ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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143話

「次はー………」

「ワシがいこうかの」

 

 ソニアがガラルのリージョンフォームを紹介したからか、ナリヤ博士が次に手を挙げた。

 

「あ、はーい。では、ナリヤ博士お願いしまーす」

「うむ」

 

 立ち上がったナリヤ博士は、俺たち全員を見渡した後、最後にソニアに視線を合わせた。

 

「まずはソニア博士。ガラル地方のリージョンフォームのデータを集めてきてくれて、ありがとう。ワシの方からはアローラの姿でもガラルの姿でもないリージョンフォームを紹介したいと思う」

 

 次はアローラの姿にでも新しいポケモンを発見したのか? とか考えていたら、どうやらアローラでもガラルでもないリージョンフォームの紹介らしい。

 

「皆、ヒスイ地方という名称は聞いたことがあるじゃろうか?」

 

 ヒスイ地方……だと?

 確かバスラオ問題で頭を悩ませたかつてのシンオウ地方、だったか?

 あ、そうじゃん。新たなリージョンフォーム発見じゃね? ってなって、いつかナリヤ博士に伝えようと思ってたことだったわ。

 その後に見つけた月刊オーカルチャーに上書きされてて、今の今まで忘れてた。

 

「ありますよ、鎧島のマスター道場で」

「「………え、道場?」」

 

 ユイとソニアの声が重なる。

 

「あそこの本棚は宝庫なんじゃないかと思えるくらいには、変な本があったぞ?」

「なんでー………?」

「さあ? あの爺のことだからよく分からん。貰いもんとは言ってたが」

 

 ソニアが意味が分からないって顔をしてくるが、俺にだってよく分からない。そもそもあの爺がよく分からない生き物なのだから、理解しようとする方が間違いである。

 そう思うとミツバさんってすげぇよな。

 あんな爺さんと結婚して子供まで儲けて、しかもミツバさんの一目惚れからって中々じゃね?

 

「あ、多分それ、私も読んだやつかも」

 

 どうやらユイと一緒に行ったらしいハルノは、爺の本棚に目を通していたようだ。

 流石はハルノというか、ユキノシタ姉妹はそういうところに抜け目がないからな。

 しれっとチェックしてるタイプだから、知識量が半端ないのだろう。

 

「流石はハチマンというべきか」

「相変わらず、そういう嗅覚は鋭いなー………」

「姉さんも抜け目ないわね」

「そりゃ、やっぱり何があるかは気になるじゃん? ユキノちゃんも読んでいいってなったら、目は通しておくでしょ?」

「そうね。時間があるのならば、読まないなんて勿体無いわ」

 

 それは俺も同意見だ。

 取り敢えず、読む読まないは置いとくとしても何があるかチェックくらいはしておく。チェックして興味が湧かなければそれでいいのだし。

 

「とはいえ、耳にしたのはハチマンとハルノくらいじゃろうから説明していくぞ。ヒスイ地方とはかつてのシンオウ地方の名称であり、今のシンオウ地方になる前身の名前じゃ。前回はどういうことをするかって手探り状態だったということもあり、ワシも準備不足を否めなかったんじゃが、路線の方針が見えてきたんで、アローラ以外のリージョンフォームにも目をつけたんじゃよ。あれからその当時の資料をずっと研究していたんじゃが、どうもリージョンフォームと思われるポケモンがおったのでな。この機会に紹介していこうと思うぞ」

 

 なるほど。

 前回の会議で、ナリヤ博士はガラルの姿について、全てを把握してたわけじゃなかったし、こんなのがいるってくらいの紹介に留めてたからな。それが専門家としてのプライドが許さなかったのだろう。

 で、ヒスイの姿に辿り着いたと。

 

「まずはジュナイパーじゃ。くさ・かくとうタイプ。進化前のモクロー、フクスローに変化はないみたいじゃが、ジュナイパーだけは当時はまだ厳しい自然環境であったヒスイ地方で、寒冷な環境に適した体つきになったらしい。その影響からか全体的に赤色へと変化し、翼や矢羽が短くなっている。性格面においてもヒスイの地で生き残るためか、好戦的で荒っぽくなっており、樹木を折ったり岩を砕ける脚力で相手を蹴り付けると、追い討ちをかけるように矢羽を連射する戦法を得意としておるようじゃ」

 

