ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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125話

 翌日。

 昼過ぎからユキノが記者会見を開いてくれることになったので、朝からその準備に追われている。俺以外が。

 俺も手伝おうとしたのだが、少しでも俺が生きているという気配があれば、矛盾が生じてしまうため大人しくしていろとの命令の出されてしまったのである。

 時間が出来てしまったので、ヒラツカ先生の様子を確認しに行きたいところなのだが、外にすら出るなと言われてしまえばやることがない。

 一人、ソファに背を預けてぐてーっとしているのだが、暇だ。

 ハルノは付きっきりで先生のところにいるみたいだし、病院組との連絡はメグリ先輩が担うようで、今朝方こっちに顔を出してくれた。そりゃもう俺の顔を見るなりびっくりして悲鳴を上げるくらいには。

 地に足は着いてるんだけどな…………。

 その際、メグリ先輩にはヒキガヤハチマンを推定死亡扱いにすることと、その記者会見を開くことをハルノと先生にも伝えてもらうことにしたので、あの二人にも俺が生きていることは伝わるだろう。

 ただ、メグリ先輩曰く、過度の精神的ストレスと肉体的ストレスの両方が合わさった結果、一時的に視力を失くしていることが伝えられている。

 救えなかった以上、そうなってしまうのは必然か。

 そうならないようにしたかったのだが、歴史の改竄というのは中々難しいようだ。存在自体がイレギュラーなのだから、俺が何かアクションを起こせば変えられると思ったのだが、なんてことはない。イレギュラーですら、歴史の一ページでしかなかったというわけだ。

 これに関しては俺の完全敗北だ。

 そういえば、ロケット団の残党を支配していた仮面の男も元々は死んだポケモンを蘇られる、あるいは死ぬ前までに戻って助けるのが目的だったって話だったよな。

 ……………ダメだな。このままいくと完全に仮面の男と同類になってしまいそうだ。しかも何の因果か仮面男に対して俺は仮面のハチだ。言葉遊びも甚だしい嫌な共通点である。

 仕方のないことだった、の一言で片付けるつもりはない。だが、救えなかったものを引き摺っていては先に進めないのも事実。

 先生とも約束したことだし、先生がカイリキーたちとちゃんとお別れ出来るような方法を考えないとな。

 一応保険としてギラティナには魂の保存をお願いしているが、それがどこまで機能するのかは未知数である。

 

「ビィ!」

「うぉっ!?」

 

 するといきなり目の前に薄い緑色の球根が現れた。

 バクバクと激しい鼓動を落ち着かせて、再度薄い緑色の球根を確認する。

 …………セレビィだった。

 

「急に現れるなよ。びっくりしたじゃねぇか」

 

 何の予兆もなく出て来られると、それはそれで驚いてしまう。

 まあ、でも………そうか。ようやく迎えが来たのか。

 

「ビィ、ビィ」

「ゲッコウガ………はいないからダークライ、訳して」

 

 何となくせ、セレビィが申し訳なさそうな空気を出しているのは分かるのだが、具体的な内容が分からないため翻訳してもらおうとついゲッコウガを探してしまったが、コマチの元に置いてきたためいるはずもなく、今まで通りダークライに訳してもらうことにした。

 

「………ライ」

 

 火の玉に文字が浮かび上がってくる。

 

「えっと……? 『通常の時渡とは違う方法で時を渡っていて、認識出来なくなっていました。ごめんなさい』………ウルトラホールが原因ってことか。しかもあの中でも事故であらぬ方向へ飛ばされてしまったからな」

 

 それなら何故今になって俺を認識出来て出てきたのだろうか。

 

「なら、何故今になって俺を認識出来たんだ?」

 

 そんな疑問を投げつけるとさらに申し訳なさそうな顔になっていく。

 え、そんな………?

