

「やっぱり仮面のハチなのか? 覆面してないけど」

「帽子じゃまー」

 

 あーあーあーあー。

 次から次へと周りに人が増えていく。

 ダンデのせいでゴンドラ待ちの順番はいつしか俺たちを取り囲む野次馬と化している。

 

「「はぁ………」」

 

 それを見た俺とネズは深く息を吐き出した。

 

「オマエも大変ですね」

「それな。目の前に迷子のダンデが現れたら捕まえないわけにはいかないし、マジで勘弁してほしいわ。しかもこの有様だろ」

「違いねー」

 

 こう、ひっそりといたいのにダンデのせいで目立って仕方ない。

 ネズもネズと言われなければ背景に溶け込む勢いがあるからな。

 それがダンデのせいで一度注目されてしまえば、取り繕いようがない。しかもネズの場合、過去にも何度もありそうだから、余計に不憫である。かわいそうに。

 

「ハチ兄、何してんの?」

 

 そこへシャクヤが顔を覗かせてきた。

 いやほんと。

 何でシャクヤとサイトウも一緒なんだろうな。

 どういう組み合わせなんだよ、これ。

 

「偶然チャンピオンを捕獲しちゃったもんだから、一仕事してんの」

「また迷子になってたんだ」

 

 シャクヤの中でもダンデ=迷子の方程式が成り立っているのが何とも言えない。

 こうなっては仕方がないか。

 歯車エレベーターの待機列を乱してしまうのも悪いし、下手にここで俺たちが順番待ちなんかしていたら、受付の人に迷惑をかけるだけだし、良くはないが先に行かせてもらうとしよう。

 

「サーナイト、シャクヤたちもまとめてサイコキネシスで全員上まで連れてってくれ」

「サナ!」

「うぇ?! あっ、えっ、ちょ?!」

「おおー………」

「浮いてる………」

 

 サーナイトを出して全員まとめて超念力で上まで運ぶことにした。

 歯車エレベーターの真上はエンジンジムの正面になるからな。

 取り敢えず、ダンデを受付で引き渡したら一仕事を終えられるだろう。それまでの我慢だ。

 一団でジムの中に入るとダンデの登場に一気に視線が集まってきた。そして、皆がギョッとした顔になり固まっていく。

 そらそうだ。今のダンデは俺が首根っこを掴んで引き摺っている状態なんだからな。

 

「んじゃ、俺はこいつをフロントに送り込んでくるから先行くわ」

「しょーがねーのでおれが面倒みときますよ」

「すまんな」

 

 コマチたちのことはネズに任せて、ダンデを引き摺って関係者用のフロントへと向かう。

 

「あ、ダンデさん!」

 

 最初に再起したのはフロントのお姉さんだった。

 

「間に合ったぜ!」

 

 威張るな!

 スタッフもいつものことではあるが、時間に間に合うのかドキドキもんなんだからな!

 少しはその辺にも気を遣えっての。

 

「………確保したら、今日の予定がエンジンジムでのバトルの観戦だって言うんで連れてきました」

「それは本当にありがとうございました!」

 

 フロントのお姉さんの笑顔がすげぇ嬉しそう。

 本当に大変なんだな、ダンデが絡む時は。

 

「あ、ハチって今日は暇か? 暇だよな? 一緒に観ようぜ!」

「やだよ、こっちは忙しいんだ」

 

 昨日の今日でこっちはあいつらの動向を探らないとならないんだよ。

 何が悲しくて野郎二人でバトルを観戦しなきゃならねぇんだ。

 早く帰りたい。

 

「なら、サイトウたちもVIPルームに入れていいからさ。どうせネズもだろうし、みんなで観ようぜ!」

「聞けよ」

 

 全然聞いちゃいねぇ…………。

 本当にこいつはそうと決めたら突っ走るタイプだよな。人の話なんか聞きやしない。耳を傾けることなんてバトルのことだけなんじゃないか?

