視界が安定すると風景は変わっていた。
ただ、見たことのある場所ではある。
「ちゃんとフラグ建てが成立してたみたいだな」
恐らくセレビィが現れてからエニシダさんに連絡を入れて新たなフラグを建てること自体が既定路線だったのだろうが、こうして直前に建てたフラグが早速回収されようとしているのは安心感を覚えるな。
これで無視されてただただ辻褄合わせをやらされていたら、俺はただの世界の歯車でしかなくなってしまうし、俺である必要もなくなり世界を恨んでいたかもしれない。
まあ、そうならなかったのは目の前の建物を見れば分かる。
ホウエン地方バトルフロンティア。
その正門前近くの物陰に降り立ったということはそういうことで間違いない。
取り敢えず中に入るか、とふらっと正門に近づこうとしたら、目の前を青みがかかったポニーテールが歩いていった。
「あ、カワサキいた」
「ッ!?」
声に出ていたのだろう。
ギョッとした顔でこちらを見やると顔を赤くし始めた。
「あ、あ、あ、あんた………生きて………!?」
まるでお化けを見るような反応なのが解せん。
まあ、カワサキはお化け無理らしいからな。ゴーストタイプも苦手とか誰かが言っていた気がする。
妹のけーちゃんは何故かゴーストタイプのポケモンに懐かれてるんだけどな…………。
「ん? 生きてるけど? えっ? なに? どしたん?」
「アンタが死んだって会見まで開いてたから………!」
言いたいことは分かるが、分からない体で聞き返したら、やはりユキノたちの会見を見ていたらしい。
…………無事に会見は開けたようで安心だな。しかもこうやって俺が死んだと思い込ませることが出来ているのだ。
結果は上々だろう。
「あー、見ちゃったのね」
「よかった………よかったぁ………」
「取り敢えず、こっちに」
若干涙目になっているカワサキを物陰へと誘う。
「えっと………まあ、アレだ。いつもの厄介事ってことで」
「………厄介事の範疇超えてるし」
「なら、何と表現しろと?」
「殺人未遂………暗殺未遂………人災……」
確かにそうなんだけど、それすらも事の一抹でしかないんだから、やはり厄介事ってことになるんじゃないかなーと思うわけですよ。
「それはそうなんだが、それすらも事の一抹でしかないんだわ」
「はっ?」
「生きて現世に戻って来られてもそこからまた厄介事が連続して起きるっていう負の連鎖がね、あったわけですよ」
もうね、本当にあの時は嫌になったね。
そこから迎えが来るまでがまた長かったし。
「呪われてんの?」
「かもしれん」
本当に俺って呪われてるんじゃないかと思う。
それにしても、だ。
こいつ俺が死んだっていう会見を見たくせに、よくここに来たよな。
「お前もよく来たな。会見で俺が死んだって知ったなら、ここには来ないかもって思わなくね?」
「そ、それは……だって………アンタのことだからひょっこり現れそうな気がして」
「死んだと思ってたのに?」
「そう受け止める自分と信じたくない自分がいたってこと!」
顔を真っ赤にして胸ぐらを掴んでくるカワサキ。
そこ、そういう反応するとこじゃなくね?
少なくとも胸ぐらは掴まんでしょうに。
「よかったな、賭けに勝てたようで」
「まさか本当にひょっこり出てくるとは思ってないし!」
ぐわんぐわん揺さぶられて視界が揺れる。気持ち悪い。
「と、取り敢えず、中に入ろうぜ。エニシダさんを待たせるのも悪いし」
「アンタ、本当に何なの? 何でそんな大物と………」
やっと解放されたため、リュックからガオガエンの覆面を取り出して被る。
「…………なにその格好」
「仮面のハチという第三の顔」
ジト目とかやめよう?
