「先に言っておくとお前が襲われた時の映像が部分的にだが、野次馬たちに撮られていたようで、ネットで出回っていた。だからオレもお前の襲撃された時のことは音声なりとも確認している」
お互いがお互いに漏らした新事実に言葉を失ってしまったが、まずはお互いの情報を整理していくことにした。
そして、ククイ博士からは前置きとして俺がミアレシティで襲撃された際の映像が野次馬たちによって撮られており、それがネットに出回っているという。
「そうか………。俺が襲われたのはカントーでの会議からの帰還時だ。ミアレシティに着いて、飛行場から外に出てしばらくといったところか。だからイロハもプラターヌ博士もあの場にいた」
それに確かユキノたちが俺が死亡したと発表しているのも知っているとか言ってたんだし、この事件を全く知らないってことはないのだろう。
「最初は敵意に気づいたゲッコウガが反応して、敵方のゲッコウガとバトルになったんだ。そこからだな。大衆の中から次々とポケモンが押し寄せて来て、対処しているところに背後から刃物か何かで背中を刺された。その後、イロハを狙うようにして触手が飛び出してきて、俺はイロハを突き飛ばすと腹にザックリとやられたんだ。んで、流石に死を感じて咄嗟にウツロイドを召喚したら、案の定呑み込まれて何かに引っ張られるようにして破れた世界に連れていかれたわけだ」
「………まずは計画的犯行といったところだろうな。しかもハチマンがカントーから帰ってくるタイミングを知っていた人物の犯行」
まあ、そう考えるのが妥当だよな。
でも、俺の予想が正しければ『人』以外にも関与しているはずだ。そして、そいつが俺の帰還のタイミングを流していたと言っていいだろう。
「概ねオレの知っている内容だな。ただ、ウツロイドに関してはまだ情報を大っぴらに公表してないからな。謎の生物に人間が呑み込まれた事件ってことになっている」
あれ、まだ公表してなかったのか?
やはり危険性が高いからか?
情報を悪用してウルトラビーストを召喚しようとしかねない輩が出てこないとも限らない。
「そういうことなら、そうなるでしょうね。目の前で人間が呑み込まれるなんて珍事件でしかない。そりゃネットにも動画がアップされるわな」
そして一度アップされてしまえば、削除したところで完全には消えはしない。どこかのアホがまたアップしてしまうのだろう。だから、あいつらは放置しているのかもしれない。映像を見たところで俺がウツロイドに呑み込まれて空に出来た穴に引き込まれたという事実は変わらないわけだし。
「やけに冷静ね」
「まあ、慣れってやつですかね」
淡々と情報を整理していると、肌黒のお姉さんに驚かれてしまった。
そんなに焦らないとダメか?
「なあ、兄ちゃん。おじさんの古巣にハンサムって男がいるんだけどな? そいつから忠犬ハチ公やら黒の撥号やらって名前の奴の話を聞かされたことがあるのよ。その二人の様相がどうも兄ちゃんに似てるんだわ。その辺、何か知ってたりするのかい?」
おおう?
古巣にハンサムって、まさか元国際警察の人?!
「………えっと、元国際警察ってことでいいんですかね」
「ああ、クチナシってんだ。よろしくな、兄ちゃん」
「………黒の撥号とやらは今のところ聞き覚えがないですね。忠犬ハチ公はカントーポケモン協会理事の懐刀でしょ」
「ほう、知ってるのか」
「そりゃ、まあ。てか、調べれば出てくるでしょうに、そっちは」
「おじさん、ネット使えないんだわ」
「マジすか………」
本当に島なのね。
てか、ククイ博士たちの方が珍しいってことなのか?
何ならこのエーテル財団も珍しい部類に位置するのか?
