会議の翌日。
オーキドのじーさんはラジオ番組のため、グリーンを引き連れてカントーへ。二人の後ろ姿は祖父と孫のそれだった。
ナナカマド博士も講演会のため、久しぶりに里帰りするムーンと一緒にシンオウへ。こっちも手を繋いでる後ろ姿が祖父と孫のそれ。血は繋がってないらしいのに。
オダマキ博士は、ブルーベリー学園への分布調査の申請を出すために、アララギ博士らとともにイッシュへ。動いてる方が性に合ってるというオダマキ博士らしい行動力である。
ウツギ博士は次の会議があるらしく、クリスさんを連れてジョウトへ。言っちゃ悪いが、ひっそりといなくなってた感が否めない。
ナリヤ博士は早速リージョンフォームのポケモンを探すとかでパルデアへと、それぞれがそれぞれの理由で行ってしまった。
残ったのはカロスを本拠地にしているプラターヌ博士と、メガシンカした状態でダイマックスする検証に同行するククイ博士、それに旦那が残るため一緒に残るバーネット博士と、暇人なチャンプたちである。
ダイゴさんが残る理由は聞いているのだが、シロナさんは本当にただの暇人な気がしてならないのは俺だけだろうか。
まあ、面倒を見るのはプラターヌ博士なので、どうでもいいんだけど。シロナさんも何やかんやであの変態に絡みに行ってるし。
「ふぁ……あ、おはよ……ハチくん………」
プラターヌ研究所にあるフィールドでぼーっとしていると、後ろからあくびを隠す気もないソニアが現れた。
「おはようさん。眠そうだな」
「そっちもなんかやつれてない?」
「まあな」
「何かあったの?」
何か、ねぇ。
あったにはあったな。
昨晩、イロハに勝ったご褒美として添い寝をさせられ、添い寝で済むはずもなく朝方までプロレスごっこやってたから、眠気がヤバい。
「頑張ったご褒美下さいってイロハに迫られ、精魂尽き果てるまで吸い取られた」
「朝からなんて話してんのさ!」
それを簡潔に伝えたら、ソニアが顔を赤くするというね。
意外とこういう話に耐性ないのね。
ルリナなんかしれっとしてるのに。
「いや、そっちが聞いてきたんだろうが」
「そんな話だとは思わないじゃん、普通!」
「ばっかばか、こんなの序の口だぞ。昨晩がイロハだったってことは、今晩は…………ああ、想像しただけで恐ろしい」
恐らくだが、イロハと添い寝した以上、他の三人にも同じことを要求されることだろう。
ザイモクザ?
知らんな。
あいつはバトルを楽しめたらそれでいい口だし大丈夫だろ。
「あら、よく分かってるじゃない。今日は私とユイがソニア博士とバトルするのだから、イロハだけ特別に、なんてことはないわよね?」
「怖い怖い怖い。朝からなんでそんな迫ってくるんだよ」
予想を立てた瞬間にこれである。
背後から気配を消して現れるじゃありません。
「おはようございます、ソニア博士」
「え、あ、うん、おはようございます………」
淡々と挨拶をするユキノに、ソニアの方がしどろもどろになっている。
「…………………昨日の白衣姿とは打って変わって、今日はカジュアルですね」
「窮屈なのは苦手なので………」
指摘するとこ、そこ?
というか、ソニアのイメージってこういう肩出しニットにミニスカートとか、そういう露出ありの服装だったから、違和感を覚えることも意外性すら感じることもなかったのだが、ユキノにとっては想像と違ったみたいだな。
まあ、博士って肩書きが硬いから、勝手に硬派なイメージを持っていたのかもしれない。
「………………」
って、お前らそれで会話終了かよ。
ソニアのコミュ力お化けはどこに行った?
「ゆっきのーん!」
するとこの沈黙をぶち壊すようにユイがユキノに飛びついてきた。
流石ガハマさん。
空気を読むのも壊すのもお手のもの。
というかタイミング良すぎね?
「うっ、ちょ………ユイ、あなたね………」
「準備出来たよーって、ソニアちゃん。やっはろー」
口では離せというニュアンスを出しているものの、手は逆に抱きついたユイの手に重ねている。
おまえ、まだそんな感じなのかよ。ユイにはいい加減、慣れなさいよ。
「や、やっはろー………」
「今日はよろしくねー! 負けないから!」
「あ、うん………」
そして、ユキノとはそんな身体のやり取りをしながら、ソニアを勢いで圧倒するというね。
マジすげぇわ。
そして、俺にどうにかしてって視線を送ってくるのはやめてくれませんかね、ソニアさん?
動きもカッチカチじゃん。
そんなに緊張してるのかよ。
さっきから会話も動きも硬い理由がようやく掴めたわ。
「…………流石に昨日のイロハみたいなことにはならんだろ。あいつは四天王で、こっちはジムトレーナーだし」
「ジムトレーナー………。ハチくんの周りって………」
昨日も紹介したとは思うのだが、恐らく緊張していて頭に残っていないのだろう。
まあ、改めて並べてみると凄いことではあるが。
ユキノシタ姉妹が俺の後を引き継いで、カロスポケモン協会の理事と副理事。
ユイがシャラジムのジムトレーナー。
イロハが四天王。
コマチは化石研究所の名誉職員らしいし、ハルノが副理事ってことはメグリ先輩はその補佐をしているだろうし、フリーなのってトツカとザイモクザとシズカさんくらいか?
「あら、ジムリーダーより強いって枕詞が付くけれどね」
「ん? どゆこと?」
あ、そうね。
そこ大事だったわ。
結局、挑戦者に対して最高何連勝してるのだろうか。
ジムトレーナーになってから挑戦者相手に初めて負けたのが、何食わぬ顔でやって来たダイゴさんだったしな。しかもユイはバトルが終わってから指摘するまで気付いてなかったし。
「そのままの意味だ。かくとうタイプのシャラジムでジムトレーナーやってるんだが、そこのジムリーダーであるコルニよりも強い。逆にユイを倒せれば、コルニは楽勝とは言えないが、攻略の糸口は見つけられてるだろうな」
「ふふん、もうそんな簡単な話じゃないんだよ。ヒッキー、遅れてるぅ」
ん?
どゆこと?
そんなドヤ顔で胸を張られても、胸しか強調されてなくて、俺の目もそっちに引き寄せられちゃうんだけど?
万乳引力だわ。
「なに? また何かやらかしてんの?」
「ちっがうよ! あたしじゃないし! コルニちゃんだよ! 昨日、ルカリオのメガシンカに新しいのがあったでしょ? コルニちゃんはあっちも使えるんだよ!」
あー、なんかちょっと色が薄くなったルカリオがいたな。
メガルカリオZだっけ?
「マジかよ。ジムトレーナーがメガシンカ使ってくるってだけでもヤバいのに、ジムリーダーが二種類のメガシンカのどっちを使ってくるか分からないなんて、難攻不落過ぎじゃね?」
「ユイがジムトレーナーになってからは西のシャラ、東のエイセツなんて言われていたけれど、最近ではシャラジムの一強状態よ」
「わーお」
俺の記憶にあるのが、西のシャラ、東のエイセツって頃なのに、そこからさらに一強にまで躍り出てるとか、やべぇなシャラジム。
「だそうだぞ、ソニア。がんばれー」
「ねぇ、ハチくんバカなの? 一強状態の最強のジムリーダーより強いジムトレーナーって、それ最早四天王レベルじゃん!」
…………………。
四天王レベル?
ユイが?
どうやらユキノも同じことを思ったのか、俺と同じようにユイを凝視している。
「「確かに」」
「ほえ?」
なんてこった。
言われてみれば、そういうことになるじゃねぇか。
うっわ、こっわ。
マジかよ。とうとうユイも四天王レベルに足を踏み入れちゃってるのかよ。
「ユイ、よかったわね。あなた、実は既に四天王クラスの実力になってるみたいよ」
「そーなの?」
「ソーナンス」
…………………。
誰だ、今くだらん返しを入れて来たやつは。
てへぺろじゃないのよ。
俺しかお前の方に身体を向けてないから誰も気付いてないだろうけど、俺からはしっかり見えてるんだからな? いろはす?