 うん、やっぱりそうだ。

 俺が道場で読んだ図鑑と同じだわ。

 あの赤いジュナイパーいたもん。

 頭の葉の笠の部分が緑から赤に変わり、脚が太くなっている。

 あと中々に珍しいと思うのだが、モクロー、フクスローはくさ・ひこうタイプで、アローラの姿のジュナイパーに進化するとくさ・ゴーストタイプ、ヒスイの姿のジュナイパーに進化するとくさ・かくとうタイプになることだ。どっちに進化してもひこうタイプが消えてしまうのは、それほど飛ぶことに重きを置いていないのかもしれない。というか進化前の名残で翼はあるから、ヒスイの姿ですら飛ぶこと自体は出来るだろうから、ひこうタイプを必要としていないのかもしれない。

 まあ、ポケモンなんてこういう謎が多い生き物だから、今考えたところで何になるって話ではあるか。

 

「次はバクフーンになるのじゃが、まずタイプはほのお・ゴーストタイプ。テンガン山の霊気に影響されてこの姿になったと考えられておる。何もない宙を見ていることが多く、普通は目に見えない生命エネルギーや霊魂の流れなどを見ているとされているようじゃな」

 

 バクフーンはあれだな。

 首の赤い炎が赤黒くなって、ツリ目がタレ目になってるのが印象的だな。

 それだけで誰だこいつ感がある。

 

「性格面は身のこなしが美しく上品で、ゆったりとした温厚な気質ではあるが、一度怒り出せば、相手を徹底的に攻撃するという残忍な一面もあるようじゃ」

 

 うわっ、普段から強気な性格じゃなくて、一度怒らせたら危険なタイプなのかよ。

 んで、呪われると。

 こっわ………。

 

「次はダイケンキじゃな。みず・あくタイプとなり、兜や貝、アシガタナまでもが黒くなっておる。性格も非情で冷徹な気質となっており、勝つためには不意打ちや騙し討ちなど手段を選ばないようじゃ。恐らくジュナイパー同様、ヒスイの厳しい自然環境がそうさせたのじゃろう」

 

 こっちは兜や貝、アシガタナが黒くなっただけで、全体的に冷酷さが滲み出ている。

 バクフーンもそうだが、おどろおどろしさが出ていて、如何にヒスイの頃のシンオウ地方が過酷な環境だったかが伝わってくるわ。

 性格も生き残るのに必死な感じが伝わってくるし。

 

「続いてはガーディとウインディじゃ。タイプはほのお・いわタイプ。どちらも寒冷なヒスイ地方に適応するため、体毛が長く、毛量も多くなっておる。ガーディは前が見えているのか心配じゃが、どうやら警戒心が強いようで、二匹ペアで縄張りを見回っておるようじゃ」

 

 こっちもクリーム系の色だった鬣や尻尾の体毛が黒に近い灰色になっただけで、大分印象が変わってくる。

 まあ、ガーディなんかは目が隠れるくらい毛量が増えてるみたいだけど。

 あれで見えていたのかね……………。

 

「ウインディは頭にある岩のツノが三つに増え、体毛が黒くなり硬質化しているらしい。カントーの姿同様、身体能力は高いようじゃぞ」

 

 ウインディはさらに黒くなってるな。

 頭のツノが岩で出来ているみたいだが、そのまま鬣も岩なんじゃないかと思えるくらいツノと同じ色である。

 体毛の遺伝子がツノと同じ可能性はあるな………。

 

「次はビリリダマとマルマインじゃな。でんき・くさタイプとなっており、

この頃に使用されていたモンスターボールと同じような形をしている。この頃のモンスターボールはぼんぐりの実を使って作っていたやつでな。ユキナリの友人にも確かその職人がおったと記憶しておるんじゃが………」

「ガンテツのことじゃな。なるほど、アレらが使用されておったというわけか」

 

 ガンテツ…………?

