ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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115話

 最初の潜入調査から一週間が経った。

 取り敢えず、翌日からは昼前に起きてハッキングしてきた資料に目を通すようにし、夜中には他のアジト候補に潜入し、ハッキングして帰ってくる生活サイクルが始まったのだが、初日以上に目新しいデータを手に入れることは出来なかった。

 恐らく、下請け企業には統一したデータが渡されているのだろう。

 だからやはり一度奴らの本部となるアジトへ潜入する必要がある。

 が、そのアジトの所在が分からないものだからどうしようもない。

 なんだこれ、詰んでねぇか?

 まあいいや。

 どうしようもないものはどうしようもない。コツコツと確かめていくしかない。

 それよりも。

 今日こそは放置していたわけではないが、やることが多すぎて後回しになっていたことをそろそろ確認しておかないとだな。

 

「もしもーし、ソニアさんの番号でしょーかー」

 

 スマホからソニアの番号へとかけると、三コール目に出てくれた。

 

『………なによ、いきなり連絡してきて。怖いんだけど」

 

 普通に連絡したのにこの言われよう。

 酷くない?

 

「別に取って食おうってわけじゃねぇよ。つか、お前は俺を何だと思ってるんだよ」

『人のコンプレックスを刺激してくる存在』

「わーお、嫌われてるぅ」

 

 否定は出来ない。

 実際刺激してしまったがために、俺の前で感情が暴発したくらいだし。

 今は割と前を向いてきてくれているが、その時の記憶が残っているがために、俺に対してトゲトゲしいところがあるのだろう。

 可愛いやつめ。

 

『べ、別に嫌ってるわけじゃ………!』

「おう、知ってる」

『こんのっ………!』

 

 そして、おちょくると面白い。

 これはルリナにも言われた。

 親友を豪語するならおちょくってやるなよと思わなくもないが、それで関係が拗れるわけでもないので、俺から言うことは何もない。

 あれだな。ダンデとソニアってそういう点では割と同じ扱いだよな。似たもの同士というか、遊ばれる側同士早くくっつけよ。

 

『んで、何よ。何の用よ』

 

 ゴホンと咳払いを一つして。

 ソニアは俺の用件を聞き出す方へと切り替えてきた。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

『無理難題は答えられないからね』

 

 それはソニアやガラルでの認知度に依存するから何とも言えないな。

 

「ブラックナイトに関する資料とかって持ってたりする?」

『ブラックナイト? ………大昔のガラルで起きたっていうブラックナイト?』

「そう、それ」

 

 取り敢えず、ブラックナイトで通じるのだから一応の知識はありそうだ。

 

『あるにはあるけど……………割と一般的なのしかないよ?』

「その一般的なのでもいいから欲しいんだけど」

『もしかしてハチくん、知らない系?』

「そう、最近そういうのがあったってのを初めて知った系」

『なるほどなるほど』

 

 おい、なんだ急に嬉しそうな声色になりやがって。

 そんなに俺に知らないことがあって嬉しいのかよ。

 

「…………嬉しそうだな」

『そりゃ、ハチくんにも知らないことがあるんだなーって思ったらねぇ』

「俺だって知らないもんは知らないんだよ」

 

 何ならシャドーの本拠地を教えて欲しいまである。

 まあ、それをソニアに言ったところで答えが返ってくるわけでもないし、変に情報を与えてしまっては勝手に巻き込まれに来るだろうから、知らないままでいてもらうのが妥当だろう。

 もしソニアを巻き込んだとなれば、ダンデに殺されそうだ。そうでなくてもルリナに首を絞められる可能性だってある。

 うん、やっぱりいざとなったらカブさんに協力してもらうのが一番だろうな。

 力も権力もまあまあある中で、一番まともな大人だし。

 

『それで? ハチくんのスマホに送ればいいわけ?』

「それでオナシャス」

『…………今度何か奢りなさいよ』

「えぇ………いいけど、格式高いところとかは勘弁してくれよ」

『お金はあるんでしょ?』

 

 金の問題じゃないんだよなー。

 

「作法が分からん」

『あぁ………』

 

