ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

151 / 154
136話

 目を開けた瞬間、世界がうるさかった。

 赤い光柱が何本も立ち上り、地鳴りと咆哮が重なって、視界の端で巨大な影同士が殴り合っている。

 ダイマックスってことでいいんだろうな。

 ということは、ここはガラル地方でワイルドエリアってことで間違いないだろう。

 となると、まずはワイルドエリアのどの辺にいるかを把握しないとな。

 取り敢えず、正面には広大な土地と湖が広がっている。川にしては広いし、さらに奥にはうっすらと山も見えるため、海ではない。だから湖と判断したが、ワイルドエリアなら問題ない。

 次に右手側であるが、木々が生い茂っている。

 森というには規模が小さいが、果樹園畑の様相に近い。

 そのまま後ろを見やると崖になっており、今立っているのは崖下って感じだ。

 そして最後に左手側。

 こっちには崩れかけの歪んだ塔が建っている。

 ワイルドエリアで塔と言えば、区切られたエリアの名前にもなっている見張り塔だろう。こんなだったっけ? とは思うが、恐らくここはワイルドエリアの見張り塔跡地ってことでいいのだと思われる。

 

「はぁ……」

 

 仕方ない。

 取り敢えず、場所の予測は出来たことだし、この状況が何なのか確認しておくか。

 ポケットからスマホを取り出し、連絡先をスクロール。

 ガラル組で連絡先を知ってるのは、ダンデとソニア、ルリナとカブさん、それにピオニーのおっさんとシャクヤだけなんだよなぁ………。

 ダンデとピオニーのおっさんはまずないとして、シャクヤも逃げてる側かもしれないから除外。残るソニアとルリナとカブさんであるが………カブさんかな。ソニアも関わってるか分からないし、ルリナには文句を言われそうだからな。むしろ一択しかないまである。

 

「もしもーし」

『…………その声は、ハチ君かい?』

 

 一拍の間。

 そして、聞き慣れた声。

 

「えぇ、まあ。で、今ワイルドエリアにいるんすけど――」

 

 スマホ越しに、もう一度視界を確認する。

 ダイマックスポケモン。

 それも一体や二体じゃない。

 

「この大怪獣バトルは何なんですかね」

『ッ!? ……ふ、ふふ、ははは……』

 

 何故か笑い声が返ってきた。

 いや、状況を考えると笑ってる場合じゃないはずなんだけど。

 

『参ったなー……これは本当に参った』

 

 向こう側が少し騒がしい。

 誰かが近くにいるようだ。

 

『カブさん、どしたん?』

『ああ、ごめんキバナ君。まさかのタイミングで、つい笑っちゃった』

『……?』

 

 キバナかよ。

 いや、キバナ以外にも声がするな。

 もしかしてジムリーダー全員集合中か?

 

「もしかしてお取り込み中で?」

『いや、そんなことはないよ。君なら大歓迎さ』

 

 君ならって………。

 俺以外だったらどういう対応をしてたんだか。

 

『君が今立ってるワイルドエリアの場所は分かるかい?』

「恐らく見張り塔跡地ではないかと」

『……ん? 把握しないで移動してたのかい?』

「んまあ、そんな感じです」

 

 嘘はついてない。

 ただ、移動するのが時空だっただけのこと。

 

「んで、これ――」

 

 視界の正面で、また一体、巨大な影が現れた。

 

「やっちゃった方がいいやつで?」

『……いいやつだね』

 

 少し間を置いて、カブさんが言う。

 やっぱりやっちゃった方がいいやつだったか。

 ワンチャン何かのイベントって可能性もあったが、そんな奇天烈なイベントを送るほど、ぶっ飛んだ運営委員ではなかったってことだな。

 

『任せても?』

「まあ、どうにかなるでしょ」

 

 鎧島やげきりんの湖で既にダイマックスしたポケモンとバトルしてるし、その時よりもサーナイトを始め、全員強くなっているはずだ。

 それにジュカインもいる上に、ダークライもメガシンカを獲得しちゃったからな。

 

『あらー……それならお願いね、ハチ君』

「了解っす」

『えっ? ハチ!?』

『なに?! カブさん、電話の相手はハチなのか!?』

 

 うぉ!?

 うるさっ?!

