午後。
昼休憩を挟んでいる間にユキノシタ姉妹の姿が見えなくなっていたが、二人が戻ってきたことで、本日二本目のバトルを始めることになった。
「どこ行ってたんだ?」
「ポケモンセンターよ。大したことではないわ」
「ほーん」
本人に言う気がないのなら、深く聞く必要もないだろう。
ただ、ハルノがすげぇニヤニヤしてるのだけは気になるが。
「ソニアは大丈夫か?」
「だ、大丈夫………多分………エモンガが………うん、いける……はず」
声をかけてみたものの、ぶつぶつと一人で手のひらに「人」と書いてひたすら呑み込んでいる。
本当に大丈夫だろうか。ユキノにも見られてるし、聞かれてるぞ?
「それじゃ、始めましょうか」
「う……はい……」
淡々としているユキノに対して、異様に緊張しているソニア。
ユイとのバトルをそんなに引き摺っているのだろうか。
昼飯食ってる時には、そんな風には見えなかったのだが、ユキノを前にしたらぶり返した、とかか?
ユイはそういうところの空気も敏感だろうけど、ユキノは俺と一緒で我が道を行くタイプだからなー。
「………ポケモンセンターに何しに行ったんだ?」
「んー、ハチマンが専門タイプを増やせって言ったからってだけは言っておくね」
「………取り敢えず、今はまだ言う気がないってことか」
ユキノたちが定位置に移動する間に、ハルノに何してたのか聞いても答えてはもらえず。
一体何を企んでいるのやら。
どうやら俺が言ったことに起因することではあるようだが…………分からん。
「よし。なら、まずはルール確認だけど、午前と同じようにフルバトルの交代は自由。技の使用制限もなし。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になったら、そこでバトル終了。いいね?」
「「はい」」
引き続き審判をしてくれるダイゴさんがルール確認を行う。
ベンチには何かの計測器を持たされたシロナさんと、パソコンと睨めっこしている変態博士が、今か今かと待ち構えている。
ユイの時にもイロハの時にもそんなことをしていなかったと思うのだが、何かしら思惑はあるのだろう。
「それじゃ、バトル始め!」
「いくよ、ストリンダー」
「ユキノオー、遠慮はいらないわ」
ダイゴさんの合図が出されると二人ともがボールから最初のポケモンを出してきた。
「ノォォォオオオオオオオオオッッ!!」
ユキノの初手はユキノオーか。
対して、ソニアの初手はストリンダー。
ユキノオーが雄叫びを上げるとしんしんと雪が降り始める。
「ん? 雪……?」
霰じゃなく?
ゆきふらしって霰状態になるじゃなかったか?
「最近の気候変動によって、特性の効果に変化があったみたいよ」
「マジで? んなことある?」
いや待て。
地域限定とかなら………?
「天候を操作する特性だもの。環境の影響を強く受けたとしてもおかしくないでしょ」
「うーん、そういうもんかね」
「ふぶき」
まあ、気候変動によりカロス上空の空気の質が変わったとしたら、ゆきふらしの発動による雪質が変化してもおかしくはない、か?
現にふぶきは霰の時と同じように激しく、逃げ場がなくなる程の広い範囲を凍り付かせている。
「不思議な生き物なのだ。そういうこともあるだろうさ」
「あれ、シズカちゃん。こっちに来たんだ」
「まもる!」
俺の左隣にやってきて、肩に肘を置いてくるのは一人しかいない。
多分、後ろから見たら立ち姿もカッコいいことだろう。
「片方が空いていたからな。午前はユキノシタとイッシキに取られてたから、午後は私も混ぜてもらおうか」
「まあ、別に予約席ってわけでもないんで。立ち見だし」
「そう思っているのは君だけだろうな」
そう言って流し目で見るのは、少し離れたところで観戦しているユイやイロハたち。
視線に気付いたコマチだけが何か言いたげな顔をしているが、見なかったことにしよう。
「ストリンダー、どくびし!」
ストリンダーはドーム型の防壁を張って猛吹雪をやり過ごすと、ユキノオーの方へと紫色の撒菱を飛ばしていく。
「なるほど。パルスワンでの小手調べ、キラフロルでのトラップときて、私とのバトルではイロハとのバトルで見せたエモンガのバトンタッチで、最初から引っ掻き回してくるかと思ったのだけれど。私がそう考えると読んでのトラップ狙いってわけね。バトルを始める前の呟きもその伏線だったと。舐められたものだわ。ユキノオー、ふぶき」
「もう一度、まもるだよ!」
まあ、確かに?
