ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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次回からバトル回が続きます。
そのため、もしかすると更新が遅れるかもしれません。
その時は「あ、書けなかったのね」とでも思っといて下さい。


145話

「えー、実はヒキガヤさんからある書物を調べて欲しいということで、取り敢えずわたしが調べられたことを発表したいと思います」

 

 ………なんかアララギ博士たちが「この子も!?」って感じで驚いている。

 そりゃ、オブザーバーみたいな位置じゃなく、しっかりと博士たちの並びに座ってるからな。

 ダイゴさんみたいな元チャンピオンでもシロナさんみたいな現役チャンピオンでもなく、パッと見普通の少女が同じように座っているのだから、只者ではないのは分かっていただろうが、もしかすると自分たちと同じように今回は聞く側だと思っていたのかもしれない。

 まあ、俺の中で今回のメインはムーンなんだけどね。

 

「まず、ヒキガヤさんに依頼された内容は、この『月刊オーカルチャー』というオカルト雑誌に書かれているポケモンについて、でした。古代のポケモンやら未来のポケモンやらが書かれてるとかざっくりなことしか教えてくれず、具体的にどのポケモンを調べて欲しいのか分からないという、かなり無茶振りを要求されていたのに気付いたのはヒキガヤさんと連絡取れなくなった後で、人使いの荒いスポンサーもいたもんだと思いながら、取り敢えずで雑誌を読み漁りました」

「ねぇ、ちょっとムーンちゃん? 俺が悪かったから、そんなさらっと愚痴を入れてくるのやめない?」

 

 そんなざっくりとしたことしか言ってなかったっけ?

 実物が手元にあったわけじゃないから、具体的にこれをっていうのを示せなかったのは事実であるが………うーん………。

 

「何を言ってるんですか。そんな無茶ぶりだったのにも関わらず、ちゃんとヒキガヤさんが調べて欲しいポケモンを見つけたわたしを褒めて下さいって話ですよ」

「あ、調べられたのね」

 

 結局、辿り着いたのか。

 すげぇな。

 

「大変でしたけどね。この雑誌は毎月いろいろなポケモンを取り上げては、内容は如何にも都市伝説のようなネタで、本当にあるのかって話ばかりの中からピンポイントで見つけたんですから」

「そりゃ、もう本当にお手数をおかけしました。報酬に色を付けさせていただきます」

「分かればよろしい」

 

 深々と頭を下げて上乗せ報酬まで提示すると許してもらえた。

 国際警察として働いてて良かった…………。

 

「では、まずはこれをご覧ください」

 

 ムーンとそんなやり取りをしている間に、ククイ博士たちがムーンのタブレットをスクリーンに映せるようにセッティングしてくれていたようで、メガシンカ同様、一覧として並べられた一枚が映し出された。

 

「この雑誌に書かれていたポケモンの姿絵をコピペしてまとめたものになりますが、何かお気づきのことはありませんか?」

「ボーマンダ、ムウマ、モロバレル、レアコイル……か? それにウルガモス………いや、メラルバか? ドンファンも牙が太いわ長いわで、プリンの頭はどうなっておるんじゃ………?」

 

 ムーンの問いかけにオーキドのじーさんが答えていくが、これは古代の姿の方のようだ。

 まあ、確かに俺が一番気になったのはトドロクツキだからな。今回は未来の姿はなくてもいいとしよう。

 

「これはスカーレットブックというものに書かれていたものを特集で記事にしたもののようで、そのスカーレットブックというものは、およそ二百年前にパルデア地方にあるパルデアの大穴と呼ばれるところのエリアゼロを踏破した探検家、ヘザーによって書かれた探検記で、古代生物じみた謎の存在を写した写真やスケッチが幾つも掲載されているようです」

「つまり、ヘザーという探検家がそのパルデアの大穴なるところで見たポケモンを書いた書物、ということでいいのじゃろうか?」

「恐らくはそういうことだと思います。わたしもそのスカーレットブック自体を見つけられなかったので何とも言えません」

 

 俺もスカーレットブックは見つけられてないから、何とも言えない。

 何とも言えないからこそ、じーさんらがどう考えるのかは聞いてみたくてムーンに調べてもらったまである。

 

