ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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123話

 サカキ所有の飛空挺により、おやつの時間前にはカロスに到着。

 ミアレシティの外へ降下すると、早速リザードンに乗ってヒラツカ先生を捜索することにした。

 

「先輩、ユキノ先輩たちに会わなくていいんですか?」

「その間にも先生がどうなってるか分からねぇんだよ。そっち優先になるだろ」

「そりゃそうですけど………」

 

 フライゴンに乗って並走するイロハが理解はしているが納得はしてないみたいな顔をしている。

 

「…………それで、変えたかった未来って何なんですか?」

 

 あ、やっぱり気になっちゃうか。

 これ、言っていいもんなのかね………。

 一応未来の話だし、未来のことを知ってしまうと齟齬が出てきたりとかしない?

 …………今更か。

 未来を知っている俺が今ここにいるんだ。それでいて何も出来ちゃいないのだから、個人の力でどうこうなる程、強制力というものは柔なものではないのだろう。

 ならいいか。

 

「言っていいもんなんかは分からないけど………あまりいい話ではないぞ?」

 

 とはいえ、明るい話ではないため、そこは一応イロハに確認しておく。

 

「いい話じゃない状況の真っ只中なので今更じゃないですか」

「それもそうか………」

 

 まあ、イロハからすれば目の前で俺が死にかける、というか暗殺されるシーンを目にしているのだし、それを乗り越えてコマチを助けに来てくれたくらいだ。

 イロハの心はそれくらいで落ちぶれる程、弱くはないわな。

 

「色々と時系列がややこしいし、それを一から説明するのはユキノたちもいるところで話したいから省くけど、約半年後の未来では既にヒラツカ先生が車椅子生活をしてたんだ。しかもストレスによる一過性のものとは言われてたらしいが、目も見えなくなってたらしい。そして、何故そうなったかと言えば、今回の事件関連で犯人の捜索に出ていた先生が襲われ、先生のポケモンたちが命を落としたからだって言っていた」

 

 あの暗殺シーンから今に至るまではユキノたちがいるところで話したい。そうでないと長い話が二度手間になってしまうため面倒くさい。

 

「はっ?! 命を落としたって………まさかカイリキーたちがですかっ!?」

「いや、俺もどのポケモンのことかまでは聞いていない。ただ誰かが亡くなったのは間違いない。しかも『たち』って言ってたと思うから複数なのだろう。俺はそんな未来を変えたいと思いながら、ガラルで仕事をしていたんだ。そして、そろそろカロスに向かおうかって時にコマチが襲われた」

 

 本当にあの瞬間は歯痒い思いだった。

 よりにもよってあのタイミングで、しかもコマチが襲われるとか、何の嫌がらせだよ。

 

「天秤にはかけたくなかったが、先生が襲われるまでにはまだ少し猶予があると思って先にコマチを探したんだが、結果はご覧の有り様だ」

 

 こんなことならさっさとシャドー、いやGOロケット団を潰しておくべきだった。

 虱潰しとか悠長なことをせず、一気に建物ごと破壊していってもよかったのかもしれない。それであいつらが要注意人物として俺を直接屠ろうと出てきてくれた方が早かっただろう。そうすればコマチが襲われることも先生を助けに行くのが遅れることもなかったはずだ。

 

「……………先輩は一人で何でも背負い込みすぎです。少しは私たちを頼ってくれるようになったかと思ったら、一人になった途端に元通りとかおバカさんすぎます」

「そりゃだって、無理だろ。今から二年、三年前なんだぞ。飛ばされたの」

 

 その間にイロハたちが俺の知らないところで他の時間軸の俺と接触していたって話は聞いたことがないんだし、連絡するのは憚られるだろ、普通。

 

「先輩が未来から来て私たちに連絡しても、本来の時間軸の先輩には伝わらないようにしろとか言っておけば、先輩は知らぬ存ぜぬでいたって過程が生まれたんじゃないですか?」

 

 ッ!?

