ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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139話

 エンジンジムに泊まった翌日。

 壱号さんからの指示通りにナックルシティの留置所へと向かい、警察手帳と指示書を見せて、ローズ委員長との面会となった。

 

「ッ!?」

 

 入って来たローズ委員長は俺を見るなり、目を見開いて驚いた。

 覆面を付けているわけにもいかないし、ヒキガヤハチマンだとバレるわけにもいかないから、一応前髪を上げて、印象を変えているんだけどな。

 

「これは一体………どういう状況なんだい?」

 

 ローズ委員長は一緒に入って来た警察官に振り返って問いただす。

 

「今日の釈放時に護衛として国際警察官が任務に就くので、その面会です」

「国際警察…………」

 

 その国際警察が俺だということをようやく理解したらしい。

 なんだ、伝えてなかったのか。

 あるいはそういう規定なのかもしれない。警察だけど、その辺を知らないから、この人たちをとやかく言える立場ではないし、何かしら理由があったのだろうということにしておく。

 

「カブさんが気にしてましてね。ピオニーのおっさんは最後まで駄々捏ねてましたけど、何とか言質を取って、上に捩じ込んでもらいました」

「その声………」

 

 あ、今分かった感じ?

 そこからだったか。

 

「一応、初めまして、ですかね。ローズ委員長」

「ぼくはもう委員長じゃないよ。こうなることを見越して、先に全てを辞めておいたんだ」

「そりゃ用意周到なことで」

 

 この人、そんなことをしていたのか。

 となると、相当計画的だったに違いない。

 

「ガラルに戻って来た日に、その足でワイルドエリアに行ったんですけどね。まさかの大怪獣バトルが発生していて、驚きましたよ」

「君にも迷惑かけたね」

 

 以前、期間限定のスポンサー契約をする際に見せられた動画の口調とは打って変わって、柔らかさを感じる。

 素はこんな感じで、あの丁寧口調なのは仕事モードなのかもしれない。あるいは人によって態度が変わらないように、常に丁寧な口調にしていたか。

 

「まあ別にアレくらいどうにかなりましたけど。何なら俺のポケモンたちが二手に別れて倒した数を競い始めて、取り残された俺も残った一体を使って、二体同時に発生しているところとかを倒してましたよ」

「ダンデ君からその話を聞いた時は驚いたよ。君、そんなに強かったんだね」

 

 ああ、ダンデも面会に来ていたのか。

 一応、あいつがチャンピオンに就任にした当時からの付き合いだろうし、切っても切れない関係だろうから、そりゃ来るか。

 警察としても現役チャンピオンの訪問は断れないだろうし。

 

「俺がというよりポケモンたちが異常なんですよ」

「そういう風に育てた人が何を言うんだい」

「よくそう言われるんですけどね。ポケモンたちがやりたいことをやれるようにアドバイスしてるくらいで、特に何かをしてるわけじゃないんすよ」

「多分、そのアドバイスとやらが要因なんだろうね」

 

 うーん、そんなことであんな育ち方するだろうか。

 そもそもリザードンは特殊個体と言ってもいいし、ゲッコウガは元々変な奴だし、ジュカインは再会したらああなってたし…………。

 サーナイトだって、俺が何かしたんじゃなくてダークライとクレセリアが鍛えちゃったからああなっちゃったわけだし…………。

 俺が何かしたって感じじゃないんだよなー、マジで。

 

「それで、ぼくはこれからどうなるのかな?」

「取り敢えず、釈放後は鎧島のマスター道場に潜伏。裁判とかもあるだろうから、その時はピオニーのおっさんは固定として、ダンデやらジムリーダーが護衛に就く形で出廷。司法取引で実刑は免れるようですから、判定が下され次第、控訴も上告もなしでお願いしますよ」

「それは分かってるよ。司法取引にも含まれているからね。そっか、マスタードさんのところか」

 

 あ、司法取引の内容にそういうのも含まれてるのか。

 それならこっちがどうこう考える必要はなさそうだな。逃げる心配もないだろうし。

 

「んで、裁判が終われば………どうしようかな。どうしたいとかあります?」

「何も考えてないよ。ただ、ひっそりと暮らしたいかな」

「つまり、表舞台に未練はないと?」

「ないね。あ、でも一つ気になるのはオリーヴ君がどうしてるか、かな。彼女にはたくさん迷惑かけちゃったからね」

「えっと、確か不起訴の上で解放されたとかって書いてあったような………」

「そうか………不起訴だったんだね」

 