 ボール職人か何かだったような気がしなくもない。

 多分、関わったことはないはず。雑誌か何かで読んだか何かだろうな。

 

「ビリリダマは性格は陽気で友好的ではあるが、テンションが高まると頭の穴から放電するらしく、些細な出来事で放電するため、厄介者扱いされることもしばしばあるらしいぞ。爆発されるよりはまだマシかもしれんが、放電もなかなかじゃな」

 

 それな。

 結局は面倒なやつなのには変わりないらしい。

 爆発しないだけ、まだいいが。

 

「マルマインはカントーの姿同様、ビリリダマとは配色が逆になっておる。細かい部分になるが、目の周辺に吊り目のような窪みがあり、歯も普通の姿とは上下逆の形で食いしばっているなど、ニヤついていた普通の姿とは逆に怒っているような印象を受ける。身体が逆になっているためか、電気を放出する穴が下部に移動しておる。つまり、進化の際にビリリダマの身体が上下逆になったということじゃな。そう考えるとカントーの姿も進化の際にビリリダマの身体が上下逆になった可能性がある」

 

 それはあるな。

 そして上下逆になる進化と言えば、カラマネロもそんなのじゃなかったか?

 うっわ、カラマネロであの異常に強かった三体………メガシンカしたやつも含めれば四体か。あいつらを思い出したわ。

 今何してるんだろうな。

 ギラティナも危険視してるだろうし、別の場所に放り出されてることもないんじゃないだろうか。

 ……………アオギリとマツブサのおっさんたちが洗脳されてるかもな。

 

「お次はハリーセンとその進化形であるハリーマンじゃ。あく・どくタイプとなっており、ジョウトの姿の黒に近い緑色が完全に黒くなっているほか、上部の針の先端が毒の影響か赤紫に染まっているようで、その針から毒が海に染み出しているため、漁場に悪影響を及ぼすとして漁師から忌み嫌われておったようじゃな」

 

 ハリーセンな。

 黒くなったことでさらに危険な感じが強まっている。

 しかも針から毒が染み出すとか、改めて思うけどヤバくね?

 そんなのだから、害獣扱いされてもっと強い海のポケモンたちに駆除されちまったんじゃなかろうか。

 

「ハリーマンは進化して体が大型化し、体から生える毒針も大型化しておる。物々しい見た目通り凶暴な性質で『海鬼』と恐れられ、眠っている時でも動くものが近づくと毒針が無意識に反応し突き刺すらしい。さらに毒針の先端はギザギザで一度刺さると簡単には抜けないようになっているようじゃ。ある意味、進化しても尚、ここまでのことをしないと生き残れない厳しい環境だったのじゃろう」

 

 うん、動くものに条件反射で反応して突き刺すのは厄介者でしかない。

 進化してまでこんな機能を備えていないと生き残れない環境だったということなのかもしれないが、そんな機能を備えちまったがために淘汰されたとも言える。

 

「続いてはニューラとオオニューラじゃ。ヒスイのニューラはマニューラに進化するのではなく、オオニューラというヒスイのニューラをそのまま大きくしたようなポケモンに進化する。タイプは二体ともかくとう・どくタイプ。黒かった身体は紫がかった白となり、性格もジョウトの姿やマニューラ程、狡賢いわけではないようじゃ。じゃが、ニューラもオオニューラも鋭い鉤爪は健在で戦闘時には爪先から神経毒が滲み出るようで、侮れんポケモンたちじゃ。このような違いになったのは土壌や水質に由来すると考えられておるらしい」

 

 ニューラはハリーセンとは逆にマイルドになった感じの性格だな。

 それでも鉤爪から神経毒が滲み出るとか、本当に恐ろしい環境だわ。

 しかもその原因が土壌や水質による可能性があるって、どんだけ汚染された劣悪な環境だったんだよ。

 

「また鉤爪は崖や岩場を上り下りするのに役立っており、縄張りも高地が多く、単独行動が基本のようじゃ」

 

 特にオオニューラの爪は引っ掛けやすそうではあるもんな。

 

「次はドレディアじゃな。タイプはくさ・かくとうタイプ。進化前のチュリネには変化が見られず、ジュナイパーたち同様の進化形だけの変化となっておるようじゃ。イッシュの姿に比べると体格が大きくなり、スカート状の葉に覆われていた脚部が発達し、大きく露出しておる。これは雪深い山で生活するのに適応するためと考えられておるようじゃ。また、頭の花飾りから放つ香りはイッシュの姿とは効能が異なり、嗅いだ者を鼓舞するみたいじゃな」

 

 うん、こいつはまず第一が誰だこいつってなった奴だな。

 これがドレディアですって言われても、イロハみたいに二度見するって。ってか、お前そんな面白い反応してんじゃねぇよ。

 ユイとコマチなんか口開けてポカーンってなってるだけだぞ。

 