 

「ビィ………」

「『この時間軸の本来のあなたが消えたからです』………なるほど、消えたはずの存在がいることで発見に至ってわけか。そりゃ仕方ないな。ある意味、破れた世界も現世とは掛け離れた異世界みたいなもんだからな。ウルトラホールもその類になるんだろうし…………」

 

 今回ばかりは普通の時渡ではないため、セレビィの方でも干渉に至るまでに苦労したのだろう。

 その説明のために俺が一度消滅したかのような言い方になることが申し訳なく思ったのかもしれない。律儀な奴め。

 何はともあれ迎えに来てくれたのだ。それだけで充分ありがたい。

 

「あー、悪いんだけどさ。少し時間をくれないか? このまま俺がいなくなると余計に混乱を招くことになるから、いくつか連絡を入れておきたいんだ」

「ビィ!」

 

 さて、誰に電話を掛けようかな。

 エニシダさんには掛けるとして、許可が取れたら俺の代わりに仕事をしてくれる人が必要になるからユキノ…………といあかカロス組はそれどころじゃないな。ガラル組も無理だし、今縛りなく動けるのとなると…………カワ何とかさんくらいしかいねぇな。

 ああ、そうか。俺はこれから三年近くけーちゃんの成長を見られないのか。

 それは何とも惜しい。密かな楽しみの一つだったというのにそれを一つ失うことになるとは……………。

 しばらく会えてないからって忘れられたりしないよな?

 会って早々、おじさん誰? とか言われたら泣くぞ?

 

「あとは…………壱号さんにもだな。しばらく休職することになることを伝えておかないと」

 

 それと一番忘れちゃダメだったのだが、親父と母ちゃんにも伝えておかないとだわ。

 すっかり忘れてた。

 つってもいちいち説明するのも却って心配させるだけだし、親父なんか特にネチネチと聞いてきそうだから、母ちゃんだけにしよう。母ちゃんから親父に伝えてもらえばいい。

 ガラル組にはコマチとトツカ、オリモトにそれぞれメールしておこう。

 オーキドのじーさんたちには変態博士から話はいくだろうし、ジムリーダーたちには…………知っても知らなくても大丈夫なんじゃないかな。コルニはもう知ってるし、気になったらその内ユキノたちに聞きに来るだろ。

 

「とりま、エニシダさんからだな。仕方の話だし。ロトム、エニシダさんに繋げてくれ」

「ロトロト」

 

 ロトムが入ったスマホが起動し、勝手にコールが始まる。

 そして数度目のコールでエニシダさんに繋がった。

 

「もしもーし、エニシダさんですかー?」

『おや? その声はハチマン君かな? 君、死んだんじゃないのかい?』

「それ分かってて聞いてるでしょ」

 

 初っ端からぶっ込んでくるな、この人。しかもちゃんとその情報を仕入れている辺り、世界中の出来事を把握している可能性が高い。

 

『あ、分かる? 君がそう簡単に死ぬわけがないもんね。動画も見たけど、これなら多分生きてるんじゃないかなーってボクは思ったよ。でも、それにしては早くないかい? もう戻ってこれたのかい?』

 

 ネットにアップされていたという動画も確認済みか。話が早くて助かるね。

 

「まあ、数日でっていう風に見えるでしょうけど、何やかんやあって三年くらいあったんですよね」

 

『三年? 数日の内に三年も過ごしたのかい? どこの修行部屋に行ってたんだか………』

「ギラティナの世話になってたり、ウルトラホールで事故ったりですかね………」

 

 破れた世界も精神と時の部屋に近いものはあるから、強ちエニシダさんの冗談も間違ってはいないんだよな。あそこも気付けば半年経ってたわけだし。

 

『…………それで生きているんだから、あの程度じゃ死ぬわけないか』

「それは買い被り過ぎですよ。俺だって結構致命症でしたし、死ぬ時は死にますって」

『君を慕うポケモンたちがそれを許すとは思えないけどね。まあいいや。それで、何か用件があったんじゃないかい?』

 

 みんなしてそう言うよなー。

 俺が死にそうになっても周りのポケモンたちがそれを許さないと。その周りのポケモンにダークライとかギラティナが含まれちゃうもんだから否定出来ないし、実際そうなったわけで冗談でも何でもなく、ただの事実でしかない。

 

「明日、明後日のどちらかで会えたりしませんか?」

『例の件のことかい? そうだね、明日は………先約があるから、明後日の昼からでどうだい?』

 

 エニシダさんも覚えていてくれたようだ。

 これでエニシダさんから許可が取れれば、俺の計画は結構前に進むことになる。

 

「それでお願いします。場所は俺がそっちに行きますんで」

『そうかい? なら、受付にそう伝えておくよ』

 

 ……………ん?

 ちょっと待った。

 伝えるって何て伝えるつもりだ?

