ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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129話

「あら、こんなベストなタイミングで来るなんて。セレビィのおかげなのかしら」

 

 控室に辿り着くと部屋の前でユキノが待ち構えていた。

 相変わらずなようで何よりだ。

 

「さあな。それを込みで計算されてそうではあるが、手のひらで踊らされてる感じがして、すげぇ嫌だわ」

「来ないことはないと思っていたけれど、タイミングが良すぎるのだもの。手のひらで踊らされてるとしか思えないわ」

「やめろよ………お前に言われるとそうなんじゃないかって本気で思えてくるから怖いんだよ」

 

 全てが既定路線なため、この会話すらも既定路線なのだろうから…………うん、想像したくないわ。必死で否定し続けてやる。

 

「………つーか、真顔で毛並みの感触を確かめるなよ」

 

 何気ない会話をしながらもふらっと寄ってきたかと思うと、フサフサなユニフォームの毛並みを確かめ、顔を埋めたり忙しくしている。

 相変わらず過ぎるどころか、変態の域に達していやしないだろうか。

 まあ、ニャオニクスやペルシアンやエネコロロに埋もれて満足気な顔をするような奴だし、今更ではあるけども。

 

「あら、ごめんなさい。無意識だったわ」

「無意識なのかよ………」

 

 それにしたって無意識でこの行動はヤバいんじゃなかろうか。

 いろはすもドン引きよ?

 というか見てないで止めろよ。

 私関わりたくないんでオーラ出してんじゃねぇよ。

 

「さあ、そろそろ時間よ。こっちで待機してなさい」

「控室には………」

「入る時間もないわね」

「そんな時間ぴったしなのかよ」

 

 まさかこの時間ってユキノがこのユニフォームを堪能するためにあった時間とでも言うのだろうか。

 いやまあ、いいんだけどさ。俺的には可愛いかったし。

 セレビィさん、そこんとこ詳しく説明して。

 

『さあ、いよいよ本日のメインイベント! エキシビションマッチの時間がやって参りました! まずはこの方に登場して頂きましょう! 第二回大会優勝者、エックス!!』

「マジか………」

 

 いや、ドンピシャすぎるわ。

 俺がユキノやイロハを堪能する時間はないのか?

 ユイだけで我慢しろと?

 

『そして、気になるゲストはこの方! 仮面のハチ!』

 

 おいこらセレビィ。

 人の人生ややこしくしてるんだから、行く先々でそれくらいのご褒美があってもいいだろ。

 すると二人が視線を交わすと何やら通じるものがあったのだろう。

 

「「頑張ってね、ダーリン」」

 

 示し合わせたかのように両頬へとキスをしてきた。覆面の上からだからアレだけど、この二人にも手のひらで踊らされているのかもしれない。

 俺を一瞬にしてやる気にさせるとか、やり手だわ。

 

「さっさと片付けるか」

 

 こうなったら、さっさと片付けてユキノたちを堪能してやる!

 

『彼はガラル地方で有名なトレーナーのようで、未だ公式戦無敗の現チャンピオン、ダンデを相手にもう少し判定が遅ければ引き分けになっていた、という前代未聞の結果を叩き出しているようですね』

 

 紹介されるがままにバトルフィールドへと出ていく。

 調べれば出てくる情報だし、ある意味そこが売りでもあるキャラになっちまったからな。

 紹介文としてはまずまずだろう。

 

『もう、この事実だけで彼がチャンピオン級の実力者であることはひしひしと伝わってきますが、カルネさん。いかがでしょう』

『私もガラル地方にそういうトレーナーがいるという程度にしか知らなかったので、さっきゲストだって伝えられた時は驚きましたね。一体誰がそういうトレーナーとパイプを築けているのか教えて欲しいくらいだけど。あ、ちなみに名前はあっちでの通り名みたいなものらしいわよ。ガラル地方ではジム戦が観客を入れた一大イベントのようなものになっていて、挑戦者も観客に魅せる必要もあってあの覆面をしているのではないかしら』

『なるほど、ガラル地方ならではということですか』

 

 いえ、ただただ顔を見せるのがマズいからなだけです。

 あと恥ずいってのもある。

 こんなキャラクターを演じているのだ。素顔なんか晒せるかよ。

 というか今から俺はプロの役者の前で演じることになるのか。

 うっわ、恥っず……!