 ルリナが驚き、それに反応したダンデが、さらに声を被せてきた。

 

『ダンデ君、ルリナ君、落ち着いて……ね?』

 

 子供を諭すように二人を落ち着かせるカブさん。

 なんかいつまで経っても保護者だな。

 

『まあ、そんなわけだからさ、よろしく頼むよ』

「この原因を取り除く方法とかは?」

『今それを子供たちが確保しに行ってるところだよ』

「子供たち………」

 

 子供たち、ねぇ………。

 恐らく、割とヤバめな………それこそ伝説のポケモンが関わってきてるような案件じゃないと、普通こういう時って子供を関わらせないと思うんだわ。

 つまり、その子供たちって言っても特別な存在。

 図鑑所有者とその仲間たちって感じだろうな。

 

『僕たちはこれから鎧島に迎えに行くチームと冠雪原に向かうチーム、それとワイルドエリアを鎮静化させるチームに別れるところだったんだけど、君がいてくれたことで、動きやすくなるよ。ありがとう』

「そっすか。なら、俺は好きなようにやってますんで、なるべく早く終わらせてくださいね。じゃないとその子供たちの見せ場を奪っちゃうかもしれないんで」

『ハハ………本当に出来ちゃいそうなところが、君の恐ろしいところだよ』

 

 出来るかどうかはさておき、状況によっては足止めしないといけないこともあるだろうからな。

 だから、そのまま倒しちゃうって可能性も無きにしも非ずって感じなんだわ。

 

「あ、それとスピーカーモードにしてもらえます?」

『うん? いいけど』

「あー………ダンデ、ルリナ、キバナもいるってことはジムリーダーが勢揃いな気もするから言っておくぞー。なんかよく分からんが、取り敢えずワイルドエリアのエンジンシティ側くらいは俺が何とかするから、ちゃっちゃと片付けてくれよー。んじゃ、カブさん。俺はワイルドエリアで遊んでますんで」

 

 取り敢えず、静止させておいた方がいい三人を名指しし、言いたいことを言うだけで言って通話を切る。

 スマホをポケットに戻して、目の前の怪獣を見る。

 

「好きに倒していい、か……」

 

 小さく息を吐いて、歩き出す。

 

「さて、やりますか。お前ら、大暴れしてもいい時間だぞー」

 

 全員ボールから出すと、ジュカインとサーナイトとガオガエンがこの惨状に驚いていた。

 

「まずはどいつから…………えっ? なに? 二手に別れちゃう感じ?」

 

 どのポケモンから倒したいか書こうとしたら、何故かジュカインとサーナイト、ダークライとガオガエンの二組に分かれていた。

 どゆこと?

 

「どっちが多くのポケモンを倒せるか、だって? …………俺は?」

 

 ダークライの火の玉に浮かび上がる文字にはそう書かれていた。

 大暴れしてもいいとは言ったが、二人一組で大丈夫か?

 それにウツロイドはどうするんだよ。

 というか、俺はどっちに就けばいいんだよ。

 

「しゅるるるるるぷ」

「あ、はい。ウツロイドとやれと」

 

 くねくねと俺の周りをぷかぷか浮遊しているウツロイドが、触手を俺の身体に巻きつけてくる。

 どうやら、俺はウツロイドとらしい。

 つまり、ハチロイドになって戦えと。

 

「いいよ、分かったよ。無茶するんじゃねぇぞ。取り敢えず、タイムリミットはカブさんたちが大元をやってくれるまでの耐久レース込みな」

 

 確かに三手に別れるのなら、効率も随分と良くなる。

 ただ、自分の実力を過信してないか? と不安になるものの、ジュカインとダークライという保護者がそれぞれに就くことになるから、心配するだけ無駄なのかもしれない。

 俺の心配を他所に、ポケモンたちは二手に別れてどこかへと行ってしまった。

 

「………はあ、本当に行っちまったよ。大丈夫か? なんて心配するだけ無駄だろうし、俺たちも数を減らすためにやりますかね」

「じぇるるっぷ」

 

 あいつらがどこへ向かったのかは分からないが、取り敢えず俺たちはミロカロ湖の方に向かおう。

 

「あ、ドラピオンが巨大化してらぁ………うっわ、もう誰か倒してるし」

 

 見えたと思ったら一瞬かよ。

 誰だよ。

 何となく使える技的にジュカインな気がしなくもないけど。

 となるとダークライとガオガエンが東の方に行ったのかね………。

 

「逆に戦力過多だったのかも………」

 

 次々と巨大化しては倒されていくポケモンたちを眺めながらしばらく歩く。

 

「ギャラァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 そして、いよいよミロカロ湖が見えて来たと思ったら、野太い雄叫びが聞こえてきた。

 

「うっわ、ギャラドスとミロカロスがダイマックスしてんじゃん」

 