「お次はバスラオとイダイトウじゃ。ヒスイのバスラオは筋が白いのじゃが、鰭の形状が赤筋と青筋の両方の特徴を併せ持っているようじゃ。具体的には赤筋と同じギザギザな背鰭に、青筋と同じ曲線状の胸鰭と腹鰭といった感じじゃな。ちなみにタイプは他と同じくみずタイプのみ」

 

 来たよ、バスラオ。

 ヒスイの図鑑って言ったら、このバスラオだよな。

 既に赤筋と青筋の姿があるっていうのに、さらに白筋のリージョンフォームがいたって、もうよく分からんポケモンだ。

 

「さらにこれが進化するというのじゃから驚きじゃ。しかもイダイトウはオスとメスで姿が異なるのじゃよ。オスは赤筋、メスは進化前と同じく白筋が基本となっておる。タイプはみず・ゴーストタイプで、川を遡上する中で死んでいった群れの仲間達の魂が取り憑いたことで進化し、ゴーストタイプがついたと考えられておるようじゃ。尻鰭が靄のようになっているのもゴーストタイプが影響しておるのじゃろう。また敵に対して恐ろしい幻覚を見せる力を持つらしい。温厚な気質だった進化前と異なり、一度敵意を向けられると激昂し、相手が倒れるまで執拗に襲い続ける。オスは死んだ仲間の怒りによって赤く染め上げられ、メスは死んだ仲間の悲しみが深ければ深いほど白く染まる、なんて言い伝えもあるらしいぞ」

 

 しかも白筋だけ進化するっていうんだから、益々意味が分からない。

 

「ただ、バスラオは赤筋、青筋の二種類がいるからのう。既に姿違いがある上リージョンフォームともなると、本当にリージョンフォームという扱いにしていいのか、という疑問も出てきておる。それに一種類だけ進化先を持つとなるとガラルの姿同様、リージョンフォームした先で新たに進化形を手に入れたという考えも出来る。ワシとしては三種類目と考える方が無難かとは思ってるがの。オスのイダイトウが他でメタモンとタマゴを作ることで、赤筋のバスラオが孵り、変異体として青筋が生まれたと考えるとヒスイの姿及びイダイトウが原種なのではないかという仮説が建てられないこともない。まあ、これはワシの妄想じゃ。戯言として流してくれればいいぞ」

 

 うん、言いたいことは分かる。

 俺もそんな感じであーだこーだ考えたし。

 このバスラオ問題は根が深そうなため、考え過ぎると禿げそうである。

 

「さて、次はゾロアとゾロアークじゃな。タイプはどちらもノーマル・ゴーストタイプ。幻影を見せることから忌むべきものとして別の土地から追い出されてヒスイ地方にやってきたゾロアが、他のポケモンとの争いや自然環境に耐えられず息絶えて、残った魂がゴーストタイプのポケモンとして転生した姿とされておる」

 

 まさかのシニーゴと似たような存在というね。

 黒から白い体毛になっているが、それが余計に死相感を強めている。

 

「そこから進化したのがヒスイのゾロアークと考えると、相当の執念と言えよう。種として根付くくらいじゃからのう。さらに恐ろしいのは、生き物のように動く長い毛から放射される恨みのエネルギーじゃな。幻影を見せつつ身体の内外からダメージを与えられるんじゃから、躱しようがない。ただ、それは他のポケモンや人間に対してであって、仲間には慈悲深い一面があるようじゃぞ」

 

 恨みのエネルギーってなんぞ?

 生体エネルギーとかなら分かるが、恨みが物理的に発射出来るエネルギーになるってどういうことだってばよ。

 

「続いてはウォーグルじゃな。ウォーグルもまたジュナイパーたちと同じく進化形だけがリージョンフォームしたポケモンじゃ。イッシュの姿よりもやや大型化し、タイプもエスパー・ひこうタイプへと変わっておる。冬季においてヒスイ地方の北方から飛来する渡り鳥のようで、単独行動が多いそうじゃ。ただ、その見た目に反して、得意とするのは遠距離からの攻撃で、サイコパワーと翼からの衝撃波のコンボで仕留めるようじゃぞ」

 

 こっちも翼の表の赤い羽が白い羽へと変わっている。

 ただ、ゾロアたちと違ってこっちの白は生きがいい感が出ていて、どうしてこうも同じ白でもこんなに印象が変わるのかと思えるくらいだ。

 しかもエスパータイプになったことで遠距離からの攻撃を得意になるとか、どこぞの白い悪魔が思い出されるわ。

 やだよ、でんじはからのエアスラッシュとか。特性がてんのめぐみとかだったら、初手で倒し切るしか方法がなくなるからな?