 

『それでは、ルールを説明していきましょう! 今回のエキシビジョンマッチは一対一の一本勝負! 初日のエキシビジョンマッチでは、フルバトルならではのトレーナーの読み合いも試されましたが、今回はバトルに選出するポケモン次第で、バトルの流れは大きく傾きます! ましてや相手はガラル地方のチャンピオン級トレーナー。例え相性が良くてもひっくり返されることだってあるかもしれません!』

 

 初日がフルバトルで最終日が一対一。

 初日のはイロハの実力のお披露目って目的もあっただろうし、最終日の今日は閉会式が控えている。しかも優勝者のポケモンたちは連日バトルが続いていたのだから、フルバトルさせるのも酷な話だ。

 それを考慮してこの対極的なバトル形式にしたのだろう。

 けど、それをカロスでは無名もいいところの奴がぽっと出てきて優勝者ーーすなわちエックスを倒したらどうなるんだろうな。

 一応、ガラルのチャンピオンに匹敵する実力って前振りを用意されているとは言え、反感がないとは思えない。

 まあ、そんなことを言ってたらキリがないので、考えるだけ無駄だろうけどな。

 

『あとはこれまでと同様公式ルールに則って行われます。さあ、エックス選手の直感はどれ程のものか見せてもらいましょう! バトル、開始!』

 

 直感か。

 確かにそうかもしれないな。

 交代もなければ、後続もいない。出すポケモン次第でタイプ相性が決まってしまう。だけど、相手がどのポケモンを出してくるのかなんて分からないのだから、直感に頼るしかない。

 ある意味、四天王やチャンピオンと戦おうとしている奴が、直感すら冴えていないんじゃ運も引き寄せられないもんな。

 現に対峙しているエックスの目も、俺がどのポケモンを出してくるのか警戒している感じではある。

 つーか、最後に見た時よりも覇気を感じられるようになってるわ。人はそうすぐにやって変わるものでもないし、コロコロ変わってたんじゃ逆に怪しさを覚えてしまうが、それでもフレア団の事件から一年半も経てば、変化するところも出てくるということか。成長期だもんな。

 

「いけ、サラメ!」

「サーナイト」

 

 バトル開始の合図が出されてもしばらく俺を睨んでいたが、痺れを切らしたのかエックスがボールに手をかけたため、俺もボールに手をかけたサーナイトを出した。

 エックスが出したのはリザードンなため、ここまでは未来と同じである。

 

「………その覆面のモチーフのポケモンじゃないんですね。連れていない、なんてことはないでしょう?」

「ああ、ちゃんといるぞ。仮面のハチの切り札として有名だから」

「舐められたものですね。でもサーナイトが相手ならカルネさんとの前哨戦と思っておきます」

 

 まあ、確かに。

 チャンピオン級と紹介されたトレーナーが一対一のバトルで切り札を出して来ないってなると、挑戦者からしたら格上に切り札も出してもらえない程度にしか見られてないと思ってもおかしくはないな。

 でもな、ガオガエンが仮面のハチの切り札なのには変わりないのだが、それは俺がそう印象付けているからであって、ダンデとのバトルをちゃんと調べたら真の切り札がサーナイトだということに気付くことが出来ただろう。

 解説やカルネさんがそれを言っていないということは、誰にも伝えていないのだろう。あるいはそこまでユキノたちも調べていないか、だ。

 何となくだが、仮面のハチの情報源はコマチのような気がするので、伝えてないとは思えないんだけどな。

 