 

「…………そう、だな。それこそコマチがガラルに来た当たりからお前らに連絡しておいてもよかったのかもな。全然その発想にすら至らなかったわ」

 

 言われるとそうだわ………。

 俺が知らないだけで、イロハたちには別の時間軸の俺が接触している可能性だってあったかもしれない。そうすればヒラツカ先生が単独行動に出ることもなく、襲われることもなかった可能性がある。

 盲点だったわ…………。

 やはりイロハの言う通り、俺は一人になった途端、誰かに頼る発想には至らないのだろう。

 根付いた思考回路はそう簡単に変えられないし、変わらない。

 あーあー、嫌になる。

 本当に自分の悪癖が嫌になってくる。

 

「とはいえ、たらればの話をしても今が変わるわけじゃないですからね。まずは今の状況をユキノ先輩に確認しましょうか」

「あ、ああ、頼む」

 

 イロハも俺が後ろ暗くなっているのに気がついたのだろう。

 さっさと切り替えてユキノに連絡し始めた。

 

「あ、もしもーし、ユキノせんぱーい」

『何かしら、このクソ忙しい時に。カロスには着いたの?』

 

 数時間ぶりのユキノの声。

 それを聞いただけで何故か少し冷静さを取り戻せた。

 どうにも俺の身体や脳はユキノの声や体温を感じると落ち着くらしい。久しぶりだからなのか、ユキノの血が入った薬を飲んだ影響なのかは分からないが、身体の中にスッと入り込んでくる感覚があるのだ。

 リザードンが暴走した時にもユキノにキスされたことで落ち着いたし、俺は最早ユキノなしでは生きられない身体なのだろう。

 感情だけでなく、脳や身体にまで染み込んでるとか傍から見たら変質者だな………。

 

「ええ、着きましたよー。着いてそのままヒラツカ先生の捜索に当たってまーす」

『そう。昨日も話した通り、余り無茶はしないようにしなさい。あなたに何かあったら、ハチマンが帰ってきた時に彼が泣くわよ? そうでなくてもヒラツカ先生が単独行動したばっかりに足跡を追えなくなっているのだから』

「分かってますよー。それではるさん先輩からは何か情報ありましたか?」

 

 ………………ん?

 何か今引っかかるようなこと言ったな。

 それより、やはりヒラツカ先生は単独行動の末、襲われたのか。

 普段なら、そんなヘマをやらかすような人ではないんだけどな…………。

 何か他にも事情があったとか?

 

『何もないわ。多分まだ見つけられてないのだと思うけど………』

 

 捜索に出ているハルノからは連絡なし、か。

 ハルノまで捕まってたりしないよね?

 

「心配ですか?」

『姉さんのことだから大丈夫だとは思うけれど、あの人もあの人で無茶するから………』

 

 うん、分かる。

 特にユキノや俺が絡むと途端に自分を犠牲にしてでも精神が働くからな。俺が人のことを言えた義理じゃ無いけど。

 

「シロメグリ先輩も一緒なんですよね?」

『単独行動させないように付きっきりで隣にいてもらっているけれど、今回の敵は非常に厄介そうだから、警戒するに越したことはないわ』

 

 一応、メグリ先輩も一緒か。

 それならハルノが突っ走ることもないだろう。

 何だかんだでメグリ先輩には甘いからな。

 

「そう、ですね………先輩を暗殺しようとするような過激派みたいですからね」

『ええ、彼が表舞台に立てば、いずれそういうこともあるかもとは一度想像したことはあるけれど、流石にこんな直接的な手の出し方をしてくるとは思ってもみなかったわ』

 

 俺も何かしらそういうことがあるかもとは思っていたが、まさかこんな直接的な手の出し方をしてくるとは思ってもみなかった。ユキノたちもそれは同様で、「まさか」の出来事を想定出来ていなかったこちらの落ち度だ。

 

「出る杭は打たれるってやつですかね」

『杭にしては大きすぎるでしょうに。それでもここまでの波紋に広がった以上、次を警戒しておくに越したことはないわ。だから気をつけて』

 

 だからこそ、これで終わりだとは誰も思っていないようで、そこは少し安心した。

 俺がいなくなったことで仕掛けやすくなっただろうし、半年後には大々的にミアレで仕掛けてくるのは確定しているのだから、その準備を悠々と出来るようになったとも考えられる。

 それにしても、だ。

 何故ここまでユキノは冷静なのだろうか。気高に振る舞っているようにも感じられないし、いたって普通である。イロハの方が余程感情的だったように思える。暗殺シーンを目にしたかどうかの違いでここまで違うものなのか?

 

「本当にユキノ先輩たちは先輩が死ぬなんて微塵も思ってないんですね………」

 

 っ?!

 

『ええ、死なないわよ、彼は。そりゃ私も暗殺されたって聞いた時は驚いたけれど、状況から察するに彼は生きているわ』

 

 あー………なるほど?