 あー………ってことはこれ強制イベントになるやつだ。

 こうなったら、ダンデの金でコマチたちに特等席でバトルが観られるようにしてやろう。

 

「はぁ………分かったよ。すんませんけど、今日の予約にジムリーダーのサイトウかシャクヤの名前で登録されてるグループありません? それかコマチとか」

 

 どういう経緯で今日のバトル観戦が決まったのかは知らないが、あのメンバーなら、シャクヤかサイトウ辺りで予約しているはずだ。念のためコマチも伝えたが、多分あいつで登録されてはいないだろう。

 

「サイトウさんかシャクヤさん……………コマチさん………あ、シャクヤさんで登録されてるのがありますね。お席は四つの。しかもカブさんのお得意様の印もありますし、チケット自体が取り置きになってます」

 

 シャクヤで席は四つ。しかもカブさんのお得意様って………。一応お得意様になるであろうピオニーのおっさんの娘だからだろうか。しかも取り置きってことはカブさんが「予約しておくからねー」って感じでやったに違いない。

 

「あー………それですね。そのグループもVIPルームに入れてください」

「分かりました」

 

 一応俺とダンデのやり取りを聞いてはいただろうから、予約を探した時点でこうなることは予想されたことだろう。

 すんませんね、ほんと。お手数おかけして。

 

「それと、シャクヤたちには元々VIPルームで予約されてたってことにしておいてください。直前に部屋を変えられたってなっても怪しむでしょうし」

 

 うん、コマチたちには内緒ってことにしておこう。

 シャクヤはあまり気にしないだろうが、俺だと気付いていないコマチや生真面目なサイトウが気にしそうだからな。

 

「これ、追加料金と迷惑料ってことで。ジムの運営費用の足しにでもしてください。カブさんには世話になってますし」

 

 取り敢えず、国際警察からもらった口座から三十万円をエンジンジムへ振り込んでおく。前にジムの修理代とかを払うためにカブさんから教えてもらったジムの口座を登録したため、スマホのポチポチ操作で簡単に出来ちゃうのだ。

 

「これはこれは………いつもありがとうございます。ハチさん」

 

 それを受付のお姉さんに見せると深々と頭を下げられてしまった。

 大丈夫、今回はダンデから全額毟り取るから。

 暇だからって、俺のユニフォームを自腹でリニューアルさせるくらい余裕があるのだから、これくらいなんてことはないだろう。てか、そうでなくても毟り取ってやる。

 

「では、ご案内いたしますね」

 

 にっこり笑顔で「こちらへ」と案内され、逃げられないようにダンデの首根っこを再び掴みながら、お姉さんの後を追う。

 後ろからはすごい視線を感じるが、迷子になるダンデが悪いということにきておく。

 ああ、マジで針の筵だわ。

 

「それではごゆっくりと。観戦後にはバトルの感想のインタビューも待ち受けてますので、ダンデさんはそのままお待ち下さい」

 

 VIPルームへと入ると、お姉さんは深々と頭を下げて出ていってしまった。

 あーあ、コマチたちが来るまでこいつと二人きりか。むさ苦しいわ。

 

「取り敢えず、さっきジムに迷惑料込みで三十万振り込んだから、返せ」

「………酷い取り立て屋もあったもんだ」

 

 まずはしっかりと取り立てておくことにする。

 

「お前が言い出したことだぞ。コマチたちをVIPルームに入れていいって言ったのは。通常料金に人数分を上乗せして、余分は迷惑料ってことにしたらそれくらいはいるだろ」

「仕方ないなー、ハチ君はー」

「やめろ、気持ち悪い」

 

 口座番号を教えてダンデに俺の口座へと送金させた。

 うん、金払いだけは言うこと聞くんだよなー…………。

 悪い大人に騙されて振り込め詐欺とかに遭わないか心配になってきたわ。ダンデも充分いい大人ではあるが、どうしてもバトル以外がダメ人間なため、危なっかしく見えてしまう。

 

「よっこらせ、と」

「爺臭いぞ」

 

 ガラス張りの前にある席に腰を下ろす。

 やっとゆっくり出来きそうだ。

 

「そう言いながら隣に座るなよ。席余ってんだろうが」

 

 うん、無理そう。

 こんな広い部屋で真横に座るんじゃねぇよ。

 何が悲しくて野郎二人で並んで座らないといけないんだ。コマチたちも来るんだからコマチの隣がいい! それかトツカの横だ!

 

「いいじゃないか。今日のキバナとカブさんはどんなバトルを見せてくれるだろうか!」

「知るかよ。今から見れるんだから大人しく座っとれ」

 

 俺の心の声に耳を傾けることなく、いい大人がガラス張りに顔を押し付けようとするんじゃない。

 

「あ、あの、部屋間違えてません?」

「いえ、ちゃんとシャクヤさん以下四名とネズさんはVIPルームの予約をされてますよ?」

 

 あ、どうやらコマチたちが来たみたいだな。

 

「あれ? ハチ兄もいるじゃん」

「あー……やっぱり厄日だわ」

 

 おいこらネズ。

 俺がいるから厄日ってどういうことだよ。厄は俺の隣にいるバトルバカの方だろうが!

