ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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150話

 午後。

 今日は一日こっちにいるらしいママのんたちは、それぞれ娘たちと談義………談義でいいのか?

 どう見ても何かのレクチャーをしているようにしか見えないのだが。

 特にガハママ。

 ユイに一体何を吹き込んでいるんだ。

 その手の動きとか、めちゃくちゃ怖いんだけど。

 怖いで言ったら、ママのんもそう。

 こっちはガチの怖さがある。

 だって、ハルノもいるんだぞ?

 午前中にはこの三人の血の繋がりを見せつけられたところだってのに、今度は二人に何を仕込むつもりだよ。

 

「先輩、あの二家族のどちらかに混ざらないんですか?」

 

 そんな二家族を前にして、イロハがとんでもないことを言い出してきた。

 

「混ざったら最後、どうなるか分かったもんじゃないだろ。何ならお前も行くか?」

「嫌ですよ、恐ろしい。まだユイ先輩のところは勉強になるかもですけど、ユキノシタ家だけはお断りします」

 

 だろうな。

 イロハも嫌がるんだから、俺なんてエサがホイホイ捕まりに行くようなもんだ。

 ああ、恐ろしい。

 

「ふっ、あれはどう見てもヒキガヤをどう喜ばせればいいかのレクチャーだろうな」

「行ったら気まずいやーつ………」

 

 やっぱりそうなのか。

 あ、ねぇ、ちょっと?

 その手の動きはなーに?

 娘に何教えてんの?

 

「んで? シズカさんは何でソニアにキラキラした目で見られてるんです?」

 

 他人事なシズカさんではあるが、その彼女も別のところからキラッキラした視線を送られている。

 

「さあな。さっきこっちに来る時に会ったのだが、それからずっとあんな調子だ。君の妹がずっと側にいるからこっちにまでは来ないが、アレは大丈夫なのか?」

 

 確かに今はコマチが相手をしているようだが、それでも時折チラチラとこちらに視線を送ってきている。

 コマチが生贄みたいに見えてきたわ…………。

 

「午前中にハルノがポッキリ折っちゃったもんで………。まあ、何だかんだここに戻って来てるんだし、口では嫌がっていてもスイッチが入ればどうにかなりますよ」

「彼女は………その、自分の異質さを理解していないのか?」

「全てがダンデ基準なんで。唯一他の基準って言ったら、祖母のマグノリア博士でしょうね。そして、その両方に対してコンプレックスを抱いている」

「難しいお年頃だな」

 

 そうなんだよなー。

 遅めの反抗期というか、反抗期を迎えられなかった反動というか。

 そうは言っても根本的な問題は、ソニアの自分と比較する対象が二人しかいないってところだ。ギリ何とか増えたところでルリナかキバナ辺りになるだろうから、一般というものがあいつの中にはない。

 まあ、午後の相手は一般という概念からは別方向に抜きん出た変わり者だから、色々とぶっ壊れてきたソニアの中の概念をいい感じにぶっ壊してくれることを祈ろう。

 

「ヌハハハハハッ! 我、参上!」

 

 噂をすれば、野太い声で高笑いして奴が現れた。

 

「我が名は剣豪将軍、ザイモクザヨシテルである!」

 

 相変わらずおデブで相変わらずベージュのロングコートを着ていて、相変わらず指貫グローブをしているメガネ。

 そんな変人がいきなり出てきて、しーんとなるのはいつものことである。

 

「名前はまだない」

「あるわい!」

 

 某有名小説の出だしっぽいテンポなので、そのまま続きを言ったら即反応された。

 お前、相変わらず俺の言葉には敏感に反応するよな。

 

「久しいな、我が相棒よ」

「お前を相棒と思ったことは一度もなければ、今後もない」

「えぇー、ハチマンのいけずぅ」

「やめろ、くねくねすんな」

 

 太い身体でくねくねすんな。

 気持ち悪いを通り越して気持ち悪い。

 

「えっ、と………?」

 

 変人の登場にソニアが固まっている。

 無理もない。それが当然の反応である。

 

「これが午後の対戦相手な」

「えっ?」

 

 事実を告げると一段と言葉を詰まらせた。

 

「して、ハチマン! 我にバトルをしろとのことであるが、いじめとか言われない?」

 

 気にするとこ、そこ?

 

「言われないから。多分、恐らく………本人が訴えなければ?」

「それは大丈夫じゃなくね?」

 

 一応、ソニアも分かってはいるだろうから、そんなことにはならないと思う。

 うん、でもザイモクザだしな。

 俺でも相手にしたくないザイモクザだし、絶対に訴えられないという保証はないな。

 

「大丈夫だ。何やかんやでソニアの心は折れずにここにいるわけだし」

「いや、結構折れたからね?! あの姉妹にポッキリ折られたからね!?」

「あ、折られたのか。おめでとう?」

 

 いつの間にか復活してるから、そういう面では割と切り替えが早い方なんだと思っていたが、しっかり折られていたようだ。

 切り替えが早いってより、隠すのが上手いってだけか。

 だからダンデたちにコンプレックスを抱いてるんだろうし。

 本当に難しいお年頃である。

 

「せめて励ましてよ! 殴りたくなるから!」

「暴力系ヒロインは最近流行ってないのであるぞ?」

「暴力系ヒロインって何!?」

「ツンデレのツンが相まって手が出るタイプのヒロイン、とでも言えばいいのか?」

 

 アンタ、バカァ? みたいな感じで胸ぐら掴まれるとか、恥ずかしがってビンタされるとか、そういう感じのキャラじゃなかったっけ?

 

「そうじゃない! いや、そういうヒロインのことなのは分かったし納得したけど、わたしはそうじゃないから!」

「暴力系ヒロインも結構そういうこと言うのであるぞ」

「だぁぁぁ、もう! ハチくんを二人相手にしてる気分!」

 

 うるさいうるさいうるさい! とか、風穴ァ! とか吠えてるイメージもあるな。

 パッと出てきた声がどっちも同じだったけど、まあそういうものだろう。

 

「面白いギャルであるな」

「これでも博士なんだぞ」

「つまり賢いギャルでもあると」

「そう、賢いギャルでもある」

 

 賢いギャルってなんか強そう。

 高学歴ギャルとかも。

 というかある意味、ギャルは何においても強いのかも。

 だってギャルだもん。

 ハヤマすら手懐けたオカンなギャルもいるくらいだし。

 

「ねぇ、ちょっと?! 二人してわたしのことジロジロ見ながらギャルギャル言うのやめてくんない?」

「ユイガハマ嬢より派手なのにギャルではないと?」

「派手なら何でもギャルってわけじゃないから」

「えっ、お前ギャルじゃねぇの?」

 

 えっ?

 違うのか?

 てっきりルリナと二人、白ギャル黒ギャルの類だと思ってたんだけど。

 ……………というか、それでいくと俺普通にギャルと接してることになるのか。

 っべー、マジべーわ。

 

「わたしがギャルならシャクヤもギャルになるよ」

「うん、ソニアはギャルじゃない。ただただ露出度の高い服を着て無自覚に男を誘惑するエッチな箱入り娘だ」

「何でそうなるし!」

 

 シャクヤはギャルじゃないんだ。

 あいつは父親があんなんだから、反抗期が見た目に出ているだけの可愛い妹分なんだよ。だから決してギャルではない。ないったらない。

 

「………ハチマン、エッチな箱入り娘ってなんかいいな」

「お前はどこに反応してるんだよ………」

 

 分からなくもないから余計にタチが悪い。

 

「うん、なるほど。大体扱い方は分かったのであるぞ」

「何が?!」

「ソニアの取り扱いだろ?」

「はぁ!?」

 

 どうせ恭しくされたくないんだし、これでいいだろ。

 ザイモクザも変に畏まらなきゃいけない相手では、バトルもしたくないだろうし。

 というか博士呼びはしても、もう誰も博士として扱ってないし。

 シロナさんとかダイゴさんくらいじゃね?

 あと変態博士とか。

 だから俺の胸ぐら掴むのやめてくれない?

 暴力系ヒロインは流行らないぞ?

 

「いよー、ハチマン。午後はオレも見学させてもらうぜ」

「あ、いたんすね」

「ハニーにばかり仕事を押し付けてはいられないからな」

「それはそう。バーネット博士に迷惑かけんなよ」

「つーわけでいつでもガラルで実証実験出来るようにしてきたぜ」

「さいでっか」

 

 上半身裸に白衣の変態博士二号のご登場である。

 ねぇ、俺がソニアに胸ぐら掴まれてることはスルーなの?

 状況確認とかしないわけ?

 

「さあ、先輩。早く早く」

「ちょっとシロナ、待ってくれよぉ………」

 

 こっちの二人も仕事を終わらせてきたみたいだな。

 そんなにバトルを見たかったのだろうか。

 

「ハ〜チ〜く〜ん? 聞けやおい!」

 

 そして、誰も俺がソニアに胸ぐら掴まれてぐらぐら揺らされていることにツッコむこともない。

 何故………?

 

「なんか勢揃いだな」

「最後にソニア博士のバトルがどうなったのか、皆見たかったらしく、それまでに仕事を終わらせるように必死だったみたいだよ」

 

 あ、イケメン御曹司までご登場だ。

 まあ、この人は今回も審判だし、待ってたまであるけども。

 

「最後がザイモクザ相手のバトルでいいのだろうか………」

 

 皆、ハルノのバトルを見ないで仕事を終わらせて、最後のバトルだけでもってことで戻ってきてるみたいだが、その最後がザイモクザで満足出来るのだろうか。

 多分、頭痛くなると思うんだわ。

 

「えっ、そんなに一方的になるのかい?」

「んー、ある意味? まず観戦するのにも体力も気力も使うと思うんで、終わったら頭痛を覚悟しておいた方がいいかと」

 

 とち狂って頭の頭痛が痛いとか言い出すかもしれないぞ。

 終わったらロジカルシンキングで論理的に物事を考えられるように落ち着けるようにしないとな。

 だからそろそろ解放してくれませんかね、ソニアさん?

 バトル前から俺の頭がとち狂ってきたわよ?

