ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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117話

 あれからどうしていたのかも覚えていない。

 寝たのかどうかさえも記憶がない。

 ただただ必死にコマチを探してたり、奴らの潜伏先を洗い出していたのだとは思うのだが、我に返ったのはロトムに「着信」と言われた時だった。

 

「もしもし………」

『今ピオニー君から連絡があって、コマチ君を発見したって』

「っ………!?」

 

 突然の報告に言葉が出なかった。

 見つかった………?

 

『特に大きな外傷はないみたいだけど、発見した場所が場所だったから、今すぐに向かうのは危険だって言われたよ』

 

 見つかったのか………。

 それにちゃんとコマチは生きているんだな。

 ようやくカブさんの言葉を呑み込めたことで、やっと事態を把握しようと頭が回転し出した。

 

「…………どこで見つけたんですか?」

 

 場所が場所、ということはどこか危険なエリアで見つかったのだろう。

 

『冠雪原』

「………はっ?」

 

 ただ、それは予想だにしていなかった場所であった。

 冠雪原。

 ジュカインがいた森よりもさらに南の雪原地帯。

 何だってそんな場所に……………まさかプテラが無我夢中で飛んでいったのが偶々冠雪原だったってことか?

 

『ダイオウドウを連れて探索していたら、偶々ダイオウドウの群れに出会して、案内されたらしいよ。どうやらダイオウドウの群れに保護されてたみたいだね』

「………何でまたダイオウドウたちが」

 

 場所も場所なら、保護してくれたのも特殊過ぎるだろ。

 何だってダイオウドウの群れなんかに………。

 

『さあ、そこまでは。取り敢えず、僕たちも明日向かおう。シャクヤ君にはコマチ君の着替えを用意してもらってるみたいだから、明日の朝エンジン駅で集合ってことでいいかな』

「無事………なんですよね」

『うん、今はピオニー君が借りているコテージで暖かくしているみたいだから、寒さに苦しんでいるってことはないよ。ああ見えてもピオニー君は探検家だからね。そういうのは僕たちよりも詳しいさ』

「そっすか……………」

 

 ダメだ。

 コマチが見つかったことに安堵したのか上手く身体に力が入らない。

 脱力したままその場に寝転んだ。

 

『君、アレから寝てないでしょ? 一応言っておくと一日経ったからね? 寝たら最悪なシーンが夢に出てきそうで寝れなかったとかなんだというのは想像つくよ。でももう大丈夫。だから今は一旦君も寝なさい。寝て元気になっておかないと酷い顔でコマチ君に会うことになるよ?』

「うす………」

 

 本当にお見通しみたいだな。

 カブさんには頭が上がらない。

 それに今回はピオニーのおっさんにも感謝しないと。

 

「あぁ………」

 

 よかった…………見つかった………見つかったんだな…………。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 気がつけば明け方だった。

 飛び起きると急いでホテルへと戻りシャワーを浴びてエンジン駅へと向かった。

 まさかカブさんからコマチが見つかった報告を受けたその場で、脱力してそのまま寝てしまうとか不用心にも程があるだろ。

 路地裏だったから、誰にも見つからなかったのだろうが、表通りだったら最悪病院送りになっていただろうからな。

 逆に路地裏だったから寝ている間に何か盗まれているかのうせいもあったが、特に重要なものも金目のものも盗まれていないため、本当に誰にも見つからなかったらしい。

 駅に着くと既にカブさんとシャクヤが待ち受けていた。

 

「遅い!」

 

 開口一番にシャクヤに怒られた。

 いや、時間的にはまだ余裕があると思うんだが………。

 だが、シャクヤの早る気持ちも理解出来る。

 俺だって本当ならさっさとコマチのところへ飛んでいきたいくらいだ。

 

「まあまあ、シャクヤ君。ハチ君はようやく眠れたのだろうから、余り怒らないであげて」

 

 カブさんに宥められて、ようやくシャクヤは矛先を下ろしてくれた。

 それからすぐに始発の電車に乗り込み、電車に揺られること約二時間。

 ようやく冠雪原駅へと到着。

 ここまでトンネルが多かったこともあり、駅を出ると見事なまでの雪原地帯だった。

 というか覚悟はしていたが、寒い。

 比較的寒い地方であるガラル地方でも特に冷え込み、ロングコートだけではヤバいかもしれない。

 カントーでもここまでの豪雪地帯なんてどこがあっただろうか。シロガネ山はジョウトだし、強いて言えばカロスのエイセツシティかな。俺の知ってる場所だと。

 

