ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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141話

 各々が席に座っていく。

 

「ハチマン君は僕の隣だよ」

「えぇー………」

 

 変態に肩を掴まれて強制的に着席。

 お誕生日席というかテーブルには俺と右隣にプラターヌ博士。

 左側のテーブルには俺に近い方からソニア、ムーン、ナリヤ博士、ククイ博士、バーネット博士、イッシュ組の三人の計八人。

 右側のテーブルにはプラターヌ博士に近い方からナナカマド博士、シロナさん、オーキドのじーさん、グリーン、ウツギ博士、クリスタル、オダマキ博士、ダイゴさんの計八人。

 ユキノたちは俺の近くの壁側に待機という感じである。

 まあ、扉が近いからな。

 

「えー、では今回は私イッシキイロハが司会進行を務めさせていただきまーす」

 

 そう切り出したのは、今回の進行役になったらしいイロハ。

 前回はブルーさんがやってたため、進行役に誰かしら必要ではあったのだろう。

 いつもだったらユキノがやってそうなのだが、前回参加しているイロハの方が顔を覚えられているだろう、という理由での人選だと思われる。

 

「っていうか先輩いるなら、先輩がやればよくないですか?」

 

 が、早速俺に文句を言ってくる始末。

 そんなに嫌なのか?

 俺は嫌だけど。

 

「え? 俺が? 司会を? ぐだってもいいんだったらやるけど」

「あ、はい。クソ程にも役に立ちそうにないので、せめて自己紹介くらい先輩からお願いしますよ。初めての人もいるんですし」

「自己紹介………だと?」

 

 いろはすは鬼畜になってしまったのだろうか。

 進行役とか以上に苦手な自己紹介なんて苦行を俺にやらせるだと?

 

「そういうのいいんで早くしてください」

「いろはす冷たい。あー……ヒキガヤハチマンです」

 

 免除してもらえなかったので、取り敢えず名乗っておく。

 というかこれ以上何言えばいいんだろうか。

 ほぼ、知り合いしかいないし、俺のことを知らないのなんて、ご新規さんのイッシュ組だけだと思うんだわ。

 それも今回はちゃんと、各机の上にネームプレートが用意してあって、誰が誰なのか分かるようになってるし。

 

「肩書きくらい言ったらどうなんです?」

 

 あ、なるほど。

 肩書きか。

 肩書きなー………。

 もう死人になってるんだし、ぶっちゃけてもいいか。

 

「忠犬ハチ公、元カロスポケモン協会の理事、国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係、コードネームは黒の撥号。あとガラルで仮面のハチってのをやってます。これでいい?」

 

 指を折って確認していくと、増えたなーと思う。

 つい数年前までは忠犬ハチ公だけだったというのに。

 

「チャンピオンは?」

「あれはないものとして扱っていいだろ」

 

 三日で辞めてるし。

 そういえば、ピオニーのおっさんもチャンピオンになってすぐ辞めたって話だったよな。

 

「なら、四天王は?」

「あれは臨時だから。お前がなるまでの繋ぎだっただろ」

 

 カロス四天王はあの人………名前なんだっけ………フレア団のナンバー2だった………あ、そうだ、パキラだ。あの女が実質抜けたから、次が決まるまでの臨時でやってただけなので、ノーカンで。

 まあ、結局後任は他の三人の思惑もあってイロハに決まったし、俺もすっかり御役目御免である。

 

「お前さんが警察じゃと? 世も末じゃな」

「それな。本当それ」

 

 オーキドのじーさんは分かってるな。

 俺が警察とか本当に世も末だと思うわ。

 本当に大丈夫なのだろうか、国際警察。

 俺は割と使い勝手がいい肩書きだから、今のところ捨てる気はないけど、法律とか詳しくないからね?

 基本現行犯逮捕か調査員みたいなことしかしてないし。

 

「ガラルにチャンピオン級のトレーナーがいるという話は聞いていたけど、君だったんだね。覆面の理由は顔を隠すためかい?」

 

 ダイゴさんはどこからか仮面のハチの存在を耳にしていたらしいが、それが俺だとまでは特定出来ていなかったようだ。

 

「そっすね。あと人前に出るとか恥ずかしいじゃないですか」

 

 特にガラルはジム戦一つを取っても観客が大勢押し寄せるような一大興行だから、カントーやカロスのジム戦とは違って常に人前に晒されるから恥ずかしいのよ。

 

「それってあのガオガエンってポケモンのコスプレをした人のことでしょ? そっちの方が恥ずかしいと思うのだけれど………」

 

 あ、シロナさんも認知していらしい。

 意外と他の地方にも名前が売れちゃってるみたいだな。

 

「いっそ、キャラで通した方が楽なまでありましたよ。顔見られてないから、特定されることもないですし、ちょっとくらい謎のトレーナーって方が観客たちの興味を惹きつけられますし」

「ふーん、そういうものなのかしら…………ん? 待って。仮面のハチって確か三年くらい前から出てきてたわよね?」

 

 おっと?

 もしかして俺の存在の矛盾に気がついちゃったか?

 

「そうなのか?」

 

 けど、今がいつなのかが分からないため、三年前かどうかと言われても肯定も否定も出来ない。

 という視線も込めてイロハを見やると首を縦に振ってきた。

 

「何で本人が把握してないのよ」

「今がいつなのか分からないんで」

「なら、単刀直入に聞くわ。君がカロスに来た年とガラルで仮面のハチが活動し始めたのは同じ年なんじゃないの?」

 

 あ、気づいてるね。

 ただ、どういう方法でそうなっているのかまでは掴めていないらしい。

 

「そうですけど、何か?」

「やっぱり君、幽霊?」

「別に幽体離脱して二箇所にいたとか、そんなことはないっすよ。ガラルにいたのは、その一年半後の俺ってだけです」

「ますます意味が分からなくなってきたわ………」

 

 時系列がややこしいのよ。

 この説明を始めたら、理解してもらえるまでに時間がかかるだろうから、深掘りされないようにしておかないとな。

 

「…………ソニアさん、大丈夫です?」

 

 何故が頭を押さえているソニアに、コマチが顔色を伺っている。

 

