ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

132 / 155
119話

「テメェ、何者だ!?」

 

 ダキムが俺を威嚇してくる。

 だが、ジャキラの反応で既に冷めてしまっていたため、ダキムの威嚇なんて変顔くらいにしか思えない。

 だがまあ、答えろというのなら答えてあげようじゃないか。

 

「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号」

 

 噛まずに言えた。

 相変わらず長いわ、この肩書き。

 

「国際……警察……だと?」

「大人しく投降しろとかは言わないでおいてやる。言っても無駄だろうからな」

 

 言って従うようなら最初からこんな研究を進めているわけがない。

 結局のところ、シャドーの奴らも皆が皆頭のイかれた連中でしかないってわけだ。イかれているから他人が傷つくことを厭わない。何なら必要な犠牲って言葉で簡単に片付けるだけだろう。

 

「一人増えたところで何になる」

 

 何になる、か。

 なら、こうなるってのを見せてやろう。

 

「ダークライ、シャドウ化したポケモン全員にダークホール」

 

 ダークライが両腕を広げてシャドウ化されたポケモンたちを、次々と足下に作り出した黒い穴へ吸い込んでいく。

 そして出てきたポケモンたちは一体残らず眠りこけている。

 コマチのカビゴンなんかは鼻提灯まで作ってやがる。シャドウ化したんだよな………?

 

「おい、起きろ! テメェら寝てんじゃねぇ!」

「起きなさい、あなたたち! まだまだ蹂躙する敵は残っているのですよ!」

「………厄介ですね、その力」

 

 ダキムたちが次々と眠らされていくポケモンたちに声をかけているが、全く以っての無反応。

 

「フンッ、ヒードランだけは眠らせられなかったようだな」

「眠らせられなかったんじゃねぇよ。敢えて眠らせなかったんだよ」

 

 ヒードランを眠らせなかったことで、伝説のポケモンには手を出せず、そこに勝機があると考えたのかね。

 眠らせられなかったのではなく、敢えて眠らせなかったっていうのに………。

 

「それと、一人増えたところでとか言ってるけどな。出てきたのがこういう顔だったらどうするよ」

 

 今朝カロスで暗殺した奴の顔が、今目の前に現れたら………。

 恐怖や戸惑いを感じてくれるだろうか。あるいは絶望感とか?

 それだったら、少しは仕返しになっていいんだがな。

 俺はゆっくりと帽子を取って素顔を晒した。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 シャドーの連中は挙って俺の顔を見た途端、驚きで声を失った。

 

「なあ、カブちゃん。あれ、ハチでいいんだよな………?」

「僕の目もハチ君だと認識してるよ。でも、これは………」

「ああ、ド・殺気だぜ」

 

 ついでに殺気も放っておいたら、そっちはカブさんたちの方が反応していた。

 やはり奴らの方がそっちには馴染みがあるらしい。

 コマチやシャクヤは驚きつつも、納得といった感じの表情をしているが、いろはすだけが有り得ないものを見たかのような、それでいて目尻に涙がうかびあがっているのが見てとれる。

 

「テメェ、何故生きてやがる!」

 

 すぐに我を取り戻し、問いかけてきたのはダキムだった。

 単純で脳筋だからこそ、戻ってくるのも早かったのかもしれない。深く考えることもないだろうからな。

 

「………そもそも何故ここにいる。貴様のことは今朝、カロスで殺したはずだ」

「もしかしてあの無能どもが殺し損ねた?」

 

 続けてボルグとヴィーナスが確認してくるが、これで犯人の証言は直接得られたわけだ。

 繋がりがあるようでその証拠を掴めないでいたが、カーツと繋がりがあり、カーツもまたカラマネロと行動していたのを見ると、あのカラマネロたちとも繋がりがあるようだ。

 利害の一致がそうさせたのか、将又傘下にしてしまったのか。

 その辺の事情も盗んできたデータに祈るしかない。

 

「死んでいなくとも重症は負っていたはずだ。だが、今の奴に怪我があるようには見えない」

「いや? 俺は確かに刺されたさ。腹と背中にな」

 

