ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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14話

「………………」

「………………」

 

 えっと………。

 これはどういう状況なんでしょうか…………?

 クズマだかカスマだか知らないが、白髪の男が俺の病室に乗り込んで来た翌日。

 クチナシさんが見舞いにやってきた。

 それはいいのだが、何故かずっと無言なのはどうしてなのだろうか。

 

「あの、クチナシさん………?」

「………なあ、兄ちゃん。窓のところにあるそれは何だい?」

「窓………?」

 

 言われて窓の方を見ると、何か黒い腕輪のようなものがポツンと置かれていた。

 誰かの忘れ物か?

 いや、でもそっちには誰も言ってないはずだし…………。

 

「何ですかね」

 

 見覚えがないこともないような気がする。誰かあんなやつを身につけていたはず。誰だっけ………。

 

「Zリングだよ」

「……ああ。コマチがもらったって言ってたな。あれ? でもあんな黒かったっけ?」

 

 カビゴンのZ技しか使えないが俺たちの中で一早くZ技を習得したのはコマチである。

 メガシンカと伝説のポケモンを仲間にしたユキノとイロハや突出したパワーを持つメガルカリオに変えるユイに負けじと、偶然出会った人にもらったという。そのパワーは凄まじく、またあのカビゴンが立ち上がって高速で突進していく様は何とも恐ろしい光景だ。

 

「パワーアップ版だ。おじさんたちが作るZリングをカプたちがパワーアップさせることがあるんだ。気まぐれにな」

 

 クチナシさんはそのパワーアップ版だと言っている。

 何がどうパワーアップしているのだろうか。取り敢えず、色が黒になったのは分かるが……。

 

「恐らく誰かの忘れ物ってわけじゃないだろうな」

「というと?」

「カプたちは気まぐれでな。特に兄ちゃんが出会ったカプ・コケコは気に入った奴にバトルを申し込んだり、Zクリスタルを与えたりした過去があるのよ。今回もそっちの線が濃厚だと思うぜ」

「割と人に干渉したがるんですね」

「カプ・コケコは好戦的だからな。バトルをするためにZリングを与えたという線も考えられる」

 

 ウツロイドと対峙してたらしいカプ・コケコが? 俺に?

 ほんと意味が分からん。とごにバトルをしたがる要素があったのだろうか。ウツロイドを連れたトレーナーだからか?

 

「ちなみにおじさんとこのカプ・ブルルは物臭でな。敵と見做さない限り、早々人前には出て来ねぇぜ」

「そっちの方が気が合いそうですね」

「分かる。分かるぜ、その気持ち。おじさんもカプ・ブルルが相手で気楽だよ」

「いいんすか、そんなんで。一応、島キングでしょ」

「いいのいいの。ウラウラ島にゃそんなに人はやって来ねぇ。来てもホクラニ天文台とかの島の半分もない一部だけだ。だからそいつらが来たらアセロラに任せておけばどうにかなる。本当に必要な時だけオレやカプ・ブルルが働けばいいのさ」

「そりゃ気楽ですね。羨ましい」

 

 カロスでは自分で選んだ道とは言え、毎日働いていたからな。それを思うとクチナシさんの生活は理想的とも言える。

 ただまあ、あんだけ一緒にいるようになったユキノたちがいないのはやっぱり寂しいものがある。理想的で羨ましいが、あいつらがいないんじゃな………。今の俺にはちょっと耐え難い要素が欠けているのは致命的だ。

 ただ、カロスに戻ったところで俺の居場所はあるのだろうか。一応は戻るつもりだが、死人扱いになっているらしい俺がカロスに戻っては混乱を生み出すだろう。そうなると非難はあいつらにも及ぶことになる。

 真意を確かめたいが、混乱を生み出すようでは動きようがないな。変装、したりするしかないのかね……………。

 