「あ、いや、その………いきなりしれっとハチくんの謎が開示されて驚いてるというか、驚きを通り越してどう反応したらいいか分からなくなってるというか…………」

「まあ、肩書きだけは一丁前ですからね。でも中身は知っての通りですよ?」

「それはそうなんだろうけど…………ヒキガヤハチマンって名前も偽名ってわけじゃないよね?」

 

 またとんでもない思考回路に行ってんな。

 

「コマチもヒキガヤなんだから、流石に本名だと思わね?」

「だってハチくんだし」

 

 俺だから何だと言うのだ。

 

「本名だよ。生まれてこの方、ずっとヒキガヤ家のハチマン君やってきてるっつの」

「それももう表向き使えないけどね」

「それな、ほんとそれ。自分で決めたことではあるものの、表向き使えないんだよな」

「それにしては各地を這い回る死人だけどね」

 

 やけにコマチが名前を使えなくなったことを強調してくるな。

 まあ、表向きだとは言え、実の兄が死んだんだもんな。あーだこーだと理由付けして実行した策ではあるが、理解はしても納得はしてないのだろう。ユキノたちと違って、コマチだけが持つ俺と血を分けた兄妹であること。その一面を以てして、胸の内に燻る炎があるのかもしれない。

 こればかりは本人にしか分からないため、憶測の域を出ないんだがな。

 

「よかったわね、ハチマン。正真正銘のゾンビよ」

「うぐっ……」

 

 そんな俺たちの内心を掻き消すように、ユキノが俺をイジってきた。

 イジってきたのだが、言い返せない絶妙なのを投げつけてくるのは、どうかと思うんだわ…………。

 

「えっと………話が見えないんですけど………」

 

 ここでイッシュ組の博士がおずおずと手を挙げてきた。

 胸がデカい………。

 助手の子も。

 女性研究者ってのは胸が大きくなるものなのかもしれない。ソニアもデカいと思うし。

 となるとムーンもいずれ…………。

 

「あー、そもそも先輩のことを知らなければ、そうなりますよね。この人、暗殺未遂に遭いまして、そのまま表向き死んだことになってるんですよ。社会的にはもうヒキガヤハチマンなんて人間は存在しないことになってるんです」

「それは………理由を聞いても?」

 

 イロハの説明に遠慮がちに理由を求めてきた。

 まあ、そんな話を聞かされたら理由を知りたくなるわな。

 

「俺が生きてるってなるとまた俺の命を狙う輩が出てくる可能性が高いんでね。今度は俺以外にも被害が及ぶ可能性を考えると、俺を消した方が手っ取り早かったんですよ」

 

 他にも理由はあるものの、端的に言えばこんな理由だ。

 結局のところ、ヒキガヤハチマンが生きているから襲われるんであって、死んでいれば誰も襲うことは出来ない。

 そろそろどうやって身を引こうかなって思い始めたタイミングでの暗殺事件であったため、渡りに船と思い利用したまでである。

 

「まあ、どうせオーキドのじーさんなんかは最初驚きはしたものの、それくらいで俺が死ぬか? って訝しんでるだろうし。ね?」

「そもそもお前さんのこれまでを思うと、既に何回か死んでてもおかしくはないような状況であっても生還しとるからのう。寿命以外で死ぬとは到底思えんわい」

 

 俺が同意を求めると、オーキドのじーさんはあっけらかんと寿命以外で死ねないことを指摘してきた。

 じーさんですらそう思うんだから、マジで寿命以外で死ねないと思うんだわ。いいことだとは思うのだが、その裏で一体どこまでのポケモンたちが暗躍しているのかは定かではない。なーんかその内アルセウスとかが出てきそうで怖い。

 既にギラティナが出てきてるんだ。なくはない話だろう。

 

「とまあ、一応こんなのがこの会議の後見人というか見届け人です。肩書きだけ見れば大物感半端ないですけど、中身は小物感満載な小心者なんで、初めての人もそんな気負わないで下さいね」

「酷い言われよう」

 

 見届け人に対してのこの扱いよ。

 しかも誰も否定してくれないという。

 

「さて。えっと、初参加の方たちには予めオーキド博士たちのことは伝えているそうなので、オーキド博士たちの紹介は割愛しますねー」

 

 気を取り直してと言わんばかりに俺の呟きはスルーされ、イロハが場を進めていく。

 

「ん? つまり、俺のことは伝えてなかったと?」

「混乱させるだけでしょうが」

「だから自己紹介させられたと」

「そうですそうです」

 

 予め来るよって伝えてなかったために自己紹介をする羽目になったらしい。

 今度から新規参加者には俺のことも事前に紹介しといてもらおう。今後も俺だけ自己紹介させられるとか苦行でしかない。

 

「では、初参加組の紹介として、まずはアララギ博士、お願いします」

「はい。改めまして、アララギです。イッシュ地方でポケモンの起源について研究しています。前回は参加出来ず、申し訳ありませんでした。今回はバーネットから聞いてスケジュールを大幅に開けておいたので、参加することが出来ました。以後、よろしくお願いします」

 

 先程おずおずと手を挙げて俺が死んだことにしている理由を聞いてきた博士から自己紹介が始まった。

 

「事前に名前を聞いた時からもしやと思っておったんじゃが、お父上も研究者ではないか?」

「あ、はい。そうです。父も研究者です」

「やはりな。以前、アララギ博士が書いた論文を読んだように思ってな。そうか、娘さんか」

「父をご存知いただけているようで、大変嬉しく思います。父にもそのように伝えておきます」

 

 オーキドのじーさんは彼女の父親に心当たりがあったらしい。

 父親も研究者なのか。

 俺は聞き覚えがなかったから、論文を目にする機会もなく、過去に調べた分野とも違うのかもしれない。

 あとイッシュ地方にほぼ行ってないってのが大きいのかもな。

 いたはいたけど、二、三ヶ月やそこらだし、イッシュの各地を回ったわけでもないから、イッシュ建国史とかそんな話しか知らない。

 

「では次。マコモ博士、お願いします」

「マコモです。主にポケモンの夢について研究しています。夢を主食とするムンナやムシャーナ、最近ではスリープやスリーパーがイッシュでも生息域が確認されて、研究が捗っています。今の目標はいるだけで悪夢を見せるというポケモンや悪夢から癒すとされるポケモンに出会うことです。よろしくお願いします」

 