ソニアのポケモンの中でもストリンダーは勝負を決める方のポケモンではあるし、イロハとのバトルではマフォクシーにやられたものの、ガブリアスを下がらせたくらいの嫌がらせも出来るし、ガラルに帰ればキョダイマックスになれる切り札でもあるくらいだしな。
ただ、それをユキノが知っていたかと言えば…………もしかしたら、ユキノも過去のジムチャレンジの映像を探して、ソニアのバトルを一晩で見てきた可能性はある。その時に切り札としてストリンダーがキョダイマックスしていれば、ユキノの反応にも頷けるか。
「にほんばれ!」
「ふぶき」
再度ドーム型の防壁で猛吹雪をやり過ごすと日差しを強くし、雪から天候を変えてきた。
そこへ吹雪が起こるものの、先程とはかなり勢いが落ちている。
「じしんよ」
それならと地面を叩いて激しく揺らしてくるユキノオー。
「エレキネットをトランポリン代わりにして!」
ストリンダーは尻尾から巨大な電気の網をフィールドに敷くと、それを踏み台にして高く飛び上がった。
「今度はユキノオーに向けてエレキネット!」
そして、空中で今度はユキノオーに向けて電気が走る網を投げつけた。
「ユキノオー、ウッドハンマー」
それを拳を振り抜き、勢いで網を破裂させている。
「ほのおのパンチ!」
その後ろから炎を纏った拳を振り落としてくるストリンダーが。
エレキネットは囮だったってことだな。
「まもる」
だが、そこはやはりユキノのポケモン、しかもメガシンカも出来て切り札ともなり得るユキノオーである。
ノーモーションでドーム型の防壁を展開すると、拳の炎が一瞬にして凍りついた。
あ……………。
「ぜったいれいど」
「ッ!?」
炎をも一瞬で凍りつかせる冷気が防壁から漏れ出るって、これしかないわな。
拳を振り下ろした姿で凍りついたストリンダーが地面に落とされた。
「す、ストリンダー、戦闘不能………! ユキノちゃん、最初からそれ使う?」
「あら、ダイゴさん。ユイをあそこまで追い込んだ相手ですよ? これくらいやらないと私が負けてしまうわ」
「いやいやいや………」
判定を下したダイゴさんがドン引きしている。
ユイやイロハのバトルでもドン引きする場面があったし、意外と俺の身内はダイゴさんにとってもびっくり箱なのかもしれない。
「ストリンダー、ゆっくり休んでね」
「さあ、挨拶は済んだわ。ユキノオー、一旦交代よ」
挨拶って…………。
こんな挨拶は嫌だ選手権でもしているのかってレベルなんだけど?
「ハルノ、君の妹は日に日に容赦なくなっているな」
「そうなんだよねー。誰かさんの色に染まりやすいというか何というか………」
うん、染まってるな。
実の姉に。
この容赦のなさ、魔王感があって姉の方によく似てきていると思うわ。
「パルシェン、よろしくね」
「パルスワン、形勢を戻すよ。でんこうせっか!」
あれ?
ユキノってパルシェン連れてたっけ?
パルシェンっていうとハルノのポケモンのイメージがあったんだが………。
まさかそこも真似して?
実の姉のこと、好き過ぎない?
「ッ!?」
対するソニアの二体目であるパルスワンは、でんこうせっかで一気にパルシェンとの距離を詰めていくものの、毒菱を受けたパルスワンが木の実を食べて回復したことに驚いて、たたらを踏んでいる。
ソニアも驚いてるし、そこまで読んでなかった感じか?
「あら? 私が何の対策もしてないとでも? 残念だけれど、そう簡単に思惑通りにはいかないわよ。パルシェン、こうそくスピン」
「ッ、かみなりのキバ!」
怖い怖い。
恐らく、解毒作用のあるモモンの実かラムの実だろうけど、そんな煽ってやるなよ。
ユキノに負けず劣らずソニアも負けず嫌いなんだからさ。
「パルシェン、どくびし」
日差しが弱まると、パルスワンも自分の周りにある毒菱も全て高速で回転して吹き飛ばし、今度はソニアの方に毒菱を撒いていく。
お前………マジか………。
午前で見せたソニアの戦略をもう入れてくるとか、ソニアが苦い顔になっていってるぞ。
「パルスワン、エレキフィールド!」
着地したパルスワンがフィールド一帯に電気を張り巡らせていく。
「アイススピナー」
「ライジングボルト!」
殻に籠ったパルシェンが氷を纏って高速回転しながら、パルスワンへと突っ込んでいく。
それと同時にフィールドに張り巡らされた電気がショートし、効果を失っていき、パルスワンの発した雷撃がパルシェンに届く頃には弱まり、さらに硬い殻と高速回転による影響で、殆どダメージに繋がっていなさそうである。
「こうそくいどうで躱して!」
「れいとうビーム」
一気に駆け抜けることでパルシェンの攻撃を躱し、背後へと回っていくが、パルシェンはパルスワンに当たらないと見るやその場で逆回転し、フィールド一帯を凍らせていった。
これには背後を取ったパルスワンもパルシェンに近づくことが出来ず、吐き出される冷気を躱すことに専念している。
「ドリルライナー」
「でんこうせっか!」
パルシェンが技を切り替えたことでようやく近づけるようになり、パルスワンも回転し続けるパルシェンへと一気に飛び込んでいった。
「かみなりのキバ!」
そして、下から噛みつこうとしたところで、パルスワンは足を滑らせた。
「ッ?!」
これは流石に予想外である。
恐らく、ユキノの狙いはこれだったのだろう。
ユイがルカリオのためにフィールドを用意していたように、ユキノもパルスワンが動きにくくなるようにフィールドを用意していた。
「ふふっ、うずしおで捕えなさい」
笑顔が怖い。
渦潮を起こして、滑って転んで氷の上を流れていくパルスワンを巻き込み閉じ込めた。
「ふぶき」
そこへ急速冷凍を行い、凍りつかせていく。
エグい。
「どくびし」
エグい。
どくびしって重ねがけしたら猛毒になるじゃなかったか?
っべー、マジべーわ。
ソニアも顔を引き攣らせてるぞ。
ダイゴさんなんか頭を抱えてるからな?