 独り言なのだろうが、一人冷静に俺を観察してきたジャキラに指で腹を指示す。

 今の俺はお前らの策略で暗殺されて死にかけた張本人なんだよ。あの時の痛みは今でも忘れたわけじゃない。それを返す時が今だというだけの話だ。

 

「ならば何故………!」

「………俺のポケモンたちが俺を生かしてくれた。ただそれだけだ」

 

 そして助けてくれたのがダークライであり、あっちの世界でサーナイトのことも見てくれたクレセリアである。

 視線でその誰かを示すとジャキラからブワッと殺気が漏れ始めた。

 ああ、ようやく自分からやる気になったか。

 

「サーナイト、ガオガエン。トツカを連れてコマチたちを守っててくれ」

 

 続けて小声でサーナイトとガオガエンに指示を出してウツロイドのボールに手をかけた。

 

「………いいだろう、わたし自らの手で貴様を殺してやる」

「出来るもんならやってみろよ。来い、ウツロイド」

 

 俺はウツロイドを出すとそのまま憑依させると、ウツロイドの白い半透明な身体は黒く染まっていき、二回り程大きくなっていく。

 

「ま、まさか、先輩…………!」

「ちょ、イイイロハさん!? アレ大丈夫なやつなんですか?!」

「分からない。分からないけど………!」

 

 イロハとコマチが何やら大慌てな様子を見せているが、どうせこの姿に対してだろうから、気にしなくても大丈夫だろう。

 

『「パワージェム」』

 

 この姿のウツロイドの力も大分使いこなせるようになってきたため、一気に無数の岩の破片を作り上げて、悪魔に魘されるシャドウポケモンたちにトドメを刺していく。

 

「サナ」

「ガゥ」

 

 サーナイトたちがコマチのところへ合流したのを確認してから、次々とトドメを刺したポケモンたちを山積みにしていった。

 ぶっちゃけ反撃がないから楽である。唯一反撃出来るようにしてあるヒードランも指示がないため、襲っては来ない。

 それもこれもダークライのおかげだな。

 こんな楽な仕事はない。

 

「くっ………これだから………。貴様らのような人間がいるから我らが力を持てないのだ! 殺す! 絶対に殺す! ヒードラン、全てを焼き尽くせ! マグマストーム!」

 

 ようやくボルテージがマックスになったジャキラがヒードランに指示を飛ばしてきた。

 

「させないよ!」

 

 超念力で軌道を変えて上空へ、とか頭の中でシュミレートしていると、そこへまた一人、新たな参戦者が現れた。

 おっかしいな………。

 予定が狂いっぱなしなんだが。

 誰だよ、横槍入れてきたの。

 オンバーンに乗った………オリモト………?!

 

「ロッソ……、貴様!?」

 

 意外な人物の登場に俺も内心驚きである。

 何故にオリモトがこんなところに?

 育て屋はどうした?

 あと、その傍にいる深緑のロボットはどこのジガルデさんですか?

 目から緑色のビームを放ってマグマストームが掻き消されていくんですけど?

 

「あたしはもうロッソじゃない! アンタたちの仲間でも道具でもない! 脅されたって従ってやるもんかっ!」

「フッ……よもやジカルデを引っ張り出してくるとは………」

 

 おいこら、サカキ。

 一人観戦を楽しんでじゃねぇよ。

 つか、お前本当に何でいるんだよ。しかも立ち位置的にこっちの味方してない?

 何してんの?

 

『「アーア、ヒードランジャナクテ、ジガルデガハカイシテンジャン」』

 

 緑色のビームでマグマが掻き消された跡地はより悲惨なことになっていた。

 マグマでここら一帯が焼け野原になるのと、そう変わらない結果になってるんだけど?

 

「やっちゃえー!」

 

 続け様にジガルデが地面にZを描いてヒードランを焼き尽くすと、オリモトが俺に向けてトドメを刺すように進めてきた。

 

『「イヤ、オレガテヲクダスマデモナイミタイダ」』

 

 だが、最早その必要もなくなってしまった。

 だって、抉られた地面に出来た雪解けの水溜りが揺らぎ、そこから何かが出てこようとしている。

 何かと言っても俺には心当たりがビンビンにありましてね…………。

 

「ギィィィナァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 はい来たー………。

 もう本当何なの、みんなして。

 煽るだけ煽って、さっきから美味しいところを全部持っていかれてるんだけど?

