会議後に昼食を挟み、午後。
プラターヌ研究所にあるバトルフィールドには、ほぼ全員がいた。
特にダイゴさんとシロナさんが今か今かと子供のような顔になっている。
いないのはグリーンだけ。トイレだとよ。
何なら、シズカさんやメグリ先輩もいるし、トツカやザイモクザもコマチを囲っている。
いや、トツカは分かるが、ザイモクザはアレか? 未だに俺かトツカとしかいられないとかか?
「ね、ねぇ……ハチくん? なんか皆いるんだけど?」
「そうだな。俺も前回六対十八っていう、三人纏めてのフルバトルを博士たちが見てる中でやってるし、今回もそういう認識でいるんじゃないか?」
今からバトルするソニアが全身震えまくっている。
バイブレーションにでもなったのだろうかってレベルだ。万歩計付けてたら、歩いてないのに計測出来そうだな。
「ほんとにやるの?」
「やるに決まってるだろ。それとももう折り合い付けられたのか?」
「うっ………」
ここに来てもまだ渋るソニアにダンデとの折り合いが付けられたのか聞いてみるも、返ってくるのは言葉に詰まった反応だけ。
「あれからバトルもしてるんだろ?」
「フィ、フィールドワークで必要に迫られた時だけだからね? そんなダンデくんみたいに誰から構わずバトルを引っかかるような真似はしてないから!」
「や、あいつは例外だろうに」
本当にこいつは比べる相手が毎度ダンデしかいないな。
他と言ってもルリナくらいだろうし、もっと一般的なトレーナーと比べることは出来ないのだろうか。
まあ、ダンデの基礎を作ったのはソニアだって言うし? ある意味、ダンデこそがソニアの力作であり、理想のトレーナー像なのかもしれない。
ただし、理想と現実は違って、自分はそこへ到達出来ない。だからと言って路線を変えて研究者を目指してみても、祖母の偉業を前に打ちのめされてしまい、コンプレックスだけが刺激され今に至るってところか。
改めてソニアのコンプレックスを並べてみると、俺だってストレスしか感じないわ。
それを長年耐えて、少しずつ消化しているんだから、この孵化したばかりのシカジカみたいに震えていても、ソニアの芯は強いのだと思う。
「なら、さ。コマチちゃんは免除にして? ガラルにコマチちゃんたちがいた時にフルバトルしてるし、六連戦とか流石にポケモンたちが根を上げるからさ」
「えっ、コマチとフルバトルやってんの?」
マジで?
いつの間に?
「そうだよ。だからコマチちゃんはいいでしょ?」
仕方ない、今回は多めに見ておいてやろう。
それにしても勿体無いな。
「……………勿体無いが、コマチは免除にしてやろう。六人の中では一番普通だったのに、それを自ら免除を求めてくるとは…………」
「…………ん? ちょっと待って? 一番普通?」
「まあ、コマチはコマチでってことにはなってそうだが、一発目がイロハだしな。強さ的に次がユイ、ユキノ、ハルノって流れだろうから、良しとしておこう」
「ちょっとハチくん?!」
俺が独り言を呟くと、ソニアが険しい顔でズズズイと覗き込んできた。
目が笑ってないですね。
「人数も五人ってことだから、明日の午前がユイ、午後がユキノ。明後日の午前がハルノで午後がザイモクザでいいな」
「まさかの三日間!?」
対戦予定を組んでみたら、ソニアが頭を抱え始めた。
忙しい奴だな。
「さーて、ソニア博士。バトルしましょうねー」
「ひぃ!?」
そこへ追い打ちをかけるようにイロハがやってきた。
「おいこら、普通にやれ」
「あうっ」
力のないチョップでイロハを制止させるとあざとい声を上げてくる。
うん、偶にはこのあざとさも必要だよな。
ないのはないで結構物足りなさがあったから、懐かしさが余計に込み上げてくる。
…………うん、いろはす病に罹患してますわ。
俺のヒキガヤ菌では抗体を獲得することは出来ないどころか、やられてる気さえする。
男には効果抜群だし。
「いやー、ソニア博士があまりにもいい反応をしてくれるもんでつい………」
「気持ちは分かるが、流石に今はやめとけ」
チョップの手を広げてイロハの頭を撫でると、すりすりと身体も擦り付けてきた。
可愛い奴め。
「審判は僕がやるよ」
するとニッコニコなダイゴさんがやってきた。
シロナさんもそうだけど、さっきからこの二人、気持ち悪いくらいニッコニコで気持ち悪い。
そんなのが審判を申し出てくるなんて、絶対一つしかないだろ。
「………特等席で見たい、的な?」
「うん、そう」
誤魔化すこともなく綺麗に肯定。
「それに六人? 五人? とやるんでしょ? 今日一日でやるのは流石にポケモンたちが可哀想だから数日に渡ってってことになるだろうし、そうすると特に予定のない僕が適任かなって」
「暇なんすか」
急に決まったようなバトルが数日に渡ってって想定出来てるのに、余裕があるってよっぽど暇なのだろうか。
博士組は明日には帰る人も出てくるだろうに。
「というより、君がいる間は出来るだけ君の側にいて情報を集めてきてくれってエニシダさんに言われてるんだよね」
ああ、そういう感じか。
そりゃ、俺が原因なわけだし仕方ないな。
こればっかりはこっちがお願いしている身だから、情報がエニシダさんに行くというのなら、特段指摘するものでもない。
「例の件すか」
「そう、例の件。エーテル財団が加わってくれたおかげで、ポケモンたちも生活しやすいような環境作りが出来るようになって、工事もかなり進んでるよ」
「ほー、流石っすね」
バトルフロンティアの建設も順調なようだし、エーテル財団が参画したことで、ポケモンたちの生活環境も整えられるようになっているようだな。
まあ、誘った目的はそれだけじゃないんだけど、エニシダさんならそれも込みで動いてくれてそうだから、何も心配はあるまい。
「ま、というわけだから、今回の全バトルの審判は僕がするよ。ソニア博士もよろしくね」
「え、あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
ダイゴさんとの会話にはまだ慣れないらしいソニア。
果たして今日で俺以外と普通に話せるようになる人は出てくるのだろうか。
「ルールはどうするんだい?」
「フルバトルの技の使用制限はなし、交代は自由でいいでしょ」
「なるほど、制限をかけない分、多様な攻撃を見せてくれってことだね」
「物は言いようなんで、どうとでも」
ダイゴさんがチラッとソニアの方を見るが、ソニアは緊張のあまり、その視線に気付いていない。
「はぁ………バトルする予定なかったからなー………」
「さあ、ソニア博士。やりましょー」
笑顔が怖い。
何か企んでいる悪い顔である。
一体、誰に似たんだろうか。しれっとソニアの肩に手まで置いて逃げられないようにしてるし。
ソニアが青ざめてるじゃねぇか。
「ねぇ、ハチくん。骨はちゃんと拾ってね?」
「気が向いたらな」
既に気持ちで負けているソニアなのだが、意外とバトルになればスイッチが切り替わるだろうから、そこまで心配はしていないけども。
「これよりソニア博士VSイロハちゃんのフルバトルを行うよ。技の使用制限はなし。交代は自由。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になったら、バトル終了。二人とも、いいね?」
「はい!」
「………はい」
ダイゴさんのルール確認の下、バトルが始まった。
「それじゃ、バトル始め!」
「いくよ、バクーダ」
「すー………はー………パルスワン、お願い」
最初のポケモンはバクーダとパルスワンか。
ん?
