ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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116話

 ソニアにブラックナイトの資料を送ってもらってから四日経ったものの、未だに奴らの本拠地の特定には至っていない。

 もどかしいと思いつつも、焦っては奴らの思う壺のような気がするので、場所を特定出来ない本部が悪いということにして地道に活動を続けている。今はナックルシティで夜な夜な虱潰しに潜入しているが、初日以上に抜け取れた情報は皆無。どこもかしこも同じようなものだけであり、収支報告書をザッと見た感じ、そのどれもが怪しい金の動きがあったのは確認出来たが、肝心なことを掴ませてくれない。

 用意周到というか、踊らされている気分だ。

 そのせいで最近コマチに会えていない。

 元々会わないつもりでいたのに、ピオニーのおっさんのせいで出会しちゃったもんだから、一度会っちゃうとまたコマチ成分を摂取したいというかだね? 身内の声を聞きたくなるんですわ。

 シャドー、いやGOロケット団とやらがいなければ、今頃コマチに会いに行けていただろうに。というか、こんな仕事すらなかったわけで、さっさとカロスに向かっていた可能性もある。あっちはあっちでやらなきゃいけないことがあるからな。

 

「くぁ………あー………」

 

 眠い。

 潜入して帰ってきてから、盗んできた資料に目を通さないとで、ここ最近は寝不足である。今もようやく一通り確認し終えたところで、今夜に備えてさっさと寝なければならない。

 ならないのだが、やはりふと思ってしまうのだ。

 俺は一体何をしているのだろうか、と。

 いつの間に俺はこんな社畜精神に呑み込まれてしまったのだろうか。寝不足になりながらも調べ物をして、調査は一向に終わりが見えてこないし、段々と嫌気が刺してきてしまっている。

 

「着信ロト」

 

 まあ、愚痴を溢せるくらいにはまだやれているのだから、それすらもなくなったらいよいよヤバいのだろう。

 あ、てかスマホに着信が入ったのか。

 頭回ってねぇな。ロトムがスマホに入ったおかけで、滅茶苦茶便利になったが、使う側がこれでは宝の持ち腐れになりそうだ。

 それに珍しいな、俺に着信なんて。

 もしかしてソニアか?

 

「………この番号………もしかしなくてもコマチのか?!」

 

 念のためにと番号を渡しておいたものの、一度も連絡がなかったというのに。

 自分たちじゃ調べられないこととか出来たとか?

 それともーーー。

 

「もしもし……コマチ………?」

 

 …………返事がない。

 えっ?

 まさかイタズラ電話?

 コマチが?

 

「おーい………」

『ハッ、今のを躱すか。流石あの野郎の妹と言ったところか』

 

 ッ!?

 この声………まさかっ?!

 ムカつくことに今ので一気に目が覚めた。

 ふざけんなよ、あいつら。

 俺が会えていないっていうのに、コマチに会ってんじゃねぇよ。マジぶっ殺す!

 

『あなたは………!』

 

 スマホをスピーカーモードにしてコートを手に取る。

 

『バシャーモ、ブレイズキック』

 

 ッ!?

 有無を言わずに攻撃かよ!

 コマチに手を出してんじゃねぇよ!

 

『カメくん、受け止めて!』

『ミミロップ、メガトンキック!』

 

 よかった、一応反撃するだけの余力はまだ残っているようだ。

 部屋から飛び出すとエレベーター………来るまで時間がかかりそうだな………くそっ。

 仕方ない、階段で降りるか。

 

『フーディン、サーナイト、サイコキネシス』

 

 バシャーモ、フーディン、サーナイト。

 間違いない。

 奴だ。コマチたちを襲っているのはジャキラだ。

 クソッたれが!

 

『ゴンくん、のしかかり! キーくん、アイアンテール!』

『ニョロボン、アクアブレイク! クロバット、クロスポイズン!』

 

 階段をドタドタと降りている間に頭の中で状況を並べてみるものの、音声だけが聞こえてくるだけなので、ジャキラがコマチとトツカを襲っていることくらいしか分からない。あとはバシャーモ、フーディン、サーナイトを出していて、サイコキネシスで何をしたかだ。

 ………分からん。

 

『フッ、咄嗟に取り返しに動けたのは褒めてやるが、所詮雑魚は雑魚か。トドゼルガ、ふぶき』

 

 取り返しに、ということはサイコキネシスで誰か捕らわれたってことか?!

