ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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113話

 翌日。

 ようやく目覚めたらしいロトムは何故か俺のスマホを気に入ってしまい、入り込んでからずっと出てこないため、仕方なく引き取ることにした。

 ガラルではスマホにロトムが入っていることも珍しくないので、特に問題はないのだが、スマホが浮いているという状況に慣れないでいる。

 そして一応、今日もエンジンシティの『あの』路地裏を確認しに行ったのだが、何もなかったため、ワイルドエリアに出ることにした。

 昼過ぎということもあり、エンジンシティから出てすぐのところで休憩してる奴らがちらほらと見受けられる。

 それを横目に左手ーーワイルドエリアの東側へと向かうことにした。

 

「ギィィィンガラァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 ボチボチ歩いていると、どこからか野太い雄叫びが聞こえてきた。

 まあ、ワイルドエリアだからな。

 どうせまたどこかでポケモンが巨大化して、しかも地上で暴れ始めたのだろう。それはそれで異常事態らしいのだが、俺としてはその姿がワイルドエリアだからなー。多分、他の奴らよりは動じない自信がある。

 今日は晴れているため、見えてきたミロカロ湖も輝いて見える。

 ちょっと奥の方には巨大化したキングラーっぽいのが見えるけど、そっちの方へ数体のポケモンたちが向かって行くのが見えたため、恐らく居合わせたトレーナーが倒しに行ったものだと思われる。

 

「ふっ、ははは、はははははっ!」

 

 なんて景色を見ながら頭の中を空っぽにしていると、なんか嫌な笑い声が聞こえてきた。

 やだなー………こういつ笑い方する奴って、十中八九クズじゃねぇか。

 

「な、なに………?」

「人を疑わないバカ程、滑稽なものはないなと思ってな」

 

 声のした方に向かう。

 

「………どういう」

「おっと、動くなよ。お前は戻ってきたあのバカどもに対する人質となるんだからな」

「な、なにを言って………」

 

 おっと、見たことあるのがいるじゃないの。

 

「まだ分からないのか? 親もバカなら娘もバカだな。お前はこれからオレが逃げるための駒になってもらうって言ってんだよ。ああ、どうせなら身代金でも取ってやるか。なぁ!」

 

 身代金とか聞こえたんだけど………。

 これってもしかして大ピンチなやつ………?

 

「お前………なのか………? あのワンリキーたちをおかしくしたのは………?」

「ああ、そうだぜ。上からの命令でワンリキーたちをつよーくしてやったんだ」

「貴様ッ………!」

「おっと、動くなって言ったろ? オレとしちゃお前ら全員を今ここで殺してやってもいいんだぜ?」

 

 同じ格好をしている奴の一人が………ってことは仲間割れか?

 というかアレ、ワイルドエリアのスタッフのユニフォームだよな。

 えっ? ってことはなにか? ワイルドエリアのスタッフが悪党ってパターン?

 それにシャクヤが巻き込まれてると?

 よし殺そう。

 

「ストライク! その娘を捕らえろ!」

「ひぃ!?」

 

 シャクヤがストライクに斬り込まれる前に、彼女の前に出て黒いオーラでストライクの刃を受け止めた。

 

「…………何者だ」

「通りすがりのポケモントレーナーだが?」

 

 としか言いようがない。本当に偶々出会しただけだし。

 そこに知り合い、しかもこっちでは割と可愛がってる自覚のあるシャクヤが巻き込まれてるのだ。割り込まない理由がなかろうに。

 

「だったら、さっさと消えてもらおうか。今オレたちはお取り込み中なんでな。部外者がいていいところじゃねぇんだわ」

「そうか、悪いけど俺はお前に用があってな。消えるわけにはいかないんだわ」

 

 特にシャクヤを巻き込んでいる件については詳しく聞き出さないとならない。

 ついでそこら辺にたくさん倒れているワンリキーたちが黒いオーラを纏っている件についても聞きたいところだ。

 とにかく逃がしはしない。

 