ってか、ワンパチ進化した?
「パルスワン、バークアウト!」
「バクーダ、ふんか!」
「スバァァァァ!」
すかさずパルスワンが吠えるとバクーダが顔を歪ませる。
「バーッグ………」
それでも背中に力を込めるとマグマが漏れ、地面を黒くしていく。
「ダァッ!」
そして、一気に噴き上がった本流のマグマは、パルスワンを呑み込むように降り注いでいった。
「パルスワン、一旦交代だよ」
ただ、ソニアはマグマがパルスワンに到達する前にボールへと引っ込めて難を逃れた。
ほら、もう。
ポケモンを出して十秒にも満たない時間でソニアがバトルの流れを読み始めているじゃないか。
俺が何となくで感じとっていたソニアのポテンシャルが早速発揮されている。
「エレザード、じならし!」
交代で出てきたエレザードがそのまま地面を叩いて揺らし始めた。
「バクーダ、じしん!」
四足歩行のバクーダでは回避するのは間に合わないと考えたのだろう。
イロハはダメージ覚悟でバクーダにさらに地面を激しく揺らすように指示を出した。
「ザ、ザ、……レッ!?」
「特性がハードロックだから強気でいられるってわけね………」
自分が起こした揺れも利用され、今度はエレザードがバランスを崩してよろけている。
こういうところはイロハの方が上手なのかもしれない。
特性を鑑みた上での思い切りの良さというか、大胆なのはイロハの方だろう。
「エレザード、なみのりで凌いで!」
だが、ソニアの咄嗟の指示で波を起こし、水掻きを使って水面を移動し、体勢を立て直していった。
「バクーダ、ステルスロックだよ!」
ただ、イロハも抜け目なく、エレザードが体勢を立て直している間に、ソニアの方にバクーダの背中から無数の岩の破片を飛ばして地面に打ち込んでいる。
何というか初手から読み合いが激しいな。
「エレザード、さらになみのり!」
波に乗ってフィールドをぐるんと一周回って体勢を立て直したエレザードが、さらに大きな波を作り出し、今度はバクーダを呑み込まんと襲いかかった。
「まもる!」
だが、バクーダはドーム型の防壁を展開して大波から身を守り切った。
貫通はしなくとも大波に流される、ということもないのを見るに、防壁もかなり分厚いものになっているってわけか。
「そのままストーンエッジ!」
「なっ!? 真下から?!」
そしてすかさずエレザードの真下から尖った岩々を作り出して、打ち上げていく。
何ともいやらしい戦法だこと。
防がれたことにソニアとエレザードの意識がいった一瞬を見逃さず、死角からの攻撃とは…………。
真下といっても背後寄り。
完璧に躱すなんて出来ようはずもなく、エレザードは地面から突き出した岩々に打ち上げられーーー。
「いっけぇー! ボディプレス!」
そこへ地面から突き出た岩々を足場にして大ジャンプしたバクーダが、全体重を乗せてエレザードへと落下していく。
「エレザード、はかいこうせん!」
躱せないと悟ったのか、エレザードは身体を捻ると落下してくるバクーダへと向けて禍々しい光線を放った。
それでもバクーダの落下は止まらず、二体ともが地面に叩きつけられてしまった。
「バクーダ、エレザード、ともに戦闘不能!」
二体を隠していた土煙が晴れると、ダイゴさんが判定を下した。
最初の決着は相打ちか。
ノリノリだったイロハに対して、乗り気じゃなかったソニアが相打ちでの一発目。
やはりソニアのポテンシャルはかなり高いと見ていいだろう。
「エレザード、戻って」
「バクーダ、お疲れ様ー」
お互いにポケモンをボールに戻すと、イロハがおでこの汗を拭った。
一体目の戦闘不能までに結構読み合いが激しかったからな。
見ている俺たちもじんわりと汗をかいているくらいだし、本人たちはこれだけでもかなり消耗したのではなかろうか。
「いやー、はかいこうせんですか。ノーマルタイプを持つエレザードの切り札としてしっかり覚えさせているんですねー」
「切り札ってわけじゃないよ。切り札は勝ち切るためのものでしょ? エレザードのはかいこうせんは、どうにもならない状況の時に使う一発ってだけでしかないかな」
「わー、どこぞの誰かさんが言いそうなセリフ」
いや、俺でもそんなこと言わんよ。
だからこっちを見るのはやめい。
「さあ、次いきましょうか! ヒヒダルマ!」
「そうね、エモンガ」
「エッモ!?」
イロハの二体目はガラルのヒヒダルマで、ソニアの三体目はエモンガか。
俺とバトルした時は、エモンガは後続が戦いやすいようにフィールドを整えたり、バトンタッチのために能力を上げていた印象しかない。
恐らく、今回もそのためかもな。
ステルスロックの尖った岩がエモンガの身体に食い込むのも、何ならエモンガにはかなりのダメージを食らうことになることは分かってるだろうに、敢えて出してきたのだから、何かサポート系の意図があるはずだ。
「まずはこうそくいどう!」
「いわなだれで邪魔して!」
エモンガが高速で飛び回るのを、ヒヒダルマが頭上から岩々を落としていく。
それでも当たらないところを見るに、ソニアも意図的にそういう風に育てているのかもしれないな。
エモンガの素の攻撃力に期待するより、役割を決めてそれに徹させるなんて、どう考えてもバトルが苦手なトレーナーが思いつく戦法ではないと思う。
「エモンガ、きりばらい!」
エモンガが空中で止まったかと思うと、大きく羽ばたき、フィールド一帯に強い風を起こして、何もかもを吹き飛ばしてしまった。
なるほど。
狙いはステルスロックの解除ってわけね。
ひこうタイプを持つエモンガが受けるダメージよりも、もっと後に続くポケモンたちが受けるダメージの回避を優先したってわけだ。
「つららおとし!」
止まったのをいいことにイロハは、エモンガの頭上から太い氷柱を作り出させて落下させた。
「躱してほうでん!」