 

「………やっと来たか」

 

 ああ、やっとむさ苦しい奴との二人きりの空間から解放される。

 それにしてもコマチが異様に緊張してるように見えるのは俺だけだろうか。そうとなれば、俺がコマチを癒してやらないとな!

 

「ネズ、場所変わんね?」

「お断りします」

「なに?! ハチ、オレの横に座るのがそんなに嫌なのか!?」

「ああ、嫌だね。俺は今すぐにでも帰りたい」

「そんなこと言わずにオレと見ようぜ!」

 

 なんかチャンピオンがウザ絡みを始めてきたんだけど。

 殴っていいかな。殴っていいよな。

 

「では、せめてこれを差し上げます」

 

 俺の手が出る前にネズが自分の首に付けていた刺々しいチョーカーを外して、俺に手渡してきた。

 

「………いや、こんな刺々しいチョーカー使わねぇよ。首曲げたら肩に刺さりそうじゃん」

 

 こんなもん付けたら絶対どこか怪我するわ。

 つか、よくネズは毎回こんなのを付けて外に出られるな。俺だったら恥ずかしくて引き篭もるレベルだわ。

 

「別にオマエが付ける必要はねーですよ」

 

 そう言いながらダンデを見るネズ。

 それに釣られて俺もダンデを見た。

 …………なるほど。

 

「お? なんだ? オレにつけてくれるのか?」

 

 ネズと目が遭うとやはりそういうことらしいので、無言でダンデの首にチョーカーを付けることにした。

 

「あ、それとこれもプレゼントしますよ」

 

 その間にネズが腰についていたチェーンを外して、取り付けたチョーカーに引っかける。

 うん、最初からこうすれば良かったんじゃないだろうか。

 これなら迷子になることも勝手にどこかに行ってしまうこともなさそうである。繋ぐところを考えないとだが。

 

「……ふっ、くくっ………ダンデ、似合ってますよ」

「これはいいな。迎えが来るまで逃げられずに済む」

 

 首にチョーカー、そこから伸びるチェーン。

 最早、首輪とリードでしかない。

 

「うん、写真に撮っておくか」

 

 そう言ってパシャリとペットと化したダンデの写真を撮る。

 後でソニアやルリナに送ってやろう。

 

「ほら、ダンデ笑え」

「こうか?」

 

 何種類かパターンがあった方が面白そうなので、この状態で笑っているダンデの絵も撮っておくことにする。

 

「とまあ、こんな感じにいつもいじられてたりするチャンピオンなので、オマエたちもそんな緊張しなくとも大丈夫ですよ」

 

 急にコマチたちの方へ振り返ってネズがそう言った。

 

「これ………僕たちの緊張を解すためにやってたんだ…………」

「ここにキバナさんがいれば、すぐに写真がポケッターに投稿されてるでしょうね」

「「えっ……!?」」

 

 あ、この手があったか。

 拡散するかどうかは置いといて、その判断はキバナに送り付けて丸投げにするとしよう。

 

「と、取り敢えず座ろっか」

 

 トツカの一声でコマチたちがぞろぞろと動き出した。

 結局、最前列は俺とダンデとネズだけになってしまい、二列後ろに右からトツカ、コマチ、シャクヤ、サイトウの順に。そんな距離空けなくても………。

 

『さあ、始まりました! エキシビジョンマッチ! ジムチャレンジのオフシーズンに度々行われるジムリーダー同士のエキシビジョンマッチですが、今日我らがエンジンジムの大将に挑むのはこの人! ナックルジムのジムリーダーにして最強のジムリーダー! ドラゴンストーム、キバナ!』

 

 あー、やだやだ。

 始まったよ、キバナコール。

 歓声がいつも一人だけ黄色いんだよ。

 もうちょっとむさ苦しい声とか野太い声とかないのか?