「…………ちなみになんだけど、カロスのチャンピオンって伝説のポケモンとか連れてたりする?」
「いないわね。四天王に空きが出来て、暫定的に四天王の座に就いた誰かさんに、コテンパンにされていたもの」
「チャンピオンをコテンパンにする暫定四天王………」
ユキノが俺に視線を流してくるため、ソニアも暫定四天王が俺ということを理解したらしい。
だからってそんなドン引きするなよ。
「アレは俺が悪いんじゃない。メガシンカを失ったのに何故か強くなってたリザードンと悪ノリしたゲッコウガが悪い」
「なら、そんな風に育てたあなたの責任ね」
「そんな風に育てた覚えはないんだけどなー………」
「ねぇ、待って? それって二対二ってことだよね?」
「あー…………フルバトルでゲッコウガが悪ノリして最後だけリザードンに譲ったんじゃなかったっけか?」
それでも結構ボロボロになってた記憶はあるし、六枚抜きしてるリザードンの真似は出来ないって言ってたような気もする。
「ハチくんはもう化け物としても、イロハちゃんってチャンピオンクラスなのでは?」
「おいちょっと?」
どうやらソニアの脳内で情報の処理を拒否されたらしく、俺のことは化け物の一言で片付けられてしまった。
「まあ、ヒードランにボルケニオンがいますからねー」
「ひぃ!?」
だが、それを好奇とばかりにイロハがソニアの背後から耳元で囁き、ソニアが思わず肩をビクンと振るわせている。
こいつ、昨日で味を占めたな。
あんまりソニアで遊ぶなよ。
「あ、イロハちゃん。それにコマチちゃんも」
「皆さんに声かけて来ましたよー」
「コマチが、ですけどね!」
「ふふん、働け後輩」
「嫌だー、ウザさ加減がお兄ちゃんそっくりだー」
イロハの後ろからは追いついてきたコマチが、イロハに文句を言っている。
兄妹揃ってイロハの使いっ走りにされているのだろうか。
やだなー、コマチはどんな弱みを握られたんだよ。
「あ、せーんぱい。聞いてくださいよー。お宅の妹が生意気なんですよー」
「ばっかばか、生意気なコマチとか俺が見てみたいわ」
「うっわ、朝からごみぃちゃんがゴミ発言してる」
「今日、可燃ゴミの日でしたっけ?」
「生憎、不燃ゴミの日ね」
「ダメかー………」
「おい」
こいつら、俺のことを生ゴミ扱いしてるぞ。
いつものことではあるが、相変わらずのこの扱い。
まあ、大体言い出すのはコマチかユキノではあるが。
「………ソニア、どした?」
ジムトレーナーに加えて四天王に名誉職員も現れ、何を思ったのか顔がみるみる青くなっていっている。
「どうしてハチくんも含めて肩書きと実力が一致してないのさ!」
「肩書きを気にしてないからじゃね?」
四天王だから偉いんだぞ、とか、一強のシャラジムの一角を担うジムトレーナーだぞ、とか、全く思ってないだろうしな。
俺なんか肩書きが増える度に、面倒事がさらに増え続けていくイメージしかないため、ない方がいいまである。
「そうね。特に肩書きを名乗ったところでお得感はないもの。理事としての報酬もそんな高くしてないくらいだし」
「ジムトレーナーだからって何かが無料になるわけじゃないしねー」
「四天王も報酬はいいですけど、その分責任が重くのしかかってきますしねー。チャンピオンなんてとてもとても」
「化石研究所の名誉職員なんて、ただのユキノさんとの予算調整要員でしかないですしね。あと、おじさんたちばっかりなので、偶に顔を出すと申請書と一緒にお菓子くれたりしますよ」
ほら。
いや、てかコマチ。
お前、オタサーの姫なの?
「うぅ………なんかハチくんがいっぱいいるよぅ………」
四人の返しを受けてソニアが頭を抱え出した。
「逆に聞くが、博士になってふんぞり返ったことあるか?」
「ないよ。あるわけないじゃん、烏滸がましい」
だよなー。
ソニアならそうだと思うわ。
「だろ? 俺たちもなったからには仕事をするが、傘に着るつもりはないってことだ。まあ、コネくらいは遠慮なく使わせてもらうがな」
現に俺は今、コネを使いまくっていることだし。
「あなたの場合、コネをこねくり回してるのが現状でしょ?」
「誰が上手いこと言えって言ったよ」
俺の思考を読んだかのようなことを言うな。
「コネの轆轤回し」
「ロジカルシンキングで論理的に考えてモノを言いなさい」
それとその手はやめなさい。
「コネコネするの?」
「お前が言うと色々とアウトだわ」
無意識なのだろうが、胸を寄せるのはやめい。
「お兄ちゃんは女の子をこねくり回してるからなー」
「おい、妹よ。それ以上言うとお前の頭をこねくり回すぞ」
ガシッとコマチの頭を掴むと大人しくなった。
コマチ、朝っぱらからそれ以上はよくないぞ。
「………ハチくんたちって単語一つでよくここまで言葉をこねくり回せるよね」
「「「「「おおー」」」」」
「えっ? なに?」
いつまでこねくり回してのよ! くらい言われるかと思ったら、まさかの最後に持っていかれてしまい、全員がソニアに感嘆している。
全員地頭はいいからなー。
アホの子と思われてるユイもちゃんと基礎が出来れば、理解出来る頭を持っているし、こういう言葉遊びには若干路線が違っても入ってこれるし。無自覚なところも大いにあるだろうが、無自覚で出てくる返しの元となる引き出しはやはり地頭ってことになるだろうしな。
俺としてはユイよりもイロハの方が意外ではある。
こいつ、何だかんだで学力も高く、そこから導き出される立ち回りのけいさんは俺やユキノでは真似できないようなのも大いにあるくらいだ。
目立つ天才肌というよりは、しれっとやってのけている天才肌と言ったところだろう。
で、そんな俺たちに置いてソニアが最後に持っていっちゃったもんだから、皆して感嘆していると言ったところではないだろうか。
「朝から賑やかだねぇ」
一連の流れを見ていたのだろう。
ダイゴさんが笑いを堪えながらこっちにやってきた。
「ダイゴさん……と、シロナさ……ん………?」
「みんな、おはよう」
ダイゴさんの後ろからシロナさんもやってきたのだが、その肩にはダメな大人が担がれていた。
何やってんだよ、変態。
二日酔いか?
「おざます…………その担いでるのは?」
「二日酔いの兄弟子よ」
「いや、それは見れば分かりますけども。何でまたシロナさんが………というか寝かせとけばいいのでは?」
態々連れてくることもなかったのではなかろうか。
一応、ここの家主なのだし、好きにさせておいても問題ないと思うんだが?
「あー、酔いが覚めて正気に戻った時にいじるためらしいよ」
「だって、普段余裕な態度の先輩があたふたしてる姿が可愛いんだもん」
うわぁ……………。
なんだこの現役チャンピオン。
兄弟子に対して容赦ねぇ。
いいぞ、もっとやれ。
「だもん、じゃないでしょうよ。酩酊状態になるまで飲ませた挙句、婚姻届に名前を書かせようとするとか…………」
ただ、ダイゴさんは昨夜も付き合っているのか、シロナさんのヤバい行動が暴露されてしまった。
何やってんの? この人。
「あら? 私の名前は書いてないのだから、ただ婚姻届に先輩が名前を書いただけじゃない」
「酩酊過ぎてまともな字が書けなかったのが、せめてもの救いだよ」
「そうなのよねー、残念だわ」
それはどっちの残念なのだろうか。
怖くて聞けない。
というか、この変態に対してそういう感情持ってる系?
それともただただ玩具にしてるだけか?
全く読めなさすぎて恐ろしさしか感じないわ。
「婚姻届にサイン………」
「おい、イロハ。今度俺にやってみようとか考えてるだろ」
「やだなー、そんなわけないじゃないですかー」
嫌な予感がしてチラッとイロハを流し見ると、何かを考え込んでいたため、先に忠告すると目を逸らしやがった。
逸らした時点で考えてましたって白状したようなものなのに。
「分かってるとは思うが、ヒキガヤハチマンは死人なんだから婚姻届に名前を書いたところで受理されないどころか、結婚詐欺を疑われるぞ?」
「しまった………! 思わぬところに落とし穴が………!」
根本的に無理であることを指摘すると、最早隠す気もないのか、平然と落ち込み始めた。
ったく、そんな紙切れに頼らなくてもお前らを離す気はないってのに。
落ち込むイロハの耳元に顔を寄せて囁いてやる。
「あと、朝方までお前に婚姻届以上のもんをぶちまけただろうが」
「っ………!」
ビクンと肩を振るわせると、みるみる顔が赤くなっていき、フラフラと砕けていき、横にいたコマチが咄嗟に支えてくれた。
お前、よく喧嘩してる割にはイロハのこと大事にしてるよな。
よく分からんわ、こいつらの関係は。
「あ、イロハちゃんが撃沈した」
「お兄ちゃん、何言ったのさ」
「別に。紙切れよりも大事なもんがあるだろって話だ。なあ、トツカ」
「えっ? 僕に振る?」
「うぁ!? サイカ君、いたの?!」
「うん、今来たところ。ザイモクザ君がいっぱい食べるから、食べ終わるのを待っててさ」
コマチはまだ気付いていないようだったので、遅れてきたトツカに話を振ると、案の定コマチは驚いている。
「ーーーーー」
「っ…………!」
おっと、トツカがコマチに何かを囁いたら、イロハと同じように顔が赤くなって茹で上がっていくぞ。
トツカはこう見えてイタズラ好きだからなぁ………。
特にコマチに対しては遠慮がないというか、妙に艶かしさすらある。
「うわぁ…………」
「何だよ」
茹で上がった二人を見て、ソニアがドン引きしている。
「二人ともタチ悪いなーと」
二人ともって何だよ。
それ、俺も含まれてんの?