「てか、何で駅に雪だるま? 村の子供が作ったとか? 顔が上にも下にもあるようにみえるのウケるんだけど」

「あー…………あ、これヒヒダルマだね。しかも僕のヒヒダルマと同じダルマモードのだよ」

「マジで? 拝んどこ」

 

 そう言って両手を合わせてヒヒダルマを拝むシャクヤ。

 いや、普通に駅に来た人が少しでも気分が上がるように雪だるまを作ったのかと思えるような位置にいるんだけど。しかも微動だにしないから余計に雪だるまにしか見えない。

 

「さて、行こうか」

 

 カブさんに続いて俺たちも雪道を歩き出した。

 今日は晴れているからまだいいが、雪道初心者には結構足を取られるわ。しかも下り坂になっているため、滑りそうで怖い。これで雪が降ってたら遭難してる可能性もあり得る。

 それくらい雪道は危険が伴うと本能的に感じでしまう。

 駅からしばらく雪道をえっさほいさと歩き続けると集落が見えてきた。

 カブさんに視線で確認してみると、どうやらあの集落にコマチが保護されているらしい。

 シャクヤはそれが分かると一目散に雪道を走り出した。

 俺たちも慌てて追いかけるが、なかなかどうして雪道を走るとか、結構難しいわ。あいつ、何でそんなスタコラサッサと走れるんだろうか。しかもだ。今気づいたが、あいつコート羽織ってねぇんだけど。寒くねぇの?

 …………………ここに着いてからシャクヤの口から「寒い」に値する言葉を聞いてないな。

 シャクヤの意外な一面というか、ある意味ピオニーのおっさんの娘なんだと思い知らされる一面を目にして驚きつつもシャクヤを追いかけると、集落に入ってしばらくのところで足を止めた。

 

「ねぇ、なんか一軒だけダイオウドウたちに囲まれてね?」

 

 カブさんと二人で息を上げながら追いつくとシャクヤがある家を見つけて指差した。

 確かにダイオウドウに囲まれてるわ。

 何あの家。ペットとしてダイオウドウを飼ってるとか?

 いや、あるいはダイオウドウの牧場とか?

 

「ダイオウドウの群れに保護されてたって話だから、そういうことなんじゃない?」

 

 あーね。

 そんなことも言ってたね。

 …………えっ、まさか群れごと着いてきたってこと?

 マジで?

 

「ゾウ!」

「あ、ゾウドウだ」

「そりゃ、群れなんだから進化前もいるだろ」

 

 群れ一つがいるのだとしたら、そりゃ進化前のゾウドウだっているだろうよ。

 だが、そのゾウドウはシャクヤを見つけるとこっちに走ってきて、シャクヤに飛びついた。

 

「にしてはシャクヤ君、懐かれてない?」

「ゾウドウ…………あ、もしかしてワイルドエリアでコマチと仲良くなった子?!」

「ゾウ!」

 

 当たりらしい。

 は?

 そんな話聞いてないんだが?

 いやまあ、俺に話すようなことでもないし、ここ最近はアジトを特定するのに必死だったからそんな暇もなかったんだが。

 

「あ、開いてる!」

 

 玄関の扉を少し押すと動いたため、シャクヤは勢いよく開けた。

 その音に気付いたのか、ある部屋からピオニーのおっさんが出てくる。

 

「あ、オヤジ!」

「よう、シャクちゃん。着替えは持ってきてくれたか?」

「もちろん! コマチは?」

「この部屋だぜ」

 

 おっさんが指で出てきた部屋を指すとシャクヤは一目散に扉を開いて中へと入っていった。

 

「コマチ!」

「シャクヤちゃん………」

 

 ベッドの上で身体を起こしていたコマチにシャクヤはそのままぎゅっと抱きつき、力強く抱きしめる。

 羨ましい。俺もコマチを抱きしめたい。けど、まだ正体を明かしてないから今抱きしめるとただの変態になってしまう。

 自制………頑張って自制しろ、俺。

 