 

「さて、ソニア博士。まずはこれを振って欲しい」

「サイコロ?」

 

 ザイモクザが突然サイコロを出したことで、ソニアの手は止まった。

 あー、やっと解放された。

 

「うむ、今回我が使うパーティーを選んでもらおうと思ってな。チーム名はこんな感じであるぞ」

 

 そう言ってザイモクザはパネルを見せてきた。

 なんかテレビとかでよくある感じのフリップというかパネルだな。

 

「お前、パネルまで用意したのかよ」

「午前中はこれを作っていたからな」

「無駄な時間の過ごし方よ…………」

「トツカ氏とお主のゲッコウガも手伝ってくれたぞ?」

「マジかよ、道理でいないわけだ」

 

 確かにいなかったな。

 いや、ゲッコウガも何してんだよ。

 よくこんなのに付き合ったな。

 

「では、サイコロを振る前にそれぞれのパーティー名を紹介していくぞぃ!」

 

 ああ、始まったよ。

 ザイモクザワールド。

 ちゃんとまともなのを作ってきたんだろうな?

 

「まずは一の目《疲れないくらいで全力を出し隊ーー略して疲力隊》!」

「普通に全力を出せ。あと、お前と全力でやったらこっちの方が消耗が激しいんだよ」

 

 何だよ、この微妙な力加減の全力は。

 気持ちは分かるけども、普通に全力でやれよ。

 いや、こいつに限っては全力を出されると、それ以上にこっちが疲れるから、出さないでいてくれる方が助かる、のか?

 

「二の目《鋼の錬金術師ーーフルメタル・アルケミスト》!」

「何を等価交換する気だよ」

「右腕と左脚?」

「機械鎧を付けるハメになるから却下」

 

 というか、バトルしてたらマジで右腕と左脚がもげそうで怖い。

 それくらいのことをやり兼ねんのがザイモクザだから、冗談で済まないんだよな、こういう話題。

 

「三の目《電撃使いーーエレクトロマスター》!」

「最強無敵の電撃姫に謝れ」

 

 ただまあ、これはザイモクザのやりたいことは分からなくもない。

 元々、ザイモクザワールドはこの辺から始まってるくらいだし。

 

「四の目《超能力者ーーレベル5》!」

「悪夢を思い出すわ」

 

 これはアレだ。

 俺とフルバトルした時のパーティーだろう。

 しかも最強無敵の電撃姫モチーフもちゃんとあるし。

 だが、あんなもん、俺でも実質戦闘不能を量産されたのに、ソニアには厳しすぎないか?

 

「五の目《超電磁砲を撃ち隊ーー最強無敵の電撃姫》!」

「三と一緒じゃねぇか」

 

 一体、何が違うというんだ。

 まさか五はただただでんじほうを撃ち続けてくるとかか?

 それはそれで嫌すぎるし、結局三と似たり寄ったりになるんじゃねぇの?

 というか電撃姫のネタが多すぎるわ。

 

「六の目《飛べない鳥はただの鳥ーーフライングサーカス》!」

「おい」

 

 フライングサーカスでやりたいことは分かった。

 分かったが、それに適合するポケモンっていたか?

 ユキノはボーマンダにやらせていたが、ザイモクザが使っているところは見たことがない。

 元ネタの作品自体はザイモクザも知っているだろうけど、いやほんとどうする気だよ。

 ……………ザイモクザだからな。例えひこうタイプでなくても適合出来れば使ってくるのは間違いない。何ならひこうタイプと思わせての、全くひこうタイプがいないっていうパターンも有り得そうだわ。

 うっわ、ほんとこいつとだけはバトルしたくない。

 まだダンデの方がいいまである。

 

「取り敢えず、三と五の違いは何だよ。一緒じゃねぇか」

「でんきタイプであってもレールガンを使えぬ者もいる。つまり、そういうことだ」

 

 何が、つまりそういうことだ、だよ。

 三も結局はでんじほうを撃ってくるってことじゃねぇか。

 それがでんきタイプに寄ったパーティーかどうかの違いって、ソニアには関係ない話だと思う。

 

「ハチくん…………さっぱり理解出来ないんだけど」

「そういう奴なんだよ。俺でも理解出来ない。というかしたくない」

「えぇー………」

 

 ほら、ソニアには全く伝わっていない。

 何ならダイゴさんやシロナさんはパーティー名から、構成を考え抜こうとしているくらいだ。

 いや、そんな深読みするようなやつじゃないからね?

 

「えっと………一の目は本気のパーティーってことでいいのかな。二の目ははがねタイプ………? 三の目はでんきタイプってこと? 四の目は超能力者だからエスパータイプってことかな………。五の目は超電磁砲って何? でんじほうを撃ってくるの? 六の目は…………ひこうタイプ?」

 

 お前もかよ。

 しかも四なんかかなり読みを外してるし。

 まあ、これが普通なんだよ。

 こんなもんをぽんと出されて、即理解しろとか無理な話である。

 ザイモクザと付き合いのあるユキノたちですら、頭を悩ませているくらいだ。

 

「むふん!」

「お前、ソニアが考えあぐねてるのを見たかっただけだろ」

「そうとも言う」

「お前な………」

 

 バトル前から無駄に負荷をかけやがって。

 ソニアはバトル前から情報を出来るだけ仕入れたいタイプだろうから、情報は提示されてるのに理解出来ないというのは、すごく歯痒いことだろう。

 可哀想に。

 

「とはいえハチマン。我の前にバトルしてたのはイッシキ嬢にユイガハマ嬢、それにユキノシタ姉妹なのであろう?」

「まあな」

「…………よく平然としていられるのである。ソニア博士は………頭のネジが足りないのではないか?」

「足りないんじゃなくて錆びついてるんだよ。今はお前らとバトルさせて錆び取りしてんの」

「ああ、なるほど。そっち系であったか。我としてはそういう女子もありだと思うぞ。見てる分には」

「見てる分にはってのが全てを語ってるんだよなぁ………」

 

 まあ、ぶっちゃけ前四人とバトルした上で、何だかんだ文句は言いながらもここに立っているんだから、ある意味ソニアもダンデに似たり寄ったりなんだよなー……………。

 

「どうしよう………この二人の会話が理解出来ない………」

「大丈夫ですよ、ソニアさん。誰も話についていけないのを含めていつものことですから」

「そうそう、木材先輩を理解出来るのは先輩くらいですよ」

「ん? 私も何となく理解出来てるぞ?」

「うぇ!? 先生、マジですか?! あ、いや……先生も元ネタを知ってる側か」

 

 あ、シズカさんは理解出来てるのね。

 確かに女性陣の中では、一番こっちの文化に親しみがあるのはシズカさんだもんな。

 

「まあな。だが、今私が解説し過ぎてもザイモクザの意図を潰すことになるだろうし………どうしたものか………」

「シズカさん、コンセプトくらいなら言っちゃっていいっすよ。こいつの場合、言ったところでなんで」

「まあ、それもそうか」

 

 そう、言ったところでなんだよ。

 実際にバトルになれば、もっと頭を使うことになるんだから。

 分かったところで面倒くささは変わらない。何なら跳ね上がるまである。

 

「一の目は古参メンバー中心の全力パーティー。二の目、三の目ははがねタイプとでんきタイプ統一辺りだろう。四の目は以前ヒキガヤとバトルした時のアレだろうし、五の目はでんじほうばっか撃ってくるのだろうし、六の目はひこうタイプと見せかけて裏があるってところかな。まあ、空中戦がしたいのだろう」

 

 うん、流石はシズカさん。

 分かってらっしゃる。

 

「四の目のアレってなに…………」

 

 アレはアレだよ、セロリさんとか冷蔵庫とかみこっちゃんとかがモチーフのパーティーだよ。

 なんて言ってもソニアには伝わないだろうけど。

 

「キャラの能力の再現、とだけ言っておこう」

「ソニアにとっては一番の地獄かもしれん」

「え、なに、えっ………? どゆこと?」

「バトルすれば自ずと分かる」

「えぇ………」

 

 多分、この中で一番しんどいのは四だと思う。

 元ネタのキャラが強キャラなため、それに合わせた技の再現ともなると、かなりやべぇことをしなきゃいけなくて、実際にそういう見せ方をしてくるんだから手のつけようがない。

 

「では、サイコロを振ってもらおうか」

「えぇー………怖いんだけど………」

 

 俺も怖いわ。

 結局、ザイモクザは何がしたいのだろうか。

 

「取り敢えず、想像出来ない一と四と六は来ませんように! よっ!」

 

 ザイモクザから受け取ったサイコロを大きく投げると放物線を描いていく。

 

「さあ、何が出る、何が出るかな………!」

 

 歌うなよ。

 それを歌うなら曲も用意しとけよ。

 

「あ、六だ」

「うっそ………でしょ………」

 

 結果が分かった途端、膝から崩れ落ちるソニア。

 

「そんなショック受けることある?」

 

 確かに嫌だと言っていた六が出てショックだろうけども。

 俺としては四を引かなくてよかったと思うくらいなんだが。

 やはり中身をある程度知っているかどうかによる認識の違いなのだろう。

 

「六の目《飛べない鳥はただの鳥ーーフライングサーカス》! はい!」

「え? な、なに?」

「リピート」

「え、と、飛べない鳥はただの鳥、フライングサーカス?」

「おめでとう」

「お前は今からトーク番組でもやるつもりか」

 

 ソニアに何やらせてるんだよ。

 ダンデに見せたら、ジムチャレンジ後の生放送でサイコロのコーナーをやりそうで怖いわ。

 

「えぇー? サイコロと言ったら、これであろう?」

「サイコロの旅とかの方もあるだろうが」

「シンオウ地方のであるか?」

「そう」

「アレをやり出したら地獄を見ることになるぞ。我は嫌だ」

 

 カントー地方からシンオウ地方を目指すのに、サイコロを振ったら別方向のホウエン地方に行ってしまい、ホウエン地方からカントー地方へ飛んだこと思えば、ジョウト地方に戻って、またホウエンに戻り、なんやかんやあってやっとシンオウ地方へ、とかになるもんな。

 怖い怖い。

 

「んで、甚だ遺憾ながらも何となくお前のやりたいことは分かったけどよ」

「けぷこんげぷこん! 六の目は特にお主が一番理解してるであろうからな! 我もあの作品は好きであるぞ。そういえばと見直して我も使えるんじゃね? ってことでやり始めたらいけちゃったくらいだ。まあ、見本があったってのが大きいだろうが、そんなのは些末な話よ」

 

 大きいのか些末なのかどっちなんだよ。

 

「まあ、お前が一番理解度高そうではあるよな」

「ということで見ておけ、ハチマン。我のフライングサーカスを」

 

 ああ、うん。

 もう本当。俺からしたら答えを言ってるようなものなんだよなぁ………。

 分からないのはどのポケモンを使ってくるかってことだけで、やりたいことが分かれば、対処のしようもある。

 ただ、知らないソニアからしたら、何やってんだってなりそうだが。

 さて、どこまでザイモクザに対応出来るのやら………。

 