「パルスワン、ほうでん!」
それでも諦めないソニアは、パルスワンが氷の中で身動きしたのを見て、中から放電させて、氷を焼き始めた。
「ゆきげしきよ」
その間に、またしても雪を降らせるユキノ。
「でんこうせっか!」
氷が焼け溶けて水になれば、そのまま電気分解でようやく氷の檻から解放されると、一気に駆け抜けていく。
「ふぶき」
「ボルトチェンジ!」
猛吹雪に見舞われても構わず電気を纏って突っ切ると、パルシェンに電気をぶつけた勢いで、ソニアの持つボールへと返っていった。
「アーマーガア、にほんばれ!」
交代で出てきたアーマーガアが、日差しを強くして雪雲を追いやる。
猛毒な毒菱がアーマーガアを襲うものの、はがねタイプなため効果がなく弾き落とした。
「そう。それならパルシェン、ウェザーボールよ」
それにしても万能だな、パルシェンは。
硬い殻に覆われているから、防御力も高いし、技の組み合わせ次第では遠隔攻撃すらも跳ね返すし、天候変えたりトラップ仕掛けたり、一段とユキノのパーティーが恐ろしいことになってるわ。
しかも指示から技の着弾までがかなり早いし、パルシェン自身も指示待ちタイプではないのかもしれない。
「てっぺき!」
「もう一度、ウェザーボール」
日差しが強い状態のウェザーボールはほのおタイプとなり、はがねタイプを持つアーマーガアには効果抜群である。
「はがねのつばさで打ち返して!」
まあ、一度受けた技を二度も連続で受けるようなソニアではないか。
防御力を高めた上で、文字通り鋼の翼でウェザーボールを打ち返した。
スパンッ! って、いい音したなー。
「こうそくスピンで返してあげなさい」
おっと、テニスでも始める気か?
パルシェンが高速で回転して弾き飛ばし、再度打ち返した。
「躱してボディプレス」
それをひょいと躱すと、アーマーガアは翼を広げてパルシェンの頭上から落下してきた。
「パルシェン、ご苦労様。交代よ」
早いわ。
絶対てっぺきを使った時点でこの流れを読んでただろ。
パルシェンの真下に影が出来た時点で即座にボールへと戻され、次のポケモンが出された。
「さあ、ユキメノコ。アーマーガアを受け止めてあげなさい」
交代先としてもちゃんと読んでいるな。
かくとうタイプの技であるボディプレスは、ゴーストタイプを持つユキメノコには効果がない。
しかも落下してくる軌道上にユキメノコを出したため、当のユキメノコも笑顔で腕を広げて待ち構えている。
「ッ!? アーマーガア、逸らしてきりばらい!」
それを身体を捻って軌道を変え、翼で大きく仰いで毒菱を吹き飛ばす反動で、ユキメノコから距離を取っていく。
躱し方は段々と上手くなってるわ。
「あら、残念。なら、こちらから行こうかしら。ゴーストダイブ」
アーマーガアに逃げられたため、ユキメノコの方から姿を消して忍び寄っていく。
うーん、ソニアがめちゃくちゃ影を追ってるな。
日差しが強いのを上手く利用して、ユキメノコの位置を追っているようだ。
「下からよ! はがねのつばさ!」
影の大きさと位置からユキメノコが襲ってくるタイミングを計算し、ユキメノコが姿を現した瞬間に指示が飛んだ。
急降下して翼にエネルギーを溜め込んでいく。
「ユキメノコ、メガシンカ」
うっわ………。
そこで使ってくるか。
というかユキメノコのメガシンカをちゃっかり習得してるのかよ。
あ、だから変態博士たちがデータを取ろうとしてるのか。
まだメガユキメノコのデータは集まりきっていないのかもな。
目の前で虹色の光に呑まれたアーマーガアは、キーストーンと共鳴し合ったメガストーンから発せられるメガシンカエネルギーにより、吹き飛ばされていった。
「また雪降るのか………」
ということは、メガユキメノコの特性はゆきふらしってことだろう。
しかもユキメノコの姿が背丈が伸びてより雪女って感じになってるし、マジでユキノも雪女になりつつあるわ。
「ふぶき」
猛吹雪が体勢を立て直そうとしていたアーマーガアを凍りつかせていく。
「ぜったいれいど」
そして、凍った身体をユキメノコが触れると、中まで一気に瞬間冷凍した。
ユキノオーもそうだったが、ソニアのポケモンよりもユキノのポケモンの方がどいつもこいつも実力が上だってことなんだろうな。
それがそのままトレーナーの余裕にも表れている感がある。
「アーマーガア、戦闘不能!」
審判さん、ヤケ糞になってません?
「戻ってゆっくり休んで、アーマーガア」
確かにユイ以上にソニアの心を折りに行ってるけども。
先にダイゴさんの心が折れそうで心配だわ。
あと、寒くないのかね、あの位置。
「ユキメノコを連れていたんですね………」
「ええ、ハチマンにも懐いている可愛い子よ」
ユキメノコには懐いてるというか、溺愛されてるというか………。
オーダイルみたいに何かしたわけではないのに、何故か抱きつかれるだよなー。
まあ、素直になれないユキノの代わりに甘えてくる感はあるものの、それだけではないように思えるし。
「へぇ、ハチくんって人だろうがポケモンだろうが関係ないんだ」
「おい、今何を揶揄した」
「別にー」
絶対何か含みのある言い方だったろ。
「モテモテだな」
「モテモテだね」
両側のお姉様方からの揶揄いが鬱陶しい。
なので二人の腰に手を回してぎゅっと力を入れると、ビクンッと身体を跳ね上げ大人しくなった。
「ユキメノコを倒すにはこれしかないか………ニョロトノ!」
「ニョォォォオオオオオオオオオッ!!」
ソニアの四体目はニョロトノか。
雄叫びを上げると雨が降り出したし、特性はあめふらしで確定だな。
「ニョロトノ、ほろびのうた」
「ユキメノコ、かみなり」
あ、なるほど。
これしかないってのかは、ほろびのうたのことだったか。
とはいえ、交代されたら効果はなくなるぞ?
