「さて、ここにいる全員がハチマン君の類友だと分かったところで」
いつの間にかここにいる全員が俺の類友扱いになってるんだけど。
流石に変態たちと類友なのは嫌だわ。
「ソニア博士、ラグラージは戻さないのかい?」
「あっ」
ダイゴさんに指摘されてようやく気がついたソニアが、首をぐりんと回し地面に倒れているラグラージに目をやった。
「ご、ごめんねぇ、ラグラージ! ボールに戻ってゆっくり休んでてぇ!」
そして、慌ててラグラージへと駆け寄っていった。
「およよ、コマチは嬉しいよ、お兄ちゃん」
「はっ? 何がだよ」
そんなソニアを横目にコマチが嘘泣きというか泣き真似をしてくる。
「ヒキガヤコマチ苦節十七年。ついにお兄ちゃんにもこんなにたくさんのお友達が出来ただなんて。これなら友達百人も夢じゃないよ!」
「夢だわ。夢でしかないし、何なら夢ですらないわ。何が悲しくて類友を友達呼びしなきゃいけないんだよ」
類友を友達扱いしたら、世界のどこかにいるであろう、俺とよく似た見知らぬ誰かもまた友達ってことになるぞ。
絶対嫌だわ、そんなの。
「でもコマチのお義姉ちゃん候補はたくさんいるじゃん」
「ノーコメントで」
「あ、ごめん。候補じゃなくて決定だったね」
「ノーコメントで」
お願いだから、そこと類友を同じ扱いにしないでくれよ。
下手に口にしようものなら、ユキノたちにこれ見よがしに何されるか分かったもんじゃない。
言質は取られた方の負けなのだ。
「んで、現役チャンピオンたちから見てソニアの実力は如何程で?」
話を変えるべく、ダイゴさんたちにソニアの評価を聞いてみることにした。
「そうだね。五戦やって五連敗って結果ではあるけど、相手が全員無茶苦茶だったからね。負けたからソニア博士が弱いってことは口が裂けても言えないかな。というかよく最後までやり切ったと思うよ……………」
ダイゴさんとしては五人に対して最後までバトルが出来ただけでも高評価らしい。
審判という一番近い位置から見ていた人の感想だ。
そこは間違いないだろう。
というか、最後のその言い方だとダイゴさんは投げ出しててもおかしくないって感じだぞ?
「私としては今日の様子を見る限り、ソニア博士はもう大丈夫なんじゃないかしら。まだ抜けきらないところもあるだろうけど、少なくとも世界は広がったんじゃない?」
「えっと、それは………」
シロナさんとしては、結構厳しいことも言っていたので、五戦を通してソニアの世界が広がっただけでも上々なようだ。
ソニア自身はまだ認めたくないようだが。
「ダンデくん以外にも私では敵わない人たちがいるのは、まあ………。でも、それもハチくんの影響を受けてる人たちばかりだから、鵜呑みするのもどうかなとは思ってます」
その言い方だと、俺が周りに悪影響を及ぼしてるみたいじゃないか。
少なくとも悪いことにはなってないのだから、悪影響と捉えられるのは不本意だぞ。
「なら、やっぱり最後は地元で自分の実力を確認するのが一番でしょうね」
あ、やっぱりそういう結論に行き着くのね。
それなら準備しておいて正解だったな。
「ああ、それならもう手は打ってますので、ご心配なく」
「「えっ?」」
シロナさんとしては思いつきでの発案だったのだろう。
ソニアは初耳って感じだな。
そりゃ、公言するのはこれが初めてだし。
話したのってユキノにだけだったか?
「カブさんには既に事情を伝えてあって、スケジュールを押さえてもらってるところなんだよ」
「はぁ?! 今度はカブさんとバトルしろっての!?」
まあ、間違いではないな。
正確にはカブさんとも、であるが。
「それは行ってからのお楽しみってことで」
「そんなの楽しめるか!」
嫌がるのも分かる。
ただ、やはりコンプレックスの元をどうにかしない限りは、自己認識は変わることがない。
荒療治なのは分かっているが、シロナさんでさえそうした方がいいと言うのだから、ソニアが殻を破るには必要なことだと思う。
「まあ、どっちにしようがガラルには行くことになるからな」
「そうだった………ダイマックスとメガシンカの検証あるんだった」
「そのためにオレも残ってるんだしな」
「…………まさかそれもカブさんが?」
お、ようやく気が付いたか。
ぶっちゃけ、ガラルでこういうのに対応してくれて且つ俺が連絡先を知っている人ってなるとカブさんしかいない。
ダンデも権力としては可能だろうが、バトルが絡むと面倒なことこの上ないし、ソニアもいるためまだ呼ぶわけにはいかない。
あとは爺さんかピオニーのおっさんであるが、前者は鎧島への移動が面倒、後者は結局カブさんが絡みそうってことで、最初からカブさん一択なのだ。
「俺が連絡して、それに答えてくれそうな紳士はカブさんしかいないからな。あ、行く時はお土産を買って行こう」
「それはそう! ちゃんと高いの用意しときなさいよ!」
「お、おう………お前までそういう発想になるのか」
「そりゃそうでしょ! カブさんにはお世話になってるんだから、こういう時にでもないと返せないじゃん!」
「マジそれな」
ソニアもカブさんには頭が上がらないらしい。
俺も金額を気にしないでお土産を用意するとしよう。
「さて、いつ連絡が来るか分からないから、取り敢えずこの五戦のお浚いでもしておくか」
そのカブさんからはまだ準備が出来たという知らせが届いていない。
いつ準備が整うのかが分からないため、さっさと必要なことは終わらせておくに限る。
「そうね。お互いのポケモンの情報を擦り合わせておけば、思い出した時に何故そうなったのかも明確に思い出せるでしょうし、いいと思うわよ」
ユキノも俺の言葉に察しがついたのか、援護射撃を送ってきた。
「だってさ。つーわけで、まずはソニアのポケモンからだな」
「情報って何言えってのさ」
「主に特性じゃね? 何ならパーティーのコンセプトとかでもいいんじゃないか?」
ポケモンのタイプは、ここにいる人たちなら一部を除き、言わなくても分かるだろ。
それに特性やパーティーのコンセプトが分かれば、何をどうしようとしていたのかもイメージ出来るだろうし。
「あーね。なら、まずパルスワンの特性はがんじょうあご。ストリンダーはパンクロックで、エレザードとマッギョがすながくれ。サダイジャはすなはきだし、ジャラランガはぼうじん。エモンガがせいでんきで、ラグラージがげきりゅうからのメガシンカしてすいすい。ニョロトノはあめふらしだし、ライボルトはひらいしんのメガシンカしていかく。アーマーガアがミラーアーマーで、キラフロルがどくげしょうだよ」
うん、こうして十二体を並べてみると、でんきタイプが多い。というか半数である。
次に多いのはじめんタイプ。
対極過ぎない?