睨まれてるようにしか見えないから。
胸ぐらを掴まれた後だから余計にそう見えてしまう。
「第三? 第一は?」
「ヒキガヤハチマン」
「じゃあ第二は?」
「うーん、まあカワサキならいいか。国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号」
「長っ!? え、てか、国際警察………?」
「そう、ほら。オフレコだぞ」
警察手帳も見せてやる。
「うっわ、マジの奴だ…………」
何故かドン引きだった。
「………だからヒキガヤハチマンの名は捨てたってわけ?」
「そういうことだな。ついに俺も命を狙われるようになったんだ。巻き添えでお前らを巻き込むくらいだったら、俺が消えた方が話は早い」
結局のところ、ヒキガヤハチマンが生きているから起きた事件なわけで、このまま消えた方が周りのためだ。
「ユキノシタたちは知ってんの?」
「一応は伝えてあるぞ。ぼかしたけど」
策はあると伝えてはいるが、国際警察のことも仮面のハチのことも具体的には伝えていない。俺がいなくなった後にサカキが伝える可能性もあるが、そこはもうどうしようもないため諦めるしかないが、それであいつらが事件に巻き込まれるようであれば、全面的にサカキたちが悪いことにして呪ってやろう。
それに、だ。国際警察はともかく仮面のハチはこの覆面にダンデ特注のあのユニフォームだぞ?
絶対に笑われる。
「ダメじゃん。一番大事なとこじゃん」
「そうは言ってもコレだぞ? 絶対に笑われる」
いつの間にかルリナに撮られていて、いつの間にか送りつけられていた全身バージョンの写真を見せてやる。
「ふっ、ふふっ………イッシキ辺りは絶対笑いそうだね」
笑うの我慢しようとして鼻で笑うんじゃねぇよ。
「………そのイロハには多分知られてるんだよなー」
カロス組の中で唯一コマチを助けに来たからな。カブさんたちにも会ってるし、どこからか仮面のハチの情報を仕入れてそうで怖い。それかこれから仕入れそうである。主にコマチ経由で。
「うっわ………」
やめい。
そんな可哀想なものを見るような目でこっちを見るな。
「ん、んん。つーわけで、これでアポ取ってあるから堂々と入るぞ」
「不審者でしかないんだけど」
「それは言っちゃお終いよ」
ガラルならまだ受け入れられているが、それ以外のところなら確実に不審者でしかないのは分かってるって。
このままロビーに入ると、ジロジロと俺に視線が集まってきた。
「いらっしゃいま………せ…………。ん、んん。どうされました?」
受付のお姉さんは俺を見ると一瞬固まった。が、咳払いをして瞬時に再起動した。
流石プロフェッショナル。
「エニシダさんにアポ取ってある仮面のハチです」
「仮面の………あ! 申し訳ございません! すぐにオーナーにお伝えします!」
一体何て伝えてあるのだろうか。
そんな慌てるような言い方してたのかと疑っちまうぞ。
「オーナーが部屋でお待ちです。ご案内致しますね」
電話で確認を取ってくれたお姉さんがそのまま先頭に立って案内してくれることになった。
えっ、てか、この建物にいるの?
「だ、大丈夫なの?」
「多分……」
お姉さんの後に続いて階段を登り二階に上がると、奥の部屋へと案内された。
「オーナー、仮面のハチさんです」
『いいよー』
部屋に通されるとエニシダさんがソファで新聞を読んでいた。
白短パンに水色のアロハシャツ。しかも室内なのにサングラスといういつも通りの姿と言えばいつも通りの姿ではあるが、これを似た体型のザイモクザが真似するとあら不思議。暑苦しさが増すんだよなぁ………。俺の脳内変換がイカれてるだけかもしれないが、これも一重にこんな姿をしていてもエニシダさんには品があるからだろう。
「…………直接目にすると強烈だね、それ」
「言わんで下さい。自覚はあるんで」
そう言いながら覆面を取る。
「久しぶりだね、ハチマン君」
「お久しぶりです、エニシダさん」
「あれ? そこの彼女は?」
「ああ、俺がいない間の代理人です」
「ああ、そういうことか」
チラッと見るとカワサキが縮こまっている。
いつもの強気なのはどうした。
キャラ変わり過ぎだぞ。
「まあ、二人とも掛けて」
対面のソファに腰を下ろすと隣にカワサキも恐る恐る腰を下ろした。
そんな緊張しなくてもいいだろうに。
「それで? 早速だけど例の計画の詳細を聞かせてもらえるんだよね?」
「うす」
テーブルに折り畳んだ新聞を置いたエニシダさんが両指を絡めて、その上に顎を置いて前屈みになってくる。
「まず、先に伝えていたように新しいバトルフロンティアを作ろうと思います」
まずは結論を伝えた上で内容を伝えていく。
「ターゲットは各地方のチャンピオン、四天王、ジムリーダー等のトレーナー育成に携わる職業がメイン。また元職や………トラブルと赤い糸で結ばれている図鑑所有者辺りも入れるようにしようかと」