ただなー、俺にはソニアもコマチみたくされそうな気がしてるんだよなー。主にダンデとかダンデとかダンデとかに。
「言っとくけど、お前もその内やられると思うぞ?」
「は? 誰に?」
「さーて、バトルしようぜー」
「ちょっとー? ねぇ、ハチくん?!」
まあ、今は言わないでおいてやろう。
ダンデは筋金入りのバトルバカではあるが、事ソニアに関しては徹底してるところがあるからな。
聞いた話では、チャンピオンになってからというもの、一度も浮いた話もなく、スクープすらされてないのだから、かなり徹底してると思う。
それでいて本心はかなりドロドロとしたものを抱えており、それがソニアに向けて解放された時、どうなるかなんて確認するまでもない。
「イロハ、起きなさい。あなた、仕掛けるくせに返り討ちに遭いすぎよ」
「うぇ!? 何するんですかー、ユキノせんぱーい」
ユキノにかなり強めにデコピンされて起こされるイロハ。
何気にコマチがデコピンしやすいように支えている辺り、ユキノには従順なんだよなー。
まあ、イロハはあいつらに任せるとして、午前の主役には一言言っておかないとな。
「ユイ、思いっきりやっていいからな」
「え? うん、別に手加減するつもりないというか、フルバトルで手加減ってどうやればいいの?」
「そうだな。お前の手加減の仕方って、相手六体に対して一体でとか、数の不利でしか出来ないんだったな」
「むー、バカにしてぇ」
うん、可愛い。
ぷくぅっと膨らませた頬を顎の下から片手で掴んでパフパフするとモチモチな肌だった。
触り心地がマジ気持ちいい。
「してねぇよ。お前は何事にも全力でやりゃいいんだよ」
「なら、勝ったらご褒美もらうからね!」
「へいへい」
撫でろと催促してくるので、頭も撫でてやる。
それにしてもこいつが四天王級のトレーナーねぇ………。
トレーナーに成り立ての頃は、思い描くようなバトルを上手く組み立てられなくて同期になるイロハにもコマチにも負けてたというのに。
「なに? どしたの?」
「いーや、別に。強くなったんだなーと思って」
「えへへへへ。でも昨日のソニアちゃんも強かったよ?」
「現役ガラルチャンピオンの基礎を作ったような奴だからな。ソニア自身もかなり実力はあるんだが、いかんせん過去のトラウマやら思い込みのせいで存分に力を発揮出来てないんだよ。だから一度コテンパンに負けてダンデ意外にも強い奴がいるってことを教えてやってくれ」
「やれるか分かんないけど、全力でバトルしてくるよ!」
「おう」
ユイもてててててーとバトルフィールドのトレーナーの立ち位置まで行ったことで、両者向き合う形になった。
「それでは、ソニア博士とユイちゃんのバトルを始めるよ。ルールは昨日と同じでフルバトルの技は無制限、交代も自由。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になったらバトル終了。オーケー?」
「はい、大丈夫です」
「オッケーでーす」
審判は昨日と同じで暇人ーーーもといイケメン御曹司が努める。
ダメな大人とシロナさん、略してダメナさんたちはベンチを占領し、変態を膝枕している。
うわぁ、目を覚ました時からいじるつもりだ、あの人。
あっ、しれっとハルノとメグリ先輩、それにシズカさんも来てるわ。
「いくよ、スコーン!」
「キラフロル、初陣だよ」
ユイの最初のポケモンは赤いルガルガン。
対するソニアのポケモンは…………。
「何あのポケモン。俺知らないんだけど。なんか新規で発見したメガシンカの中にあんなのいたような気はするが」
「最近、ミアレのポケモンの生態系というか、ポケモンの種類が増えてるんですよ」
「へぇ………」
長らくいないから、今のミアレがどうなってるか知らないな。
「「ステルスロック!」」
「へぇって。大都会の街中に野生のポケモンが増えてるのよ? 結構な大事よ?」
「まあ、野生感たっぷりの奴らが跋扈してるっていうなら、危険度が増した街になっちゃってるんだろうが…………」
街中にポケモンがいること自体は珍しくもないともないだろうに。
あ、お互いに無数の尖った岩をばら撒き始めた。
「なってきてるのよ」
はっ?
「マジで?」
「マジです。まだ一部のエリアですけど、あのキラフロルを含めて、今までカロスで発見されていなかったポケモンたちが増えてきてるんですよ」
「怖い街になったもんだ………」
えぇ………。
ってことは、エリアによっては人工密度よりもポケモンの密度の方が優っている場所があるってことだろ?
ヤバくね?
「で、ソニアはどこで捕まえたんだろうな」
「さあ? 会議に来る前に空から降ってきたとかじゃないですか? それか別の地方でとか」
んな、適当な。
あのポケモンが空から降ってきたらミサイルかと思うぞ。
「キラフロル、キラースピン」
キラフロルが花のように開花し、高速回転しながら突っ込んでいき、ついでに毒を撒き散らしていく。
何あの技。
毒を撒き散らすとかヤバくね?
しかも回り始めの時点でソニア側の尖った岩が衝撃で粉々に砕かれちゃってるし。
「カウンター!」
だが、ユイも負けじと対抗している。
高速回転しながら突っ込んできたキラフロルを殴りつけた。
ただ、どうやらルガルガンは毒状態になってしまっているらしい。
撒き散らされた毒でも浴びたってことか?
「えっ?」
すると殴りつけられて押し返されたキラフロルの身体から、紫色の菱形のようなものが無数に飛び出してきた。
どくびし………かなぁ?
えぇ………怖っ。なんてポケモンを仲間にしてるんだよ。
「キラフロル、交代だよ」
そんなキラフロルをソニアはあっさりと交代させてしまった。
「マッギョ、じしん」
代わりに出てきたのは平たいポケモン、マッギョ。
ここから見た感じトゲトゲ感がないため、恐らくでんき・じめんタイプの方。
地面に何かいるな、程度にしか認識出来ないくらい、厚みがないように見える。
コイキングの方が余程自己主張が強いと言えよう。
「スコーン、ふいうち!」
マッギョが地面を激しく揺らすも、不意に一気に距離を詰めたルガルガンが地面を殴りつけた。
「そのまま10まんボルト!」
ソニアが間合いに入られた時のことも考えていたのだろう。
一撃入れられても離れる前に電撃を浴びせて、タダでは返さないつもりだ。
「ルガゥ!?」
さらに毒に蝕まれ、苦しんでいる。
「マッギョ、あまごい」
その隙に雨雲を呼び出し、雨を降らせた。
「スコーン、じならし!」
地面を叩いて揺らし、離脱するルガルガン。
「なみのりで流して」
それを波を起こして乗り上げることで揺れを回避し、同時に水流でルガルガンを飲み込んでいくマッギョ。
うーん、やっぱり戦術面においてはソニアの方に分があると見ていいだろう。技の順番や組み合わせ、攻防一体の使い方まで、ソニアはバトルというものを熟知しているように見える。
ただ、ユイの恐ろしいところはそこじゃない。
「シャドークロー!」
効果抜群の技を受けてもそう簡単には倒れないしぶとさと、すぐに切り替えて反撃してくる攻撃型なところだ。
ややこしいことを考えるとそれだけ判断のタイムロスが生まれるから、本能的に判断した方がよく、そこに注目したコルニがジムトレーナーに誘ったことで、一撃の重さに比重を置いたバトルが確率した。
「マッギョ!?」
陰から伸びた爪に驚く野太い声。
これ、ソニアじゃなくてマッギョの声なんだよなー。しかもマッギョの鳴き声ってマッギョらしい。
「マッギョ、ねっとう!」
「かみなりパンチ!」
そこへ熱湯を吹きかけ、それを電気を纏った拳をぶつけて分解していく。
多分、ユイはその辺の理論的なことは理解していないだろう。恐らく、過去に俺たちがそういう感じの方法で水をやり過ごしてたりしてたから、同じようやっているだけだと思われる。
「スコーン、じならし!」
「マッギョ、じしん!」
揺れに揺れが重なり、二体ともが揺れに呑まれて倒れていく。
「ルガルガン、マッギョ、ともに戦闘不能!」
最初は相打ちで決着か。
ユイが気付いているかは分からないが、見せたポケモンの数で言えば、ソニアの方が一体多いものの、そのポケモンがあのキラフロルなため、却って対策を考えないといけないという情報戦までソニアは仕掛けている。
本当にバトルするために準備してくるだけでこうも変わるとは。
「マッギョ、戻ってゆっくり休んで」
「スコーン、お疲れさまー。ゆっくり休んでねー」
相打ちということで二人ともまだ焦った様子はない。
「昨日とはなんか違うね」
「そりゃあね。昨日は手持ちにいたポケモンでバトルしただけだから。ユイちゃんも入れてあと四人とバトルするって言われたら、パーティー編成も考えてくるよ」
それでちょっと寝不足らしいが、バトルの内容は今のところそれを感じさせてはいない。
「ん? それって一晩で四戦とも編成を考えてきたってこと?」
「そりゃ、もちろん。じゃないと三試合、四試合って感じに連戦する子も出てくるじゃん。それじゃ疲労が溜まって実力を発揮出来ないだろうし、連戦ってなったらターンオーバーも考えて編成するのなんて当たり前でしょ? というかトレーナーとしてそれくらい出来なきゃ、いざチャンピオンとかになったら、すぐにポケモンたちが潰れちゃうよ」
「そっかー、あたしそこまで考えたことなかったや。一日に来る挑戦者の数なんてそんなにいないから、連戦になることもそんなになかったし」
いや、そもそもそんなことまで考えてる奴は中々いないと思うぞ。
というか今でもチャンピオンを狙ってるのか? って言葉なのだが?