そのでんきタイプも少々特殊だし。
「…………前から思ってたんだが、お前のポケモンってでんきタイプが多いくせに、砂嵐に強い特性が多いよな」
「そうだね。でんきタイプは雨降ってるだけで恩恵を受けられるけど、天候を変えられたら意味ないし、それが砂嵐ともなるとダメージも怖いからね。それに晴れや雨は主流だけど、砂嵐や霰、雪は使ってくる人も限られるじゃん? その中でも砂嵐の方がダメージを受けないタイプが多いから、砂嵐の方が使われると思って、砂嵐もいけるようにしたんだよ」
ほーん。
だから天候操作はお手のものってわけだ。
「それを思いついたのはいつ頃だい?」
「あー、もう十年以上前じゃないですかね。あの頃とはお別れしたりしてメンバーも入れ替わってたりしますけど、主軸にしているバトルはそこまで変わってないかと」
「………シロナさん、どう思います?」
「ギルティ」
だろうな。
十年前の時点でこの発想、この編成プランである。
こういう計画性があったから、ダンデという絶対王者が出来上がったんだろうと想像が付くわ。
「シロナさん、因みにこいつの通り名はサンダーソニアですよ」
「電気使いを花の名前にかけているのね」
「みたいっすね。ただ、中身は砂嵐も使いこなす天候操作型、ですけど」
「でなければ、あんな火力バカなチャンピオンは生まれないわよ。あんなの誰かしらの影響を受けてるとしか考えられないし、それが幼馴染の頭脳派ならば、納得しちゃうわ」
それはそう。
バトルバカな上に火力バカなため、誰かしら導く存在がいなければ、ああはならなかったと思う。
そして、ダンデも弟子にしていたマスタード師匠もあんな風には育てないだろう。
となると、やはりあいつに強い影響を与えたのは一人しかいない。
「なら、サンダーソニアも復活の兆しが見えてそうだね」
「うぅ………あんまりサンダーソニアを連呼しないでください。恥ずかしいってのもありますけど、私なんかに通り名なんて烏滸がましいです」
ダイゴさんまでサンダーソニアを口にすると、ソニアが縮こまってしまった。
「あら、ごめんなさいね。通り名なんて私にはないものだから」
「えっ? そうなんですか?」
……………言われると聞いたことがないような気もする。
なんかもうチャンピオンってイメージしかないし。
「えぇ、大抵シロナさんかチャンピオンって呼ばれてるもの。新聞の記事なんかもチャンピオンだし、チャンピオンが通り名みたいなものなのよ」
「僕もそんな感じだったね。今はもうチャンピオンの座をミクリに譲っちゃったから、元チャンピオンとか石の人とか御曹司とか、そんな呼ばれ方が多いかな」
俺もイケメン御曹司とか言っちゃってるもんな。
やっぱり他からも御曹司って呼ばれてたりするのか。
「この中で通り名持ってる人って何人います?」
ふと疑問におもったのだろう。
イロハがコテンと首を傾げた。
「ユキノちゃんは三冠王だよねー」
「メディアが勝手に言ってるだけよ」
「逆にまだそれ擦られてるのかよ」
ハルノが揶揄うように言うとユキノは呆れたようだった。
俺としても忘れてたくらいには、誰もその通り名を口にすることがなくなってるからな。
今のポケモン協会の理事ってイメージの方が強くなってるのかもしれない。
「そういうハチマンも忠犬ハチ公だったり、仮面のハチだったり………あと黒の撥号、だったかしら?」
「黒の撥号は通り名じゃなくてコードネームな」
噂の登場人物名として出てくるから、ある意味通り名ではあるか。
「イロハさんはよくアイドル四天王とか書かれてますよ。これのどこがアイドルなのかは甚だ疑問ですが」
「お米、後で絶対にシバく」
……………アイドル四天王。
まあ、想像は付くけど。
他の四天王三人よりも若く、表向き笑顔を振り撒くのに長けている性格上、そう言われてもおかしくはない。心の中では何を思っているのかはさておいて、だが。
どうせ悪態を吐いているんだろうけどな。
そっちも普通に想像出来てしまうわ。
「後は誰かいたっけ?」
「ユイの最強のジムトレーナーかしら」
「それだな」
「ジムトレーナーに最強も何もないのに、そんな呼ばれ方するくらいですからね」
「あたしは普通にバトルしてるだけなのにね」
普通に考えて最強のジムトレーナーって表現がおかしいもんな。
ジムリーダーよりも強いジムトレーナーでもあるから、色々とややこしい。
「こうして並べてみるとサンダーソニアが如何に綺麗な通り名かが分かるわね」
「俺の忠犬ハチ公とは大違いだわ」
「忠犬の『ち』の字もないもんね」
ないな。
仕方がないからやってたわけで、利害の一致でしかない。
それで忠犬ハチ公なんて呼ばれるようになるんだから、ポケモン協会もバカばっかなのだろう。