「別に舐めてるわけじゃないんだけどな………。何ならメガシンカ使いが相手だからって理由なんだが」

 

 それにエックスは当然メガシンカを使ってくるんだろうから、俺もメガシンカで対抗した方がいいでしょうよ。

 エンドレス・エイトに陥ったとしても、エックスが相手なら出すのはサーナイト一択で変わることはないと思うぞ。

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 挨拶代わりの一発。

 口から吐かれた炎が渦を巻きながらサーナイトへと襲いかかる。

 

「サイコキネシス」

 

 それを超念力で両側に分散させ、炎に呑み込まれたような演出を作り出す。

 これにはエックスも唾を飲み込んでいた。

 そんな驚くようなことでもないだろうに。

 

「強いってのは嘘じゃないみたいですね」

 

 そんなに信じられなかったのだろうか。

 いやまあ、こんな見た目だしな。ふざけてるとしか思えないだろうし、実際に自分の目で確かめないと納得出来ないわな。

 さて、そろそろ外では放送ジャックが始まってる頃かな。

 そこからドンパチが始まって、カラマネロと一緒にウツロイドを纏った俺が現れるんだっけか?

 んで、ウルトラビーストが現れて押し返したら、あの忌々しいアクジキングと遭遇したんだったか。

 今の俺はそれを見届けた後のスタジアムでの対処からしないといけないのだろう。

 あー、やだやだ。

 

『突然、放送をジャックしたことはお詫びしよう』

 

 あ、今からだったか。

 というかスタジアム内の大画面すらもジャックされてたのかよ。

 

『だがしかし、我々には最早一刻の猶予もない。我々の邪魔をして来たフレア団やポケモン協会の前理事は葬り去った』

 

 顔を上げた男は嬉々として熱弁していく。

 

『昨年、カロスに潜伏していたロケット団も撤退している。最早カロスには勢力という勢力が無くなっているのだ。これは実にいいことである。ポケモンたちを利用する愚かな者たちが一人もいなくなったのだからな』

 

 うん、確かに後ろにカラマネロがいるわ。

 というかいるって分かって見ていると、カラマネロの方が異質感があって目立って見える。

 だが、初見でそう感じなかったのは、それだけカーツの演説に目がいってしまうからだろう。

 人間は時にインパクトのある方へと目がいくものだからな。それを利用されたということだ。

 

『そう、機は熟したのだ。我々の夢を実現する時が! 人間たちよ。ポケモンを利用するだけ利用し、売買の道具にし、あまつさえ人間のエゴで環境を破壊し、ポケモンたちの住処を荒らす愚かな人間たちよ! 今こそ死する時が来たのだ! これより、ポケモンのポケモンによるポケモンのための世界作りを、開始する!!』

 

 映像がぷつりと消えた大画面に集中していた視線は、次第に動揺へと変化し、ドタドタドタと動き回る音へと変わっていく。

 

「………何でカロスではこんな事件ばっかり起こるんですかね」

 

 静かに呟いたエックスの言い分は最もだと思うわ。

 ただ、カロスだけに限った話ではない。

 この十年、二十年の間に大事件が世界中で起き過ぎなんだよ。

 俺もその事実に遠い目をしたくなるわ。

 

「それだけ人間が醜い生き物だからだろ」

 

 それを引き起こしているのが主に人間なのだから、ポケモンたちが怒り狂うのも分からなくはない。

 

「特に汚い大人たちは子供であろうと食い物にするくらいだから、間違っちゃいないでしょうけど………一方でサラメたちみたいに人間であるオレといるポケモンもいる」

「それは人間と共にあることを選んだからだ。そうでないポケモンたちにとっては棲家を奪う殺戮者に見えるってことだろ」

 