「ニョン、ニョニョニョンログェッ!?」
ニョロトノが歌っているところに雷が落ち、感電していく。
それでも歌い切る辺り、結構使ってきたのだろう。
「ニョロトノ、うずしお!」
そして、ユキメノコを交代させないように渦潮の檻に閉じ込めるつもりか。
「ふぶきで凍らせなさい」
それが出来たらどんなに良かったか、だが。
ユキノがそんな甘いわけもなく、吹雪で渦潮ごと凍らせて巨大なオブジェを作り上げた。
「アンコール!」
「ゆきげしきよ」
ニョロトノが拍手する前に天気が雪雲に変わり、再度雪が降り始める。
「危なかったね」
「アンコールされる前に発動出来なかったら、無駄打ちになってたわな」
ギリギリユキメノコの方が先に技を発動出来たから良かったものの、アンコールをきっちり受けていたら、ゆきげしきは発動せず、無駄打ちになっていたことだろう。
「ニョロトノ、交代だよ」
「ユキメノコ、戻りなさい」
ほろびのうたの効果が出る前に両者とも交代を選択してきたか。
とはいえ、ユキメノコを倒せていないのだから、ソニアが苦しい状況に変わりはない。
「パルスワン、もう一度だよ」
「マニューラ、畳み掛けるわよ」
そんなソニアは、パルスワンが再登板。
一方、ユキノの方はマニューラを出してきた。
身軽なポケモン同士、動き回るバトルになるのだろうか。
「ニトロチャージ!」
パルスワンが炎を纏って突っ込んでいく。
「ねこだまし」
あと数歩というところでマニューラが一拍手し、その衝撃波でパルスワンが纏う炎が掻き消された。
「つじぎり」
勢いだけが残り、勝手にマニューラの目の前へと運ばれてきたパルスワンを爪を伸ばして斬り上げる。
「ほうでん!」
「あなをほるで躱しなさい」
空中でパルスワンが放電し始めるとすぐさま穴を掘って地中に潜り、放電をやり過ごした。
「だったら! パルスワン、エレキフィールド!」
着地したパルスワンはマニューラが地中から出てくる間にフィールド一帯へ電気を張り巡らせていく。
これで何度目の使用だろうか。
午前のユイとのバトルでは、キラフロル、マッギョ、サダイジャ、エレザード、ジャラランガ、ライボルトが出ていた。
さらに昨日のイロハとのバトルでは、パルスワン、エレザード、エモンガ、ジャラランガ、ストリンダー、ラグラージが出ていた。
そして、今はストリンダー、パルスワン、アーマーガア、ニョロトノときている。
つまり、ソニアのポケモンは今のところ全部で十二体の可能性が高い。
ユイ、ユキノ、ハルノ、ザイモクザの四戦のためにターンオーバーまでを考えてきているってことは、午前と午後でメンバーはフルチェンジさせてきている可能性が高く、つまりユキノとのバトルではエモンガとラグラージがまだ控えていると思われる。
そこから考えられるソニアの当初の戦略は、雨パ………だろうな。
だが、初手からユキノオーを出されたことで計画が狂い、ぜったいれいどで流れを掴む前に強制退場させられて今に至るってところか。
エレキフィールドが多用されているのも、予定変更に伴うものなのかもしれないな。
「ワパッ!?」
ようやく地中から出てきたマニューラが、パルスワンを下から突き飛ばす。
「ほのおのキバ!」
耐えたパルスワンは、落下エネルギーを利用して勢いをつけ、炎を纏った牙を携えて距離を詰めてきた。
「カウンター」
上手いな。
パルスワンの前脚を掴んでぶん回し、ソニアの方へと投げつけた。
「ボロボロね」
「まだまだ! パルスワン、ライジングボルト!」
「こうそくいどうで距離を詰めて」
フィールドに張り巡らせた電気を利用して全方位からマニューラに電撃で襲いかかるも、そこを一直線に駆け抜けていく。
「けたぐり」
そして、パルスワンの懐に飛び込むと屈んで足払いをし、パルスワンのバランスを崩した。
「シャドークロー」
さらにパルスワンの影から爪を伸ばして突き上げていく。
「ギガインパクト」
「ッ……じゃれつく!」
うっわ、ガチで決めに行ってるわ。
パルスワンに反撃する暇も与えず、物凄い勢いで体当たりし、パルスワンを地面に叩きつけてしまった。
流れるような一連の動きである。
「パルスワン、戦闘不能!」
そして、バタリと地面に落ちたパルスワンにダイゴさんの判定が下された。
「お疲れ様、パルスワン。ゆっくり休んでね」
「マニューラ、お疲れ様。戻って休みなさい」
「マニャ」
あー、これでソニアは三枚落ちか。
対するユキノはまだ一枚も落ちていないと。
ぜったいれいどがエグすぎるわ。
「さて、これで残り三体ね」
「うっ………ハチくんみたいな顔してる」
「あら、私なんてまだまだよ。彼はもっと容赦ないのだから」
俺がというよりうちの三巨頭たちが、であるが。
妙に張り合うところがあったり、悪ノリすることがあるな。
ただ、今のユキノも人のことを言えた義理ではないと思う。
「お前も充分容赦ないぞー。これまで見せてきたソニアの十八番を盤面が完成する前に悉く潰していっているのは誰だー?」
「何のことかしら」
あいつ、白を切りやがったぞ。
「あーあ、ユキノちゃんが悪い子に育っていくなー」
「昔からヒキガヤには強く影響される子だからなー」
両側がうるさい。
なので、また腰に手を回して力を入れてやると大人しくなった。
何なの、このお姉様たち。欲求不満なの?