「ストライク、その男を殺せ!」

「ストライク!」

「10まんボルト」

 

 そう命令出しただけでストライクが何処からともなく発生した電撃により、地面に倒れ伏した。

 

「な………に………!」

 

 一撃で戦闘不能に。

 焼け焦げて小さな黒い煙を上げている始末。

 

「人の妹分に手を出そうとしたんだ。それ相応の報いは受けてもらうに決まってるだろ」

 

 さらに俺の意図を汲み取ったのか、俺の身体から黒いオーラが外に向けて放出される演出がなされた。

 相手に恐怖を与える演出としては、これが最も効率的なんだよなー。うちの演出家もいい加減パターンとして分かってきたのだろう。

 

「なん、なんだ………その黒いオーラは…………まるで、まるで我らの力を与えたワンリキーたちと同じ………!」

 

 ああ、なるほど。

 そういうことか。

 通りで倒れているワンリキーたちから黒いオーラが見えると思ったら、こいつが原因ってわけね。

 ワイルドエリアのスタッフに紛れ込んで、野生のポケモンで実験でもしていたか、デモテストか何かをしていたのだろう。

 仲間割れを起こしていたことから、単独犯の可能性が高い。

 

「ハッ、お前らシャドーのクソな計画と一緒にするんじゃねぇよ。これは単にポケモンの技だ。恐怖を与えるためのただの演出だ。それすらも分からないんだから、出来損ないの下っ端なんだろうな。可哀想に」

「ハッ、それこそ笑わせる! 我らは崇高なるGOロケット団である! 全てポケモンを我らの力で支配し、最強のポケモン軍団を作り上げるのだ!」

 

 はい、本人から自己紹介を頂きました。

 

「そうかよ、自己紹介ありがとさん。ジュカイン、みねうち」

「ガハッ!?」

 

 大方のことは分かったので、ボールからジュカインを出して男を気絶させた。

 

「ふぅ」

 

 戻ってきたジュカインをボールに戻してシャクヤの方を見やる。

 

「ハチ兄………!」

「悪い、遅くなった」

 

 特に怪我をした様子はなく、安堵したその表情には目尻に水気が………見なかったことにしておこう。

 

「ううん、助けてくれてありがと。親父たちがキングラー倒しに行った途端、あいつが笑い出してそれで………!」

「ああ、やっぱりそういうことか。要するにあいつはスパイだったってわけだ」

「スパイ………?」

「ああ、多分な」

 

 何をどうこうしようとしているのかは未だにサッパリなのだが、これでスパイというケースもあり得るという情報は得られた。

 壱号さんに報告しておけば、俺の預かり知らぬところで手を回してそっちは何とか潜入捜査を行うだろう。一応、そうした方がいいという一文は付けておくが。

 

「………どうやらあのワンリキーたちもみたいだな」

「何が? あの黒いオーラのこと?」

「ああ、一年前にも同じような状態のシェルダーがいてな」

「さっきカブさんが言ってた。去年の開会式の後に招集されたって」

 

 ああ、確かあの時はカブさんやルリナも来てたもんな。

 ワンリキーたちを見て、そこと繋げられたのはいい判断だろう。

 

「あ、あとサイカがあれ見てダークポケモンとか何とか言ってよ」

「………そうか」

 

 トツカもちゃんと話を覚えていたか。

 まあ、実際にダーク化したルギアを見てるんだからな。あの時はアレで終わった話ではあったが、まさかガラルに話が繋がるとは思わなかったし、体色が黒っぽくなっていたのもダーク化からシャドウ化に昇華させる途中段階だった時の反動と考えれば納得がいく。

 

「んで、ハチ兄はなんでこんなところにいるん? もしかしてストーカー?」

「んなわけねー………、時に謎は謎のままであることに意義があるんだよ」

「やっぱりストーカーだったか………」

 

 助けてやった妹分にストーカー呼ばわりされるって………。

 