 

『そして、彼を待ち受けるのはもちろんこの人! 我らがエンジンジムのジムリーダー! 熱く燃える男、カブ!』

 

 うん、こっちの方が安心するわ。

 老若男女、色んな声が混ざってて全世代を通して愛されてるだと思える。

 それに比べてキバナは女性人気が異様に高いからな。チャンピオンのダンデよりも多いのだから、その異様さは際立っている。

 

『今回は三対三のシングルバトル! 公式ルールに則り、先に相手のポケモンを倒した方の勝利となります!』

 

 何も聞いちゃいなかったが、今日は三対三のシングルバトルなんだな。

 

『それではバトル開始!』

『いくよ、キュウコン!』

『フライゴン、暴れまくるぜ!』

 

 最初のポケモンにはカブさんがキュウコン、キバナがフライゴンを出してきた。

 日差しが強くなり、煌々とフィールドに照り付けていく。

 

『最初のポケモンはキュウコンとフライゴンだァァァ!』

『ソーラービーム!』

 

 先に動いたのはカブさん。

 指示と同時にキュウコンのソーラービームがフライゴンに直撃し、地面に落ちていく。

 

『な、何が起きたのでしょう! 目にも止まらぬ速さでフライゴンが撃ち抜かれました!』

『おいおい、ただでさえ発動までのタイムラグがないってのに、直撃までのスピードも格段に上がってるとか、カブさん流石だわ』

「キュウコンの特性ひでりだな」

「けど、去年よりも発射速度が速くなってますよ」

 

 ただでさえ特性びてりのおかげで開幕早々日差しが強い状態になり、ソーラービームが溜め無しで撃てるというのに、それをさらに速くなるとか、一体どんな育て方をしたのやら。

 これ、下手したら通常時で日差しが強い状態と同じくらいの速さとかってない?

 

『フライゴン、すなあらし!』

 

 まあ、天候と言ったらキバナだからな。

 カブさんもそれを見越した上での先制攻撃だったのだろう。

 フライゴンが砂嵐を巻き起こして天候を上書き。

 これであのソーラービームが来ることもない。

 

『キュウコン、ねっぷう!』

 

 でもそこはカブさん。

 砂嵐に熱風をぶつけて相殺してしまった。

 ちゃんと天気を変えられた時の対策もしてるわな。

 

『いわなだれ!』

 

 だけど、キバナも先を読んでいた。

 砂嵐が止んだ瞬間にキュウコンの頭上から次々と岩々を落としていき、キュウコンが横に飛び、前に転がり、躱していく内に周りが岩で囲まれてしまった。

 

『じしん!』

 

 そこへ追い討ちをかけるようにフライゴンが地面を叩いて揺らし、キュウコンのバランスを崩していく。

 

『追い込め、ドラゴンクロー!』

 

 その隙を逃すはずもなくフライゴンが竜の爪を携えてキュウコンに飛び掛かった。

 

『おにび!』

 

 躱しきれないと判断したのか、攻撃をもらいながらもキュウコンはフライゴンに火の玉をぶつけて火傷状態に。

 となるとキュウコンの狙いはアレだな。

 

『キュウコン、ドラゴンクローを受けながらもフライゴンを火傷状態にしました! カブ氏の狙いは何なのでしょうか!』

『キュウコン、たたりめ!』

『フライゴン、いわなだれ!』

 

 キュウコンが強い呪いをフライゴンにかけると同時に頭上から岩々が降り注いでいく。

 状態異常の相手には威力が上がるからな。それにキュウコン自体呪いをかけることに長けているし、得意とする方法で窮地を巻き返してる感じだ。

 

『トドメだ! じしん!』

『たたりめ!』

 

 だが、やはり今回はフライゴンに軍配が上がった。

 初手のソーラービームに火傷のダメージに二度のたたりめを受けても尚、立て直してるんだからな。見た感じボロボロでキュウコンの攻撃は無駄じゃなかったというのは分かるが、最終的にはタイプ相性が物を言わせたのだろう。

 一応砂嵐も止んだし、カブさんが次にどう出てくるかだな。

 

『キュウコン、戦闘不能!』

『まずはキバナ氏が勝ち越したぁぁぁっ! カブ氏、どう出てくるのでしょうか!』

「………やはりキバナはあの囲い込み方でくるか」

 

 ダンデにしては珍しく真剣な面持ちだった。

 まあ、バトルだしな。特にキバナとはライバルを公言しているため、研究に余念がないのだろう。だからこそ、キバナが使ってくる戦法も読めていたらしい。

 とは言え、あれくらいの戦法なら俺でも思いつくため、それ程珍しいものではない。

 

