ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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138話

 ザシアンとザマゼンタに拉致されてから、恐らく二週間が経過した。

 そう、二週間も滞在しているのである。

 前にソニアとマグノリア博士に連れて来られたあの森に。

 やはりというべきか、この森がザシアンとザマゼンタの住処のようで、結構深い森になっている。

 南の方に行くにつれて、寒さが増していくため、この森を抜け切ると冠雪原に辿り着くのかもしれない。

 まあ、行くことはなかったから、定かではないんだけどな。

 で、セレビィさんは迎えに来なかったのかと言えば、来たには来た。ただ、一緒になって森を探索したりしていて、全く時渡する気配がないのである。

 俺の時間軸の調整は大丈夫なのだろうか。

 二週間って結構長いぞ?

 誤差の一言では片付けられないと思うんだけど。

 とはいえ、俺にどうこう出来る問題ではないため、大人しくセレビィに任せるしかない。

 なんて考えているとスマホが鳴った。

 

「はい? もしもし?」

『あ、ハチ君? 今どこにいるんだい?』

 

 なんだ、カブさんか。

 

「あー………森の中っすね」

『ガラルにはいるんだよね?』

「そっすね。ずっとザシアンとザマゼンタたちといましたからね」

『よかった、まだガラルにいてくれた………』

「どしたんすか?」

 

 俺がまだガラルにいるのが、そんなに安堵することなのか?

 …………なんかすごく面倒事を聞かされそうな気がするのは俺だけだろうか。

 

『実はその………ハチ君に頼みがあってね。詳しく話をしたいから、今からエンジンジムに来れないかなって』

「…………取り敢えず、ザシアンとザマゼンタに確認してからですね。大丈夫だとは思いますけど」

『うん…………ごめんね』

 

 詳しいことは現地でってことらしいため、取り敢えず一旦通話を切る。

 それにしても頼み事か。

 うん、確定だな。

 絶対面倒事だわ。

 聞いたら最後協力しないと後味悪くなるとか、なんかそんなので結局協力しちゃうんだろうな…………。

 ただ、時渡をしないで二週間。

 ようやく変化が訪れたのは確かであり、そうだとは思いたくはないが、セレビィはこの電話を待っていた可能性がある。

 となるとやっぱり協力することになっちゃうわけで…………。

 

「おい、セレビィさんや。もしやこの電話を待ってたとか言わないだろうな?」

「ビィビィ」

「あ、はい……………はぁ……………」

 

 あーあ、セレビィがあっさりと肯定しちゃったよ。

 聞くしかないのか。

 大きな溜め息を吐いていると、再びスマホが鳴った。

 

「はい? もしもし?」

『うぇ!? な、なんか怒ってる?』

「いんや、別に。長い二週間だったなーって」

 

 なんだ、今度はソニアか。

 カブさんが何か伝え忘れてたのかと思ったわ。

 

『あ、うん………うん? まさかまだザシアンとザマゼンタたちといるの?』

 

 うわ、電話の向こう側で有り得ない物を見るような目をされているのが、ビンビン伝わってくる。

 

「うん、まあ…………今からエンジンジムに向かうところだけど」

『えっ?! な、なんで!? 私の思考読まれてる?!』

「はっ?」

 

 なんで?! はこっちのセリフなんだけど?

 お前の要件は知らないんだから、思考の読みようがないでしょうに。

 

『だ、だって、私もハチくんに今からエンジンジムに来れないかなって聞こうと思ってたから………………』

「もしかしてカブさんと同じ要件だったり?」

『さ、さあ……? え、カブさんからも連絡あったの?』

「そう。そっくりそのままお前と同じ感じで」

 

 取り敢えず、ソニアの反応からして、カブさんと示し合わせているわけではなさそうだ。

 

『………………もしかして、カブさんもハチくんの正体知ってたりする?』

「国際警察のことか?」

『うん』

「知ってるな」

『………そういうことか』

 

 おい、一人で納得するんじゃねぇよ。

 国際警察が何だって言うんだよ。

 え、つか、そっち関連の話?

 

「何がだよ」

『ハチくんの力でローズ委員長を助けて欲しいの』

「助けるって………牢屋……はまだか。刑期が確定したわけじゃないしな。拘置所って言うんだっけ? その中にいるんじゃないのか?」

 

 今回の騒動の犯人としてお縄になってるんだろ?