分かんねぇな、群島地方のことは。
「その、忠犬ハチ公って人? はどういう人なの?」
横からムーンが忠犬ハチ公について尋ねてきた。それに同意するように何人かも首を縦に振っている。
まあ、知らないよな。元国際警察のおじさんがこれなんだし。
「ん? ああ、ロケット団って知ってるか?」
「ええ、まあ。カントー地方を拠点に悪事を働いてきた大組織よね」
「そうそう。そのロケット団のボス、サカキが姿を消している間にポケモン協会主導でロケット残党の殲滅作戦があったんだ。んで、その殲滅作戦において暴れ回ったとされているのが、その忠犬ハチ公ってわけだ」
「へぇ、そんなにすごかったんですか?」
「いや? 実際にはそんなに暴れ回った記憶はないんだが、あちらさんがあまりにも恐怖心を抱いて絶叫するわ気絶するわで、実話に尾鰭背鰭が付いていった結果、危険人物が出来上がってしまったってだけだ」
「へぇ………詳しいんですね」
「そりゃ、本人だし」
「……………ヒドイデの毒とベトベトンの毒、どちらがお好みですか?」
「ウツロイドの毒で間に合ってるんで結構です」
怖いよ怖い。超怖い。何が怖いって目に光のない笑顔で両手にヒドイデとベトベトンと思しきボールを構えて、今にも襲いかかって来そうってのがさらに怖い。
この子、ほんとに大丈夫なのか?
「ポチャ?」
「お前のトレーナーは時に容赦なさそうだなー」
「ポッチャマ!」
いや褒めてないから。
というかこの子、いつまで俺の膝の上で寛ぐつもりなのだろうか。
「えと、つまりどういうことなのじゃ?」
ポッチャマの両脇に手を入れて抱き上げムーンに返すと、初めての声が飛んできた。
あ、なんかムーンくらいのもいるわ。あの子も権力者なのん?
「つまり忠犬ハチ公ってのは兄ちゃんで、ロケット団相手に暴れたってことだろ?」
「ええ、まあ」
「何でまた忠犬ハチ公なんだ?」
「何でだっけ………? 本名で動きたくないからとかで名前を隠すのに新しい名前を勝手につけられたんだったっけな。なんかそんな感じだったはずです」
「なかなかいいセンスしてんじゃないの。おじさん、好きだせ」
「ははは、そりゃどうも」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるクチナシおじさん。俺もこのおじさん好きだわ。
でも、おじさんに褒められてもね………。
「やっぱりとんでもない男だな」
「何を今更。そもそもこんな若造がカロスのポケモン協会トップとかいう時点で何かあるって分かるでしょうに」
「お前な………。恐ろしくて調べたくもないって」
「ああ、そういえばポケモンリーグはどうなったんだ?」
「それなら問題ない。ここには既に四天王が二人いらっしゃる」
「夢が叶って何よりっすね」
「ハチマンのおかげだぞ?」
「それはアンタが引き当てた運に過ぎないだろ。俺は何もしていない」
カントーの理事に客人が二人いるぞって言ってやっただけだし。俺もあの時はそれどころではなかったしなー。そんな時の俺に出会したんだから、単純にこの人の運だと思う。
「改めて。アローラポケモンリーグ四天王が一人、ハラですぞ」
「同じくライチよ」
「………ということは残り二人は四天王にならなかったんですか?」
「おじさん、そういうの苦手だからよ。若いのに譲った」
「わしはまだ島クイーンになったばかりじゃからな。未熟なわしでは四天王など務まらん」
なるほどね。
クチナシさんとおさげの女の子は辞退したのか。
まあ、チャンピオンや四天王ともなると超実力主義だからな。経験がなさすぎるのでは挑戦者の壁役として意味がない。となると他にもこのアローラ地方には実力者がいるということだ。
「ちなみにチャンピオンは?」
「まだいない状態だ」
「わしは是非ともククイ博士に務めてほしいものだがな」
「わたしもククイ博士に初代チャンピオンを就任してほしいのだけれど」
「オレは創設者で、運営側の人間だから流石にな」
チャンピオンとしての実力があるのは否定しないんだな………。
ハラさんとライチさんはククイ博士推しと………何だよ、その目は。何を期待している。
「…………俺は無理だからな。仮にも死人なんだろ? 流石に死人に出る幕はないだろうに」
「………だよなー。ムーンは?」
「バトルの実力はそこまでないので無理です。それに私はルザミーネさんの治療やエーテルパラダイスの手伝いをしに、アローラ地方に移住して来た身なので。それよりも運び屋さんの方が適任なのでは?」
「そっちも運び屋の仕事で忙しいからやらないってさ。こんな感じで適任者を探しては断られ続けてるんだよ」
なんつー人材不足な地方なんだよ。どこ行った実力者!