「目的は?」
「一般トレーナーを育成する機関はあれど、育成するトレーナーを育成する機関はないんで、それを実現しようと思ってます」
「一般トレーナーを育成するトレーナーを育成する機関、か。面白いアプローチだと思うよ。けど、その育成する側の人選はどうするんだい?」
感触は良さそうだな。
「もちろん俺とその周りの奴らですよ。右も左も分からないトレーナー相手ならいざ知らず、最低でもジムリーダー級が来るんだから、俺たちのやることなんてバトルの相手をするくらいですし。求められるのは資格よりも実力かと」
普通ならジムリーダー試験やら色々と資格取得があった上でこういう役回りに就いていくのだろうが、今回のプロジェクトに関してはぶっちゃけ強い奴のバトル相手をするってだけだから、実力がある程度あればいいと思っている。
そりゃコマチとかにダンデとフルバトルしろ、なんてのは無理だろうけど、コルニ相手なら立ち回れるだろうし、そこは俺たちの中でも誰が誰の相手をするなどは後々考えればいいことではある。
あ、というかだ。あいつ、これからジムチャレンジに参加するみたいだから、下手したらダンデとフルバトルすることになるのか。
大丈夫かな………。
「君の周りって、今誰がいるんだい?」
「チャンピオン歴のあるユキノシタ姉妹に、シャラジムのジムリーダーよりも強いと評されているジムトレーナーに、次期四天王。んで、俺の妹とその彼氏に一応部下になるザイモクザに、スクールの先輩と元担任………は今ちょっとアレですけど……。それとこのカワサキですかね。最終的には少し変わるかもですけど」
「十人前後ってことか。それにしても前半キャラ濃くないかい?」
「付け加えるのならば、ジムトレーナーと次期四天王は妹と同期のトレーナー歴二年目たちですよ」
「何があったらそうなるんだい………。図鑑所有者でもそこまで至るのに数年はかかってると思うんだけど」
「でしょうね。俺もお手上げ状態ですよ」
何気に役者は揃ってるからな。
遜色はないと思いたい。
「ね、ねぇ、ヒキガヤ。何で私もアンタの構想に入ってるの?」
隣で聞いていたカワサキが恐る恐る聞いてきた。
「そりゃ、だってお前は安定した仕事を求めてるだろ? 俺の部下ってだけじゃどうも気が収まらないらしいし、それなら目に見える形で仕事をしてもらおうかなと。バトル担当兼メイドとして。それに施設が完成すれば、けーちゃんも住めばいい」
「ちょ、ちょっと待って! 今、なんか不穏な単語が聞こえたんだけど!」
「不穏な単語?」
「メ、メメメメイドって………!」
ああ、そのことか。
「ほら、ユキノシタ姉妹はポケモン協会のことがあるし、ユイはジムがあるし、イロハは四天王の仕事があるだろ? だからフロンティアの運営はほとんど俺一人でやることになりそうだし、コマチたちに手伝ってもらうつもりとはいえ、完成後までに何か他のことをやってたら引き続きそっちをってことになりそうだから、確実に一人は俺の補佐が出来る存在が欲しいわけよ」
未来のことなんて分からないしな。
現時点で考えられることは対処しておきたいのだよ。
「で、でもそれならメイドじゃなくてもいいでしょ!」
「なら執事にするか?」
「そういう問題じゃない!」
我儘だなー………。
どっちも似合うと思うんだが。
「まあ、格好は何でもいいんだよ。やることがメイド業になりそうって話だから」
「メイド業…………つまり、ハチマン君の身の回りのお世話ってわけだね」
「仕事してたら多分確実に生活がダメになるでしょうからね」
「多分といいながら確実なのか………」
「ユキノたちも忙しいだろうし、コマチも彼氏が出来たから構ってくれないだろうし、ザイモクザの相手はしたくないし、そうなると仕事するしかないし、仕事に没頭すると身の回りのことにやる気が起きなくなるじゃないですか」
なんかそんな未来になりそうで怖いんだよな。
何だかんだ言って俺がやるしかない、みたいな。
そうなると実質俺一人で回さないといけなくなるから、男の一人暮らしのようになりそうな予感がするわけだ。多分、確実に。
「……………あー、もう、分かった! 分かったよ! やればいいんでしょ、メイド!」
なんて言ってたら、あっさりとカワサキが折れた。
これで料理人を確保出来たな。
ぶっちゃけカワサキ以上に家庭的な万能型はいないから、これで安心である。
「ああ、それと一応完成図というかイメージというか、書いてきましたんで」
「おおー、見事だね。君が書いたのかい?」
「やだなー、そんなわけないじゃないですか。数学が苦手な俺がこんな………これは話を聞いていたサカキがささっと」
「…………意外な一面だね。あの人、ちゃんと仕事出来たんだ」
あ、やっぱりエニシダさんでもそう思うのか。
サカキがこんなまともなものを作り上げるなんて、普段見ることなんてないしな。悪名高いサカキ様がこんな、ねぇ?