 

「次はヌメイルとヌメルゴンじゃな。ヌメラに変化はないようじゃが、ヌメイルからはリージョンフォームとなっておる。タイプははがね・ドラゴンタイプ。見ての通り、尻尾に金属で出来た灰色の殻がリージョンフォームとしての特徴じゃな。どちらも殻の中に身体をすっぽり入れられるようで、頭だけを出して周囲を警戒する、なんてこともしておったらしい。また、ヌメルゴンになると殻の硬さまで自在に操ることが出来るようで、ヒスイの水に含まれる鉄分が粘液に作用し、硬質操作可能な殻へと変容させたと考えられておる。恐らく、当時の水は相当鉄分の含有量が多かったのであろうな」

 

 うーん、金属の殻が付いている以外、本体は同じだな。

 何となく粘液の成分がヒスイの方が濃そうってところか?

 殻も粘液の鉄分が硬化したと考えられているみたいだし。

 …………やっぱり汚染されてるじゃねぇか、ヒスイの自然って。

 

「最後はクレベースじゃ。進化前のカチコールに変化は見られず、タイプはこおり・いわタイプ。身体が岩石質になっており、下顎に氷塊の装甲を纏っておる。この装甲で岩石を容易に砕き、険しい山道をのし歩いたとされておるぞ。好物は栄養満点の越冬野菜じゃ」

 

 なんつーか、こう………しゃくれてるな。

 雪を掻き分けたり、岩石を砕いたりするのには役に立つだろうけど、下を見ようとして顎が地面に突き刺さったり、振り向いたら顎で何かを弾き飛ばしてしまうとか、普段の生活は大変そうに見えてしまう。

 身体も全身が氷で出来ているわけではなさそうで、背中の表面と顎が氷に覆われているだけで、ほぼ全身が岩で出来ている。

 

「と、ここまではリージョンフォームなのじゃが、ヒスイ地方にはまだおってな。今では失われた進化とも言われておるようで、いたという情報しか掴めておらぬポケモンたちがいる」

 

 …………何かいたっけ?

 失われた進化、ということは現代においては進化した姿が確認出来ていないということだろ?

 

「ますばアヤシシじゃ。見ての通り、オドシシの進化形じゃ。タイプはノーマル・エスパータイプで、進化して一回り以上身体が大きくなっておる。ヒスイ地方の人々の生活に不可欠なポケモンだったらしく、移動手段やツノをアンテナ代わりに使った探索力によるルート案内、引いては抜け毛が防寒具にとかなり人間と密接しておったようじゃ」

 

 ああ、そうか。

 いたな。

 白いオドシシ。

 もう、この辺になるとバスラオに頭が埋め尽くされていたから、見たら思い出す程度の認識になってると思う。

 進化条件もなんだっけ?

 技が関係してたんじゃなかったか?

 

「お次はバサギリじゃな。何となく面影があるかと思うが、ストライクの進化形じゃ。つまり、ハッサムとの分岐進化ということになる。タイプはむし・いわタイプ。身体の一部が岩に変化して腕が大きな斧のように変化しており、ストライクの時にはあった羽は退化しており、痕跡器官として残されているのみじゃ。ヒスイ地方の火山地帯でまれに見つかる黒い鉱石・くろのきせきをストライクに与えることで進化するらしい。とするのならば、今のシンオウ地方の火山地帯でもその黒い鉱石は見つかるのではないかと思うのじゃが、今のところシンオウ地方ではそのような話は出てきていなさそうでな。現代において復活を遂げられるかは分からん」

 

 あ、ここは覚えてるわ。

 ストライクに分岐進化があったのかよって驚いた記憶がある。

 タイプもむし・ひこうタイプでもむし・はがねタイプでもなく、むし・いわタイプ。

 こうなってくると進化先が発見される度に、ひこう、はがね、いわ以外のむし・○○タイプになりそうだよな。まあ、そもそもそんなことがあるかどうか怪しいレベルではある。

 カマにハサミにオノ………オノというかあれ、マサカリって言ったっけ?