だが、エモンガも無意味に飛び回っていたわけではない。
というか、狙われるのが分かっていたからこそ、初手は高速で移動することから始めたのだろう。
いやもう、ほんと。
どこまで想定してバトルを組み立ててるんだって話だ。
氷柱をひょいと躱すとエモンガは身体中から電気を放出し始めた。
「ヒヒダルマ、一旦交代だよ!」
余計なダメージを受けるつもりはないのか、将又麻痺する可能性が高い技なため、それを嫌っての交代か。
どちらにせよ、交代一つを取っても技の回避行動になっている。
「ヒードラン、マグマストーム!」
うっわ、ここでかよ。
しかもちゃんとリトレーンされて、シャドウオーラは無くなっている。何ならちょっとキラキラしてるまである。
「エモンガ、戻って! バトンタッチ!」
ヒードランがマグマで嵐を起こし出す前に、ソニアはエモンガを下がらせてジャラランガとハイタッチさせている。
「危なかった………」
「交代でやり過ごすとか、やりますね」
それはお前もだろうが。
それにしてもイロハとここまでやり合えてて、まだソニアはバトルが苦手と豪語するのだろうか。
「ジャラランガ、じしん!」
「ヒードラン、かえんほうしゃを地面向けて発射!」
ジャラランガが地面を叩いて揺らすと、ヒードランは口から炎を地面に向けて発射し、その勢いで垂直に飛び上がった。
「飛んだ!?」
鋼の鎧を身に纏っているのに軽々と飛ぶんだもんな。
ソニアも流石にこれは読めていなかったようだ。
「ジャラランガ、てっぺき!」
「ヒードラン、こっちもてっぺきだよ!」
ヒードランが降りてくるまでに防御力を高めておく算段なのだろう。
ジャラランガがちょい上向きに鉄の壁を張ると、ヒードランも同じように空中で鉄の壁を張っていた。
はてさて、イロハは何を狙っているのやら。
「はどうだん!」
ヒードランをギリギリまで引きつけ、あと十メートル程というところで波導を凝縮したエネルギー弾を放つと、イロハの口角が上がっていく。
「いっけぇー! ヘビーボンバー、と見せかけてのふんえん!」
「うそん?!」
ヘビーボンバーって聞いた時のソニアの顔は勝った! って感じにキラキラしてたのに、一瞬にしてエネルギー弾が噴煙で押し返され、ジャラランガの真横に着弾すると、一気に青ざめてしまった。
「マグマストーム!」
そして、ヒードランは着地と同時にジャラランガをマグマの嵐で呑み込んでしまい、身動きを封じ込めていく。
「くっ………。ジャラランガ、じしん!」
その場で使える技ということで選択したのだろう。
「ジャラ……?!」
「火傷………!」
だが、マグマの嵐に囚われたジャラランガは既に火傷状態になっていたようで、思うように力を込められず地面を揺らせていない。
「それなら、りゅうのはどう!」
「ヒードラン、こっちもりゅうのはどう!」
マグマの嵐を吹き飛ばすためにも、中から竜を模した波導が放たれるも、同じくヒードランから放たれた竜を模した波導に相殺されてしまい、逆に貫かれてしまっている。
「ジャラッ………!?」
「トドメだよ! マグマストーム!」
さらにマグマの嵐を強くし、熱で一気にジャラランガを戦闘不能へと追いやってしまった。
中でバタンと倒れる音が聞こえてくる。
「ジャラランガ、戦闘不能!」
マグマの嵐が晴れると案の定、ジャラランガは地面に横たわっており、ダイゴさんの判定が下された。
「エグい………」
誰が漏らした言葉かは分からなかったが、誰もそれを否定することはなかった。
会議中にヒードランを連れている発言をしていたため、じーさんたちもイロハがヒードランを出してくることは予想していただろうが、もっと後の方だと思っていただろう。
それがこんな早々に出てきて圧倒的なバトルにしてしまい、つい漏れてしまったってところか。
気持ちは分からなくもない。
ただ、ヒードランだけじゃないだよ、イロハ。
ボルケニオンっていうのもいるからな。
マグマと蒸気を操る炎の四天王とか、チートにも程があるわ。
下手するとチャンピオンよりもチャンピオンが出てしまう可能性だってある。
まあ、本人がそこまで貫禄がないってのがせめてもの救いか。
ここで貫禄まであったら、マジで他の人たちの立場が危ぶまれてしまう。
「戻って、ジャラランガ」
「ヒードラン、お疲れー。一旦戻ってねー」
マグマによる熱風に煽られていたからか、かなり暑くなってきた。
でこにはじんわりと汗が滲み出てきているし、背中をつつつーっと水滴が伝っていくのも分かる。
俺でこれなのだから、イロハとソニアはもっと暑くなってきていることだろう。
まあ、それを指摘したら別の意味で熱くなられるだろうから、お口にチャックである。
「…………ヒードランが切り札じゃないんだね」
「切り札になることもありますよー。ただ、今回はソニア博士と他の人たちの度肝を抜いて隙を作りたかったので、ヒードランには早々に出てもらったってだけです」
「そんな涼しげに言ってるけど、それはつまり切り札は一体だけじゃないってことじゃない」
「あ、バレました? でも、そこの性格がひん曲がった先輩のポケモンは、全員切り札と言っても差し支えのないのばっかりですからねー。それを見てたら切り札になり得るポケモンを複数体用意しておいた方が、バトルに幅を持たせられるってもんなんですよ」
しれっと俺のせいにしてくるため、ソニアがこれでもかってくらい俺を睨んできた。
いや、そんな睨まれてもイロハが勝手にそうしてるだけだし。
俺が教えたわけでもないんだから、睨まれるのはお門違いでしょうに。
悪いのは同種族の中で異常種になりつつある、というかもう異常種でしかないあの三体だ。俺は悪くない。
「はぁ………言わんとしてることは分かるけれど、切り札を複数体なんて何パターンも戦術を作らないといけないのよ? 常人には難しい話だと思うなー」