恐らく、この考えは昔から染み付いている感覚なのだろう。トレーナーとしてずっと歩んでいたら、いつチャンピオンの座に巡り会えてもいいようにしていたってことだろうし、ソニアならやりそうな話ではある。
「あっはっはっはっはっ! ソニア博士って真面目すぎー」
「ハルノ、笑い好きだ。ソニア博士の言う事は最もではある。だが、それを有言実行出来るトレーナーがどれだけいるかって話だな」
「まあ、ポケモンがたくさんいないと出来ない話ではあるけどねー」
「それでも博士に転身した人の口から出た言葉とは思えませんよ。すごいなぁ」
ハルノが大笑いということは、結構気に入ったのかもしれない。
シズカさんも長年の教師生活の観点から指摘しているし、メグリ先輩も感心している。
「えっ? わたし何か変なこと言った?」
ただ、当の本人は何を笑われて、何を納得されているのかを理解していないみたいだが。
はぁ………こういうところなんだよなー。
かつてのジムチャレンジでのトラウマにより自信を失くしたソニアは自己評価が低い上に、基準が全てダンデなため、世間一般的な感覚とはかけ離れているという自覚がない。
この連戦で少しはその感覚が矯正されるといいのだが、どうなることやら。
「いや? 別に変ではねぇよ。ただ、そんな考えが出来てる時点で、チャンピオンになったその先すらも見据えてたんだなって話だ」
「夢くらい見たっていいじゃん。十年も前の話なんだし」
ということは、ちゃんと十年前にはチャンピオンを目指していたわけだ。
「………ハチマン、彼女のあの思考回路は何なの? とても研究者の思考回路とは思えないのだけれど」
「だから言っただろ? あいつの幼馴染が現役チャンピオンで、そいつのバトルの基礎を作ったのがソニアだって」
「いや、でも、それにしたってあれは………」
隣に立つユキノがソニアの思考回路に困惑していた。
ソニアのアレがどういうものなのか理解しちゃったのだろう。
そういえば、さっきソニアは俺たちのことを肩書きと実力が一致していないとか言っていたが、まさにブーメランである。
「だからだよ。あの才能を眠らせておくのは勿体無い。それで食っていけとは言わないけど、バトルが出来る博士たちの中でも群を抜いてバトルが強い博士ってなれば、あいつの武器になるだろ?」
「過保護だこと」
「そんなんじゃねぇよ。これは例の件のシミュレーションでもあるんだ」
「ッ!?」
ユキノだけは専門タイプを増やしておけって話がバトルフロンティア構想であることに気付いているからな。
例の件って言えば伝わったようで、こめかみを押さえている。
可愛いから撫でておこう。
「よーし、次いくよー! マーブル、お願い!」
「サダイジャ、撒き散らしなさい」
「ドゥ……ッ!?」
ドーブルが地面に着地すると同時に尖った無数の岩と紫色の菱形がドーブルを襲った。
「すなあらし」
さらにサダイジャが砂を吐き、砂嵐を巻き起こしていく。
ステルスロックのダメージに毒状態、さらにすなあらしって…………お前マジか…………。
「エグいわね」
「それな」
今日のソニアはガチだわ。
ユイ、頑張れよー。
「マーブル、こうそくスピン!」
「サダイジャ、とぐろをまいて躱して!」
高速回転しながらサダイジャに突っ込んでいくも、とぐろをまいて躱され、一周して戻ってくるドーブル。
「リフレッシュ!」
そして、その間に自ら解毒して毒状態からも解放。
うん、ちゃんとこういう対応も出来るようになってるんだな。感心感心。
とはいえ、砂嵐だけは掻き消せていないため、ダメージが入っているが。
「サダイジャ、いわなだれ」
動きを止めたドーブルの頭上から次々と岩が落下してくる。
「躱してにほんばれ!」
そんな軽く躱せたっけ? と思ったら、こうそくスピンで素早さも上がってたから、ひょいひょい躱せているわ。
そして、岩の上で砂嵐を吹き飛ばして日差しを強くした。
すげぇな、ドーブル一体で全てを書き換えたぞ。
「じしん!」
サダイジャが地面を叩き、激しく揺らしてくる。
「でんじふゆうで躱して!」
だが、それを磁石の要領で磁場を使って浮遊状態になり、揺れを回避した。
いやー、流石ドーブル。
スケッチであらゆる技を覚えられるから、しっかり使えるようにしておけば、技のデパートになる貴重なポケモンだわ。
多分、ここまで細かく覚えさせたのはユキノやコルニなんだろうな。
「サダイジャ、アイアンテール」
こうなってくると地面を揺らしても岩を落としても躱されるのがオチであり、それが分かっているからか、ソニアはサダイジャに直接攻撃させ始めた。
「まもる!」
それでもユイにはよくあるパターンなのかもしれない。
焦ることなく防壁を張って受け止めーーー。
「からのソーラービーム!」
防壁をぶっ壊しながら太陽光を集めた光線を撃ち放った。
「ッ、とぐろをまいて躱して!」
何とかとぐろをまくで躱したサダイジャであるが、本当にギリギリといった感じである。
「あっぶな………サダイジャ、ストーンエッジ!」
どうやら直接攻撃は危険と見たソニアは、離れたところからの攻撃に戻してきた。
「マーブル、横に躱して!」
地面から次々と突き出す岩々は直線的なため、タイミングを見計らって横に躱せばなんてことはない。
「ボディプレス!」
ただ、そう躱されると予想して動いていれば話は別だ。
左右どちらに躱すのかさえも読み当てたソニアは、ドーブルの頭上からサダイジャを落下させていく。
「こうそくいどう!」
本当にユイのドーブルに攻撃を当てるのは至難の業かもしれない。
決定打こそ、ドーブルにはない………こともないが、今のところユイの方から攻撃に転じることはしていないため、ソニアとしては攻撃し続けていればいずれ当たると思っているだろうが、ここまで見事に躱し続けるのは、職人芸と言っても過言ではない。
ダメージらしいダメージは砂嵐と毒とステルスロックだろう。
「よし! マーブル、こころのめ!」
ッ!?
ついにユイが攻撃に転じたわ。
「何してくるか分からないけど、サダイジャ! へびにらみ!」
ソニアは様子見でドーブルを麻痺させてきたが、最早それすらも意味をなさないだろう。
「ぜったいれいど!」
ほら、やっぱり。
「ッ!? ステルスロック!」
咄嗟に無数の尖った岩を撒いたが、次の瞬間には全身氷付けになり、気絶させられていた。
まさに一撃必殺。
だが、サダイジャの残した置き土産はステルスロックだけじゃなかった。
特性すなはきによる再度の砂嵐。
さらに時間切れとなり、浮遊効果がなくなっている。
「サダイジャ、戦闘不能!」
いやー、それにしても恐ろしい。
何が恐ろしいって、ぜったいれいどが効果を発揮したということはドーブルの方が実力が上というわけであり、ある意味サダイジャはドーブルに踊らされていたと言ってもいいかもしれない。
惜しいのはこの場にグリーンがいないことだな。グリーンがいればポケモン図鑑か何かでレベルとやらを測定出来ただろうに。
まあ、ダークホールとかも覚えてるようなドーブルだもんな。そこら辺にいるドーブルと一緒にしちゃいかんよ。怖い怖い。
「サダイジャ、ご苦労様」
「………ねぇ、もう一つの意図ってソニア博士を挑戦者に見立てて、ブレーンである私たちがどう戦うのかのシミュレーションだったりする?」
するとユキノが小声で確認してきた。
「ああ、正解だ。あと、どこまで段階的にぶつけていけば根を上げるかってのも見てるかな」
「本人たちの預かり知らぬところでそんな査定をされてるなんて、いい気分ではないわね」
「悪いな。俺もまだ頭の中でイメージはあっても、実際にどうなるのかは見通せてないんだ。その点、ソニアはジムリーダー以上の実力があるし、下手したらチャンピオン級に化ける可能性が高い。だから挑戦者としては打って付けで、お前らとの連戦が終わったら、今度はガラルでジムリーダーたちとの連戦を予定しているんだわ。しかもあいつにジムリーダー試験も受けさせようとその手配もしたしな」
昨夜、ルリナとカブさんにはこのことを伝えてあり、数日かかるだろうけど、手続してみるとのことで合意をもらった。
「可哀想に。こんなのに目を付けられたばっかりに、無自覚に魔改造されていくなんて。因みにジムリーダーたちとの連戦は何を想定しているの?」
