ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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今年最後の投稿になります。
今年もお付き合いいただきありがとうごさいました。
おかげさまでようやく、四年半かけてようやくPixivの方で投稿していたコマチ編と合流させることも、そして辻褄合わせのセレビィさんを登場させることも出来ました。
当初の予定では長くて三年くらいかなと想定していましたが、ソニア編とも呼べるくらいには彼女関係の話が長くなったり、ジムチャレンジの開会式から最初のジムであるターフジムに辿り着くまでに十話くらいかかったり、ジム戦にプラスでジムミッションもあるおかげで話数が予定より倍になったりと、伸びに伸びてしまい、気づけば五年目が終わり、六年目を迎えようとしています。
それなのに何の因果か今年はZAが発売してしまい、時系列的にもXYから五年後ということで、もしポケスペでもZA編が描かれるとしたら、XY編から五年後になると思うので、130話時点でXY編から一年半後の当作品は、その間に収まる形になります。
そのおかげで当作品の構想が上手い具合に纏まりつつあります。
現在の予定としては再来年には完結させられるのではないかと想定しているのですが、どうなるんでしょうね。
来年も引き続き完結に向けて投稿していきますので、よろしくお願いします。
皆さん、よいお年を。



130話

 サーナイトのテレポートは、いつも移動というより切断に近い。

 世界が一瞬だけ途切れて、次の瞬間には別の場所が出来上がっている。

 足の裏が鉄板に触れた途端、全身をひっぱたくような強風が吹き付けた。

 

「っ――!」

 

 身体が持っていかれそうになるのを反射で腰を落とし、片足を半歩引いて踏ん張る。

 足元はコンクリートじゃない。鉄板のように硬く、冷たい。風に鳴る金属のうなりが、胸の奥まで震わせた。

 空が近い。まだまだ上の方に雲があるはずなのに、地上にいる時よりも遥かに近く、ここが高い場所というのが嫌でも理解出来た。

 思わず唾を飲み込んでしまう。

 恐る恐る視線を下げると、あちこちで戦闘が繰り広げられていた。真昼間だからこそよく見える。

 そして道路は見るからにこの建物を中心に円を描いているように見えた。

 ああ、なるほど。

 ここはプリズムタワーか。恐らくその頂上辺りだろう。

 

「たっか……こっわ………」

 

 冷静に場所を特定しながらも、視覚から得られた情報に口から出た声が、自分でも情けないくらい震えていた。

 リザードンの背中に乗っている時は同じ高度を飛んでいたとしてもここまで恐怖を感じることはないのだが、強風に煽られるというのがプラスされるだけで背筋が凍りそうになる。リザードンという安心感がないのもプラスされているのだろう。

 ――こんな高いところで、何をするつもりだ? 

 

「くっ、アンタたちの……好きには………させないんだから!」

 

 風に混じって聞こえた声に、呼吸が止まった。

 聞き覚えがありすぎる。

 喉の奥が、勝手に歯を鳴らす音を作る。

 ーーハルノだ。

 姿は見えない。だが、声の荒さと途切れ方で分かる。

 追い込まれてる。相当だ。

 

「……やはり来たか、破壊す者よ」

 

 頭上から落ちてきた声は、風よりも重かった。

 低く、枯れているのに、何故か耳の奥に直接届くような不快さがある。

 顔を上げると、そこに立っていたのは――異様な存在感を放つ老怪物だった。

 俺の倍はあるであろうその姿は、巨大ポケモンと思われてもおかしくないだろう。

 ああ、いたな。

 フレア団事件の、その元凶。

 

「……AZ……」

「奴らはアンジュを使って、人間を滅ぼすつもりだ」

「……はっ?」

 

 唐突すぎて、間抜けな声が出た。

 アンジュ。聞いたことがない。――ない、はずなのに、言葉の響きだけが妙に胸の奥を冷やす。

 

「……誰だよ、アンジュって」

「人ではない。ポケモンでもない」

 

 AZは、そう言い切ってから一拍置いた。

 そして、頂上からさらに伸びる傍受針ーー電波塔の巨大なアンテナのようなものを見上げる。

 

「――永遠の命を得てしまったフラエッテが、再び戻った時のために作った装置だ」

 

 胸の奥が、静かに冷えていく。

 

『永遠の命』

 

 その言葉が、カロスの黒い歴史のど真ん中に刺さっている。

 それが今、また歴史を塗り替えようとしているということだろうか。

 

「…………一応聞いておくが、何のために?」

「カロスを守るため……ではあろうな」

 

 ………この断言しない言い方が逆に信用ならないな。

 守るため?