「それで、どうするよ兄ちゃん。そのZリング」

「まあ、くれたってんならもらっとくしかないでしょ。どうせこれでバトルしろってことなんだろうし」

「ならZ技をマスターしなきゃな」

「そうっすね。………あの変なポーズを覚えなきゃならないのか」

「変なとは兄ちゃんも言うね」

「いや、あれをバトル中にやるっていうのもね」

「ちなみにおじさんが賜ったあくタイプのZ技はこんな感じだぜ」

 

 そういうと、クチナシさんは両腕をクロスさせたかと思うと開きながら円を描いて下ろしていき、肩くらいまで両腕を上げたかと思うと一気に地面近くまで前屈みになり、そして万歳した。

 

「………俺の知ってるZ技はカビゴンのくらいですからね。他もあんなものなのかと辟易してましたが、あくタイプならまだマシかな」

「きししっ、そう言ってくれるだけでもおじさんは嬉しいぜ」

 

 脱力系おじさんにはぴったりなポーズって感じだ。

 これなら俺も抵抗少なくやれそうだわ。

 

「他のZ技はククイ博士に聞いてみるといい。その気になりゃ、兄ちゃんなら島巡りも完遂できると思うからよ」

「考えておきます。ただ、このZリングの趣旨くらいには応えておこうかと」

「そうだな。カプさんを怒らせるとどうなるか分かったもんじゃねぇ」

 

 守り神の割に気まぐれってどうなのよ。

 それとも神ってのはそんなもんなのか?

 …………そんなもんか。ギラティナさんも意図が伝わりにくいし、ディアルガやパルキア、それにアルセウスとかもそんな感じなのかもしれない。会ったことないから何とも言えないが。

 

「ハチマン、見舞いに来たぜ! って、クチナシさん。珍しいですね」

「おう、ククイ博士。兄ちゃんの見舞いかい?」

「ええ」

 

 カプ神の取り扱いを面倒に思っていると部屋の扉が開かれた。入ってきたのはククイ博士。毎日通う見舞いの常連さん。暇なんだろうか………?

 

「その人毎日来てる暇人ですよ」

「マメだねぇ」

「グラジオたちだけに負担をかけるわけにいきませんから」

「あー、ならよ。兄ちゃんにZ技について教えてやってくんねぇか? なんかオレが来た時にゃ、Zリングが置かれてたんだわ」

 

 くいくいと俺の手元にあるZリングを指すクチナシさん。

 

「Zリングが?! しかもパワーリングの方………。なんでまたハチマンに………」

「恐らくカプ・コケコだろうさ。兄ちゃんが倒れてた時に、奴さんもいたんだろう?」

「ええ、まあ」

「カプたちの考えることは分からねぇが、兄ちゃんの力を試したいと感じたんじゃねぇの?」

「なるほど。分かりました。ハチマンに一通り伝授しておきます」

「頼むぜ。なら、兄ちゃん。そういうことだ。おじさん帰るわ」

「うす。お気をつけて」

「あ、そうだ。これやるよ」

「おっとと」

 

 急に振り返ったクチナシが何かを投げてきた。とても小さいため何かを認識できぬまま、慌てて受け取った。

 

「それ、おじさん使わないんだわ。黒いのが欲しかったらまたオレのとこに来な」

 

 手の中にあったのは濃いピンク色のZクリスタル………?

 

「Zクリスタル………だよな?」

「それはエスパーZだな」

「エスパーZか。………サーナイトと習得しろってことですかね」

 

 閉まった扉の奥でサンダルを鳴らしながら歩いているだろうクチナシを思い浮かべた。

 

「だろうな。多くを語るような人ではないが、よく周りを見てる人だ。サーナイトとも相性のいいエスパーZから習得してみろってことじゃないか?」

 

 確かにそんな気がする。

 あの人は細かいことを気にはしないが、考えてないわけではない。

 何ならしれっと動いているタイプだろう。

 

「さっきはあくタイプのポーズを見せてくれたのに、渡されるのはエスパータイプのってどうなの………?」

「ハハハ、クチナシさんも待ってるんじゃないか? お前が挑戦してくるのを」

「待たれてもねぇ…………」

 

 あの人、実は密かに楽しみにしてる、のか?

