頭でっかちメブキジカ擬きに着いて行くと、駅に向かう方向だった。
一体何があるというのだろうか。
登り坂の雪道にあくせくしていると、不意にメブキジカ擬きは岩壁の方へと向きを変えた。
お前は浮いているからいいけど、雪道を歩くこっちの身にもなってくれませんかね………。
道から外れると新雪で踏み均されてないから、固めながらじゃないと進めないんだけど。しかもそれはそれで疲れるし、慣れてないから上手くいかないし………。
「うわっ、雪入った」
遂に靴の中に雪が入ってしまった。
くっそ冷たい。
泣いていいかな。
「………この恨み、あいつらに全部支払ってもらうからな。覚えてろよ」
靴の中が冷たくなっていくのを我慢しながら歩き続けると、ようやく岩壁へと辿り着いた。
そんな距離でもないのにこの疲れ様。
慣れない奴が雪の上を歩くべきじゃないな。
メブキジカ擬きも浮いていられるなら、俺のことも浮かべてくれればよかったのに。
で、その岩壁に何があるんだという話であるが、あるにはあるみたいだわ。
洞窟………?
それにしては鉄の扉で閉ざされているんだが………?
それと入り口から少し離れたところにある雪だるまは何なのだろうか。駅といい、何かそういうのが流行っているのか?
「どう考えても人工的だよな」
雪だるまは無視するとして。
要するに、ここには何かがあると?
確認しようと振り返ると、既にメブキジカ擬きは消えていて、どこにも透明なシルエットが見えなくなっていた。
敵の罠かもしれないが、俺を罠に嵌めようとするのならば、その時点で後ろ暗いことがあると言っているようなものである。
取り敢えず、潜入するとしてどう入るかだな。
普通にこの鉄の扉を壊して入ってもいいが、全くの見当違いであれば、俺の方が不審者でしかない。
やはりここは黒いのの力を使って、陰の中から入っていくのが安全だろうな。
あっ、とその前に。
もしかしたら入れ違いで外に出てくる輩がいるかもしれない。それがもしあいつらだったら、取り押さえたいところなため、見張りを置いていった方がいいだろう。
メンバーはどうしようか。俺と一緒に潜入するのはダークライは必須、一応クレセリアもいた方がいいだろう。それと俺自身も身を守りながら戦えるウツロイドもいた方が何かあった時に動きやすい。そしてサーナイトは絶対着いてくるだろうし、戦力としても申し分ないため参加。あとは腕っぷし要因にガオガエンと、エンニュートも連れていこう。これも経験だ。
んで、見張り役はジュカインを筆頭にザルード、ウルガモス、ヤドラン、キングドラ、ドラミドロってところか。
「ジュカイン、ザルード、ウルガモス、ヤドラン、キングドラ、ドラミドロ。お前たちは外で見張りを頼む。崖の上にでもいてくれ。判断はジュカインに任せる」
「カイ」
ポケモンたちを出してそう指示すると、スタスタと崖の上を登っていくジュカインとザルード。その後を追うようにウルガモス、キングドラ、ドラミドロが続き、ヤドランはどうするのかと思えば、サイコキネシスを自身にかけて浮遊していった。
何となくで残ったメンバーであったが、全員崖の上に移動する方法は持っていたらしい。
なんてこった。
「よし、というわけで毎度お馴染み陰移動をオナシャス」
「ライ………」
メブキジカ擬きには逃げられてしまったため、確認のしようもないのだが、何となくあの頭でっかちを信じることにした。
まあ、勘だ勘。
ダークライが俺ごと陰に呑み込み、視界が一気に真っ黒になる。俺の先を行くダークライの案内の元、着いていくがどこをどう移動しているのかは分からない。
それがこの陰移動の特徴でもあるため、そこは別に問題ない。
「ライ」
そして、しばらくして立ち止まったダークライの合図で陰から出ると、ここは誰かの部屋、ってことでいいのだろうか。
部屋に誰もいないのか電気は消されている。だが、パソコンのいくつかあるモニターはついたままらしく、暗闇にブルーライトが怪しく光っている。
取り敢えずここにパソコンがあるのなら話は早い。
「ロトム、この施設の全データをコピーしてくれ」
指示を出すと俺のスマホから出てきたロトムは、手頃なパソコンに入っていった。
その間に俺も紙の資料とかがないか調べてみることにする。
この辺の作業は最近手慣れたものになってきたものだ。どこに何がありそうかの目星も付けられるようになってきているし、机の引き出しを開けて二重構造になってないかもちゃんと調べる。
…………………うん、あったわ。
一発目にして発見してしまった。
取り外したケースの下に一冊のファイルがあった。
「ボルグファイル」
何でこんな名前を付けたのかは分からないが、制作者はもちろんボルグだろう。
一体何が書かれているのやら………。
『残念。ハズレ』
それだけが書かれていた。
うるせぇよ。
あいつ、誰かが潜入して調べに来ると分かった上でこういう嫌がらせを作ったっていうのか?!