ククイ博士もポケモンリーグを創設するならそこも考えておけよって感じだ。まあ、四天王を集めるだけで一苦労だったんだろうけども。
なら、尚更この人には創設者としての役割を果たしてもらうべきなんじゃねぇの?
「リーグ優勝者が四天王に挑み現チャンピオンを倒せば新チャンピオンとなるってのが通例だ。でも初代チャンピオンに関してはそれが通せない。だから、四天王を倒す奴が出てくるまで、ククイ博士が暫定チャンピオン、ゼロ代目のチャンピオンになればいいんじゃね?」
「ゼロ代目?」
「四天王に勝てば初代は決まる。だが、試合数が違うから最後にエキシビジョンマッチでもすればいいだろ。そのためのゼロ代目のチャンピオンってことにしておけば丸く収まるんじゃねーの? 知らんけど」
後世のためにも不公平感は失くすに越したことはない。試合数を揃えるためには四天王を倒した後でもう一戦必要となってくる。そこを博士が務めれば丸く収まると思うんだがな。
「ということらしいぜ、ククイ博士」
「ククイ君」
「ハハ、こりゃ参ったぜ………。分かりました。初回はそういう演出ってことにしましょう」
ハラさんと元国際警察のおじさんに促されて、渋々といった感じでゼロ代目を担う決意をした。
「悪知恵が働くのね」
「悪知恵というよりは逃げ道を塞いだという感じだったがな。それにしてもハチマン、やけに詳しいな」
ムーンもグラジオも人聞きが悪いからやめようね。俺はただ話を聞いて提案しただけだから。
「一応カロスポケモン協会のトップだからな。あ、もう死んだことになってるから最早過去の話か」
「………全然そうは見えないわ」
「うっせ。自覚はあるっつの」
トップの器じゃないとかイメージに全くないとか言いたいんだろ。
そんなもん俺が一番分かってるっつの。
「んで? 話が大分逸れたが、破れた世界ってのはどういうことなんだ?」
「あ、ようやく話を戻すのね。てっきり忘れ去られたもんだと思ってたわ」
ククイ博士がようやく脱線した車輪を戻して来た。
こんなことでは今日中に話終えられるのだろうか心配だ。
「ウツロイド共々破れた世界に引き込んだのが、ダークライってポケモンだったんだよ。そいつは俺のポケモンの中でも最古参組に入る奴で、カロスでのある事件で力を失って消えていったんだ」
「ん? お前のポケモンは昔はリザードンだけだったんじゃないのか?」
「ボールに収めないと自分の仲間とは言っていけないなんてことはないでしょ」
「それはそうだが………。野生でダークライを仲間にするとか普通は考えもつかんだろ」
「俺は奴と契約したんでね。だから陰ながら俺のことを守ってくれてるんすよ」
そもそも契約当時の俺はダークライというポケモンを全く知らなかったんだ。だから先入観もなければ偏見もない。しかも力に飢えていた時期だから契約もしやすかっただろう。
後に調べてダークライの詳細を知ったが、結局は偏見混ざりの外的印象しか書かれていないイメージだった。奴らも等しくポケモンであり、感情を有する生き物だ。内面も見ろやと声を大にして言ってやりたいと思ったこともある。
「ダークライってシンオウ地方に言い伝えが残されているポケモンですよね。悪夢を見せるとかなんとか」
「ムーン、知ってるのか?」
「ええ、これでもシンオウ出身なので」
こいつシンオウ出身だったのか。
移住して来たとか言ってたもんな。
「お前、シンオウ出身だったのかよ。あー、だからポッチャマか」
目が覚めてから初めて見たポケモンがアローラのイメージがないポッチャマだったからな。気にはなっていたが、一つ謎が解けたわ。
「ええ、それで大丈夫なんですか? その、悪夢とか………」
「………見てないな。差し出したのが俺の記憶だからか? 夢を見るのは記憶の整理をしている最中って時だから、案外的を射た契約だったのかもな」
「記憶を差し出した………?」
「まあ、色々とあるんだよ。俺たちにも」
そうか、ダークライとの契約内容が俺の記憶を差し出す代わりに力を貸せってものだから、記憶を失くせば夢を見ることもなくなる。だから俺はダークライのパッシブスキルにも対処出来ていたわけだ。偶然とはいえ面白おかしい話だわ。