 ねぇ、聞いてるギラティナさん?

 

「………おいおい、今度はなんて化け物が出てきやがるんだ」

「ギラティナ……だって……?」

 

 カブさんもピオニーのおっさんも遠い目をしてるぞ。

 あの二人、すげぇ頑張ってたのにいつの間にか蚊帳の外になってて可哀想なんだけど。

 

「ヒードラン、ぐずぐずするな! さっさとやれ!」

 

 ジガルデの攻撃でひっくり返っているヒードランを足蹴りにでもしそうな勢いでジャキラが吠えた。

 

「せい!」

「なっ……!?」

 

 ちょ、いろはす!?

 お前も美味しいところを持っていくのか?

 

「スナッチって言うんでしたっけ? どうです? 今までして来たことをやられる側に回るのは」

 

 うわぁ………ジャキラの顔が表現出来ない感じに歪んでいくんだけど。

 こっわ………。

 もっと怖いのは一番美味しいところを持っていくいろはすだけどね。

 

「貴様ッ……!」

「私たちの日常を奪っておいて自分たちは何も奪われないとでも? ふざけんじゃねーですよ! こちとら目の前であんなのを見せられて心臓を握り潰されそうな感覚だったんですよ! アンタらもそれを物理的に味わえ!」

 

 お、おう………。

 イロハがめっちゃ怒ってる。

 ところで物理的に味わえって何にかかってるの? まさか心臓を握り潰されそうな感覚?

 怖い怖い怖い。

 

『「ハァ………、モウスキニシテクレ、ギラティナ」』

 

 さっきまで俺が場の空気を支配出来てたと思ったのになー………。

 いつの間にか俺まで蚊帳の外なんだけど。

 やる気も削がれてただただ面倒になってきたので、ギラティナに丸投げすることにした。

 

「うわ、や、やめろ………!」

 

 するとギラティナはダキムをロックオンすると足下から影の中へと沈み落とし始めた。

 

「な、何なのこれはっ!? ちょ、いやっ………!」

「………ここまで、か」

 

 遅れてヴィーナスとボルグも足下から影の中へと引き摺り込まれていく。

 ヴィーナスは終始抵抗していたが、ボルグは諦めたかのように無抵抗だった。

 そして最後に。

 ギロリとジャキラに対して睨みを効かせる。

 

「や、やめろ! わたしに近づくな! やめーーーッ!!」

 

 断末魔と共に影の中へと引き摺り込まれていったジャキラ。

 ジャキラでもあんな姿を醸すんだな。

 やっぱり所詮はその程度の奴らだったってことだろう。

 見た目だけというかアドバンテージを得ている時だけ強気に出てくる三流。

 

『「ウツロイド、カイジョシテクレ」』

 

 うむ、もうなんかこの姿でいる意味もなくなってしまったため、ウツロイドに解除してもらう。

 

「ふぅ………終わったな」

 

 俺の思い描いていた展開とは全然違った終わり方だけども。

 てか、一つ終わっただけであって、まだ全てが終わったわけじゃないから気を抜くのもまだか。

 暗殺の実行犯であるカーツや共闘しているカラマネロ、それにヒラツカ先生の問題もある。

 深い溜め息しか出てこないが、やることはまだまだ山積みだ。

 取り敢えず、まずはここを片付けないとか。

 

「あー、なんか悪いな。色々とやってくれて………というか今からやってくれるんだよな、あっちに帰ったら。そのためにダークライを使って俺を助けて、治療とサーナイトの修行を経て最後は自分がラスボスとして俺を現世へ送り出す。どこまで先の未来が見えているんだか…………。まあ、あっちではお前の思うようにしてくれ。それで俺は今ここにいるんだからな」

 

 藍色の空になりつつある雪原に鎮座するギラティナに、ようやくお前の行動の意味を理解したぞ、と告げておく。

 あ、丁度いいし、予防線を貼っておくか。

 