「決断力と行動力は知っての通りですけど、俺もささっと完成図を書くのは初めて見ましたよ」
「こりゃ組織も大きいわけだ。しかも提案されているのが一島一バトルフィールド。それと中央に居住区と受付本部の島をって、結構理に適ってるね。というか海上に作る前提なのか。あ、しかも各島が独自に動かせるようにしろだって? また高度なことを要求しているね、彼は」
俺が説明するまでもなく読み解いていくエニシダさん。
サカキって本当に優秀だったんだな。それが何で裏社会なんかにいるんだが………。
というか普通にロケットカンパニーって会社の社長でもあるから、それだけロケット団のイメージが強すぎるだけか。
社長なんだよ、あいつ。あれでも。
「それで施設内の設備はどうしたい?」
「そうですね。そこに書かれているようにバトルフィールドは五つくらいはあった方が運営しやすいでしょうし、俺たちの居住区も欲しいですね。そこに別棟で来客用のホテルっぽいものでもあれば、宿泊費込みで金も取れるかと。どうせバトルバカたちは果てるまでバトルするでしょうし、そこから帰るってなると周りが迷惑でしょうからね」
「実体験のように語るね」
「実体験ですからね」
一番やらかすであろうダンデを基準に考えているからな。
それに付き合うキバナとか。
何だかんだ着いてきて混ざるルリナとかカブさんとか。
…………やべぇ、ガラル組しか思い浮かばねぇわ。カロスのジムリーダーが皆まともだから、そんなこと考える必要ないから余計にあいつらでしか思い浮かばねぇ。
「資金繰りはどうする? こちらでやるかい?」
「そうですね。その辺は俺は専門外ですし。ああ、でもデボンコーポレーションとユキノシタ建設には声をかけて欲しいですね。ダイゴさんとかも何だかんだ来そうだし、それなら一枚噛ませてワープ装置なんかも設置してもらえれば移動も楽かなと。あと、半年後に開かれるカロスのリーグ大会後にはアローラのエーテル財団にも声をかけて欲しいです」
是非ともデボンコーポレーションは招き入れたい。
どうせダイゴさんとかも飛びついて来そうだし、それならあのワープ装置とか設置してもらえると陸地との行き来も楽になるし、カロスだけでなくカントーやホウエン、ガラルやアローラにもワープ装置で繋げられれば、それだけで行き来が楽になるし、それだけ気軽に来てもらうことも出来る。
「半年後? 他と期間を空ける必要があるのかい?」
「ええ、まあ。………エニシダさんは俺の暗殺映像は見たんですよね?」
「まあね。分析にも回して君が二度程刃物で刺されているのも特定済みだよ」
「そんなことまでしてたんすか………。ぶっちゃけた話、最後俺は空間の裂け目か何かに吸い込まれていったでしょう? アレ、引き摺り込まれたのが破れた世界なんですよね。そこで傷を癒しながらダークライたちとサーナイトのことを鍛えていたところ、ギラティナに追い出されて現世に戻れたのが半年後のアローラ地方だったんですよ」
「……………うん、めちゃくちゃなのは理解したよ。で、そのアローラで出会ったのがエーテル財団というわけか。しかもトップに近しい人物」
「そういうことです。因みに代表の息子で代表代理のグラジオってのですね。見返りは代表家族の入場資格とか、デボンコーポレーションとのコネクションとかでいいかと」
グラジオ以下エーテル財団には世話になったからな。
これくらいはしてもバチは当たらんだろう。
「なるほどね。伝が出来上がるのが半年後だから、そこから協力の交渉をした方がいいというわけだね」
「俺の名前とこれを渡してくれれば協力してくれると思うんで」
一応用意しておいたグラジオ宛ての手紙をエニシダさんに渡した。
「君はアローラで何やったんだい…………」
「別に大したことはしてないですよ。島の守り神たちが襲ってきたので、フルボッコにしただけですって」
「やってるね………」
それは襲ってくるあいつらーーカプ・テテフとカプ・レヒレだっけ? が悪い。