「うーん………ユキノシタ姉妹も酷かったけど、今回は特に酷そうだね。二人とも、まずはルール確認するよ。今回もフルバトルの技使用制限はなし。交代も自由。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトルは終了。これでいいね?」

 

 最早ダイゴさんの中でもまともな奴がいない認定されている。

 今回なんかバトル前からもう酷そうな世界観が出来上がってたからな。

 ダイゴさんも諦めの境地に至ったのだろう。

 ソニアとザイモクザがそれぞれフィールドの定位置に着く頃には、観客が勢揃いしていた。

 

「……っし、大丈夫です!」

「いつでもいいのである!」

 

 あ、ソニアの表情が変わった。

 スイッチが入ったみたいだな。

 

「なら、バトル始め!」

「行くよ、キラフロル!」

「ギルガルド、フライングサーカスの始まりである!」

 

 ダイゴさんの合図を皮切りにバトルが始まった。

 最初のポケモンはソニアがキラフロル、ザイモクザがギルガルド。

 タイプ相性で言えば、断然ギルガルドが有利であるが、これまでのバトルを見る限り、キラフロルの役割は盤面作りだ。

 バチバチの展開はまだないだろう。

 

「どくびし!」

「ブレイドダンス!」

 

 いや、普通につるぎのまいと言え。

 

「つるぎのまいをブレイドダンスって………キラフロル、だいちのちから!」

 

 毒菱を撒き終わるとすかさず地面を唸らせ始めた。

 

「行くのである、ギルガルド! ハイヨーヨー!」

 

 だが、地面が爆発する前にギルガルドはその場から離脱。

 急上昇していってしまった。

 まあ、こうなるよな。

 

「はっ? なんて?」

 

 そしてこっちも予想通りの反応である。

 

「ジャイロ回転でトルネード!」

 

 それ、どっちも同じじゃないだろうか。

 トルネードを言う必要性なくね?

 

「えっ?! 怖っ!? キラフロル、躱して!」

 

 ジャイロ回転しながら落下し始めたギルガルドは、まさにドリルのようで、それにソニアが慄くもののちゃんと指示は出していた。

 

「そのまま地面に突き刺さったところにすなじごくだよ!」

 

 なるほど。

 躱せばそうなると予想するのは間違いではない。

 あの勢いならば、外せば地面に突き刺さるどころか、潜ってしまいそうな勢いだ。

 

「甘い、甘いのである! エアキックターン!」

 

 だが、それくらいザイモクザも分かっている。

 キラフロルに躱されると地面スレスレで踏み留まり、圧縮された力で反発し、再度キラフロルへと突っ込んでいく。

 

「うぇ!? 何で?!」

「影に潜み、影を穿て!」

 

 そしてゴーストタイプ特有の消える能力を駆使して、ソニアとキラフロルを惑わせると、キラフロルの真下から影の剣が伸びてキラフロルを突き上げた。

 これ、ぱっと見ゴーストダイブやシャドーダイブに見えるよな。最後の攻撃が剣になってるから、まだシャドークローなんだろうと予想は付くが、これが普通に体当たりであれば、見分けが付かないことだろう。

 

「超念刃!」

 

 そこへ姿を現した本体がサイコカッターを飛ばしてくる。

 

「キラフロル、一旦交代だよ!」

 

 直撃する寸前にボールに吸い込まれたことで九死に一生を得たか。

 

「ハチくんの言っていたことがようやく分かったよ。こんなバトル、無駄に疲れるっての! マッギョ、すなあらし!」

 

 あ、もうそこは理解したのね。

 そうだよ、これがあるからザイモクザとはやりたくないんだよ。

 

「ギルガルド、邪悪なる風で逆風を起こすのだ!」

 

 邪悪なる風ってなんだよ。

 ただ、砂嵐に対して逆風をぶつけて弱まらせたのだけは分かったわ。

 名前からしてあくやゴースト寄りの風を起こす技ってところか?

 そうなるとあやしいかぜ辺りが怪しいが………洒落じゃねぇぞ?

 

「何言ってるか、さっぱりだっつーの! ほうでん!」

 

 ソニアは深く考えることをやめたようだ。

 広範囲に影響を及ぼす技を選び出したのがその証拠だろう。

 

「ソニックブーストで躱すのである!」

 

 ギルガルドは急加速して放電の穴をすり抜けていく。

 

「ソニックブームじゃないんかい! マッギョ、じゅうでん!」

 

 ツッコミは健在なようだ。

 そのせいか、ハルノたちとのバトルとは違って、声は明るいような気がする。

 

「なら、こちらも影分身の術!」

 

 ギルガルドが分身体を増やし、マッギョを見下ろすように取り囲んだ。

 

「まんまじゃん!」

 

 それを見たソニアは再度ツッコミ。

 忙しいな、おい。

 

「太陽の剣を振り下ろすのだ!」

 

 恐らくこれはソーラーブレードだろう。

 砂嵐を逆風で弱まらせたことで、太陽光を砂嵐の中ではまだ集めやすかったってところか?

 

「あなをほるで躱して!」

 

 振り下ろされる前にマッギョは地面に潜り難を逃れた。

 当たれば効果抜群だったからな。

 

「ぬふー………やるではないか。ギルガルド、一旦交代であるぞ」

 

 あ、交代なのか。

 今のところ、やっぱりザイモクザだなってくらいのバトルでしかないんだが、ここからどうするつもりなのだろうか。

 

「ロトム、ソニックブーストで躱すのだ!」

 

 交代で出てきたのはロトム。

 なのだが、あれは洗濯機か?

 ウォッシュロトムとか言ったっけ?

 

「また………! しかもふゆうのせいでどくびしが発動しないなんて………!」

 

 ソニアもその辺の知識はもちろんあるようで、またしても毒菱が発動しなくて悔しがっている。

 うーん、何となく今回のザイモクザのパーティーは毒菱が効かないような気がしてきた。

 何やかんやではがねタイプが多かったイメージがあるし、そういうのに限って浮いてるし。

 

「そのまま雨雲を呼ぶ儀式を行いながら、ハイヨーヨーである!」

 

 恐らくあまごいだろう。

 雨雲を呼びながら急上昇。

 

「雨………! マッギョ、かみなり!」

 

 からの急下降に雷鳴が鳴り響く。

 

「防壁を張れぇ!」

 

 寸でのところでロトムが球状の防壁を張って霧散させた。

 

「さあ、ロトム。今こそお前の秘めたる属性を解放するのだ!」

 

 そして、その防壁ごと力を解放し、真下にいるマッギョに向けて放った。

 確かこの言い回し、めざめるパワーじゃなかったか?

 

「マギョ!?」

 

 まさか防壁を突き破ってくるとは思っていなかったのか、マッギョは撃ち抜かれてしまった。

 

「マッギョ、ほうでん!」

 

 それでも電撃を無造作に放ち、ロトムを近づけさせまいとしている。

 

「防壁を張って突き進めぇ!」

 

 うっわ、まさか球状の防壁に籠ったまま落下する気か?

 

「えっ………?」

 

 うっわ………まさかのそのままマッギョの上に着地しちゃったよ。

 薄っぺらい身体だからって足場のようにするんじゃねぇよ。

 そのまま電撃でも浴びればいいのに。

 

「ふふん、マッギョに乗ってしまえばなんて事はないのである」

「くっ、ほうでん!」

「呻れ、水砲撃!」

 

 マッギョが電撃を放つと同時にロトムはハイドロポンプを真下に向けて放ち、自身はその勢いで上昇していった。

 イロハがヒードランで見せたやつだな。

 しかも使い方がザイモクザの方が攻防一体を兼ねていて、ソニアが絶句している。

 

「……………マッギョ、戦闘不能!」

 

 うん、だろうな。

 何なら身動き取れなくて急所に入った可能性もある。

 何言ってるか分からないのに気付けばこれだからな。

 本当に相手にしたくないトレーナーだわ。

 

「嘘だろ…………こんなバトルを僕は審判しないといけないのかい…………」

 

 そして絶句しているのは何もソニアだけではない。

 審判をしているダイゴさんも頭を抱えていた。

 いやー、うん。審判って大変だよな。戦闘不能になったかどうかの確認だけでなく、ポケモンの数や技の整合性とか、色々確認することは多い。ことソニア魔改造計画のフルバトルにおいては、技の使用限度がないため数えている必要もなければ、交代も自由なため、交代に関わる技の使用とかもチェックしなくていいのだが、ザイモクザのバトルとなると指示を理解するのに技が使われてからになるため、ワンテンポ遅れることになる。

 それがまだまだ続くのかと思うと、頭を抱えたくもなるだろう。

 

「何言ってるのか、全然分かんない…………マッギョ、戻ってゆっくり休んで」

 

 ソニアはソニアでザイモクザの指示が理解出来なくて頭を抱えているし、観戦組も慣れていないシロナさんやククイ博士たちがお口あんぐりである。

 この場で楽しめているのは本人だけという、何とも奇妙なバトルだわ。

 

「取り敢えず………ハイヨーヨーは上昇からの下降でトルネードはジャイロボールと一緒だったからアレだけど、回転ってことだろうし、ソニックブームじゃなくてソニック………ブーストか。アレは初速を上げる感じ………でいいのかな…………」

 

 何やらぶつぶつと言っているが、ザイモクザが使ったフライングサーカスの技名がどういう動きのものかを思い出して確認しているのだろう。

 バトルに取り入れた張本人なため、こんなこと思うのは間違ってるのかもしれないが、ザイモクザに使われるとすげぇ面倒だな。

 

「よし! いくよ、ジャラランガ!」

 

 頭の中で纏まったのだろう。

 切り替えてジャラランガを出してきた。

 キラフロル、マッギョ、ジャラランガ。

 午前のバトルに出たメンバーを考えると、残りはサダイジャ、アーマーガア、ラグラージだろうと思われる。

 流石にまた新しいポケモンが増えてる、なんてことはないと思う。ないよな?