 まさかヒキガヤハチマンってのが来るから通しておいてね、とか?

 それはそれでマズいな…………。午後には会見を開くから本名を使うことは出来なくなる。

 身バレはマズいからな。

 

「いえ、それなんですけど、今日の午後から俺を死んだものとする会見を開くんで、本名だと怪しまれるかなと」

『……………君、表社会から消えるつもりかい?』

「俺は目立っても悪目立ちしかしないようですからね。いい機会だし、このままフェードアウトしようかと」

『外に出られなくなっても?』

 

 そのためにエニシダさんに頑張ってもらおうとしてるんですよ。

 外に出なくてもいいように。

 

「何の用意もなくこんな突拍子もないことやりませんよ」

『ということは何か策を用意していると』

「ええ、まあ。用意というよりも偶々ってだけですけどね」

『分かったよ。受付には何て伝えておけばいい?』

 

 それにヒキガヤハチマンのアカウントが無くなってもまだ俺には仮面のハチと黒の撥号のアカウントが残っている。

 今後はその二つでやりくりしていけばいいから問題はない。

 

「仮面のハチで」

『ッ!? フッ、ハハハッ、そうか! そうくるか! なるほどねー!』

「…………なんだ、知ってましたか」

 

 名前を聞いた途端、エニシダさんが笑い出した。

 机をバンバン叩いているのが聞こえてくる。

 この人、仮面のハチについても知ってたのか。

 すごいな、その情報収集力。怖いくらいだわ。

 

『そりゃもちろん。世界中の強いトレーナーを見つけるのがボクの仕事だからね。いやー、そうかそうか。それなら納得だよ。受付にもそう伝えておくよ』

「うすっ。オナシャス」

『君の構想を楽しみにしてるよ。じゃあねー』

 

 声だけだというのに今日も今日とてサングラスにアロハシャツなんだろうな、と思わせる軽快な感じで通話が切れていった。

 うん、ああいうのが大物って奴なんだろうな。ヘラッとしているようでいて、すごく話が進んでいくタイプの。

 まあ、これでエニシダさんとの約束は取り付けられた。

 となると次は代理人だな。

 

「ロトム、次はカワサキに繋いでくれ」

「ロトロト」

 

 コールが始まるとカワサキはすぐに出てくれた。

 エニシダさんよりすげぇ早いな。

 

「あー、カワサキか?」

『ヒ、ヒキガヤ!?』

 

 えっ、そんなに驚くことか?

 もしかしてもうカワサキにも情報が届いてる?

 

「明後日の昼にホウエン地方のバトルフロンティアに来れたりしない?」

『はっ? なに、急に。アンタ、バトルフロンティアにでも挑むつもり?』

 

 まあ、そうなるよな。

 けど、バトルフロンティアは既に制覇しているから、今回はそうじゃないんだわ。

 

「いや、もう制覇はしてあるから挑む予定はないな」

『はっ? 制覇してんの? アンタが?』

「そうそう。何年か前に」

『相変わらずめちゃくちゃやってんね………』

 

 あれって結局何歳の時だったっけ?

 キモリを連れて行った記憶はあるが、細かく覚えてねぇや。

 

『それで? 結局目的は何なのさ』

「仕事だな。俺がいない間にエニシダさんとの仕事の代役を務めて欲しいから、一緒に話を聞いてくれるとありがたいなーと」

『仕事?! マジで? あたしでいいわけ?』

「というと?」

『ほら、だってアンタの周りってユキノシタとかその姉とか、優秀なのいっぱいいるじゃん?』

 

 あーね。

 言いたいことは何となく分かったわ。

 確かにユキノたちに任せたら仕事は早いだろうし、さっさと作業開始にまであり付けるだろうけど、生憎今はそれどころじゃないからな。

 

「ちょっと全員今はカロスから離れられなさそうでな。言い方は悪いが俺の動かせる駒でホウエンで活動出来るのはお前しか思いつかないんだわ。それに一応、今もカワサキは俺の直属の部下って扱いになってるはずだし」

『っ…………いいよ、受けてあげる』

 

 普通に理由を話したら、あっさりと承諾されてしまった。

 なのに、何故か声がわなわなしているような気がするのは俺だけだろうか。

 

「おお、マジで?!」

『ただし!』

「お、おう………なんだよ」

『けーちゃん、ケイカを一人には出来ないから同伴してもいいならよ』

 

 え、それだけ?