「表向きソニアのトラウマ克服ではあるが、ジムリーダーたちをブレーンに見立てて、挑戦者が這い上がってくる様子、かな。俺たちブレーンの中でも強さは人それぞれだから一応ランク分けしておいた方がいいだろうし、その目安を測るってのもあるな」
「相変わらず悪い人」
ソニアを通して、バトルフロンティアの一通りのシミュレーションをしようとしてるんだから、悪い人なのは否定しない。しかも本人にはそれを伝えてないしな。
というか、この話が出来るのも専門タイプの話からバトルフロンティア構想に自ら辿り着いたユキノにしか無理だし。
「ドーブルを倒すよ、エレザード」
「マーブル、こうそくスピン!」
四体目はエレザードか。
今のところ、キラフロル、マッギョ、サダイジャ、エレザードと余り統一感はないのだが、何となくコンセプトは見えてきたような気がする。これでジャラランガがいれば砂パで確定だろう。
「エレザード、エレキネットで捕まえて!」
高速回転しながらエレザードに突っ込んでいくドーブルを電気を帯びた網を被せて動きを封じた。
無数の尖った岩は吹き飛ばされたが、問題は次々とやってくるみたいだ。
「くっ、もう一回こうそくスピンだよ!」
だが、再度高速回転することで網をぶち破り脱出。
「エレキネット」
うわ、えげつな…………。
網から脱出してもすぐに新しい網が降ってくるとか、これ絶対に倒れるまで続く奴だろ。
それだけソニアがドーブルを警戒している証拠ではあるのだが、やり口がえげつない。
「うぅ………しつこい」
「ふふっ、エレザード、かげぶんしん」
ユイもソニアの戦術に嫌気が刺しているようだ。
「こうなったら、マーブル! リフレッシュ!」
脱出してもすぐに次の網が降ってくるため、先に麻痺状態を治すことを選んだらしい。
こういう搦手になるとポケモンによっては突破口が見つけられなくなるのが、ユイの弱点なのかもな。
それを見抜いて仕掛けてくる辺り、ソニアの頭の中に貯蓄されている戦術の引き出しの多さが伺えるわ。
というか、エレザードはよくドーブルに網を被せられたよな。砂嵐で視界が悪いってのに。
やっぱりドーブルが麻痺状態だったことで動きが鈍っていたからなのだろうか。
そうだとしてもこうそくスピンやらこうそくいどうで素早さがかなり上がっているはずなんだがな。
それだけエレザードの実力が高いということなのかもしれない。
「連続できあいだま!」
分身体を増やしてドーブルを取り囲んでいたかと思えば、これを狙っていたのだろう。
網を破るか一旦置いて麻痺を治すか。
ユイのその選択で一つで、攻撃を一気に仕掛けるタイミングを用意していたわけだ。
「ッ、ハードプラントで打ち返して!」
地面から太い根を次々と伸ばして、投げつけられるエネルギー弾を弾き返していくドーブル。
そういや、究極技も覚えてたんだっけか。
「全部囮だよ。エレザード、直接きあいだま!」
うっわ…………。
息を潜めてた本体がドーブルの目の前に現れ、エネルギー弾を直接ドーブルの腹に打ちつけて吹き飛ばした。
恐らく、特性すながくれを上手く使ったのだろう。
「ドーブル、戦闘不能!」
いや、うん………効果は抜群だしな。
ドーブルが倒れるのと同時に砂嵐も治ったし。
「今のはソニア博士の読みの上手さが出たわね」
「ハメ技感が凄かったけどな。博士になるくらいの知識を溜め込んだ上で、昔の感覚を取り戻したら、マジで手のつけようがなくなりそうで怖いわ」
なんかこうして昔の感覚を徐々に取り戻していくソニアを見ていると、ダンデはなるべくしてああなったのではないかと思えてくる。
「マーブル、お疲れさまー。ゆっくり休んでね」
それにしてもドーブルは凄くいい働きをしていたと思うわ。
かくとうタイプや重量級がメインとなっているユイのパーティーの中でも、ドーブルはそのどちらでもないのだが、いるのといないのとでは大きな差が出てくるだろう。
現にフィールドに張られたギミックに対して、見事に対処し切って見せていたのだから、色んなトレーナーとやる上ではキーポケモンになってくると言い程だ。
ただ、それをユイ自身がどこまで理解しているか、ではあるが。
「マロン、いくよ! やどりぎのタネマシンガン!」
「はい? やどりぎのタネマシンガン? あ、てか、エレザード、かげぶんしんで躱して!」
やどりぎのタネマシンガン。
なんか久しぶりに聞いたわ。
これ、誰がやり出したんだっけか。
タネマシンガンで飛ばすタネをやどりぎのタネにして飛ばせば、当たるとダメージと同時に拘束され、体力を奪われるというハメ技である。
当然、ソニアは耳にしたことがなく、何のこっちゃってなっており、エレザードへの指示が遅れた分、回避も遅れてしまい、かろうじて躱しているってところである。
「ドラゴンテール!」
ようやく理解に及べば、危険度を察知したのか、交代させようと竜の気を纏った尻尾でブリガロンを攻撃していく。
「ニードルガードで受け止めて!」
ただ、ブリガロンならそうするよな。
腕の鎧を盾にして受け止めるとトゲが伸びてエレザードの尻尾に突き刺さった。
「やっぱりブリガロンも直接は危険か。そのままとんぼがえり!」
どうやら確認のための攻撃でもあったらしい。
早々にエレザードでは難しいと判断したソニアは、とんぼがえりで帰って来させて、ボールへと戻した。
「キラフロル、もう一度だよ!」
そして、再登板のキラフロル。
ドーブルが倒されてしまっている現状、キラフロルを倒せていないのはユイにとってちょっと苦しいかもしれない。
「キラースピン」
キラフロルが毒を撒き散らしながら、高速回転してブリガロンへと突っ込んでいく。
「ニードルガード!」
それをタイミングを合わせて腕の盾で受け止めた。
同時に棘が伸びてキラフロルに突き刺さる。
「キラフロル、ヘドロばくだん」
だが、受け止められるのは分かった上での攻撃だったようで、離れながらヘドロを吐き出した。
「マロン、ストーンエッジ!」
ブリガロンはギリギリのところで岩壁を作って防ぐものの、ヘドロを浴びた岩壁はすぐにドロドロと溶け始め崩れていく。
「グラスフィールド!」
「へぇ、それならすなあらし」
ああ、なるほど。
キラフロルは浮いているからな。
グラスフィールドで回復出来るようにしたってキラフロルには恩恵がないか問題ない。
逆にソニアはユイがグラスフィールドを選択した意図も読めたのだろう。
砂嵐を起こして、回復した分を削り取ろうという作戦らしい。
「回復を封じるのと同時に遠隔防御力も上げてきたわね」
「因みにキラフロルのタイプって………」
「いわ・どくタイプよ」
「ああ………」
なるほど。
鬼畜だな。
「マロン、くさむすびだよ!」
地面から伸びた草がキラフロルを絡め取って拘束していく。
「なるほど。それならキラフロル、アシッドボムで溶かしちゃって!」
うわっ………、毒で草が溶け出しちゃったよ…………。
何気にでんきタイプが得意だって話だったのに、毒の使い方が洒落にならねぇ。
今チラッとムーンの顔が頭をチラついたが、あの毒好きよりも毒が似合うわ。
怖い怖い怖い。
ソニアとバトルする時は必ずどくタイプを入れておこう。
「ステルスロック」
「はらだいこ!」
アシッドボムのせいでキラフロルの周りがヤバいことになっており、容易に近づけなくなっている隙に無数の尖った岩をばら撒いていく。
対して、ブリガロンも自分の腹を叩いて鼓舞し、攻撃力を最大まで高めていた。
それと同時に体力が大幅に減ったことで特性しんりょくも発動したようだ。
「マロン、グラススライダー!」
緑色のオーラを纏って、グラスフィールドの上をスライディングしてキラフロルの真下に潜り込むブリガロン。
「ウッドハンマー!」
起き上がる動作のまま腕を振り回してキラフロルを殴りつけていく。
「キラフロル、ニードルガード」
あ、こっちも使えるのね。
本当にキラフロルってヤバいポケモンだな。
相手にしたらすげぇ面倒なポケモンだわ。
「マロン、10まんばりき!」
ダメージなんて気にしたら負け、とでも言うかのように、ブリガロンはさらにキラフロルを掴んで地面に叩きつけた。
「キラフロル、こらえて!」
ギリギリのところで耐えたキラフロルからは毒菱を飛び散り、ユイの方のフィールドがまたしても交代しづらい環境になってしまっている。
「マジカルシャイン!」
そして、すぐさまキラフロルから光が迸ると、ブリガロンが光に呑み込まれて吹き飛ばされてしまった。
えっ、マジカルシャインで吹き飛ぶもんなの?
威力高くない?