 バトルとかすら面倒いの一言で片付けてしまいそうなんだが………、そこはやはりトレーナーの性という奴なのだろうか。

 

「んで? やるんだろ?」

「そうっすね。単にこうしてリハビリしてるのもつまんないですし、サーナイトにも身体を動かしてもらわないと。それに………」

「グズマか?」

「ええ、どうせ待ち伏せてるだろうし、バトルのリハビリ相手には丁度いいでしょ」

「あいつが聞いたら喚くだろうな………」

 

 それは知ったことではない。

 喧嘩を吹っかけてきたのはあっちからなんだ。それも一方的に。俺はそれを受けて立ってやろうって言うのだから感謝してもらいたいくらいだわ。

 そもそも喧嘩を吹っかけてくるんだから、実力もあるってことだよな?

 ………期待外れ感は満載だけども知ったこっちゃない。

 

「んじゃ、まずはZ技のおさらいからいくか」

「うす」

 

 まあ、そこにZ技を組み込んだらマジで発狂しそうだけども、習得出来るのかね。

 

「メガシンカがポケモンの強化する現象とするなら、Z技は技の強化する現象。放つ技のタイプに対応したZクリスタルをこのZリングに嵌め込み、ポケモンと同時に変なポーズを取ることで発動する。で、あってますよね?」

「お、おう………。もう少し普通に言えないのか?」

「普通も何も俺の認識はこれですよ。ポケモンとの絆だなんだというのは俺からすれば当たり前のことですし」

「そか………そうだったな。お前はそういう奴だったな」

 

 メガシンカを理解するまでは、ポケモントレーナーはフィールドで動き回るポケモンたちの目となり指示を出す存在程度であったが、メガシンカというポケモンをパワーアップさせる力を理解してからは、その強力な力を得るために必要な存在であり、制御するために不可欠な存在だと認識している。それはZ技も同様で、ポケモンの技をパワーアップさせるのにZクリスタルから得られる力を、トレーナーというバイパスを伝うことで得られるがために必要な存在である。だから簡単にまとめるとメガシンカはポケモンの強化、Z技はポケモンの技の強化と表現しておくのが早い。

 

「あ、あとカビゴンのZ技みたいに専門Z技があるポケモンもいますよね」

「認識のところでは特に言うことは無さそうだな」

「まあ、あの会議にもいましたからね。ただ、Zリングってそもそもこんな簡単に手に入るようなものでもないでしょ?」

「まあな。普通は島キングのハラさんとかクチナシさん、あと島クイーンのライチさんが作ってたりするんだが、渡されるのは島巡りをする過程なんだよな………。だからそれもカプ・コケコが持って来たものだとしたら、ハラさんのところから持って来たんだと思う」

 

 つまり、カプ・コケコは窃盗犯というわけか。

 神ならば何してもいいのかね。それとも神だから特別とか? そもそもカプ神に捧げたものだったり?

 後者ならすぐにでも返上したい。罰当たりもいいところだ。

 

「ちなみにクチナシさんがこれをZパワーリングとか言ってたんだが」

「それはカプたちの力でZリングを強化してもらえることがあるんだ。そうすることで特殊な形のZクリスタルを嵌め込むことが出来て、幅が広がるというわけだな」

「つまり、最初からZパワーリングで渡されるケースは無いに近いと?」

「ああ、前例はないな」

 

 えぇー………。

 そんな強化してまで俺に渡してくるって何を企んでんだよ。怖ぇよ。

 

「………ほんと何がしたいわけ?」

「それはオレにも分からん。ただ、カプたちの気まぐれに付き合うこともアローラ地方では当たり前のこととなっている。だから回復したら礼も兼ねてカプ・コケコに逢いにいかねぇと場合によっては天災が起きるかもな」

「冗談で終わらないのってのが質悪いな」

 

 話を聞く限り、マジでやり兼ねん。これは流石に従っておくしかなさそうだ。

 

「そうでもしないとウルトラビーストに抵抗出来なかったってことだろ」

「そういやソルガレオ? だかルナアーラ? だかがカプたちと戦ったとかって記述が残されてるんだっけ?」

 