 壱号さんからもらった資料を思い出して言うと、少し安心した顔つきになった。

 自分のことよりもあの秘書さんのことは気にしていたのか。

 

「彼女は最後までぼくがそんな責任を負う必要はないって言ってくれてたんだよ。だけど、ぼくはそれを聞き入れずに実行した。彼女にも手伝わせた上でね。酷いでしょ?」

 

 元来、こんな悪役回りのことは苦手なのかもしれないな。経営する上で人を切ることもあったのだろうが、何も感じない性格ではなかったのだと思う。

 一言で言えば責任感の塊、だろうな。

 …………おかしいな、似たようなセリフを聞いたことがあるような気がするぞ。

 

「それは本人に直接聞いて下さい。俺がとやかく言うことでもなければ、アンタが決めつけるようなことでもない」

「同情もしてくれないのかい?」

「同情して欲しいんですか?」

「こういう時は同情するもんじゃない?」

 

 いや、知らんし。

 同情されたところで何かが変わるわけでもないんだし、俺としては変に同情される方が嫌だわ。

 

「生憎、こういう時っていうのを初めて経験するもんでね。他を知らないし、興味もない。それにアンタはまだまだ小物なもんでね。もっとヤバいのを知っている以上、同情する程のことでもないんですよ。俺にとっては」

 

 それにぶっちゃけ、サカキとかを見ちゃってるもんだから、ローズ委員長はまだ可愛いもんなんだよな。

 だから、御涙頂戴的な感覚にもならないし、ローズ委員長の言葉に感化されることもない。

 ………うん、こんな話ばっかりしてたら、時間が来ちゃうな。

 

「まあ、それは追々考えるとして…………あ、釈放される時、玄関で頭下げます? それとも裏口からひっそりと移動します?」

 

 まずは段取りの確認から始める。

 

「玄関で頭を下げるつもりだったんだけど………ダメなのかい?」

「アンタの想定ではそれで自分の中のプランは全て終わるって感じなんでしょうけど、そこに自分の命が狙われる可能性は含まれてます?」

「………その時はその時だよ。それくらいのことをしたからね」

 

 考えてないわけではないけど、対処する気もないって感じか。

 面倒かなぁ。

 

「なら、これから出てくるであろう誹謗中傷で自分の心がやられて自殺する可能性は?」

「こればっかりは分からないかな。批判はもの凄く浴びてきた人生だけれど、それがどこまで保つのやら」

 

 誹謗中傷に関しては、ローズ委員長もどうなるか分からないって感じか。

 まあ、島に隔離してネットを遮断すれば、早々そういう声に晒されることはないだろう。

 

「マスター道場に隔離だし、ネットを見なけりゃ早々そういう声には晒されないでしょ。後は出廷の際だけど、ヘッドホンでもして音を遮断してピオニーのおっさんにでも手を引いてもらえばいいんじゃないですかね」

「ピオニー、にかい?」

「そう、おっさん二人で手を繋いで」

「いい年した中年が手を繋ぐとか何の嫌がらせだい?」

 

 想像したんだろうな。

 すごく嫌そうな顔をしている。

 俺も適当に言ったものの、そんな光景を目にしたくはない。

 というか絶対初出廷の時とかカメラが回ってるだろうから、テレビでそんなのが映し出されたら、ふざけてるのか!? ってなると思う。

 却下だな、却下。

 

「なら、女性にします?」

「もっと何かあるでしょ。ポケモンに手を引いてもろうとかさ」

 

 あ、そうね。人以外でもいいわな。

 

「うーん………出来そうなポケモン連れてます?」

「ダイオウドウ、ナットレイ、ニャイキング、シュバルゴ、ギギギアル、ゾウドウ………ニャイキングくらいかな」

「いるんすね、ニャイキング」

 

 なんかピオニーのおっさんに似た手持ちだな。

 共通するポケモンとかは子供の頃に二人で捕まえたとか、そういうポケモンなんだろうか。

 

「今は警察に預けているけどね」

「それでしたら、釈放時に返却する手筈になっています」

 

 あ、これから返されるのね。

 

「なら、ニャイキングに手を引いてもらうってことで」

 