「あ、それとその内、ヒラツカ先生のーーーシズカさんのポケモンたちが魂だけなのか肉体もなのかは分からないけど、そっちに行くかもしれないから、消滅しないように確保しておいて欲しい。出来れば会って話す猶予が欲しいが、可能か?」

 

 コクリと首を縦に振ったギラティナは、そのまま足下に黒い穴を作り出して徐々に身体を沈め始めた。

 何もないに越したことはないが、万が一阻止出来なければ、恐らくはあの世界に行くことになるはずだ。だから冥界の王でもギラティナに頼んでおけば最後に会うくらいは出来るだろう。

 

「なら、よろしく頼む」

 

 了承が得られたので頭を下げると、ギラティナはじっと俺を見つめたまま、足下の黒い穴へと消えていった。

 最後に目と目が遭っため、沈みながら俺のことをじっと見ていたのだと気付いたのだが。

 取り敢えず、これでギラティナの協力は得られた。

 

「さて、もう一仕事するとするか」

 

 次にしなければならないのは、この山積みになったシャドウポケモンたちをスナッチすることだ。

 これがまた多いのなんのって。

 眠らせてトドメを刺していく最中はどんなポケモンがいるのか深く確かめないでいたからアレだが、結構いるな。

 バシャーモ、フーディン、サーナイト、トドゼルガ、ヨノワール、ネイティオ…………この辺はジャキラのポケモンかな。

 ラグラージ、メタグロス、フライゴン、ゴローニャ、フォレトス、ヘルガーはダキムのか。

 メガニウム、ハガネール、ジュペッタ、ラフレシア、キレイハナ、ムウマージ、ライボルト、ギャラドス、ドサイドン、クロバット、バクーダ、ナマズンと……………後半はボルグのっぽいから前半は消去法でヴィーナスのってことか?

 俺、あのおばさんのポケモンだけ誰がいたか知らないんだよなー………。話した記憶がまるでない。

 んで、近くにいたポケモンたちからトドメを刺して山積みにしていったため下敷きになっているのだが、あいつらのポケモンと思しきのがここまでとなるとこの辺からシャドウポケモン軍団的な、所謂野生のポケモンをシャドウ化させた奴らってことだろう。

 えっと………ネイティオ、サマヨール………ジャキラのポケモンと被ってるな………ドリュウズ、ガブリアス、ドンカラス、グラエナ、シザリガー、リングマ、エレキブル、ブーバーン、オコリザル………じゃねぇな………なんだこいつ。

 ガラルの煙突マタドガス、ドダイトス、ゴウカザル、エンペルト、カブトプス、オムスター…………マジか、化石から復元したポケモンもかよ。つか、何気にシンオウ地方の初心者向けのポケモンの最終進化たちまでいるし。

 この選出にどんな意図があったのかは分からないが、見事に進化後のポケモンばかりだな。もっとこういうのって進化前のポケモンとかがいそうなのに、やはりダークポケモンと違ってシャドウポケモンはシャドウオーラを付与されたまま進化出来るからだろうか。

 今考えたところで明確な答えなんて出るわけでもないし、考えるだけ無駄か。

 ……………今度はスナッチしたボールの山が出来てしまったな。あーあ。

 

「………なぁ、カブちゃん。オレはもう頭がパンクしちまいそうなんだが。つか、もうド・爆発してるぜ」

「言いたいことは分かるよ。僕もまだ現実を受け止めきれていないからね。はは………ギラティナにダークライって………それにクレセリアとかヒードランとか………」

 

 おじさん二人は放心状態のようだ。

 放っとこう。

 しばらくすれば状況を整理して呑み込んでくれるだろ。

 それとサカキは声を殺して笑ってんじゃねぇよ。

 

「ロトム、壱号さんに繋いでくれ」

 

 次の仕事として、この山積みになったボールをどうしようかと思い、コマチとトツカのポケモンたちのこともあるので、取り敢えず壱号さんに電話してみることにした。

 

「あー、もしもーし。壱号さんですかー?」

『連絡が来たということは無事解決したということでいいのかな?』

「ええ、まあ。証拠になるデータは諸々奪いましたし、シャドウ化したポケモンたちも再スナッチしてこちらの指揮下に置いてますよ」

 