 金太郎だな。

 どうにもストライク系統は腕が武器になるっぽいから、進化先が他に発見されたら、クワとかになぅてる可能性だってある。その時はじめんタイプになるのかな。

 とはいえ、ヒスイのポケモンということは、失われた進化ってことでもあるため、結局のところ現代においてはハッサムにしかなれない。

 俺もガラルで行商人にくろのきせきやピートブロックなるものを探してもらったこともあるが、全くと言っていい程、手がかりなしだった。

 

「次はガチグマじゃ。ヒスイ地方の泥炭が豊富な環境の影響を受け、リングマがさらに進化した姿である。タイプはじめん・ノーマルタイプ。リングマより体躯が大きくなったことで四足歩行になったとされておる。ピートブロックなるものが必要であったり、満月の夜しか進化出来なかったりと、色々と進化条件が厳しいことが進化が失われた原因ではないかと思われる」

 

 リングマにも進化先があったのには驚いたよな。

 しかも四足歩行になっており、じめんタイプが加わってたりで、最初見た時、リングマからの進化形とは思えなかったくらいだ。

 それに満月の夜に進化ってことなら、リングマと月輪をかけてガチリングマって名前になると思ったのだが、ヒメグマ、リングマときて六文字では具合が悪かったのか、ガチグマだったし。

 まあ、そんなどうでもいい話は置いておくとして、バサギリとガチグマは進化に必要な道具さえ揃えば今でも進化するんじゃないかとは思ってる。

 道具が見つからないため、進化出来ないだけっぽいしな。

 

「最後は特によく分かってないポケモンなのじゃが、ラブトロスという。春の訪れを告げるポケモンとされ、慈愛によって大地に新しい命を芽吹かせるとの伝承が残っているらしいのじゃが、それ以上のことは掴めなんだ」

 

 あ、やっぱりこいつも出してきたか。

 ラブトロス。

 図鑑の最後の方に載っていたピンク色のポケモンだ。

 

「ナリヤ博士、もしかしてそのポケモン………」

「うむ、アララギ博士が違和感を覚えたのなら、そういうことなのじゃろう。ワシもそうではないかと疑っておるのじゃが、イッシュ地方にいる化身たち、トルネロス、ボルトロス、ランドロスに連なるポケモンではないかと考えておる」

 

 やっぱり、みんなそう考えるよな。

 俺もパッと見、そうなんじゃないかと思ったし。

 

「ナリヤ、途中で割り込むのも無粋じゃと思って口を閉じておったのじゃが、これの元にしたデータはやはり………」

「ユキナリ、お前さんも気付いたか。そうじゃ、ラベン博士のポケモン図鑑じゃ」

 

 でしょうね。

 見覚えありすぎるもん。

 んで、じーさんたちも一度は目を通している本ってわけだ。

 …………本当、何でそんなもんがあの道場の本棚に普通に置いてあるんだよ。

 

「ワシもこのポケモンたちには見覚えがあったからのう。そうか、昔の資料故に間違いが多数あるとされてきておったが、その視点そのものが間違いじゃったというわけじゃな」

「うむ。そもそもまだリージョンフォームという分類を作り出してなかったということもあるじゃろうな」

「あー、俺が読んだのもなんかそんな感じの本だったと思うわ」

「…………お前さんのその巡り合わせの良さは何なんじゃろうな」

「日頃の行いがいいからだろ」

「どの口が言っておるんじゃ…………」

 

 この口に決まってるだろ。

 

「あのー、あたしイッシュ地方のブルーベリー学園ってところに行ったことがあるんですけど………黒いハリーセン、普通に生息してました………」

 

 はっ?

 

「なんと!?」

「本当かい?!」

 

 ユイの爆弾発言に、各々が身を乗り出して驚いている。

 

「あとバサギリもいました。何ならシャクヤちゃんがストライクを進化させてました」

「マジで?」

 

 初耳なんだけど。

 えっ、ということはそのブルーベリー学園とやらには、くろのきせきがあるってことか?

 

「あ、そうじゃん。シャクヤちゃんのストライク、ハッサムじゃないのに進化してたじゃん。まあ、結局ハッサムも捕まえてきたみたいだけど」

 

 コマチも思い出したようで、ポンッと手を叩いている。

 つか、結局ハッサムも捕まえてるって………父親の影響か?