 アララギ博士の隣に座っていたメガネをかけた黒髪の女性が、緊張した面持ちで自己紹介していく。

 …………………。

 

「いるだけで悪夢を見せるポケモンに」

 

 ユキノの方を向くと同じことを考えたようでーーー。

 

「悪夢から癒すポケモンよ」

 

 二人してダークライとクレセリアを出した。

 ダークライは人型だからまだいいけど、クレセリアは場所取るな。スクリーンが隠れちまったよ。

 

「ま、まままままさかダークライとクレセリア!?」

 

 驚きすぎてメガネがズレてしまっているマコモ博士。

 テーブルがガタン! と音を立ててしまっていることにも気付いてないくらい、ダークライとクレセリアにしか意識がいっていない。

 まあ、念願のポケモンみたいだしな。

 ただ、イッシュ組以外、驚いていないのが何とも言えない。

 前回の会議ではまだダークライもクレセリアも復活してなかったんだけどな。何ならユキノも参加してないし。

 なのに、誰も驚かないってどうなのよ。

 

「マ、マコモ、落ち着いて?!」

「はっ!? し、失礼しましたっ。あ、あとで色々質問させてもらえると、その……嬉しい、です」

 

 アララギ博士に諭されて、顔を真っ赤にしながらペコペコと頭を下げて着席するマコモ博士。

 あとでダークライたちの話をする時間を取ってあげよう。

 

「では、次………えっと」

「ベルです! アララギ博士の助手をしています。今回は勉強のためについて来ました。よろしくお願いします!」

 

 参加者の名簿には名前が載っていなかったのだろう。

 二人とは違って、付き添いとして連れて来た感が半端ない。

 一人だけ研究者って格好をしてないのも大きいな。

 

「次は………誰がいませんでしたっけ? 前回」

 

 何だかんだ人が多くなったからな。

 イロハでも顔と名前が一致してないのかもしれない。

 俺か?

 俺は一応、イッシュ組以外は知り合いではあるからな。

 

「あ、じゃあ、わたしが」

 

 先に名乗りを上げたのはムーンだった。

 

「ムーンです。親がナナカマド博士の助手をしている関係で、昔からお世話になっています。元々、毒について研究していましたが、誤って研究所のポッチャマに毒を浴びせてしまい、解毒薬を探しにアローラへ渡ったのが縁で、今はククイ博士やエーテル財団のお世話になっています。最近ではヒキガヤさんという新たなスポンサー的な存在を手に入れたので、そこの濁った目の人にこき使われてます。よろしくお願いします」

「自分の自己紹介で俺をディスるなよ」

 

 おかしいな。

 ムーンの自己紹介だったはずなのに、何故か俺がディスられてるんだけど。

 あとムーンの親も研究者なんだったな。

 ソニアも婆ちゃんが博士だし、今回の新規組は家系的に研究者一家ってことになるのか。

 

「いやー、お嫁さんたちに誤解を与える前に説明しておかないとと思いまして」

「何の誤解だよ」

「ロリコン?」

「うん、ありがとう。ものすごくありがとう」

「気持ち悪いくらいにハキハキしていて気持ち悪いです」

 

 どうやらムーンは、俺がルミルミよりも年下の子に粉をかけてるじゃないかと思われないように気を遣ってくれたらしい。

 それにしては言いたい放題だった気もするが、その心掛けに免じて聞かなかったことにしよう。

 

「あとは………ソニアさん?」

「は、はい……えっと、ソニアです。祖母がダイマックスやガラル粒子について研究しているマグノリア博士だったり、幼馴染が現役チャンピオンだったり、親友がジムリーダーだったりで、周りがコンプレックスだらけでしたが、ある時からわたしの前にその全てを凝縮したような存在が彷徨き始めたせいで、色々と吹っ切れました。今現在の研究テーマはガラルの歴史です。今まで語られてきていたガラルの英雄が、実は一人と二体のポケモンだったり、ブラックナイトと呼ばれる現象が去年、再現されるという事件もあり、今までの研究データを検めているところです。今回は祖母の代理としてですが、よろしくお願いします」

「ねぇ、君たち、俺をディスることばっかり考えてない?」

 

 おかしいな。

 こいつにまでディスられる謂れはないんだけど。

 

「私もお嫁さんたちに誤解を与えないようしようと」

「お前の場合は、昔からダンデ一筋ですでいいから」

「ちょ、それ言うなし!」

 

 変に気を遣ったせいか、俺がストーカーみたいな言い回しになってるんだよ。

 ユキノとコマチが冷たい視線で、ユイが苦笑い、イロハがドン引きって感じのポーズを向けてくる。

 おいこら、お前ら分かっててやってるだろ。

 

「はい、お茶」

「あ、どうも」

 

 そこへコトッと紙コップを置かれた。

 誰だと思い顔を上げると、そこには青髪の女性が。

 

「………ちょちょちょ、ちょい待ち!」

「なによ」

 

 ぶっきらぼうに返してくるこの青髪の女性を見たことがある。

 顔をハッキリと覚えてるわけじゃないのだが、なんかこう姿形や声に既視感を覚えたのだ。

 

「なーんでフレア団がこんなところに?」

 

 そう、フレア団の…………女研究者とか言われてるのじゃなかったっけ?

 俺も名前とかまではすぐに思い出せそうにないが、確かフレア団の一員だったはず。

 

「司法取引でここの手伝いさせられてるの」

「お、おう………」

 

 あ、やっぱりフレア団の奴で合ってるのね。

 それにしても司法取引か。

 減刑する代わりに奉仕活動といったところだろうか。

 

「心配しなくても何もしないわよ」

 

 あれ?

 そうなると他の奴らは?