「まあ、私四天王ですし」
「そうだった………」
イロハのカウンター。ソニアの急所に入った。
多分、忘れてたんだろうな。
挨拶でも軽く流してたしなー………。
「さーて、次行きますよー。ガブリアス!」
「うー………なんか釈然としない………パルスワン、もう一度お願い」
うん、完全にイロハのペースに陥ってるわ。
バトルのイヤらしさもイロハの方が上であり、つまりイロハの性格がひん曲がっている…………あ、はい。何でもありません。だから俺の思考を読んで睨むのやめてね。
怖い怖いあと怖い。
「こうそくいどう!」
「にほんばれ!」
再び出てきたパルスワンとイロハの四体目となるガブリアス。
パルスワンが高速でガブリアスの周りを走り回り、そのガブリアスは日差しを強くした。
「パルスワン、一気に詰めて! じゃれつく!」
加速したパルスワンがガブリアスへと突っ込んでいく。
確かに隙だらけではあったが、果たしてイロハがそんな見え透いた隙を見落とすとは考えられない。
ということは、これは誘いだろうな。
「ふふん、ガブリアス! まもる!」
ほら。
ガブリアスが自身を守るようにドーム型の防壁を張って、パルスワンをシャットアウト。弾き返してソニアの方へと吹っ飛ばした。
「ガブリアス、一旦交代ね。マフォクシー、トリックルーム」
うっわ、えげつない。
「なっ!? 範囲広っ?!」
今パルスワンが乗ってきたところだったのに、マフォクシーはフィールド全体どころか、プラターヌ研究所を丸々と影響下にしてしまったのではないかと思える程のあべこべ空間を作り上げてしまった。
「ほのおのうずでパルスワンを拘束だよ」
「しまった………っ!?」
そして、ソニアがトリックルームの大きさに意識がいったのを見逃さず、マフォクシーは炎の渦でパルスワンを呑み込み、拘束してしまった。
「アンコール」
だからさっきからえげつないって。
身動き取れないように拘束だけでは飽き足らず、パルスワンの技すらも拘束してしまうとは…………。
「くっ………パルスワン、こうなったら力づくでいくよ! じゃれつく!」
それでもソニアは力づくで炎の渦の中を突破しようと考えたらしい。
「マフォクシー、ねっさのだいち」
だが、素早さが反転した部屋の中では、こうそくいどうで上げた素早さが仇となり、マフォクシーが杖で地面を小突いて地面から噴き出した熱々のエネルギーによって、パルスワンを打ち上げてしまった。
「パワッ!?」
「トドメのブラストバーン」
そして、落下してくるパルスワンに再度地面と小突いて爆発させ、業火のプールで受け止めていく。
エグい………。
「…………パルスワン、戦闘不能」
間近で見ている審判のダイゴさんもドン引きである。
「…………なんか段々とあなたの性格が分かってきたかも。パルスワン、戻ってゆっくり休んでて」
ソニアの溜め息に博士たちがうんうんと首を縦に振っている。
「ええー、酷くないですかー?」
「貶されてると認識してる時点で、性格の悪さに自覚があるじゃないの」
「はっ!? てへっ」
ユキノの指摘で自分の言葉を自覚したイロハは、マフォクシーをボールに戻しながら取り繕うようにテヘペロ顔になった。
そういうとこだぞ。
「まあ、師匠がハチくんだし…………」
「ですです。元凶は全て先輩です」
こいつら………。
「ソニアさん、騙されちゃダメですよ! イロハ先輩の元来の性格の悪さがなければ、お兄ちゃんの性格の悪さが噛み合った相乗効果は生まれませんから!」
コマチー………、それ俺の擁護になってないぞー。
そしてじーさんども。うんうんと首を縦に振るな。
アララギ博士たちが凄く困った顔になっちゃってるだろうが。
「さあ、次ですよ! ガブリアス、もう一回ね!」
「うっそん………またガブリアスなの………、ストリンダー、取り敢えずギア上げてくよ」
またガブリアスが出てきたことにソニアが嘆いている。
まあ、ソニアのポケモンってでんきタイプが多いからな。じめんタイプを持つガブリアスには電気技が通らないし、かと言ってでんきタイプ以外を出そうにもヒードランとかがいるから、出すタイミングが掴めてないのだろう。
だが、それはそれで今のソニアにはいい刺激にはなりそうだ。目指すはダンデとのフルバトルなのだし、あのバトルジャンキーのポケモン相手に、自分のポケモンの出すタイミングを測っていかないと致命傷になりかねないしな。
「こっちも上げてくよ。つるぎのまい!」
ハイな姿のストリンダーがギアチェンジで攻撃力と素早さを上げていくのに対して、ガブリアスは数本の剣を回転させて攻撃力を上げていく。
そしてトリックルームの時間切れが来たようで、丁度パリンと部屋の壁が割れて解除された。
「アンコール」
「ガブリアス、じしん!」
二人の指示は同時だった。
だが、ガブリアスが地面を叩く前にストリンダーのアンコールを受け、地面を叩けど一向に揺れる気配はない。
「スピードスター」
胸の突起をジャラランと鳴らし、無数の星をガブリアスに向けて走らせた。
「ッ!! ガブリアス、つるぎのまいで落として!」
アンコールを受けたガブリアスはじしんが不発だったということは、一個前のつるぎのまいしか使えない状態ということであるが、イロハはそれを逆手にとって、複数の剣が回転するのを利用して、次々と星を叩き落としていく。
「どくどく!」
ただ、スピードスターは囮だったようで、イロハとガブリアスがそっちに意識が向いているのを掻い潜って、ストリンダーがガブリアスの背後に現れ、猛毒を浴びせた。
途端にガクンと身体が折れたガブリアスが苦しみ始め、日差しもガブリアスに溶け込むように弱まっていく。
どうにも日差しが強い時間が長かったように思うのだか、ガブリアスの持ち物って熱い岩だったり?