もっとそれまでの背景とか仕入れとけよって話だわ。
「どちらかと言うと唯我独尊だもの」
「いや、周りのことはちゃんと考えてるだろうが」
「考えた上で振り回してるじゃない」
「それは世界に言ってくれ。俺も振り回されてる側だ」
ユキノはなんてことを言うのだろうか。
この俺を唯我独尊だなんて。
自尊心なんかないに等しいぞ。
「それに、自尊心がかなり高い人たちを揶揄して使われることが多いけれど、本来の意味としては『誰とも代わることのできないかけがえのない存在として、そのままの状態で尊い』ってことなのよ」
「先輩が尊い?」
「ハチくんを尊いと思ったことがないんだけど」
「お前らな」
イロハもソニアも明け透けに言い過ぎだろ。
いや、俺も尊いとか言われて拝まれたら、気持ち悪さすら感じるけども。
それで言うとイロハはそんなことをされる存在でもあるってわけだ。
偶像崇拝、怖っ…………。
「コマチもお兄ちゃんを尊いと思ったことは一度もないですねー。くたばれとかは思ったことありますけど」
「酷い」
実の妹からはこの仕打ちである。
「でも、ユイさんは尊いと思ったことありますよ?」
「ほえ? あたし?」
「ふっ、ユイが独尊ってか。なかなか面白いじゃないか」
「元国語教師が無駄に頭フル回転させてんなよ」
何がユイが独尊だよ。
シズカさんもアホなこと言わんで下さい。
「いいではないか。名前にも掛かっているし、実際とのギャップがあって」
「我もいいと思うぞ。ユイが独尊、ふひっ」
「厨二が気持ち悪いから却下で」
うんうん、それがいいと思う。
「「ええー、いいと思ったのになー」」
シズカさんとザイモクザが残念そうにしているが、ぴしゃりと言い切ったユイが正解だと思う。
こんなアホな通り名、恥ずかしさしかないって。
「つーか、脱線し過ぎだろ」
「本当、ハチくんの周りって言葉一つで次々と会話が動くよね」
多分、如何にして俺をこき下ろそうと画策しているからだと思う。
特にユキノといろはす。
「瞬時にこれだけの返しが出来るんだから、全員地頭がいいってことなんだろうね」
「地頭というか、そういう思考回路をしている人が一箇所に集まり過ぎなのだと思うわ」
「歳を取ってもボケそうにないからいいんじゃない? 僕も見習わないと」
「先輩はやめてね。先輩が彼らみたいなレベルの言葉遊びを覚えたら、面倒なことこの上ないから。さもなければ、先輩が寝ぼけて書いた婚姻届を役所に提出するから」
「えっ、待って!? それは本当に勘弁して!」
まだあったのか、その婚姻届。
提出する時には、空白になっている妻の欄に誰を書くつもりなのだろうか。
「ねぇ、あの二人ってやっぱりそういう関係なの?」
恋愛脳なユイには、やっぱりそういう風に見えるらしい。
「さあな。ただ、先輩を玩具としか思っていない後輩の図、とも言えなくもないのが怖い」
「自分を見てるようだから?」
「そう。って何言わすんだよ」
「ほほーう、先輩はああいうのがお好みでしたか」
「………そうなった日には、お前を縛り付けて数日に渡ってお仕置きすることになると思うぞ」
「ッ!?」
イロハが煽ってくるため、そうなった時のことを予め伝えたら、何を想像したのか、もじもじし始めた。
横でコマチがイロハを残念なものを見るような目で見ているぞ。
「ん、んん。それにしてもキラフロルとマッギョは捕まえてすぐのバトルだったのに、よく使いこなせましたね」
あ、態とらしく咳払いまでして話を強引に切り替えてきた。
「いや、まだまだだと思ってるんだけど。あんなの付け焼き刃でしかないって」
「いやいやいや、キラフロルで厨二先輩のフライングサーカス? に参加しておいて何言ってんですか!」
「えぇ!? だ、だって、アレはプー太郎が空中戦ばっかり仕掛けてくるから、こっちの攻撃が届かないし、当てようと思ったらこっちも空中戦を仕掛けないとどうしようもないじゃん? それでどうしようかと思ったら、もうそのまま目の前の技術を使うのが手っ取り早かったってだけで………」
「キラフロルはまあ、それで説明出来たとしてもアーマーガアはどうなんです? いつの間にかボールから出しておいて、バトルを観戦させて技術を盗んでたじゃないですか」
「それは砂嵐に乗じて出しておいただけだよ。最初からぶっ飛んだバトルをしてくるから、保険としてアーマーガアに観戦させておいただけだよ。アーマーガアにしたのも他のポケモンだと飛べなくて隠れられないからってだけだし」
こいつは何を言ってるのだろうか。
さも当たり前のことのように言ってるけど、それを即実行出来るだけのポケモンたちの育成やら発想の引き出しやら、どれを取っても高度なことなんだぞ?