「仮の名称だとは思いますが、順にトドロクツキ、ハバタクカミ、アラブルタケ、スナノケガワ、チヲハウハネ、イダイナキバ、サケブシッポというようです」

 

 まあ、昔はそう呼んでいた可能性はあるけどな。

 今のところ、ポケモンにおいてはそれがないってだけで、時代とともに名称が変更していくってのも珍しくはないのだし。

 

「それで、君はムーンを使ってまで何を知りたかったのだ?」

 

 そう言ってじっと俺を見てくるナナカマド博士は、圧があった。目力が強いからだろうか。

 あと声も渋くていい声しているから、余計そう感じたのかもしれない。

 

「どうにもボーマンダに似ているポケモン、トドロクツキってのが気になりましてね。月刊オーカルチャーには『他の地方でボーマンダに発生するとある現象の結果に酷似している』とかなんかそんなことが書かれてたんですよ」

「そのとある現象というのがメガシンカではないか、ということかな?」

「そうです。ただ、ムーンが集めた情報を聞いてたら、単純に似ているだけとも限らないかも、とは思いましたけどね」

「というと?」

「古代ボーマンダはトドロクツキで、時間が経つにつれて今のボーマンダへと変化していった。だが、メガシンカによってかつての姿を取り戻した、とも考えられるかなと」

 

 だって、あまりにも翼が似てるんだもの。

 現在のボーマンダは二翼で、背中に扇型の翼が生えているような見た目で、メガシンカするとその二翼が一枚になり、三日月型へと変化する。

 それに対し、トドロクツキは二翼ではあるものの、二翼を繋げると三日月型をしており、どちらに近いかと言われれば、間違いなくメガボーマンダはトドロクツキに近いと言えるだろう。

 

「「「ッ!?」

 

 俺の意図することが伝わったのか、横からガタッ! と大きな音を立てて、勢いよく立ち上がる変態がいた。

 

「つまりメガシンカは先祖返りではないか、と言いたいのかいっ?!」

 

 両肩を掴まれ、軽く揺すられる。

 

「か、可能性の話でしかないぞ。本当にいたかも分からないんだし。ただ、プテラのメガシンカした姿も元々はこんなんだったんじゃないかって考えてる学者もいるって話を耳にしたことがあったから、完全にシャットアウト出来る話でもないなと思って、共有してるわけだ」

 

 これがボーマンダだけの話なら流してたかもしれないが、学者の中にはプテラのメガシンカした姿こそが、本来の姿と考えてる人もいるってのを何かでチラッと見た気がする。

 それがあるからこそ、無視出来ない案件として提示しているのだ。

 

「で、専門家としてどう思うよ」

「そうだね………、可能性としては捨てきれない話ではあるね。ただ、実物がいないことには、結論は出せないかな。化石でもあればいいんだけど」

 

 化石、化石か…………。

 そもそもいるのかどうかも怪しいんだから、化石を見つけるのも至難の業だろうな。

 マンムーみたいに氷河の中から実物が発見される、みたいなことがあれば楽なんだが………。

 あー、でもマンムーか。

 

「それともう一つ、個人的に気になってるんだが、げんしのちからを使えるようになったら進化出来るようになるポケモンも、ある意味先祖返りなんじゃね? って思うわけよ。まあ、ぶっちゃけゲンシカイキ、的な? マンムーとか」

「ふむ………君が言わんとしてることは何となく分かった。メガシンカした姿は実は古代の姿ではないか、げんしのちからで進化するポケモンはその縮小版に値するのではないか、そしてグラードンやカイオーガのゲンシカイキに何か通ずるものがあるのではないか、そう言いたいのだろう?」

「まあ、端的に言えば」

 

 俺たちのやり取りを聞いていたナナカマド博士が、俺が言いたかったことを纏めてくれた。

 理解が早くて助かる。

 

「プラターヌ博士、今一度その辺の事柄を明確に整理してみてはどうかね。何なら私も協力しよう」

「そうですね。分かること分からないこと色々ありますが、メガシンカもまだまだ増えてくるでしょうからね。取り敢えず、パルデア地方に向かった方がいいのかなー………」

 