確か前も熱い岩を持ってるのを見たような気がするし。
「なるほど。これじゃ無理だね。ガブリアス、交代だよ。マフォクシー!」
ここまでポケモンたちに無理をさせて来なかったイロハは、今回も無理させることなく、さっさとガブリアスを引っ込めてしまった。
「ストリンダー、ほうでん!」
だが、ソニアはそこまで計算していたのだろう。
マフォクシーが出てきた瞬間にストリンダーが放電し、全方位から襲いかかっていく。
「ふふん、メガシンカ」
あー、そう来るか。
ソニアの読みは良かったし、逃げられないように全方位からの放電も良かったが、マフォクシーはそれでもどうにか出来る手段を持っていた。ただ、それだけのことである。
確かに午前中の内容に新規発見のメガシンカとしてマフォクシーもいたからな。
その後のやり取りでどうしてもイロハのメガシンカはヒードランという印象が植え付けられていたところにこれだから、知らない者からすると思考が追いつかない者もいることだろう。
可哀想に。
「メガシンカ………!? くっ、でんじほう!」
そして、例に漏れずソニアもその一人なようで。
それでも切り替えが早かったのが、せめてもの救いか。
ストリンダーから電磁砲が打ち出されると、箒に乗って飛んでいるマフォクシーが杖を前に翳した。
「トリックルーム」
電磁砲がマフォクシーに着弾する直前に部屋が完成し、マフォクシーの目の前で止まったかのような速度になると、ひょいと事もなげに躱してしまった。
「サイコキネシス」
そして、お返しと言わんばかりにストリンダーを超念力で拘束。
「ストリンダー、強引にいくよ! オーバードライブ!」
それを強引に身体を動かして胸の突起を鳴らして音を響かせた。
「サイコノイズ」
音には音をってか。
ノイズ音が響き渡り、オーバードライブを掻き消してしまった。
「ばくおんぱ!」
さらにそのノイズ音を掻き消すように爆音が響き渡る。
流石に不快な音の連続にマフォクシーが嫌がるように動いていく。
「今よ! じごくづき!」
いつの間にかマフォクシーはストリンダーの目の前にいた。
まさかトリックルームの壁を利用して爆音を反射させ、マフォクシーがストリンダーの目の前に飛んでいくように仕向けるとか、流石の俺でも無理な話である。
ソニア、よくやるわ。
「マフォクシー、リフレクター!」
それでも反射壁で受け止めてしまえる辺り、メガシンカしたことで反応速度や技の練度が一気に上がっているということだろう。
あと箒による乗って浮いているというのが、マフォクシーの機動性を底上げしているに違いない。
「そのまま囲んで!」
「ストリンダー、かわらわりでぶっ壊して!」
ストリンダーを囲むように何枚も反射壁を展開していくのと同時に、ストリンダーが壁を次々と粉砕していく。
……………何となくイロハの意図が読めた気がする。
ソニア、恐らく相手がイロハでなければ、割と正解な対処だったと思われるが、今回は致命傷だぞ。
「さっすが、ソニア博士。大量の破片をありがとうございまーす! サイコショック!」
ほら。
ストリンダーが次々と壁を粉砕して出来た無数の破片をサイコパワーで操ると、全方位からストリンダーを呑み込んでしまった。
「…………ストリンダー、戦闘不能!」
ダイゴさん、声と顔が一致してないですよ。
気持ちは分かるけど、ドン引き顔である。
「お疲れ様、ストリンダー」
「いやー、思いの外、私の想定通りに動いてくれて助かりました」
こいつは煽らないとやっていけないのだろうか。
ストリンダーをボールに戻すソニアがダメージを受けてるぞ。
「………本当にヒードランだけが切り札ってわけじゃないのね」
「もっと言えば、メガシンカも最後の切り札ってわけじゃないですよ?」
あっけらかんと答えるイロハに、ソニアは何故か俺を睨んできた。
別に俺の教えとかじゃないから。
何ならそういう認識になってるっていうのを今知ったくらいだから。
っべー、トレーナーになって二年目で四天王になり、数年でこんな考えになってるんだから、恐ろしいにも程がある。
「それならその最後の切り札っていうのは何なのかしら?」
「んー、強いて言えば全員、ですかねー」
うっわ、マジか。
そこまで行っちゃってるのか…………。
これってやっぱり俺のせい?
イロハがこんな認識になるように育てた覚えもないんだが、言わんとしてることがどうにも俺のポケモンたちを意識してるんだよなー。
こいつ、俺のポケモンたちは根本的に規格外だから例外ってことを忘れてないか?
「トレーナーごとにバトルスタイルや得意なタイプ、戦術だって異なってくるんです。それに対してこっちの切り札を一本に絞っていたら、読まれる上に自分が苦手とするパターンに持っていかれると、手の出しようがなくなるじゃないですか。しかも四天王なんて対策される側だし、私脳筋プレイは好きじゃないですし。気合いで何とかなるなら、初手で勝負を決めろって思いません?」
「分かる! あのバトルバカと来たら、ピンチになったら気合いで何とかするってしか考えてない脳筋になってやがって! わたしが散々ポケモンのタイプや特徴に合わせた戦術ってもんを説明してやったってのに、あのバカは!」
「わ、わーお………荒れてるぅ………」
力説していたイロハがドン引きする程のソニアの愚痴である。
一体誰のことを言ってるんだろうな、脳筋バトルバカって。
コマチもニヤニヤしてるから、分かる人には濁したってバレてるぞ?