「オヤジに聞いてびっくりしたんだからね!」

「うん、ごめん………」

 

 ああ、コマチだわ。

 生きてるわ。

 よかった、本当によかった。

 

「………え? わぷっ」

 

 うん、無理でした。

 シャクヤがコマチから離れると身体が勝手にコマチを抱きしめていた。

 今、マジで無意識だったな。

 

「すまん、肝心な時に側にいてやれなくて。事情は電話越しに大体は察した」

 

 頭を撫でながらまずは謝った。

 折角俺もガラル地方にいて、偶然にもダンデのせいで接触することにもなったっていうのに、肝心な時に助けられないのでは意味がない。

 しかも今までコマチに被害が出ないようにという意識も持ちながら、奴らのアジトわわ探していたというのに、間に合わずにコマチとトツカが襲われてしまった。

 こんなの兄貴失格だわ。

 

「………コマチ、トツカさんやみんなを見捨てちゃった。コマチだけ逃げちゃった………。だからコマチのことはいいからみんなを助けて」

 

 するとコマチがぎゅっと抱きしめ返して泣き始めた。

 

「結局何があったんだい?」

「電話越しでの話だが、ワイルドエリアでコマチとトツカが何者かに襲われた。で、コマチの話から推測するにトツカとコマチのポケモンたちがコマチだけでもと逃した………違うか?」

 

 コマチは俺の胸に顔を埋めたまま黙って頷いた。

 そうか、やっぱりそういう感じの状況だったんだな。

 

「………ダークポケモン使ってた」

「「「ッ!?」」」

 

 やっぱりそうなんだな。

 だが、これで襲われた本人の口からハッキリとした証言を得られた。

 敵はシャドー。いや、サカキに罪を擦りつけようとする三流以下の悪党集団、GOロケット団だったか。

 

「………そうか。これで犯人の目星は付いた。あとはどこに潜んでいるかだ」

「ダークポケモンって、前にハチ君が言ってたやつかい?」

「ええ、オーレ地方ってところでシャドーって組織があったんですけど、どうやらそこの元幹部たちがガラルに潜んでるみたいなんですよね」

 

 どれだけ前から潜伏しているのかは分からないが、少なくとも去年には既に行動に移していたのは確かなので、準備期間とかも考えると一昨年にはいたのだろう。

 警察に捕まったはずなのにいつの間に脱走して新組織を立ち上げ、新たな力を開発して…………。

 どう考えても奴らだけでは出来ることではない。

 もっと後ろに大きな何かがあるように思えてくる。

 ジャキラたちでさえ表向きの集団であって、裏はもっととんでもない奴らが潜んでいるのかもしれない。

 

「そ、それは大問題じゃないか! 何で僕たちに教えてくれなかったんだい?」

 

 何でと言われれば、俺にも守秘義務があるからとしか言えない。

 ソニアにでさえ、踏み込んだら命の保証はないとおどしているくらいだ。

 治安維持も兼ねるジムリーダーたちに教えられるわけがない。というか壱号さんたちもちゃんと教えておいて欲しかったわ。

 

「既に国際警察が動いてます。確かガラルには『黒の撥号』ってのがいるんでしたよね? 一時期噂になっていた」

 

 仕方ないので、噂になっている国際警察に擦りつけておこう。

 まあ、俺のことなんだけども。

 

「いるらしいが、噂程度だぜ?」

「僕も明確な答えは持ち合わせていないね」

 

 取り敢えず、二人はその噂を知っているようなので話が早くて助かる。

 

「まあ、国際警察には連絡してあるし、それに相手はシャドーの元幹部たちだ。ジャキラって男は図体がデカい上に頭も切れる。しかも平気で人だろうがポケモンだろうが殺せるだろうな。そんなのが相手だという予想があった以上、下手に教えるわけにはいかなかったんすよ」

 

 コマチを抱きしめ、頭を撫で続けながら、国際警察ではない仮面のハチとして持っている情報ということで少しだけ開示しておくことにした。

 ここまで来たらこの二人も巻き込むしかない。そして巻き込んだ以上、少しは情報を伝えておかないと、カブさんたちも咄嗟の行動が出来ないだろうからな。

 