 高級レストランになんか連れて行かれた日には、緊張し過ぎてとんでもないことになりそうだからな。

 もっとラフな定食屋とかくらいでいいんだよ、俺は。

 とは言え、女子はそういうキラキラしたところが好きなのも事実。

 実際にどこへ連れて行かれるのかはソニア次第だろう。

 だから、そんな同情するような声を出すんじゃない。

 

「おい、そんな同情したような声を出すなよ。ダンデも似たようなもんじゃねぇの? 知らんけど」

『ダンデくんなら、結構いいとこで会食とかしてるみたいだよ? ルリナ談だけど』

 

 あんにゃろ………。

 そういうところだけはちゃっかり行きやがって。

 

「チャンピオンともなると羽振りがいいんだな」

『誰かさんが勝ってたら、その座はその誰かさんのものになってただろうにねぇ』

「勿体無いことしたよな、その誰かさんは」

 

 羽振りの良さだけを見れば、チャンピオンというのはまさかに喉から手が出る程の魅力的な地位であろう。

 だが、それに伴う責任や仕事が付随してくるため、俺には荷が重いし、もう目立たないように生きると決めたのだ。

 目立つ時は仮面のハチみたいに別人になりきるくらいじゃないと、今後も面倒なことになるのは明白。本名は確実に隠していかなければならないのだ。

 俺がこのタイムスリップ含めて今回学んだことである。

 

『ねぇ、ハチくん』

「は、はい! 何でございましょう!」

 

 すると急にソニアの声色が変わり、背筋に電気が走ったようにピンとなってしまった。

 えっ、なに? 俺は今から何を問い正されるのん?

 

『今巷で噂になってるんだけどさ。夜な夜な企業のオフィスに不審な人物が現れるんだって。その人物は全身黒一色の格好をしていて、どこからともなく現れてはパソコンに何かを取り付けて、何かを侵入させて、何かをしているみたいなの』

 

 ほうほう。

 スパイみたいなことをしている奴がいるとな?

 んで、俺にその話をしてくるということは、だ。

 つまり、ソニアはこの事件の匂いのする噂話の解明をしてくれってことか?

 

『ねぇ、ハチくん?』

 

 だが、何故だろうか。

 さっきからソニアの声に温度を感じなくなってきている。

 冷たく、俺を一言ででも凍り付かせられそうな、そんな恐ろしさがあるのは何故だ?

 もしかして国際警察ならさっさと仕事しろやボケェ! って感じのクレームを入れにきたのか?

 

『私には一人だけそういうことが出来そうな人を知ってるの。その人はバトルも強いし、ポケモンのことも詳しくて、本当にムカつくやつなのよ』

 

 あ、違った。

 既にソニアの中では犯人が特定されてるみたいだ。

 となると、だ。

 今から犯人を教えるからサボってないで仕事して来いやオラァ! ってことかな?

 というかソニアの知り合いが犯人ってヤバくね?

 下手したらソニアの知り合いを捕まえるってことになるってことじゃん?

 

『ねぇ、ハチくん? 最近、夜中に何してるのかなー? ねぇ、ねぇ?』

 

 …………………………………。

 て、手足の震えが止まらないんだけど。

 何だろう、あれやこれやと頭の中で試行錯誤するのに、既に喉元にナイフを突き付けられているようで逃げられる気がしない。

 

「ああ、そうだよ。多分、それこっちのことだよ。これでいいんだろ?」

『本当何してんのよ、アンタは! 出来ちゃうことを知っちゃってる手前、知らないフリをするのがすごく大変なんだからね!』

「さーせん」

『反省しろ、バカ!』

 

 わーお、ソニアさん荒れてーら。

 これはアレだな。

 あの婆ちゃんとかと一緒にテレビを見ていて、事件のことを知って、うちが狙われないかしら? とかっていう会話を聞きながら、頭の中に俺が浮かんでいんだろうな。

 可哀想に。

 

『…………んで、黒ずくめの泥棒さんは何を狙ってるのよ』

「んー、敵のアジト?」

 

 嘘は言っていない。

 