 マジかよ。

 これを俺にやれってか。

 やるけども。

 けど、よりにもよって二体同時に相手しないといけないとは。

 いつぞやの如く、片方を操ってもう片方を倒した上で、残り一体を倒すってプランでいいだろう。

 

「ハチくん!」

 

 すると頭上からさっき聞いた声が飛んできた。

 

「ん?」

 

 見上げたら、長い何かが降りてからところだった。

 

「あ、カブさん。どしたんすか」

 

 その長い何かーーもといマルヤクデの背中からカブさんが顔を覗かせてくる。

 

「今から冠雪原に向かうところでね」

「ハチ! アンタ、今までどこにいたのよ!」

「うおっ!? ちょ、ルリナ………」

 

 その後ろからルリナが飛び出してきて、俺に詰め寄ってきた。

 

「………肝心な時にいないわ、最後には出てくるわ。アンタ、何なのよ」

「いやー、そう言われましても………世界を転々としてて、ワイルドエリアに着いたらこの有様なもんで」

 

 嘘は言っていない。

 ちゃんとホウエン行って、カロスに戻って、カントー行ったと思ったら、ガラルに来てるんだからな。世界を転々としているのは間違いない。

 

「具体的にどこ行ってたのよ。連絡もつかないし」

「あー………カロス行って、ホウエン行って、カロス戻って、カントー行って、今ガラルって感じ」

「がっつり転々としてるわね………。てっきり家から出たくない口実だとばかり思ったわ」

「俺だって出来ることなら引き篭もりたいっつの」

 

 ただまあ、今こうやって頑張れてるのは、一通り終われば夢の引き篭もり生活が待ってるし、そこにはユキノたちもいるからな。帰る場所があるんだから、やるしかないのである。

 

「つーか、今結構ヤバい状況だからね? ギャラドスとミロカロスが暴れてるから、冠雪原に行くなら早く行った行った」

「くっ………って、アンタどうやって倒すつもりよ?!」

「え? ぶん殴ってだけど?」

「はぁ!?」

 

 だって、手持ちポケモンはウツロイド以外いないし。

 ウツロイドを纏ったところで、一番ダメージを与えられるのがパワージェムとかそんなのじゃなくて、ハチマンパンチとハチマンキックだからな。

 本当、意味分かんねぇよ。

 

「まあまあ、落ち着いて、ルリナ君」

 

 今にも飛びかかってきそうなルリナを優しく宥めるカブさん。

 なんかすんません。

 そのままルリナを押さえといてくれると非常に助かります。

 

「ルリナさんが見たことない顔してますね」

「ハチさんの前だとあんなもんですわぁ」

「…………ぅん………」

 

 マクワにヤローさんに………なんかあの白いお面の子、見たことあるな。

 一緒に来ていたらしい三人は、ただの野次馬と化している。

 

「ハチ君、本当に一人で平気かい?」

「大丈夫っすよ。今、サーナイトチームとガオガエンチームに別れて、どっちが多く倒せるか競ってるくらいですし」

「ああ……そうでした。この人、こういう人でした…………」

 

 俺の返答を聞いたマクワが、頭を押さえながら遠い目をしている。

 

「…………任せていいのよね?」

「これくらいなら何とかなる。最悪、ワイルドエリアのポケモン全員眠らせればいいんだしな」

 

 メガシンカしたダークライなら、それくらい出来そうなんだよなぁ。

 

「カブさん、行こ。ハチに任せとけば最悪ムゲンダイナもどうにかしちゃいそうだけれど、ハチに頼り切りみたいになるのは嫌だから、早いとこ雪原のポケモンを鎮めちゃいましょ」

 

 そう言ってマルヤクデの背中に戻っていくルリナ。

 

「ごめんね、ハチ君。ルリナ君、あんなんでも結構浮き足立ってるみたいなの」

「別に気にしてませんよ」

 

 あれ、浮き足立ってるのか………。

 というかルリナが浮き足立ってるのか。珍しい光景だな。

 いつもは冷静沈着………沈着ってほど沈着ではないか。

 何にせよ、そういう役回りはダンデやソニアのイメージが強かったから、ちょっと意外である。

 

「それじゃあ、僕たちは冠雪原の方の助っ人に行ってくるけど………ギャラドスとミロカロスが暴れてるけど、大丈夫?」

「あー、大丈夫大丈夫。やりようはありますし、最悪ぶん殴るんで」

「この状況でそんな軽口を叩けるんだから、聞くだけ野暮ってものだったね」

 