 取り敢えず、こんなもんかな。

 ここから先はどう出るか分からないし、ローズ委員長の謝罪後に何が起きるか次第で俺がどうにかするしかないだろう。

 

「そろそろ時間です」

「なら、準備しましょうかね」

 

 面会室から出で、廊下で待つ。

 しばらくすると着替えたローズ委員長が警察官二人を連れて現れた。

 

「ねぇ、それは何だい?」

「ああ、これですか? 今朝、カブさんに渡されましてね。素顔バレると色々面倒でしょう? って言われてしぶしぶもらってきました」

 

 手に持っていた黒い覆面が気になったらしい。

 今朝、ここに来る前にカブさんに手渡されたんだよな。

 多分、ガオガエンの覆面だと確実にバレるから、顔を隠すなら違うふくめんにしなきゃ、とでも思って気を遣ってくれたのだろう。

 

「逆にバレない?」

「怪しまれても断定はされませんし、精々ネットで盛り上がるくらいでしょ」

「因みになんてポケモン?」

「ダークライ」

 

 そう、ダークライなんだよなー。

 よくこんなのを見つけてきたなと思う。カブさんはダークライがいることも知ってるから尚更。

 

「黒いポケモンなんだ」

「そうっすね。黒いポケモンです。『君、全身黒づくめだから、ユニフォームの時よりは違和感ないと思うよ』だそうですよ」

「うん、違和感はないね」

「あ、それと俺のコードネーム、黒の撥号なんですよ」

「彼はそこも考慮して選んだんじゃない? 知ってるんでしょ?」

「ええ、まあ。俺もそうじゃないかとは思ってます」

 

 取り敢えず、ダークライの覆面を被った。

 

「さて、行きますか」

 

 警察官二人を先頭にして、ローズ委員長、そして俺が後ろから着いていく。

 正面玄関から出ると大勢のカメラやマイクが向けられていた。

 報道陣もよく集まったもんだな。

 

「この度は皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

 

 深々とお辞儀をするローズ委員長。

 それに合わせてシャッター音が幾度となく鳴り響く。

 フラッシュがすごく眩しい。

 覆面してるから助かってるようなものである。

 ありがとう、カブさん。

 想定されていたであろう用途以外で、すごく活躍してるぞ。

 

「ニャイキング、メタルクロー!」

 

 ッ!?

 やっぱりいるんかい!

 

「サイコキネシス」

 

 どこからか飛び出してきたニャイキングがローズ委員長の顔面に向けて、爪を突き出してきた。

 それを黒いのの超念力で押さえつける。

 

「さいみんじゅつ」

 

 そして、眠らせてーーー。

 

「あくむ」

 

 悪魔を見せておいた。

 

「ニャ、ニャァァァッ!?」

 

 うなされ始めたニャイキングを地面に放り出し、報道陣を睨む。

 

「じゃ、邪魔すんじゃねぇ!」

 

 するとニャイキングのトレーナーだと思われる中年のおっさんが姿を現した。

 

「悪いがそれが仕事なんでな。今のは不問にしてやるが、ここから先は誰が相手でも国際警察が立件する。立件されたい奴は全員かかって来い。俺が相手してやる」

 

 単独犯なのか分からないため、炙り出すためにも俺が前に出た。

 うーん、流石に立件するぞって言ったら誰も追々して来ないか。

 

「だ、誰もあのクソ野郎を殺したいとか思わないのかよっ! クソ、クソっ!」

 

 もしかするとネット同士を集めた上で来ていたのかもしれない。

 だが、いざって時になって尻込んでしまったか、あるいは俺の発言で出るに出られなくなってしまったか、だな。

 取り敢えず、第二撃への牽制にはなったってことにして話を進める。

 

「アンタが具体的にどんな被害に遭ったのかは知らないし、どうせ悪いのはこのクソ野郎かもしれないが、こっちはそのクソ野郎から情報を引き出したり、情報の整合性を確認しなきゃならねぇんだ。今はおいそれとアンタらの好きにさせてやることも出来ないが、何で犯罪者の方が守られてんだって疑問は理解出来る。だからまあ、裁判が終わって判決が確定して、その内容に納得出来ないんだったら、その後にこのクソ野郎やそのバックにいた貴族とやらを探し出して好きにすればいいさ。それでアンタらが捕まっても文句は言わせねぇが、それだけの恨みを買うことをやらかしたのも確かだ。このクソ野郎たちも殺されたって文句は言わせねぇよ」