 そして取り返すために動いたカビゴン、オノノクス、ニョロボン、クロバットを前にトドゼルガがふぶきで一網打尽にってとこか?

 オノノクスとクロバットなんか効果抜群だから、下手したら………だな。

 

『バシャーモ、インファイト』

 

 さらにバシャーモが追い討ちをかけに来たか。

 やはり戦い慣れている。

 コマチやトツカもトレーナーとしては結構成長してきているはずだが、あくまでもトレーナーとしてだ。ルールに則った上でのバトルでの話であり、こういう戦場においては、読みやすいだけだろう。しかも相手はあのジャキラだ。バトルの腕前も高ければ悪党としても慈悲がない。冷酷かつ残虐な男にとってはお遊びでしかないのかもしれない。

 

『野生のポケモンよりはいい働きをしそうだ』

 

 ようやく階段を降り切ってホテルから飛び出すと、クレセリアを出して急いで跨った。

 目立つとかそんなことを悠長に考えている暇はない。緊急事態なのだ。しかも場所が分かっていない。

 クソッ、どこにいるんだ!

 

「ロトム、発信元は辿れるか?」

「ヤッテミル」

 

 ロトムにコマチのスマホの位置情報を探してもらいつつ、取り敢えず空からナックルシティを出る。

 

『ダメ、コマチちゃん!? それ、スナッチだよ!』

『ふぇ………?』

 

 やっぱりか!

 あの野郎、コマチのポケモンたちをスナッチしてダーク化………シャドウ化させるつもりか!

 

『マッスグマ、ミサイルばり!』

「ワイルドエリア、ミロカロコフキン」

 

 おいおい、マジかよ。

 ワイルドエリアなのかよ。

 それでも大体の場所を特定出来ただけでも御の字か。

 

『ゴンくん!?』

「クレセリア、ミロカロ湖付近だ。飛ばせ」

 

 くそっ、そうこうしている内にカビゴンが狙われたらしい。

 

『あ、ぁぁ、ぁぁぁあああああああっ!』

『フーディン、サーナイト。そいつらを気絶させておけ』

 

 コマチの悲壮な叫び声がスピーカーから割れた音として響いていく。

 何だってコマチがこんな目に遭わなきゃならねぇんだよ。

 

『クーちゃん、メガシンカ!』

 

 コマチがクチートをメガシンカさせたようだ。

 頼むから、早まるなよ………。

 

『ハピナス、シャドーボール!』

『クーちゃん、プテくん! ストーンエッジ!』

『トドゼルガ、まもる。ヨノワール、シャドーパンチ』

『がッ……!?』

『トツカさん!?』

 

 今の苦しそうな声、トツカのか!?

 ヨノワールとかって言ってたし、背後から襲われた可能性があるな。

 

『逃げ……て………』

 

 僅かにトツカの掠れた声が聞こえてくる。

 

『バシャーモ、オーバーヒート。フーディン、サーナイト、サイコキネシス』

 

 そして爆発したような音が入り、再び音が割れた。

 

『キーくん!? アクアテール!』

『スカイアッパー』

 

 スカイアッパー………ってことはバシャーモがオノノクスの懐に潜り込んできたってところか。

 間に合わなければ、オノノクスが掬い上げられていることだろう。

 

『これでカメックス、ミミロップに続いてオノノクス、ニョロボン、クロバットも確保か。さあ、次はどいつだ?』

 

 今誰が残ってるんだ………?

 コマチのポケモンはカビゴン、カメックス、オノノクスは捕らえられたと思われる。そしてトツカの方も主力のミミロップにニョロボン、クロバットと半数が今スナッチされたのだろう。

 残るはプテラ、クチート、バチンキーで、トツカの方はハピナスとマッスグマがいるのは分かったが、残りの一体は何を連れているかだ。

 

『クーちゃん、グロウパンチ!』

 

 下を見れば、ようやくエンジンシティが見えてきたところだ。手前の橋を越えればようやく北側の半分を越えたことになる。

 

『フーディン、サーナイト、ネイティオ、サイコキネシスの重ねがけだ』

 