「ソニアー。ダンデラブの話は分かったから、バトルの続きやれよ」
「誰がダンデラブよ!」
「嫌いなのか?」
「……………………ノーコメントで」
長い沈黙の後にそっぽを向きやがった。
それを見たおじさんたちがほっこりしている。顔が気持ち悪い。
「さあさあ、次行きますよー!」
「くっ………後で覚えてなさいよ!」
「覚えてたらな」
忘れてたらごめん。
まあ、多分忘れてると思うが。
というか本人が忘れてそうだし、覚えてても蒸し返すことになるから、言って来ないんじゃなかろうか。
「はぁ………それにしても厄介だね。エモンガ、かげぶんしん!」
「マフォクシー、ほのおのうずで捕らえて!」
ボールから再度出てきたエモンガが分身を増やしていき、そこへ渦巻く炎が襲いかかる。
「あまごい」
その間に雨雲を呼び、雨が降り始めた。
渦巻く炎の威力も弱まり、分身が数体残ってしまっている。
「雨を降らせて威力を落としますか………なら、マジカルシャイン!」
それを一気に掻き消すように、マフォクシーの身体から白い光が迸り、分身を霧散させていく。
「エモンガ、こうそくいどうからのバトンタッチだよ!」
迸る光を高速で躱してソニアの方へと戻ると、出てきたラグラージとハイタッチを交わしてエモンガはボールへと戻っていった。
「いくよ、ラグラージ」
「マフォクシー、くさむすびで拘束して!」
出てきたのがラグラージだと分かると、枝の箒に乗ったマフォクシーが地面から草を伸ばしてラグラージを絡め取っていく。
「メガシンカ!」
だが、次の瞬間。
ソニアの持つキーストーンとラグラージのメガストーンが共鳴し、虹色の光に包まれると、そのエネルギーでラグラージを絡め取った草を焼き払っていった。
「ッ!?」
流石のイロハもソニアがメガシンカを使えることは想定していなかったようだな。
というかちゃんとモノにしてたんだな。律儀というか何というか………。
「ウェーブタックル!」
上半身ムッキムキになったラグラージが水を纏って一気に詰め寄り、浮いているマフォクシーをショルダータックルで吹き飛ばした。
「速ッ?! みらいよち!」
マフォクシーは体勢を立て直しながら、未来に攻撃を仕掛けていく。
「アクアブレイク!」
その間にもラグラージは特性も活かして、マフォクシーの背後に回り込むと、水の刃で背中から斬り裂いた。
「まもる!」
だが、そこはドーム型の防壁によって阻まれ、弾かれてしまう。
「にほんばれ!」
「ウェーブタックル!」
そして、マフォクシーが雨雲を晴らすと同時に、ラグラージのショルダータックルを浴びて吹き飛ばされてしまった。
「マフォクシー、戦闘不能!」
地面にバウンドしていったマフォクシーはメガシンカが解けており、ダイゴさんの判定が下された。
恐らくマフォクシーでは特性すいすい発動中で、且つエモンガのこうそくいどうを引き継いだラグラージを止めることは出来ないと悟り、次に繋がるためにフィールド作りに徹したってところだろう。
「お疲れ様、マフォクシー。ナイスファイトだよ。いやー、まさかソニア博士がメガシンカを使えたとは………」
「使えはするけど、やっとモノにできたってくらいだよ」
「そうは言いますけど、メガシンカが上手く使えるようになるだけでもトレーナーとしてはかなり実力がある証拠じゃないですか」
「そんなことないよ。私が何度も何度も使ってみてようやくってところを私の知り合いたちなら絶対一発で使いこなせるもの」
それは比較対象がダンデだったり、ルリナだったりだからだろうが。
もっと世間一般的な認識は出来ないのだろうか。
…………………ある意味ソニアって箱入り娘じゃね?
妙なところで世間知らずというか、基準がいつもダンデでしかないし。
「まあ、ソニア博士がメガシンカを見せてくれましたからね。私のとっておきを出しましょうか」
「ヒードランにメガシンカときて、まだ何かあるの…………?」
ケラケラと笑うイロハの不穏な言葉に、ソニアが絶句している。
「ボルケニオン、おにび!」
そうして出されたポケモンはボルケニオン。
うん、だろうと思った。
「ッ!? な、なにこのポケモン………!」
「ラグゥ!?」
幻のポケモンだから、基本的に知られてないポケモンなため、当然ソニアも知らないようで、未知なポケモンの登場に驚いている。
ただ、それが隙となり、ラグラージが火の玉を浴びてしまった。
とは言え、目の前で一瞬にして生成されて躱せるわけがないのだから仕方ないところはある。
ボルケニオンも性格の悪いこと。
「ラグラージ、じしん!」
火傷状態になったラグラージは地面を叩いて激しく揺らしていく。
「ハイドロポンプで飛んで!」
だが、ボルケニオンはヒードランがかえんほうしゃで飛んだように、地面に向けて水砲撃を発射し、その勢いで飛んで回避した。
「やっぱり、そういう躱し方なんだね。ラグラージ、アクアブレイク!」
まあ、ソニアもそう躱すだろうと踏んではいたようだが。
落下してくるボルケニオンに向かって、水の刃を携えてラグラージが飛び上がった。
……………ボルケニオンの特性ってちょすいじゃなかったっけ?