 

『明日保釈されるから、マスコミから守って欲しいの』

 

 保釈か。

 二週間経つし、ないとは言えない話ではあるな。

 そして、大勢のマスコミが食いつくのも想像出来る。

 

「あ、そういうことね。けど、本人はそれも想定の内なんじゃないのか?」

『本人は文字通り人生を賭けたんだと思う。けど、それを見せられるピオニーさんとシャクヤちゃんが心配で………』

「そうだな。おっさんはともかくシャクヤは守らないとだな」

 

 モラルのないマスゴミはおっさんやシャクヤのことまで付き纏い兼ねないからな。

 ソニアも覚悟を決めているであろうローズ委員長のことよりも、二人のことが心配なのはよく分かる。

 何ならソニアはマスゴミの被害者でもあるからな。そういうのには敏感だろう。

 

『とにかく、その話をみんなでしたいからエンジンジムに来て』

「へいへい、了解」

 

 セレビィのせいで行かない選択肢はなくなっているのだが、事がシャクヤにまで及ぶ可能性があるというのなら、重たい腰もすぐに跳ね上がるってもんだ。

 というか、俺の可愛い妹分に手出したら、どんな手を使ってでもマスゴミをぶっ潰してやる。

 

「ザシアン、ザマゼンタ。どうやらここまでのようだ」

 

 通話を切って、ザシアンとザマゼンタに別れを告げる。

 

「クォォォン」

「グォォォン」

 

 カブさんやソニアとのやり取りから、先のことは察していたのだろう。

 あっさりと了承され、頭を擦り付けてくる。

 

「まあ、この二週間、楽しかったよ。ぶっちゃけ、俺も結構神経張った生活してたから、久しぶりにのんびり出来たわ。ありがとな」

 

 もしかするとこのピリついた生活を一旦リセットするためにも、セレビィが二週間も留まることにしたのかもしれないな。

 リーグ大会の時は初日の次はいきなり最終日に飛んだし、この二週間も短縮することは出来たはずだ。それをしなかったということは、長期間の時渡もまた精神的にも肉体的にもストレスが溜まりやすく、身体に影響を及ぼし兼ねないということなのだろう。

 

「今生の別れってわけでもないだろうし、またな。俺がガラルに戻ってきた時にでも気配を探して会いに来てくれ。俺も時間があったらこの森に足を運ぶようにするからさ」

「クォォォン」

「グォォォン」

 

 まあ、その休暇も今日までだったってことで。

 ザシアンとザマゼンタには世話になりっぱなしだし、今度ガラルに来るようなことがあれば、この森に顔を出すとしますかね。

 

「んじゃ、行ってくる。サーナイト、テレポート」

「サナ!」

 

 あ、エンジンシティに着いたら、念のため壱号さんにメールだけは先に送っておこう。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

『フロントのみ営業中』

 

 エンジンジムに着くと明かりはついているが、入り口にそんな張り紙がされていた。

 まあ、元々他の地方と違って、いつでもジム戦に挑戦出来るわけでもないから、貼る必要性はないように思うんだけどな。

 

「取り敢えず、壱号さんにメールっと」

 

 内容はローズ委員長の現状を教えて欲しいってものである。

 ささっと送信して、エンジンジムの中へ。

 

「………あのー、カブさんに仮面のハチが来たぞって伝えてもらえます? 一応、これが証拠ね」

 

 受付のお姉さんにガオガエンの覆面を見せながら、カブさんに連絡を頼んだ。

 

「あ、はい! カブさんから聞いてます! 案内致しますね!」

 

 どうやらカブさんは俺が来ることを受付に知らせてあったらしく、そのままカブさんの元へと案内されることになった。

 

「失礼します。カブさん、ハチさんがいらっしゃいました」

 

 ノックをした後、受付のお姉さんが部屋に入ったため、そのまま続くと大会議室って感じの大部屋だった。

 しかも会議室っぽく四角に並べられた四つの長テーブルがあり、それを囲うようにして全員が座っている。

 あるんだな、ジムにこんな大部屋が。

 ルリナのとこではここまでは大きくなかったぞ。

 まあ、仮眠室とかもあるくらいだし、ルリナのとこよりはジムの規模が大きいのだろう。

 

「………ハチ?」

「オマエ、まだガラルにいたんですね」

 

 各々がこっちを見てきて、ネズには嫌そうな顔をされた。

 

「うるせぇよ」

 

 こいつは後でシバくとして。

 

「つか、ジムリーダー勢揃いな上にダンデとソニアもいるのか」

 

 ダンデとソニアが隣同士で座っているではないか。

 ソニアの右隣はルリナで、ダンデの左隣がキバナというのも、なんか関係性が見えてきて面白い。

 その真反対側にはカブさんとピオニーのおっさんが座っている。何ならおっさんは舌打ちまでして、視線を外してそっぽを向いてしまった。

 

「で、何でおっさんはそんなそっぽ向いてんだよ」

「いや、別に。何だっていいだろ」

 

 なんかご機嫌斜めである。

 一体どんな話し合いがされていたんだ?