 カプ神にも上下関係はあるらしいな。

 ソルガレオとルナアーラ。

 元々アローラ地方にいたカプ神たちを突然やって来たこの二体が従えたという神話。

 

「そうそう。ソルガレオとルナアーラが最初にアローラへ降り立った時にな。その時からカプたちがその二体に従うようになったってわけだ」

「だからアローラ地方ではウルトラホールが開くというのは日常的なものであり、人々はウルトラビーストへの対抗手段としてカプ神たちを頼りにしていたと」

 

 ソルガレオたちが来たからウルトラホールが開くようになったのか、それともウルトラホールが開いたから偶々ソルガレオたちがやって来たのか。

 それは神のみぞ知るところではあるが、結局あの二体もウルトラビーストの仲間入りなんだよな。

 そう考えるとカプ神たちはどんなウルトラビーストに対しても対抗策として在ったわけで、しかもそれしか方法がなかったともくれば、人々がカプ神を崇めるのも頷ける。

 

「そういうことになるな。だから、カプ神たちの反感を買うのだけはあってはならないんだ。過去カプ・ブルルの怒りを買い、破壊された土地もある」

「そりゃまた恐ろしいことで」

 

 そんな罰当たりなことをやった奴がいるのか。

 まあ、どの時代にもそういう輩はいるか。そしてそういう輩が反面教師として現代に役立っていると。皮肉なものだな。

 

「ああ。だが、それで人々全員に報復されたというわけではない。その土地と関係者くらいだ。だからカプたちも人は選んではいるみたいだぞ」

「それなら確かに神の怒りを買った、という表現がしっくり来ますね」

 

 理性、という表現が正しいのかは分からないが、報復する相手はちゃんと見極めているようだな。それでも関係ない者が被害を受けることもあったのだろうが。

 

「まあ、島巡りは後回しでいいから、せめてカプ・コケコの相手だけはしてやってくれ」

「了解」

 

 とにかく、俺に課されたのはカプ・コケコとバトルすることだ。もっと言えば奴にZ技を披露することなのだろう。

 その先に一体何を求めてるのかは分からないし、そもそもカプ・コケコが真犯人なのかも怪しいところだ。だって、窓空いてなかったんだぞ?

 どうやって中に入れたんだよ。サイコキネシスで鍵を開けたとか? 最早泥棒じゃねぇか。

 

「さて、Z技のポーズをやっていくか」

「うす」

「基本的に使うことになるのはサーナイトだろ?」

「まあ、そうなるでしょうね。流石に他の面子は、ね」

 

 ウツロイドはまず公には出せないし、ダークライやクレセリアもおいそれと頼るわけにはいかない。

 

「なら、サーナイトも出してくれ」

「へい。サーナイト」

「サナ!」

 

 消去法でもないが、唯一の正攻法であるサーナイトが適任だ。

 そう思ってサーナイトをボールから出すとやっぱり抱きついてきた。

 この子、抱き癖ついてない? 大丈夫?

 

「おおう、よしよし。今からZ技のポーズをククイ博士が見せてくれるから、お前も覚えていってくれ」

「サナ?」

 

 Z技と言ったところで何それって感じか。

 理解してなくて当然と言えば当然か。Z技が身近にあったわけでもないし、コマチのカビゴンのZ技も数える程しか見ていない。そうするとサーナイトが見てない場面もあるだろうし、覚えていなくとも何ら不思議ではない。

 

「あー、メガシンカみたいに、お前の技を強化する力を習得していくからさ。それには俺とお前が同じポーズを取る必要があるんだ。今から見せてくれるのはそのポーズな。それを一緒に覚えていくぞ」

「サナ!」

 

 これで伝わったか。

 やっぱりメガシンカとの比較って大事なんじゃね?

 特にメガシンカを習得してる奴には手っ取り早いイメージの仕方だと思うわ。

 カロスに戻ったら、その辺の認識も含めてまとめてみるかな。

 超どうでもいいけど、敬礼するサーナイトはやっぱり可愛い。

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