「それでまあ話を戻すと、破れた世界からすぐに元の世界に戻ったとしてもリザードンたちとは逸れて、ついて来てしまったサーナイト以外の戦力を失ってるから、唯一の戦力であるサーナイトを鍛えることにしたんだ」
今頃、あいつらはどうしてるんだろうね。
俺は死亡したことになっているみたいだから、あいつらの処遇も気になるところだ。
「それが戻って来てみれば半年後。しかも死亡判定。だから正直なところ、俺の予想が外れまくりで意気消沈の真っ最中だ。最初から終わってるとか手の施しようがなさすぎるだろ」
そしてジュカイン。
探そうとした矢先に俺も世界を去ったからな。しかも戻って来たら半年も経過しているとか、本当にジュカインには申し訳ないとしか言いようがない。
あいつ、待っててくれてるのだろうか。だとするとそこも早く解決しないと………。
「やはりボールからポケモンを出さなくて正解だったな。何か嫌な予感はしていたんだ。それにウツロイドのこともある。下手にボールは開けられんと判断しておいてよかったぜ」
他二つも開けてないとか言ってたもんな。
クレセリアもいることは黙ってるべきか………?
「それにしても兄ちゃん、よく破れた世界から戻って来れたな」
「ギラティナに追い返されたんですよ。お前はまだ死んでないだろって」
「ギラティナがか? おじさんの古巣にすらそんな記載はなかったと思うんだがな………」
「あなた、何者?」
「さあな。俺は俺だ。人だろうがポケモンだろうが生きていようが死んでいようが、そこだけは変わらない」
「それ、暗に自分は人間ではありませんって言ってるようなものではないか?」
痛いところを突くなよ。
俺だって最早自分の身体が真人間なのかどうか怪しくなってるんだからさ。
「ウツロイドに寄生されても無事だったり、破れた世界から普通にでもないが帰って来られた人間がお前らと同じ人間だと思えるか?」
「オレからすれば、既に人間の域を超えてると認識してたからなー。今更じゃないか?」
「それはそれで腹立つな………」
酷い認識だこと。
いや、いいんだけどさ。同意を求めたのは俺なんだし。
でもなぁ、なんだかなぁ………。
「………あ、そうだ。グラジオ、お前の母親がウツロイドに寄生されてどうのこうのって言ってたよな」
ぐるりと集まった人の顔を見てグラジオに行きつくと、寝たきりの時に話していたことを思い出した。
「覚えていてくれたんだな。ああ、その通りだ。母さんはウツロイドを始めとするウルトラビーストに魅入られて、ウルトラビーストの楽園を作るも、ウツロイドに寄生されたんだ。一応ウツロイドからは解放されたんだが、昏睡状態のままが続き、妹がカントー地方のマサキという男のところへ連れて行った、というのが事の流れだ」
ああ、なんか聞いたことあるわ。ウルトラビーストの楽園って表現。
楽園というより魔境でしょ。
それでウツロイドに寄生されて昏睡状態ままってか。まさに因果応報じゃねぇか。
「妹のリーリエからは未だ良い返事は返って来ていない。だから母さんと同じ状態であったのに、意識をはっきりとさせた状態で目覚めたハチマンに話を聞きたいんだ」
まあ、あの人から直接聞いた話では偶然そうなってしまったらしいからな。けど、あの人の場合はガッチャンコした手順を逆に踏んで元に戻れたみたいだし、今回のケースではあの人にも難しいのだろう。
「なるほど、何となく状況は理解した。マサキって男の例と今回のケースは方法が異なる。だから、あの人にも解決は難しいのだろう」
「マサキという男を知っているのか?」
「まあな。昔、あの人からデボンコーポレーション製のポケナビをもらってから、知らない仲ではなくなった」
最初は胡散臭さが際立っていたけど、割といい人だったんだよな。ポケナビのマップにはお世話になりました。
「ハチマン、そういうところあるよな」
「偶々だ、偶々」
そういうアンタとの出会いも偶々でしょうに。
……………あ、そういえばあの時の相方さんは?