 結局のところ、それしかないだろうな。

 噂の真偽を確かめる、ではないけど、パルデアの大穴というところの調査をしてみないことには何も言えないと思う。

 

「でも、先輩。メガシンカの研究もあるから、そんな時間ないんじゃないの?」

「シロナの言う通りなんだよねー………。どうしようか、ハチマン君」

 

 そこなんだよな。

 気乗りはしないが、言い出しっぺの俺が行くのが筋なんだろうけど、絶賛時間旅行中なもんで、調査なんて大掛かりな作業、時渡の計画には組み込めないだろうし。

 

「俺はいつ正式に帰れるのか分かんねぇから、俺がすぐ行くのは無理だな」

「なら、私たちが行くしかなさそうね」

 

 どうしようかと迷っていたら、ユキノがサラリと言ってしまった。

 

「えっ、いいの?」

「マジで?」

 

 二人してユキノを凝視する。

 …………なんかこの変態と似た反応になるの嫌だな。

 

「そもそもプラターヌ博士がパルデア地方に向かうとして、その護衛はどうするつもりだったんですか? 研究所はモミジさんがいるから何とかなるとしても、博士一人で行かせるわけにはいかないでしょう? 年々、株を上げて狙われるリスクも増えているのだし」

「………狙われてんの?」

「みたいだよ」

「自覚ねぇのかよ」

「自覚ないのよ………だからタチが悪いのよ」

 

 研究所の前に危機管理能力付けないと不味いのでは?

 ある意味、俺とかユキノがいるから安全が担保されていただけで、野放しにしたらすぐに捕まりそうな気がする。

 

「つっても、ユキノたちもポケモン協会の方があるだろ?」

「母さんがいるから問題ないわ」

「…………はっ?」

 

 ……………母さん?

 

「うちのお母さんがいるのよ。あとガハマちゃんところも」

「何故に?」

 

 ママのんとガハママが来ちゃってんの?

 いや、てか二人は何故に協会の手伝いを?

 

「さあ? 未来の息子が可愛いんじゃない?」

「そんな人だっけ?」

 

 ユイのところはまだ分からなくもないが、あの厳しそうな人がそんな理由で動くのだろうか?

 なんか一気に謎が増えたんだけど。

 

「帰ってきたら覚悟してなさい、だって」

「えっ、怖いんだけど。俺、何させられるわけ?」

「さあ?」

 

 ちょっと? ハルノさん?

 お宅のお母さんでしょう?

 せめてどうするのかを聞き出しておいて欲しかったぞ。

 

「あ、ウチのママも『それはそれ、これはこれよ』って言っといてって」

 

 さらに謎なフレーズが来たんだけど。

 何と何を比較して、横に置かれたんだよ。

 超怖いんだけど。

 

「なあ、コマチ。うちの親は?」

「相変わらず社畜ってるよ」

「カロスには来てないんだな」

「結局、まだ一回も来てないんじゃないかなー」

 

 うーん、安定のヒキガヤ家である。

 母ちゃんまで来てたら恐ろしいことになりそうなため、来てないのならまだ望みはあるのだろう。あるって思いたい。

 

「えー、取り敢えず、パルデア地方についてはユキノ先輩を中心にメンバー決めて向かうことにするってことでいいですかね………」

 

 イロハが恐ろしいやり取りを終わらせてくれた。

 でもなんだろうか、その目は。

 呆れられてる感があって、含みを感じるからやめてくれ。

 

「先輩、他に何かあります?」

 

 特に異議がなさそうなので、イロハが追加がないか聞いてきた。

 あるんだな、これが。

 

「あー、これも聞いておきたいだけど、じーさんとかナリヤ博士とかナナカマド博士って後継者とかって決めてんの? こう言ってはなんだけど、老い先がそう長いわけでもないし。現にマグノリア博士は孫のソニアに研究を引き継いでもらおうとしてるみたいだし、その辺はどうお考えで?」

 

 じーさんズの年齢を考えるとそろそろ後継者を用意しておかないと不味いレベルだと思う。

 研究者なんてすぐに育つものでもないのだし、今から考えても遅いくらいだ。

 