 そもそもユキノは俺が死んだとは思っちゃいないのね。そう思うようにしているとかではなく、「どうせ生きてるわよ。これくらいのことで死ぬわけないじゃない」とか思ってるってわけね。

 

「ユイ先輩も絶対死なないって根拠もなく豪語してましたし、なんか二人には格の互いを見せつけられてる気分ですよ」

 

 あー………なんかユイの「絶対死んでないもん!」って言って鼻息をする荒くしてるのが想像出来てしまう。

 

『格って何のよ』

「やだなー、正妻の座に決まってるじゃないですかー」

『あら? それで言ったらあなたの行動力もすぐに切り替えられるところも私たちからすれば格の違いを見せつけられた気分だったわよ?』

「………だって、お米まで守れなかったら私の存在価値ないじゃないですか」

 

 いやいやいや、ちょっと待て。

 そんなことでイロハの存在価値はなくならないだろうに。

 それでなくなるんだったら、他の奴らもみんな存在価値がなくなってしまうぞ。

 人には一人で背負い込むなとか言うくせに、自分も無駄に責任を背負い込んでるじゃねぇか。

 通話が終わったら説教だな。

 

『…………本当にそういうところは似てるんだから。とにかく気をつけなさいよ』

「はーい。あ、あと多分そっちにサカキたちが戻ってると思うので、よろしくでーす」

 

 これまた最後に重要なことをぶっ込んでの通話切り。

 こいつ、本当いい性格してるよな。

 

「お前、最後にぶっ込んでくのやめてやれよ」

「いやー、忘れてましてー。切る直前に思い出して伝えとかないといけないなーと」

 

 てへぺろって舌を出して可愛いアピールをしてくるが、こいつ絶対確信犯だわ。

 

「シャア!」

「うぉっ!?」

「フリャ!?」

「ひゃあ!?」

 

 急にリザードンが何かを避けるように身体を逸らし、横でフライゴンも飛び退くように方向を変えた。

 すると下から何かが飛んで来て、そのまま雲に向かって一直線に伸びていく。

 

「カマーネ」

 

 すると俺たちの前に一体のカラマネロが現れた。

 そして気づけばピジョンやピジョット、ボーマンダ、ストライク、ハッサム、ズバット、ゴルバット、クロバット………ここは恐らく群れ一つってところか。キャモメ、ペリッパーとスバメ、オオスバメも群れ一つ、レアコイルにジバコイル、ヤミカラス、ドンカラスと飛べるポケモンの大群に四方を取り囲まれている。

 

「カラマネロ………」

「先輩、もしかして………!」

「ああ、恐らくそういうことだろう。んでもってこいつらはカラマネロの催眠術で操られているんだろうな」

 

 どこで俺たちを見張っていたのかは分からないが、これでカラマネロが絡んでいるのは明白だろう。

 およそ融和的な意志を感じられないし、何よりこんな取り囲むようことをしてくるような奴らの仲間にはなりたいとも思わない。

 

「厄介ですね。どうします?」

「ここは俺がやる。お前は下に降りてろ。ジュカイン、イロハを頼む」

「カイカイ」

 

 数が数なだけにイロハと手分けしたところで、俺が対処している間にイロハを集中的に狙われる可能性がある。しかも空中戦ともなれば、戦えるポケモンが限られてくるため、イロハには不利でしかない。

 それならば地上にいてもらった方が戦いやすいというもの。加えて簡易ボックスの中からジュカインも出して付けておけば、何かしらがあっても対処は可能だろう。無理そうなら追加するまでだ。

 

「ウルガモス、キングドラ、ドラミドロ。操られていようが何だろうが容赦はいらない。全員叩き落とせ」

 

 六枚羽のウルガモスと地上で浮いていられるドラゴンタイプのキングドラとドラミドロも加えればそれなりの戦力になるし、俺も参加するつもりだ。

 それに今の俺には空中戦が出来るポケモンがまだ残っているからな。

 

「お前らも暴れて来い」

「ギャオ!」

「ギャオス!」

 

 サカキに渡された二体のギャラドス。

 かつてクチバシティの海にいた知り合いたちである。

 俺に言うことを聞かせるために人質………ポケ質にされたのだが、ようやく解放されたのだ。

 今こそ暴れてもらう時だろう。

 

「「「ッ!?!」」」

 

 特性のいかくが発動したのか、ポケモンたちの動きが一瞬固まった。そこへ青髭と白髭のギャラドスたちが突っ込んでいき、水を纏った尻尾で次々と薙ぎ払っていく。

 

「来い、ウツロイド」

 

 ウツロイドを出し、俺に憑依させる。

 最初から黒いモードになり、一回り大きな身体を触手を広げてさらに大きく見せた。

 その間にイロハが降下していく。

 

「カマカマカマカマッ!」

 

 それを挑発と捉えたカラマネロが俺を取り囲むポケモンたちに一斉に指示を飛ばしてきた。

 

「うわっ!? 下にもいっぱいいます!」

 