 

「呻れ、水砲撃!」

「れいとうパンチで凍らせて!」

 

 ロトムが撃ち出した水砲撃を氷を纏った拳で殴りつけ凍らせた。

 水飛沫すら凍ったため、奇抜な花みたいになっている。

 

「ならば、放電離脱!」

 

 恐らく、ジャラランガがドラゴンタイプということもあり、ロトムの技では大したダメージを与えられないと分かっていたのだろう。

 ボルトチェンジを切るのに迷いはなさそうだ。

 

「放電……りだ……っ!」

 

 離脱ってところでボルトチェンジのことだと理解したのだろうな。

 

「遅かったか………」

 

 ただ、理解した時にはもうロトムが放電していて、その衝撃の反動でザイモクザのボールへと戻っていくところであったが。

 まあ、ザイモクザ語を変換出来てきただけでも、順応はかなり早い方だ。

 

「ギルガルド、陰に潜み、影から斬り裂け!」

 

 交代はギルガルドの再登板。

 出てくるや否や消えた。

 

「くっ、早い!」

 

 そして音もなくジャラランガの陰から出てきて斬りつけた。

 今回は本体がそのまま陰から出てくるパターンなのね。

 ということはシャドークローではなくて………かげうち辺りか?

 普通に言えよ、分かりにくい。

 

「秘剣・燕返し!」

 

 さらに剣の身体を返して斬りつけていく。

 

「てっぺきで受け止めて!」

 

 それをジャラランガが寸でのところで鉄の壁で受け止めた。

 

「弾いて、じごくづき!」

 

 しかも角度を変えてギルガルドのバランスを崩して弾き返しやがった。

 妙に細かい技術を付けてきたな。

 いや、元々あった技術が少しずつ感覚から引き出されるようになってきた、の方が正しいか?

 そこへ拳を叩き込むもギルガルドはあっさり姿を消してしまった。

 

「くっ、だからゴーストタイプは厄介なのよ………」

 

 いや、もうほんと。

 ザイモクザとゴーストタイプは一緒にしたらダメだと思うわ。

 ウザさ加減が倍増する。

 

「グリーンスリーブス!」

「なっ!?」

 

 次に姿を現したかと思えば、ジャラランガの懐からつばめがえしで何度も斬りつけて、空中へと打ち上げていく。

 ソニアもこれには目を見開いており、すぐには対処法が思いつかないでいるようだ。

 まあ、グリーンスリーブスは一度かかると逃げられないようになってるからな。

 

「ジャラランガ、ほのおのパンチでどうにか受け止めて!」

 

 どうにかして炎を纏った拳を当てようとするもスカッと空を切り、背後から何度も何度も斬りつけられている。

 

「ふははははっ! 受けるがいい! ペンタグラムフォース!」

 

 大分見上げる距離まで上がったところで、ザイモクザが切り替えてきて、五芒星を描くようにジャラランガを斬りつけ始めた。

 

「くぅ……だったら、げきりん!」

 

 どうしようもなくなったソニアは、げきりんで接触する度にダメージを与える方向へと舵を切ったようだ。

 まあ、もうそういう技の方が確実性は高くなるだろうな。

 

「スイシーダ!」

 

 ただ、フライングサーカスにはこういう技もあるからな。

 竜気を暴走させ始めたところで、ギルガルドがジャラランガを地面に叩き落としてしまった。

 

「刃の雨を降らせるのだ!」

 

 そこへ無数の空気の刃が襲いかかる。

 どうでもいいけど、エアスラッシュを天気予報に追加するのはやめてくれよ?

 嫌だぞ? 刃の雨が降ってくる日とか。

 

「ギルガルド、真なる力で敵を穿て!」

 

 剣先から高密度のエネルギーが放出されるとジャラランガを穿ち、地面にクレーターを作った。

 その衝撃で奇抜な氷の花も砕けてしまっている。

 

「……………てっていこうせん………ジャラランガ、戦闘不能!」

 

 ああ、てっていこうせんだったか。

 体力を攻撃に乗せるはがねタイプの技の。

 流石、ダイゴさん。はがねやいわダイブをこよなく愛する人だわ。

 

「ジャラランガ、戻ってゆっくり休んで」

「ギルガルド、交代であるぞ」

 

 そりゃ、ギルガルドも交代になるわな。

 恐らく前半はザイモクザ有利に事が運ぶだろうし。

 例外が出るとしたら、ソニアの学習能力の高さが発揮されるかどうかだろうな。

 

「ハチくん! 何なの、この人! 技の指示が分からないんだけど!」

「あー…………古代語でバトルしてくるトレーナーとでも思っておけばいいんじゃないか? 知らんけど」

 

 俺もすぐには対応出来ねぇもん。

 

「そうね。言葉が通じない人とバトルしていると思っておけばいいんじゃないかしら」

「直感で動けばいいんじゃないかな?」

「というかポケモンが指示を出していると思っておけばいいんじゃないですかね…………マクノシタとか」

「お前、見た目で判断してやるなよ。マクノシタの拳を舐めたらボコボコにされるぞ」

 

 だが、イロハの言い分は一理ある。

 ザイモクザを言葉の通じないポケモンと思えば、違和感がない。

 ゲッコウガというトレーナーになっちゃったポケモンもいるんだし、その辺の垣根は俺たちには曖昧になってきているしな。

 

「そうですよ、イロハ先輩。マクノシタから進化してハリテヤマになったら、厨二さんとは比べ物になりませんよ」

「ねぇ、ちょっと? 皆して我の扱い酷くなーい??」

「お前の扱いなんていつもこんなもんだろうが」

「うわぁ………」

 

 本人が嘆いてはいるが、トツカすら止めに入ってこないんだから、特に問題はないだろう。

 いや、トツカは優しいからな。

 何だかんだでザイモクザを相手してくれるんだから貴重な人材である。

 だからソニア。ドン引きしてやるな。

 

「………ふぅ。いくよ、サダイジャ!」

「ダイノーズ、行くのである!」

 

 あ、やっぱりサダイジャがいたか。

 となるとやはり予想通りという感じだな。

 対して、ザイモクザの方はダイノーズか。

 ギルガルド、ロトムと浮いていたポケモンだから、そういう系で揃えたのかと思ったが、そうでもなさそうである。

 …………いや、ダイノーズも浮くことはあるか。ということは…………取り敢えずひこうタイプはいないんだろうな。

 

「じしん!」

「リニア!」

 

 リニアって何だい?

 聞き覚えがないよ?

 や、リニア自体はリニア新幹線のことだろうが、だから何だって話なんだわ。

 と思ってたら、ダイノーズが浮き始めて、激しく揺れる地面から回避した。

 おおん? まさかでんじふゆうのことか?

 

「ハイヨーヨー!」

 

 それでもそれを使うのか。

 最早フライングサーカスじゃなくてフローティングサーカスなのではないだろうか。

 いいのか、それで…………。

 

「サダイジャ、とぐろをまくで追いかけて!」

 

 上昇していくダイノーズを追いかけるように、サダイジャもとぐろを巻きながら上昇していく。

 だが、上昇するスピードが違うため、差は開くばかりである。

 

「ふははははっ! 鋼の重さをとくと味わうがいい!」

 

 動きが下降に変わったダイノーズが勢いをつけて落下してくる。

 ハードプレスかボディプレス辺りか?

 

「ドリルライナー!」

 

 そこへとぐろの回転速度を一気に上げて、ドリルのような回転速度でダイノーズに向かって上昇していった。

 

「なぬ!?」

「これでも弾かれるのっ?!」

 

 ガキン! という音とともに、双方弾かれて真っ逆さまに落ちていく。

 

「むぅ、すなはきであるか」

 

 同時にサダイジャからは大量の砂が吐き出され、砂嵐へと化していった。

 

「サダイジャ、すなじごく!」

 

 さらにサダイジャが地面に身体を叩きつけるや否や、同じく地面に身体を打ち付けたダイノーズの真下に砂地獄を作り出し引き込んでいく。

 妙に上手い手を出してくるんだよなー。

 ただ、何故か俺の身内はそれを凌駕してしまうが。

 

「チビノーズたちよ、ダイノーズをまもるのだ!」

 

 うわ、使ってきやがったな、チビノーズたち。

 合法とはいえ、数の不利を生み出すから厄介なんだよなー。

 なのに、ダイノーズと同じ技を使えるからチートにすら思えてくるわ。

 

「えっ、なんか勝手に浮き始めましたよ」

「でんじふゆうの効果だろ」

 

 四体のチビノーズたちがダイノーズを三角錐の防壁で囲み、軽く放電して再度浮かせていった。

 

「サダイジャまでのルートを磁場操作! ラインを作り上げるのだ!」

 

 ん?

 チビノーズたちが一斉にサダイジャの方へ向いたが、何をする気だ?

 

「サダイジャ、ねっさのだいち!」

 

 ソニアも何か来ると読んで、牽制の意味も込めて先に攻撃を仕掛けた。

 高熱のエネルギーが次々と地面から吹き出し、ダイノーズへと襲いかかる。

 

「発射!」

 

 だが、そんなことは気にも留めず、ダイノーズが勢いよく飛び出し、一閃を描いた。

 

「うぇ!? な、なに?!」

「聖なる光で包み込むのだ!」

 

 サダイジャにぶつかる寸前にダイノーズが光り、サダイジャを呑み込んでいく。

 かと思いきやそのまま弾き飛ばしてしまい、マジカルシャインが物理攻撃にしか見えないんだけど。

 

「ふっ、これぞダイノーズミサイル」

 

 まんまじゃねぇか。

 ネーミングセンスよ………。

 てか、ミサイルなのかよ。もっと何かあるだろ。

 

「…………なるほど。電磁誘導………誘導電流………リニアにでんじふゆう、ね」

「何か分かったのか?」

 

 するとユキノがぶつぶつと起きたことを纏め始めた。

 多分、こういうことに関しては俺より知識あるだろうからな。

 教えて、ユキペディア。

 

「カントーとジョウトを結ぶリニア新幹線のことは知ってるわよね?」

「ああ、あるな」

「その原理を使った突撃戦法ってことよ」

「……………………ダイノーズがリニア新幹線ってか?」

「ええ、そうなるわね」

「………………………」

 

 あいつ、一体何の映画を見たのだろうか。

 見た目は子供、頭脳は大人な名探偵物か?

 それとも…………何かあったかな………。

 

「あ、そっか。ダイノーズの横顔が新幹線に似てるからか。なるほどねぇ」

 

 いやいやいや。

 どういうことだってばよ、ハルペディア。

 まあ、確かに? それっぽくはあるものの、リニア新幹線ともなればもっと曲線的じゃないか? 鼻先が長いだろ。

 ザイモクザだから、そんな細かいことは気にしないって?