 だって、ねぇ。

 ダンデのリザードンを思うと、どれも見劣りするというか………手のつけようがなくなるのって、俺のリザードンとかゲッコウガとかが巨大化した時じゃないかと思うわけよ。あいつらは最早、厄災にしかならないだろうし。

 あ、今一番ヤバいのはメガシンカしたダークライか。ジュカインでメガシンカしたまま、極端な時間制限があるとはいえ、強引に巨大化出来ることは証明されてるし、瞬間的なラスボス感は半端ないと思う。

 で、それを思うと今の状況が可愛く思えるレベルなのだ。

 ………うん、つくづく俺の感覚も麻痺してるな。

 

「それじゃ、よろしくね」

 

 それだけ言い残して、カブさんたちは冠雪原の方へと行ってしまった。

 因みに、白いお面の子はゲンガーに、マクワはヨノワール、ヤローさんはドロンチにそれぞれ乗っている。

 マクワもヤローさんも背中に乗って飛べるポケモンがいなかったんだろうな。

 んで、代わりに白いお面の子のポケモンを借りているって感じか。

 となると、あの子はゴーストタイプを専門にしているのだろう。

 なんかそんな子、セミファナイルかどっかでバトルしたような気がしなくもない。

 

「ギャラァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「あー、はいはい。分かった分かった。いい加減相手してやるよ」

 

 俺たちのことは全く気にも留めずミロカロスと暴れまくっている。

 

「来い、ウツロイド」

 

 俺はウツロイドを纏って、巨大化したギャラドスの頭上に移動する。

 

『「ウツロイド、10マンボルト」』

 

 そして、ギャラドスに電撃を浴びせて、触手を頭にぶっ刺していく。

 

『「ウツロイド、マズハドクデ、ギャラドスノシンケイヲシハイダ」』

 

 そこから毒を流し込み、ウツロイドに神経を支配させた。

 これでウツロイドを通してギャラドスを思うように動かせる。

 

『「ギャラドス、ダイサンダー」』

 

 取り敢えず、電気技を覚えているといいなってくらいの感覚でダイサンダーを指示。

 すると巨大な雷撃がミロカロスを穿ち、感電させていく。

 あ、マジで覚えてたのか。

 先にギャラドスを支配して正解だったな。

 このままミロカロスを倒してしまおう。

 

『「モウイッパツ」』

 

 さらに追い討ちをかけるように、ミロカロスに雷撃を落としていく。

 とはいえ、防御力の高いミロカロスではまだ倒れてくれないようで、反撃として巨大な水の塊を放ってきた。

 咄嗟にギャラドスの身体を起こして、盾にすることで俺たちへの被害を抑えたものの、辺りはちょっとした洪水になっている。川の氾濫とでも言えばいいだろうか。それに近いものになっている。

 

『「ダイサンダー」』

 

 お返しにとミロカロスにさらに雷撃を落とした。

 するとようやく限界を迎えたようで、エネルギーが霧散していき、元の大きさへと戻っていった。

 さて、残るはこのギャラドスだな。

 

『「コンドハ、ギャラドスヲタオスゾ」』

 

 まあ、ギャラドスはみず・ひこうタイプだから、ミロカロスよりは倒しやすい。

 

『「10マンボルト」』

 

 頭上から電撃を浴びせ続ける。

 悶えるように暴れ回り、地形が所々変わっていってるが、ワイルドエリアだし、緊急事態みたいだし、問題ないだろう。

 そして、力無く倒れ始めたところで、エネルギーが霧散して元の大きさへと戻っていった。

 ふぅ、これで二体とも片付いたな。

 とはいえ、まだ他にも巨大化してるポケモンが至る所で暴れているんだけどな。

 あいつらには耐久レースだなんて言ったが、めちゃくちゃ面倒になってきたわ。倒せはするが面倒くさい。

 さっさと大元をどうにかしてくれないかな。

 

『「ア? ナンダコレ…………ウッワ………」』

 

 ギャラドスが倒れている近くで光っていた石を拾ってみたら、物凄く見覚えのある石だった。

 片や虹色に光る丸い石。

 片や水色とオレンジ? の二色の模様が入っている丸い石。

 …………どう考えてもキーストーンとメガストーンである。

 どういうことだってばよ?

 まさか地面が抉れたりしたことで、地中に埋まってたのが出てきたとか?

 なくはないんだろうけど…………そうなるとこのワイルドエリア一帯が宝の山ってことになるんじゃなかろうか。

 ……………うん、取り敢えずもらっておくけど、大っぴらにはしないでおこう。

 変な奴らに目を付けられても困るし。

 …………で、このメガストーンは一体どのポケモンのなんだろうな。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。