俺も自分を普通だと思ってたところがあるから、嫌でも思い知らされたってのはあるが、それでもソニアのこれは異常だと思う。
俺と照らし合わせてもかなり異常じゃないかな。
まあ、俺はリザードン一体に陰に黒いのがいたかいないかくらいで、手数がかなり少なく、バトル中に他のポケモンを仕込んでおくってことが出来なかったんだけども。
そういう時は、ボールに入っていない黒いのに何とかしてもらってたし。
「ぶっ飛んでるのはお前の頭だわ」
「「「「うんうん」」」」
「えぇー、何でぇ………」
ソニア以外、誰も否定してないのがその証拠だろうに。
「何でもクソもあるか。元々ボールから常に出しておく習慣があるポケモンなら分かるが、バトル中にそうでもないポケモンを先に出して、隠れて観察してなさいって発想は早々出てこないっての」
しかもそれを砂嵐を使って相手から見られにくい状況の中でこそっとやってるんだから、用意周到にも程があるわ。
「ったく………んで? イロハとのバトルは初日に手持ちにいたポケモンたちでってのは聞いたが、ユイとのバトルのコンセプトは? 砂パか?」
「一応、砂パだね」
「となるとユキノとのバトルは雨パか」
「うん」
「で、ハルノとのバトルではまた変えてきてたよな? でんき統一とか?」
「そうだね。雨降らせるのにニョロトノを入れたけど、でんき統一って思ってくれていいよ」
まあ、この辺までは割と分かりやすかったからな。
「で、ザイモクザとのバトルは残りのポケモンたちってわけか」
「一応、じめんタイプが主軸ではあったんだけど、そこで空中戦をされちゃったから、ぶっちゃけその時点で壊されてるんだよね」
あ、なるほど。
残った面子ってのもあるが、じめんタイプが中心になってしまった以上、フライングサーカスがコンセプトのザイモクザのパーティーを引き当ててしまった時点で、ソニアの作戦はほぼパーになっていたわけだ。
それでもどうにか毒菱を撒いたりしてみたものの、見事に不発で終わってしまったと。
「ああ、だから六の目が出た時に、あんなに落ち込んでたのか」
「そ、そうね」
なんて運のなさよ。
それなのに、フライングサーカスの動きをすぐ学習して、ポケモンにも学習させて使ってくる辺り、臨機応変な感覚は持ち合わせているのだろう。
というか、バトルをする度にその感覚が蘇ってきて、ザイモクザとのバトルでようやく洗練された結果ってところか。
「だとよ。因みにイロハのコンセプトはあったのか? というかほのおタイプの四天王ってことを前面に出してたわな」
「そうですね。バクーダはハードロック、ヒヒダルマはダルマモードでしたけど披露する機会がなく、ガブリアスはさめはだで、マフォクシーはもうかからメガシンカしてふゆう。ヒードランはもらいびで、ボルケニオンはちょすいですよ」
「いやもうほんと。あの最後のちょすいが一番嫌だったよ。あの見た目でちょすいはないでしょ!」
「いやー、そんなこと私に言われましても…………」
ほのおタイプにしか見えない身体でちょすいだもんな。
というか、同じほのおタイプの使い手とバトルした場合は、もらいびを持つヒードランが壁になるだろうし。
改めて見ると何だ、このパーティー。伝説のポケモンが二体もいて、さらにメガシンカ出来るポケモンもいくつもいるとか、肩書き詐称もいいところだわ。
「ユイは?」
「あたしはかくとうタイプを主軸ってとこかな。シャラジムのジムトレーナーだし。スコーンがやるきだっけ? 寝ないやつ。マーブルがマイペースで、マロンはしんりょくでしょ。ブラウニーがおかしなこぶしって言ったっけ? クランチがすなおこし。シュウがせいしんりょくからのメガシンカしててきおうりょくだよ」
「ウーラオスはふかしのこぶしだね」
「あ、そうそう。それそれ」
確かに防壁を貫通する特性らしいから、おかしな拳ではあるよな。
ただ、それ以前の問題でニックネームが全部何かしらの焼き菓子とかスイーツ系統だから、誰が誰だか分からん。
サブローくらいしか覚えてないまである。
そう思うとソニアって相手のポケモンのニックネームまで瞬時に覚えてしまったのだろうか。
…………ソニアだもんな。ないとは言い切れない。
「ユキノは?」
「…………昨日も言ったでしょ。元々クレセリアを入れるつもりだったのを昼休憩の時に姉さんと交換して、パルシェンを入れたこおりタイプ統一にして、オーダイルの成長したところを見せたかっただけよ」
あ、遂に認めやがったぞ。
昨日はあんなに恥ずかしがってたのに。
ついでにユキメノコの成長した姿も見れて俺は満足してるぞ。
「特性はユキノオーがゆきふらし、パルシェンがシェルアーマーで、ユキメノコがゆきがくれからのメガシンカしてゆきふらし、マニューラがプレッシャーでツンベアーがすいすい。最後のオーダイルがげきりゅうからのメガシンカしてドラゴンスキンよ」
「何つーか、よくそこまで揃えたよな」
「これでもマンムーとはお別れしなきゃいけなかったのよ。今はマンムーロードで他のマンムーたちを率いているわ」
「以前、ウリムーがいたのは覚えてるわ。進化してあっち行っちゃったのか」
「まあ、会えないことはないもの」
記憶のどこかにウリムーと一緒にいたユキノがいるのだから、本当にお別れしてしまったのだろう。
何があったのかは分からないが、マンムーロードにいるってんだから、カロスにいれば会いに行ける距離である。
クソ寒いけど。
「ユキメノコにメガシンカされたらゆきふらしが二体もいることになるし、このパーティーの半分はぜったいれいど使ってくるし、パルシェンにはわたしの戦略を真似されるし、オーダイルに至っては何故かハチくんに従順だし、マジで何なの?」
「ハチマンの正妻、かしら」
間髪入れずにそれで答えるなよ。
多分、そういうことを聞きたいんじゃないってお前も分かってるだろうに。
「あまり認めたくはないですけど、正妻ですよね」
「ユキノちゃん、何かにつけ込んでは正妻ムーブ取りたがるもんねー」
悔しそうなイロハとは対照的に、ユキノを揶揄うハルノ。
ユイだけが苦笑いである。
お前も言いたいことがあるなら、ちゃんと言った方がいいぞ?