 うっわ、ネイティオまで出てきやがった。どんだけエスパータイプがいるんだよ。しかもその全員でクチートを押さえようってのか。

 

『マッスグマ、クチートにたいあたりでそこから出してあげて!』

 

 まさかの超念力で押さえつけられたクチートをマッスグマの体当たりで抜け出すって…………。

 

『逃げて、コマチ!』

『嫌です! トツカさんを置いてなんていけません! クーちゃん、メタルバースト! ノリくん、はっぱカッター!』

 

 トツカはとうとうコマチに逃げろと言い出したか。

 俺もこの場合ならそうするが、第三者からするとトツカも逃げて欲しいところである。

 とにかく今の俺としては早く到着して欲しい。

 

『プテラ、コマチを連れて逃げて! マンムー、10まんばりき! マッスグマ、アイアンテール!』

 

 遂にトツカが強硬手段に出た。

 残っているポケモンで一気に距離を取って逃げられるポケモンとなると空を飛べるプテラしかいないもんな。どうもトツカは今トゲキッスを預けているようだし。

 

『逃げろぉぉぉ!!』

『プ、ラァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 トツカの叫びにプテラも意を決したように雄叫びを上げた。

 くそっ、間に合わないかっ!

 

『クチー!』

『ンキ!?』

『ちょ、プテくん!? 離してっ?! トツカさんも一緒じゃなきゃ、ダメ……ダメぇぇぇっ!!』

 

 段々と消えていくコマチの必死な泣き声。

 

『う、うぁぁぁああああああああああああああああっっっ!!!』

 

 泣き叫ぶ声だけがスマホに木霊していった。

 クソッたれが!

 とにかく今は現場に残ったトツカを助けねぇと。

 だが、無慈悲にもまだエンジンシティを越せていない。

 

『フン、逃げられたか。まあいい。こちらとしてはただの余興でしかない。失敗した時の保険といったところなのだ。あの男を殺すためのな』

 

 コマチを深追いする気はないようだ。

 だが、この口振り。恐らく俺のことを想起しているのだろう。あの襲撃が失敗に終われば、コマチを人質に俺を呼びつけて確実に殺す算段なのだろう。

 ふざけんな。

 殺したければ正々堂々と俺を直で殺しに来ればいい。

 それくらいなら相手してやる。

 

『貴様はまだ生かしておく。アレは必ず助けに来るだろうからな。それまで貴様は人質だ。精々獲物を呼び寄せる供物として役に立ってみせろ』

『あなた………の……思い通りに、なんか………させない。すぐに………僕たちの仲間が…………あなたたちを倒しに来るっ』

『フッ、来られればの話だな。バシャーモ、気絶させろ』

 

 そこから先は物音がしなくなった。

 通話が切れたというよりはその場から誰もいなくなったようで………。

 仕方なく、こちらから通話をオフにする。

 

「ロトム、今の音声全てを保存することは可能か?」

「………ムリ」

「そうか………」

 

 こんなことなら録音しながらにしておくんだった。

 いや、というかそもそも最初からこんなことになるだなんて知っていれば、もっとやりようはあったはずだ。

 クソッ、ガラルにいながら妹一人も守れてねぇじゃねぇか。俺は何のためにガラルにいるんだよ。

 それから五分くらいしてようやくミロカロ湖上空に到着。だが、その時にはもう既にもぬけの殻になっていた。

 

「はぁ………はぁ…………くそっ……!」

 

 最近激しく争った感じに地面が抉れているところに着陸すると、クレセリアから降りて辺りを探してみる。

 だが、やはり人間はおろか、野生のポケモンすらいない。

 俺の身体も風圧を耐え忍んでいたため、ようやく息が吸いやすくなったかと思うと、俺の身体が思いっきり酸素を欲しがっていたのか、必死に取り込もうと呼吸が荒くなっていく。

 膝もガクガクだ。

 それでも立ち止まる理由にはならない。

 

「ロトム、コマチの番号にかけてみてくれ」

 

 少しでも手掛かりを手に入れるべく、ロトムにコマチの落としたであろうスマホへとコールしてもらう。

 すると少し離れたところから着信音が………。

 ダメ元でその音の方へと近づいていく。

 

「これは………コマチのスマホ………!」

 