 施設を破壊しながら簡単に『アジト見つけたんで破壊しまーす』ってメールを送っておいたのだが、一応データとかは取った事も告げておく。

 

『犯人グループは?』

「ギラティナに持っていかれました」

『はっ?』

「だからギラティナが現れて全員あっちの世界に持っていっちゃったんすよ」

 

 俺も予想してなかった展開なのだから、壱号さんが気の抜けた声が出てぬるのも分かる。

 

『…………ギラティナと来たか。まあいい。それならそれで二度と現世に奴らが現れることもないだろう』

「恐らくは」

 

 知らんけど。

 そうなってくれることを願うばかりである。

 

『では、いつものようにシャドウ化したポケモンたちを全員送ってくれ』

「あー、それなんすけど、全員は無理ですね」

『何故だ?』

「トレーナーのポケモンも奪われましてね。既にシャドウ化されてますけど、トレーナー本人がこの場にいるんで返そうかと」

 

 ここからは俺の交渉力次第だな。

 まあ、隠れてコマチたちのポケモンだけ返すって手もあったのだが、それで何かあった時にコマチたちのシャドウ化したポケモンたちのことがバレてしまったら、俺の手の出せないことになりそうだからな。一応報告はした上でもぎ取らないとリスクが高まってしまう。

 

『バカを言うな。一般人にあの状態のポケモンを持たせておくのは危険だ』

「そこはほら、そのトレーナーは俺の妹ですし」

 

 まずは妹アピール。

 

『そうは言うがな、規則は規則だ』

 

 無理か。

 なら、もうこれを使うしかないな。

 

「なら、俺と戦争でもします?」

『はっ?』

「だから忠犬ハチ公と国際警察とで全面戦争でもしますか? って聞いてるんですよ」

『忠犬……ハチ公……!?』

 

 うん、効いたみたいだ。

 やっぱり忠犬ハチ公ってのはこういう時には使えるな。

 俺としては嬉しくも何ともない二つ名、というか二つ名なんてあるのがそもそも痛いのだが、こういう時は意外と便利である。

 さて、何か言い出す前にもう少し攻めてみるか。

 

「ああ、先に言っておくと、こっちにはギラティナもいるし、ダークライやクレセリアもいます。何ならシャドウ化してるけどヒードランもいるし、なんかジガルデっぽいのもいますけど、どうします? つか、俺一人でイッシュの本部くらいなら余裕で堕とせそうですけどね。ウツロイドーーパラサイトを大量に呼び寄せて」

 

 パラサイト。

 ウツロイドの国際警察でのコードネーム。

 未確認生物でもあったため、仮名称として付けられたそうなのだが、それを今俺の支配下にあるってことをアピール出来れば、国際警察は手の出しようがなくなるはずだ。

 

「それともう一つ付け加えるのなら、俺を指名手配することももう無理ですよ。何故なら俺は今朝、カロスの衆目の前で暗殺されてますからね。死人を指名手配なんて無理でしょう?」

 

 そんでもって、俺を犯罪者として指名手配しようにも、俺は既に今朝カロスで衆人環視の下で暗殺されている。

 そして、俺としてはこのままカロスに帰ったら死亡扱いにしてヒキガヤハチマンを消そうとも考えている。

 

『…………貴様は何者だ』

「俺が何者か、ね。………不名誉なのも含めると三日天下のチャンピオンとかカントーポケモン協会本部理事の懐刀、忠犬ハチ公とかカロスポケモン協会の理事とか、最近はガラルのチャンピオン級トレーナー、仮面のハチってのもありますし、あと俺の知らないところでは飛び込み依頼でも依頼達成率百パーセントの天才バトル師、ガラルの忠犬ハチ公ってのもあるみたいですよ。まあ、最も。アンタたちからすれば、国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係、黒の撥号。だろ?」

 

 結局のところ。

 俺の身元をちゃんと確認する事なく国際警察に引き込んだのが、運の尽きである。

 それとも分かった上で引き込んだのであれば、こうなることもリスクの一つとして考えられていたはずだ。

 だから責任は壱号さんにあり、落ち度も壱号さんにある。

 