 

「ごめんね、ハチ君。急に呼び出して」

「あいつらとの離れ時を逃してたんで、丁度よかったっすよ。んで、要件は?」

「ローズ委員長が明日、保釈されることになってね。そのことでハチ君に相談があるんだ」

 

 カブさんの要件は見事にソニアと一致していたか。

 なら、壱号さんに送ったメールも使えそうだな。

 

「だからカブちゃん、オレは反対だっつってんだろ!」

「何が?」

 

 急に声を荒げられても今来た俺には全く話が見えてこないんだけど?

 

「あー、さっきまでローズ委員長の保釈の件で、ガラル地方のどこかにいるとされている国際警察の黒の撥号ってのを頼ってはどうかって話になってな」

 

 見兼ねたキバナが状況を説明してくれた。

 

「ああ、そういうことか」

 

 つまり、俺がその黒の撥号ってのを知ってるから、おっさんは反対していて、カブさんは俺を巻き込もうとしてるってわけか。

 

「えぇー? 今ので理解したんですか………?」

 

 キバナの端的な説明で察しが付いたことに、有り得ない物を見るかのような目で見てくるマクワ。

 君、ちゃんとメロンさんの隣に座ってるのは評価出来るぞ。

 あ、マクワの横には白いお面の子もいる。

 メロンさんの左隣にはサイトウとシャクヤがおり、そしてテーブルが変わってピオニーのおっさんって感じで、メロンさんたちの対面側のテーブルはネズ、ネズの妹、ピンクコートの少年、ヤローさんとなり、テーブルが変わってカブさんって感じである。

 …………婆さんいなくね?

 というかジムリーダー多くね?

 八人以上いるよね?

 

「婆さんは?」

「ポプラさんのことですか? それなら、このボクにジムリーダーを譲って、勇退されましたよ」

 

 そう自慢気に言うピンクコートの少年。

 とうとう婆さんも勇退したか。

 結局、いくつになるんだろうな、あの婆さんは。

 

「ふーん。んで、カブさんのプランとしてはどういう感じで?」

「僕としては国際警察の力で保釈時の護衛をしてもらえないかなって。多分、あの瞬間が一番本人にダメージがいくと思うんだ。本人は覚悟の上だろうけど、僕からすると見立てが甘いと思っていてね。ローズ委員長の想像以上に心にダメージを受けて、最悪そのままどこかで自殺する可能性も否定出来ないと思ってるよ。だから国際警察に介入して欲しい」

 

 なるほど。

 カブさんはローズ委員長が自殺する可能性まで考えて、俺の介入を要求しているということか。

 

「ソニアは?」

「え? ソニア?」

「なんでソニアに聞くのよ」

 

 ソニアに振るとダンデとルリナの頭の上に「?」が浮かび上がっているような顔をしてくる。

 他も何故? という顔をしているから、一番意外だったのかもしれない。

 けど、俺としては俺の正体を一部知っているというのもあるが、過去に同じような目に遭ってるソニアの意見も聞くべきだと思うんだよ。

 

「私もカブさんと同意見かな。マスコミにカメラを向けられるあの感じは、物凄くトラウマだよ。何気ない時でも思い出してゾッとするし、私の場合は世間の期待に対しての振るわない結果でやられたけどさ。ローズ委員長はガラル中を巻き込んでの大事件を起こしたんだから、向けられる視線の質がもっと陰湿だよ。あんなの向けられたら、死にたくなる、と思う………」

「ソニア………」

 

 ルリナさんや、そこでうるっとしてるんじゃないよ。

 

「シャクヤはどう思ってるんだ」

「あたし? あたしはまあ……会ったことのない叔父さんだからね。ちょっと他人事って感はある」

「けど、一応身内だぞ。しかも父親は元チャンピオンでジムリーダーっていう有名人。お前もネットにあることないこと書かれる可能性だってあるぞ?」

「それなー…………それが一番怖いよねー…………」

 

 他人事感はあるが、ネットに関してだけは気にしてるっぽいな。

 こればっかりは俺にも対処のしようがないから、見ないのが一番だと言うくらいしか出来ない。

 

「シャクヤにはしばらくネットを遮断してもらおうと思ってます。見なければ、陰湿な情報も入ってくることはない。そして、物理的に何かしてこようものなら、私が守ります!」