 トレーナーに捕獲されたポケモンたちとそうでないポケモンたち。

 同じポケモンでも立場が違えば、人間と同じように憎しみを抱くというものだ。

 あの暴君様もそうだったようにな。

 あいつも人間のエゴで作り出され、それに対して怒り狂っていたのだからな。

 今でこそ、カツラさんと和解して共にいることを選んだが、それでも好き嫌いは激しいままだろう。

 何故俺はあいつに認められているのかは謎だけども。

 

「でもあの人も人間ですよね?」

「そうだな。あいつは人間だ。それは間違いない。けど、一緒にカラマネロが映っていたというのはお前ならどう見る?」

「ッ!? い、たのか…………カラマネロは催眠術や変化技を得意とするポケモン。となると………操られている?」

「その可能性が高いだろうな」

「つまり、カラマネロが大元……!」

 

 カラマネロがいたことを伝えれば、エックスはそれだけで裏を読み解いた。

 さあ、そこまで読み解いたなら、この図鑑所有者はどういう働きを見せてくれるんだろうな。

 

「ウルガモス、外の状況を見てきてくれ」

「モース」

 

 ウルガモスには外の状況を確認に向かわせた。

 今回の襲撃の真犯人は十中八九あのカラマネロだろう。カーツはただただ利用されただけ。何ならカーツを使ってシャドーの連中も動かしていた可能性もある。いや、シャドーだけではない。俺が知らないだけで、他にも組織を操っていた可能性だってある。

 そうでなければ、ウルトラホールを強制的に開く装置を作り出すことなんか出来ないだろうし。

 

「それで。カラマネロが大元なのではないかと分かった今、お前はどうする? どうしたい?」

「………みんなを助けたいとか、そんな英雄願望はないですね。優勝こそしたけど、オレにはそこまでの力はない。あの人ならそれが出来たでしょうけど、オレには無理だ。力があろうと数の前には無力でしかない。だから精々友達を守るために足掻くくらいです」

「それでいいんじゃねぇの。自分の出来ること、出来ないことを把握して、それで安全策を立てていった方が生存率が高くなる」

 

 これがもしレッドたちならみんなを守るとか言い切るんだろうけど、そう言わないのがエックスだからな。ちゃんと現実を見て、自分の実力を鑑み、出来る範囲でやる。

 無茶をしない分、それが一番生存率を上げるやり方だ。

 

「そうですね。フレア団の時みたいな無茶はやりたくないです」

 

 俺も無茶はしたくないんだがなー。

 そうも言ってられないのが、奴さんたちなんだよ。

 

「………んで? 逃げないのか?」

「状況から察するに外に逃げても一緒でしょう? 何なら逃げ惑う人の波に呑まれて逸れる可能性もある。それならここに留まっている方が広い空間も使えて安全じゃないですか?」

「それは一理あるな」

 

 最早バトルどころではないため、バトルフィールドには俺たちだけが取り残されており、広い空間だけが残っている。

 最終日ということもあって観客は相当いるようで、出口の方は未だ混雑しているし、今俺たちが避難行動をとったところで余計に危険になる可能性がある。

 それに奴が降ってくるんでね。

 俺はここにいるのが正解なんだよ。

 ………………それにしても長い沈黙だな。

 

「…………あなた、何者なんですか」

 

 あ、ずっと俺が何者なのか考えてたのね。

 するとドカッ! と強く地面に何かが叩きつけられた。

 うん、カラマネロだわ。

 もう来たのね。

 早くね?

 意外と何やかんやで時間経ってた?