「痛いところを突いてくるのう。ワシの研究は多岐に渡るから、それこそポケモン図鑑がその一つと言えるし、後継者って言うとやっぱりグリーンになるのかのう………」

「おじいちゃん、オレまだトレーナーでいたいんだけど」

「別に本格的に研究しろって話ではないよ。恐らく、ブルーやシルバーも加わるじゃろうし、クリスは………ウツギ博士の方を引き継ぐ可能性がありそうじゃが………」

「そうですね。クリスは色々手伝ってくれてますし、あわよくば引き継いでくれないかなーとは期待してますよ」

 

 なるほど。

 ある意味、図鑑所有者もじーさんの研究の協力者ではあるからな。その中でもグリーンやクリスタルさんは論理的っぽいし、前回を思い出す限りではブルーさんやサカキの息子も候補にはなり得るか。

 逆にレッドさんやゴールドは無理だな。頭を使おうとするだけで頭痛を起こすくらいだし、論理的思考なんてどう頑張っても無理だろう。

 

「ふむ………そういうことであれば、私の研究はプラターヌ博士が一部引き継いでいるようなものではあるな。あとはシロナやベルリッツ夫妻に任せることになるであろう」

 

 ナナカマド博士は、既に隣の変態が派生した研究をしているようなものだしな。

 シロナさんも研究者の面を持ち合わせているし、一番安泰かもしれない。

 

「ナリヤ博士は?」

「おらんのう………なんせリージョンフォームなんて誰も研究しとらんような分野じゃったし」

 

 分野が分野だし、それは仕方のないことかもしれないが、途絶えさせるには惜しい研究でもある。

 どうにかしてでも誰か引き継いでくれるといいんだが。

 

「なんか一番道筋が見えてそうなのはナナカマド博士だけみたいっすね」

「ワシらのことを気にするのは最もじゃが、お前さんこそどうするつもりなのじゃ? 表向き死んだことになっていては、普通の生活すら無理じゃぞ? 分かっておるのか?」

 

 おっと、ブーメランが飛んできたぞ。

 まさか俺の方まで聞かれるとは。

 まあ、気にはなるか。

 表向き死んだことにのっている人間が、これからどう生きるつもりか、なんて。

 

「俺が何の用意もしないでそんな無謀な策を取ったとでも?」

「そうは言っとらんよ。というか、ハチマンが何も企んでないわけがないであろう? それをワシらにも共有しときなさいと言っとるんじゃ」

 

 企んでいることは当然なのね。

 さて、何から伝えたものか。

 

「…………バトルフロンティア、だよね」

 

 するとダイゴさんが助け舟を出してくれた。

 

「ああ、なるほど。そういうことですか。だからグラジオが………エーテル財団がエニシダさんへの資金援助にサインしたんですね」

 

 するとムーンも思い当たることがあったのか、合点がいったって顔をしている。

 

「エーテル財団に関してはハチマン君からのご指名らしいよ? もちろんうちのデボンコーポレーションもね。それにエニシダさんはガラルのマクロコスモスにも声を掛けたらしいよ?」

「マジで? 何故に?」

 

 マクロコスモスにも声掛けてんの?

 

「仮面のハチが何かやるよーって密かに声掛けたら、即応じたらしいよ。恩返しの時だーって」

「俺、マクロコスモスに何かしたっけ?」

 

 マクロコスモスで言えば、ローズ委員長を鎧島に運んだことくらいしか思い浮かばないが、アレは仮面のハチとしてではなく黒の撥号としてだったから、マクロコスモスに感謝される謂れはないと思うんだが。

 

「ローズさんたちを保護したでしょうが。それにネットでは、ジムチャレンジに参加してたのも、何かを調べてたからじゃ………? ってことになってるから」

 

 おっと?

 ソニアさんや。

 それだと仮面のハチ=黒の撥号って数式がネットでは確定になってるように聞こえるんだけど?