「うぇぇ!? サイトウ?!」

 

 と思いきや、まさかのサイトウから男前発言が出てきた。

 シャクヤも予想外の方向からの発言に驚いている。

 でも、そうなるとサイトウ一人ではジムリーダー業もあるし、難しいところもあるだろう。

 

「なら、コマチも呼んでおくか? 今何してるか知らないけど」

「では、一応声だけはかけておきますね」

 

 コマチたちが今どこで何やってるのかはさておき、サイトウからの呼び出しなら応えるんじゃないかと思う。

 

「んで、おっさんはどうしたいんだ?」

 

 さて、一番気を揉んでそうな男の意見を聞こうじゃないか。

 

「ローズ委員長に死んで欲しいのか? 生きて欲しいのか?」

「………何でその二択になるんだよ」

 

 仏頂面で静かに呟いた。

 

「選びにくそうな顔してるからだが?」

「ふざけんな! こっちはお前の立場も考えて頼りたくないっつってんだよ! ローズ以上に人生掛かってる奴にこれ以上頼れるかよ!」

 

 口調は強いがこのおっさんは終始俺の心配をしてくれてるんだよな。

 ただ、見誤ってもらっちゃ困る。

 

「別におっさんに頼られたくらいで、どうこうなるような人生じゃねぇよ。そもそも今回はおっさんの頼みを聞くのが目的っぽいまである」

「なに、言って………」

「要はおっさんが知ってることなんてまだまだ序の口って話だよ。俺を知った気でいるようだけど、おっさんが見たことなんてほんの一部だからな? 

まだまだ見せてないことはあるし、俺の繋がりだって全部は知らないだろ? なのに、自分の見たことだけでローズ委員長と比べられちゃ、こっちが困るんだわ。あの人が賭けたのはあくまでも社会的な命であって、自分が物理的に排除される可能性を微塵も考えてないように感じるし、色々と全員甘いんだよ」

 

 どんな案件にも過激派ってのは出てくるもんだ。今回それが貴族一派か民間人かは分からないが、ないとは言い切れない。

 だが、それをここにいる誰もが指摘出来ていない時点で平和ボケしていると言わざるを得ないだろう。

 

「は、話が見えないんだが……………」

「だな」

 

 ダンデもキバナもまだ分かってないらしい。

 

「これだけのことをやらかした人だ。これまでの恨みつらみを抱えた輩がローズ委員長を暗殺する可能性だって考えられるし、バックにいた貴族連中があの人を消しにかかる可能性だってあるだろ? あの人の考えの甘いところは、そういう物理的な排除を考慮してないことだ。そして、それを指摘出来ないお前らもな」

「………そういう可能性も、あるのか」

「俺が貴族なら確実にやる。何なら捕まる前に排除出来なかったことを後悔してるだろうな」

 

 やるからには徹底してやらなけらば、半端な証拠だけが残り、後に自分の首を絞めることになり兼ねないからな。

 まあ、こういうのもサカキからの受け売りなところはあるが、言われて納得出来ちゃってるだけに、割と現実的な想定なのだと思っている。

 

「よし、なら質問の仕方を変えよう。実の兄貴をそんな目に遭わせたいか遭わせたくないのか、どっちだ?」

「お前、それは…………」

「どっちだ?」

 

 究極の二択をおっさんに迫ると、すげぇ嫌な顔された。

 しょうがないだろ。こうでもしないと言質取れないし、俺が動く明確な理由にもならないんだからさ。

 

「遭わせたいわけねぇだろ…………」

「ふっ、それでいいんだよ」

 

 よしよし、ようやく口にしたか。

 それでいいんだよ。

 今回はそれがあって初めて俺が動けるってもんだ。

 さて、確認の電話でもしますかね。

 

「あ、もしもーし。壱号さんですかー」

『さっきのメールは見た。ガラル地方での大事件、その犯人の現状としては、司法取引で悪徳貴族の詳細情報と引き換えに刑期に執行猶予を必ず付けることになっている』

 

 早速ローズ委員長の現状を調べてくれていたらしい。

 

「マジで? そんなことしてたのか。つか、相当具体的な情報を持ってたってことですかね」

 

 が、なんか予想外なことになっていた。

 司法取引で実刑を免れるって、よっぽどの内容を持っていたってことなんだろうな。

 というか、ローズ委員長の本来の目的はそこにあるのかもしれない。

 

『恐らくは』

 