 

「………ポケモン、なのか?」

 

 エックスはカラマネロが空から降ってきたことよりも、それを追いかけてきた黒い生命体に言葉を失っている。

 逃げ惑う観客たちもその黒い生命体の登場に一気に鎮まり、時が止まったかのように動きを止めた。

 それ、ウツロイドを纏った俺です、なんて言えるわけもなく俺も傍観。

 うーん、こうして見ると本当にどっちが悪者なのか判断が難しい姿をしているよな。

 そんな視線を一挙に集める過去の俺は周りを無視して、腕をクロスさせてZワザのモーションに入っていく。

 腕を大きく円を描くように開いていき胸の前で突き出した。そして、徐々に上げていって、右手の方が下にくるようにして両腕を開く。その時左足も前に出し、膝立ちのようなポーズになると膨大なパワーが蓄積していった。

 

『「ーーーアシッドポイズンデリート」』

 

 地面から毒の沼が出現し、伏したカラマネロを呑み込んでいく。

 見ているだけでおどろおどろしい。

 黒紫色のドロッとした毒が消えると紫色に染まったカラマネロが倒れていた。

 どくタイプのZワザって改めて見てもグロいな。

 

「今のは………」

 

 あ、エックスはZワザを知らない系か。

 説明は………してる暇ないな。

 

『「コイツハシュハンノイチミノカラマネロダ。ショグウハマカセル」』

「………犯行声明を語っていた男の後ろにいたあのカラマネロか」

 

 うん、知ってるよ。

 結局のところ、俺が俺になすりつけてるだけだもん。

 本当に嫌な話だよな。

 チャンピオン級の強さなら橋渡しとかにでもなるだろうと任せたのに、それが結局俺だったんだから、ただただ引き継ぐだけというね。

 

「ガオガエン、カラマネロを取り押さえろ」

 

 ボールから出したガオガエンがカラマネロを担ぎ上げていく。

 

「エックス! 後ろ!」

 

 すると、観客席の方からエックスに呼びかける声がした。

 お友達の声だろう。

 その近くの頭上に虹色の穴が開き始めている。

 

「ッ!?」

 

 ウルトラホール。

 そうだ、カラマネロたちにはウルトラホールを強制的に開く装置があるんだった。それも潰しておかないといけないんだったな。

 

「な、何が………」

 

 エックスたちがウルトラホールに驚いている間に、黒いウツロイドを纏った方の俺がウルトラホールを閉じていく。

 

『「………クッ」』

 

 とはいえ、ウツロイドのウルトラホールを開く力を逆利用しての強制的に閉じようとしているため、一つ閉じるだけでも時間がかかっている。

 

『「ッ?!」』

 

 そして、一つ閉じたかと思いきや、今度は三つ同時に開きやがった。

 

『「クッソ………!」』

 

 そろそろ頭が痛くなってくる頃だろう。

 慣れないものを見様見真似で強引に処理しているだけだからな。

 それでも今この場で対処出来るのは、黒いウツロイドを纏った方の俺だけである。

 流石に仮面のハチが目の前の謎の生命体と同じ姿になったら、今後の立ち位置が危うくなってしまうため、ここは過去の俺に頑張ってもらうしかない。

 

『い、一体何が起きているのでしょうか!? 外では野生のポケモンたちによる暴動が各地で起きているとの情報も入っていますが、これもあの男によるものの一つなのでしょうか! あの黒い生物が何者なのかも分かりません! ですから皆さん、どうか! どうか身の安全にはお気をつけ下さい! 順番に落ち着いて脱出して下さい! 脱出出来たとしても外も危険な状態です! 決して一人にはならないようお願いします!』

 

 おい、まだ逃げてなかったのかよ。

 実況もちゃんと逃げないと最悪死ぬぞ?

 三つ閉じれば五つに増えて、この後にはテッカグヤだっけ? ドデカいウルトラビーストが出てくるんだから、そうなった俺たちはそっちにかかりきりになるんだぞ?