 取り敢えず、本人はそこに関して全く言及しないでおこう。

 公式見解がなければ、どんなに確定的でも証拠がなければ確定にはならない。

 

「父さんが言ってのはこのことね」

「だろうねー。ユキノシタ建設もエニシダさんか突然やってきて驚いたって言ってたもんね」

 

 ユキノシタ建設にもちゃんと声は掛かってるみたいだな。

 そこは一応、身内の企業になるのだし、噛ませてもらえるようにしてもらったからいいんだけどさ。

 

「あ、もしかして私の複数専門タイプがヒントになったって話、これのことですか?」

「これのことだわ」

 

 どうやらイロハも話の内容から気付けたようだ。

 

「それで? バトルフロンティアを用意してもらってどうするつもりなのかしら?」

 

 ユキノがバトルフロンティア完成後のことを聞いてくるが、そんなもん決まってるじゃないか。

 

「そりゃ、引き篭もるに決まってるだろ」

「呆れた………。そのためだけにエニシダさんにお願いしたの?」

「まあな」

 

 深い溜め息を吐かれるも、元々俺は働きたくなかったんだ。それを何やかんやと働かされ続けて、命まで狙われるようになっちまったんだから、もう引き篭もってもいいだろ。

 

「クズですね」

「クズいよ、お兄ちゃん」

「ヒッキー………」

 

 うぐっ………、今の流れでヒッキーは痛い。

 すごく刺さる。

 

「あ、ユイさんのが刺さった」

「クズよりもヒッキーの方が刺さるんですねー………ヒッキー」

 

 面白いおもちゃを見つけたような顔で俺の顔を覗き込んでくるイロハ。

 このメスガキ、後で分からせてやる。

 

「けど、バトルフロンティアにしたら、君の正体がバレたりしないかい?」

「あー、そこは大丈夫かと。基本的に一般客は入れませんし」

 

 ダイゴさんの懸念は最もだが、そもそも不特定多数を入れるわけじゃないのだし、役職持ち相手なら俺が出ることもそうないだろうし、既に知ってる人たちが来ることになるだろうから、そんなに不安視はしていない。

 

「えっ、それ成り立つの? お客さんいないと運営出来なくない?」

 

 まあ、一般客を入れないっえ聞くとユイの言う通り、それで成り立つのか? って疑問が出てきても当然だと思う。

 ただ、一般客を入れないんであって、特定の客を入れるから問題ないんだわ。

 

「お客はダイゴさんとかシロナさんみたいな役職持ちやら元役職持ちやらを想定してるってだけだ。要は立場的に気軽にバトル出来ない奴らの発散場って感じだな」

 

 特にダンデとかダンデとかダンデとか。

 あのバトルジャンキーは放っておくと周りに皺寄せが行き渡るから、どこかで発散出来るようにしとかないとってのが、最後の一押しではあったな。

 絶対に本人には言えないが、鎧島に来た翌日にあいつとバトルして勝ったからこそ、仮面のハチの土台が作られていったってのがあるから、今となってはそこは感謝している。

 だからまあ、バトルフロンティアはその借りを返すためでもあるってわけだ。

 

「つまりジムリーダー以上の現役や元役職持ちってわけね」

「そういうことだな」

「あなた一人がやるの?」

「ばっかばか、やるわけないだろ、そんな面倒なこと。何のためにお前らに専門タイプ増やしとけって言ったと思ってんだよ」

 

 何を言ってるんだ。

 折角引き篭もれる環境を整えてるってのに、何で態々そんな面倒なことやらなきゃいけねぇんだよ。

 何のために皆に専門タイプを増やしておけって言ったと思ってるだ。

 

「ああ、そういうこと。つまり、お姉さんたちもブレーンってわけだ」

「はぁ………そういうことはもっと先に相談しておきなさいよ」

 

 ハルノの言葉にまた溜め息を吐くユキノ。

 あんまり溜め息ばかり吐いてると幸せが逃げてくぞ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。サキさんも?」

「ん? カワサキか? バトルフロンティアのことは全部あいつにぶん投げてるからな。一応、俺の部下ってことになってるし」

 

 ぶん投げてから一度も会ってないから、どうなってるかは分からないけど、なんかそこはダイゴさんとかの方が詳しいかもしれない。後で聞いてみよう。

 

「人使いの荒い上司でごめんね、サキさん………。サイカくんや厨二さんは?」

「ザイモクザは強制参加。トツカも出来たら参加してくれると嬉しいなーと」

「扱いの差………」

 

 トツカとザイモクザの扱いの差にドン引きのコマチ。

 そうは言うが今更じゃね?