「あの、警察官として今の発言は………」

 

 ローズ委員長の両脇に控えていた警察官が、おずおずと止めに入ってきた。

 意図していたわけではないが、結果的にこれで俺の発言は俺の個人的なものとして認識されそうだ。

 少なくとも警察組織そのものの考え、ということにはならないだろう。

 それでいい。

 

「被害者ってのは、どんな事件でも感情の吐きどころがなければ潰れちまうんだよ。まあ、でも。国際警察はこのクソ野郎も他の貴族たちも徹底的にマークすることになるだろうから、死ぬまで監視の目に晒されるだろうな。だから容疑者ローズ。アンタも俺たちから逃げられると思うなよ」

「肝に銘じておきますよ」

 

 ローズ委員長は何かを察したように話に乗ってきた。

 そういう頭の回転は健在らしい。

 

「アンタ、何者なんだよ………!」

「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係、コードネーム、黒の撥号」

 

 やっぱり聞かれる俺の正体。

 これでこの事件は単なるガラル内の大事件ではなく、国際警察が絡んでくる世界的なものへと認知されるだろう。

 そうなれば、バックにいたという貴族たちもうかうかと行動出来ないだろうし、報道陣も手が出しづらくなると思う。

 

「んじゃ、ジュカイン。テレポート」

「カイ!」

 

 サーナイトにテレポートしてもらおうかと思ったのだが、それだと一瞬で仮面のハチだとバレそうなため、仮面のハチの手持ちにはいないポケモンでテレポート出来るのなんて、ジュカインしか思いつかなかった。そのジュカインも正規でテレポートが使えるわけではなく、ものまねで使えたりしないかなーという甘い見込みでの指示だったんだが、一瞬にして俺とローズ委員長の視界に映る景色を変えてしまった。

 ……………本当、何でもありだな。

 

「あー、疲れた」

 

 いやー、まさかこういう流れになってしまうとは。

 本当にいるんだな、ああいうの。

 ただ、おかげで報道陣の答えにくい質問が飛んでくることもなく移動出来たので、あの男には感謝しておこう。

 

「君、ぼくの代わりに………」

「別に何事もなければ、俺も前に出るつもりはなかったんすよ。ただ、カメラが回った中で、被害者だけが損をするようなのは、なんか頂けないんでね。形だけでも国際警察官が被害者の感情を受け止めて、復讐を煽るような発言をしたものの、その時は国際警察が相手になるという流れにしておけば、流石に怯むでしょうし」

 

 すると道場の扉が勢いよく開かれたかと思うと、ルリナが飛び出してきた。

 

「ハーチーッ!」

「な、なに?! あ、痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ?! なに、何だよ!?」

 

 胸倉を掴まれ、首を絞められ………死ぬ………。

 握力ヤバすぎ………。

 

「アンタは本当にもう! 見てるこっちがひやっとしたでしょうが!」

「ケホッ、ケホッ! い、いや、しょうがねぇだろ。襲ってきたんだから」

「それはそうかもしれないけど、そこじゃないのよ!」

「なにが」

 

 咳き込みながらもルリナのマシンガンに答えていく。

 

「アンタ、今ネットで『あの国際警察官、仮面のハチでは?』ってすんごい話題になってるんだから! バレちゃってるじゃない!」

 

 あ、やっぱり盛り上がってるか。

 そりゃあね。ガラルで覆面してる奴なんて俺くらいしかいないもんね。

 そこと結びつけちゃうのはよく分かる。

 

「本人がそうだと言ったわけじゃないんだから、憶測の域を出ようがないだろ。それに俺は多分そろそろまたガラルを離れることになるだろうし、言わせておけばいいだろ」

「はあ?! またアンタどこか行くつもり?!」

「そりゃ、まだ色々と途中だからな」

 

 そもそも帰るとしたら、カロスだからな。

 ガラルを本拠地にするつもりもないし、端からガラルに長期滞在するつもりはないんだよなー。

 というかお願いだからそろそろ解放してくれない?