 ……………まあ、ザイモクザだし、その可能性が一番高い気はする。

 あ、でもそうなるとダイノーズが通過する時は、黄色い線の内側に下がる動作を見せるべきか? あと警笛音も鳴らすとか。横顔新幹線なんだし。

 

「ダイノーズ、鋼鉄砲!」

「ぼうふうでダイノーズを呑み込んで!」

 

 さらに追い討ちをかけるようにラスターカノンを放つも、それは暴風によって跳ね返され、逆にダイノーズが暴風に捕らわれてしまった。

 

「空気を圧縮!」

 

 ッ!?

 おま、ここでそれやる気か?!

 

「圧縮、圧縮!」

 

 原理は何だっけ。

 前回はサイコウェーブで作り上げていたはずだが、ダイノーズがサイコウェーブを使えたという記憶はない。

 従って、別の技でそれっぽくしているということなのだろうが…………サダイジャのぼうふうを利用して、ほうでんで分離し、じゅうりょくで圧縮ってところか?

 あいつの技の使い方は、時に俺よりも独特だから理解するのが大変なんだよ。

 

「嘘っ………!?」

 

 ソニアも目の前で起きていることを徐々に理解し始めたのか、顔を青くしている。

 見ただけでアレが何を作り出してるのか理解出来るだけでも凄いことだからな?

 ユイやコマチならともかく、イロハですらそんな知識は持ち合わせてないんだから。

 ユキノシタ姉妹は基準にするなよ?

 

「まさか、プラズマ?!」

 

 前回のとは規模が全然小さいものの、暴風の渦がみるみる圧縮されていき、高電離気体ーープラズマが完成した。

 この大きさだとプラズマ砲とか言われてもおかしくないな。

 

「チビノーズたちよ、でんじふゆうで持ち上げるのだ!」

 

 そして、重力操作していたことで地面に降りていたダイノーズを、チビノーズたちが再び浮遊させた。

 そこは今回拘るところなのね…………。

 

「くるよ、サダイジャ!」

「発射!」

 

 撃ち出されたプラズマ砲は何タイプの技になるんだろうな。

 

「アイアンテール!」

「ジャァッ?!」

 

 サダイジャはジャンプして鋼鉄にした尻尾で打ち返そうとするも、速さも重さもあったのか、打ち返せず地面に叩きつけられてしまった。

 

「ソニックブースト!」

 

 そこへチビノーズたちも引き連れたダイノーズが加速して一気に距離を詰めていく。

 撃ち出す前のでんじふゆうはこのためでもあったのだろう。

 

「10まんばりき!」

「ふっ、悪いが狙いはそこではないのだ」

 

 すぐにサダイジャは起き上がって、地面を蹴り上げる勢いを使ってダイノーズへと突進していく。

 

「ダイノーズ、エアキックターン!」

 

 だが、ダイノーズの移動は弧を描き、サダイジャの下へと下がっていき、手前で踏ん張ると、真上を通過しようとするサダイジャ目掛けて方向転換した。

 

「氷のグリーンスリーブス!」

 

 そして、氷を纏ったチビノーズたちを使って何度も殴り、空に打ち上げていく。

 れいとうパンチってことでいいんだろうな。

 可哀想なことに既にサダイジャは凍りついていて身動きが取れなくなっている。

 

「氷のスイシーダ!」

 

 最後は上からサダイジャを地面に叩き落としてしまった。

 ただ、最後の足掻きのように特性が発動して砂嵐状態になってしまっているが。

 

「…………うわぁ………サダイジャ、戦闘不能」

 

 ダイゴさんは相変わらずドン引きしている。

 だが、これでソニアのポケモンは半分が戦闘不能になってしまった。

 対して、ザイモクザのポケモンは未だ全員が健在。

 こんな巫山戯たバトルをしているというのに、この結果だからな。

 シロナさんもザイモクザのバトルは初なため驚いているし、ママのんたちも娘たちに技の確認をしてるのがチラホラ聞こえてくるし。

 まあ、ユイは指示してる技を分かっちゃいないけどな。逆にガハママと二人でこの技かなーと予想してるくらいだ。

 

「サダイジャ、戻ってゆっくり休んで」

「ふははははっ、我スッキリ!」

 

 この場で楽しそうなのはお前だけだぞ?

 皆、このバトルを解読するのに疲れていってるからな?

 

「………あなた、実は物理とか得意だったりする?」

「いや? 我は興味のあることだけ勉強するタイプであるぞ? 何なら好きなことを調べているだけだから、勉強しているという感覚すらない」

「ああ、そう………そういうタイプかー…………」

 

 多分、この中で知識がオールラウンダーなのはユキノシタ姉妹とママのんくらいじゃないかな。変態博士壱号二号も知識はかなりあれど偏ってはいそうだし、シロナさんやダイゴさんもそうだろう。

 ある意味、マニアックな人が辿り着く境地みたいなのが博士ってもんだろうしな。

 だから、ソニアもこっちの部類に入るだろうし、俺やザイモクザなんかはもっと局所的な知識と言ってもいいくらいだ。

 それでも何でも知ってるように見られるのは、経験の差からくるものだろう。

 

「そう思うとユキノシタ家ってやべぇな」

「何か言ったかしら?」

「いや、何でも」

 

 ユキノがこっちを見てくるが、その奥からの二つの視線の方が怖い。

 いや、もうほんと。娘二人に引けを取らない知識を持ってそうで、このバトルですら、慣れればすぐに即翻訳出来てしまいそうなんだもん。

 

「本当にハチくんといい、ユキノシタ姉妹といい、なんでこんなのばっかり集まってるのさ…………」

 

 そんなこと言われても俺が聞きたいわ。

 気付けばこうなってたんだから、知りたきゃ本人たちに聞いてくれ。

 

「よし、キラフロル。もう一度、いくよ!」

 

 次はキラフロルの再登板か。

 何だかんだキラフロルは、ソニアのパーティー力を一気に押し上げたようなポケモンでもあるからな。

 ザイモクザのポケモンがはがねタイプや特性ふゆうのポケモンが多いとはいえ、油断したら一気に巻き返される可能性は充分にある。

 

「再びキラフロルであるか。ダイノーズ、狙いを定めるのだ!」

「どくびし!」

 

 あ、やっぱりそこは仕掛けるのね。

 ザイモクザの方に追加で毒菱が撒かれていく。

 

「レールガン!」

 

 対して、ダイノーズはロックオンで狙いを定めると、でんじほうを撃ち出した。

 

「キラースピンで跳ね返して!」

 

 それを寸でのところで青い身体を傘のように広げて、回転しながら弾き返す。

 

「くっ、ロックオンね。この追尾機能は」

 

 だが、ダイノーズの方にまで戻ることはなく、再度キラフロルの方へと戻っていった。

 

「こうなったら一か八か! キラフロル、アンタは実際に目にしてるんだから、これはいけるでしょ! ハイヨーヨー!」

 

 また無茶な要求を。

 横を見ると流石に全員驚いてたわ。

 

「いや、それで伝わるんかい」

 

 キラフロルも目の前で使われているとはいえ、それをぶっつけ本番で再現してくるとか、ポケモン自身の地頭も良すぎではなかろうか。しかもソニアと出会ってまだ数日だぞ?

 

「ぬ? ならば、こちらもハイヨーヨーである。そして、そのまま戦闘力10万の底力を見せてやれぃ!」

 

 キラフロルが上昇するのを見て、それを追いかけるように指示を出してきた。

 で、戦闘力10万ってなんだよ。53万ならピントくるけども。

 

「キラフロル、翻って躱しなさい!」

 

 キラフロルよりも速度が上なダイノーズの突進を、くるっと翻って躱した。

 もしかして戦闘力10万の底力って10まんばりきってことか?

 

「なぬ!? ブラスターロールだと?!」

 

 あ、確かに。

 言われてみると今のはブラスターロールってことになるな。

 ソニアはそんなの知らないだろうから、ただの偶然だろうけど、狙いが同じなら動きも同じようなものになってくるってことだろう。

 何ならいちいち説明するのが面倒だからってことで、俺もこのネタを取り入れて使い分けるようにして来たくらいだし。

 

「ラスターカノン!」

 

 そして、キラフロルを抜いていったダイノーズに鋼の光線が撃ち出された。

 何ならキラフロルを追尾していたでんじほうも方向を変えることなく、キラフロルの横を素通りして上昇していった。

 

「ダイノーズぅぅぅ」

 

 まさにちゅどん! って感じで当たったな。

 二つの技が直撃して力尽きたダイノーズが真っ逆さまに落ちていく。

 

「今、頭の中に曲が流れましたよ」

「奇遇だな。俺もだわ」

 

 横でイロハも俺と同じ曲が頭をよぎったらしい。

 真っ逆さまに落ちていくってのを見ると、これが流れるだろ。

 

「ダイノーズ、戦闘不能!」

 

 いやー、それにしてもまさかのだな。

 捕まえて数日のポケモンにさっき実際に見たんだから出来るでしょ、という無茶な要求をして、ポケモンの方も普通にそれに応えてやって見せた上で、ザイモクザから一本取ってしまうとか、誰が想像出来たであろうか。

 しかも追尾機能のあるでんじほうまで使ってダブルでダメージを与えるとか、発想が鬼畜なんだよなー。

 

「戻れぃ、ダイノーズ!」

「先輩、ダイノーズ倒されちゃいましたよ」

「それもザイモクザのフライングサーカスを真似してな。流石に吸収が早過ぎるんじゃないか?」

「あれが本来のソニアの一面ってことでしょうよ。今までのは錆びついたネジで封印されていたのが、このバトル五戦でネジが開くところまで来たってところかと」

 

 俺も流石にここまでの吸収力があるとは思っていなかったが。

 精々、ダンデに近いポテンシャルを秘めた奴くらいの認識だったのに、下手をすればあいつを凌駕しかねない。

 とはいえ、そのダンデも化け物染みたところがあるため、実際に凌駕するかどうかは分からないが、少なくとも一般的な指標からは既に逸脱している。

 で、そのことについてこの場にいる全員が分かってきたことだろう。本人を除いて、であるが。

 

「ふひっ、バトルとはこうでなくてはなっ!」

 

 うっわ、ザイモクザのテンションが高くなってきやがった。

 また何かやらかすぞ、あいつ。

 

「ジバコイル、行くのである!」

 

 四体目はジバコイルか。

 でんき・はがねタイプであり、当然毒菱は効かない。

 さらに浮いているため、恐らくこいつもフライングサーカスをやるってことだろう。

 

「ソニックブースト!」

「キラフロル、ロックカット!」

 