 トツカとザイモクザだぞ?

 扱いに差が出て当然だろうが。

 

「ザイモクザも一応俺の部下ってことになってるし、強制参加ってくらいにしとかないと誘われてないと思って、余計にウザ絡みしてくるだろうからな。ぼっちを舐めるなよ」

 

 いるだけで暑苦しいのが、さらに泣き縋って来ようものなら、蹴飛ばしたくなるからな?

 考えるまでもなくその光景が見えてしまうくらいなんだから、あいつは強制的に働かせておいた方がいいんだよ。

 

「彼、昔から何だかんだあなたの側にいるものね。私が思い出すだけでも、何故かあなたの後ろに太い影がずっとあるのよ」

「え、背後霊か何かなのか? つか、俺がこんな生死を彷徨うことになった原因って、ザイモクザに呪われてるせいか?」

 

 ユキノが思い出すだけでもずっとザイモクザがいるって、最早背後霊でしかない。

 あいつ、何でそんなにずっと俺といるわけ?

 行くとこないの?

 …………………ないな。

 

「そんなわけないでしょ。精々、赤い糸で結ばれてる程度よ」

「やだよ、あんなのと赤い糸とか。あいつが動き回っても切れてないってことだろ? 最早糸じゃなくて頑丈なゴム紐だわ。絶対強く引っ張れるだけ引っ張って離してやる」

 

 んで、バチコンッ! って顔面に直撃すればいいのだ。

 

「傍から見れば、それは既に実施済みよ」

「というか基本的な扱い方がそれですよねー」

「まあ、厨二は全然気にしてないどころか気付いてすらいないけどね」

 

 おっと、それらしいことは既にしていたらしい。

 というか普段の扱いがゴムパッチン状態だったか。

 それでも逃げ出さないって、あいつドMなのん?

 デブのドMとか、ちょっとというかかなり嫌だわ。

 でも、しっくりくるのは何故だろうな。

 というか、ザイモクザで思いついたわ。

 午後から誰かしらソニアとバトルしてもらおうかな。

 前回も午後からバトルしてたんだし、今回も俺が誰かとバトルさせられるかもしれないから、それなら先にこっちから決めておいた方が俺に被害が来ないと思われる。

 言ったもん勝ちだ。

 

「ああ、それとソニアにはこの後誰かとフルバトルしてもらうからな」

「はっ?」

 

 突然のことで、ぐりんと首を回してこっちを見てくるソニア。

 

「そこの五人ともう一人、さっきからちょいちょい出てくる厨二病患者の計六人とフルバトルしないとガラルに帰れないからな」

「増えてる?! えっ、ちょ、どゆこと!?」

 

 折角だし、ユキノたち全員とバトルしてもらおう。別に今日だけでなくてもいいんだし。

 ソニアの予定?

 多分、大丈夫だ。

 それにそろそろダンデともいい加減決着を付けないと、拗らせたコンプレックスが邪魔して、じーさんらと上手くやっていけなくなるかもしれないし、ここいらでさっさと片付けておいた方がソニアのためでもあると思うんだ。

 まあ、ある意味『ソニア魔改造計画』って感じかな。

 

「ダンデに向き合うなら、まずは世界の理不尽さを思い知らされるべきかなと」

「既に理不尽だけど?!」

「それはそれ、これはこれ」

「理不尽の塊が何か言ってるよぉ……………」

 

 そう言ってテーブルに突っ伏すソニア。

 何でもいいけど、誰も止めようとはしないのな。

 一人くらいソニアの味方になってやってもいいだろうに。

 

「ソニアさん、どんまい」

 

 コマチなんか耳元でトドメを刺しにいってるし。

 

「えー、もう議題はなさそうなので、今回はこれで終了ってことになりまーす。お疲れ様でしたー。ソニア博士は午後から私とバトルしましょうねー」

「もう既に対戦相手が決まってる……………」

 

 そんなソニアを横目にイロハがさらっと会議を閉めると、ソニアの顔を覗き込んで悪魔の一言を囁いた。

 ソニア、どんまい。

 

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