「さあ、後半戦といきましょうか」
「望むところよ!」
「パルシェン、どくびし」
「エモンガ、こうそくいどう!」
エモンガが高速で動き回る中、パルシェンが毒菱を撒いていく。
やはり今回のソニアの手持ちにはエモンガがいたな。
となると全部で十二体のポケモンということで間違いないだろう。
自称トレーナーを引退した奴の手持ちとしてはかなり多い方だと思うのだが、本人はそこに気付いてないんだろうな。
「パルシェン、からをやぶるよ」
「あまごい!」
パルシェンが外殻を弾き飛ばすと同時に、雨が降り出した。
「アイススピナー」
「かみなり!」
薄くなった殻の中に籠り、氷を纏って回転しながら突っ込んでいくパルシェンに雷が落ちるも止まる気配がない。
「嘘ッ……捨て身?!」
ソニアは今ので止まってくれると思っていたのだろう。
焦るソニアの前に、次の瞬間にはエモンガの懐にパルシェンの姿があった。
「きりばらいで距離をーーー」
「だいばくはつ」
大きく仰ぐきりばらいで毒菱を吹き飛ばしながら距離を取ろうとした矢先、パルシェンが大爆発を起こした。
うわぁ……………。
「けほっ……けほっ………エモンガ、戦闘不能!」
あまりの出来事にダイゴさんがむせてしまっている。
驚きすぎて唾が変なところにでも入ったのだろう。
「え、エモンガ、戻って。ゆっくり休んで」
「ごめんなさい、パルシェン。あまり使わせたくはなかったのだけれど、ソニア博士のエモンガに仕事をさせたら危険だったの。戻ってゆっくり休みなさい」
確かにイロハとのバトルで見せたバトンタッチは厄介ではあるが、ユキノのことだから、それをされても対処出来ただろうに。
「ニョロトノ、もう一度お願い!」
「ツンベアー」
で、そのユキノの五体目はツンベアーか。
どこかのタイミングでクマシュンを連れてるユキノを見たような気がするし、それが進化したのだろう。
「ニョォォォオオオオオオオオオッ!!」
ニョロトノは今ある雨雲にさらに雨雲を引き寄せ、強い雨を降らせるのと同時に、毒菱もニョロトノを襲い、毒状態にしていく。
「アクアジェット」
「ッ!?」
そして、水を纏ったツンベアーが一瞬にしてニョロトノの懐へ入り、ニョロトノを掴むと方向を変え、そのまま上昇していった。
……………ツンベアーの特性にすいすいってあるんだっけか?
あめふらしに対してすいすい…………エグいことするわ。
「ニョロトノ、ねっとうで水のベールを沸騰させて!」
なるほど、そういう手できたか。
水を纏っているのはこおりタイプ。
その纏っている水を沸騰させてしまえば、一度水のベールを脱ぐことになると考えたようだ。
相変わらず発想が凄いな。
「振り落として」
「離さないよ!」
身体を捩り振り落とそうとするもニョロトノは離れない。掌の粘膜が上手く作用しているのかもしれない。知らんけど。
「スイシーダ」
だが、無理と分かればユキノの判断も早かった。
スパンッ! とニョロトノを叩きつけ、強引に引き剥がし、地面に叩きつけてしまった。
まさか、そこで俺の飛行術を使ってくるか。
恐らくユキノは、翼がなくても飛べなくても、ましてや自分が使えなくても、知識としてポケモンたちにあの技術を教え込んでいるんだろうな。
理論が分かれば使われた時の対処の仕方も生まれてくるというものだ。
「きあいだま!」
「ばかぢからで水を振り撒きなさい」
毒に苦しむニョロトノからエネルギー弾が投げ込まれるも、ばかぢからで強引にお湯になった水のベールを弾き飛ばし、その勢いでエネルギーも相殺してしまった。
「くさむすびで拘束しなさい」
そして、ようやく立ち上がったニョロトノをお湯を振り撒いて草を成長させて次々と伸ばし、全身を拘束していく。その草にまた霜が付いているんだわ、これが。撒き散らしたお湯から出ていた湯気も消えているし。
「くっ、ほろびのうた」
「ぜったいれいど」
ソニアも三度目となると何がくるのか想像出来たのだろう。
苦し紛れにほろびのうたを指示するも歌い出す前に一気に急速冷凍されてしまった。
「………に、ニョロトノ、戦闘不能!」
三度目の一撃必殺。
ここまで全員こおりタイプを持っていることから、ユキノの今回のパーティーはこおりタイプ統一ってことなんだろうけど、この統一パーティーヤバくね?
半数が一撃必殺使ってくるとか、ユキノのポケモンたちより実力が上のポケモンじゃないと耐えられない上に、ユキノのポケモンたちがそもそも高い実力を持っているわけだから、下手したらダンデのポケモンもリザードン以外、ぜったいれいどで倒される可能性だってあるぞ。
「お疲れ様、ツンベアー。ゆっくり休みなさい」
「…………ニョロトノ、戻って。ゆっくり休んでね」
っべー、マジべーわ。
誰だよ、ユキノをこんなトレーナーにした奴は。
「ソニア博士、あなたはハチマンの実力がどれ程のものかご存知?」
「えっ? 多分、本気を出せばダンデくんより強い、かな」
「では、今の私とダンデさんとではどちらが上かしら?」
「ッ………!」
うーん、それなんだよな。
リザードン以外は倒せたとしても、あのリザードンにひっくり返される可能性もまだ捨て切れないレベルってのが正直なところではある。
まあ、パーティー編成にもよるだろうけども。
「ついでに言っておくと、パルシェン、ユキメノコ、ツンベアーの中ではユキメノコが一番上よ。そのユキメノコならハチマンのサーナイトを倒せるだろうけど、ハチマンにはその上に三巨頭と呼んでる三体の化け物がいるの。加えてダークライまでいるのよ? 私でもまだ勝てそうにないわ」
うん、ユキノの口から言われると嫌でも俺のポケモンたちが異常なのが伝わってくるわ。
分かってはいることではあるが、こんなバトルをしているユキノを以てしても、勝てそうにないと言わしめるのだから、如何にヤバい奴らばかりなのかが伝わるだろう。
「さて、お喋りはここまでね。最後よ、オーダイル。格の違いを見せてやりなさい」
「オーダイル!? クレセリアは?!」
あー、最後はクレセリアが出てくると思っていたのか。
会議中にユキノがクレセリアを連れている話をしているからな。
ましてやソニアは俺がクレセリアを連れている時に会っているし、ソニアに手を貸すように言って一緒に戦わせてもいるから、ソニアもクレセリアの実力は知っている。
だからこそ、ずっと警戒していたのだろう。
だが、その読みすらユキノは利用して、無駄な労力を強いていたわけだ。
こっわ…………。
「こうなったら………ラグラージ、今のうちにオーダイルを倒すよ! メガシンカ!」
あ、それは上手い対処だな。
毒菱が身体に突き刺さる前にキーストーンとメガストーンを共鳴させて、放散するメガシンカのエネルギーで毒菱を弾き飛ばすとは。
それに雨も降っているため、特性すいすいも発動する。
あとはどうオーダイルを倒すかだな。
倒せれば、だが。
「オーダイル、りゅうのまい」
「ラグラージ、10まんばりき!」
オーダイルが炎と水と電気の三点張りから竜気を生成し身に纏うところへ、ラグラージのショルダータックルが入る。
「じしん!」
弾き飛ばされたオーダイルに構わず、ラグラージは地面を叩きつけ激しく揺らしてきた。
「なみのりで躱しなさい」
雨が上がる中、空中でくるっと反転したオーダイルは、着地と同時に波を起こし、波に乗って揺れをなんのそのと流していく。
「あまごい!」
「りゅうのまいよ」
まだ積むのか。
ラグラージは特性が発動しなくなったから、再び雨を降らせるためなのは分かるが、ユキノの意図は何だ?