「へっ?」
ほら、やっぱり。
無防備に水の刃を受けたと思ったら、そのままボルケニオンの体内に吸収されてしまい、ソニアもラグラージも目が点になっている。
見た目が赤く、初手でおにびを使っているため、ほのおタイプと認識したのだろう。
そしてハイドロポンプを見て、みず・ほのおタイプとまではいかなくとも、ほのお・ドラゴンタイプ辺りと読んで、取り敢えず空中で斬り込めるアクアブレイクを選択したって感じか。
まあ、近づいたが最後………ね。
「ふふん。ボルケニオン、アームで捕まえちゃって!」
案の定、ボルケニオンの二本のアームに捕えられたラグラージは、ボルケニオンと一緒に着地。
冷や汗をタラタラと流しているような顔のラグラージに対し、ボルケニオンが不敵な笑みを浮かべている。
うわぁ……………。
「連続でソーラービーム!」
………………エグい。
えげつないわ、こいつら。
ラグラージのメガシンカが解けるまで何度も何度もソーラービームが撃ち込まれていく。
火傷状態ってこともあって、ムッキムキな身体でもアームの締め付けからは脱出出来ないようだし。
南無三。
「………………ラグラージ、戦闘不能」
ダイゴさんがドン引きを通り越して恐怖を覚えてしまっている。
可哀想に。
「………………えげつないのう」
「容赦なさすぎ………」
「彼女は正しくハチマンの弟子だわ…………恐ろしい」
日差しが弱まったことでか、博士軍団にも影が落とされた。
「ラグラージ、戻ってゆっくり休んで」
ただ、ソニアは冷静なままなようだ。
「それで? そのポケモンは?」
「ボルケニオンという幻のポケモンらしいですよ」
『幻だか何だか知らねぇが、オレはオレだ』
「喋った!?」
「テレパシーが使えますからねー」
「マジかー………」
何気にイロハのポケモンってテレパシーで会話が出来るのが二体もいるんだよな。
イロハ大好きフリスキーのヤドキングも妙に饒舌だし。
いや、大好きフリスキーっていうよりストーカーというか変態か。
「伝説に幻にメガシンカ………これで四天王って…………」
「前任がチャンピオンよりも強い臨時の四天王でしたからね。これくらいのインパクトがないと見劣りしちゃいますから」
そもそも前任者とは系統が違うから、そこまで見劣りしないと思うんだけど。
というか一人だけ十代だから、四天王のアイドルとして新たな存在感を出してるんじゃないかと思ってるんだけど?
実際のところ、どうなってるのかはまだ聞いてないから知らないけど、イロハのことだからなー……………。
ただ、野太い声のファンは想像出来てしまう。
「チャンピオンより強い四天王っておかしくない………?」
「ほら、そのおかしな存在がそこにいるじゃないですか」
どうもおかしな存在です。
「えっ? あ、あー……………よかった、カロスがそんな百戦錬磨な地方じゃなくて本当によかった」
「俺を一体何だと思ってるんだよ」
「魑魅魍魎」
「百鬼夜行」
「悪鬼外道」
上からソニア、イロハ、ユキノである。
「お前らにまで聞いてねぇよ」
ソニアに聞いてるのに何でイロハとユキノまで加わってくるかな。
というかソニアの言い回しに合わせてすかさず似たような言葉が出てくるという、頭の回転の速さをこんな無駄なことに使ってんじゃねぇよ。
「皆さん、分かってませんね。お兄ちゃんはバカ、ボケナス、ハチマンですよ」
「ちょっとコマチちゃん? フォローになってないわよ?」
「何言ってんのさ。フォローなんか全くしてないからね?」
「尚悪いわ」
コマチがフォローしてくれるかと思いきやこれである。実の兄の扱いが未だにこれってどうなのよ。しばらく会わない内に大人になったかと思っていたが、なんてことはない。コマチはコマチである。
やっぱり人は早々変わる生き物じゃないな。
「大丈夫だよ。ヒッキーはヒッキーだから」
ユイが頑張ってフォローしてきた。
が。
「…………この場合、比企谷八幡と捉えるべきなのか、引き篭もりと揶揄されてると捉えるべきなのか」
「後者ね」
「後者だね」
「後者ですね」
さっきの三人でまた綺麗に三段活用みたいに言うのやめてくれる?
「あわわわ、そんなつもりで言ってないから! ヒッキーはずっと昔からヒッキーだよって!」
「うんうん、ずっと前から引き篭もりってことですねー」
「あーもー、なんでー………!」
コマチがうんうんと頷くとユイがわーわー叫び出した。
それは多分、ヒッキーという呼び方が悪いんだよなー………。
それに気付かないことには話は平行線を辿ることだろう。
なんてバカな会話だろうか。
「さーて、最後のバトルといきましょうか!」
「くぅ………意識しないようにしてたってのに。最後ってのは否定したいところだけど、くぅ………」
うっわ、すげぇ悔しそう。
遂にソニアの手持ちは残り一体になっちまったんだよな。
それに対してイロハのポケモンはバクーダとマフォクシーが戦闘不能になっただけ。しかもヒードランもボルケニオンも健在。
「どこまでやれるか、やってやるわよ! エモンガ、ほうでん!」
「ボルケニオン、スチームバースト!」
エモンガが無差別に放電すると、ボルケニオンは水蒸気を爆発させて電撃の起動を逸らした。
ちょっと自棄っぱちになってない? 大丈夫?
「いわなだれ!」
「こうそくいどうで躱して!」
そして、エモンガの頭上から岩々を落とし続け、エモンガはそれを高速に動き回って回避していく。
「10まんボルト!」
動き回って距離を詰めたところで、エモンガから電撃が迸る。
「うちおとす!」
それを食らいながらも、動きを止めたエモンガに向けて岩を飛ばして、地面に叩きつけた。
「ねっさのだいち!」
さらに追い討ちをかけるように地面から熱々の砂を噴き上げて、エモンガを打ち上げる。
「さあ、トドメだよ! ボルケニオン、スチームバースト!」
そこへ距離を詰めたボルケニオンが再び水蒸気を爆発させて、エモンガをソニアの方へと吹き飛ばした。
「エモンガ、戦闘不能! よって勝者、イロハちゃん!」
うん、やっぱりこうなるよな。
ソニアのエモンガがサポートに比重が置かれているため、伝説級を相手にするにはかなり難しかったことだろう。
それにステルスロックを解除するために、ダメージを受けてもいるし。
まあ、取り敢えずフルバトルを最後までやれたってだけでも大きいんじゃなかろうか。
それに加えてカロスの現役四天王にコールドで負けたわけじゃないんだし。バクーダとメガシンカしたマフォクシーを倒せているんだから上出来もいいところだろう。
というか、イロハの手持ちがエグいんだって。
「エモンガ、お疲れ様」
「ボルケニオン、お疲れー」