 というかそんなこと?

 けーちゃんなら別にいいんじゃね?

 

「それだけか?」

『それだけって…………仕事なんでしょ? 小さい子いたら普通邪魔とか言うでしょ?』

 

 言いたいことは分かるが、けーちゃんだしな。

 何だかんだ姉に従順だし、その姉がシスコンだから絶対にけーちゃんを危険な目に遭わせることはないと思うんだよなー。だから大丈夫だろ。

 

「それはそうなんだが………けーちゃんなら大丈夫だろ」

『そんな簡単に言わないでよ。後から文句とか言わないでよ?』

「言わん言わん。何ならけーちゃんにとってはいい社会科見学になるんじゃねぇの?」

 

 うん、中々ない機会だと思うし、折角ならけーちゃんにも外の世界というものを学んで欲しい。

 

『アンタは本当にケイカに甘いんだから…………』

「それはけーちゃんが可愛いのが悪い。んじゃ、明後日の昼前にはバトルフロンティアの入場口にいてくれ」

『はぁ、全く…………了解』

 

 よしよし。

 これでバトルフロンティアについては問題なさそうだな。

 となると次はシャドウポケモンの方か。

 

「ロトム、次は壱号さんに頼む」

「ロトロト」

 

 コールが始まれば、こちらもすぐに出てくれた。

 

「もしもーし、壱号さんの電話でしょうかー?」

『…………電話をしてきたということは、あの動画はフェイク動画というわけか』

「なんすか、藪から棒に」

 

 動画とかって言ってるし、暗殺動画でも目にしたのかね。

 国際警察だし、一番そう言うのに目を光らせているだろうから、可能性としては充分有り得る。

 

『いや、こっちの話だ。それで、今回はどんな無理難題を言い出すのだ?』

「俺が無理難題を言うこと前提なのがおかしくないですかね………」

『よく言う。我々を欺いたその手腕、警戒せずにいられるわけがないだろう? 忠犬ハチ公殿?』

「俺の身元調査を怠ったそっちのミスでしょうに」

『悪人の空気を纏っていない即戦力だ。警察の勘が手放すなと主張してきたのだよ』

「そりゃどーも」

 

 何だろうか。

 評価されているとは思えないくらい嫌味を纏ってるんだけど。

 そりゃ隠してたのは事実だけど、身辺調査を怠ったのは壱号さんなので、俺がとやかく言われる謂れはないと思うんだがな。

 というか、よく最後までバレなかったよな。俺もそこには驚きしかない。

 

『それで? 用件は?』

「あー、しばらく………恐らく三年くらいそっちから連絡取れなくなると思うんでその報告と、その間のシャドウポケモンたちのデータ集めを妹を中心に行っていくんで、連絡係の連絡先を伝えておこうかなと」

 

 俺がいない間のことはオリモトに任せるつもりだ。

 コマチが直接壱号さんとやり取りするよりも、幾ばくか裏社会を知っているオリモトの方が安心出来る。

 それにオリモトも今回のことには結構前のめりになっているから自らデータ収集をしてくれることだろう。

 それを材料に取引出来れば合格点である。

 

『………何をどうしたら三年もの間、音信不通になるなんて酔狂な状況に陥るのだ? 理由を聞こうじゃないか』

「それ聞きます?」

『理由も分からず「はいそうですか」と首を縦に振るわけがないだろうに』

「あー、じゃあ今の状況を説明するとですね、目の前にセレビィがいるんですわ」

『はっ?』

 

 まあ、そうなるよな。

 でも脅し文句にギラティナとか出したのだし、セレビィが出てきても今更だと思う。

 

「しかもこれから三年くらいの時間旅行が始まるみたいでしてね。どこかの地点で何かあって、国際警察として対応が必要そうだったら、こちらから連絡入れることは出来そうなんですけど、そっちが必要とする時に、その時間軸に俺がいない可能性があるんですよね」

『…………やはり君は危険だよ。手放したら危険過ぎる』

 

 こんなヤバい力を悪用されたら、そりゃ危険だわな。

 警戒心が高まるのも理解出来るわ。

 これは一つ、俺に使えるカードを渡しておくか。

 