するとコマチもそう思ったのか、ユイに耳打ちしている。
「ゆ、ゆきのんが正妻ならあたしは愛人だから!」
コマチがコケた。
ユイはいきなり何を言ってるのだろうか。
というか既に愛人ムーブを仕掛けてくる三十路がいるんだよなー。
「ユイガハマ、悪いが愛人枠は既に私で埋まってるぞ」
「いや、埋まってねぇよ。愛人とか思ってもないですし」
「酷いっ!? 私を散々弄んでおい、この仕打ちとは………!」
シズカさんは一体何を言ってるのだろうか。
そもそも何故愛人枠に拘るんだよ。
「あ、じゃあシズカちゃんは不倫枠?」
「どっちも一緒だろうが。そもそも全員正妻でいいだろ」
「それはダメ。順番は大事」
「ハルノがそこを拘るのかよ………」
もう訳分からんよ。
年上組の二人はどうなりたいんだ………。
「じゃあ第一夫人とか第二夫人とかでいいんじゃねぇの?」
「んー、なんかしっくりこないのよねー」
「面倒くせぇな。なら、もう順番にユキノが一番目、ユイが二番目、イロハが三番目、ハルノが四番目、シズカさんが五番目でいいだろ」
「もうちょっと可愛い言い方がいい」
「要求が多いな…………」
「だって、私だけキッカケがアレなんだもん」
キッカケねぇ………。
ぶっちゃけ幼児退行した時のインパクトが強すぎて、多少の何やかんやは気にも止めてないんだけど。
「ユキノちゃんはハチマンの対となる存在になっちゃってるし、ユイちゃんはハチマンにとって初代ヒロインだし、イロハちゃんなんかハチマンの歳下に甘い部分を的確に攻めて手放せなくなるようにたらし込んじゃったし、シズカちゃんなんか誰かもらってやれよって言ってたのが、事件を機に絶対に誰にも渡さんって言われるところまでいっちゃってるんだよ? そうなると私も何か欲しいじゃん?」
「ハルノ…………」
「ハチマン………」
しなだれかかるように肩に手を置いてくるので、俺もハルノの肩に手を添える。
見つめてくる目はうるうるとしている。
おい、マジか。
なんかそんなネタあった気はするが、それをやれと?
「「イエス、フォーリンラブ」」
そして、二人でソニアに向かってそういうとソニアがズッコケた。
「………大丈夫か、ソニア」
「だ、大丈夫じゃないよ………何なの、この茶番」
「まあ、要するに切っても切れない関係ってことだ。ポケモンたちも含めてな」
「まとめ方が強引過ぎる!」
そんなこと言われたって無駄に話が脱線するもんだから、どうにかして話を戻さないとだろ?
とはいえ、ハルノがこうして不意に仕掛けてくる時は大抵構って欲しい時なので、そのまま後ろから肩へ手を回して密着したままにしておく。
「で、ハルノのパーティーは?」
「私はハチマンの推察通り、あくタイプ統一だよん」
「ゾロアークとメタグロスで翻弄し過ぎだけどな」
「あれは面白いくらいにメグリとの会話を意識し過ぎちゃったソニアちゃんが悪いのよ。あんな見事に引っかかるなんて、楽しかったよ」
「怖い怖い怖い」
確かに悪いのはソニアであるが、それを分かった上で利用する方もする方だと思うぞ。
「あ、で特性だけど、バンギラスがメガシンカ含めてすなおこし、ゾロアークがイリュージョン、ワルビアルがいかくでベトベトンがどくしゅ、サザンドラはふゆう、メタグロスがクリアボディのメガシンカしてかたいツメだよん」
「ベトベトンってどくしゅだったんだ」
「まあ、出番少なかったからね。くろいきり使うタイミングを測ってただけだし」
割とあっさり引っ込んだもんな、カラフルなベトベトンは。
ただ、やったことがかなり精神的な攻撃になっているため、その後の展開には大きく影響したことだろう。
「ザイモクザは………正直、聞きたくない」
「聞いてあげなよ。想像通りだろうけど」
「うむ、Zはてきおうりょく、ジバコイルはじりょく、ダイノーズはがんじょう、ギルガルドはバトルスイッチ、ロトムとシビルドンはふゆうであるぞ」
ほらやっぱり。
ある意味、対ソニアパーティーみたいなもんじゃねぇか。
共通してじめんタイプが弱点となるのに、特性や技で効果をなくされ、逆にフライングサーカスなんていう、ソニアには未知な世界に引き摺り込んでしまってるんだから。
「ちなみにシビルドンはメガシンカするとうなぎのぼりって特性に変わるよ。効果はふゆうと相手を倒すごとに自分の一番高い能力が上がるっていうのが一つになったやつだね」
「へぇー」
「お前はちゃんと知っておけよ」
「いやー、シビルドンのメガシンカ使ったの初めてだし? 我、そこまで気にしてないし?」
シビルドンをメガシンカさせたのも初めてなのかよ。
しかもメガシンカしたら、何気にチートな特性に変わるみたいだし、ソニアとしては散々過ぎるわ。
よくやったと思う。
「折角、猛毒の毒菱にしたのに…………」
「いやー、それもサイコロの目で六が出ちゃったからで、我は悪くないのであるぞ」
それはそうなのだが、多分どの目が出ても同じようなことを口にしてると思うわ。
「因みに誰が一番嫌だった?」
「え? うーん、イロハちゃんとユイちゃんはまだ可愛いレベルってのを、後の三人を以って思い知らされたって感じだから、三人とも嫌だったかな」
「まあ、イロハを可愛いレベルと言えるようになっただけいい方か」
あれを可愛いと思えるんだから、相当ぶっ壊れたんじゃないだろうか。
俺はイロハも最初からやべぇ奴認識でしかないからな。
どこの世界に伝説のポケモンを二体用して立ち塞がる四天王がいるんだよ。