 そう言っておけば、何でも許されると思ってないか。

 最終兵器を作った男が言う『守るため』ほど、信用できないものはない。

 

「二千年前、当時の王に頼まれて作ったものだ」

 

 ……二千年前。

 最終兵器を使ってから千年後に、またそういう感じのを作り出してんじゃねぇよ。

 

「ここに?」

「ああ。プリズムタワーは二千年前からある。カロスの象徴だ」

「はっ?」

 

 マジで?

 プリズムタワーってそんな前からある建物なのん?

 意外な事実にびっくりである。

 だが――今はそれどころじゃない。

 風の向こうで金属がぶつかる音、爆ぜる衝撃が響き渡る。

 遠いのに近い、嫌な音が続いているようだ。

 

「……負の遺産ばかり作りやがって」

 

 思ったままが口から出た。

 

「ぐうの音も出ないが、その通りだな」

 

 AZは、それを否定しない。

 コツコツと鉄板を鳴らしながら歩き出す。その歩みは遅い。遅いのに、何故か置いていかれる気がした。

 俺は舌打ちを噛み殺して、後を追う。

 そして――見えた。

 

「くっ……!」

 

 視界の端。

 肩で息をしているハルノがいた。

 彼女の前にはメガバンギラス。片膝をついて、必死に踏ん張っている。

 巨体が揺れるたび、鉄板が悲鳴を上げた。

 相手は、胴体の細いカラマネロ。

 そして上空。

 赤い羽毛、黒紫の体毛、異形なシルエット。

 それぞれが複数体、プリズムタワーを取り囲んでこちらに攻撃してきていた。

 それをメタグロスやネイティオ、パルシェンが応酬している。メタグロスとパルシェンの上にはワルビアルとゾロアークも乗っており、ハルノはバンギラスのみで戦っていたのだろう。

 それくらい上空からの攻撃の数が多いということだろうな。

 ファイアロー、オンバーンにその進化前のポケモンたちが複数体。

 それに加えてシンボラーやルチャブルも何体かいるな。

 

「………チッ」

 

 ガラルから戻ってきた日のことを思い出すわ。

 あの時もシズカさんを探している時にカラマネロ率いる野生のポケモンに襲撃された。

 ポケモンたちは漏れなくカラマネロにより操られており、中には自力でメガシンカしたポケモンたちもいた。

 ――操られてる。

 今回もその例に漏れずに襲撃してくる野生のポケモンたちは、カラマネロのさいみんじゅつを受けていることだろう。

 いや、メガカラマネロの、と言った方が正しいな。

 カラマネロにメガシンカがあったなんて知らなかったが、研究が進んでいないのも事実。

 変態博士たちが見つけられていないだけで、まだまだ他のポケモンのDNAを持ったメガストーンが埋まっているはずだ。

 

「破壊す者よ」

「分かってる。止めればいいんだろ」

 

 上空からの攻撃が、メガバンギラスの動きを削り、ハルノの判断を鈍らせる。

 圧倒的に手数が足りない。

 普段のハルノなら制圧出来ていたかもしれないが、シズカさんがああなってからは碌にバトルもしていなかったのだろう。

 半年というブランクは、非常時においては影響が強く出ている。

 それでも必死に抗っているのは、シズカさんをあんな目に合わせたことへの復讐心が無くならないから。

 今まで溜め続けて来た鬱憤を晴らしてもいるように見える。

 

「……一人で無茶しやがって」

 

 身体が勝手に前へ出る。

 怒りが先に動いた。理屈は後から追いつけばいい。

 

「おっと、大丈夫――じゃないな」

 

 ハルノの横に滑り込む。

 彼女の肩が一瞬だけ揺れた。安心したのか、悔しかったのかは分からない。どっちでもいい。

 

「……あなた……!」

 

 いや、まあ、見上げたところにドアップでガオガエンの顔があったら驚くよね。

 気持ちはよく分かる。

 けど、これだけは言わせてくれ。

 

「頑張ったな、ハルノ」

「ッ………!!」

 

 顔を赤くして涙目になるハルノが、顔を見せないように俺の胸に顔を伏せた。

 

「な、何者だ……!」

 

 よしよしとハルノの頭を撫でていると、焦りで割れた声がした。

 うるせぇんだよ。

 テメェは黙っとれ。

 

「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係、黒の撥号」

 

 名乗りながら、警察手帳を持ち上げる。

 金の紋章が風にきらりと光った。

 