 壱号さんも相当ヤバい情報なのだと想定してるみたいだし、いよいよ持って危険な匂いがしてきたな。

 マジで釈放後に暗殺って流れもあるやもしれん。

 

「なら、保釈時の身元引受人はどうなってます?」

『弟のピオニーとなっているな』

「ほーん。んじゃ、保釈時の護送を俺にすることは出来ます?」

『一応、理由を聞いておこうか』

「マスコミ対策と姪っ子へ被害が及ばないように、ですかね。あと暗殺阻止」

『なるほど。出来なくはないが難しいだろうな。何せ、保釈は明日のようだからな』

「やっぱり、難しいっすかね………」

 

 急な話なため、護送とかの計画は既に出来上がっているだろうし、そこに俺を捩じ込むというのも難しいだろう。

 だが、何としても捩じ込んでもらわなければ。

 なにか使えそうなものは……………ーーー。

 

「あ、ちなみにシャドウポケモンの方はどうなってます?」

 

 取り敢えず、俺が壱号さんに使えるカードを切ってみた。

 

『君の妹たちのポケモンは全員リトレーンに成功したと聞いている。こちらもそのデータを参考にリトレーンを進めているところだ』

「マジで? 下手したら一生あのままって可能性もあったってのに」

『うちに欲しいくらいの人材がいたのやもしれん』

「って言われてもな………」

 

 トツカとオリモトくらいしかいないだろうし、偶々上手くいき続けたって可能性もある。

 

『まあ、今回は君のその采配に免じて無理を押し倒すとしよう』

 

 ただ、コマチたちの功績によりあっさりと認められてしまった。

 ありがとう、コマチ。頑張ったな。

 

「わーい、あざーっす。あ、それと一応伝えておくと、護送するのは鎧島のマスター道場にしようと思うんで。あそこでマスコミから匿う傍ら、あの不摂生な身体を師匠に鍛え直してもらおうかなと」

『ふっ、それはいいかもしれないな。監視にもなるし、外へも睨みが効いて場所としては申し分ないだろう。よろしい、それで交渉してみようではないか』

「オナシャス」

 

 護送場所も伝えてから通話を切った。

 いやー、ただの思いつきだったんだが、強ち間違いじゃねぇな、あそこなら。

 爺も普段はあんなんだが、本気を出せばかなり強いし、何より本島から離れた離島だ。

 馴染みのない顔がいたら、すぐに見つかるだろうし、ポケモンたちが暴れる可能性だってある。森に入った、なんてことがあれば、多分そいつは終わるだろうし、マスコミ等に取っては中々の危険地帯なんじゃなかろうか。

 まあ、そのためにも爺には今から了承を得ないといけないんだけど。

 これで無理って言われたらどうしようか。

 

「あ、もしもーし」

『おー、はっちん。久しぶりだねん。元気にしてるー?』

「元気っすよ」

 

 相変わらずの軽さである。

 

『それで、ワシちゃんに何のお願いなのかなー?』

 

 それでいて察しはいいし。

 

「よく分かりましたね。明日、ローズ委員長が保釈されるんで、マスコミから匿う場所として、マスター道場で預かってもらえないかなって」

『いいよーん』

 

 おい。

 

「軽っ………危険だとか思わないんすか」

『その時は力で捩じ伏せるのみだよん』

「わーお、頼もしい。なら、ついでにあの弛んだ身体を鍛え直しちゃってください。どうせあの人やることないでしょうし」

『おっけー、おっけー。ワシちゃんの腕がなるねぇ』

「んじゃ、明日俺があの人引き取りに行って、そのまま直行しますんで、そこからはよろしくっす」

『はいはーい。はっちんも気をつけてねー』

 

 ……………おかしいな。

 なんか色々確認されると思っていたんだが、まさかの二つ返事で了承されるとは……………。

 もしかして爺も何かしようとしてた、とか?

 

「取り敢えず、ローズ委員長は司法取引で刑期に執行猶予が必ず付く取り引きをしたようだから、即監禁ってことにはならなそうだぞ。だから多少強引にでも保釈時に俺が引き取れるようにしてもらうことになったし、匿う場所としても師匠に許可取れたから、これでしばらくは大丈夫だと思う」

 

 取り敢えず、二つの電話で得られた情報を共有しておく。

 俺の予定としてはもっとこういろんな駆け引きだとか、嘘ではないけど、本当のことも言わない、みたいなやり取りが生まれるんだと覚悟していたのに、こんなにあっさりと決まるとは…………。

 俺、必要だったか?