 女研究者じゃなくてもあの白い男とか………。

 

「他の奴らは?」

「さあ? 知らないわよ」

 

 どうやらまとめて司法取引をしているわけではないようだ。

 

「そういうもん?」

「そういうもん。そもそも目的が一致してただけで、特段仲が良かったってわけでもないもの」

「あ、そっすか………」

 

 まあ、警察としても釈放して、また徒党を組まれても困るため、お互いの情報は一切流さないようにしているのだろう。

 

「彼女はモミジ。元はフレア団というカントーのロケット団のような組織の科学者でしたが、司法取引の結果、うちで預かることになりました。いずれ遠出をする際は彼女を所長代理に据え置くつもりですので、よろしくお願いします」

 

 俺と彼女とのやり取りを見ていた身元引受人が、軽く説明してくれた。

 

「ちょ、やめてよ。アンタの手伝いはしても、そんな大層な役職もらうつもりないからね?」

「そうは言ってもメガシンカの研究が広がり始めてて、他の地方にも赴く必要が出て来ててさ。その際はジーナとデクシオも連れて行くから、研究所を任せられるのは君しかいないんだよ」

「別にこいつでもいいじゃない」

 

 人を指差すなよ。

 あと、俺が研究所の所長代理とかないわー。

 

「ハチマン君との契約内容に、それは含まれてないからね。一週間とかなら頼めるだろうけど、数ヶ月とかの規模になるとそういうわけにもいかないんだよ」

「チッ、全員勝手なんだから」

 

 人のこと言えた側じゃないだろうに。

 何だかんだ根は変わってなさそうだな。

 お盆を片手にさっさと出ていく後ろ姿に、すげぇイライラしてる感が出てる。本当に嫌なんだな。

 

「えー、取り敢えずこれで初参加の人は自己紹介したことになりましたかね」

 

 イロハが確認を取りながら、全員を見渡す。

 

「あのー、皆さんの紹介は?」

 

 すると何を思ったのか、ムーンがイロハたちの紹介を求めてきた。

 

「え? 私たちの? …………いります?」

「ヒキガヤさんのお嫁さんたち、くらいの情報しかないので」

「なんて偏った情報………」

 

 それは本当にそう。

 ムーンは俺やククイ博士たちと一緒にユキノとイロハのフルバトルを見てるだろうに。そこで肩書きが紹介されてなかったか?

 

「えー、じゃあ私から。イッシキイロハでーす。カロスの四天王してまーす」

 

 超適当だな。

 

「ユキノシタユキノです。ハチマンに代わって、カロスポケモン協会理事を引き継いでやっています。よろしくお願いします」

 

 こっちは簡潔にまとめた感じか。

 

「姉のユキノシタハルノでーす。一応、副理事として主に外部とのやり取りをしてまーす」

 

 ハルノ、いつの間にいたんだよ。最初いなかっただろ。モミジと一緒にお茶を持ってきて、そのまま残った感じか?

 

「最強の姉妹なんで、皆さん怒らせないようにお願いします。それと先輩のお嫁さんその1とその4ですね。ちなみに私はその3です」

「イロハ、あなたね………」

 

 イロハの補足にこめかみを押さえるユキノ。

 懐かしい光景だな。

 ユキノのあの顔を見ると戻ってきた感が増すわ。本人には口が裂けても言えないが。

 

「ユイガハマユイです。えっと、シャラジムでジムトレーナーしてます」

「ジムリーダーよりも強いジムトレーナーとして、カロスでは密かに有名人ですよー。あと先輩のお嫁さんその2です」

 

 ユイのまともな自己紹介を微笑ましく見ていたムーンが、イロハの補足でユイのことを二度見している。

 

「そこのぬぼーっとした人の妹のヒキガヤコマチです。コウジンタウンにある化石研究所の名誉職員やってます。まあ、ぶっちゃけ復元した化石ポケモンを育てて偶にその報告をしたり、ポケモン協会の方から予算を引っ張ってくるための繋ぎ役です。それと兄がいつもいつもご迷惑をおかけしてすみません」

「クソ生意気な義妹でーす」

「なにおう」

「喧嘩しないの」

 

 イロハに応戦しようとして、ユイに宥められているコマチ。

 いやいやいや。それよりもだ。

 

「ねぇ、コマチちゃん? 俺、化石研究所のこと聞いてないんだけど?」

「そりゃ、お兄ちゃんがいない時に頼まれたからね。お兄ちゃんのせいで繋ぎ役がいなくなっちゃってお先真っ暗な顔されてたら放っておけないでしょ」

 

 いやまあ、それはそうなんだが………。

 コマチがプテラを譲り受けた際に、俺が名誉会長か何かそんなのになって、所長とかが予算会議に参加しなくてもいいようになってすけぇ喜んでたのを覚えてるわ。

 それが俺が死亡扱いになったことで、表立ってそういうことが出来なくなってしまい、また予算会議に参加しないといけなくなって途方に暮れていたのだろう。

 そこにコマチが現れて、俺がやってたことを引き継いだってことなのだろう。

 

「あ、うん、俺が悪いのね。それにしてもどんだけ嫌なんだよ、予算会議に参加するの」

「人には得手不得手はあるし、お兄ちゃんも当事者だったら嫌でしょ」

「うん、嫌」

 

 面倒くさいし。

 ぶっちゃけ、こういう場すら本来は嫌なのだが、こればっかりは仕方ないから、参加しているだけである。

 参加しなくてもいいのなら、普通に参加しないし。

 

「それにカメくんたちがああなって、お兄ちゃんが時渡してった後、心配して連絡してきてくれたんだからね。手持ちポケモンが半分程、しばらく戦えなくなって困ってるって伝えたら、復元したポケモンをくれたし、お世話になってるんだよ」

「マジか」

 

 まさか俺の知らないところでコマチを助けてくれていたとは。

 元々、俺よりもコマチの方が化石研究所とは繋がりが強いもんな。

 プテラのことで連絡取ってただろうし。

 

「マジマジ。だからこれはお返しみたいなもんなの」

 

 そりゃ、俺もそれくらいならやるだろうな。

 借りを作りっぱなしにもしておきたくないし、手持ちに化石ポケモンが増えるのなら、何かあった時の保険として連絡取れるようにしておきたいし。

 コマチも研究所の方でもお互いに打算があったとしても、ウィンウィンの関係なら問題ない。

 

「外面はいい出来た妹に見えますが、割とお腹真っ黒なので皆さん注意して下さいねー」

「イロハ先輩程じゃないですよー」

「どっちもどっちなんだよなー………」

 

 なんせ二人ともあざといし。

 少なくとも真っ白な腹ではない。

 

「んで、今日のお題目は?」

「あ、もう始めます? なら、まずは前回誰も上手く説明出来なかったダイマックス現象について、ソニア博士に説明してもらいましょう」

「あ、はい。ロトム、よろしく」

 