 ほら。

 ジバコイルが初速を上げて一気に動いたからか砂嵐が止んだ。

 その間にキラフロルは身体をコーティングして素早さを上げている。

 

「ニードルガード!」

 

 寸でのところでトゲトゲした防壁を展開した。

 

「ッ、ローヨーヨー!」

 

 これまたこちらもギリギリのところで躱し、キラフロルの下を潜り抜けていく。

 

「今のもなんとなく分かったでしょ! 初速を上げるソニックブーストで追いかけて!」

 

 通り過ぎていったジバコイルを反転して追いかけ始めるキラフロル。

 ああ、なんかそれっぽくなってきたな。

 こうなると絶対ザイモクザが調子に乗るぞ。

 

「ふははははっ、コブラ!」

 

 急ブレーキをかけたジバコイルに対して、いきなりのことで止まらなかったキラフロルがそのまま真上を通り過ぎていく。

 

「ふぁ!?」

「鋼鉄砲!」

 

 ソニアが驚いている隙に再度加速すると、キラフロルの後ろから鋼の光線を放った。

 

「キラフロル!?」

 

 かなりいい感じに入ったのではなかろうか。

 勢いがなくなり落下していくくらいだし。

 

「うちおとす!」

 

 だが、それでもまだ足掻く意識は残っているようで、身体をくるりと回して逆様な状態で岩を鋭く発射した。

 

「ふははははっ、ジバコイル、ハイヨーヨーであるぞ!」

 

 それを飛んで躱し、そのまま高く上昇していく。

 

「降りてきたところを狙うよ!」

 

 もう動きは頭に入っているのだろう。

 迷うことなく次の展開を構築している。

 

「マッドショット!」

「ジャイロ回転で弾くのだ!」

 

 落下していたところへ泥の塊を撃ち出すも、ジャイロボールの回転で弾かれて飛び散っていった。

 

「鋼鉄砲!」

「ニードルガードで防いで!」

 

 今度はジバコイルの方からラスターカノンが放たれ、それをトゲトゲした防壁で受け止めている。

 

「ふははははっ! 甘い、甘いぞ!」

「えっ?」

 

 そのままだとぶつかりそうな感じだったのに、ジバコイルは普通にキラフロルの横を素通りしていった。

 

「エアキックターン!」

 

 そして、地面スレスレで踏み止まると、一気に押し返して上昇していく。

 

「レールガン!」

 

 さらにその勢いも生かしたでんじほうを撃ち出した。

 

「キラースピンで弾いて!」

 

 傘のように身体を広げて回転しながら弾こうとするも、かなりの速度だったのか受け止めるだけで必死な感じだ。

 

「鋼鉄砲で押し込めぇぇぇ!」

 

 そこへダメ押しのようにラスターカノンが撃ち込まれ、でんじほうと一緒にキラフロルを撃ち抜いた。

 おい、ザイモクザ………やられた形でやり返すなよ。

 

「…………キラフロル、戦闘不能。頭痛くなってきたよ」

 

 あ、ついにダイゴさんも不調を訴え始めたぞ。

 

「うぅ、ごめんね。まだあったみたいだよ。戻ってゆっくり休んでて」

 

 ソニアも動きを習得するところまでは良かったが、コブラとか他にもまだあることを知らなかったがために、隙が生まれてしまったってとこだしな。

 

「ジバコイルも交代であるぞ」

 

 で、この状況にノリノリなのはこいつだけっていうね。

 楽しそうで何よりではあるが、周りへの被害も自覚してくれ。

 俺も結構頭が痛くなってきた。

 

「いでよ、Zよ!」

 

 ああ、出てきたよ、ポリゴンZ。

 ザイモクザの最初のポケモンにして、かなりヤバいことを平気でやってくるヤバい奴。

 こいつがザイモクザのあの指示でやれちゃったがために、今のザイモクザになっていると言っても過言ではない。

 それくらい俺はポリゴンZがザイモクザを増長させた原因だと思ってる。

 

「よし、ポリゴンZならどくびしが発動するわよね!」

 

 あ、そうね。

 今のところ、ザイモクザのポケモンで初めてどくびしが発動して効果ももたらしたような気がする。

 

「ジー」

「…………はっ?」

 

 だが、猛毒になった瞬間に何かを噛んで回復してしまった。

 木の実だろうか。

 

「どくびしを使うのは見ているのだぞ? 何も対策しないわけがなかろう? というかZだけ毒になるとか可哀想であろう?」

 

 やってんな。

 しかもさらっとポリゴンZ以外はどくびしが効かないと明言しちゃってるし。

 

「…………ふぅ」

「さあ、次のポケモンを出すのだ!」

 

 中々次のポケモンを出さないソニアを挑発するザイモクザ。

 お前、ちょっと待ってやれよ。

 思惑が外れて頭の中でぐるぐるしてんだろうからさ。

 

「あら、一体いつからわたしのポケモンが全員ボールの中に入っていると言ったかしら?」

「なぬ!?」

 

 あー、ソニアも何か仕掛けてたのかよ。

 こいつもやってんな。

 

「じっくり観察出来たよね! いくよ、アーマーガア!」

 

 すると空から黒い影が降りてきた。

 もしかしてずっと………あるいは砂嵐に紛れてアーマーガアをボールから出してどこからか観察させていたとか?

 今のソニアならそうして来てもおかしくはない。

 キラフロルにも実際に目にしたんだから出来るでしょって無茶な注文をしていたくらいだし。

 

「ソニックブーストである!」

 

 ポリゴンZが初速を上げてアーマーガアへと迫っていく。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 それをアーマーガアは上昇することで躱した。

 

「てっぺきで防御を上げて!」

 

 そして、そのまま鉄の壁を張り、防御力を高めていく。

 

「Zよ、エアキックターン!」

 

 ポリゴンZは一旦下降し踏み止まると、一気に蹴り上げて上昇していった。

 

「ボディプレス!」

 

 方向を変えたアーマーガアが全体重を乗せて下降してくる。

 てっぺきもこのためだったのだろう。

 体重を乗せる技に落下する重力も加えた速度を加えれば、かなりの威力になるはずだ。

 

「影分身の術!」

 

 それを分身体を増やして狙いを分散させ、本体はアーマーガアの横を素通りして躱した。

 

「そのままハイヨーヨーである!」

「なら、こっちはローヨーヨーだよ!」

 

 ポリゴンZが上昇していくのに対して、アーマーガアは下降していき、互いに反転して加速しながら距離を縮めていく。

 

「ゴッドバード!」

 

 力を溜めながら鳳を携えて接近していくアーマーガア。

 

「躱せぇ!」

「ッ!?」

 

 だが、相手がポリゴンZなのが悪かったのだと思う。

 元々分離している身体を大きく切り離して、アーマーガアに中央を抜けさせて躱したのだからな。

 あれが出来るのなんてポリゴンZだけではないだろうか。何ならザイモクザの、を付け足してもいいくらいだ。

 

「Zよ、黒き鳳になるのだ!」

「ジー」

 

 そして、何を言っているんだ? という指示が飛ぶ。

 まあ、俺たちは目にしてるからな。

 多分、俺とのバトルで見せたセロリさんの黒い翼系の奴だろう。

 

「なっ!?」

 

 ソニアやダイゴさんたちは初めて見る光景なため、お口あんぐりであるが。

 

「エアキックターン!」

 

 身体のパーツを黒いオーラで鳳のような姿で繋がると、地面スレスレで踏み止まり、一気に蹴り上げて上昇していく。

 

「ふっ、感謝するぞ、ソニア女史。空中戦に出てきてくれたがために、我が求めていた真のフライングサーカスをお見せすることが出来るのだからなっ!」

 

 あー…………今回のバトルはソニアがザイモクザと同じ土俵に立ったらダメなパターンだったのかもしれない。

 勝ち確ってわけでもないが、同じ土俵に立っちゃったからこそ、出来る技というものもあり、それが一番のハメ技でもあり………ザイモクザのスイッチを入れちゃったってわけだ。

 

「バードゲージ!」

 

 相手の動きを先回りして潰していくのだが、今のポリゴンZの姿がさらにその効果を高めてそうだな。

 あくのはどうで鳳を構成しているわけだから、触れたらダメージに繋がると思われる。だから触れないように躱すと黒い翼なり身体なりが躱した先にあって、さらに躱し続けることになり、その結果ポリゴンZに動きをコントロールされてしまっている、というのがザイモクザのやり方だろう。

 

「なに、それ………」

 

 どう飛んでもポリゴンZに行き先を封じられるこの動きに、ソニアも絶句している。

 まあ、こんな技まであるとは思わないよな。

 

「ふははははっ! 逃げられるものなら逃げてみろぃ!」

「くっ、アーマーガア、抜け出して!」

 

 足掻けば足掻く程、黒いオーラに触れてしまい、アーマーガアにダメージが蓄積されていっている。

 

「お?」

 

 するとアーマーガアが回転し出したところでポリゴンZに隙が生まれた。

 具体的に言えば、ポケモン一体分の隙間が出来上がったのだ。

 うーん、作為的なものを感じるのは俺だけだろうか。

 

「ローヨーヨー!」

 

 だが、その機を逃さんとばかりに加速したアーマーガアが抜け出して急降下していく。

 

「Zよ、お主も悪よのう。アーマーガアを追いかけるのである! ローヨーヨー!」

 

 あ、うん、これポリゴンZの独断による罠だわ。

 それに気付いたザイモクザもポリゴンZのやりたいことを汲み取ってプランを変えてきた。

 

「体画変色!」

 

 アーマーガアを追って急降下しながら、テクスチャーでタイプを変えたようだ。

 何でもいいけど、テクスチャーを体画変色というのはやめて欲しい。前回はテクスチャー2の方だったから、技に2が付くってなるとってことで絞り込めたが、何のヒントもないとマジで判別出来ないからな?

 そのまま二体とも方向を変えて上昇していく。

 ただ、やっぱりポリゴンZの方が使い慣れてるのか、アーマーガアの動きを予測して最短ルートを割り出した上での追跡になっているため、徐々に二体の距離は縮まっている。

 

「アーマーガア、トルネードでエアスラッシュ!」

 

 上空で振り返ったアーマーガアが、回転しながら刃の雨を降らせてきた。

 

「甘い! ソニックブースト!」

 

 それを急加速して一気に距離を詰めて効果をなくしーーー。

 

「レールガン!」

 

 アーマーガアの懐ででんじほうを放ち、感電させて地面へと落とした。

 

「アーマーガア!?」

 

 うーん、あの場面だとコブラの方が有効的だったのではないかと思う。

 が、それをソニアに求めるのも酷というもの。

 そもそもここまで順応出来ているだけでも凄いことなのである。

 いや、もうほんとマジで。ザイモクザをここまで楽しませられるのなんて、そういないからな?