 首が締まる程ではなくなったけど、胸倉掴まれたままで揺すられるから、酔いそうなんだよ。

 

「はっちん、久しぶりー」

「う、うす」

 

 相変わらず軽いノリの爺が遅れてやってきた。

 その後ろにはカブさんたちもいる。

 

「国際警察のこと、皆に言っちゃったんだねぇ」

「はぁ………首辛かった………別に隠すようなことでもないんでね。それにジムリーダーともなれば、何かあれば国際警察の知り合いがいるってのは大きいだろうし、嫌でも選択肢に上がってくるっていう呪いにもなるでしょ?」

「わーお、はっちんわるーい顔してる」

 

 ようやくルリナから解放されて、爺に返答していく。

 

「いやもう、マジで呪いだわ。知りたくなかったぜ」

 

 キバナが遠い目をしているが、見なかったことにしておこう。

 

「こいつの性格の悪さは今に始まったことじゃねーですよ」

「ネズも大概だけどな」

 

 ネズはネズで俺のことをディスってくるが、ダンデにぼそっと言われる始末。

 俺もダンデに同意だわ。

 

「ローズさま!」

「オリーヴ君………」

 

 そこへ秘書さんが飛び込んできた。

 一目散で向かうはローズ委員長の下。

 

「迷惑かけましたね」

「いえ……いえ………オリーヴはローズさまの秘書です。あなただけに背負わせるつもりはありません」

「ダメだよ………これはぼくが負うべき罰だから」

「なら、せめてお側に置いて下さい」

「オリーヴの人生を変えたのはあなたです! あなたに変えられてしまったのです! それなら最後までわたしに責任を持って下さい!」

 

 …………俺たちは何を見せられているのだろうか。

 

「…………愛の告白?」

「アンタもそう思う?」

「そうにしか聞こえない」

 

 責任という単語が嫌に耳に障るのは俺だけだろうか。

 チラつくのよね、亜麻色髪が。

 それにしてもーーー。

 

「表舞台に戻る気のない敏腕経営者が二人、ねぇ………」

 

 これはアレだろうか。

 バトルフロンティアの経営面での実務を丸投げしちゃえってお達しなのだろうか。

 それくらい欲しい人材たちが宙ぶらりんの状態になるのだが…………。

 

「おい、ローズ! いい加減にしろよ!」

 

 あ、煮え切らないローズ委員長に、ついにピオニーのおっさんがブチ切れた。こうなっては俺たちは蚊帳の外に置かれるだけだろうし、しばらく放っておこう。

 どうやらそう考えは俺だけではないようで、ダンデやソニア、カブさんまでもが三人から距離を取り、俺たちの方へと集まってくる。

 

「ビィビィ」

「セレビィ!?」

 

 そこへセレビィが来てしまった。

 何故今来る。

 誰もいない時に来なさいよ。

 しかも早くない?

 

「えっ、今来ちゃう? もう少し様子見とかしない?」

「ビィビィ」

「あ、はい。いいよ、もう。好きにしてくれ」

 

 異論反論主義主張は聞き入れませんって感じの意思表示をされてしまった。

 面倒くせぇな、こいつ。

 

「ハチくん………何でセレビィが………」

「セレビィってなんだ?」

「あのポケモンのことだろうね」

 

 どうやらセレビィについて理解しているのはソニアだけなようで、他は何だそれ? って顔をしている。

 ホウエン出身らしいカブさんでも耳にしたことはないんだな。

 ちょっと意外。

 

「今、セレビィと旅行中だからだけど?」

「はっ?」

「だからセレビィと旅行中で、その一環でガラルに寄ったんだが、着いた途端、大怪獣バトルだったから参加したって話なんだよ」

 

 流石に時渡だとか説明が必要そうな単語は入れないで、それっぽく濁して説明しておく。

 

「………いつからなの」

「うーん、取り敢えず予定としては二年半から三年くらいの予定なんだけど、今がいつなのかが分からないから、いつからなのかも答えられないな。お前と初めて会った時はセレビィとの旅行中ってわけじゃないんだが、ガラルにいた期間がほぼ旅行の理由って言えばいいかな。ややこしいのよ」

 

 時渡の説明を簡単に済ませようとすると却って難しいもんだな。

 一から順に説明したんじゃキリがないし、そういうもんだと理解してくれないかなー。

 

「えっと、ソニア? どういうことなんだ? そのポケモンとの旅行がそんなに青ざめるものなのか?」

「ダンデちん、今はまだ詳しいことを聞いちゃダメよん。はっちんは謎が多いくらいが丁度いいんだからねん」

 