「そりゃそうだろ。飛んでるっていうアドバンテージもあるわけだし、態勢を崩すならあの方法がベストだ。まあ、あれを制圧するだけの領域干渉力のあるメロンさんには未だ勝てたことないみたいだがな」

「そういえばあいつがメロンさんに勝ってるところ、一度見たことねーですね」

 

 キュウコンを倒したフライゴンでも、こおりタイプを専門とするメロンさんのポケモン前では苦戦するらしい。特に領域干渉力はドラゴンタイプよりも上なため、近づくことが難しく、天候を変えても雪や霰を降らせて戻してくるため、キバナの得意とするところを悉く潰されてしまうんだとか。

 要するにここでもタイプ相性が響いているってわけだ。

 

『ありがとう、キュウコン。ゆっくり休んでね』

「うひゃー、カブさんが一本取られたかー………」

「相手は最強のジムリーダーです。これくらいのこと、なんてことはないでしょう」

 

 サイトウ、流石にカブさん相手ではなんてことはないって言い切るのはキバナでも難しいと思うぞ。

 それくらい熟練したベテランの意地を出してくるからな。

 

「あ、あの……、最強のジムリーダーが勝てない人って……?」

 

 するとコマチが俺たちよ会話を聞いていたらしく、メロンさんのことを聞いてきた。

 

「ん? ああ、メロンさんのことか? メロンさんはこおりタイプのジムリーダーだ。ドラゴンタイプを専門とするキバナからしたら、タイプ相性からして負けてるんだが、それ以前にあの人のポケモンが使うふぶきはフィールド全体を氷の世界に変えてしまうかのような制圧力があってな。天候を操ったところで全部呑み込まれちまって、キバナの本領を発揮することなく負けるってのもあったらしい」

「ただ、こおりタイプってこともありカブさんには負けることもあるんだよ」

 

 続けてシャクヤが補足した。

 まあ、有名な話らしいからな。

 

「なんかこうやってみると誰が最強なのか分かりませんね………」

「それな。一応キバナが最後のジムリーダーで、ダンデの同期かつライバル関係にあることから最強って言われてるんじゃないか?」

 

 確かソニア辺りがそんなことを言っていたはず。

 ガラル民じゃないのでよくは知りません。

 

「ジムリーダーで最強を名乗ったところで、その上に最強のバトルバカがいますからね。それにもう一人………」

 

 何だよ、ネズ。

 言いたいことがあるなら、ハッキリ言えや。

 ダンデだけならまだしも俺のことも見るんじゃないよ。

 

『いくよ、ウインディ! しんそく!』

 

 あ、カブさんが動いた。

 二体目はウインディか。

 

『そのままじゃれつく!』

 

 ボールから出てきたのと同時に神速で駆け抜けていき、フライゴンに飛びついて地面に叩きつけて、ボコボコに殴りつけていく。

 

『フライゴン、戦闘不能!』

 

 速攻だったな。

 もしかするとキュウコンが先に倒されることも念頭においた順番なのかもしれない。

 流石だわ。

 

『な、何とカブ氏! 二体目に出してきたウインディですぐにイーブンに持ち直してしまいました! 恐るべし、燃える男!』

「流石カブさんだ。巻き返しが早い」

「一度はマイナーリーグに落ちて這い上がってきたしぶとさは伊達じゃねーですよ」

「あんなバトルを見せられると、やはり私たちはまだまだ未熟者だと痛感させられますね」

「カブさん、しぶといからなー」

『戻れ、フライゴン。よくやった!』

 

 各々カブさんのことを知ってるメンツは、これまでのカブさんのバトルを思い出してるのだろう。

 ドラゴンタイプということもあり、タイプ相性的にもキバナの方が強いと見られがちだが、カブさんは一度マイナーリーグに落ちた経験があるため、どん底というものを知っている。それにこれまで培ってきたベテランの経験が合わされば、キバナを上回るものがある。

 今回もその培ってきたものがキュウコンの捨て身の攻撃に繋がったのだろう。判断が早ければ早い程、やられるまでに多くの工程を積み重ねられる。

 その後に一発ぶち込めば、こういう結果になるのは当然だ。

 これでカブさんの負けムードに傾きつつあった空気も一変したな。

 

『次はお前だ! ヌメルゴン!』

『キバナ氏の二体目はヌメルゴンのようです! 先程は砂嵐でしたが、次も天候を操るのでしょうか!』

 