マジで性格悪すぎるだろ。
しかも分厚いくせに、その全てただのコピー用紙という無駄加減。
思わず放り投げそうなるものの、音を立ててはマズいと思いとどまる。恐らく、こうなることも込みでの嫌がらせだろう。
本当に腹が立つ。
他に何かないかと改めて部屋の中を物色していると、モニター画面が切り替わるのに目がいった。
ああ、これ監視カメラの映像かと理解したところである人物を発見してしまった。
「………トツカ!?」
そう、トツカである。
四肢を拘束されて壁に貼り付けられているその姿は、意識がなさそうに項垂れている。
「ダークライ、トツカのいる部屋を探してきてくれ」
「ライ」
怒りを抑えながらダークライに指示を出した。
陰に潜れるのはダークライだけなため、離れられると何かあった時に咄嗟に逃げることが出来なくなるが、手当たり次第俺が探すよりかは早く見つかるはずだ。それに何かあれば、その時はその時。暴れ回ってやろうじゃないの。
「ロトロト」
そして間も無く、ロトムがデータを収集してきてくれた。
「ロトム、データの中にシャドウポケモンに関するものはあるか?」
『アル』
スマホに戻ってきたロトムがピックアップした資料の一覧をスマホに表示してくる。
『リトレーン』
何となくリライブに似た単語を見つけたため、その資料を開いてみる。
『リトレーン』
我々シャドーがポケモンにダークオーラを付与した際にはまだダークポケモンからダークオーラを取り除く方法は確立されていなかった。だが、ある青年によりセレビィの力を使ったダークオーラを取り除く方法が確立され、我々はそれをリライブと呼称することにした。組織が一度目の崩壊を招いた後、我々は秘密裏にリライブの方法を調査し、それを基にさらにダークポケモンの制御を図って巻き返しを行い、それに成功。しかし、一度目の崩壊から五年後、組織が二度目の崩壊を招き、完全消滅。我々はシャドーの意志を継ぐため水面下でダークオーラの昇華とそれの制御を研究していった。
結果は成功し、名をシャドウポケモンと改め、同時にシャドウオーラを取り除く方法をリトレーンと呼称することにした。
以下には方法と材料を、また具体的にどのポケモンにどれくらい必要なのかを記しておく。
《リトレーンの方法》
リライブではダークポケモンを呼びかけ、正気を取り戻させ、最後にセレビィの力で浄化を行うが、リトレーンにおいてはポケモンごとに成分が異なる錠剤、通称ポケモンのアメとほしのすなが必要になってくる。
一例を挙げるとライボルトを完全にリトレーンするためには、ほしのすなが三千グラム、ラクライのアメが三個必要であった。ライボルトのアメと呼ばないのは進化前のラクライにおいても同様の成分・グラム数が必要であったため、分岐進化のことも考えると進化前のポケモンの呼称を用いることにしている。
そしてリトレーンしたポケモンについてはシャドウポケモンと対称的にするため、ライトポケモンと呼称することにした。
「………………オーラが変われば、除去する方法も変わってくるのか。しかもほしのすなって…………」
あの赤くて綺麗な砂のことだろ?
マニアックな人が集めているが、特にそれといった効能があるとされてこなかったあの砂が?
それでいて希少価値も高いみたいで、高値で取引されるという。
そんなのを一体のポケモンに対して三キログラムは必要とするってわけかよ。
しかも、だ。
下にスクロールしていくと、実験で確認出来たポケモンごとのほしのすなの量とアメの個数が記されているみたいだが、全てのポケモンが三キログラムに三個ってわけじゃなさそうだ。パッと見ただけでも一キログラムに一個のポケモンもいれば、五キログラムに五個のポケモンもいる。ということは十キログラムに十個のポケモンとかもいるということだろう。
数値の違いの理由が何なのかは書いていないが、違いがあるだけでもリトレーンの面倒臭さが伺える。幸いにして、種族ごとでの違いなのが救いってところか。
ポケモンごとに違っていたら、リトレーンするのに途方もない年月を要することになってしまう。それではポケモン側の負担がもの凄いことになり、最悪死に至る可能性もあるだろう。
そうなってしまっては本末転倒である。
救おうとしている命に先に逝かれてしまっては意味がない。
「ライ」
「見つけたか。案内してくれ」
リトレーンの方法を読み終えると、丁度ダークライが戻ってきたところだった。
どうやらトツカの場所を掴めたらしい。
陰移動でトツカのいる部屋へと案内してもらう。
「トツカ………!」
再び陰から出ると壁に四肢を拘束されたトツカの姿があった。
やはりあの監視カメラの映像は偽物ではなかったようだ。
胸に手を当て、心臓が動いているかを確認。ついでに鼻の下に指を添えると鼻息が指を掠めた。
よかった、心臓も動いているし息もある。
ところどころ怪我をしている、というかムチで打たれたような跡があるが、大怪我はしていない模様。
ただ、意識はない。
寝ているのか気絶しているのかは素人の俺では判断のしようがない。さっさとトツカを連れてここを出るとしよう。
「ガオガエン、トツカの鎖を壊してくれ」
「ガゥ」
ガオガエンをボールから出して、ガオガエンの馬鹿力で鎖を引きちぎらせ、ガオガエンの握力で拘束具を破壊していく。
うん、ガオガエンに取っては朝飯前だったか。
「よし、ガオガエンはそのまま………ん?」
するとトツカと壁の間から一つのボールが転がり落ちてきた。
「……………オノノクス?」
拾い上げて中を確認すると中身はオノノクスだった。
オノノクス、というとコマチの………コマチのオノノクスか?!