「カーツ、及びカラマネロ。お前たちを組織的テロ行為の容疑で現行犯逮捕する」

「国際………警察………だと……?!」

 

 カーツが怯む。

 怯んだ瞬間、上空のファイアローが急降下してきた。羽が火花を散らし、鉄板に焼けた跡を残す。

 うるさい。邪魔だ。

 

「俺の大事なもんに手を出したんだ。無事で帰れると思うなよ」

 

 言いながら、喉の奥で笑う。

 逮捕するとは言ったが、収容先は刑務所じゃない。もっと深い場所だ。

 

「ダークライ」

 

 闇が、俺の背後に立った。

 気配だけで、空気が沈む。

 何となく、こいつも怒りを露わにしているような気配がした。

 

「メガシンカ」

 

 カラマネロがメガシンカ出来たように。

 こっちにも新たにメガシンカ出来る奴がいるんだわ。

 それもカラマネロ程度、足下にも及ばない悪夢の化身が。

 

「なっ……!?」

「カマッ……!?」

「ハチマン………?」

 

 背後で姿を変えているのが嫌でも分かる。カーツたちをじっと睨んでいるというのに、空気が一気に重たくなり、辺りが黒いオーラで覆われたようにさえ感じる。

 ハルノはようやく俺が誰だか分かったのか、不安そうに見上げてきた。

 ピリピリとした緊張感が背後から伝わってきて、俺も思わずハルノの肩をぎゅっと抱き寄せてしまう。

 上空のオンバットが一斉に旋回を止め、シンボラーが空中で一瞬だけ固まった。

 そして、カーツが叫ぶ。

 

「カラマネロ、さいみんじゅつで奴らの動きを封じろ!」

 

 カラマネロの触手が揺れ、目が妖しく光る。

 視界の端が一瞬だけ滲んだ。

 ……効かねぇよ。

 

「………光が……呑まれた………?」

「ダークホール」

 

 闇が広がる。

 光を呑み込み、音を沈め、意識を引きずり落とす。

 最早穴に落とすのではなく、闇に包むようになるのか。恐ろしいな、ダークライのメガシンカは。

 カーツが膝をつき、メガカラマネロがずるりと倒れ、メガシンカが解けた。

 上空のポケモンたちも、糸が切れたみたいに動きが乱れる。

 次の瞬間、彼らの目から焦点が戻った。

 

「……ッ」

 

 ファイアローたちが大きく羽ばたき、こちらを一度だけ見てから高度を取る。

 オンバーンたちも甲高い声を上げ、蜘蛛の子を散らすように飛び去っていく。

 シンボラーも、何かに怯えたように空を裂いて遠ざかった。

 さいみんじゅつが解けたのだろう。それにしては何かに怯えて一目散に飛び去っていたように見えたが…………。

 静かになった戦場で、息を吐く。

 風の音だけが戻る。さっきまでの殺意の密度が嘘みたいに薄い。

 なのに、後ろにある気配がヤバい。

 恐る恐るチラリと振り返る。

 

「なっ………!?」

 

 なんじゃそりゃ?!

 どうした、ダークライ!

 何がどうなったら、そんなメガシンカになるんだよ。

 最早お前の方がラスボスじゃねぇか!

 ダークライがメガシンカした姿は、ラスボスだった。

 身体は二回りくらい大きくなり、胸の辺りになるのだろうか。目玉のように丸く大きくなり、そこから伸びるように手足が生えているような感じだった。そして、極め付けには充血した瞳を突き破って白い頭が飛び出しているように見えてしまう恐怖感。

 そりゃ、さいみんじゅつが解けたら、ポケモンたちも一目散に逃げてくわ。

 

「……さて」

 

 眠りに落ちた連中を見下ろし、低く告げる。

 

「さあ、カーツ。まずはシズカさんを傷物にした経緯を聞くとしようか」

 

 カーツの口が勝手に動きかける――いや、動かせない。

 眠りは深い。だが、深すぎる眠りは質問に向かない。

 メガダークライが、ゆっくりと頭を傾けた。

 その動きだけで、闇が呼吸しているみたいに見える。

 俺は、喉の奥の苛立ちを飲み込んだ。

 淡々と。冷静に。いつも通りに。

 

「……ダークライ。さいみんじゅつ」

 

 闇が、カーツの意識を覚醒前まで引き上げる。

 目は開かない。だが、口だけが動く。

 夢の中の人間が、寝言で真実を吐く――そんな感じだ。

 カーツの喉が、ごくりと鳴った。

 目は閉じたまま。まぶたの下で眼球だけが小刻みに動いている。

 メガダークライの白い頭部がわずかに傾き、闇が脈打つように揺れた。

 その動きだけで、足元の鉄板が冷える。

 俺はカーツから視線を外さないまま、口を開いた。

 