『まーたきな臭いことに手を出して…………』

「昨日今日に始まったことじゃねぇんだよ。それに狙ってるのも黒寄りのグレーな会社ばかりだ。テレビではそういうことがあった、怖いですねー、で終わってるってことは、相手も下手に注目を浴びたくはないってことだ。だからお前は首を突っ込もうだとか考えるなよ」

『突っ込まないわよ。逆にこっちまで被害が出ないか心配してるだけだっつーの!』

「へいへい」

 

 取り敢えず、これで忠告はしたのだし、興味本位で関わって来ようってことはなくなっただろう。

 まあ、そもそもソニアはそういう奴でもないからな。ちゃんと忠告しておけば、自分の立ち位置を理解してちゃんと線引き出来る奴だ。

 一番怖いのはダンデなんだよなー。

 あいつバカだし。自分たちが強いって自覚がある分、身を呈して守ろうとするきらいがある。

 とは言え、今のソニアとダンデではソニアのこともあり、距離を取っている関係だ。そうそうあいつに情報がいくこともないだろう。

 

「まあ、アレだ。お前らには被害がいかないようにする。あくまでも襲われてるのは怪しい企業ばかりだと思ったとけ。そこに有名企業があろうと裏ではヤバいことに手を貸している可能性があると思っとけばいい」

『…………聞いといてアレだけどさ。そういうの私に話していいの?』

「よくねぇよ。情報漏洩だわ。けど、下手に動かれても困るんでな。明確なことは言えなくとも、これくらいのことなら手を出す気にはならんだろ?」

 

 実際問題、これって情報漏洩になるんだろうとは思う。

 だが、これくらいの情報を与えるだけで動きを牽制出来て、ソニアたちに守ることに繋がるのならば、必要なこととして見逃してもらおう。

 出来るかどうかはさておき、その内、模倣犯とかが出て来ないとも限らない。

 

『分かったよぅ………お祖母様にもそう伝えとく』

「おう、そうしてくれ」

『………関われば命の保証はないってやつなんでしょ』

「分かってるじゃねぇか。そういうことだから、資料の方はよろしくなー」

 

 ふっ、やっぱりソニアはちゃんと分かってるみたいだ。

 以前の忠告をちゃんと理解している。

 俺の仕事はそういうものだという理解もあるため、多分ガラルで一番仕事の情報を漏らしてもそこからの漏洩は大丈夫な相手だと思う。

 

「ふぅ………」

 

 通話を終えてソファで一息入れていると、ソニアからメールが届いた。

 

『メール、キタ』

 

 早速来たみたいだな。

 どれどれ…………あれ?

 何でダイマックスの資料が送られてきてんだ?

 

「あ、違う。ダイマックスとブラックナイトの関係性についてかよ」

 

 つか、やっぱり関係ありそうなのね。

 そりゃ、巨大化したポケモンが暴れ回ったとかで起きた大災害らしいもんな。巨大化ってところに引っかかると思っちゃいたが………。

 

「…………何か掴めますように」

 

《ダイマックスとブラックナイトの関係について》

 ブラックナイトとは、約三千年前に黒い渦が発生し、巨大化したポケモンが暴れたことでガラル地方を滅ぼしかけたとされる大災害のことを指す。英雄によって鎮められたとされているが、詳しいことは資料が乏しく不明である。

 しかし、ガラル地方ではワイルドエリアにて度々ポケモンが巨大化する現象が起きている。これをダイマックスと呼称しているが、このダイマックスこそが三千年前に起きたポケモンが巨大化し、暴れてガラル地方を滅ぼしかけた大災害の要因だと考えられる。

 ダイマックスにおいて鍵となるのは、「ガラル粒子」と呼ばれる空気中に漂う赤紫色の粒子が関係しており、より密度の高い場所において野生のポケモンが巨大化することがある。逆に言えば、ガラル地方のどこでもポケモンが巨大化する、ということはなく、一部区画においての限定的な現象とされる。

 ダイマックスの原理については、ガラル粒子を大量に取り込んだポケモンの体内から溢れ出たパワーが周囲の空間を歪ませ、実際の大きさよりも巨大に見せている。つまり、ポケモン自体は巨大化しておらず、空間の歪みによって巨大化しているように見えているだけである。