どうする気だ?
「10まんばりき!」
「りゅうのまい」
これでもまだ竜気を活性化させることに専念し、再びラグラージのショルダータックルでオーダイルが弾き飛ばされていく。
「ふふっ、来たわね」
「ウォダァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ついにオーダイルの特性げきりゅうが発動した。
竜気に加えて水気まで活性化し、二重のパワーが漲っている。
そりゃ、ずっと10まんばりきを受けていれば、すぐに発動することになるだろうよ。
で、ユキノの狙いがげきりゅうの発動として、それをしてどうするつもりなんだ?
「ラグラージ、押しまくって! 10まんばりき!」
「カウンターよ」
まあ、今の今まで使わなかった方がおかしいもんな。
普段ならアレくらいのショルダータックルなら、普通にカウンターで返し切れてるもん。
「ッ!?」
急にオーダイルの動きが変わったことに驚くソニア。
「オーダイル、メガシンカ」
「へっ?」
ほ?
…………あ、ユキノをよく見てみたら、耳の後ろくらいの両側の赤い髪留めにキーストーンがそれぞれ付いてるわ。
いつの間に二つ目を手にしていたんだよ。
「……………バトルで、二度もメガシンカ?!」
ほら、ソニアが固まっちまってるじゃねぇか。
キーストーンの数だけメガシンカ出来るって感覚がなければ、普通はバトルにつき一回のみ、なんて固定観念に縛られてしまうんだからな?
まあ、ユキノはそれを分かった上で使っているんだろうけども。
こんなブレーンがいたら、俺に辿り着く奴が現れるのなんてずっと先になるんじゃないだろうか。
ダンデですら、ユキノの攻略に時間がかかりそうだし。
「アクアジェット」
赤いフードが付いたオーダイルが水を纏って、一瞬にしてラグラージの懐へと入り込む。
「げきりん」
そして、これまで高めた竜気を一気に解放し、流れるような動作で殴る蹴るの一方的なリンチが始まった。
…………メガシンカしたら、みず・ドラゴンタイプになるんだっけ?
まさかあのげきりゅうの暴走から得たげきりんが、メガシンカすることでタイプ一致の技に昇格してくるとは……………。
人生何が起こるか分からんな、本当に。
「…………ラグラージ……戦闘不能……。よって勝者、ユキノちゃん」
ダイゴさんは最後までドン引きである。
何なら引き疲れた顔をしている。
ちょっと老けたようにも見えるぞ。
「お疲れ様、オーダイル。ゆっくり休みなさい」
「オダ」
オーダイルがメガシンカを解いてボールに戻っていくのに対し、ソニアはまだ動けないでいる。
あー、ちょっとやり過ぎだったか?
というか、ユキノの言葉が容赦なくソニアの心を折りにいっていたからな。
そっちもあって、昔のことがぶり返しているのかもしれない。
仕方ない、俺が声をかけるとするか。
「おーい、ソニアー。生きてるかー?」
ソニアの目の前まで移動して、顔の前で手をヒラヒラさせても反応が返ってこない。
「あ、ダンデ」
「えっ!? どご?!」
うわっ?!
ダンデには反応するのか、こいつ。
しかも反応に勢いがあり過ぎて、「こ」が「ご」になってるし。
「なんだ、生きてるじゃねぇか。早くラグラージをボールに戻してやれ」
「え? あ、うん………。ラグラージ、ありがとう。戻ってゆっくり休んで。それでダンデくんは?」
「いねぇよ。いるわけねぇだろ」
「そっか………よかった、見られてないんだね…………」
そんなに今のバトルをダンデに見られたくなかったのだろうか。
何というか、ダンデの横に並ぶ自分の姿っていうのの理想が、時間が経つにつれてめちゃくちゃ高くなっちゃってんじゃねぇの?