「さあ、カーツ。まずは――シズカさんに何をした」

 

 言葉を選ぶ必要はない。

 俺の中で選ぶ余裕がない。

 声が低くなったのは、怒鳴らないための自制だ。

 カーツの唇が、勝手に動いた。

 

「……シャムが……見つかった……」

「誰に」

「……女に……」

 

 吐き気がした。

 女、じゃない。

 名前がある。顔がある。声がある。俺にとって大事な人だ。

 だが、ここで逸れたら負けだ。

 逸れたら、こいつは痛みだけで口を閉ざす。

 必要なのは、情報。今止めるべき敵の全体像。

 

「続けろ」

 

 カーツの喉が引き攣る。

 

「……戦って……背後から……襲った……」

 

 拳が、勝手に動きかけた。

 俺はそれを、太腿に爪を立てて止める。指先に痛みを作って、怒りをそこへ逃がす。

 

「……気絶した……」

「その後」

 

 間髪入れずに問う。

 カーツの口元が歪んだ。笑いじゃない。苦しさだ。

 言葉が喉を通るたび、罪悪感とか後悔とかじゃなく、ただの不快感だけが漏れている。

 

「……シャムが……やれって……」

 

 唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

 

「……むしゃくしゃ……してた……」

 

 瞬間、視界が赤くなりかけた。

 むしゃくしゃ。

 それが理由? それが言い訳?

 人間が人間にやっていいことの境界を、そんな薄っぺらい言葉で踏み越えた?

 歯が軋む。

 喉の奥で、声にならない音が鳴った。

 

「クソが」

 

 吐き捨てた言葉は風に攫われ、塔の縁へ消えていく。

 抱いていたハルノの肩が、わずかに跳ねたのが分かった。

 俺はまだ顔を下ろせない。下ろしたら、慰める言葉が必要になる。今じゃない。

 だから変わりにさらに強く、でも優しく抱き寄せた。

 

「なら、ポケモンたちを殺したのは何故だ」

 

 もう一つの聞かなければならないこと。

 シズカさんを傷物にした挙句、こいつらはシズカさんのポケモンたちを殺したのだ。

 

「………やらなければ………やられる…………」

「だから殺したと」

「………仕方がなかった……………」

 

 ふざけんなっ!

 そんなことでカイリキーたちが殺されたっていうのかよ。

 横で歯軋りする音が聞こえた。

 俺も太ももを掴んで今にも殴りつけたいのを必死で耐えているくらいだ。

 第一発見者のハルノは、その無惨な光景も目撃しているはずで、俺よりも感情が爆発しそうになっていることだろう。

 

「次だ。シャムはどこだ」

 

 問いを切り替える。

 切り替えないと、ここで俺とハルノが壊れてしまう。

 カーツの唇が、乾いた音を立てた。

 

「……ミアレ……外……」

「外、ってどこだ。方角」

「……北……森……」

 

 北の森。

 ミアレの北――ルート……いくつだ。いや、今は番号はどうでもいい。

 森。潜伏には都合がいい。逃げるにも、隠れるにも。

 俺は息を吐いて、次の核心へ刃を入れる。

 

「お前らの目的はなんだ」

 

 カーツの唇がゆっくり持ち上がる。

 それは誇りじゃない。信仰でもない。

 ただの支配欲が、寝言の形で漏れている。

 

「……アンジュ……装置……」

「何に使う」

「……増幅……」

 

 増幅。

 嫌な言葉だ。強さを上げる? 能力を拡張する? あるいは――生体エネルギーの増幅か。

 

「何を」

 

 カーツの唇が、ねっとりと動く。

 

「……メガカラマネロ……」

「……の力をか?」

「……強く……支配……」

 

 支配。

 さっきから、こいつの口から出てくる単語がずっと同じ方向を向いている。

 破壊じゃない。革命でもない。

 ただ、上に立ちたいだけ。

 

「支配して、どうする」

「……世界……作る……俺たち……の……」

 

 俺は一瞬だけ目を細めた。

 世界を作る?