「………………ブリガロン、戦闘不能!」
はらだいこが仇になってしまったかもしれないな。
というか、はらだいこに対するこらえるが模範解答過ぎだろ。
やっぱ、ソニアのバトル感はやべぇわ。未だ本人だけが普通ーー何なら出来損ないと思っているが、イロハとコマチまでドン引きしてるぞ。
「うぅ………キラフロルが厄介だよぉ…………マロン、戻ってゆっくり休んでね」
いつの間にか砂嵐も治っている。
「いくよ、ブラウニー!」
ユイの四体目のポケモンが出てきた。
無数の尖った岩がウーラオスを襲い、毒菱により身体に毒が回っていく。
「あ、ウーラオスか」
ブラウニーと言われて誰だっけ? となったが、昨日の会議でウーラオスのことをブラウニーと言っていたな。
あと青い筋がないから一撃の型っぽいし、一撃の威力に重きを置いたユイにはピッタリではある。かくとう・あくタイプとフェアリータイプにかなり弱いのが痛い点だが……………キラフロルってさっきマジカルシャイン使ってたよな。
「マジカルシャイン」
ほら。
ステルスロックやら毒菱やらに襲われている間に、キラフロルがウーラオスの目の前に移動すると再び身体から光を迸らせた。
「あんこくきょうだ!」
それでも強引にキラフロルを殴りつけるウーラオス。
「だいばくはつ」
するとズドーンッ!! とキラフロルが爆発し、ウーラオスが吹き飛ばされてしまった。
えっぐ………。
「キラフロル、戦闘不能………エグいね………」
ついに審判をしているダイゴさんまで慄いている。
こらえるでギリギリ耐えて次にダメージを負えば、そのまま戦闘不能になるような状態で交代させるのではなく、最後まで戦わせるってストイック過ぎません?
「キラフロル、ありがとう。ウーラオスは他のポケモンたちとはちょっと違うからね。少しでも多く削れてよかったわ」
あ、だいばくはつを使ったのは相手がウーラオスだったからか。
グラスフィールドでウーラオスが毒のダメージを受けながら回復すると、その頼みの綱でもあったグラスフィールドのタイムリミットが訪れて消えていった。
「さあ、ウーラオスを倒すよ。エレザード、すなあらし!」
うん、ここまですなあらしを多様しているなら、もう砂パで確定的だろう。
そうなるとソニアの残りのポケモンはジャラランガとラグラージ辺りだろうか。
対して、ユイの残りはルカリオがいるだろうってことしか分からない。あと一体はウインディとかか?
「ブラウニー、ストーンエッジ!」
後半になるに連れてユイのポケモンは攻撃型のポケモンが多くなってきており、砂嵐やらステルスロックやら毒のダメージやらに気にかけることなく、倒れる前に倒すって気概が見受けられるな。
やっぱりドーブルを倒されたのが相当痛かったのだと思われる。
というか、ソニアの戦略が何体もドーブルが欲しくなるようなものなのばかりで、それがユイのこのゴリ押しに繋がっているのだろう。
「こうそくいどうで躱して!」
ウーラオスが地面を叩いて次々と岩を突き出していくものの、エレザードは高速で移動し続けて躱していく。
「エレキフィールド!」
そして砂嵐の中、地面を叩き、フィールド一帯に電気を巡らせた。
「くぅ………見えない………ブラウニー、はどうだん!」
見えないから追尾機能のある技で、と言うのかはかなり合理的だ。ユイとしては、当てられないなら、勝手に当てに行ってくれる技でってことなのだろうけども。
ただ、エレザードの特性がすながくれだったはずで、砂嵐の中では姿が隠れてしまい見つけにくい上に、高速で移動しているため、この状況下では追尾機能のある技以外では無理だろう。
「エレザード、ライジングボルト!」
そして、追尾機能のある技であっても行く手を阻まれてしまえば、ましてや威力が跳ね上がった技で壁を作られては、電撃の壁にぶつかった瞬間にはどうだんは霧散していった。
「10まんボルト!」
「ふいうち!」
お返しにと電撃を放つと、そこに向けてウーラオスが突っ込んでいく。
「来てくれてありがとう。エレザード、けたぐり!」
なのに、それすらもソニアの囮だったとなると、何手先まで読んでいるのかが気になるところである。
あるいは、ユイが直情的だから読みやすいってのがあるのかもしれない。
「エレキネット!」
待ち構えていたエレザードが尻尾を一振りして、電気網でウーラオスを捕縛しにかかる。
「みきりで躱して!」
おお、そう来たか。
咄嗟に網の隙間を見切って転がりながら躱し、捕縛を逃れた。
「きあいだま!」
「あんこくきょうだで叩き落として!」
エレザードがエネルギー弾を撃ち込むと、転がりながら起き上がったウーラオスが踏ん張る力を利用して、エネルギー弾を拳で打ち返す。
「はどうだん!」
続けて反対の手で波導の塊をエレザードへと投げ込んだ。
器用だな。
「エレザード、でんこうせっかで躱して、はどうだんと追いかけっこだよ!」
ん?
追いかけっこ?
なーんか、そんなシーンをどこかで見たような気がするぞ?
リザードンで、だったか?
「そのまま突っ込んで、とんぼがえり!」
あ、やっぱり。
そういうことだったわ。
でんこうせっかではどうだんから逃げ続けたエレザードは、はどうだん、エレザード、ウーラオスの順で一直線上になるように動き回っていたようで、ソニアの合図で一気にウーラオスへと詰め寄った。
「ブラウニー!?」
そして、ウーラオスの腹を蹴って宙返りをすると、エレザードを追いかけていた波導の塊はエレザードの急なターンを追えず、ウーラオスの腹へと追い討ちをかけた。
「ウーラオス、戦闘不能!」
キラフロルに与えられたダメージや、毒や砂嵐のダメージも蓄積していたのだろう。
はどうだんの追い討ちが決定的となり、ウーラオスが膝から崩れ落ちた。
これでソニアが残り三体、ユイが残り二体か。
「ひぇぇ………エグいよぉ………」
ユイも涙目である。
いや、うん…………。
さっきからソニアの戦略がエグすぎる。
一応、ウーラオスも伝説のポケモンだったはずなんだけどな…………。
やっぱり、アレかな。昨日のイロハとのバトルで伝説のポケモンへの耐性が出来上がっちゃったのかもしれない。
「えぇ………そんなこと言われても、バトルってこういうものでしょ………?」
…………………。
「だってよ」
「怖いわね。こんなバトルを普通と思っているなんて。そうすると初心者トレーナーのバトルなんて、バトルの内に入らなさそうね」
「それな、ホントそれ」
このソニアにして、あのダンデありってところだな。
…………ふと思ったのだが、ソニアって自分で自分の首を絞めちゃったのではなかろうか?
ダンデにこんなバトルを覚えさせなければ、あんなバトルジャンキーに育つことも、それを見てソニアがコンプレックスを抱くこともなかったんじゃないかと思えてくる。
「よもや自分の蒔いた種で自分が苦しむハメになったなんて、誰も思わないだろうな」
「どこにでも想定外というもの付き物よ」
「それはそうだが、俺を見て言うのはやめろよ」
ユキノの中で、俺は想定外だったってか?
それを言ったら、俺もユキノたちにここまで関わることになるなんて想定外だったっての。
「ねぇ、お米。ソニア博士って本来あんなバトルすんの?」
「さあ? コマチとバトルしたときはもっとマイルドだったと思いますよ? イロハさんが昨日のバトルで火を点けちゃったんじゃないですか?」
「えぇー………そんなことないでしょ」
いや、強ち間違いではないだろう。
何だかんだ負けず嫌いなところあるし。
というか、コンプレックスを抱いているのも元はと言えば負けず嫌いが昂じてってことだと思うんだよなぁ。
まあ、それ以外にも周りからのプレッシャーが凄かったってのがあるから、それがなかったらここまで歪な成長はしなかったと思う。
「ユイが負けると思うか?」
「さあ? どうかしら? ユイ確かにソニア博士の実力は想像していたものより何倍も上だったけれど、ユイにはルカリオがいるもの。あの二人の力が共鳴した時の実力はあなたも知っているでしょう?」
「どうだかなー」
ユキノたちよりは見てきてないから、俺のデータは古くて宛てにならないと思う。
「クランチ、盤面を整えるのを手伝って」
「ギラァァァ!」
ユイの五体目はバンギラスか。
特性もすなおこしなようだし、ハルノのバンギラスからも何か伝授されてそうだな。
ただ、やはり毒菱を除去出来ていないのが痛いところではある。ステルスロックだけならまだ何とかなるだろうが、ウーラオスといい、そんな素ぶりは見せていないが毒に苦しめられているからな。
「さあ、このまま最後までいくよ! ジャラランガ、てっぺき!」
「クランチ、ステルスロック!」
ソニアの方もキラフロルが倒されているため、ステルスロックを解除するポケモンがいないと思われる。
ユイもそこに目を付け、新たに尖った岩を撒いたということだろう。
対して、ソニアはいつでもボディプレス辺りが来そうな技選びである。
「きあいだま!」
「アイアンテールで打ち返して!」
そして、ジャラランガからエネルギー弾が飛ばされると、バンギラスが鋼鉄にした尻尾で打ち返した。
そういえば、ジャラランガの特性ってぼうじんだったっけか?