カプ・ブルルなんかよく分からん生き物だったし、まともなのがバトル好きなカプ・コケコだけってどうかと思うわ。
いや、アレもアレでまともではないか。
総じて守り神は変なのしかいないってことだな。
「それで話を戻すと、バトルの設備にはメガシンカにZワザ、ダイマックス等が使えるようにしておいて欲しいです」
「メガシンカとZワザは問題ないだろうね。どちらもトレーナー側が必要なものを手に入れるだけでいいんだから。それよりもダイマックスとテラスタルだね。ガラル粒子やテラスタル結晶がないと使えない代物だ。ダイマックスバンドやオーブはどうにかなっても、根本的なエネルギーが充満していないと使えないからね」
テラスタルって何か聞き覚えがあるが、思い出せないから今は流しておこう。
「難しいですかね。というか当たり前のようにご存じなようで」
「これでも情報を集めるのが仕事みたいなものだからね。パワーアップギミックに関してはやれることはやってみるよ」
お、それならこれも渡しておくか。
「よかった。それならガラル粒子についてはガラルのマグノリア博士にこれを渡して下さい。手段の一つとして協力要請の書類を作っておきました。随分前にですけど」
「用意がいいね。というかそこにも既に伝があるのに驚きだよ」
「孫娘の方とちょっと縁がありましてね」
ソニアな。
本当、ガラルではダンデとソニアに振り回された記憶しかないわ。
早よ、くっつけ。
「どうだい、君の主の仕事ぶりは」
「あ、いや、その………優秀なのは知ってましたけど、実際目にすると恐ろしい、ですかね………」
急に話を振られてカワサキはしどろもどろになっている。
俺もこんなだったんだろうなと思ったが最後、嫌ーな記憶が蘇ってくる。
いや、うん。ユキノたちに鍛えられるまでは本当にこんな感じだったと思うわ。
「はっはっはっ! そうだろうね。次から次へと突拍子もないことが口から飛び出てくるんだから、ボクも恐ろしいよ」
笑いを堪えることもなく大きく笑うエニシダさん。
本人を前に酷くない?
突拍子もないかもしれないけど、俺に起こることの方が突拍子もないし、恐ろしいんだけど?
命まで落としかけてるんだし。
「でもね、これだけは覚えておいた方がいい。身近に感じているから分からないのかもしれないけど、ボクたちからしたらハチマン君は充分に大物だ。ボクだって自分が大物だと思われているのは認識しているけれど、ハチマン君はボクたちと対等以上の大物だよ。だからこそ、名のある大物たちとも繋がりがある」
……………そう言われる程、出来た人間じゃないんだけどな。
なんか知らんけど、縁が出来ていたってだけの話だし。
「まあ、実物は小物感が半端ないんだけどね」
「酷ぇ………」
この下げて上げたかと思ったら、また一気に落とすというね。
これは新手のいじめではないだろうか。
「だから今回は命を狙われたし、ハチマン君もこれを機に目立ち過ぎた表社会から消えることを決断した。そうなのだろう?」
「ええ、まあ。そんな感じですね。大変遺憾ながらも。俺はただやらなきゃいけないからやってただけだってのに」
「そしてボクに仕事場兼隠れ蓑の用意を頼みに来たわけだ」
「まあ、そういうことになりますね」
言い方よ。
それではまるで俺がエニシダさんに集りに来たみたいではないか。
ある意味間違ってはないけども、それは言わない約束でしょうに。
「いいよ。引き受けた。そもそも君はボクの中でフロンティアブレーン候補だったからね。それに育成する側を育成するっていうコンセプトは面白いと思うし、需要は確実にある。しかもヒキガヤハチマンはいなくなっても、表向きの姿は既に別のを用意されているから問題はない。ないどころか、ガラルでチャンピオンに並ぶ実力者で有名な仮面のハチがトップのバトルフロンティアなんて、世界の名だたるトレーナーが来たがると思うよ。これで断ったら、機会損失の大きさに思わず寝込んじゃうね」
もう本当によく分からないよ、この人。