『そんな疲れてねぇよ。逆に目覚めの電撃って感じだったぜ』
そういやボルケニオンってこういう奴だったな。
エモンガの10まんボルトを受けて、眠気が飛んだくらいの感覚って、かなりヤバい奴だと思う。
お前、効果抜群だろうに。
さて、ソニアに感想でも聞いてみるかね。
「どうだ、ソニア。強かっただろ?」
「そうだね。バトルするとは思ってなかったから、今いる手持ちでのバトルだったけど、こっちが考えたプランが悉くパーになったよ」
「だろうな。イロハはバトルの腕以上に、ポケモンの技や交代のタイミング、出すポケモンや進化のタイミングで常にトレーナーに対して揺さぶりをかけてくるタイプのトレーナーだからな。相当やりにくい相手だとは思うぞ」
トレーナーとしての同期になるユイとコマチの三人の中では、一番成長速度が早く、全トレーナーの中でも二年目で四天王になったなんて事実は、世間一般的に言うと『天才』の部類に入ることだろう。
ただ、実際のところリーグ大会で四天王とかち合って敗北し、その負けた相手に直談判しに行くくらいの行動力と、そこから始まる扱きに耐えられなければいけないんだがな。
そして、自分の預かり知らぬところで既に始まっていた育成計画に乗っかれるかどうかというのもあるし、そもそも四天王に欠員が出たのがそもそもの始まりでもある。
結局のところ、実力に加えて運や相性もあるから、一概に天才とは言えないんだけどな。
というか、天才って言われる奴の背景なんて、大体そんな感じなんじゃないかとすら思ってるわ。
「ねぇ、普通そういうのを一人目に持ってくる?」
「これでもまだマシな方だろうからな」
「はっ?」
ただ、俺の身内の中で言えば、バランスよく育った方なんだよな。
ユイなんてめちゃくちゃ尖ってるし、ユキノはイロハより上だし、ハルノは魔王だし、ザイモクザなんて尖ってる以前の問題だし。
「ま、明日になれば分かるだろうよ。午前と午後で一戦ずつやるから、どんなバトルが来ようとも対策出来るようにしておけよ」
「本当にやるんだ…………」
「そりゃ、もちろん。イロハとバトルしただけでも結構気付きがあったように見えたんだけど?」
「そりゃ、そうだけどさ………」
「ダンデとのバトルを目指すなら、いろんなバトルを経験しておいた方がいい。そして、俺の身内はレパートリーが豊富だから打ってつけなんだよ」
ソニアの中での最強はダンデであり、目指すところもダンデと、バトルに関しては全てにおいて行き着く先がダンデなため、視野が狭くなっていると思うんだわ。
そして、俺とバトルしたところでソニアの中では、最強が増えるのみ。
多分、ダンデに対する認識は変わらないだろう。
だから、荒療治ながらも俺の身内と連戦させることで、バトルのレパートリーが増えて、ダンデの認識も変わってくると思っている。
もっと贅沢を言えば、ガラルのジムリーダーたちともフルバトルをしてもらいところではあるが、そこは今は保留ということで。
「あ、そうだ。現役ジムリーダーやチャンピオンたちの意見としては何かあります?」
折角この場に役職持ちがいるんだし、是非バトルの感想を言葉にしてもらわないと勿体無い。
「そうだね。ソニア博士のパーティーは何となく寄せ集めって感じがしたかな。所々いい読みのところもあったんだけど、まだ本来の実力を見れてない気がするね」
「私もダイゴ君と同意見ね。相手がヒードランにボルケニオン、そこにメガシンカを引っ提げてきたのを抜きにしても、本来の実力はもっと洗練されてそうとは思ったわ」
元チャンプのダイゴさんと現役チャンプのシロナさんは、ソニアの本来の実力がまだ出ていないと見ているわけか。
「だそうだぞ」
「あ、うっ………」
バトルに関してジムチャレンジ以降、褒められていないであろうソニアは赤面状態である。
「グリーンは………」
「………そうだな。オレはソニア博士よりもお前の後輩の方が気になるところがあった」
「というと?」
そっち?
「人心掌握したいのならば、もっと恐怖心を煽り立てろ。今のままでは生温い。もっと大胆に、もっと大袈裟に、やるからには全力でトレーナーの心を折りに行け。お前はジムリーダーじゃないんだ。育てる必要はない。圧倒的な壁であることを意識しろ」
うっわ、なんかえげつないこと言ってる。
「うぅ………はい………声が似てるから先輩に怒られてる気分………」
そして、イロハよ。指摘された感想がそれはどうかと思うぞ。似ているけども。
「ちょっとー? 俺の後輩を虐めないでくれますー?」
とは言え、萎縮したイロハを見るのも何なので、助け船を出してやった。
「過保護が過ぎると本人が痛い目に遭うぞ」
「今回はいいんだよ。甘いくらいで。やらなきゃいけない時だけ全力でやればいい」
「ふっ、そう上手くいけばいいがな」
いやいやいや。
今回に限っては心を折られちゃ困るから。
ソニアの心を折らない程度にしておかないと、トラウマを刺激しかねないんだよ。
「博士たちからは?」
「そうじゃのう。ハチマンの教育方針が恐ろしいってだけじゃな」
「いや、それは俺の教育方針じゃないから。俺のポケモンたちが異常過ぎて、全員が全員切り札になり得るってだけだからな。それを見て自分であの答えに辿り着いてるんだから、俺が教えたわけじゃない」
オーキドのじーさんと目が遭ったから答えを促したが、それは俺じゃないんだって。
イロハが勝手にそう答えを出しちゃってるだけなの。
「ククイ博士はどうじゃ?」
「うーん、ソニア博士が本来の実力を出せるのってガラルでじゃないのか?」
………………………確かに。
カロスだとダイマックス使えないもんな。
俺がワイルドエリアとかで拾ったメガストーンを渡してあったからメガシンカが使えるようになっているが、それがなかったら制限されてるようなもんだからな。
これはちょっと俺の思いつきの反省点だわ。
場所をガラルに移してからの方が良かったかもしれない。
「いえ、恐らくダイマックスが使えていたとしても、彼女には勝てなかったと思います」
「ストイックだねぇ………」
本当に。
何で妙にそういうところはストイックなんだよ。
いやまあ、だからこそポケモンバトルから離れていても実力が高いままだったんだろうけども。
「ま、それならそれで制限された状態で俺の身内にどこまで食らいつけるかってところだな」
「あーあ、ソニアさんがどんどん魔改造されちゃってくよ」
およよ、と泣き真似をするコマチ。
「魔改造ねぇ………」
そうなると俺が今やろうとしてるのは、『ソニア魔改造計画』ってところか?
…………ザイモクザが喜びそうなネーミングだわ。