 草の中に隠れるように落ちていたのは、一台のスマホ。そして、着信音が鳴っているということはコマチのスマホで間違いなさそうである。

 あ、ちゃんと俺のことを『ハチさん』って登録されてる。

 

「ウルガモス、上空からコマチやトツカと思しき人を探してくれ」

「モス」

 

 再度上空からも念のために確認してもらう。

 クレセリアには一旦戻ってもらうとするか。目立つし。

 

「クレセリア、ここまでありがとな。一旦戻っててくれ」

 

 さて、どうするか。

 今のところコマチのスマホしかない。それだけでもここで襲われたのは確実だ。

 

「モス………」

「そうか…………」

 

 いなかったと首を横に振るウルガモス。

 こうもあっさりいなくなるということは陸路での移動ではなさそうだな。

 水路は以ての外。

 となると空路しかないわけで。

 

「…………いや、ボルグはテレポートで逃げていたから、そっちもあるわけか」

 

 音がなくなったのも一瞬にして立ち去ったと考えれば辻褄も合う。何ならジャキラの手持ちには三体もエスパータイプがいたのだ。特にフーディンなんて進化前のケーシィがテレポートをよく使うのだから、この線が一番濃厚な気がしてきた。

 

「クソッ!」

 

 打つ手無し。

 その言葉が頭を過ぎる。

 ここまで来てどうしようもなくなるとか、最悪にも程がある。何のために今まで情報を集めてきたのかも分からないし、そもそも俺が過去に飛ばされて迎えが一向に来ない意味が、コマチを助けるためだったのなら尚更俺の失態でしかない。

 ……………………もう、一人では限界か。

 

「ロトム、カブさんにかけてくれ」

 

 誰を頼ると思った時に真っ先にカブさんの顔が浮かんだ。カブさんなら何かこの状況を打破する一手になり得ることをしてくれそうで、今はそれに縋るしかない。

 

『もしもし、ハチ君かい? どうしたの?』

 

 いつもと変わらない声に少し安心を覚える。

 

「………コマチとトツカが襲われた」

『なんだって!?』

「電話越しでしか状況が読めてないんですけど、トツカが身を呈して守り、コマチを逃したと思われます。そして、今ワイルドエリアでコマチのスマホを発見したんですけど、誰もいなかった。なので、トツカはそのまま連れていかれたものと」

 

 事の次第を説明している間、驚きつつも静かに聞いてくれるだけで、落ち着きを取り戻していく感覚になる。

 

『分かった。こちらで被害届と捜索願いを出しておくよ。それとピオニー君も狩り出そう。明確にコマチ君たちの顔を覚えているのは、ピオニー君とシャクヤ君くらいだからね。他にも知ってそうな人たちには声をかけておくよ。だから………無茶はしちゃダメだよ』

「うす………」

 

 ピオニーのおっさんを巻き込んでも心は痛まないが、シャクヤともなるとこんなことに巻き込んでもいいのかという葛藤が生まれてくる。だが、事情を知ってしまえばあの子も手伝うと聞かなくなるだろう。そういう頑固なところは血が繋がってるんだよな。

 

「…………っ、だぁぁぁもう腹が立つ! 次から次へと問題が起きやがって! 俺が何をしたって言うんだ! 俺の人生こんなんばっかじゃねぇか! ふざけんな! もっと平和に平穏に暮らさせろよ! クソ想像神が!」

 

 叫ばずにはやってられない!

 昔は俺一人、あるいはユキノやザイモクザがちょろっと関わってくるくらいだったのに、大事なもんが増えちまったばっかりに、巻き込まれる人数も増えてくる。しかもそれが同時多発に起こってしまえば、俺にはどうしようもなくなってしまう。

 それでももう手放すなんてことが考えられない。考えられないんだよ………。

 それなのに俺に選べっていうのかよ。

 選んで片方を助けて片方を傷つけて。

 そもそも現状助けられるのかも怪しいし、両方とも取りこぼす可能性だってあるんだ。

 

「……………誰かーーー」

 

 助けてくれ、と言いそうになるのをぎゅっと我慢する。

 代わりに足の力が抜けてドサッと地面に寝転がる。

 これまで色々耐えてきたけれど。

 流石に今回のは無理だ。

 耐え切れる自信がない。

 本当、誰か。

 俺を元の生活に戻してくれ…………。

 

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