「あー、じゃあ一ついいこと教えてあげますよ」

 

 どうせいずれ知ることになるだろうし、今知られたところで問題はないはず。

 というか今更手を出してくるとは思えないしな。

 

「今日の昼過ぎからカロスで会見があるんでそれを見ておいてください。多分朗報ですよ」

『会見だと? 一体何についてだ?』

「ヒキガヤハチマンの死亡説」

『はっ?』

 

 これで否が応でも会見について調べることになるはずだ。それで俺の推定死亡ってのが公式に発表されて、晴れてヒキガヤハチマンはこの世界から消える。

 だけど、国際警察はヒキガヤハチマンが生きているという事実を知っているため、何かあらばそのカードを切り出すことが出来るというわけだ。

 

「あとはご想像にお任せします。あ、あと活動休止みたいになるんでその間の給料はカットでいいですよ。それで問題があるんだったら、シャドウポケモンたちを解放するために使ってください」

『ちゃっかり在籍はしたままにしておくつもりか』

「俺の肩書きが一つ無くなるんでね。仮面のハチと黒の撥号は取っておきたいんですよ」

『いいだろう。こちらも送られてきたポケモンたちのリストが完成したところだ。リトレーン資料と纏めて仕分けした後、君の代理人に送りつけるとしよう』

「うす。なら、今から連絡先とか諸々纏めたのを送りまーす」

 

 …………ふぅ。

 壱号さん相手だと一番気を張るな。国際警察だからってのもあるし、上司ってのもあるが、渡す情報を考えて話さないといけない分、余計に疲れてくる。

 

「さて、最後は親父と母ちゃんか…………母ちゃんだけでいいか。ロトム、母ちゃんに繋げてくれ」

「ロトロト」

 

 コールが始まると一分近く待ってようやく出てくれた。

 仕事中だったかな、時間帯的にも。

 

「あー、母ちゃん。今いいか?」

『なに? アンタから掛けてくるなんて珍しいじゃない』

 

 ……………確かにカロスに来てからも母ちゃんたちに連絡入れてたのってコマチ経由だった気がするわ。

 自分から連絡したのなんて何年ぶりだ?

 

「あー、いや、まあ、そうなんだけどさ。俺、これから表向き死んだことになるからその報告をと」

『はい? 死ぬ? 自殺するの?』

 

 母上様よ。

 もしかすると俺が自殺願望者かもしれないのに、直接聞いちゃったら余計その路線に突き進んじゃうんじゃねぇの?

 もっと慎重にだな、言葉を選んでくれないだろうか。

 

「いやいやいや、本当に死ぬわけじゃないから。つか俺だってまだ死にたくねぇよ。大事なもん残してんのに死んでたまるかよ」

『じゃあ何が目的?』

 

 うっ、良くも悪くもハッキリさせたいタイプだからなー………。

 

「コマチたちを守るため、かな。俺が悪目立ちし過ぎたことで物理的に俺を排除しようとしてくる輩が出始めてきてな。コマチたちに被害が及ぶ前に身を引こうかなと」

『そう。……………アンタはそれでいいわけ?』

 

 ……………本当にこの母親は。

 的確に俺にダメージを与えないとペナルティでも課せられてしまうのだろうか。

 核心を突いてくるんじゃありません!

 

「………よくはねぇけど、それしか思いつかないしな。それにメインアカウントが無くなるだけでサブアカはまだ生きてるから、どうにかなると思う」

『メインアカウントって…………ゲームじゃないんだから、死んだら終わりなの分かってる?」』

 

 そんなのは百も承知である。

 というか生きててよかったーと思う経験をしているくらいだ。

 

「分かってるよ。実際に死の淵を経験したからこそだ」

『そう…………なら、何も言うことはないわ。納得のいくまでやり切りなさい』

「お、おう。親父にも伝えといてくれ」

『ん、了解』

 

 ………………うーん、実の息子が結構ヤバいことを口走っていたというのに、何故にあんな冷静だったのだろうか。

 それとも内心驚いていて焦っていたけども、冷静に努めていただけとか?