 あ、流石全てを知っている爺。

 今は外野が口を挟むなと暗に圧力をかけてくれたわ。

 

「師匠……」

 

 ダンデも爺に言われてはこれ以上踏み込めないようだ。

 うんうん、マジ助かる。

 

「はっちん、ワシちゃんに何か言い残しておくこととか、あったりする?」

「そっすね。その内、エニシダって人がこの島に来るかもしれないんで、その時はよろしくお願いします。生贄は表舞台に居場所のないあの二人で」

「分かったよん」

 

 多分、エニシダさんのことも知ってはいるのだろう。

 世界を飛び回ってた時期もあるらしいし、俺のことを知ってるくらいだしな。

 

「それとユイたちは来ました?」

「三人で来たよん。半年くらいでモノにしちゃうもんだから、ワシちゃん驚きの連続よ」

 

 あ、ちゃんとユイたちはマスター道場に来たんだな。

 しかも三人ということは、ハルノとシズカさんも来たってわけだ。

 

「ユイって………あの、コマチの知り合いの?」

「あ、そう。俺の嫁。というか三人とも俺の嫁」

 

 シャクヤが思い出したように聞いてきた。

 ということはシャクヤもユイたちに会ってるのか。

 

「あー……あの話、本当だったんですね」

「何の話だよ」

「お嫁さんがたくさんいるというやつです」

「本当なんだわ、これが。俺には勿体ないとは思うが、誰にもくれてやる気はないからな」

 

 何ならサイトウまで会ってるみたいだな。

 というか、そうなるとサイトウにまで俺の本名もバレてるんじゃなかろうか?

 それを一切口にしてこない辺り、状況も把握しているのかもしれない。

 まあ、ユイたちに会う以前に、コマチから聞いてそうだしな。

 

「その、実はユイのバルキーが何故か私を気に入ってしまって譲り受けたんですよ。もしユイに会うことがあれば、今は立派なカポエラーに進化したとお伝え下さい」

「マジで? 確かタマゴから孵化したんじゃなかったかな」

 

 はー………。

 まさかユイの手持ちから移籍する奴が出てくるとは。

 そうあることではないが、ポケモン自身が新たにトレーナーを選ぶってこともあるからな。

 

「そうです。それでも私を気に入ったようで………」

「ま、そこはポケモンも生き物だし、そういうこともあるだろ。親元から巣立ったと考えれば、逆に自然な流れとも言えるし、進化までしたなら、サイトウに懐いてる証拠だ」

 

 それにしてもユイのポケモンが現役ジムリーダーのポケモンに、ねぇ。

 

「ありがとうございます。近い内にジム戦にも登用する予定です」

 

 しかも進化していて、近い内にジム戦にも登用されるとくるか。

 恐らく、ピンと来たんだろうな。

 ユイはユイで好きだけど、自分はこの人の元にいたいって感覚は好きとはまた別だからな。

 それで上手くやれているようなら、ユイも安心だろう。

 

「そっか。それも伝えておくわ」

「はい、よろしくお願いします」

「ビィビィ」

「あ、はい。すんませんね、長話で。最後にもう一個だけ待ってね」

 

 はよしろと迫ってくるセレビィを撫でてから、リュックから二週間前にワイルドエリアで集まったたくさんの綺麗な石が入った袋を取り出す。

 

「ソニア、これやる」

「えっ!? ちょ、うわっ?!」

 

 それをソニアへと投げつけると、慌てながらもちゃんとキャッチしてくれた。

 何気に反射神経いいな。

 

「ッ!? ハチくん、これ………!」

「使えるのあったら使いこなせるようにしておけ」

 

 中身を確認したソニアがわなわなと震えているが、そんな震えるもんでもないだろ。

 

「ソニア、何もらったんだ?」

「綺麗な石」

 

 あ、ソニアもそう表現するのね。

 多分、メガシンカに必要なキーストーンやメガストーンだって口にすると、ダンデが暴走しそうだもんな。

 分かるわー。

 

「んじゃ、セレビィがうるさいんでもう行くわ。師匠、あそこで弟にガミガミ言われてる人を頼んます」

「おっけー。はっちんもまたねー」

「うす」

 

 説明を要求される前に爺に後のことは頼んでさっさと時渡することにした。

 

「ビィビィ!」

 

 セレビィが力を振るい、俺の視界は変わっていった。

 

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