「可愛い妹分が心配で心配で陰からずっと見守ってたって言った方がいいか?」

「いやない。それはない。キモいを通り越して気持ち悪い」

「だろうな」

 

 自分で言ってて気持ち悪くてなってくるくらいだ。

 される側を想像したらもっと気持ち悪いことだろう。

 仕方がないので、シャクヤの頭を撫でて誤魔化しておくことにした。

 

「さて、悪いけどワンリキーたちはもらってくぞ。あの黒いオーラが何なのかを突き止めないといけないからな」

「え? あ、うん、いいんじゃない? 危険なんでしょ」

「ああ」

 

 …………ところで持ち合わせてのボールで数は足りるのだろうか。

 モンスターボールはまあまあ持ってはいるし、一応ハイパーボールも何個かは持っているのだが、ハイパーボールを使うことになったら、絶対追加経費で落としてやる。足りないからと言って自腹を切るのは何か違うし、そもそもある意味今は不測の事態である。事後申請でも通ることだろう。

 

「ま、待ってくれ! 君は一体………」

 

 リュックからボールの入った袋を出していると、気絶したスパイ以外のワイルドエリアのスタッフたちが、俺のことを誰何してきた。

 君は一体と聞かれたら、答えてあげよう世の情け………とかって返さないかな。

 それとも君は一体の声を聞き。光の速さでやってきた………とか?

 うーん、取り敢えず通りすがりのーーは使ってしまったし、同じセリフなのもな………。

 

「あれ? ハチ君?」

 

 ………………。

 無駄に終わったな。

 まあいいや。

 この声は………あ、やっぱりカブさんだったか。

 ん? ということは何か? おっさんもいるのか?

 

「………」

 

 振り向くとカブさんとピオニーのおっさん、それにコマチとトツカが立っていた。

 何でまたこの二人とコマチたちが一緒に戻って来てんの?

 というか四人が行ってた方角って、巨大化したキングラーっぽいのがいた方じゃないか?

 ということは、だ。

 四人組ってのも考えると答えは一つしかないか。

 

「どういう状況なんだい?」

 

 まあ、誰であれ取り敢えずこの状況を知りたいわな。

 

「スタッフの一人にスパイがいて、カブさんたちがダイマックスポケモンの対処をしに行ったのを機に正体を現したってところですかね」

「うん、そんな感じ。スパイかどうかは知らないけど、今回のことに関係はありそうだった」

 

 カマかけ半分で簡潔に説明してみる。

 それにシャクヤの証言が加わり、おっさんの眉がピクンと跳ね上がった。

 あっ………また面倒なテンションがくるぞ。

 

「シャクちゃん、何でオレに電話しなかったんだァァァ!」

 

 ほーらきた。

 シャクヤの両肩を掴んでぐわんぐわん揺さぶり始めた。

 

「出来るわけないでしょうが、バカ親父! あんな射殺すような目で睨まれて悠長に電話なんかかけてられないしっ! 何ならハチ兄が来てくれなかったら、アタシは誘拐されて人質にされてたんだからね! 殺されてた可能性もあるんだよっ!」

 

 これはシャクヤが正論である。

 あの状況で助けを呼ぶどころか、抵抗するのもままならない状況だったからな。

 偶々俺が近くにいたから良かったものの、最悪シャクヤが命を落としていたのかもしれないのだ。

 だから無理なことは言わないでもらいたい。

 ああいう系の輩は何をやらかすか分からない人種なのだから、助けが来るまで言われた通りにして従っておくのが無難である。

 

「えっと、大丈夫なの………?」

「うん、捕まる前にハチ兄が助けてくれたからね」

 

 コマチがおっさんのことを残念な目で見ながらシャクヤに問いかけると、シャクヤはシャクヤでケロッとしていた。

 心に傷を負う前に助けに入れて何よりだ。怪我は治せても心の傷は難しいからな。何もないのが一番である。

 それから二人で俺のことをチラチラと見ながら、内緒話に講じていく。

 多分俺の悪口でも言っているのだろう。それで二人が盛り上がるなら好きにしてくれ。

 

「おい、ハチ! シャクちゃんをよく守った! 礼を込めてバトルしようぜ!」

「やだよ。つーか、いっそ無礼だろ。娘を助けた相手にバトル挑むとか」

 

 今度は俺が標的になってしまった。

 ばっしんばっしん両手で肩を叩くな!