 キバナの二体目はヌメルゴンか。

 ヌメルゴンなら、カルネさんやドラセナさんが連れていたが、水系のドラゴンだからな。雨が降っている状況が一番実力を発揮出来るし、カブさんにとっては炎技の威力を削られることにも繋がる。使わない手はないだろう。

 

『ウインディ、しんそく!』

 

 お、またしんそくか。

 一瞬にしてウインディがヌメルゴンの懐に入り込んだ。

 だが、フライゴンのようにはならなかった。

 ぬめぬめとした身体で受け止めると、ガッチリとウインディの身体を両腕と頭の触覚で掴み固定してしまう。

 

『へっ、よく捕まえた、ヌメルゴン! そのままあまごいだ!』

『ヌメェェェッ!!』

 

 ヌメルゴンが高らかに咆哮すると雨雲発生し雨が降り出した。

 

『ウインディ、バークアウト!』

 

 懐内から黒いオーラを撒き散らして咆哮が響く。

 

『ハイドロポンプ!』

 

 それに対峙すべくヌメルゴンは、ウインディを放り投げると水砲撃で一気にカブさんの方へと返してしまった。

 

『しんそく!』

『かみなりで撃ち落とせ!』

 

 そして、その開いた距離を再び神速で埋めてしまう。

 だが、今回はヌメルゴンに激突する直前に落雷が発生し、ウインディの身体を貫いてしまったことで成功とはいかなかった。

 毛並みは焦げ、少し煙を上げて地面に倒れ落ちる。

 

『ヌメルゴン、なみのり!』

 

 ワナワナと起き上がろうとするウインディの前に、ヌメルゴンが高波を発生させて呑み込まんとしてくる。

 

『ウインディ、しんそくのままインファイトだよ!』

 

 ここでカブさんが実力を見せてきた。

 しんそくで一気にその場から離れ高波を強引に躱し、神速のまま次々とヌメルゴンを殴りつけていく。

 ウインディの姿が見えないのに、段々とボコボコにされていくヌメルゴンの姿はとても痛々しいが、ダンデのバトルを見ているガラル民には引くような光景ではない。

 それだけキョダイマックスしたリザードンの炎は画面越しでもえげつないのだからな。

 

『今度はじゃれつく!』

 

 ここで一気に決めるべく効果抜群のじゃれつくに技が変わった。

 

『かみなり!』

 

 ただ、すごいのはその切り替えのタイミングに合わせて指示を出したキバナと雷を落としたヌメルゴンだ。

 その一撃でウインディの猛攻が止まった。

 ヌメルゴンが地面に落としたウインディを警戒して距離を取る。

 

『こ、ここまでの激しい攻防に実況も追いつけません! 速い、速すぎるぅぅぅ!!』

「すごいね、あのヌメルゴン。今の猛攻を耐え切って一撃で止めるなんて。展開の速さに息するのも忘れそうだったよ」

 

 トツカの言う通りだな。

 思わず握り拳を作ってしまうくらいには見入っていた。

 でもその攻防の末、お互いにボロボロな状態である。

 多分、次で決まりそうな感じだ。

 

『ヌメルゴン、ハイドロポンプ!』

『ウインディ、しんそく!』

 

 ヌメルゴンが水砲撃を放ち、ウインディがその中を神速で駆け抜けていく。お互いに最短距離を選んだんだろう。

 そしてウインディが駆け抜け切ると、ヌメルゴンを弾き飛ばした。

 ドサッと地面に倒れる両者。

 

『………ウインディ、ヌメルゴン! 共に戦闘不能!』

 

 審判がそれぞれを確認して判定を下した。

 ………なるほど、あのじゃれつくでボコボコにされたのが思いの外効いていたということか。あれで一気に体力を削られて、最後は耐え切れなかったと。

 

『最後は両者戦闘不能で終わったぁぁぁっ! 流石は我らが大将と言うべきなのか、恐るべしドラゴンストームと言うべきなのか! 熱いバトルも次がラストになりそうです!』

『お疲れ様、ウインディ。ゆっくり休んでね』

『戻れ、ヌメルゴン。いいかみなりだったぜ』

「………ジムリーダー同士のバトルともなるとやはり勉強になりますね。バトルの構築、対処の仕方、指示のタイミング、そして判断の早さ。どれを取ってもレベルが高い」

「アタシらはアレに挑むんだもんねー………。三番目がカブさんだと思うと今のままじゃなー」

 