 というかそろそろフォローしてやらないとマズそうだな。

 

「エックス、あの穴を攻撃する」

「それは………?! 分かりました」

 

 エックスにキーストーンを見せてやると俺の意図を理解したのか、エックスも左腕のリングに手をかざした。

 

「サーナイト」

「サラメ、いざ!」

 

 黒いウツロイドを纏った方の俺が、ウルトラホールを二つ三つと閉じたところで、フィールドが二つの高エネルギーに包まれていく。

 

「「メガシンカ!」」

 

 メガシンカエネルギーにより一瞬ウルトラホールの開きが止まった。

 やはり高エネルギーをぶつけると相殺とまではいかないにしろ、何かしらの効果は出てくるようだな。

 

「サラメ、フレアドライブ!」

「サーナイト、サイコショック」

 

 残りの二つをリザードンとサーナイトが攻撃するも閉じるまでにはいかなかった。

 だが、それでいい。時間さえ稼げれば閉じることは可能だからな。

 

「モース!」

「戻ったか。外はどうだった? 色んなところで乱戦状態だったか?」

「モス」

 

 ウルガモスが戻ってきたため状況を確認すると、既にミアレシティ全土で激しい攻防が繰り広げられているようだった。

 まあ、ウツロイドを纏った俺がここに来た時点で、結構ヤバいことになってるのは明白だからな。

 それでもあの時の俺はカラマネロを追いかけることを優先していて、周りの状況を確認する暇はほとんどなかったから、情報として知っておく必要はある。

 ただ、予想外なのはまだユキノやイロハたちスタジアム内にいた戦力が動けていないことだ。

 どうもこのウルトラホールに危機感を覚えていて、手を出すかどうか判断出来ないようだ。

 それなら、俺が動けるようにしてやればいい。

 

「チャンピオン及び四天王は街を守れ! 運営は観客の安全を第一に動け! ここは俺たちが何とかする!」

 

 それを聞いたユキノたちがようやく動き出した。

 これで他のことは気にしなくても良さそうだ。頼むから実況の人も逃げてくれ。

 

『「イッキニバイニナッタカ」』

 

 ウルトラホールは倍の十個にまで増えている。

 それを黒いウツロイドを纏った方の俺が一つ一つ消している間、サーナイトとエックスのリザードンが穴に向かって攻撃し、ウルトラビーストの出現を抑える流れが出来た。

 とは言え、十個片付けるだけでも一苦労だし、全て閉じ終わった頃にはさらに増えた数で出現してくるというスパイラル。

 流石に無理だよなー。これは。

 

「サーナイト、シャドーボールを投げ込め。ガオガエン、ヤドラン、かえんほうしゃ」

「サラメ、やきつくす! ラスマ、シャドーボール!」

 

 ヤドランも出して手が回っていない穴へと技を放っていく。

 俺に倣いエックスもゲンガーを出して、リザードンと共に穴へと技を撃たせた。

 そして、何とか残り二つというところまで来てウルトラホールに変化が起きた。

 

「ブゥゥゥゥンンッ!」

 

 突如、穴の一つが広がりドデカイ何かが出てきたのである。

 

『「ッ?!」』

 

 とうとう来やがったか。

 それにしても機械音というかエンジン音というか。

 ポケモンの音とは思えないものである。

 

『「テッカグヤ………!」』

 

 現れたのは竹のような姿のウルトラビースト、テッカグヤ。未来は変わらず、やはりお出ましのようだ。

 攻撃性はそんなにないが、ロケットみたいな奴で地に降りて再度飛び立つ時の被害が尋常じゃないとか何とか。

 着陸される前にこのまま押し返すしかないんだが、それが可能なのは黒いウツロイドを纏った方の俺だけである。

 さあ、頑張れ過去の俺。

 

「カイカイカイィィィィィィーッ!!」

 

 するとどこからかポケモンの叫び声が聞こえた。

 というかジュカインですね。

 どうやらミアレシティを巡回させていたジュカインが敵さんの動きを掴めたようだ。

 

「やっと見つけたか。サーナイト、押し返すぞ」

「サナ!」

 

 時間稼ぎをしていたわけではないが、さっさとここを片付けてジュカインに合流しないとなので、力技で押し返すことにした。

 サーナイトに黒いZリングを見せると頷いて、俺と一緒にポーズを取っていく。

 相変わらずダッサいポーズだよな。

 

「マキシマムサイブレイカー」

 

 そしてポーズに対して技はエグいというね。

 サイコパワーの塊がサーナイトから放たれると、ウルトラホールから出てこようとするテッカグヤにあらゆる方向からぶつけていき邪魔をしていく。

 地味にサーナイトのコントロール力が上がっているのは気のせいだろうか。

 メガシンカした状態で使ったからか?