 手がデカいから叩かれる面積が広くで無駄に力があるから痛いの何のって………。

 それと近づくな、暑苦しい。あとバトルはやらん!

 

「カーッ、分かってねぇな! 今のはシャクちゃんが欲しけりゃオレを倒してからにしなって意味だぞ!」

「分かるか! そもそもの前提からしておかしいだろ。何でシャクヤを助けただけで俺がもらう話になるんだよ」

 

 意味が分からないのはいつものことだが、娘の将来を親が勝手に決めるなっつの。本人の好きなようにさせて道を踏み外さないようにだけ見守っててやれよ。そういうところがシャクヤから煙たがられるところなんだぞ。

 

「それに礼なんかいらねぇよ。偶々通りかかったってのもあるが、妹分を助けるのに理由なんかいらないだろ」

 

 俺としてはシャクヤが無事だったなら、それでいい。

 それでも礼が、というのならシャクヤに何かしてもらうからおっさんに用はない。

 それも今でなくていいし。

 それよりも俺にはやらないといけないことが残ってるのだ。

 

「んじゃ、俺はこのクソ野郎とワンリキーたちを回収していきますんで」

「えー、もっとお話ししようよー」

「悪いな、これでも活発化し出した奴らの動向を探らないといけない身なんだよ。

 

 シャクヤには悪いが、これも仕事の内である。

 というか職業柄メインの仕事なのだ。

 だからと言って正体を明かすわけにはいかないから、具体的なことは口にしないようにしないといけないから、会話するだけで頭使ってすげぇ疲れる。

 コマチが胡乱な視線を向けてくるが気にしない。

 シャクヤを離しながら頭を一撫でし、崩れた髪型を直しにかかったのを見計らって、気絶しているワンリキーたちにボールをボールを次々と投げていく。

 

「ま、待ってください!」

 

 するとスタッフの一人が俺を引き留めようと前に出てきた。

 はぁ………さっさと終わらせたいんだけどなー。

 

「君は、何者なんだ………」

 

 問いかけてきたスタッフの声が震えている。

 何で声が震えてんの? 寒いのか? それとも身近にスパイが潜んでいて今更ながら怖くなってきたとか?

 まあ、俺としてはどうでもいいがな。

 それよりも、だ。

 

「何者か、ね。はぁ………この質問、何度目だよ。全く………」

 

 毎度毎度同じ質問の繰り返しでいい加減飽きてきたんだけど。

 俺が何者かなんてカブさん辺りに聞けよ。一応、上司になるんだろ。それをすっ飛ばして直接聞いてくるとか、もううんざりだわ。

 

「ただのポケモントレーナーだが、何か?」

「あ、や、な、何故君がそのワンリキーたちを連れて行こうとする。こういう問題は我々ワイルドエリアのスタッフ、あるいはその大元であるポケモンリーグが処理するものだ」

 

 いや、そこは警察に引き渡せよ。

 そうやって何でもかんでも自分たちでやろうとするから、内部にスパイを送り込まれることになるんじゃねぇか?