『…………いいだろう、こちらの負けだ。送れるポケモンだけ送ってきなさい』

「そりゃどうも。んじゃ後で送りまーす」

 

 よし勝った。

 壱号さんとしても俺とは戦争したくないだろうし、もしそうなったら全面的に責任を取らされることになるだろうから、呑まずにはいられない。

 いやー、権力ってこうでないとな。

 

「取り敢えず、現在地の情報と………ロトム、アジトの入り口の写真も一緒に壱号さんに現在地の情報を送っといてくれ。それで後処理要員がやってくるはずだ」

「いやいやいや、待て待て待て!」

「ちょ、ピオニー君。落ち着いて! ね!」

「こんなん落ち着いてられるかっ! ハチ、今の会話だけで情報量が多すぎて何から聞けばいいのか分からねぇけどよ! 取り敢えず物騒過ぎるだろ!」

 

 何だよ、こっちはまだ仕事してるんだけど?

 そして、おっさん。それは愚問だぞ。

 

「えっ? 妹に手を出したんだぞ? あいつらが死ぬのは当たり前だろ?」

「いや、そこじゃねぇよ! そこもだけど、そこじゃねぇんだよ! だぁぁもう!」

 

 おっさんもツッコミが大変だな。

 頭抱え出しちゃったよ。

 

「やっぱり彼らは死んだのかい?」

「さあ? それはギラティナのみぞ知るってところじゃないですか? それに中にいた研究員たちも放置しておくのも何だったので、あっちに送り込みましたし」

「証言者として何人か残しておくべきなんじゃねぇのかよ」

「その時までにギラティナがどう判断を下すかだな。生きていたら、牢屋の中に出してやることも出来るが………」

 

 ないだろうな。

 そして、ギラティナが出てきたことで、全てをギラティナのせいにすることも出来るようになった。

 俺としては予想外の展開ではあったが、後処理が楽になったのを思えば、すごくありがたい登場であった。

 

「じゃあ、電話相手への脅迫紛いのアレは何なんだよ!」

「国際警察にコマチのポケモンを渡すわけがないだろ? 権力ってのはこういう時に使わないでいつ使うんだよ」

「権、力…………」

 

 サカキ以外がみんな絶句しているんだけど。

 なーぜ?

 ピオニーのおっさんなんか雪の上で四つん這いなっちゃったし。纏う空気がどよーんとしている。

 

「随分と交渉術が鍛えられたようだな」

「黒いやり方を散々見せられてきたんでね。どこかの誰かさんに」

「フッ、役に立ったのなら何よりだ」

「褒めてねぇよ」

 

 一流の悪党を見てきたから国際警察との交渉が上手くいったっていうのも皮肉なもんだな。

 

「…………決めたんだな」

 

 ただ、どうやらサカキもあの会話だけで俺の今後のことを推測出来たらしい。

 本当に恐ろしい奴だわ。

 

「ああ。俺は表に出ちゃいけない側だった。今回は目立ちすぎた代償を払わされたってことだろう。それにしては大き過ぎる代償ではあるがな」

「死んでどうするつもりだ?」

「どうするも何もメインアカウントを消すだけであって、サブアカウントが残ってるんだよ。それを使えば普通に暮らせるけど? それにチャンピオンを引退して島一つを丸々買って道場作った爺さんもいれば、トレーナーを引退して田舎に引きこもって研究している爺さんもいるくらいだから、どうにでもなるだろ」

 

 今の俺はメインアカウントであるヒキガヤハチマンの他に、サブアカとして仮面のハチがあるからな。黒の撥号ってのもあるし、どうにかなるだろ。

 

「確かにな。何かプランでもあるのか?」

「ある。最初の思惑とは変わっちまったが、カントーでのあの会議の後にもう手は打ってあった」

 

 それにエニシダさんに話した計画が使えそうだしな。

 ガラルにいる間に具体的な構想も練ってきたし、いずれエニシダさんにプレゼンして賛同得られれば、上手く引きこもり計画が完成する。

 

「そうか。ならばこれを持っていけ。オレからの餞別だ」

「…………うわ、何だこの赤いの」

 

 するとサカキから一つの箱を手渡された。

 中身を出すと、赤い液体? が入った透明な瓶だった。

 

「愛しい彼女の血を使ったお前とリザードン専用の鎮静剤だ。これでお互いの血に呑まれて暴走することはなくなるはずだ」

 

 はい?