「そうですか。私は可愛いレベルでしたか。そうですかそうですか」
「え、なに? 怖いんだけど?」
しかし、何故かソニアの言葉はイロハの琴線に触れたらしい。
笑顔が怖い。
「いえいえ。ただ、今回の先輩の企みの発端は、ソニア博士の恋のお悩みからって言うじゃないですか」
「はっ? ハチくん、何言っちゃってんの? 恋のお悩み相談とかしたことないでしょうに」
「いや、どう考えてもお前のそれは恋のお悩みでしかないって。人様に関心のない俺ですら、こいつ拗らせてんなと思えるレベルだから」
鎧島で俺に感情をぶつけてきた時にはもう、ね。
色々な感情が織り混ざっているのは確かだが、その根本的な部分はやはりダンデとの関係性だろう。
「ソニア博士! かわいいは長所。かっこいいは正義。プロポーションは武器。コミュ力は盾。なら、恋は何だと思います?」
するとイロハが何か突拍子もないことを言い始めた。
恋が何かって言ったら、恋煩いなんて言うくらいだから、患うに変換して病気かな。
「うぇ?! な、なに急に………」
「ほら、答えてください」
「えっと………短所、かな」
「病気ですよ。中々治らない、治療薬もない。相手次第では感染力も強力。見てくださいよ、先輩には既にこれだけの被害者がいるんですよ? ヒキガヤ菌の感染力は半端ないんです。ただし、罹患する側も特殊な免疫反応を持ち合わせてないとダメな可能性はありますが。ソニア博士だってそうでしょう?」
ねぇ、ちょっといろはす?
さらっと流してるけど、ヒキガヤ菌ってなーに?
俺は病原菌なの?
しかも感染力高めなヤバいやつなの?
あと、ハルノさん?
顔隠して声も殺して爆笑するのやめてくんない?
「長年積もりに積もった関係のせいで特殊な免疫反応になってしまい、他の誰かでは満足出来ない」
おい、免疫反応にまで作用しちゃってんのかよ。
凄いな、ヒキガヤ菌。
予防接種した方がいいんじゃねぇの?
或いは特効薬か。
いや、今治療薬がないって言ってたよな。
詰んでるじゃねぇか。
「先輩に似ようとするユキノ先輩。先輩に似ることのないユイ先輩。先輩に似てしまった私。先輩に似ようとしないお米。先輩に元々似ていたはるさん先輩や厨二先輩。並べただけでもこれだけいるんですよ? ソニア博士はどのタイプでしょうね」
うん、俺にはよく分からんが、女性陣はうんうんと頷いてるため、イロハの分類分けは強ち間違いではないらしい。
一部、変なのが混ざっているのはどうなのかと思うが。
キマシタワー! って声が耳の奥で久しぶりに聞こえた気がする。
「似たくても似ることのない幼馴染、だよ」
「へぇ? 話を聞く分に、私の見解としてはそもそもが逆ではないかと思うんですよねー」
おっと?
まさかの今までのが前振りだった?
「逆?」
「ソニア菌」
ぶっ!?
ソニア菌って…………。
言い得て妙ではあるが、言いたいことは理解したわ。
そうだな、そっちからの視点ならば、なんかしっくりくるわ。
「なるほど。そういうことか」
「あ、先輩分かりました?」
「まあな。心当たりは大いにある」
ダンデ然り、ルリナ然り、恐らくキバナも然り。
「そりゃ、ソニアはダンデに似たくても無理だろうよ。そもそもの順番が逆だったんだからな」
ソニアがジムチャレンジに参加した時の同期は、恐らく多かれ少なかれソニアに影響されている。
「思い返せばそうだよな。ダンデはソニアに似ることでポケモンバトルが強くなり、ソニアを超えていった。ソニアがいたことでチャンピオンになっても王者で有り続けるだけの知識と応用力があった。それに、あいつの話を聞いていても核にあるのはお前だ。あいつの基礎はお前から出来ている」
「やっぱりそうなんですねー」
「そうするとルリナやキバナもソニア菌の被害者ってわけか。ソニアに似てしまったダンデ。ソニアに似ようとするキバナ。ソニアに似ようとしないルリナ」
ジムチャレンジの結果だけを見れば、ソニアだけが途中敗退。他の三人は順調に人生を謳歌し、トップ帯で活動している。
その三人がそれでもソニアを一目置いているのだから、イロハのこの理論が一番納得のいく形だったように思える。
「似ることのないのと、元々似ていたのっています?」
「えー? うーん、ネズ? 多分、似ることはないだろうし、あとは………」
ネズは同期でもないらしいけどな。
「元々似ているのは、ある意味先輩ってことじゃないですかね」
「ソニア菌だからか?」
「ですです」
同期というか、同じ時期にガラルにすらいないが、分類的には俺がそこへ組み込まれてしまうのか。
「よかったな、ソニア。俺と同じ病原菌だってよ」
俺は嬉しくないが。
何だって病原菌扱いされにゃならんのだ。
「………ハチくん、は……ダンデくんやお祖母様に似てる……し………わたしは似てないよ」
「えー? そうですかねー。結構、先輩に似てるなーってところありましたよ?」
「えっ?」
「無駄に知識はあるわ、それでいてバトルは強いわ、容赦ないわ、数手先まで読んで動いてくるわ、先輩がこうなる前の姿を見ているようでしたよ」
「おいこら、人を指でつつくな」
ハルノも一緒につつくんじゃありません。
「………それは単にわたしの中にある知識でどうにか説明が出来て、バトルも昔の経験があるからで、これでもまだあの頃には及ばないよ」
なあ、その言い分だと当時のソニアはかなり化け物だったって言ってるようなものだぞ?