 まるで神にでもなったつもりか。

 だが、言葉の軽さに反して、危険度は高い。

 アンジュ装置が増幅装置なら、メガカラマネロの催眠はもっと広域になる。

 ポケモンだけじゃない。人間も、都市単位で操れる可能性がある。

 ……ミアレごと、夢に沈める気かよ。

 俺の中で、塔の下にある街が一瞬だけ寝息を立てた気がした。

 ゾッとする。

 ここでさらに、繋がりを抉る。

 

「GOロケット団――元シャドーの幹部。連中との関係性は」

 

 カーツの喉が鳴った。

 嫌悪が混じる。見下しているのか、怯えているのか。

 どっちにしても関係はある。でなければ、シャドーの元幹部たちの証言と矛盾が出てくる。

 明確にいつからだったとは言っていないが、暗殺の実行犯なのはこいつらであり、俺は実際にこいつに刺されているのだ。

 

「……利害……一致……」

「誰が繋いだ」

「……カラマネロ……手引き……」

 

 カーツの横ではカラマネロが倒れている。

 なるほど、並の悪党よりも悪党らしい、狡賢いカラマネロなら有り得ない話ではない。しかもそういうのが三体もいたのだからな。

 それにしても人と組織を繋いでしまうとは………。

 ポケモンが裏社会の扉を開けるなんて、どんな笑えない冗談だよ。

 

「利害の内容を言え」

 

 俺は一語ずつ噛むように言う。

 

「何と交換に、何をする」

 

 カーツの唇が、ようやく躊躇う動きを見せた。

 さっきまで、寝言のように吐いていたのに。

 ここだけは、吐きたくない情報らしい。

 メガダークライの闇が濃くなる。

 風が一段冷える。

 俺は感情を殺して、淡々と続ける。

 

「言え」

 

 カーツの口が、勝手に動いた。

 

「……ヒキガヤ……ハチマン……」

 

 心臓が一拍遅れた。

 

「……暗殺……」

 

 その二文字で、世界の輪郭がまた変わった。

 俺自身が狙われている、という事実は驚きじゃない。

 元々、そういう可能性がある立場にいたのだ。今更な話である。

 それよりもポケモンが繋いだ人と組織の利害の一致が、一人の人間を殺すことにだけあるということの方が驚きである。

 つまり、一人の人間を殺すためだけに金と労力を惜しまず、時間をかけて用意されたということだろう。

 だからこそ、あれ程用意周到であったということだ。

 俺を暗殺するのも、俺がいると奴らの計画が通らない。ただそれだけのことだろう。 

 

「………ハチマン」

 

 ハルノがぎゅっと抱きしめてくる。

 その熱で何とか自分の中に湧き上がる熱を落ち着かせることが出来た。

 

「やっぱり俺は表社会にいるべきじゃないみたいだ」

 

 闇がふっと薄くなる。

 代わりにカーツとカラマネロの足下にも黒い穴が出来上がっていく。

 その間からはもっと大きい黒い穴も出来上がっていき、そこからさっきぶりな顔がこちらを覗いてきた。

 こいつ、今のも絶対見ていたな。

 しかも今回は自己主張しなくてもいいよね? みたいな空気を出して来やがって。

 ああ、いいよ。

 ここで叫ばれたら厄介すぎるわ。ただでさえ、ダークライのメガシンカした姿が異様すぎるのに、ここでさらに真のラスボスが出てきたみたいな構図はお断りだわ。

 そこへ、ダークライの火の玉が飛んできた。

 お前その姿でもそういう気配りは出来るのかよ。

 

「『カタワレハスデニハイジョズミ」』

「……は?」

 

 理解するより早く、背中が冷えた。

 シャムは――もういない。

 排除済み。

 浮き上がった文字にはそう書かれており、シャムは既にこの世にいないらしい。

 

「なっ……!」

 

 ハルノが何か言いかけた。

 だが声にならない。喉の奥で引っかかって、肩だけが震えた。

 怒りか、悔しさか、あるいは――自分の手が届かなかったことへの絶望か。

 

「これで一件落着ってか。ふざけんなよ、バカ」

 

 思わず悪態を吐いてしまった。

 何とも締まらない。解決したという感覚もなければ、事件の全貌が見えたわけでもない。

 残ったのは結局何だったのだという後味の悪さと、半壊したミアレシティだけである。しかも一年前もこんな感じのことになっていた街が、だぞ。

 そんな街を目にしてもギラティナは何も言わない。

 言う必要がないとでも言いたげに、カーツとカラマネロを穴へ沈めていく。

 

「これは貸しだからな。次会ったら俺の言うことを否が応でも聞いてもらうぞ」

 

 こうなったら何が何でもシズカさんのポケモンたちを、奴にどうにかしてもらうしかない。可能性があるとすれば、こいつしかいないのだ。

 俺の文句から逃げるようにギラティナは黒い穴の中へと消えていった。

 

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