 外部との協力が少ないことで潜入しやすいとか、違和感を感じられにくくなるとか、結局は自分たちで自分たちの首を絞めているようなものである。

 それも自分たちの手には余る事案に対して、それでも自分たちでってのは、被害者を増やす一方の悪手でしかない。

 

「処理? 自分たちだけでワンリキーの群れ一つ制圧出来ない連中が?」

「ッ!? 君一人で何が出来る?! ただのポケモントレーナーというのなら、ただの一般人! 我々としては巻き込むわけにはいかない! お引き取り願おうか!」

 

 ハッ、図星かよ。

 痛いところを突かれたからって大声で言い返せば自分たちの思うようになると思うなよ。

 

「………ワンリキーたちには悪いが、俺のポケモンたちならばこんな雑魚どもさっさと鎮圧してたぞ。何なら一瞬で制圧可能なポケモンだっている。さっきも見せただろ? あの黒いオーラを操るポケモンだ」

「くっ…………」

「その辺にしといてあげてくれないかな、ハチ君」

 

 と、ようやくカブさんが止めに入ってくれた。

 さっきから見てないで早く止めてくれればよかったものを………。

 

「君たちも。確かに与えられた役割を熟すことは大事だよ。けどね、現場ではそうも言ってられない時があるんだよ」

「カブさん、しかし………!」

「それと君たちは誰を相手にしているのか、ちゃんと目を養うことだね」

 

 カブさんとしては基本スタッフたちに一任しているんだろうけど、今回は現場で俺というイレギュラーへの対応の仕方を見たかったのだろう。

 いいように使われたもんだ。

 

「どういう意味ですか………?」

「飛び込み依頼でも依頼達成率百パーセントの天才バトル師、と言えば分かるかな?」

「「ッ!? ま、まさか………?!」」

 

 まさかって何だよ。

 何か俺の噂でも流れてんのか?

 

「そう、彼こそが君たちの間で噂になっているガラルの忠犬ハチ公だよ」

「「「「えっ?」」」」

 

 はっ……?

 忠犬ハチ公?

 ガラルの?

 どゆこと………?

 

「あの、カブさん…………俺それ初耳なんすけど」

 

 それに『ガラルの』って付ける辺り、元ネタはカントーでの俺のことなんだろうけど…………何の偶然だよ。

 ここでも忠犬ハチ公呼ばわりとか嫌すぎるわ。

 

「そりゃ噂だからね。広めてるのは大体ジムリーダーたちとか君に協力してもらった人たちばっかりだけど」

 

 おい。

 

「それ暗に自分が広めてますって言ってるのと一緒なのでは………?」

「ふふっ」

「マジか………」

 

 カブさんの苦笑の後ろにダンデやルリナの顔が見えてしまうのは気のせいだろうか。

 絶対ノリノリで広めてるのってあいつらだろ。ってか言い出しっぺがあの二人だと思う。

 

「カントー地方のポケモン協会には忠犬ハチ公なる人物がいるって聞いてね。その話をしたら君にぴったりの名前じゃんってなったんだよ」

「よし、大体の言い出しっぺは分かったわ。次会ったらあいつらシバく」

「ははは、程々にね」

 

 何かの流れでカブさんの口から忠犬ハチ公の名が出てしまったのが、運の尽きだったか………。

 

「バトルが強いのは認めましょう。一瞬で制圧出来るという話も信じます。しかし、だからと言って何が起きているのかも分からないこの件を任せるわけには!」

 

 カブさんが仲裁に入っても尚、食ってかかろうとするスタッフたち。

 頭が硬いというか、柔軟性がないというか………。

 人に言えた口ではないが、いささか責任お化け過ぎないだろうか。

 

「そうだね、確かに僕たちは未だに何が起きているのか分かっていない。分かっているのはあの黒いオーラを放つポケモンがまた現れたということだけ」

 

 カブさんの声のトーンが低くなっていき、俺の方に向き直った。

 

「というわけだからさ、ハチ君。そろそろ君の見解を聞かせてくれないかな? 去年はルギアのこともあったし、まだ君も情報を集め切れてなかっただろうから深くは聞かないようにしていたけど、また現れたとなっては今度こそ聞かないわけにはいかないよ」

 

 はあ、カブさんにこう言われてしまっては流石に曖昧に終わらせることは無理そうだな。

 

「聞いたら多分、地獄っすよ?」

「地獄絵図を作られるよりは遥かにマシだよ」

 