サカキといい、エニシダさんといい、金のある人間の思考はいつだってよく分からない。
あれかな? 俺も大金を手にすれば同じ思考になれるのかね。
………………いや、金ならあったな。使ってなかったから貯まってたが、カロスの復興やらシャドウポケモンのリトレーン用にってポンポン使うことになってるから、俺自身には殆ど使えてないんだったわ。
なら、根本的に思考回路が違うということだろう。
エニシダさんの言う通り、実物は小物なんだよ。
「一般トレーナーには開放しませんけど、人来ますかね」
「逆に来るんじゃない? 大勢のファンに取り囲まれる心配もないし、コンセプトからしてもチャンピオンや四天王、ジムリーダーの新たな戦略を見つける場を設けるってことでしょ? しかも海上に作るってんだから、ファンに見つかる心配もない。秘匿性を重視してもらうようにすれば、愛用される場になるんじゃないかな?」
「それはよかった」
これで心配事はなくなったな。
あとはエニシダさんがいいようにしてくれることを期待しよう。
「んじゃ、あとはお任せします。居住区の方はカワサキの好きなようにしてくれて構わない。特にキッチン周りとか、自分の使いやすいものを発注してくれていいし、レイアウトも任せる。一人で考えるのが難しかったらそれとなくユキノたちに聞けばいいからな? 最悪ザイモクザを扱き使え」
「ハチマン君ってなんだかんだ過保護だよね」
過保護というか無理して倒れられたら元も子もないってだけの話なんだよな。
倒れられたら最悪計画が頓挫することになるし。
代わりを用意しようにも、俺は今からまた時間旅行が始まるわけだし、対応出来ない可能性が大いにあるのだ。
だから無理はしないでくれよ。
「わ、分かったから! アンタが帰ってきた時に問題ないように仕上げておくから!」
顔を赤くしてカワサキが手で俺の口を塞いでくる。
「ビィビィ!」
「うわっ、な、なに………!?」
するとカワサキの顔の前にセレビィが現れて、カワサキが慌て出した。
さっきから忙しいな、こいつ。
「もう迎えに来たのかよ。というかいつの間にか消えていたけど、今までどこにいたんだよ」
「ビィビィ!」
「はいはい、分かった分かった。んじゃ、エニシダさん。あとはカワサキを使って完成させといて下さい」
セレビィが急かしてくるので、先に挨拶だけ済ませておく。
「いやー、まさかのセレビィの登場かー。時渡の途中かい?」
「そうなんですよ。元の時間軸に戻る間にフラグを回収中です」
「ということはボクに会いに来たのもフラグを建てたからかい?」
「そうですね、セレビィが現れたので出立前にフラグを建てるために連絡しましたよ」
「一級フラグ建築士だね。因みにお嫁さんは何人いるんだい?」
「三……四………五…………ポケモンの技を右手首より先に当たると消すことが出来るなんて能力はないですよ?」
「あ、分かっちゃった?」
「逆にエニシダさんがそういうネタを使えることに驚きですよ」
この人、オタクネタでもいける口なのかよ。
まさか情報ってそういうところのも集めてるのか?
恐ろしいな、、この人…………。
「ビィビィ!」
「………セレビィがうるさいんでもう行きますよ。あとはお願いします」
「うん、任せて。完成後を楽しみにしながら無事に帰っておいで」
「うす。カワサキもあとは頼んだ」
「不本意だけど、分かったよ。その分、完成したら稼がせてもらうからね」
「おう、というか忘れてた。ロトム………は置いてきたから、手作業か」
スマホの口座を開いて、カワサキの口座へと纏まった額を振り込んでおく。
「取り敢えず、今お前の口座に纏まった額振り込んでおいたわ」
「はっ?」
「完成までの給料な」
「はぁ?!」
「いやー、金の使い方が大物だねー」
いやいや、タダ働きさせるところだったんだから、これは普通でしょ。毎月振り込めるわけでもないんだから。言わば年俸よ、年俸。
「んじゃ、よろしく」
カワサキが自分のスマホで口座を確認して驚いているのを見ながら、視界が変わっていった。