 あ、最初はダイマックスについてからなのね。

 前回、誰も上手く説明出来ずに終わったのが、そんなに悔しかったのだろうか。

 前回みたいにオーキドのじーさんの発表から始まるもんだと思ってたんだが、なんかおじさんたちの執念を感じるわ。

 ソニアも可哀想に。

 初参加で、しかも元から知り合いの博士がいない状況で代理として初っ端の発表って、中々に濃い体験だよな。

 めちゃくちゃ緊張した顔してるわ。

 大丈夫だろうか。

 

「ダイマックス現象は一言で言えば、ポケモンを巨大化させる現象です。大きさは元の大きさの約五倍から十倍くらいだと思われますが、個体やその時の環境によって多少前後してきます」

 

 うん、思いの外大丈夫そうだな。

 口では何だかんだ言いながらも、いざ本番が始まればやれちゃうタイプだもんな。

 逆にそれでもどうにもならなかったのが、ダンデとソニアが挑戦したジムチャレンジだったってことだ。

 当時、どれだけプレッシャーがかかってたのかが、伺い知れるな。

 

「そして、ダイマックス現象を引き起こす要因とされているものが、このガラル粒子という淡いピンク色のエネルギーです。このガラル粒子を一定量摂取することでダイマックスし、エネルギーを放出し切ると元の姿に戻ります」

 

 恐らくソニアのスマホに入っているロトムなのだろう。

 いつの間にか会議室のプロジェクターへと侵入し、勝手に起動してピンク色の粒子を映し出した。

 つーか、あのプロジェクター、ホログラムで映し出すのかよ。

 俺の知らない間に、ホロの解像度が格段に上がってるし。

 

「またダイマックスした際には通例であれば、元の姿からそのまま巨大化し、これをダイマックスの姿と呼ぶ一方で、巨大化した際に元の姿とは異なる姿になるパターンもあり、この姿をキョダイマックスの姿と呼んでいます」

 

 常々思うのだが、安直なネーミングだよな。

 誰だよ、こんな名称にした奴。

 普通に巨大化するのがダイマックスで、姿を変えて巨大化するのがキョダイマックスって、どっちも巨大化してるんだからキョダイマックスなんじゃねぇのかよ。

 これだとメガシンカした状態で巨大化したジュカインのアレは、キョダイマックス擬きってことになるんじゃねぇの?

 ああ、謎だ。

 

「そして、ダイマックスすると技名も変わり、それぞれダイソウゲンやダイサンダーなど、タイプごとにダイ◯◯という技になります。中でもキョダイマックスの姿になった場合、同じタイプの技でもフシギバナだとキョダイベンタツ、ゴリランダーならキョダイコランダという風に名称と効果が変わります」

「そこはZワザに近いものを感じるな」

 

 あ、ククイ博士が早速気がついたみたいだ。

 技だけでみるとダイマックスした時のものってZワザに近いものがあるんだよな。

 相殺も出来るくらいだし、共通する何かがあるのかもしれねい。

 

「確かハチくんもそんなことを言っていたような気がします。実際にハチくんはダイマックス技をZワザで相殺することがありますし、類似点は多いと思われますね。ただ、ダイマックス現象、というよりはその要因となるガラル粒子が、ムゲンダイナというポケモンが引き起こす厄災ーーブラックナイトによってガラル中に充満していることが重要なようで、去年の事件はそのガラル粒子が近い将来枯渇してしまうということから、人為的に引き起こされました」

 

 要するに今のところガラルでしかダイマックスが出来ないというわけだ。

 これは流石にバトルフロンティアでダイマックスさせることは難しいかもしれないな。

 ……………というか、今ってあれから一年くらい経ってんのね。

 

「あったわね、厄災の再来」

 

 シロナさんも話としては知っているようで、ダイゴさんたちも首を縦に振っている。

 やっぱり世界的に知られてるよな。

 

「その事件はチャンピオンやジムリーダーたち、あとジムチャレンジの参加者だった子供たちの活躍もあり、無事に終結しました。ただ、事件後の影響としては、ガラル中にガラル粒子が非常に満たされている状態になっており、野生のポケモンのダイマックスする確立が事件前よりも高くなっています。恐らく事件を起こした張本人からすれば狙い通りなのでしょうけど、対応に追われる現場としては結構大変みたいです」

 

 ローズ委員長のしてやったりって顔が頭を過ったわ。

 あの人、今は鎧島で大人しくしてるだろうか。というか、少しは痩せたかな。

 

「因みに、当時のネットでは『仮面のハチはどうした?』とか、『仮面のハチは何で動かないの?』など、ハチくんが表立って動いてないことに裏切りだとか呟く人もいたんですけど、蓋を開けてみれば、そもそもガラルにいなくて最終決戦の日に帰ってきて、そのまま広大なワイルドエリアを一人で駆け巡り、ダイマックスしたポケモンたちを次々と倒していただけでなく、事件終結直後にカメラの前で英雄とされてきた伝説のポケモンたちに拉致されるという映像を残したことで、『事件を笑いで締め括る男』として今も語り継がれています」

「今その情報いる?」

 

 しかもそんな不名誉な称号まで与えられているとか、ネット民何やってんだよ。

 ソニアがチラリと俺を一瞥し、無視。

 おい。

 

「そしてその二週間後には、国際警察の黒の撥号と名乗る人が、犯人釈放時に護衛として現れ、ダークライの覆面をしていたことで、ネットでは『仮面ハチ=黒の撥号』の話題で今も考察論争になってます」

「へぇ。そんなことになってたのか」

 

 まだ考察論争やってんのかよ。

 暇か? 暇なのか?

 

「反応薄っ………。じゃあ、ハチくん。ダイマックスに関して何かない? 自分で使うことはないだろうけど、何度も相手にしてるんだから、何かあるでしょ?」

 

 反応薄いと言われても。

 好きにきておけって感じだし、本当に好き勝手言ってそうだなってくらいの感想しかないぞ。

 んで、ダイマックスについて、ねぇ………。

 

「あー、ジュカインをな、メガシンカさせたのよ。んで、フィールドに穴開けてガラル粒子が吹き出したら、メガシンカしたまま強制的にダイマックスしたぞ」

 

 俺が特筆すべきことって言ったら、やっぱりあの実験だろうな。

 

「は?」

 

 なんかソニアが意味分からないって顔で見てくるんだけど。

 

「技を二発撃ったら強制解除されたけどな。普通は三発で強制解除されるんだけど、不完全なダイマックスだったってことなんだろうな」

「あったね、そんなことも…………。ぶっちゃけ、あんなのが出来るのはお兄ちゃんのポケモンしかいないと思ってたから、一気に怪しさが増したんだよね」

 

 コマチもうんうんと頷いている。

 やっぱりジュカインであんなことやっちゃったから、怪しまれてたみたいだな。

 それでも時間軸的におかしいとかってことで確信に至れなかったってわけだ。

 いやー、危なかったんだなー。

 

「初耳なんだけど?」

 

 ん?