「痛っ!? な、なに? なによう………!」
「いや、別に。なんかチョップしたくなっただけ」
バシバシとチョップを落とすと訳も分からず涙目になるソニア。
「女性に手を出すなんて、近い将来私たちも乱暴されちゃうのかしら」
「しねぇよ。縁起でもないこと言うなよ」
俺の大事なもんを傷つけてたまるかよ。
ユキノを皮切りに、他も俺たちのところへと集まってくる。
「………なあ、ユキノ。クレセリアは出さなくてよかったのか?」
話を変えるためにもクレセリアについて聞いてみることにした。
「最初はクレセリアも出す予定だったわよ。けれど、ユイとのバトルを見て、パルシェンの方がソニア博士が嫌がりそうと思ったのよ」
嫌がりそうって………。
「そもそもパルシェンっていたっけ?」
「さっきポケモンセンターで姉さんと交換してきたのよ。私はこおりやみずタイプ、姉さんははがねやむしタイプを専門タイプに選んだから、パルシェンとフォレトスを交換したってわけ。どうせ同じ男を愛してしまって、甚だ遺憾ながらも姉さんともずっと一緒にいることになりそうだから、交換してもフォレトスとは一緒にいられるもの。それに、パルシェンとも付き合いは長いから、技や特性も既に知っていたし、交換してすぐに実戦投入するくらいは訳ないわ」
「そうそう。パルシェンも普通にユキノちゃんの言うこと聞いていたし、何ならこおりタイプを鍛えるのを手伝ってたくらいだもの。だから言いにくそうにしてた妹に代わってお姉ちゃんである私から提案してみたのよ。私たちなら離れ離れになることもないしさ」
「姉さん、言いにくそうにはしてないわ」
「お、おう………そうか」
だからポケモンセンターに行っていたのか。
それにハルノがニヤニヤしていたのも、そういう理由ね。
俺がどうのっていうのも専門タイプの話ってことで、ハルノのパルシェンという点が分かれば、すぐに分かったかもな。
「それに、クレセリアを外したことによって、ソニア博士はオーダイルが出てくるまで、ずっとクレセリアを警戒しながらバトルすることになったでしょう?」
「まさかそれすらも………!」
「ええ、イロハにはヒードランをメガシンカさせてくると思わされてのマフォクシーのメガシンカ、さらに最後にはボルケニオンって三段構えがあったのだから、私もそれくらいしないとと思って」
うっわ、やっぱりやってんな…………。
ソニアが可哀想過ぎるわ。
「そんなとこで律儀さを出すなよ」
「あら、最後までぜったいれいどで倒してては面白みがないじゃない」
「それもそれでどうなんだよ…………」
仮に一撃必殺を使えるポケモンを六体用意して、バンバン狙いに行ってたら恐怖でしかないぞ。
ソニアにとってはジムチャレンジ以上のトラウマになるまである。
「ぜったいれいどを使える三体は徹底的に鍛え上げたもの。大抵のポケモンは倒せるんじゃないかしら」
「リザードンやゲッコウガもか?」
「ゲッコウガはユキメノコにみちづれでやられた過去があるから、意地でも倒れてやらんって言ってたわ」
「なら無理そうだな」
ゲッコウガが無理なら、リザードンも無理だろうし、そこに張り合うジュカインも無理矢理耐えてくるだろう。
「あと、そもそも当たらなければいい、とも言っていたわね」
「確かにな。一撃必殺は使う側が相手より実力が下だとそもそも効果を発揮しないが、実力が優っていて効果が発揮するとしても、結局のところ、当てられなければ意味がない。そういう意味では、ユキノの当て方は理に適ってるわな。身動き取れなくなったところを確実に狙ってるわけだし」
「これでも結構試行錯誤したのよ? ポケモンによって使える技は異なるし、勝ち筋を作るためには、ポケモンごとにどの技と組み合わせるといいか、とか、どの状況下でなら一番効果が発揮されるか、いくつかパターン化するにはどうしたらいいか、だとか」
こういうところなんだよなー。
やり出したら、自分が納得するところまでとことん突き詰めてしまうから、ユキノは手強いのだ。
「それにソニア博士。オーダイルが出てきた時、驚きはしたものの、すぐに落ち着いたわよね? それってクレセリアがいないことに安堵して、私の切り札はユキメノコと考え、あとはどこで既にメガシンカしているユキメノコに代えてくるかをずっと探っていたんじゃない?」
「え? あ、うん……そうだけど…………」
ソニアはまだユキノの意図が読み切れていない感じかな。
まあ、ユキノのオーダイルの暴走を知らなければ、分からない話ではあるか。
「なるほど。だからげきりゅうが発動するまで手の内を見せてなかったわけか」
「うっわ、ユキノ先輩、私よりエグいことしてますね。げきりゅうで暴走したオーダイルの力をげきりんに昇華させてくれた先輩に、オーダイルがメガシンカした姿をそんなに見て欲しかったんですか?」
「そ、それは……ないとは言わないけれど、あなたと同じことをしても面白くないじゃない」
お前、実はただ俺にオーダイルのメガシンカを見せたかっただけだな?
ついでにユキメノコのメガシンカも。
そのために態々二個目のキーストーンも用意したと?