 

「なんか電話二本で決まり過ぎてないか?」

「ハチ君はそれだけ物が言える存在だってことだよ」

「いやいやいや、そんなの世界でも何人いるんだって存在でしょうよ」

「オレたちがあーだこーだ悩んでた時間はなんなんでしょーね」

 

 ただ、この場にいる全員が俺以上にこのテンポに着いて来れていないため、遠い目をしたのがチラホラといる。あと文句を言う奴も。

 何だよ、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれよ。

 

「すげぇ遠い目してんな………」

「いや、遠い目にもなるわ! オレさまたちの二週間を返せ!」

「って言われてもな…………。逆に何が出来ると思ってたんだよ」

「それが思い浮かばなくて、噂の撥号とやらが最後の賭けみたいなもんなんだよ!」

 

 あれま。

 いつの間にかジムリーダーたちの最後の希望になってたわ。

 カブさんはそれを見越して呼んでおいたとか?

 うーん、カブさんだからなぁ…………。

 

「ハチ………アンタ、何者なの?」

 

 さっきからじっと俺のことを睨むように見ていたルリナが、痺れを切らしたように呟いた。

 

「ソニア、言ってみ」

「えぇ!? わたし?!」

 

 急に振られて驚くソニア。

 それと同時に言っていいのかを目で訴えてきている。

 それに頷き返すと、ソニアは口に人差し指を当てながら思い出し始めた。

 

「えっと、確か………国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係、コードネームは黒の撥号………だっけ?」

 

 わーお、完璧である。

 

「おぉー、俺ですらまともに覚えてないのに」

「覚えてないんかい!」

「だって、クソ長ぇんだもん。大体『本部警視長室』って部分がすっぽりと抜ける」

「自分の肩書きなんだから、ちゃんと覚えてなよ」

 

 覚えようとはしてるんだけどな。

 どうにもあの部分だけ、時折抜けるんだよ。

 

「ソニアも知ってたんだ」

「あー、まあ………成り行きで?」

「鎧島で犯人捕まえる時にソニアもいたんだよ。あとカブさんとピオニーのおっさんとシャクヤも別案件で犯人を捕まえる時にいたからな」

 

 ソニアは親友に隠していたことになるため、一応フォローはしておいた。

 ついでにカブさんたちが俺の正体を知っているのも明かしておく。

 

「そういうことかい…………なるほどね。カブがアンタを呼び出したのも、ピオニーがアンタにだけは絶対に頼ろうとしないのも、全部アンタの正体を知っていたからってことなんだね」

 

 メロンさんはようやく合点がいったのか、深い溜め息を吐いている。

 

「言っちゃってよかったの?」

「別に隠すようなことでもないし、ジムリーダーくらいにまでなら知っておいてもらった方が、今後楽かなって思ってたりもするんで」

 

 カブさんは終始俺の正体に関しては濁そうとしていたため、俺の方から明かしたことに心配そうな顔をしていた。

 対しておっさんは「言っちまいやがった………」と片手を額に当てている。

 そんな重く受け止めなくても…………。

 

「つまり、ハチの名前は撥号からってことか?」

「え? ダンテくん、そこ?!」

「いや、だって、気になるじゃないか。ハチが本名なのか、撥号から取ったのか」

 

 ただ、一人だけ相変わらずというか何というか、感性の違うバカがいた。

 思わずソニアが突っ込んじゃってるけど、ついこの間まで関係が拗れていた二人とは思えないやり取りである。

 

「ハチは本名を短くしただけで、撥号の由来は知らん。単に八番目だったんじゃないか? 上司は壱号だし、弐号とかもいるみたいだし」

「ハチも本名じゃねぇのかよ」

「偽りだらけですね」

 

 うるせーよ、ネズ。

 俺はもうこの偽りの存在を利用していくしかないんだよ。

 

「まあ、色々と成り行きでこうなったからな」

「成り行きで国際警察になれるものなんですかね…………」

「無理だと思う」

 

 俺もそう思う。

 だから壱号さんの当初の考えはどうだったのか、今でも謎だ。

 まあ、俺としてはそれを交渉の材料に使えたからいいんだけどね。

 よく調べもしないで引き入れる方が悪い。

 

「…………ハチ、今度は何企んでるんだよ。みんなに正体明かしちまってよ」

 

 ピオニーのおっさんが、訝しげに俺を見てくる。

 確かに何も企んでいないかと言われれば、企んでいるんだけども、おっさんの言い方だと俺がこれまでにも隠れて犯罪をしていた、みたいなニュアンスに聞こえるじゃねぇか。

 