 ここで考えられるのは過去の大災害においても巨大化したように見えたポケモンたちが暴れて大災害に繋がったということだが、空間の歪みでそう見えているだけのポケモンがどうやって大災害に繋がる被害を起こしたのか、という疑問が出てくる。

 だが、ここでもガラル粒子が関係してくるのである。

 少量のガラル粒子を集めたところで変化はないのだが、密度の濃い場所と同量のガラル粒子を集めると、光の屈折角度が変わることが判明している。つまり、見る側からすれば、ダイマックスしたポケモンは虚像というわけである。

 では、ガラル粒子を大量に取り込んだポケモンがダイマックスするタイミングはいつなのか、という疑問が生じるが、これはポケモンがガラル粒子を内包出来る総量を超えた時であり、この溢れ出たガラル粒子が周りに飛び散り、光の屈折により虚像を生み出すことでダイマックスへと至るのである。

 しかし、これだけではダイマックスしたポケモンが大災害を引き起こす要因とはならない。

 もう一つの要因として、ダイマックスしたポケモンが使う技はガラル粒子を変換して行われているという点が挙げられる。

 ダイマックスしたポケモンの技は通常の技とは異なり、特殊な技へと変化する。これをダイマックス技と呼称するが、このダイマックス技は使用するポケモンが違えど、各タイプにおいて同じ技となる。その要因はガラル粒子をダイマックス技に変換しているからであり、虚像のポケモンが相手に接触出来る要因ともされている。

 つまり、虚像と相手との間には常にガラル粒子が挟まることとなり、これにより巨大化したポケモンが暴れると直接的な被害が発生する、という事象が成り立つのである。

 さらに付け加えると、人工的にダイマックスさせるダイマックスバンドを使用してのダイマックスポケモンが最大三回までしかダイマックス技を使えないのも、ダイマックスバンドに内包出来るガラル粒子の総量が決まっているためであり、野生ポケモンとは内包する総量が異なるため、結果的に時間制限のような仕組みになっているのである。

 また、ダイマックスしたポケモンの中には元の姿とは異なる姿が確認されているが、これはとあるキノコが原因とされている。しかし、ここでの解説は省くとする。

 結論として、約三千年前に黒い渦が発生し、そこからガラル全土を覆う程の大量のガラル粒子が放出され、密度の高い地域において野生のポケモンが大量にガラル粒子を体内に取り込むことでダイマックスし、次々と暴れ回った結果、ガラル地方全域が焦土仕掛けたのだと考えられる。しかし、これを英雄がダイマックスしたポケモンを次々と倒し、体内から過剰に取り込んだガラル粒子を放出させたため、元の姿に戻り事態の収束に繋がったと考えられる。この一連の出来事を「ブラックナイト」と称し、後世に語り継がれてきたのである。

 尚、黒い渦の発生原因は未だ特定されておらず、根本的な原因の究明には至っていない。

 

「っべー………マジっべーわ」

 

 ダイマックスした姿って偽物だったのかよ。

 ってか、ガラル粒子ってあの赤紫色っていうか、なんか巨大化したポケモンの周りに飛び散ってる感じのやつだよな。あれってレンズの役割なん?

 こっわ………。

 想定してなかった内容過ぎて、当初の目的とか関係なくじっくり読んじまったわ。

 取り敢えず、この資料から一つ分かるのは、今回のシャドーの計画には関係してなさそう、ということだな。ガラル粒子に可能性はないこともないが、どう考えてもダークオーラやその昇華版に関わってくるようなものではなさそうである。

 ブラックナイトの資料は取り敢えず集めた資料の一つに過ぎず、使われることなかったーーいや、本命を隠す資料としてしか使われなかったということだろう。

 それにしても、だ。これのどこが一般的な資料なのだろうか。文章の後には実際の測定されたデータを基にした検証の結果も書かれているし、超専門的なやつなんじゃねぇの?

 

「うっわ、これ著者がマグノリア博士になってんじゃん」

 

 ソニア………お前って奴は…………なんつーもんを送ってきてんだよ。そりゃお前に取っては普通の一般的な資料かもしれねぇけどさ………。

 いや、まあ、俺としては勉強になったけども。

 最早、俺よりもソニアの方が情報漏洩しているまであるわ。

 

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