 あれ?

 ソニアがあの時いなかったのは覚えてるけど、その後この話しなかったっけ?

 

「お前に言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

 

 あ、そう。

 ソニアには言ったもんだと思ってたわ。

 そりゃ、変なものを見るような目で見てくるわな。

 

「まあ、そういうこともあるってわけだから、これ使っていいから検証しといて」

 

 取り敢えず、色々と検証も必要だろうし、メガシンカも絡んでくるから、隣にいるこの変態をこき使って下さい。

 

「全く………君は次から次へと僕たちの課題を作っていくんだから。ソニア博士、この件に関しては後日、個別にやり取りしましょう。恐らくマグノリア博士も加えた方がいいだろうし、ハチマン君。他に見ていた人は?」

「コマチの他には、ガラルのジムリーダーのカブさんと元チャンピオンのピオニーのおっさんとその娘だな。おっさんの方はバトル相手でもあったが、話の要領を得るならカブさんの方が適任だと思う。つーわけで、コマチ。その辺の調整よろしく」

「うーわ、早速丸投げしてきたよ、このごみぃちゃん」

「だって、俺どうせその時いないだろうし」

 

 時間旅行がまだ終わってないから何とも言えないのよ。

 時渡の今後の予定とかも一切知らないし。

 だから、この場で俺以外に現場にいたコマチに任せるしかないのだ。

 

「フラグ建ててよ」

「えー………セレビィ。フラグ建ててくれって」

「ビィ?」

 

 多分どこかで聞いているであろうセレビィに語りかけると、頭の上に姿を現した。

 懐かしい、この感触。

 ボケガエルを思い出すわ。

 進化したことで頭の上に乗ってくることはなくなったけど、ケロマツの頃は定位置になってからなー。おかげで首が鍛えられたぜ。

 

「「おぉっ!」」

 

 セレビィの登場におじさんたちが一同に声を上げた。

 ただ、イッシュ組はセレビィをそもそも知らないのか、何あのポケモンって感じで様子見している。

 

「ビィビィ!」

「えっ? なに? もう建ってる? マジで?」

 

 身振り手振りで何かを伝えてくるセレビィの言葉を何となく読み取ると、非常に面倒なことになっていた。

 まさかこの話題を出した時点でフラグが建った、とか?

 えー? それだともう口を開けば何かしらのフラグが建ちそうで怖いんだけど。

 ちゃんと時間旅行から解放されるよな?

 

「はぁ…………面倒くさ………フラグ建ってるってよ。準備しておけば、当日俺が現れるんじゃねぇの、知らんけど」

 

 あー、嫌だ。

 これでまた一つ仕事が増えたじゃねぇか。

 早くのんびりしたーい。

 

「なら、ハチくんの予定は一切気にしないで準備しておくね!」

「酷ぇ………」

 

 そんな可愛く言われても嬉しくねぇよ。

 

「あ、ごみぃちゃんが心配なので、コマチも参加しまーす」

「うん、よろしくね」

「オレも参加します。ついでにZワザとの相違点も探れれば、一石二鳥でしょう?」

「分かりました。ククイ博士もよろしくお願いします」

 

 ククイ博士が尤もなこと言ってるけどさ。

 

「本音は?」

「そりゃもちろろん、ハチマンが何やらかすのか見たい」

「酷ぇ………」

 

 皆してこの扱いよ。

 

「とまあ、口で説明してもどんなのかは想像しにくい人もいらっしゃるかと思いますので、まずはこの映像から見てください」

 

 あ、今の俺たちとのやり取りで、声にいつもの柔らかさが戻ってきたな。

 じーさんたちの前で素っ頓狂な声を上げちゃったから開き直ったのかもしれない。

 ホログラムで映し出される映像には、誰かのか野生のかは分からないが、リザードンが普通に巨大化する映像が流れた。

 

「今のはリザードンをダイマックスさせた時のものです。因みにダイマックスさせる際は、祖母とマクロコスモス社の共同で開発されたこのダイマックスバンドによって、ガラルのジムなどでは一度だけ任意のタイミングでダイマックスさせることが可能です。そして、次の映像をご覧ください」

 

 次に流れたのはダンデが巨大化したボールを投げるところからの映像。

 ボールから出てきたリザードンはさっきとは姿が異なり、キョダイマックスの方の姿をしている。

 まあ、ダンデのだしな。

 一番有名なキョダイマックスの姿と言っても過言ではないだろう。

 

「先程のリザードンとは姿が違うのが分かりますでしょうか? これがリザードンのキョダイマックスの姿となり、元の姿とは異なります」

「うーむ、なるほどのう。で、ハチマンはこれをどう見る?」

 

 おい、じーさん。俺に振るなよ。

 

「どうって……。そうだな、キョダイマックスに関してはZワザの専用Zワザみたいなもんだと思ってる。一般的なのがあった上で特殊な事例ってところは共通するだろ?」

「そうじゃの。『ポケモンを強化する現象』という項目にまとめたとすると、そこにはメガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルなどが該当してくるだろう。その中でもハチマンの言う通り、ダイマックスはZワザに似ている点が多そうじゃ。ククイ博士、その辺の確認も出来たらしてもらえるかの」

「了解です。オレも気になりますので、やってみますよ」

 

 …………テラスタルってどこかで聞いたような気がするのは俺だけだろうか?

 まあいいや。

 

「とはいえ、キョダイマックスはメガシンカみたいに姿が変わるからのぅ。ぶっちゃけ、二つのいいとこ取りみたいなもんじゃないか?」

 

 あ、そこ突いちゃう?