「企むだなんて酷い言われようだな。俺の本来の仕事はガラル地方とのパイプ作りだったんだわ。で、鎧島に来た翌日にダンデとバトルして勝っちゃったもんだから、それ以降なんだかんだ著名人ばっかり来るわ来るわで、今に至るわけよ。なら、最後に正体明かして今後何かあったら、協力してくれねぇかなーって思っただけ。それにこれでちゃんと仕事したぞって上に報告出来るし」

 

 一応、本来のミッションはガラル地方でのコネ作りだからな。

 俺以外にも国際警察がガラルに来てはいるだろうが、その内何人がジムリーダーと知り合いになってるかは分からない。ましてやチャンピオンと知り合いなんて、夢のまた夢だろう。

 となると俺の成果は十二分と言えると思うんだわ。

 だから、ここいらで俺の正体を明かせば、何かあった時に国際警察に協力してくれるんじゃないかと、甘い目論みを持っているわけである。

 

「今後、オレさまたちを利用する気満々じゃねぇか!」

「ある意味、呪いですね。嫌なもん聞かされた気分だ」

 

 知った以上、知らないでは通せないし、何だかんだ俺のいないところで俺に文句を言いながらも協力してくれそう。

 

「文句はダンデに言え。全てのきっかけはコイツだ」

「ダンデェ、何であんなのと知り合っちまったんだよ」

「というか何負けてるんです? そこは意地でも勝ちなさいよ」

 

 キバナとネズに詰め寄られて苦笑しているダンデ。

 

「でも、これでようやくアンタが強い理由が分かったってもんだ。国際警察なら、並のトレーナーじゃまず無理だろうしね」

「そうですね。…………いや、でも生身でポケモンバトルされた身としては、それでも腑に落ちない部分があるといいますか………」

 

 メロンさんは納得いったと何度も頷いているが、その横でマクワが遠い目をしていた。

 

「………何だよ」

 

 するとルリナがまだじっと見てくるため、訝しむように聞いてみた。

 

「警察感がまるでないなーと」

「まあ、ある意味特殊部隊なもんだし、肩書き上は警察って感じでしかないからな。専門的な教育を受けたわけでもないし、見方によっては壱号さんの私用部隊とも取れるんじゃないか? 知らんけど」

 

 警察感がないのは元々だ。向いてないんだよ。正義のためだとか、不特定の誰かを守りたいとか、そんな大層な思いは持ち合わせていないし、自ら志望してなった職でもないんだしな。

 下手したら捕まる方のグレーゾーンにいるくらいだし、どちらかと言えば、サカキポジションの方が気分が楽かもしれない。

 

「つまり、戦闘特化の警察官ってことかな?」

「多分、そんな感じじゃないですかね。他のメンバーに会ったこともないですし、軽い面接だけで採用になりましたし」

 

 カブさんの確認に俺なりの捉え方を伝える。

 

「それってどうなの………?」

「会話だけでそれなりの人生を歩んできたってバレたんだと思っておいてます。そんな壱号さんですら、俺のことを全て把握してたわけではないですからね。そんなもんすよ、人生なんて」

「若造が何言ってんだよ。人生語るにはド・早ぇだろ」

 

 人生を語ったら若造と言われるんだよなー、未だに。

 結構中身は濃いと思うんだけど、それを詳しく伝えるのも中々厄介だし。最悪ヒキガヤハチマンに繋がるかもしれないから、まだそこまでは言えないんだよなー。

 黒の撥号は同一人物たと思われた際、ヒキガヤハチマンの存在位置と矛盾するため、アリバイが成立するから今後のことも考えて明かすだけだし。

 

「おっと、電話だ。珍しい………もしもーし?」

 

 すると、また誰かから電話が来た。

 今日はよく電話することになるな。

 下手すると一ヶ月で一回も通話機能を使うことがないって時もあるのに。

 まあ、昔に比べたらそれでも通話の回数は増えたんだけどな。

 

『フッ、やはりまだいたか。ガラルのニュースに仮面のハチが生放送で出ていたんでな。釈放の噂を耳にしたから試しにかけてみただけだ』

 

 サカキかよ。

 しかもいるかもしれないから試しにかけてみるってどんだけ暇なんだよ。

 

「なんて無駄なことを。用件はないんだな?」

『ふむ………例のバトルフロンティアは順調に進んでいるようだぞ』

 

 それはいいことだけれども、サカキの口から聞くような話じゃないんだよなー。

 

「あ、そう。そりゃよかった。何でアンタがそんな情報を持っているのかは聞かないでおくけど、下手に迷惑かけるんじゃねぇぞ」

『フッ、今は特に狙いのものはないからな。お前が帰ってくるまでは大人しくしておいてやろうではないか』

 