今日は呼んでないんだな。
「話を戻すと、今回のケースはウツロイドが鍵となる。ククイ博士、ウツロイドの詳しい情報って今出せたりします?」
「ああ、ちょっと待ってくれよ。…………と、これだな」
持ち合わせていたタブレットを操作して、ウツロイドに関してまとめた記事を出してくれた。
そこに書かれているのはいつぞやの会議の時の内容と同じようなことである。
「グラジオ、お前の母親はウツロイドに寄生されてから自我を保っていたか?」
「それに関してはわたしが答えるわ」
え………?
何故にムーン?
「わたしはルザミーネさんがウツロイドに寄生される瞬間に立ち会いました。正直、その時のルザミーネさんは既におかしくなっていたので、ウツロイドに寄生されてからも自我を保っていたと表現してもいいのか怪しいところです。ただ、会話は成り立っていました」
…………最初から精神障害を患っていたってことか?
そんな人がウツロイドに寄生されたら…………うん、ヤバいとしか言いようがないな。それにムーンの言う通り、自我を保っているのか判断も難しいか。
「…………ん? 場所は?」
「ウルトラメガロポリスです」
「え、どこよ、それ。なんか聞いたことがあるような気もしないこともないんだが………」
「ウルトラホールの先にあるあちら側の世界だ。あちら側の人間も住んでいる」
あ、うん、なんか思い出して来たわ。あちら側に人間がいるとか何とか言ってたような気もする。
…………となると、そこはグラジオの母親ーールザミーネさんとやらも行くことが出来た場所ってことか。
「今も行き来は出来るのか?」
「ソルガレオやルナアーラにお願いすればいけるぞ」
「………兄ちゃん、もしかしてウルトラメガロポリスに行こうって言うのかい?」
「いや、行きませんよ。ただ、俺はこっちでウツロイドに寄生されたから、ルザミーネさんとやらとの違いの一つではあるなと」
「ハチマン君とルザミーネさんとの違いですか………」
「あ、あとウツロイドの形状が変わりました! メノクラゲがドククラゲに進化したみたいな! あんな感じに!」
形状の変化か。しかもメノクラゲからドククラゲというと…………一つ俺にも心当たりがあるな。
強化版ウツロイドというか、俺もウツロイドの身体が大きくなったのは覚えている。
それにしても的確な表現だな。メノクラゲからドククラゲに進化って。
「俺もあるぞ、それは。ただ、それはウツロイドが俺に寄生した状態での戦闘態勢だと思っていたが………」
「ルザミーネさんもその姿になると攻撃してくるようになりました」
「となると、そこは同じみたいだな。あとは寄生主の精神状態に左右されるってところか」
「………ウルトラルザミーネ………………ウルトラハチマン?」
「おい、待てムーン。それ以上は言うなよ。略したりした時にはその口に詰め物するからな」
やめろくださいお願いします。
マジでその先を言ったら、ヒトデマンみたいな声を出さないといけなくなるから。
「その状態で言われてもねぇ………」
「そう言うのならポッチャマをどうにかしてくれ」
本当にこの子何なんでしょうね。
さっきから人の膝で寛ぐわ飽きたら俺の頭に登ろうとするわ登ったら登ったで超首が痛いわ。
「いいじゃないですか。あなたのことが気に入ったみたいですよ?」
「去年のことを思い出すからマジでやめさせてくれ………」
ケロマツさんを思い出すからね。
マジでこの子取って………。
「…………はぁ、仕方ないですね。ポッチャマ、こっちにおいで。そのお兄さんは鬼いさんだから」
そう言うとポッチャマを抱き上げるムーン。
あなた一言多いのよ、さっきから。何ノシタさんなの?