 やっぱりか。

 空中戦だけなわけがないわな。

 

『「ザルード、オマエモシタノエンゴヲタノム」』

 

 触手の中から簡易ボックスを漁り、ザルードの入ったボールを出し、地上に向けて放った。

 下は森になっているため、イロハと一緒に降ろしたジュカインもザルードも一番得意とするフィールドである。

 

『「リザードン、ウルガモス、カエンホウシャ。キングドラ、ドラミドロ、ハイドロポンプ」』

 

 その間に俺はカラマネロの前に飛び出した。

 

『「デンジハ」』

 

 まずは電磁波を発生させてカラマネロを痺れさせるーーーつもりが同じ波長の電磁波を出されて相殺されてしまう。

 

「カマァァァッ!!」

 

 すると雄叫びを上げたカラマネロがどこからかピンク色の結晶を取り出すと触手で砕き、粉々になった結晶を浴びて虹色の光に包まれ始めた。

 

『「ハッ………?」』

 

 いや、そんな………まさか、なのか?

 

『「メガシンカ…………?」』

 

 カラマネロがメガシンカするという話は聞いたことがない。

 ただ、メガストーンが見つけられていないだけで、メガストーンさえあれば割と多くのポケモンにメガシンカの可能性は残されているため、有り得ない話ではない。

 ともなれば、やはり俺たちが発見出来ていないだけで存在はしていたカラマネロのメガシンカということなのだろう。

 

『「マジカヨ………」』

 

 何というか細長くなったな…………。

 栄養が全部頭にいったって言われてもおかしくはないくらい、頭と身体の比率のバランスが悪い。頭重くないのかね。

 

『「オイオイオイ………」』

 

 カラマネロのメガシンカに触発されたのか、ピジョット、ボーマンダ、ハッサムがメガシンカし始めた。

 この数にさらにメガシンカが四体、その内一体はカラマネロって……昨日のシャドウポケモン軍団が可愛いと思えるレベルである。

 

『「ツカ、ヤセイノポケモンガメガシンカトカ………」』

 

 いや、相手はカラマネロだ。

 カラマネロのこの姿がメガシンカだとすれば、野生のポケモンを催眠術で自分をトレーナーと思い込ませて、大量のキーストーンを所持していて、かつ野生のポケモンたちにも対応するメガストーンを持たせていたとしたら、この数のメガシンカも可能なのかもしれない。

 俺やエックスがやった複数同時メガシンカとポケモンがトレーナーになるゲッコウガのような思考回路が合わされば無理な話ではない。というかゲッコウガなら条件が揃っていれば、こういうこともやれるはずだ。

 ならば、このカラマネロも出来ないと決めつけるべきではない。

 

『「リザードン、オマエモメガシンカダ」』

 

 これを見越してというわけでは無いだろうが、折角リザードンが暴走しないようにサカキが薬を用意してくれて、それを俺たちは服用したのだ。今こそそれを試す時だろう。

 黒い触手でリザードナイトXを取り出して、リザードンに投げつけた。それをリザードンがキャッチするのと同時にキーストーンを撫でると共鳴し合い、リザードンを虹色の光で包み込んでいく。

 そしてメガシンカエネルギーが弾けるのと同時に黒いリザードンが現れ、衝撃波で周りのポケモンたちを吹き飛ばしてしまった。

 

『「リザードン、トルネードドラゴンクロー」』

 

 リザードンに指示を出しながら、カラマネロの背後へと回り込む。

 

『「ッ………!」』

 

 だが、カラマネロの触手に目が行った瞬間、一瞬視界がボヤけてカラマネロの姿を見失ってしまった。

 

『「ア、クソ! ニゲヤガッタ!」』

 

 視界が戻ると離れたところにカラマネロが去っていく姿があり、どうやら逃げられてしまったようだ。

 何だったんだ、今のは。

 一種の催眠術、なのか………?

 

「せんぱーい! 下の方がヤバいんですけどーッ!? カイロスとかヘラクロスとかハガネールがメガシンカして……うわっちょ、危なっ?!」

 

 カラマネロを追いかけようと飛び出した瞬間に、下からイロハに援護を求められてしまった。

 ………深追いは無理そうだな。

 逃げ足だけは速そうだし、誘き寄せられてる可能性だってある。

 ここは大人しく見逃してイロハを助ける方が賢いのかもしれない。

 はぁ…………、マジであのカラマネロたちは厄介だわ。そんじょそこらの人間よりも知恵が回る。しかも残忍性も持ち合わせているから、やり口もサカキら裏社会の人間よりだ。

 本当、あいつら嫌いだわ…………。

 

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