 考えても想像がつかないな。コマチならもう少し具体的に母ちゃんの内心を探ることが出来ただろうが、俺には無理だな。

 

「ハチマン、会見が終わった後なのだけれ………セレビィ!?」

「ビィ?」

 

 するとユキノが部屋に入ってきて、俺の肩に座っているセレビィに驚いていた。

 

「…………とうとうというかやっとというか、迎えが来ちまってな」

「そう…………」

 

 セレビィが現れた。

 それだけで今後の展開は否が応でも想像出来てしまったのだろう。

 急にしおらしくなるゆきのんマジ可愛い。

 

「一応、まだ待ってもらってはいるが結構ギリギリだと思う。そもそもの話、正規ルートではない方法で時間軸から外れた俺を発見するのに三年を要しているんだ。刻一刻を争う状況なんじゃねぇかな、知らんけど」

 

 俺も確かなことは言えないので、取り敢えず今の状況だけを説明する。

 

「みんなを呼んでくるわ」

 

 ユキノは意を決したように顔を上げて来た方向へと踵を返した。

 

「ああ、なら中庭に行ってるわ。ポケモンたちも出したいし」

「分かったわ」

 

 ユキノが人を集めに行くのを見送り、俺たちも中庭へと向かう。

 まだちゃんと確認してはいないのだが、時間軸の関係で連れていけるポケモンとそうでないポケモンがいるはずなのだ。具体的に言えば、俺がウルトラホールで事故った時に手持ちだったサーナイトとガオガエン、ダークライとクレセリアにウツロイドの五体は、俺と同じく元の時間軸に戻る必要があるため、俺と一緒に行くべきだろう。そして事故った相手であるジュカインもまた飛ばされた場所が違っただけで、タイムスリップした期間は同じであるため連れて行くべきだろう。

 逆にガラルで出会ったウルガモス、ヤドラン、キングドラ、ドラミドロ、ザルード、エンニュート、ロトム、そしてギャラドスたち。

 この九体はタイムスリップしたわけではないため留守番となるはずだ。

 そのことを確認ついでに説明しないといけないため、一度に出せる開けた場所をと思って中庭を選んだ次第だ。

 

「あ」

 

 中庭に来たら、ボスゴドラとヘルガーがいた。

 ガッツリ目が遭ったかと思うと、ヘルガーが一目散に掛けてきて押し倒されてしまった。

 君、普段はもっとクールだよね?

 こんなに俺の顔を舐めてくるの初めてじゃない?

 あと、ボスゴドラさん?

 何気にでんじふゆうを使いこなしてますね。重たい身体が浮いてやってくるとか、びっくりだよ?

 

「………悪いな、お前ら。心配かけた」

「ゴラ」

「ヘゥ」

 

 イロハから聞き及んではいたが、リザードンとゲッコウガがイロハと一緒にガラルに来るに辺り、戦力を残しておくという意味合いでもヘルガーとボスゴドラは留守番となったんだよな。

 俺が消え、立て続けに妹のコマチが狙われ、リザードンとゲッコウガはコマチの方に行ってしまうしで大変だっただろう。

 ボスゴドラはまだ群れを率いていた経験があるため、自分を落ち着かせられただろうが、ヘルガーにはそんな経験がないからなー。強いて言えば、元ダークポケモンってことくらいか?

 とはいえ、それが今回のことに何か役に立ったかは当人以外は分からない。

 ………うん、やっぱり俺一人の命でここまで混乱を招くとは、さっさと表社会とはさよならバイバイした方が気が楽そうだわ。

 さて、気を取り直してまずはこれを確認しておかないとな。

 

「………なぁ、セレビィ。今回の時渡で連れて行けるのって限られてくるよな?」

「『はい、ジュカイン、サーナイト、ガオガエンと白い生命体のみです』………白い生命体ってウツロイドのことか。………ん? ダークライとクレセリアは?」

 

 ダークライの火の玉に訳された中にはダークライとクレセリアがいなかった。

 あれ? 連れて行かない方がいいのか?

 

「『この二体のみ、どちらでも問題ありません。既に一度存在が消え、再構築されてますので、例外となります』…………例外?! まさかの?!』

 

 なーにーそーれー。

 いや、てか一度存在が消えたってことはやっぱりあの時俺とユキノを助けるために力を使い果たしていたってことだろ…………。

 やべぇな、まさかこんなところにまでギラティナの世話になっていたとは。

 

「ヒッキー!」

「先輩!」

「ハチマン!」

「ハチえもーん!」

 

 おいこらザイモクザ!