 俺が帰って来たら、また何かやるつもりなのだろうか。

 面倒だから、帰って来てからも大人しくしててくれよ。

 というか引退すればいいのに。

 

「なんて上からな………んじゃ、切るぞー」

『フッ』

 

 結局何だったのやら…………。

 本当に試し電話だったのだろうか。

 相手がサカキだと裏まで読まないといけない時があふから、正直かけて来ないで欲しい。

 

「会話に不穏な言葉もあったんだけど…………」

 

 ルリナがじとっとした目で見てくるので、ちゃんと誰だったのか答えておくか。

 

「そりゃ、ロケット団のボスからの電話だし?」

「はっ?」

「ロケット団?」

「カントーの?」

「そう」

 

 あら、サカキさん。

 ガラルでも有名人ですわよ。

 キバナやネズ、メロンさんたちもロケット団のことを知っているとは、ちょっと驚き。

 そのまま全地方で指名手配されててくれると嬉しいんだけどなー………。

 試しに電話をかけて来るくらいだから、バトルフロンティアが完成したら、絶対やってくるだろうし、来たら来たで何かしら問題を置いていくだろうから、しばらく檻の中にいて欲しい。

 もういっそのこと、俺が檻を用意して、そこに閉じ込めてしまった方が早いんじゃないだろうか。

 

「そういえば知り合いだったよね」

「いたな、あのヤバいの」

 

 カブさんとピオニーのおっさんは冠雪原で会っているため、サカキの殺気を思い出したのか、身震いしている。

 

「ハチはその………ロケット団、なのか?」

 

 そんな中、ダンデがおずおずと聞いてきた。

 

「いや? どっちかっつーと因縁の相手?」

「それにしては緊張感のない雰囲気だったけど………」

「あんなのに遠慮して萎縮してたら、時間の無駄だろ?」

「そう思える時点でオマエは異常ですよ」

 

 そうは言うがね、ネズ君。

 毎回毎回怖気付いていたら、あれとはやっていけないんだわ。

 

「マリィ、ロケット団って知ってますか?」

「ううん、知らない」

「ですよね」

 

 あ、知らない組がいた。

 ネズと妹とピンクな少年か。表情も見えないし、声を出すこともないから分からないけど、お面の子も知らなさそうだなー………。

 

「あー、ロケット団ってのはカントーを拠点としていた犯罪組織のことだ。んで、サカキはそこのトップ。組織のボスだ」

 

 一応、知らない組には補足しておく。

 ………うん、犯罪組織のボスと電話で繋がれるって、知らない人からすれば、俺も相当犯罪者側だよな。

 

「ハチ君の正体を知ることになった案件でもいたね」

「ありゃ、ド・やべぇオーラだったな。ハチは平然とやり取りしてたけど」

 

 遠い目をした二人の顔が青ざめていっている。

 

「ねぇ、組織犯罪捜査官って…………潜入捜査でもしてたの?」

 

 すると、ソニアが思い出したかのように聞いてきた。

 潜入捜査か。それに該当するものとなると、シャドーとロケット団の残党狩り、くらいか?

 まあ、結果的にってところはあるし、国際警察になる遙か前だから、潜入捜査と呼ぶには烏滸がましいけれども。

 国際警察になってからなんて、鎧島でのんべんだらりとしてたり、ジムチャレンジ参加してたりで、潜入捜査なんてとても…………,

 

「いや? 国際警察になる前からの知り合いだな。知り合いたくはなかったが」

「国際警察関係ないんだ…………」

「ないない。逆によくこんなのを採用したなと壱号さんに驚いてるまである」

「人を見る目は確かなんだろうね。結果論かもしれないけど、ある意味最強のカードを持ち合わせてる人を仲間に引き入れてるし」

 

 カブさんが目を閉じて頷いている。

 今、冠雪原で壱号さんを脅した時のことを思い出してるだろ。

 ただ、壱号さんの場合はそれで自分の首を絞めてるからな?

 

「まあ、そんな感じの国際警察だから、ローズ委員長のことも任せていいと思うよ」

「チッ………ただし! 自分の立場が危うくなるようなら、ローズのことはさっさと切れ。分かったな!」

「へいへい、そうならないように立ち回るよ」

 

 渋々といった感じでピオニーのおっさんが許可を出してくれた。

 許可をもらうもんでもないと思うけどな。

 まあ、これでセレビィの思惑というか確定しているまだ見ぬ未来に繋がることだろう。

 どうなることやら。

 

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