ただ、それ以上にプレッシャーに弱かった、というか無駄にプレッシャーをかけられて潰されてしまったと言った方がいいか。
そう、潰されてるんだよな、メディアによって。こいつの才能を。
「うーん、初めてハチマンとバトルした時のあの感じに近いものはあったかも?」
初めてというとカントーリーグ大会での決勝戦の時のことか。
俺がリザードン一体で当時チャンピオンだったハルノのポケモンを全員倒しちゃったもんな。
あの時の俺はかなりゾーンに入っていたというか、周りを気にしなくなっていたから、端から見れば狂気でしかなかっただろう。
「これでバトル中に新しく技でも覚えさせた日には、頭を抱えたでしょうね」
流石にそれはな。
俺もスクール時代に中々無茶なことをしてたなって自覚はあるぞ。
とはいえ、そうしなければ最悪俺が大怪我なり命を落とすなりしてただろうし。
「ヒッキーに追い込まれてるようで、怖かった」
…………そういえば、ユイと全力でフルバトルってしたことあったっけ?
「バトル中に仮説と結論を更新し続けていたようにお見受けしたが、我が相棒もそういうところがあるぞ」
あのザイモクザですらそこを読み取っていたのだから、無意識で行えるくらいには身に染みている思考回路なのだろう。
それはそれで怖いわ。
「だそうですよ」
「…………、本当に?」
信じられないとばかりに疑ってくるが、お前の普通は既に異常枠になってるみたいだぞ。
取り敢えず、ヒキガヤ菌・ソニア菌に合わせた言葉にしてみるか。
「あー、だからな、ソニア。そろそろソニア菌が変異株になってもおかしくないと思うんだわ。何なら暴走してもいいんじゃねぇか?」
別に昔を否定する必要はない。
俺だって、昔のヤバい出来事があった上で今の俺があるわけだし。
人生そんなイージーモードで出来てるわけじゃないんだ。
昔をどう今に取り込むかが大事だろ?
「………わたしに抗体、出来てると思う?」
「抗体を跳ね返すくらいぶつかればいいだろ。なんせ相手は最強だぞ?」
しかも標的は押しても倒れない無敵のチャンピオンだぞ。
遠慮する必要はない。
それでもまだ覚悟が決まらないっていうのなら、最後の荒療治をしようではないか。
「………よし。なら、ガラルでの実証実験が終わったら、俺ともバトルするか」
「えっ………」
「何だよ、嫌なのかよ」
「というかハチくんとメガシンカしながらのダイマックスの実証実験するんだから、どっちにしろバトルするじゃん」
「あ、お前が相手してくれるのか」
「っ!? しまった?! まさかの誘導!?」
こいつ、実証実験も自分がやるつもりでいたんだな。
別にカブさんとかでも良かったのに。
多分、そういうところだと思うぞ。
「今のはソニア博士が墓穴を掘っただけよ」
「くっ………ハチくんとのバトルなんて、いい思い出がないんだけど」
「そうだな。コンプレックスを刺激してくるからって逆ギレされて、ぐっちゃぐちゃな感情の捌け口にされたバトルだったもんな」
「コテンパンにされたけどねっ!」
まあ、あの時のバトルなんて可愛いもんだったわ。
ここ三日間のバトルの方が格段に上だったし、トレーナーをやめたと豪語している割には、あの頃よりかなり強くなってると思う。
「まあ、今回はあの時のバトルなんか屁でもないくらいの、ダンデよりも理不尽なことしてやるから。何ならダンデが可愛く思えるようなことしてやるからな」
「お兄ちゃん、何する気なのさ!」
「ラスボスらしいことしようかなと」
実証実験には変態壱号二号が一緒に来るため、丁度見せるタイミングとしてもいいと思うし。
「あなた、いつからラスボスになったのよ」
「先輩は中盤くらいのボス戦の脇にいるキャラでしょ。んで、エンディング後に裏ボスとして再登場する感じの」
「いそういそう! ハチマンならしれっといそうだわ!」
イロハもハルノも俺を何だと思ってるんだ。
「俺は通りすがりの裏ボスか何かなのかよ」
「スチルの四隅のどこかにしれっと写ってるくらいの通りすがりですかね」
「いないも同然じゃねぇか」
見返したら、まさかのこいつが裏ボスだったのかよって存在なのかよ。
何ならのっぺらぼうで写ってそうなまである。
と、スマホに連絡が入ったため確認してみる。
「お、流石カブさん。仕事が早いイケおじだわ」
なんてタイミングのいい。
色々とあっちでの準備が整ったらしい。
「おい、変態。ガラルのジムリーダーやってるカブさんが明日ジム使っていいってよ。朝一で飛んで午後から実証実験出来るぞ」
「ソニア博士の帰国に併せて向かうつもりだったんだけど、まさか君が手配してくれてるとは…………」
「ってことは明日もバトル?」
「そういうことだな」
「うへぇ…………」
連日バトルにはなるが、間を開けるよりはここで最後に絶望を味わわせておく方が、後々効果的だと思うんだよな。
鉄は熱いうちに打てと言うし。
「大丈夫だ。お前はその後、またバトルすることになるから?」
「はぁ?」
「ダンデにぶつかって行くんだろ? だったら、その前にやることがあるだろうが」
「…………何やれってのよ」
「過去の清算」
「ッ!?」