 可愛い声の中に野太い声を混ぜるな!

 

「全員出てこい」

 

 取り敢えず、時間が惜しいため先に伝えることは伝えてしまおう。

 

「ウルガモス、ヤドラン、キングドラ、ドラミドロ、ザルード、エンニュート、ロトム。お前たちは留守番だ。連れて行けるのは俺と一緒にタイムスリップしたサーナイトたちだけでな。その間、俺の大事なもんを守っててくれねぇか?」

「モス」

「ヤーン」

「ドラドラ!」

「ミー」

「………」

「ニュー!」

「ロト!?」

「あだっ!?」

 

 何故かキングドラとエンニュートに押し倒されてしまった。

 ねぇ、何なの君たち。

 俺を押し倒すのが流行ってたりするの?

 あと、キングドラさん。あなた人型じゃないから全身の重さが乗っかってきて、押し潰されそうなんですけど………!

 

「…………お、落ち着け………マジで、潰れる………」

 

 キングドラに腹上死させられる前に解放してもらい、身体を起こす。

 エンニュートが腕に絡み付いて離れない。あ、頬擦りまでしてる。

 離れ難く思ってくれるのは嬉しいのだが、逆に置いていって大丈夫なのかと心配にもなってくる。

 そして、ロトムがスマホから飛び出て地面を転がり回っているのは何なのだろうか。

 

「リザードン、またしばらくお別れだが、みんなのこと頼むぞ」

「シャア!」

 

 ここはやっぱりリザードンに頑張ってもらうしかない。

 ゲッコウガもジュカインもいない今、このメンバーを統率出来るのはリザードンだけであろう。

 

「お前らもごめんな。折角再会出来たってのに早々に置いてけぼりにすることになって」

「ギャオ」

「ギャオス」

 

 ギャラドスたちなんかは居場所が目まぐるしく変わって気持ちの落ち着けようがないんじゃなかろうか。

 その原因の一端となっている俺が言うのもアレだけど。

 とはいえ、これに関しては俺を釣り出すための人質………もといポケ質に使ったサカキが全面的に悪いため、恨むならサカキを恨んでくれ。

 まあ、この二体に限ってはないだろうけども。

 それでも振り回してしまうのは申し訳なく思っている。

 

「あ、そのギャラドスたちって………」

「あ、そうか。ユイは知ってるんだったな。そうだ。クチバの海にいたあいつらだ」

 

 ユイが反応を示したことで俺もようやく思い出した。

 そういえば、ユイはクチバの海でこの二体に会ってるんだったな。正確には俺がこいつらといるところに出会した、という方が正しいか。

 

「わあ、ほんとに?! 久しぶりだね! あたしのこと覚えてる?!」

「ギャオ?」

「ギャオス」

「ギャオー」

 

 どうやらオスの方は分からなかったみたいだが、メスの方が覚えていて、オスの方も言われてようやく分かったようだ。

 アレかな、髪色のせいかな。

 いや、でも黒髪の頃に会ってたっけ?

 俺も正確には覚えてねぇや。

 

「こうして全員集合していると豪華なメンツですよね、先輩のポケモンって。ゲッコウガがいませんけど」

「お前も人のことは言えなくなってるだろうが」

「何のことやら……」

 

 コノヤロ………。

 ちゃんとこっちを見ていいなさい。

 

「てか、ユキノ先輩固まってません?」

「は?」

 

 イロハに言われてユキノを見ると確かに固まっていた。

 固まってある一点を見つめている。

 

「ユキノ? ユキノさーん? おーい」

 

 ユキノの顔の前で手をひらひらさせても反応がない。

 そんなに固まって何を見て………ああ、そういうことか。

 

「…………ユキノ、クレセリアを連れていくか?」

「えっ………? で、でも………」

 

 ようやく反応を示したものの、ユキノ自身どう答えるのが正しいのか戸惑っているようだ。

 生憎、ダークライとクレセリアは例外みたいだからな。元々ユキノに引き渡すために連れてきたのだ。そのタイミングがいつにすればいいのか分からなかったが、問題ないとなれば今渡すのがベストだろう。

 

「ダークライとクレセリアは一度存在が消えた身。だからか、時間に縛られない存在になっちまったらしい。つーわけだから問題ないぞ」

「クレセリア………!」

 