「ねぇ、ちょっとムーンさん? 今何かおかしなこと言わなかったか?」
「いいえ、別に。特におかしなことを言ったつもりはありませんよ?」
うー、首痛ぇ………。
軽くなったけど、超痛い。新たな怪我扱いとかにならない?
ならないよな。
はあ、まあいいや。
話をまとめると、結局俺とルザミーネさんを比較したところでこれだというものは未だ出てきていないな。
「………となると、やはり考えられるのはウツロイドの毒だろうな。俺は刺された痛覚を麻痺させるためにウツロイドに毒を注入されていた。だけど、今ではこの通りだ。下半身はまだ回復していないが、動かないわけではない」
「色々と驚愕する内容だけれど、ウツロイドの毒が麻酔になったということですね」
「ああ」
「そして今は麻酔切れの時期だと」
「そういうことだろうな」
「では、ルザミーネさんの場合の説明は?」
「麻酔目的ではないから過量の毒を服毒したというのが無難な説明じゃないか?」
でなければ昏睡状態に至る説明がつかない。
俺が普通の人間ではないとか言われたら説明もクソもなくなるから、そこは指摘するなよ。
「ということはルザミーネさんの体内からウツロイドの毒を抜き切れば回復する可能性はあるということですね」
淡々と話をまとめていくムーン。
この子、大人を差し置いて話の主導権取っちゃってるよ。ちょっと大物過ぎない? 島キングとか島クイーンの威厳って大丈夫なのん?
「可能性の一つではある。毒を抜くだけなら危険性はないはずだ」
「そうですね。毒を『抜く』だけならば」
「………何か含みのある言い方だな」
妙に『抜く』という単語を強調したムーンに、グラジオが訝しんでいる。
これ、誰も話について来れてなかったりしない?
特に小さい島クイーンとか。
「毒を抜くにしてもその毒の成分が分からなければ話にならないわ」
「そういうことだ。そこで出番なのがミス・ポイズンだろ?」
「言うと思いました。あなたもそんな提案をするということは協力してくれるということですよね?」
「ウツロイドの了解が得られれば毒の提供くらいならな」
いい笑顔だこと。
これ絶対心の中で断ったらヒドイデの毒とベトベトンの毒の合わせ盛りだからなって言ってるだろ。
その歳でそんな脅し方を覚えるのは教育によくないと思うぞ!
「分かりました。毒の分析と抜く方法はこちらで検討しますので、それでお願いします」
本当にこの子の将来が楽しみだわ。
絶対大物になるだろ。
「ええと………ハチマンもムーンも協力してくれるということでいいのか?」
「「微力ながら」」
おい、そこで被せるなよ。
さっきからククイ博士の笑顔が気持ち悪いんだよ。なんか一人だけニヤついてんの。ウザイ博士に改名してしまえ!
「恩に着る!」
グラジオ(と視界の端で待機しながら話を聞いていたビッケさん)だけは涙ながらに頭を下げてくれた。
こうまでされては俺もウツロイドとちゃんと交渉しないとな。