 チラッと後ろを見るとサイトウが考え込んでいて、シャクヤが遠い目をしていた。

 対してコマチは…………引いてるな。考え込むようにして遠い目をしてるわ。

 

『唸れ、ジュラルドン!』

『マルヤクデ、君に決めた!』

 

 二人の最後のポケモンはマルヤクデとジュラルドンだった。

 

『最後はやはりこの二体! マルヤクデとジュラルドン!』

『ジュラルドン、りゅうのはどう!』

『マルヤクデ、ほのおのムチで軌道をずらして!』

 

 赤と青の竜を模した波導をマルヤクデが全身から伸ばした炎の触手で軌道を逸らした。

 

「ねぇ、シャクヤちゃん。キバナさんのポケモンって何タイプ?」

「ジュラルドンははがね・ドラゴンタイプだよ。キバナさんの相棒」

 

 そう、ジュラルドンははがね・ドラゴンタイプ。

 なんて恵まれたタイプの組み合わせなのだろうか。

 あいつ、実はそういうのもあって相棒にしたとか?

 実は計算高いキバナなら、子供の頃でもやりそうではある。

 

『荒れ狂え、ジュラルドン! キョダイマックス!』

『マルヤクデ、燃え盛れ! 姿を変えろ、キョダイマックス!』

 

 挨拶を済ませるとカブさんもキバナもマルヤクデとジュラルドンを一度ボールに戻して、巨大化したボールをフィールドに投げつけた。

 もう使ってくるのか。

 

『こ、ここで両者ダイマックス、いやキョダイマックスだぁぁぁっ!!』

 

 出てきたのはドラゴンのようなマルヤクデと高層ビルのようなジュラルドン。

 どうでもいいけと、何でジュラルドンのキョダイマックスは高層ビルみたいなんだろうな。

 マルヤクデのドラゴン感はカッコいいけど。

 

『キョダイヒャッカ!』

 

 すると先に動いたマルヤクデの巨大な炎の渦がジュラルドンを呑み込んでいく。

 

『ダイロック!』

 

 そこへ中から巨大な岩壁が現れマルヤクデの方へと倒れていき、粉々に砕けると同時に激しい砂嵐を巻き起こした。巨大な炎の渦は砂嵐に呑み込まれ、掻き消されていく。

 

『ジュラルドン、もう一度ダイロックだ!』

 

 再び巨大な岩壁が現れ、今度はマルヤクデの方へ投げつけられた。

 

『マルヤクデ、ダイウォール!』

 

 ATフィールドじゃないぞ。

 まあ、ジムリーダーたちがダイウォールを使っているところは殆どお目にすることはないが、あの巨大な岩壁を受け止めるだけじゃなく、衝撃で粉砕しちゃうくらいには堅い。

 

『マルヤクデ、キョダイヒャッカ!』

『ジュラルドン、キョダイゲンスイ!』

 

 そして巨大な炎の渦がジュラルドンを包み込み、そこから赤黒いエネルギーが放出されマルヤクデを穿った。

 爆風でまたしても巨大な炎の渦は掻き消されていく。何なら砂嵐も掻き消されてしまった。

 まあ、これでお互い時間切れではあるな。

 

「これでお互い時間切れだな」

 

 マルヤクデもジュラルドンも元の大きさへと戻っていく。

 お互いに巨大化している時に倒せたら御の字、くらいの気持ちだったのだろう。

 

『キバナ君、次で最後にしよう!』

『ああ、これで終わらせてあげますよ!』

 

 元の姿に戻るとお互いに結構ボロボロであり、次の一撃に全てを乗せてくるようだ。

 となるともえつきるとメタルバースト辺りか?

 

『マルヤクデ、もえつきる!』

『ジュラルドン、メタルバースト!』

 

 ビンゴ。

 灼熱の業火がマルヤクデの全身から迸りフィールド全体に広がっていく。その中を今まで受けたダメージをお返しと言わんばかりの銀色の光線が走り、マルヤクデを貫いた。

 

「………地獄絵図だな」

「お前が言うな。キョダイゴクエンはこれ以上だぞ」

 

 下手すると画面が炎に染まって何も見えないらしいじゃないか。

 放送泣かせのチャンピオンとか、大丈夫なのか?