そりゃ、砂嵐の中でも平気で動き回れるわけだ。
「しんくうは!」
それを衝撃波で相殺するジャラランガ。
毒になろうが、単純な攻撃でどうこうなるようなバンギラスではないということだな。
「「ストーンエッジ!」」
今度は離れたところからってことで、二人とも同じ技を選択してしまったようだ。
しかもタイミングまで同じとは………。
「「りゅうのまい!」」
相殺してしまったからか、今度は一撃の威力を上げようってことだったのだろうが、これもまた同じ技を選択してしまっている。
二体ともが竜気を纏い、一気に距離を詰めた。
「ボディプレス!」
「れいとうパンチ!」
ショルダータックルで突っ込むジャラランガに、氷を纏った拳をぶつけるバンギラス。
初手のてっぺきで高めた防御力が上乗せされて、バンギラスの方が押し返されるも、ジャラランガの身体が徐々に凍りついていく。
代わりに砂嵐は晴れ、視界が良好になった。
「ジャラランガ!?」
「クランチ、がんせきふうじ!」
そして、動きを止めたジャラランガの頭上から次々と岩が落とされ、四方を取り囲まれた。
恐らく、氷が溶けてもすぐには動けないようにするためだろう。
「いわなだれ!」
「ジャラランガ、ほのおのパンチ!」
さらに岩を雪崩れさせ、足場も悪くしていく。
ただ、岩の中で炎が燃え上がり、取り囲む岩が燃え始めた。
「じしん!」
炎で氷が溶けて身動きが取れるようになったジャラランガが地面を叩き、激しく揺らし始めた。
「なみのり!」
それを大波を起こして、残骸となった岩と一緒に波に乗ってジャラランガに襲いかかる。
「そのままれいとうパンチ!」
波に襲われ、岩に襲われても流されないジャラランガに、再度氷を纏った拳を振り下ろした。
「ジャラランガ、カウンターだよ!」
どうやらこの機会を待っていたようで、猛攻を耐え切ってバンギラスを殴り飛ばしていく。
「くっ、ゆきなだれ!」
吹っ飛びながらバンギラスがジャラランガの上から、雪を雪崩落とした。
あー、何となくこおりタイプの技はユキノの影響を感じるわ。
「なっ!? かえんほうしゃで焼き払って!」
「クランチ、れいとうビーム!」
咄嗟に炎で溶かしていくものの、その間にフィールド一帯が凍りついていった。
フィールドをスケート場にするつもりなのかね。
「岩を伝ってボディプレス!」
着地したバンギラスは今の今まで顔に出していなかったが、かなり毒にやられて顔色が悪くなっていた。
そこへ岩を伝って迫ってきたジャラランガが、ショルダータックルでバンギラスを押し倒していく。
「げきりん!」
だが、今回はバンギラスが踏ん張り、竜気を活性化させると暴れ始めた。
ボディブローやアッパーを入れると、ジャラランガが岩の上に飛び移って距離を取る。
「ジャラランガ、スケイルノイズ!」
そして、鱗を鳴らしてノイズ音が響き渡った。
あ、今のでバンギラスの意識が飛んでいってしまったようだ。
やっぱり毒がキツかったか。
「バンギラス、戦闘不能!」
とはいえ、ジャラランガの方も相当のダメージを負っている。
三対一でもユイの最後の一体はルカリオだろうから、ここから巻き返すことも充分にあり得る話だ。
「クランチ、ありがとう。ゆっくり休んでね」
「ユイがここまで押されるなんて中々ない光景ね」
「ユイ先輩、ジムでは無双状態だから、ここまで追い込まれてるの久しぶりに見たかも………」
両側から心配そうな声が聞こえてくるが、ねぇちょっといろはす? ユイって未だにジムで無双状態なのん?
「シュウ、ここから巻き返すよ!」
「バウ!」
俺の心の中の質問には誰も答えてくれることはなく、ユイが最後の一体を出した。
案の定、最後はルカリオ。
無数の尖った岩が襲いかかるもルカリオに当たる瞬間に粉々に砕けていっている。
どゆこと?
膨大な波導が漏れ出てるとか?
「ジャラランガ、しんくうは!」
ジャラランガがゼロモーションで衝撃波を生み出してきた。
ここに来てそれかよ。
俺やユキノたちのポケモンも大概だが、ソニアのポケモンもこっち側に踏み入れてないか?
「バウ」
…………はっ?
衝撃波がルカリオの一息で掻き消された?
「なっ……に、それ………」
ソニアも何が起きたのか理解が追いついていないようで固まっている。
まあ、ダイゴさんたちも同じような反応なため、俺と同類だ。
というか、したり顔なのはユイの実力を知る女性陣だけなようだ。
「しんそく!」
文字通り空気もフィールドも凍りついた中、ルカリオが一瞬にしてジャラランガの懐へと入った。
よく滑らないな。
あ、まさか足裏から波導を出して浮いてるとか?
出来るかどうかは知らないけど、やれないこともないとは思う。
「りゅうのはどう!」
そして、ゼロ距離から竜を模した波導がジャラランガを呑み込んでいく。
「…………ジャラランガ、戦闘不能!」
立ったまま気絶しているジャラランガにダイゴさんですら反応が遅れていた。
いや、まさか。
ここまで成長しているとは………。
「………戻って、ジャラランガ。ゆっくり休んでて」
辛勝モードであったソニアの空気が、ルカリオによって一気に掻き消されてしまったな。
お、折れない………よな?
「これがユイちゃんの本気………。エレザード、まずは動きを止めるよ! でんじは!」
「シュウ、みずのはどうだん!」
無数の尖った岩に襲われながらも送り込むエレザードの電磁波に対して、ルカリオは水の塊をぶつけて相殺。
「はどうだん!」
続けて本物の波導の塊を投げつけた。
「でんこうせっかで躱して、そのままぶっちぎって!」
なるほど。
追尾機能が働く前に距離を詰めてしまえば、自分を捉えられないって考えか。
そして、一瞬にして距離も詰められるため一石二鳥。
「ファストガード!」
うっわ…………。
何というか、非の打ち所がない技範囲だな。
ルカリオにはスローモーションで見えていたかのようにエレザードをいなし、腕を掴んで回転して遠心力を付けてから地面に叩きつけた。
「インファイト!」
その上で拳のガトリングがエレザードの背中に打ち付けられ、最後は衝撃で身体が跳ね上がり、そこへルカリオの蹴りが入ると、ソニアの方へと飛ばされていった。
「エレザード、戦闘不能!」
エグい………。
さっきまでソニアの戦略にえげつなさを感じていたし、ユイに同情もしたくらいだが、ルカリオを見る限り同じ穴の何とやらである。
というか絵面は圧倒的にユイの方がくる。
ソニアはまだ技を重ねて練りに練った感があった上でのハメ技であったが、ユイのはただのゴリ押しである。
「ありがとう、エレザード。ゆっくり休んでて」
エレザードをボールに戻すソニアの手は震えていた。
「まさか追い込んでいたはずなのに、一瞬にして巻き返されるなんてね………」
「クランチに盤面を整えてもらったからね。どうやったってこのフィールドでは動きが鈍るし、詰め寄ってくるルートも限られるでしょ?」
ッ!?
ユイが………あのユイがそんなことまでちゃんと考えられるようになっていたなんて…………。
「ハチマン、何考えてるのか顔を見れば大体想像がつくけれど、ユイは決してバカではないのよ?」
「いや、うん、分かってる。分かってるんだが、なんか衝撃的過ぎて………」
「まあ、ユキノ先輩が根気強く基礎を作り上げたからこその結果でしょうけどねー」
それでもこの散らばった岩の残骸や凍りついたフィールドが、全てソニアのポケモンの行動に制限を掛けるためだったなんて、最初の頃を知っているから余計に衝撃的だったっての。
「でも、このフィールドだとルカリオも行動しにくいんじゃないの?」
「シュウの波導は膨大だからね。それをコントロールする上で細かな技術も付いたから、局所的に波導を出して足場にすることだって出来ちゃうんだよ」
「いやいやいや、そんなの有り!?」
「出来ちゃうんだから、しょうがないじゃん」
それ、しょうがないで済ませていいレベルの話ではないと思うぞ。
いやまあ、ダークライも足場作れたりするし?
何なら俺も浮いてられるし?
原理としてはそれと近いものなんだろうけども。
怖いわー。
「こっわ………」
ソニアもドン引きである。
どうやらソニアの一般からかけ離れたバトル感においても、ユイのような感覚は持ち合わせていなかったらしい。
つまり、ダンデからは得られなかった感覚ってことだ。
「さあ、最後だよ。悔いなく思いっきりやろう!」
「………そうだね。取り敢えず、勝ってハチくんを一発ぶん殴るわ」
「いや、何でだよ」
「「どうぞどうぞ」」
「お前らな………」
妹と後輩があっさりと俺を差し出してるんだけど。
しかもいい笑顔で。
酷くない?
「ライボルト、ルカリオを倒すよ」
ソニアの最後のポケモンはライボルトだった。
予想が外れたな。ラグラージだと思ってたんだが、そうなると午後の編成の方が相性が良かったってことか?
「シュウ、最後だよ。あたしを使って」
「はっ?」
あ、またソニアの頭が追いついていないらしい。
まあ、この光景はなー。
ユイのたわわな胸に手を突っ込んだかと思うと、そこから長剣サイズの太い骨を二本作り出してるんだから。
こんなことが出来るのも、ユイとルカリオの波導の波長がかなり相性がいいからであるが。
初めて見れば、何かヤバいことしてるようにしか見えないわな。
「ボーンラッシュ!」」
二本の太い骨を携えて、ルカリオが氷上を駆け抜けていく。
「ライボルト、メガシンカ!」
ルカリオが右手を振り翳した瞬間、ソニアの持つキーストーンとライボルトの持つメガストーンが共鳴し出し、虹色の光に包まれていく。
咄嗟に距離を取ったルカリオの動きは、予めメガシンカしてくると踏んでいたかのような早さだった。
「ラィァァァアアアアアアッ!!」
「バウ」
メガシンカしたことでライボルトの特性が変わって、いかくが発動したものの、ルカリオには効いていない様子。
「いかくが効いてない?! せいしんりょくね!」
ユイのルカリオの特性せいしんりょくが働いたってことね、
「だったら、10まんボルト!」
「シュウ、こっちもメガシンカだよ!」
ライボルトから電撃が放たれると、今度はユイの持つキーストーンとルカリオの持つメガストーンが共鳴し出し、虹色の光に包まれると電撃も吹き飛ばしていく。
…………なんかソニアの時より、メガシンカ時のエネルギーの放散範囲が広くなかったか?