 

「今だ! 押し込め!」

『「ウオォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」』

 

 Zワザでクソ重い身体が押し返され始めると黒いウツロイドを纏った方の俺がテッカグヤの首の割と細いところを掴んで持ち上げていき、押し返す力を高めていく。

 

『「ブンマワス」』

 

 さらにウツロイドにぶんまわすを指示して遠心力で何とかしようとしているようなのだが………回せていないな。

 それだけテッカグヤが重たかったんだよ。マジで生身の身体で同じことをしていたら、俺の身体が先に悲鳴を上げて壊れてたと思う。

 

「ヤドラン、会場全体にまもる」

『「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」』

 

 何とか頭の位置を反転させることは出来たようが、方向を変えたせいで上昇する速度が加速していく。

 確実にウルトラホールへ返すにはまだ軌道がズレており、ここから修正していかない限りは、宇宙の彼方まで飛んでいき、いずれどこかにまた現れる可能性がある。

 うん、こいつのせいで俺はウルトラホールに一緒に飛び込む羽目になったんだよな。テッカグヤが悪いわけじゃないんだが、恨めしい気持ちにはなる。

 それもこれも全部カラマネロたちやシャムとカーツのクソどものせいだ。

 

『「ヌォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」』

 

 雄叫びを上げながら、テッカグヤ共々、黒いウツロイドを纏った方の俺がウルトラホールへと消えていく。

 テッカグヤが消えたことで追加でウルトラホールが開くこともなくなり、外の戦闘音だけがスタジアムに響いている。

 あーあ、行っちまったよ。

 あそこからまた大変なことになるんだよな。

 頑張れよ、過去の俺。

 

「エックスー!」

「マチエール!? ど、どうして君が?!」

 

 そんな静寂に包まれる中、一人の女の子がフィールドへ降りてきた。

 エックスの友達ですら、観客席から見ているだけだったのに、一体誰だ? あのモサモサした感じの髪の女の子は。見たところ、エックスよりは年上っぽいけど、幼さがまだ抜け切らない感じがあるというか何というか……。

 

「君が狙われてるんじゃないかってクロケアが………今のは何だったの?!」

「い、いやオレにもさっぱり………」

 

 まあいいや。

 なんか聞き覚えがないこともないような気がしなくもないが、彼女のことは放っておこう。エックスの知り合いのようだし、敵ではないだろう。

 それよりも、だ。

 

「さて、こいつをどうしようか」

「ギィィィナァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 ……………………………………。

 お前、今の今まで見てただろ。

 テッカグヤを押し返すのに出てきてくれてもよかったんだぞ?

 倒れているカラマネロの下からヌッと顔だけ出してくるギラティナさん。

 ねぇ、その状態で見られると怖いんだけど。

 

「あー、はい。俺としては一番手っ取り早いんで、持っていってくれ」

 

 カラマネロの処遇を悩んだタイミングでのご登場。

 どうやらギラティナが回収してくれるようなのでお任せしよう。

 

「あ、それと。後でまた世話になると思うから、その時はよろしくー」

 

 カラマネロと一緒に真っ直ぐと影に沈んでいくギラティナに挨拶だけはしておいた。

 だってまだ他にもカラマネロはいるし。何ならカーツとかも連れて行ってもらえると俺の気が晴れるというもの。

 

「…………何、今の」

「さ、さあ………」

 

 突然のギラティナご登場に唖然とするエックスたち。

 

「あ、何か落ちてる」

 

 ギラティナが消えた地面に丸くて黒い石が転がっていた。

 普通の石ならどうでもよかったのだが、これと似たようなものを知っている身としては、これがギラティナからの置き土産だということは分かった。

 

「………まさかその内自分をメガシンカさせてくれとか言い出さないよな?」

 

 ギラティナのとはまだ確定したわけではないが、可能性がないわけでもない。

 すると俺の影から手が伸びてきて、その石をくれと手招きされた。

 え? そういう感じ?