 そのせいで会場で観たい人が増えて、結果儲かってるのかもしれないが、その辺の事情は俺の知るところではない。

 

「それと普通に渡り合えてるオマエも異常ですがね」

「うっせ」

 

 ネズが何か言ってるが聞こえないなー。

 業火は収まったものの、フィールドの所々でまだ燃え続けている。

 その中央ではピクリともしないマルヤクデと何とか起き上がろうしているジュラルドンの姿があった。

 

『…………ケホッ、ケホッ。マ、マルヤクデ、戦闘不能! よって勝者はジムリーダー、キバナ!』

 

 完全に意識を失ったマルヤクデに対してジュラルドンが起き上がろうと必死に行動に移しているということで判定を下したのだろう。

 見るからにマルヤクデは続行が無理だからな。カブさんたちも文句はないだろう。

 

『か、勝ったのはドラゴンストーム、キバナぁぁぁ! だが、我らが大将のバトルも熱く燃え盛っていました! 健闘した両者に惜しみない拍手を!』

『ジュラァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 おっと、何か嫌な予感がしたぞ?

 

『お疲れ様、マルヤクデ。惜しかったね』

『ご苦労さん、ジュラルドン。よく耐え抜いた………ジュラルドン?』

 

 カブさんがマルヤクデをボールに戻し、キバナもジュラルドンをボールに戻すのかと思ったら、何やらジュラルドンの様子がおかしいようで。

 

『キバナさん、ジュラルドンが雄叫びを上げた後、気絶しました!』

 

 審判の人が確認するとジュラルドンも気絶していたらしい。

 あー………アレだわ。

 

『マジで?!』

「「マジで!?」」

 

 コマチの声がシャクヤとキバナに被ってしまったようだ。

 

「おいおい………マジかよ」

「見ろ、ハチ。オレたちみたいだぞ」

「ガラルにはやべー奴らしかいねーんですかね………」

『ふははははっ! まさか僕たちもこんなバトルをすることになるとはね』

『おいおいマジかよ………。ダンデたちじゃねぇんだからよ』

 

 まーた、去年のダンデとのバトルを蒸し返されるやつだよ、これ。しかもテレビで。しばらくホテルで見るのは控えよう。

 

『これは何ということでしょうか! チャンピオン、ダンデと仮面のハチとの決勝戦を彷彿させる結果となりましたっ!! 熱い、熱すぎる!!』

 

 はい、早速擦られてます!

 夜にはバトル映像の比較とかしてそうだわ。

 去年はこんな感じでー………みたいな。

 今日はテレビ禁止だ。

 

「ねぇ、トツカさん」

「ん?」

「コマチ、ジムバッジ全部集められますかね………」

「だ、大丈夫だよ、きっと。気持ちは分かるけど、コマチちゃんの実力なら引けを取らないって」

 

 うん、帰ろう。

 この後、ダンデはインタビューがあるみたいだし、捕まるわけにはいかない。

 

「さて、帰るか」

「もう帰るのか?」

「俺にもやることがあるんだよ」

「………あるのか?」

 

 そこで疑問に思うなよ。

 迷子になってるような奴よりは結構やることがあるんだよ。

 

「あるんだよ、それが。甚だ遺憾ながら、やりたくもないけど、やらないといけない仕事が」

「相当やりたくないんですね」

「他にもやることがあって、そっちの締め切りも近いんだよ」

「それはご愁傷様です」

「心がこもってねぇ………」

 

 ネズが冷たい。

 いつものことだけど。

 あ、そうだ。野郎二人のことなんかよりも大事なことを忘れてたじゃねぇか。

 

「あ、そうそう。コマチ、これやる」

「うぇ!? いきなり何ですか?! ってか、名前………」

 

 コマチに俺のスマホの番号を書いた紙を渡しておかないと。

 コマチのホロキャスターに登録されてるのは俺のポケギアの方だし、ハチとしての番号だとスマホの方がいいからな。

 

「俺の連絡先。何か困ったことがあったら、いつでも連絡して来い。特にどこかのバカが迷子になってるとか、声のデカいおっさんに絡まれて逃げられない、なんて事案は放っておいてもいいことはないからな。登録しておいてくれ」

「あ、ありがとうございます?」

「何で疑問系なんだよ」

 

 いそいそとスマホを取り出すコマチ。

 えっ、スマホ買ったのん?

 いつの間に?

 まさか………トツカか?

 

「ジムチャレンジ頑張れよ」

 

 取り敢えず、コマチの頭を撫でてコマチニウムを堪能しておいた。

 うん、可愛い。

 

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