 問題がないこと伝えるとユキノは一目散にクレセリアの元へと走っていった。

 やっぱり自分を助けるために力を使って消えていった存在が、帰ってきてくれたってだけで嬉しいもんな。

 

「…………なんか、久しぶりだな。こういうの」

「どうしたんですか、そんな感傷に浸った顔をして。気持ち悪いですよ?」

 

 ……………ナチュラルに気持ち悪いとか言うなよ。

 俺が感傷に浸ってるなんて気持ち悪いだろうけども。

 それは言わない約束でしょうに。

 

「…………結局、ハルノとは会えなかったな」

 

 話を変えるためにハルノがいないことを話題に出した。

 理由は言わずもがな。

 ヒラツカ先生に付きっきりで面倒を見るため。

 俺が帰ってきたことも伝えたようだが、ハルノ自身も相当参ってるようなので、したいようにさせておこう、ということになっている。だからここにいないのだが、帰って来てから一度も顔を見てないとなると、少し寂しい気持ちにもなる。

 多分、俺は時渡によってあと数日とか一週間とか、一ヶ月はないと思うが、所詮はそれくらい期間ぐらいだが、ハルノたちはこれから三年近く会えなくなるのだ。俺もそれくらいの期間会えてなかったのは同じだが、何だかんだで忙しくしていたから、気が紛れていたのは確かだ。

 だからこれからハルノたちも気が紛れることがあれば、寂しさも忘れていられるだろう。

 まあ、それで身を粉にして働いて倒れられたら本末転倒だけどな。

 

「一応伝えたのだけれどね。ヒラツカ先生を一人にしたくないみたいよ。地位も名誉も全部捨ててもいいから、先生の面倒を見るんですって」

「……………先生もだけど、ハルノも相当参ってるみたいだな」

 

 あのハルノがそんな考えに至るとは…………。

 

「そうね。姉さんに取ってヒラツカ先生は唯一年上だもの。甘えられる数少ない相手ってこともあって、動揺してるんじゃないかしら。あんなに人に執着する姉さんは初めてよ」

「ユキノには苦労をかけるな」

「あら、今に始まったことじゃないわ。昔からあなたにも姉さんにも苦労かけられっぱなしよ」

「そりゃ面目ない」

 

 ぐうの音も出ないわ。

 

「ユイ、イロハ。知っての通り、ユキノは一人で背負い込む節がある。だからそれとなく助けてやってくれ」

「うん、分かったよ!」

「先輩、それ人のこと言えます?」

「…………何のことやら」

 

 さっきのイロハじゃないが、視線を合わせて辛い………。

 

「ねぇ、ハチマン。ちゃんと帰ってくるよね?」

「それはセレビィに聞いてくれ」

「えぇ!?」

 

 コルニは本当に心配なのだろう。

 俺の一言一言にすごい気にしている気がする。

 

「冗談だ。何が何でも帰ってくるよ」

 

 どうあったって、俺はここに帰ってくると誓ったんだ。

 誰かに邪魔されたって帰ってくる。

 

「ザイモクザ、みんなのこと頼むぞ」

「ハチえもーん、トツカ氏もいない中、この女子連中の中に男が身一つでいるのは結構キツいのだが………?」

「諦めろ」

「グハッ?!」

 

 こいつ、いつまで経っても暑苦しいのな。

 懐かしさを通り越して暑苦しいわ。

 

「おい、変態博士。ちゃんと手筈通りにやってくれよ」

「分かってるさ。君が文字通り人生を懸けて彼女たちを守ろうとしているんだからね。抜かりなくやるつもりだよ」

 

 変態博士ーーもといプラターヌ博士にはこの後の会見でウツロイドの危険性を説明してもらい、それ故に俺は助からないというシナリオにした。

 だから俺の立ち位置が決まってくるのはこの変態に掛かってると言っても過言ではないのだ。

 本当、抜かりなくやってくれよ。

 

「ビィビィ!」

「ん? おう、時間か。んじゃ、行ってくる」

 

 セレビィがそろそろと俺の周りと回り始めたので、サーナイトたちをボールに戻し、リザードンにサーナイトたち以外のボールを預けた。

 

「「「行ってらっしゃい!」」」

「ハチマン、ちゃんと帰ってきてねー!」

 

 白い光に包まれると目の前の景色が一瞬にして変わった。

 

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