 まさかの?

 確かに対応するポケモンは石に惹かれるという事例はあったからな。

 それに黒いし、ギラティナよりは可能性が高いが………。

 まあ、くれというのだから素直に渡しておくことにする。

 怖いなー、どんな姿になることやら………。

 

「おうおう、そこのポケモン人間さんよぉ。オレたちにも分かるように説明してくんねぇかな。いや、マジで」

 

 ダークライとそんなやり取りをしていると、また新しいのがやってきた。

 次から次へと出てくるな。

 それとポケモン人間ってのは俺のことか?

 

「クロケアさん……!」

「マチエールがお前のことを心配してたから着いてきたんだよ。いや、マジで」

 

 クロケア。

 なんかそんな奴いたような気がする。

 見た目の割にシステム関係のことをしていたような………?

 

「で? どうなんだ?」

「あー、ギラティナって言ってな。シンオウ神話に出てくる伝説のポケモンだ」

 

 答えを促されたため答えたのだが、誰も反応してくれないというね。

 そこへシュタッと着地した緑色のポケモン。

 遅いから迎えに来てくれたのだろうか。

 ごめんな、ジュカイン。

 

「ジュカイン、見つけたんだな?」

「カイカイ」

「了解。んじゃ、向かうとしますかね」

 

 時間がかかりすぎると敵さんに逃げられる可能性もあるし、真の目的を達成されてしまう可能性だってある。

 こうなってはエキシビジョンマッチどころではないのだし、ユキノたちも観客の安全が確保出来たならば、応戦に出るだろうから俺がここに残る必要性もない。

 

「どこに行くんです?」

 

 サーナイトがジュカインに目的地を聞いていると、エックスが問いかけてきた。

 

「敵さんの真の目的地」

「それならオレも………!」

「やめておけ。さっき自分で言ってただろ、友達を守るために足掻くって」

「それは………!」

「お前が俺と来たとして、その間にお前の大事なお友達に何かあったらどうするんだ? それとも何か? 全員連れて行けとでも?」

 

 エックスやワイだっけ? の図鑑所有者ならまだ戦力になるだろうが、他の三人は足手纏いでしかない。

 俺、嫌だぞ?

 そんな状況が想像出来るのに連れて行くとか。

 

「図鑑所有者だからとかフレア団に対抗出来たからとか、そんな理由で自分たちなら大丈夫だと思うんじゃねぇよ。どんなに力があろうがやられる時はやられるんだ」

「それは……………」

「どうやら身に覚えがあるみたいだな。なら、分かるだろ? 自分の力を過信するな。こちとら色んな伝説のポケモンに手伝ってもらってやっとなんだ。それすらもないお前らがいたところで足手纏いだっつの」

 

 ここまで突き放せば、それでも! とはならないだろう。

 

「クロケアだっけ? 保護者として、ちゃんとそいつらの手綱を握っておけよ」

「マチエールはまだしもエックスの保護者じゃねぇんだけど。いや、マジで」

 

 こいつらの手綱はこのクロケアに任せて俺はさっさと敵さんのところへ向かうとしようか。

 

「ガオガエン、ウルガモス、ヤドラン。一旦戻ってくれ。サーナイト、テレポート」

 

 俺はガオガエンとヤドランをボールに戻し、ジュカインとサーナイトとともにテレポートした。

 

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