 血?

 何その薬。

 危なくない?

 俺とリザードン専用ということは暴走に関することだろうから、その鎮静剤で、血………。

 

「鎮静剤………血………ユキノの血か?」

 

 えっ、マジで?

 よく了承したな、あいつも。

 

「ああ、ダークライとクレセリアに選ばれたお前たち二人なら、可能性はあると思うぞ」

 

 まあ、その関係なんだろうけども。

 

「………で、これを呑むと暴走しなくなると?」

「副次的にカツラとミュウツーのようになるだろうな」

「おい」

 

 切っても切れない関係は変わらないってか。

 

「お前たちはどうしたって切っても切れない関係なのだ。ならば、それを使いこなす方が得策だろう?」

「はぁ…………、分かったよ。有り難くもらっておくが………次は何だよ」

「これも持っていけ」

 

 サカキにさらにもう一つの箱を手渡された。

 

「今度は何………メガストーン? 色的に………リザードンのか?」

「言っただろう? カツラとミュウツーのようになると」

「言ったけど………はっ? まさかそういう?」

 

 つまり、カツラさんとミュウツーのようにメガシンカを戦闘中に切り替えられるようになると?

 んなバカな………。

 

「いつかオレにも見せろ。お前とリザードンの『プロジェクトμ's』と『レッドプラン』の集大成を」

 

 いや、マジかもしれんわ。

 集大成とか言われてもアレだが、確かにあの二つの計画の着地としては申し分ないのかもしれない。

 

「それでアンタらにも区切りが付くってか」

「ああ」

 

 それも一重に俺を巻き込んでしまったことへの罪滅ぼしの意味もあるのだろう。

 あるんだろうけど、それだけじゃないのがサカキだからな。

 素直に喜べない先が思いやられる…………。

 

「さて、もうすぐ真っ暗になりそうだし、さっさと帰るか」

 

 いつの間にか洞窟の中を確認しに行っていた三人もすぐに戻ってきてしまったので、調査は後日行うのだろう。というかやるなよ。国際警察の皆さーん、早く来ないとロケット団に荒らされますよー。

 

「………ほう。中がすごいことになっているみたいだな」

「あー………データを全て抜き取って物理的に破壊しながら出てきたからな」

 

 なんか三人にはドン引きされてる気がするけど気にしない。

 

「ヒヒィン」

 

 なんだよ、今度は。

 

「なーにあれ」

 

 静かだなーと思っていたらイロハはずっとヒヒダルマと格闘してたみたいだ。

 雪の上に押し倒されてぺろぺろされている。

 

「ちょ、舐めんなっつの!」

 

 声を荒げているけれど、誰も止めようとしない。

 普通に戯れているようにしか見えないんだよなー。

 あと、ヒヒダルマから敵意が全くないどころか、めちゃくちゃ懐かれているようにしか見えない。野生のままなんだよな? ってか、あいつ入り口近くにいた奴じゃね?

 

「って、帰るんかい!」

 

 ヒヒダルマは一通り舐めて満足したのか、イロハの上から降りて、そのままスタコラサッサとどこかへ行ってしまった。

 イロハの奴、散々舐められるだけ舐められて捨てられてら………。

 ああいうのに好かれやすいのは何なんだろうな。

 

「………その内またイロハ先輩の元に現れそうだなー」

 

 おい、コマチ。

 それは言ってやるな。

 俺もすげぇ同感ではあるけども。

 

「ゾウ」

 

 と、今度はコマチの足下でゾウドウがスリスリしていた。

 

「どしたん、コマチ」

「………ゾウくんとお別れなのが寂しいなって」

 

 シャクヤに名残惜しさを吐露するコマチ。

 

「連れてったら?」

「でも、すぐそこにお母さんたちがいるんだよ? 勝手には………」

 