 それはそうだ。

 ダークポケモンよりもさらに強力になったシャドウポケモンが野生化し、それを軍団として引き連れたシャドーの奴らが大暴れし始めれば、行き着く先は本当に地獄絵図になるだろうからな。

 そろそろ情報共有をきておく頃合いなのかもしれない。

 話せる部分だけにはなるが、概要だけでも頭にある方がカブさんたちも動きやすくなるか。

 

「数年前、オーレ地方ってところにシャドーという組織があったんですよ。その組織はポケモンにダークオーラっていうのを付与して強化種を作り出していた。その後組織自体は下部組織からの反逆者によって壊滅したらしいですけど、一年前それに似たオーラを持ったポケモンがこのガラル地方に現れた」

「それがシェルダーかい?」

「ええ、そしてあのルギアだったり、ここ最近だとバンギラスだったり今回のワンリキーの群れだったり」

「対処法は分かっているのかい?」

「ダークオーラを付与されたポケモンならば、セレビィの力で元に戻せたんですけど、今回のオーラはダークオーラではないみたいなのでまだ何とも」

 

 そもそも完全にリライブするにはセレビィの力が必要になる。

 今はまだ国際警察の方でもダメ元での自然治癒が出来ないかの経過観察中といったところで、その結果は芳しくない。

 それにシャドーとしてもリライブというやり方は熟知しているだろうから、対策を講じてきている可能性が高い。そうなるとリライブではあのオーラを完全に除去するのは難しくなり、他の対処法を見つけるためにもアジトに潜入して、資料を手に入れる必要があるだろう。

 取り敢えず、ここにいる全員には箝口令ってことで口外しないようにしてもらわないとな。

 

「今言ったことは国際警察の方で箝口令が出されてるんで口外はしないように。特におっさん」

「おい、何でオレが口軽いみたいに言うんだよ。流石にそこは弁えてるぞ」

「理性が働いてる内はな。ただ興奮し出したら勢いで言う可能性はあるだろ?」

「あー、親父ならやらかしそう」

「シャクちゃん!?」

 

 娘が肯定するんだから、俺の想像は間違っていないだろう。

 下手にこちらの動きがシャドー側に伝わってしまったら、後々面倒だからな。知らないままでいてくれるのが一番ではあるが、遭遇してしまった今となっては多少の情報を与えておいた方がいいのだが、どうしてもこのおっさんの口だけは信用ならんのよ。

 

「お前らもいいな? 下手に関わる組織が増えてくるとややこしくなるから黙っててくれよ」

「ややこしくなる?」

「箝口令が出されるくらいには国際警察が動いているみたいだからな。複数の組織が捜査に乗り出すと責任の所在とかが面倒なことになるんだよ。特に別々に動かれるとな。だからいっそ手を出すなってことだ」

 

 なんて口では言うが、単に俺がコマチを巻き込みたくないだけである。

 というか誰が好き好んでこんな面倒で危険なことに実の妹を巻き込みたいと思うんだよ。

 しかも一応今は正体を隠してる身なのだ。

 べったりくっついてコマチの安全を最優先することも出来ないのだから、最初から首を突っ込まないように釘を刺しておかないと、後で俺が後悔しそうである。

 

「これでいいですか?」

「うん、ありがとう。君たちも分かったね? 今後もワンリキーたちのようなポケモンが現れるかもしれないけれど、鎮圧することが君たちの仕事だ。その背景にある事件の捜査は専門家に任せること。いいね?」

「「は、はい………」」

 

 カブさんの忠告に、スタッフたちは納得がいかないって顔をしているけれど、こればっかりはな。

 そもそも事件を捜査する程の余力もなさそうだけど。現状、スタッフたちだけではバトルだけでも限界に近いみたいだし、捜査ともなると………どう考えも無理だろうな。

 

「んじゃ、俺はこれで」

「何かあったらまた情報を共有してくれると嬉しいな」

「それは前向きに考える方向で検討するよう善処します」

 

 その時がないことを祈りながら、俺はワンリキーたちが入ったボールを回収して、さっさと退散することにした。

 

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