 

「…………アーマーガア、戦闘不能!」

「うっわ、エグいですね」

「これがコマチの師匠の一人とか、エグすぎ………」

「エグいな」

「エグいわね」

「エグすぎだよ」

「私は好きだよ、ああいうの」

 

 イロハ、コマチ、シズカさん、ユキノ、ユイ、そしてハルノの感想である。

 ねぇ、ちょっと? 一人おかしくない?

 

「そうね、私もああいうのいいと思うわ。徹底的に追い込む感じ、実に見事ね」

 

 ああ、ここにもいたわ。

 本当に容赦のない母親だこと。

 その性格が長女に引き継がれているんだろうな。

 ママのん、恐ろしや。

 

「なんかもう途中からよく分かんなかったんだけど…………取り敢えず、アーマーガアは戻ってゆっくり休んで」

「Zよ、交代であるぞ」

 

 なんかもう、ソニアが疲れ切ってるな。

 キャパオーバーになってきているというか。

 それだけザイモクザの指示を翻訳して理解するのに、相当な労力を強いられているのだろう。

 まあ、それはいいとして。

 

「お前、結局でんじほうばっか使ってるな」

「それは仕方あるまい。我らのアイデンティティであるからな」

「いやまあ、そうかもしれんが…………」

 

 フライングサーカスとか言いながら、でんじほうがよく飛んでいるイメージしかないんだけど。

 それだけ違和感なくフライングサーカスの技を動きに取り込めているってことなのだろうが、如何せんそれがザイモクザなため他の方が際立ってしまっている。

 

「でんじほうがアイデンティティってなに………」

 

 あ、ソニアはそっちの方が気になるのね。

 

「あー、何だっけ? ポリゴンをゲーセンで引き換える前だったか、後だったかにライコウに助けられたか何かで、その時にライコウのでんじほうに魅了されたらしいんだわ。以来、でんじほうを中心にポケモンを育ててるから、こんなのばっかなんだよ。しかも指示がアレだろ? 疲れる疲れる」

「うむ、ライコウのでんじほうは良かったぞ。文字通り痺れる憧れるぅ! って感じであったわ! 我のハートはレボリューションされてしまったのだ!」

 

 お前はその時に脳まで焼き切れているべきだったんじゃないかと思うのは俺だけだろうか。

 あと、ライコウは君のハートにレボリューション☆ なんてことはしてないと思うぞ。やるのは海賊芸人だけだ。

 

「我にはエーフィもいるのだが、元々サンダースに進化させようと雷の石を手に入れる前に我に懐き過ぎたイーブイがエーフィに進化してしまってな。まあ、でんじほう覚えるからいっかってことで、以来覚えられるポケモン全てにレールガンを撃てるようにしているぞ」

 

 うん、サイコロの目にもあったように、何だかんだでこいつはでんきタイプとはがねタイプがメインになっているのだろう。

 即ち、専門タイプもでんきとはがねタイプということだ。

 

「掠めるだけでも確実に麻痺するから、迂闊に受け止めてられないのが難点なのよね」

「しかもロックオンとかで追尾機能も後付けしてきますしねー」

「下手するとゆきのんのぜったいれいど並みの一撃必殺になり得るよね」

 

 ユイ、そこまで言っちゃうか。

 確かにリザードンも麻痺で実質戦闘不能みたいなもんにさせられたし、一撃必殺並みというのは強ち間違いではない。

 

「ねぇ、ハチくん。なんて人を最後に持ってきてんのさ!」

 

 ソニアがザイモクザを指差して吠え出した。

 

「いやー、最初からこんな奴の相手なんかしたら、別の意味で心折れるだろうなーと思って最後にしたまでだぞ?」

「こんなのを持ってくんなって言ってんのよ!」

「えっ? じゃあ、拳で語り合おうとするシズカさんが良かったか? それとも笑顔でめぐりっしゅパワーという名の毒を盛りそうなメグリ先輩の方が良かったか?」

 

 他の候補のとなるのはシズカさんとメグリ先輩しか思いつかないしなー。

 この二人も中々だとは思うけど、最後のインパクトとしてはザイモクザに勝てる奴はいないと思うんだわ。

 

「もうちょっといないの?! もっとこう、普通な人!」

「だから、それがコマチだったって言ったろ? 良くも悪くもコマチは普通なんだって。この中では」

 

 当初は俺もコマチともフルバトルさせようと思ってたんだぞ?

 それをソニアがコマチとはフルバトルしたことあるからってことで断ってきたんじゃないか。

 

「先輩、そう言いますけど、このお米、みずのはどうだんとかいう波導の力で軌道を操作する技術持ってますよ?」

 

 うん?

 そういえばそんなこともあったような気がしなくもない。

 

「……………確かに。けど、お前らに比べたら可愛いもんだろ?」

「これだからシスコンは…………」

 

 そう言ったら何故かいろはすに呆れられてしまった。

 

「うーん、今のコマチだと化石ポケモン軍団とか重量級軍団とかになっちゃうよ?」

「専門タイプはどうなったよ…………」

「やだなー、タイプを揃えたら大体そんな感じになっちゃうんだって」

 

 重量級は分からなくもない。

 特にはがねやいわタイプを専門にした場合、体重が重いポケモンが集まりやすくなって、結果的に重量級のパーティーになるってことは有り得るだろうし。

 ただ、化石ポケモン軍団って何よ。

 もしかしなくても文字通り化石ポケモンだけで六体いるってことなのか?

 ……………化石研究所の名誉職員とか言ってたもんな。しかもあの人たち、コマチのこと可愛がってる節があったから、有り得ない話ではない。

 

「なんか、すまん。コマチも色々とおかしな子になってるみたいだわ」

「ねぇ、ちょっとごみぃちゃん!? コマチがおかしい子みたいな言い方やめて!」

 

 いやー、化石ポケモン軍団は流石にな?

 特殊過ぎると思うんだわ。

 

「アンタは元々おかしい子でしょうか」

「なにおう! おかしな人の影響でさらにおかしくなった人に言われたくないですよーだ」

「こらこら、喧嘩しないの」

 

 イロハがコマチを煽るから、またしても二人で喧嘩を始めてしまい、それをユイに止められている。

 本当に君たち仲良いのか悪いのか、どっちなんだよ。

 それを止めるユイは聖母にしか見えないし。

 

「うーん、ってことはユイが相対的に普通?」

「普通なわけあるか! どこに四天王級のジムトレーナーが普通なんていう文化があるのさ!」

 

 それもそうか。

 となると俺の周りにはもう普通と言えるトレーナーはいなくなってしまったのか。コマチ辺りがかろうじてってところか?

 バイバイ、普通。短い付き合いだったな。

 

「さて、我の六体目のポケモンをお見せするとしようか!」

 

 さて、ザイモクザの六体目のポケモンとやらは何が出てくるのか。

 多分、ひこうタイプではない浮いているポケモンなのは確定だろうが。

 

「いでよ、神龍! じゃなかったシビルドン!」

 

 何をどうしたらそこを間違えるんだよ。

 態とだろ。というか言ってみたかっただけだろ。

 んで、案の定、特性ふゆう持ちのシビルドンだったか。

 しかもこれは偶然ではあるだろうが、かつてサンダーソニアなんて言われていたくらいでんきタイプを基軸にしているソニアに対して、でんきタイプやそれに近い動きをするポケモンで固めてくるとか、ソニアからしてみればかなり嫌なパーティーだろう。その上でフライングサーカスの技で掻き乱してくるのだから、頭の中がぐちゃぐちゃだと思う。

 

「いくよ、ラグラージ!」

 

 そんなソニアの最後のポケモンはラグラージだった。

 タイプ相性だけでみれば、じめんタイプを持つラグラージの方が有利なのだが、特性ふゆうの影響で実質弱点のないシビルドンには、中々手が出しにくいことだろう。

 

「まずはあまごい!」

「巻けぇ! 巻くのだァ!」

 

 初手は二人とも自分たちの足場固めってところか。

 雨雲を呼び寄せて雨を降らせるのに対して、とぐろを巻いて上昇していく。

 

「ハイドロポンプ!」

「ひたすら巻き上げるのだァ!」

 

 下からとぐろを巻き続けるシビルドンを水砲撃で狙い撃ちにするものの、うねうねと躱されて届いていない。

 

「くっ、やっぱり躱してくるんだね………」

「ふひっ! ローヨーヨー!」

 

 ある程度上昇したところで、シビルドンが下降してきた。

 

「ラグラージ、地面に向けてハイドロポンプ!」

「超念牙!」

 

 また新しいのがきたな。

 ラグラージが水砲撃で上昇し一気に距離を詰めるのに合わせて、シビルドンが大きな鋭い牙で噛みつこうとしている。

 超念牙………キバ……サイコファングのことか?

 

「メガシンカ!」

 

 なるほど。

 要はメガシンカ時の光でシビルドンの視界をしばらく奪おうって魂胆か。

 

「ッ、シザーズで躱せぃ!」

 

 だが、ラグラージが虹色に光り出すと、すかさずラグラージを避けて切り返すと横に逸れていった。

 

「ついでに特性を消すのである!」

 

 姿を変えて虹色の光も消えたところでシビルドンが振り返り、口から液体を吐きつけた。

 特性を消すとか言ってるし、いえきかな。

 絵面がかなり悪いけど。

 

「なっ?!」

 

 べちゃっといえきをかけられたメガラグラージは特性が無効化されてしまい、雨の中特性すいすいで一気に畳みかけようとしていたソニアの策が完全に崩れてしまった。

 躱すついでに特性を無効化されるとか、ソニアが不憫に思えてくるわ。

 

「………くっ、アクアブレイク!」

 

 それでも水砲撃で飛んだ勢いもなくなって落下に転じたラグラージは、空気を蹴って、水の刃を携えて突っ込んでいく。

 

「お主のハートをブレイクしてやろう。シビルドン、真なる力を解放せよ! メガシンカ!」

 

 お、おう。

 アクアブレイクとハートブレイクをかけたんだろうとか、そこでメガシンカかよとか色々あるが、そもそもお前アブソル以外にもメガシンカ出来たのかよって話だ。

 多分、誰もザイモクザに興味がないからそういう話を聞かされなかったし、俺のいない間にどれだけ新しくポケモンを捕まえたのかも知らないから、かなりの誤算だったわ。

 というか、メガシンカしても浮いてるのね。

 

「ラグラージを拘束するのである!」

 

 虹色の光に弾かれて地面に叩きつけられたラグラージを、地面から草を伸ばして拘束していく。

 何気にシビルドンってくさむすびとかも覚えられるから、技範囲が広いんだよな。

 

「ラグラージ、ばかぢからで抜け出して!」

 

 それを筋肉でどうにかするという脳筋プレイで脱出してくる。

 

「ぬぅ、流石の怪力である。ならば吸えェ、吸いまくるのだァ!」

 

 すると今度は草を通して体力を吸い始めた。

 恐らくこれはギガドレイン。

 

「ウェーブタックル!」

 

 立て続けに超効果抜群の技を受けてしまい形振り構わなくなったソニアは、ラグラージを水を纏って突進させてきた。

 

「ブラスターロールで躱せぃ!」

「なっ!?」

 

 それを翻って躱し、ラグラージの背後を取っていく。

 

「水の刃はこう使うのであるぞ! 水刃!」

 

 そして刃の形をした水を作り出すと次々とラグラージに向かって飛んでいった。

 こいつもあれか? ゲッコウガ的な水でやらかすような奴か?