 そこも絡めちゃうとマジで面倒なことになると思うんだけど?

 やだなー。

 

「そういう見方も出来るだろうな。ただ、そうなると面倒くさそうだから、取り敢えずZワザ寄りかなってことにしてる」

「気持ちは分かるが、研究者はそこを調べるもんなんじゃぞ?」

「まあ、調べるのはこの三人だし、頑張れってことで」

「はぁ………やれやれ、相変わらずじゃな」

 

 だって俺は研究者じゃないし。

 そんな専門的に調べたいわけでもないし、そういう作業も大好きってわけでもないしな。

 こういうのは専門家がやってこそだろう。

 

「あのー、キョダイマックスするポケモンって、全部で何種類いるんですかね?」

「えーと、あ、スライドがあるのでそれ流しますね」

 

 コマチが申し訳なさそうにソニアに聞くと、タブレットを漁ったのか、まとめた動画があったようで、プロジェクターから映し出される映像が切り替わった。

 

「まずはフシギバナ」

 

 フシギバナは背中の花が異常な成長を成し遂げ、パラセクトみたいになっている。

 

「リザードン」

 

 次に出てきたのは、ダンデのリザードンと同じ、翼が炎になったリザードン。

 

「カメックス」

 

 カメックスは甲羅が戦車みたいになっている。

 何気にフシギバナとカメックスのキョダイマックスバージョンって初めてみるかもしれない。

 どことなくメガシンカに近い姿をしているような気がする。

 えっ、やっぱりメガシンカ寄りってこと?

 

「バタフリー」

 

 バタフリーは翅がエレガントになった感じとでも言えばいいのだろうか。

 元の姿よりも美しく見える。

 

「ピカチュウ」

 

 お茶を飲みながら見ていたら、思わず吹き出しそうになった。

 ピカチュウ、太ってね?

 デブチュウ?

 

「カントーの姿のニャース」

 

 こちらもお茶を飲んでいたら、思わず吹き出しそうな姿である。

 胴が長すぎるだろ。

 

「カイリキー」

 

 カイリキーはサイトウがキョダイマックスさせてたな。

 …………なんかあんな頭のヒーロー、いなかったっけ? 流石に腕は四本じゃなかったけども。

 

「ゲンガー」

 

 ゲンガーはセミファイナルでお面の子が使ってたな。

 ピンクの悪魔みたいに何でも飲み込めそう。

 

「キングラー」

 

 キングラーは野生のポケモンがキョダイマックスしているのを相手したような気がする。いつだったかは思い出せないけど。

 口周りのヒゲみたいなのが全部泡で出来てるんだよな。

 

「ラプラス」

 

 ラプラスはメロンさんだな。

 ラプラスも甲羅が発達してて、戦車感がある。

 

「イーブイ」

 

 ピカチュウやニャースにも言えることだけど、キョダイマックスは進化前の姿にもあるんだな。

 ここはメガシンカと大きく異なる点だと思うわ。

 ただ、イーブイってどこが変わってるんだ?

 こっちも太った?

 

「カビゴン」

 

 腹に木が生えたカビゴン。

 草も生えて草原みたいになってるんだよな。

 

「ダストダス」

 

 うっわ、飛行機やら船やら車のおもちゃが身体に吸収されてるわ。

 あれか、ダストダスの変化はゴミの規模か。

 

「ゴリランダー」

 

 ただのドラマー。

 

「エースバーン」

 

 巨大な火の玉の上に仁王立ちしているやべーやつ。

 

「インテレオン」

 

 塔のように長く伸びた下半身の上にスナイパーを構えた上半身。

 何がどうなってそうなるのか。

 一番謎すぎるキョダイマックスかもしれない。

 

「アーマーガア」

 

 アーマーガアの周りに小さいのが飛んでいる。

 数的有利を取るためだろうか。

 それ以外の変化はないように思える。

 

「イオルブ」

 

 めちゃくちゃUFO。

 真下にいたら、誘拐されちゃいそう。

 

「カジリガメ」

 

 カメックスに憧れでもあったのだろうか、四足歩行が二足歩行になるんだよな。

 ルリナも使ってたけど、そこは何も疑問に思ってなさそうだったわ。

 

「セキタンザン」

 

 セキタンザンはマクワだな。

 ダークライ演出の元、コテンパンにした記憶があるわ。

 こいつも背中が発達しているというか…………。

 

「アップリュー」

 

 巨大なりんご。ヤローさんが使ってたな。

 俺は直接バトルしたことはないけども。

 

「タルップル」

 

 巨大なりんご。というかアップリューと同じ姿ってどうなのよ。

 

「サダイジャ」

 

 カジリガメと同じく縦にした感じだな。

 

「ストリンダー」

 

 こっちは逆に四足歩行になっている。

 ストリンダーは二種類の姿があるが、モヒカン部分はキョダイマックスだと全部黄色になるのだろうか。

 

「マルヤクデ」

 

 これはカブさんの代表ポケモンだな。

 長い身体がさらに長くなってドラゴンっぽくなるからまあまあ格好いい。

 

「ブリムオン」

 

 ブリムオンって確かあんな見た目をしているが、中身というか本体は小さくて、ほぼドレスを着込んでいるって感じの奴だったと思う。

 それがキョダイマックスして本体がどうなっているかだな。

 

「オーロンゲ」

 

 若干ダークライに似てなくもない。

 同じあくタイプだからというのもあるのだろう。

 

「マホイップ」

 

 これはポプラの婆さんを思い出すな。

 見た目がウェディングケーキで、舐めると甘いんだとか。

 キョダイマックスすると一段とデコレーションが派手になるというか何というか…………。

 

「ダイオウドウ」

 

 ダイオウドウはピオニーのおっさんだな。

 長い鼻が滑り台にしか見えない。

 

「ジュラルドン」

 

 来たよ、タワービル。

 キバナのジュラルドンを見た時にタワービルにしか思えなかったからなー。

 

「あと、何とかロトムが頑張って映像に収めてくれていたムゲンダイナです」

 

 最後にダンデやジムリーダーたち、他子供たちの姿もチラホラと映っているスライドに変わった。

 

「何この化け物。俺がワイルドエリアを走り回ってた時、こんなの相手にしてたのか?」

 