 ダークライに目配せすると火の玉が出して文字を浮き上がらせた。

 そこには、スデニキョカハトッテイルラシイ、だとさ。

 着いていく気満々じゃねぇか。

 

「………ライ」

 

 コマチが確認のためにダークライを見ると、ダークライもじっと見つめ返す。

 

「ゾウくん、コマチと一緒にいてくれる? みんなに守られてばかりで頼りないトレーナーだけど………コマチ、もっと強くなるから。みんなを守れるくらい強くなるから………さ……」

 

 こんなことがあったから自信がないのだろう。

 それでもゾウドウと一緒いたいと思えるだけ、まだポケモンたちと触れ合うことには抵抗があるわけじゃない。

 心が傷付いたのは確かだが、この分だと回復の見込みは早そうだな。

 その一助になってくれるのなら、俺もゾウドウにはいてもらいたい。

 その方が俺も安心出来るってもんだからな。

 

「ゾウ!」

「いい、の………?」

 

 するとゾウドウが飛びついていき、コマチは押し倒されてしまった。

 イロハといい、君たちポケモンに押し倒されるの好きね。

 

「ゾウ!」

「……ありがと、ありがとう! ゾウくん!」

 

 まあでも。

 イロハとの違いは懐くポケモンがコマチの方は素直ってところかな。

 別にイロハのポケモンが皆が皆素直じゃないって言いたいわけでもないんだが、ヤドキングとかいるし、フライゴンやガブリアスもナックラーやフカマル時に甘噛みしている姿がこびり付いていてだな…………。あとボルケニオンっていうのもいるし。

 それを思うとコマチのポケモンたちの方が素直だなってだけの話である。

 

「あ、コマチ。ダイオウドウの群れがこっちに向かってきてるよ」

「えっ!?」

「ゾーウ!」

 

 シャクヤに言われて俺たちも村の方を見るとダイオウドウたちが一斉にこっちへ向かってきていた。

 あの大行軍はちょっとしたホラーだな。暗いから余計にそう見えてしまう。

 だって、目が光ってるんだもん。

 で、それを見たゾウドウはコマチの腕の中から離れ、一目散に群れの方へと駆けていった。

 

「………行ってきますを言いにいったんだよ、きっと」

「うん………」

 

 寂しそうにゾウドウの後ろ姿を見ていたコマチにシャクヤが慰めかける。

 するとまた火の玉が出てきて文字が浮かび上がった。

 キタニモドル、マタアエル………ああ、北に向かうのか。北………ん? ワイルドエリアにってことか?

 

「またワイルドエリアで会えるんじゃね?」

「うん、また会えるといいな………」

「「「ドーウ!」」」

 

 地響きのするような声が重なり、それを背にゾウドウがこっちに戻ってくる。

 どうやら本当にワイルドエリアに行くらしい。

 すげぇなポケモンの群れって。結構な大移動だろうに。

 

「はい、コマチ。ボール」

「シャクヤちゃん………ありがと。ゾウくん、いくよ!」

「ゾウ!」

 

 コマチはゾウドウにシャクヤが渡したモンスターボールを掲げると、勢いよく戻ってきたゾウドウがそのまま吸い込まれていった。

 

「みんな、ありがとー! ゾウくんのこと、大事にするからねー! また会おうねー!」

 

 実力はともかくとして。

 これでカメックスたちが抜けた穴はまた少し埋められただろう。コマチとともに逃げ延びたプテラとバチンキー、それにシャドウ化を免れたオノノクスに俺が渡したウオノラゴン、そこへゾウドウだからな。あとはカマクラを呼び戻せば一応はフルパーティーの完成である。

 ジムチャレンジも何とかなるだろう。

 あと俺が心配するのはコマチの身の回りの安全性だな。まあ、そこはゲッコウガに任せるとしよう。

 

「………これで一件落着か?」

「だといいんだがな。そうも言ってられないんだわ、まだ」

「シャア」

「カイカイ」

 

 いつの間にか俺の後ろに立っていたゲッコウガと、並び立つリザードンとジュカインに、何とも言えない先の不安を拭えないことを吐露した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。