ダンデにぶつかるためには、ジムチャレンジの途中敗退というのを乗り越えないと、ソニア的には納得出来ないと思うんだよなー。
そこが一つのネックになっているみたいだし。
「「「「はぁ…………」」」」
何故かザイモクザを除く全員溜め息を吐かれた。
「何だよ………」
「こうやってヒキガヤ菌は感染力を高めていくのね」
「マジで何言ってんすか………」
ママのん、一体何を理解したんだよ。
「や〜ん、ママも感染しちゃうのかしら」
「治療薬はないみたいなんで感染しない方がいいですよ」
予防接種も出来ないんで感染しないようにして下さい。
つか、ママのんもガハママもヒキガヤ菌に納得しないで。
「仕方ないなー。ソニアさん、ヒキガヤ菌O-808は危険なので、ヒキガヤ菌O-303で抗体作りましょうか」
「ヒキガヤ菌って大腸菌か何かなの?」
俺の疑問は無視され、コマチがソニアの手を引き、研究所の中へと連れて行ってしまった。
あんまり詰め込み過ぎても、と判断されてしまったのかもしれない。
「僕も様子見てくるよ」
今まで会話を聞いているだけだったトツカもコマチを追うように研究所の中へと行ってしまう。
「………………何でしょうか?」
「君、過保護だって言われない?」
「何か過保護なことしましたっけ?」
「はぁ………お前はSかMかで言えば、間違いなくSだわ。ドを付けてもいいくらいの」
ダイゴさんもククイ博士も何が言いたいのかさっぱり分からないんだが………。
「本当に何だってんだ………」
まあ、取り敢えずはソニアに今のジムリーダーたちとバトルしてもらって、自分の実力というものを実感してもらいながら、過去の清算をしてもらおうではないか。
俺たちだけではブレーンのサンプルとして特殊過ぎるしな。
あいつらにもサンプルになってもらおう。
「ねぇ、ハチマン。彼も例の件には重要な位置になるのかしら?」
ソニアがいなくなったことで解散の雰囲気になったところで、ユキノが耳打ちするように小声で問いかけてきた。
「ん? 彼? ………ああ、ザイモクザか。まあ、実力的にもトレーナーのコンセプト的にも挑戦者には刺激的だろうな。ソニアみたいな反応が返ってくるんじゃないか?」
ユキノが指差すのは仁王立ちしているザイモクザ。
あんなんだけど、ソニアとのバトルでも分かるように、かなり特殊な人材だとは思うんだ。あんなんだけど。
「つまり、被害者が増えるというわけね」
「うん、まあ、そうだな。つっても王道なユキノ、詐欺師なハルノ、理解不能なザイモクザが骨格になるんじゃないか? 知らんけど」
「二人のキャラが濃過ぎて、私だけ埋もれそうね」
「心配すんな。お前も充分濃いから」
こいつは何を言ってるんだか。
ユキノも充分キャラが立ってるし、何なら目を惹く方だからな?
「そんなことは…………それなら、私たちの下にユイやイロハって感じかしら?」
「そうだな。ただ、イロハは頭一つ飛び抜けていずれお前らに並び立つんじゃないか? というかもう片脚突っ込んでるくね?」
「そうなると四人になって四天王ってところかしら?」
………………。
「………………あいつ、どこでも最後の一枠に入って四天王になってそうだな」
「本当に。恐ろしい子よね」
カロス四天王でありながら、ブレーン内の四天王にもなり得るってか。
なってそうだから、マジで怖い。
「あの子、うちの養子にしたいくらいね」
ちょっとママのん?
いきなり何言い出しちゃってんの?
「母さん、それだけは勘弁して」
「ユキノちゃんと三ヶ月しか誕生日が違わないもんねー」
「ええ、そうね。しかも年下ということを最大限の武器としている彼女を義妹になんてしてしまった日には、何を要求されるか………」
まあ、確かに?
誕生日としては三ヶ月しか違わないのに、学年が違うから先輩呼びされてるし敬語を使われているけども、それが取っ払われる義妹ってポジションに収まった日には、どうなるかなんて想像すらもしたくないだろう。
こっちはこっちで別の意味で怖いものがある。
「えぇー、私のこと嫌いなんですかー? ユキノお義姉ちゃん?」
「うぐっ…………イロハ、ちょっとお話しましょうか」
「えー、どうしよっかなー」
まさにこういうところな。
コマチがこんなんじゃなくて良かったと実感するわ。
「あの、普通に親いるはずなんで勘弁してやってください」
「ええ、知ってるわよ。カントーでご挨拶してきたもの」
「したのかよ。なら、うちにも?」
「ええ、真っ先に」
「………………コマチ、は行っちゃったから聞けねぇか」
親父からも母ちゃんからもそんな話は聞いてないってことは、俺の推定死亡が発表された後にってことなのだろうか。
それともあの二人が単に連絡するのを忘れてるとか? そもそも連絡する必要性すら感じてない可能性だってあるか。
ちょっとうちの両親、放任主義過ぎない?
「ご両親からは遠慮せずビシバシ扱いて下さいとお願いされたわ」
「怖い怖い怖い。俺に何させる気っすか」
「そうね、過去の清算とか?」
「ほら、それはもう俺死んだことになってるんで、それでチャラってことで」
「ふふっ、それはあなた次第ね」
いやもう本当。
ママのんがラスボスでいいんじゃなかろうか。
マジで静かな笑みが怖い。怖過ぎる。