「君は何故そんなに詳しいんだい?」

「ちょっとした伝からですよ。だからこそ、自分の目で確かめないことには明確なことは言えなかったんです」

「それで前も訳知り顔だったってわけか………」

 

 いいよな、ちょっとした伝って言葉。

 それだけで誤魔化せるんだから。

 

「ところで、外にいたダイオウドウの群れは?」

「あ? ああ、あいつらは嬢ちゃんを保護してたみたいでな。オレもダイオウドウを連れていたからか、冠雪原で調査してたところを強引に連れて来られてな。それで嬢ちゃんを発見して今に至るってわけだ」

「そうか」

 

 話を変えるためにも外のダイオウドウたちのことを聞いてみると、やはりそういうことだったらしい。

 いや、マジで今回の功労者はあのダイオウドウの群れだな。

 あの群れがコマチを保護してくれたおかけでピオニーのおっさんに接触することが出来て、おっさんが保護することが出来たから俺も今ここにいるんだからな。

 ついでに群れごと着いてきたため家を囲んでしまっているが、言い換えれば厳重な守りで固められていることにもなる。

 そうなると後はコマチ自身の手札が必要になるか。

 プテラと誰かいるかどうかだろうからな。

 とは言え、俺のポケモンでコマチがあつかえそうなのっていうと…………まず伝説組は無理だろ。ジュカインも護衛としてはいいだろうが、今のコマチに指示出しは難しいか。サーナイトは多分俺から離れないだろうし、ガオガエンたちもコマチが知らないだろうから指示を出すのは無理か。

 知らなくても単純でこれさえ命令しておけばいいポケモンなんて…………いるな。

 

「コマチ、こいつを預けておく。手持ちになってからまだ一ヶ月も経ってないし、割と能天気な奴だから、好きに使ってやってくれ。こいつならエラがみ一つでどうにか出来るはずだ」

 

 癖はあるが、人懐っこい感じだし、エラがみの破壊力は満点だからな。それ以外は平凡だが、エラがみはそれを補って余りあるくらいだ。

 そして陸でも走れるから、身を守るには丁度いいのではないだろうか。

 それに、コマチも一度は目にしているから、知らないわけではない。

 

「頭の大きい子………ウオノラゴン……?」

 

 どうやら名前を記憶から絞り出したようだ。

 覚えてたんだな。

 

「ああ、他のは何というか一癖も二癖もあるような奴らばかりだからな。こいつも癖はあるが、エラがみとその他の技とで妙に威力や習熟度が違うっていうくらいの単調なものだ。お前でも指示は出来る」

 

 そう言ってコマチにウオノラゴンのボールを渡すと、コマチニウムを補充し終えたので身体を離した。

 さて、奴らを探し出すとするか。

 今回ばかりは手を緩めるつもりはない。コマチに手を出したんだ。どんな手段を使ってでも奴らは殺す。あるいは半殺しに留めて精神的に追い込む。

 

「あとは俺に任せろ。アジトを見つけ次第、徹底的に地獄を見せてくる」

 

 コマチにも宣言して、俺は部屋から出て、家からも出た。

 玄関前ではコマチと仲がいいらしいゾウドウが待ち受けており、「コマチを助けてくれてありがとな」と頭を撫でてから、来た道を引き返すことにした。

 すると集落を出ようとしたところで、背中がぶるりと震え、辺りを見渡す。

 何というか、何か気配を感じるというか。

 

「ーーーー」

 

 今度は何か呼ばれたような気がした。

 だが、耳を澄ませても何も聞こえない。

 まさか疲れで幻聴が聞こえるようになってしまったか?

 

「ッ!?」

 

 なんて考えていると目の前の空間がブレて、メブキジカのような顔に見えるポケモン? のシルエットが浮かび上がってくる。

 半透明というか透明なシルエットが見えるのだが、メブキジカみたいにしっかりとした身体ではなく、幼体のような身体で、しかしそれとは不釣り合いな程大きな王冠を被った感じと言えばいいのだろうか。

 取り敢えず、見たこともないポケモンというのだけはハッキリしているのだが、そもそもポケモンでいいんだよな?

 

「ーーーー」

 

 その頭でっかちメブキジカ擬きは着いてこいと言わんばかりに浮遊しながら移動し始めたので、勘を頼り俺は着いていくことにした。

 

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