トツカが咄嗟に守っていた、とか?
分からん。分からんが、自己主張するようにオノノクスのボールが震える。
「ガオガエン、トツカを頼む。それとオノノクスのボールも」
「ガゥ」
トツカとオノノクスをガオガエンに預け、ダークライにあることを確認してみる。
「ダークライ、トツカの荷物とかはあるか?」
「ライ」
そっと差し出されたリュックはトツカのものと同じだった。
「ポケモンたちは?」
「ライ………」
念のためこちらも確認してみると、こっちは芳しくない返答だった。
これはコマチとトツカの、引いては囚われているポケモンたちを全員確保していかないといけないな。
「ロトー!」
「うわっ!? びっくりした………」
なんだよ、いきなり。
奇声を上げてどうしたんだよ、ロトム。
『ボクじゃない』
「ロトロト!」
あ、スマホにいる俺のロトムじゃないわ。
ということは新手のロトムってことか?
「何て言ってんだ?」
『お前ら、こいつの敵? 味方?』
なるほど………?
つまり、トツカを影ながら助けていた存在がいて、それがロトムだったということか。
何でこんなところにいるんだよ。
まあいい。トツカを助けてたんなら、こいつも連れていくか。
「味方だ。トツカを助けに来た。心配ならお前も着いてこい」
「ロトロト!」
紛らわしいので便宜上トツカのロトムということにしておくか。
「さて、お前たちにも一仕事してもらおうかな。サーナイト、エンニュート」
サーナイトとエンニュートを出すと、待ってましたと言わんばかりに俺に引っ付いてきた。
よしよしと頭を撫でてやると満足したのか、俺から離れて満足気な表情を浮かべている。
「さて、そんじゃ施設を破壊して出るぞ。ここは残しておいちゃマズい。サーナイト、エンニュート、思う存分やってくれ」
「サナ!」
「ニュー!」
新たに指示を出すと用のなくなったこの部屋を焼き尽くしていく。
シャドウポケモン製造機とかもあるかもしれないので、それらも全て破壊だな。
サーナイトがマジカルフレイムで、エンニュートがかえんほうしゃやヘドロばくだんで焼き払ったり溶かしたりして施設内を練り歩き続ける。
途中でスナッチマシンを見つけ、掻っ払って行ったりしたものの、下っ端は都度気絶させて黒い穴に送り込み、コマチたちのポケモンに出会うことも、何ならシャドウ化されたポケモンたちに出会うこともないまま、洞窟内施設の入り口まで辿りた。辿り着いてしまった。振り返ればぐっちゃぐっちゃになった施設内が。
すると外からドンパチやっている音が聞こえてきた。
あの鉄の扉、開いてるじゃん。
そこには見覚えのある奴らの後ろ姿があった。
あ、だから誰も俺に気付いていなかったのか。
で、あいつらを外に誘き出したのは………………うん、何でサカキがいるんだろうな。
だが、その戦況はあまり芳しくないようで、今にもやられそうな雰囲気を感じた。
「フッ、ルギアを逃してしまったのは痛かったが、その結果ヒードランのコントロールに成功したのだ。さあ、味わうがいい! ヒードラン、ありったけの炎でその娘を焼き尽くせ! マグマストーム!!」
「しまった?! コマチ!」
「コマチッ!?」
「逃げろ、嬢ちゃん!」
「コマチ君、逃げて!」
ッ!?
何がどうと認識する以前に。
声色からコマチが狙われているのだけは分かった。
「ダークライ、クレセリア」
名前を呼ぶだけで意図を理解した二体が陰を伝って一気に距離を詰めていく。
そして次の瞬間、マグマの塊は方向を変えて打ち上げられていった。
「……………ライ」
「リーア………!」
コマチを守るように立つ二体の登場に場の空気が一変する。
「ダークライに………クレセリア……だと………!?」
あのジャキラでさえ、声に出して驚いていた。
そして、一歩後ずさる雪を踏む音がする。
ーーーああ、なんだ。
所詮、こいつもこの程度の男だったか。
結局、ジャキラも高圧的で視線が鋭いだけの小物だったってわけだ。
なんか急に冷めてきたわ。
「俺の妹に手出してんじゃねぇよ、三下」
静かに殺気を放ち、声のトーンを落とすだけでジャキラたちの肩が跳ねるような反応を見せた。
「お兄、ちゃん………!」
そして、声が震えて今にも泣き出しそうなコマチの声が妙に耳に残った。