 

「ブルーベリー学園。イッシュ地方に新しい学園が出来たとは聞いておったが………」

「アララギ博士、件の学園について何か知っていることはないかね?」

「いえ、私もまだ一度しか訪れていないので………それも完成式典だったので、かの学園内のポケモンの生息域を調査しに行っておらず………申し訳ありません」

 

 イッシュ地方にあるのか。

 というか、オーキドじーさんたちは、そのブルーベリー学園なるものの存在は知ってたんだな。

 俺はその学園すらも初耳だわ。

 

「そうか。では、そのブルーベリー学園内の生息域調査にはアララギ博士に向かってもらうのはどうだろうか」

「うぇ!?」

「そうですな。我々が足を運ぶよりも身軽に動けるでしょうし」

 

 唐突のご指名にアララギ博士が、あわあわし出した。

 ………これはちょっとマズいかもな。

 

「あー、アララギ博士。無理なら無理って言ってくれていいですからね? 今ならじーさんらの戯言ってことにも出来ますから。ね?」

 

 そう言いながらじーさんたちを睨む。

 

「そ、そうじゃな。無理強いするつもりはないぞ」

「うむ、今のは出過ぎた発言だったな。謝罪する」

 

 すると俺が言いたいことを察したのか、はたまた己の発言が無理強いしていると気付いたのか、二人とも訂正してくれた。

 

「ったく、新規参加者が大物に言われて断れるわけがないだろうに。その辺、労わってやれよ」

「おお、すまなんだ」

「ナナカマド博士も」

「うむ、気を付ける」

 

 はぁ………全く、長年付き合いのある者同士ならそれでいいかもしれないが、流石に今日会ったはがりの人に無茶な要求はしちゃダメだろうに。

 

「ハチくん、ハチくん」

「何だよ」

 

 溜め息を吐いているとソニアがコソコソ話しかけてきた。

 

「アララギ博士たちが青ざめてる」

「何故に?」

「いや、ハチくんの一言で二人に頭下げさせたからだよ」

「えぇー………」

 

 じーさんたちだって悪いと思ったら、頭くらい下げるだろ?

 

「あー、どうします? アララギ博士。ナナカマド博士たちの発言は置いとくとしても、立地的にはアララギ博士が一番近いので、どうやら皆さん、アララギ博士にお願いしたいみたいなんですけど………他の手持ちの研究があるなら断ってくれてもいいみたいですよ?」

 

 いろはすマジ天使。

 後で何か奢ってやろう。

 

「い、いえ、折角なので任せていただければと。幸い、父は分布調査が専門なので、父も連れてブルーベリー学園に伺おうと思います」

 

 うーん。

 これは押し付けてしまったと捉えるべきか、自分から乗り出してくれたと捉えるべきか…………。

 

「だそうですよ、先輩」

「俺に言うんじゃなくて、じーさんらに言えよ」

「立場上、先輩が妥当かなと」

「へーへー。んじゃ、アララギ博士。よろしくお願いします。人手が足らないようなら、言い出しっぺたちを足蹴にしてでもどうにかさせますし、知恵が欲しければ、逐一確認してくれても構いませんので。というか、それくらいのフォローは全員やりますよね?」

 

 こうなったら、全員巻き込んでやる。

 というかじーさんらがサポートしやがれ。

 

「しれっと僕たちも入れてくるところが実にハチマン君らしいよ」

「オーキド博士たちにそんな圧かけられるの、ハチマンだけだからな?」

 

 変態一号、二号が何か言ってるけど知らん。

 

「というか僕も参加していいかい?」

「あ、オダマキ博士も行きます?」

「うん、僕の専門も分布調査だし、手伝いくらいは出来るかなって」

 

 ここに来て救世主が現れたぞ。

 オダマキ博士と共同調査ということなら、いくらかプレッシャーは抑えられるだろう。

 あー、マジで新規さんに重っ苦しいもん背負わせるところだったわ。

 

「ほら、じーさんたちもオダマキ博士を見習え」

「………今日のハチマンは容赦がないのう」

「彼はいつもこんな感じなのかね?」

「怒るとこんなんじゃよ。ナナカマド博士も気を付けた方がいいですぞ」

「うむ、気を付けよう」

「その前に己の発言に気を付けろよ………」

 

 このクソじじいどもが。

 いつか老害とか言われても知らねぇからな。

 

「これでリージョンフォームについては終わりってことでいいですかね。質問とかあれば……………無さそうなんで次いきまーす」

 

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