「シュウ、はどうだん!」
「アイアンテールで打ち返して!」
再度波導の塊を投げつけるも、鋼鉄にした尻尾で弾き返されている。
「あくのはどう!」
「にほんばれ!」
黒いオーラで波導の塊を受け止めると爆発し、黒いモヤがルカリオの姿を隠した。
そこへ日差しが強くなり、地面にルカリオの陰が浮かび上がってくる。
「シュウ、ボーンラッシュ!」
「ライボルト、かえんほうしゃ!」
二本の太い骨を携えて、岩から岩へ飛び移りながら距離を詰めていくと、炎が飛んでくるも骨で軌道を逸らして難なくライボルトの目の前へ。
そして、右の骨で右上から左下へと斬り下ろすと、切り替えて左下から右上へ。そして、そのまま一回転して左上から右下へと斬り下ろすと、最後は右上から左下へと斬り下ろした。
かと思いきや、それで終わることなく、今度は左の骨で右から左へ一閃。続けて左から右へ一閃。さらに一回転して再度左から右へ一閃すると、最後に右下から左上へと斬り上げた。
「くっ………ライボルト、10まんボルト!」
氷の上をバウンドしながら体勢を立て直したライボルトが、電撃というか最早雷撃を飛ばしてきた。
ルカリオは二本の太い骨を地面に突き刺してアース代わりにしてやり過ごすと、氷の上を一気に詰め寄った。
「エレキネット!」
「はどうだん!」
目の前に電気網を広げられて行く手を阻まれるも、波導の塊をぶつけて突き破った。
「シュウ、ボーンラッシュ!」
そのまま先程と同じように右の骨で四連撃、左の骨でも四連撃を入れて、引っくり返す。
「ライボルト、オーバーヒート!」
するとライボルトの身体が炎が迸り、ルカリオ共々フィールド一帯を炎で包み込んでしまった。
「しんそくからの直接はどうだん!」
そこへしんそくで一気にライボルトへ詰め寄ると、ライボルトの顔面に波導の塊を直接ぶつけて弾き飛ばしてしまった。
「ライボルト、戦闘不能! よって勝者、ユイちゃん!」
…………ふぅ、終わったか。
なんか、見てるだけでどっと疲れたわ。
何なのこの二人。
片や戦略でハメ技まで使ってくる自称引退トレーナーに、もう片方が未だ無双しているジムトレーナーって………。
バトルのレベル的にチャンピオン並みと言っても過言ではないような気がするのは俺だけだろうか。
チラッとユキノの方を見ると、うんうんと頷いていて、後方彼氏面である。
いや、何でだよ。
「…………いやー、無理」
「よかったぁ………勝てたー………」
バトルした本人たちもその場に座り込んでしまう程、二人にとっても体力が持っていかれるバトルだったようだ。
「シュウ、お疲れさまーって、ちょ。どこ触ってんの!?」
ああ、そうだった。
あいつはそういう奴だったな。
バトルしてる時はカッコいいのに、普段はユイの胸が大好きフリスキーな変態ポケモンだもんな。羨ましい。ルカリオ、そこ代われ。
「ライボルト、ありがとね………ゆっくり休んで」
何だろう。
ソニアの顔が勝った負けたはどうでもよくて、やっとバトルが終わってホッとしているような、そんな顔に見えてしまうんだが………。
「なあ、ソニア。キラフロルとマッギョって以前はいなかったよな? どっかで捕まえたのか?」
取り敢えず、気になったことをぶつけてみた。
「ふっ、ふふふふふっ」
「なんだよ」
怖いんだけど。
バトルの疲れで、ついに壊れたか?
「一昨日カロスに到着して、飛行場から出てホテルに向かってたら空から降ってきたのよ! びっくりして飛び退いたら、その先にマッギョがいて踏みつけちゃって電撃を浴びるわ、妙にキラフロルには懐かれるわ、マッギョが面白がって着いてくるわで大変だったんだからね!」
「お、おう………なんか想像以上のことが起きていたみたいだな」
っべー、イロハの予想が当たってるのも驚きだが、それ以上のことになってたことに驚きだわ。
流石はソニア。期待を裏切らないどころか、期待以上の面白珍現象に遭ってやがる。
「それにしては特性を使いこなしてたりしてたと思うんだが………?」
「ハチくんが昨日言ったんでしょうが! どんなバトルにも対応出来るようにしておけって! だからホテルに戻ってからキラフロルとマッギョに使える技を聞いて、特性も確認して、技の発動時間や動きの速度を計測したよ! お陰で久しぶりに研究のことなんか考えなかったっての!」
「お、おう………それは何というか…………おめでとう?」
「嬉しくないやい!」
座り込みながらも騒ぎ立てる余力はある………というかちょっと騒いでた方が起きてられるのかもしれない。
あるよな、そういう時。
疲れが一気に回ってくると、場所を問わず瞼が落ちてきて今にも寝てしまいそうな時。
……………逆にユイは何でそんのにピンピンしてんの?
座り込んではいるし、疲れた顔をしてはいるが、ソニアみたいにぶっ倒れそうな感じが微塵もしない。
「つまり昨日の今日でこれってことですか…………先輩、ソニア博士のポテンシャル高過ぎません?」
「それな。ちょっと行動をともにしただけで俺も思ったくらいだからな?」
イロハもようやくソニアのポテンシャルに気がついたらしい。
「さっきも一晩で四戦分の編成を考えてきたって言ってたもんね。すごいなー」
「というか、普通のトレーナーはそこまでは無理ですって」
「そうよー。ソニア博士、あなたは自分がかなり高度なことをやっているって自覚はある?」
「へっ?」
あ、まだいたんだ。
というかしっかりバトルを観戦してたのね。
テッキリ変態博士で遊んでるのかと思ってたわ。
けど、現役チャンピオンから言われれば、流石にソニアも自覚してくれるだろう。
「ないのね。ならシンオウチャンピオンとして言わせてもらうけれど、ソニア博士のパーティー編成の作り方からバトル展開に至るまで、既にジムリーダーを凌駕しているわ。しかもブランク明けなのでしょう? 元々の基礎が高くなければ、あんなバトルは無理よ」
「や、やー、でもダンデくんには敵わないですし………ジムチャレンジもわたしだけ途中敗退しちゃったし…………今もユイちゃんに負けちゃったわけだし」
シロナさんの真っ直ぐな賞賛を受け入れられないソニア。
やっぱり過去のトラウマはかなり根深いようだ。
「そもそも何故比べる相手が現役チャンピオンなのかしら? あなたはジムリーダーでも四天王でもない。何ならトレーナーでもないのでしょう? それなのにチャンピオンと比較してどうするのよ。免罪符が欲しいの?」
「え、いや………」
免罪符という言葉に、ついにソニアが言い淀んでしまう。
流石に追い詰めすぎだな。
「まあまあ、シロナさん。その辺で」
するとダイゴさんもそう思ったのか、間に入ってくれた。
「間近で見ててもソニア博士のバトル構築は、並のトレーナーとは比べものにならないくらい洗練されていたよ。天候操作にフィールド変化。さらに交代すらも手段にしてくるのなんて、四天王でも中々出来ないことだからね? チャンピオンだって得手不得手はあるわけだし、ソニア博士は自分が思っている程、バトル下手ではないよ」
「で、でも…………」
シロナさんよりも柔らかく賞賛するダイゴさんに言われても尚、言葉を真っ直ぐには受け止められないようだ。
「だったら、もっといろんなバトルを味わってけ。現にユイのルカリオにもイロハのヒードランやボルケニオンにも驚いていただろ? 驚くってことは、自分が想像していなかった世界が目の前にあるってことだ。ダンデを、トラウマを乗り超えたくば、それを全部味わうくらいしないと無理だぞ」
「………ユイちゃんのルカリオには驚いたよ。あんな波導の同調の仕方があって、その結果が武器として現れるなんて。それにイロハちゃんの全員が切り札って奴も目から鱗だった」
よかった。
ちゃんと得るものがあったようで何よりだよ。
「だろ? 俺の周りにはびっくり箱がいっぱいいるからな。それを味わっておかないと、ダンデっていうびっくり箱には辿り着けないと思った方がいい」
「びっくり箱の塊が何言ってんだか………」
「いいだろ、別に。俺のポケモンたちは俺がびっくりするくらいのびっくり箱なんだから、どうしようない」
隣でユキノが小言を言ってくるが、次はお前の番だからな?
あーあ、午後のバトルが楽しみだわ。