 やっべーのを相手してんな。

 何だろう、何て言えばいいのだろうか。

 円盤から巨大な腕が生えているというか…………あれをポケモンと言ってもいいのだろうかって感じの姿。

 ダークライのメガシンカもやべー見た目をしているが、こいつも中々のもんだと思うわ。

 

「そう。ザシアンとザマゼンタがいなかったら、手の施しようがなかったと思うよ」

「流石に俺でも無理だわ」

「でしょうよ」

 

 うん、俺を拉致したあの二体、ちゃんと仕事したんだろうな。

 というかよく倒せてたな、こんなのを。

 

「アップリューとタルップルだったか? 同じ姿ではないのか?」

 

 やはりオーキドのじーさんも気になったようだ。

 

「そうなんですよ。アップリューとタルップルはカジッチュってポケモンから分岐進化するポケモンなんですけど、キョダイマックスすると二体とも同じ姿になるんですよね」

「ふむ………先祖帰り、あるいは共通の遺伝子の活性化………何にせよ、特殊な事例の一つではあろうな」

「はい、私たちもまだまだ掴めきれてなくて研究中です」

 

 ポケモンは謎が多い一例でもあるだろう。

 いや、ほんと。姿が変わる現象で別のポケモンが同じ姿になるってどういうことだってばよ。

 

「全部で三十一種類?」

「…………あれ? ブラウニーは?」

「え?」

 

 ん?

 ブラウニー?

 

「あたしのブラウニー………えっと、ウーラオスだっけ? キョダイマックスするよ?」

 

 ウーラオスのことか。

 相変わらずのニックネームだな。

 つか、ウーラオスを仲間にしたのか。

 サイトウから鎧島に行っていたってことは聞いていたが、まさかウーラオスを仲間にしているとは…………。

 あの爺、全然そんな話してなかったじゃねぇか。

 

「ウーラオス…………マジかー………」

 

 ソニアが天を仰いでいる。

 ああ、ソニアとしても盲点だったみたいだな。

 それにしてもウーラオスがキョダイマックスか…………してたかもな。

 

「言われると師匠のウーラオス、二体ともそのまんまかと言われると若干変わってたような気がする。しかも型によって赤と青に分かれてたような………?」

「そうそれ。あたしのブラウニーは一撃の型っていう方の姿なんだけど、キョダイマックスすると赤い模様になって、お爺ちゃんのは青い模様にもなってたよ」

「つまり、青い方は連撃の型ってわけか」

「マスタードさーん………」

 

 あーあ、ソニアが乾笑いしながら涙を流し始めた。

 

「どんまい」

 

 下から声をかけるとキッと睨まれた。

 おお怖い。

 

「………うん、よし。ウーラオスは伝説のポケモンでもあるし、中々データを取ることが難しい、ということで。今のところ、この三十一種類が確認されています」

 

 そして、自分で頬をパンパンと叩くと強引に話を進め始めた。

 

「強引に進めたな」

「うるさいよ」

 

 そうは言うが、ソニアの顔が赤い。

 自覚はあるのだろう。

 

「まあ、そうだね。メガシンカも新たに発見出来たくらいだし、キョダイマックスの姿も新たに発見出来る可能性がないとは言えないから、今はそれでいいんじゃないかな」

「ありがとうございます。プラターヌ博士。ウーラオスのキョダイマックスの姿はマスタードさんにお願いして、後日データが取れ次第、皆さんに共有します」

「うむ、楽しみに待っておこう」

 

 隣の変態もオーキドのじーさんもお優しいことで。

 

「ねぇ、ところでなんだけど、この中に実際キョダイマックスの姿になるポケモンを連れてる人はいるの?」

 

 シロナさんが興味津々といった目で俺たちに訴えかけてくる。

 まさか見せろって?

 

「コマチのゴンくんとノリくんもゾウくんとジュラくんはキョダイマックスの姿ですね。サイカくんはキョダイマックスのイオルブがいますよ」

「多くね?」

「偶然だって」

「まあ、私もカメックスもキョダイマックスの方だし、シズカちゃんなんかカイリキーとリザードンがキョダイマックスの姿だからねー」

「ルミちゃんもラプラスとストランダーがキョダイマックスだったね。シャクヤちゃんもサダイジャとマルヤクデとカジリガメがキョダイマックスの方だっし」

「何だかんだみんな連れてるのね…………」

 

 ガラルに行ったことのある奴らは大体キョダイマックスの姿になるポケモンを仲間にしてそうだわ。

 

「ハチマンの周りは研究のし甲斐があるのう。プラターヌ博士が羨ましい限りじゃわい」

「ハチマン君そのものが研究のし甲斐がありますからね」

 

 おい、こらそこのじーさんと変態。

 俺たちを研究しようとするな。

 

「取り敢えず、何となくは伝わりましたかね………」

「一つ、聞いていいかい?」

 

 ソニアが顔を引き攣らせながら一堂を見渡して確認を取ると、ダイゴさんが手を挙げた。

 

「何でしょう」

「今この場でダイマックスさせることは可能かい?」

 

 建物内ではガラルのジム以外だと巨大化するんだし危険だと思うが、多分そういうことを言いたいのではないのだろう。

 カロスでもダイマックスが使えるのか。

 

「どうでしょうね。ホウエン地方に留学した際に試してみた時には、ダイマックスさせることは無理でしたけど、カロスではどうなんでしょうね」

 

 ソニアもそれを汲み取ったのか、そっち向きに切り返している。

 

「無理なんじゃねぇか? 出来ても技一発放ったら強制解除とかになるんじゃねぇの? 知らんけど」

「ガラルでも場所を選ぶもんね…………恐らく無理ではないかと」

 

 俺もソニアも無理という見解で一致していた。

 結局のところ、ガラル粒子が必須になってくるみたいだし、メガシンカとは違って、エネルギーの塊でもあるメガストーンみたいなのを持たせるわけでもないからな。

 無を有に変えることは無理がある。

 

「どうやら結構縛りがあるみたいだね」

「そうですね。やはりどうしてもムゲンダイナの力の残滓を利用しているってだけのことですから、中々難しいところだと思います」

 

 うん、そういうことにしておくのが無難だろう。

 試してみる価値はあるだろうけどな。

 

「他にいますー? いなければ次行きますよー」

 

 イロハが他にいないか確認し、次の議題へと流れた。

 

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