「………ソニアには先の先まで読ませた上で、そもそもそう読むこと自体が間違いでしたーってか? こっわ」
怖いわー。
うちの嫁さん、超怖いわ。
「えっ!? まさか思考回路まで踊らされてたの?!」
「トップクラスになると相手の思考回路まで誘導して、こちらが有利になるように仕向けるトレーナーもいるのよ。それを全部ぶち壊すようなトレーナーとポケモンもいるけれど。ね?」
「ね? で俺を見るなよ。普通にあらゆるパターンを想定して、どのルートで技や挙動を見せてくるかを探って、その上で潰しに行ってるだけだろうが。主にゲッコウガが」
だって、あいつザイモクザ的な部分があるし。
遊び出したら妙に強いからな。
「ええ、そうね。あなたのゲッコウガはこっちが読めなくなるもの。読めたとしても圧倒的な火力でどうにもならないリザードンもだけど」
「アレは俺のせいじゃない。あいつらが異常なの」
「その思考回路の大元はあなたでしょうに」
それは言わない約束でしょうが。
「ソニア博士には、何か超えなければいけないものがあるのでしょう? それなら私も目には目を、歯には歯を。やるからには全力でやらないと申し訳ないと思ったのよ。それにその…………」
「何だよ」
何故か俺をチラチラと見ては言い淀むユキノさん。
「あなたの思惑の良い例にはなれたかしら?」
こいつ…………。
そこまで気にしてバトルしていたのかよ。
「………ああ、充分だよ。良いもの見せてもらった」
全く………、こいつめ。
「うぅ………これでまだあと二人いるって嘘でしょ………」
ソニアは明日にまだ二戦残っていることに嘆いているが、ユキノを撫でることに集中させろ。
「そこのお二人さんはデータ取れました?」
「うん、バッチリ。でもまさかオーダイルだけじゃなくてユキメノコのまで取らせてもらえるとは…………本当にありがとう!」
「お役に立てたのなら光栄ですよ………」
イロハが変態博士に確認すると、どうやらしっかりと目的は果たせたらしい。
ここも手伝っていたんだよな。
一体、このバトルにユキノはどれだけのもんを抱えていたんだよ。
割とソニアよりも重っ苦しい状況だったんじゃねぇの?
「どう、ソニア博士。現役チャンピオンなんか目じゃないくらいのが、彼の周りにはゴロゴロといるでしょう?」
「………はい」
現役チャンピオンにそんなこと言われたら、萎縮しますよ。ってかもうしてるよ。
「明日はハルノちゃんとでしょ? ユキノちゃんの姉ってことを忘れちゃダメよ」
「ひぇ………」
追い討ちをかけてやらんで下さい。
今コテンパンに負けたところなのに。
「明日は楽しくバトルしましょうねー」
「おいおいおい、脅すな脅すな」
シロナさんに便乗したハルノがソニアの肩に手を置いて、耳元でそんなことを囁いた。
「うぅ………ハチく……んはダメだ。アレは敵………コマチちゃーん!」
「おー、よしよし。怖かったですねー」
助けを求めて一度は俺を見たソニアだが、何故か敵認定されてしまいコマチの方へと逃げていってしまった。
「ついにソニア博士から敵認定ですよ?」
「遅いくらいじゃない?」
「そうかも」
「お前ら…………」
イロハ、ユキノ、ユイと俺のこと散々に言い過ぎじゃない?
そこへすっとシズカさんが現れた。
「まあ、そんな気落ちすることはないさ」
「あなたは………?」
「ヒラツカシズカ。トレーナーズスクールの元教師で、こいつらの殆どは私の教え子だ」
「えっと………、つまり元凶の人?」
「違う違う。ヒキガヤもユキノシタもスクールの頃から割と出来上がっていた。私が教えたことなんて…………うーん………なんだろうな」
「不器用な人たちへ生き方では?」
元凶ということには否定しつつも、シズカさんが俺たちに教えてくれたことがパッと出てこないらしい。
そこへコマチが割と的確なことを言い当てた。
「生き方か………それもどうだろうな。私も失敗してここにいる身だし」
「でも、ぶっちゃけお兄ちゃんしか考えられなくなっていたのでは?」
「ふっ、どうだろうな。気になるという点では昔からであるが、男として認識したのなんて………って、それはいいんだよ」
コマチに乗せられて言わんでもいいことを口にしていたことに気付いたシズカさんは、顔を紅くしながら話を切り替えていく。
「ん、んん。ヒキガヤの周りはあいつに感化されて、妙な強さを手に入れていくのばかりでな。化け物ばかりが出来上がっていく始末であるが、それでもこうやって見込みのあるトレーナーに手を差し伸べるくらいには、人の心も残っていてな」
「お兄ちゃんたち、人外認定?!」
コマチ、今は大人しくしてなさい。
対して、シズカさんは落ち着くためにタバコを咥え、火をつけた。
「特にヒキガヤがここまで一個人に肩入れするのなんて、私たち以外にはないことだ。だから何かしら君に乗り越えて欲しいものがあるのだろうさ。そしてそれが何なのかも、君は分かってるんじゃないか?」
「それは………そうですけど…………」
タバコを吸って一息吐くと、どこか遠くを見ながら思い出すように呟いていく。
「『もし、英雄と呼ばれる資格があるとするならば、剣を取ったものではなく、盾をかざしたものでもなく、癒しをもたらしたものでもない。己を賭したものこそが英雄と呼ばれるのだ。仲間を守れ、女を救え、己を掛けろ、折れても構わん、挫けても良い、大いに泣け、勝者は常に敗者の中にいる、願いを貫き、想いを叫ぶのだ、さすれば、それが、一番、格好のいいおのこだ』…………まあ、君も私も女ではあるがな。勝者はいつだって敗者の中にいるんだ。だから大いに負けるといい。泣き叫んだっていい。負けて負けて負け続けても己を賭してそこから這い上がれたならば、君が見たい景色を見ることも出来るだろうさ」
そう言って、タバコを咥えながら研究所の中に入っていくシズカさん。
背を向けながらヒラヒラと軽く手を振っているのもいい。
言葉も所作も何から何までかっこいいのに、元ネタを知っているだけにちょっと笑ってしまう。
その名言、色ボケ爺な神のやつじゃん。
「スクールの元教師、か………」
「凄いわね、あの人。ハチマン君の身内とは思えないわ…………」
現役、元チャンプの二人がシズカさんを見て感心している。
そりゃそうだ。
あの人はいつだってそうだった。
だから俺はスクールにいた時でもあの人を心から邪険に思ったことはないし、だからこそ俺はあの人を傷つけたあいつらを許すことが出来なかった。
「そりゃ、俺の恩師ですから」
俺の大事な恩師はいつだってかっこいいんだよ。