 

「はぁ?! 何なのよ、それ!」

 

 本当に何なんだろうな、こいつらは。

 昔から俺が目を離した隙にやらかしてるし、今更なのかもしれないが少しは自重して欲しいものだ。

 同じアクアブレイクでも使い方次第でこんな惨劇になってしまうとかやめて欲しいわ。

 

「……………何だよ」

「いえ、何でもないでーす。ただ、どの口が言ってんだろうって」

「何も言ってないんだけど?」

「顔がそう言ってるんですー」

 

 雨も上がっても水の刃が飛んでいく中、隣で俺を訝しむような目でイロハが見てくるのだが、俺は何も口に出してないぞ。

 だから人の心を読むのはやめてくれ。

 

「カウンター!」

 

 途中から飛んでくる水の刃を打ち返し始めたものの、数が数なため背中からもらったりしている。

 

「いわなだれ!」

 

 痺れを切らしたソニアは水の刃を受けるのを覚悟で、シビルドンを落としにかかった。

 

「巻いて躱すのだ!」

 

 だが、やはりとぐろを巻いて頭上から落ちてくる岩々を躱されてしまう。

 

「波導の双龍!」

「アクアブレイクで切り裂いて!」

 

 そして、上からりゅうのはどうを撃たれると、今度はラグラージの方が水の刃で切り裂いた。

 

「メガメガのガトリング!」

 

 その隙にシビルドンは下降し、ラグラージの懐に入り込むとインファイトで全力め殴りつけていった。

 

「………………ラグラージ、戦闘不能! よって勝者、ヨシテル君!」

 

 うん、とぐろをまくを何回も使われたのが勝敗を分けたな。

 

「何なの、この人………。バトルの流れが読めない上に何がしたいのかも理解出来るまでに時間はかかるし、指示を翻訳し直してようやく理解出来た時点でまた次来るし………とにかく頭痛い…………」

 

 ハルノに負けた時も壊れたが、今回も見事に壊れてしまった。

 膝から崩れ落ちて四つん這いになり、この世の絶望かってくらいの空気を醸し出している。

 

「だから、言っただろ。ザイモクザは読み合い以前の問題だって」

「まさかこういうことだとは思わないじゃん!」

 

 キッと睨まれてしまった。

 おー、怖い。

 

「因みに彼は私たちの中で、一番ハチマンを追い込めたトレーナーでもあるわ」

「はぁ!?」

 

 なんか今日一番のドスの効いた声だな。

 補足したユキノも驚いて目を見開いちゃってるじゃん。

 

「肩書きは?」

「プー太郎」

「ちがわい! 一応、お主の部下であろう? な? な?」

 

 ザイモクザがシビルドンをボールに戻しながら抗議してくるが、今の俺って国際警察の肩書きしかないから部下も何もないんだよなー。

 カワサキにもそうなるから先に前払いで給料も払って仕事を渡しておいたくらいだし。

 

「いたっけ、こんな部下」

「ハチえもーん!」

 

 ドドドドッと駆け寄ってきては俺の足に縋りついてくる。

 邪魔なのでそのままゲシゲシと蹴っても剥がれない。

 

「じゃあ今何やってんの?」

「………………………」

 

 目を逸らすな。

 

「だ、だって上司からの指示ないし? みんな暇だろって雑用させられるし? 我自身何やってんだろうなーと思わなくもないが、悪いのはお主であろう?」

「じゃあもうフリーターってことで」

「いっそヒキニートでいいんじゃないですか? 先輩とお揃いですよ?」

「ばっかばか。俺は手に職を付けてるし、ほぼ家に帰れてないんだからヒキニートじゃねぇよ」

「えっ? まさか我だけ? 我だけニート?」

 

 こいつ、俺がいなくなってから本当に何をしていたのだろうか。

 カロスにまだいるってことは、ずっといたってことだろうし…………誰かの………この研究所の居候とか?

 

「こんなのがフリーターとかニートなんて世の中おかしいでしょ! ジムリーダー試験とか受けたらいいじゃん!」

 

 地面に向かって悔しそうに叫ぶソニア。

 叫んでるけど、ツッコミでしかないんだよなー。

 

「えぇー? 我、勝ち負けとかどうでもいいし? バトルは楽しければそれでいいし? てか、働きたくないし?」

「…………やっぱニートじゃん………わたし、こんな人に負けたの…………嘘でしょ……………」

 

 さらに絶望していくソニア。

 可哀想に。

 

「おい、ザイモクザ。そんなお前に仕事をやろう」

「いーやーだー。我は働きたくなーいー。そうでなくても既にユキノシタ姉妹に扱き使われてるのにー。ハチマンの鬼、鬼畜、悪魔!」

 

 いい加減、ウザったくなってきたな。

 

「ユキノ、遠慮なく扱き使っていいからな。何なら逃げないように首輪も付けていいぞ」

「ええ、そうしようかしら。脱走癖が付くと困るものね」

「ひぃぃぃ………!?」

 

 不適な笑みを浮かべるユキノから隠れるように、俺の脚に顔を隠す。

 

「厨二の首、太いから特注した方がいいんじゃない?」

「ぴゃあ!?」

 

 まさかのユイからの指摘に肩を跳ね上げた。

 多分、普段からこんな扱いだったのだろう。

 そして静かになったところを連行されて扱き使われると。

 いいぞ、お前ら。

 どんどんやれ。

 

「いや、すごいね、彼のバトル」

「そうね。その彼のバトルにバトル中に順応し始めたソニア博士がいかに異常なのか、本人は分かってなさそうだけれど」

「二人がそういうってことは、ヨシテル君はやっぱりハチマン君の相棒というだけのことはあるみたいだね」

 

 シロナさんたちに合流したダイゴさんがザイモクザの評価を下すと、シロナさんはソニアのことも評価していた。

 おい、変態。お前はそれ以上口を開くな。誰が俺の相棒だよ。

 

「先輩、なんてトレーナーたちを引き込んでるのよ」

「いやー、僕が何かしたってわけじゃないんだけどね。ハチマン君がいるとそこに皆が集まってくるというか…………」

「類は友を呼ぶってわけね」

「ある意味、ソニア博士もその類友ってことだろうね」

「ああ、なるほど。そういうことね。それならしっくりくるわね」

 

 どうやら俺は類友の元凶認定されてしまったらしい。

 

「ソニア、俺たち類友だってよ」

「嫌よ、そんなの! ダンデくんと類友なハチくんと類友とか、ダンデくんと類友って言われてるみたいじゃん!」

「…………コマチさん、どう思う?」

「三人とも似た者同士かと」

「だそうよ、ソニア博士」

 

 俺のこともソニアのこともダンデのことも知るコマチに似た者同士認定をいただきました。

 俺もダンデと類友ってのは何か嫌だわ。

 

「いやいやいや、それはないから」

 

 ソニアもそこは否定したいらしい。

 ただなー、俺やダンデと類友とは言わなくとも、ユキノたちとは類友になり得るんじゃないかと思うんだよなー。

 

「因みに、ザイモクザとの初バトルであそこまで順応するどころか、技を使ってみせた奴はお前が初めてだぞ」

「えっ?」

「………そうであるな。真似されるとは思ってもみなかったぞぃ」

 

 だって、ねぇ?

 ザイモクザとのバトルですぐに理解して再現するってのは俺でもしたことないくらいだし。

 

「…………………、………………〜〜〜………………はぁ………」

 

 めちゃくちゃ思い悩んでるな。百面相が過ぎるぞ。見てて面白いけど。あと、頭ボサボサになってるぞ。

 

「そういう自覚のないところまで似た者同士かと」

「うっ………」

 

 うわー、今のコマチの一言が太い矢印でソニアに突き刺さったように見えたわ。

 というか今のは貫通したまであるな。

 …………………………………………。

 

「おい、待てコマチ。さらっと俺も自覚のないバカだと言ってないか?」

「言ってない言ってない。バカ、ボケナス、ハチマンって言ってるの」

「より悪いわっ」

 

 コマチちゃん、お口が悪いわよ?

 お兄ちゃん、そんな風に育てた覚えはないんだけど?

 誰だ? 誰の悪影響を受けた? ザイモクザか?

 

「あー………うー………い、イロハちゃんやユイちゃん、何ならユキノシタ姉妹に似ているって言われるのなら、百歩譲って認めるわ。けど、ハチくんやダンデくんと一緒ってのは、絶対に嫌っ!」

「すげぇ拒否られてるんだけど」

「ハチマン、嫌とは言ってるが認めないとは言ってないぞ。それ如何に?」

 

 確かに。

 ザイモクザの言う通りだな。

 というか矛先がソニアに向いた途端、俺の脚から離れて仁王立ちしているぞ、このポンコツ。

 

「………ほーん」

「なによ………」

「ほほーん」

 

 俺とザイモクザが左右から詰め寄ると、ソニアが段々と後ずさっていく。

 

「やっぱりヒッキーと厨二が一緒だとウザさ加減が二倍になるよ………」

「良くも悪くも相棒だもの、あの二人」

「類友って恐ろしいですねー」

 

 お前たち、そうは言うがな。

 俺の周りに集まってるお前たちが、そもそも俺の類友って言われてたの忘れてないか?

 

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