「はぁ………やっと着いた」
ソニアの魔改造計画終了の翌日。
カブさんの準備が整ったということで、早速ガラルへとやってきた。
今回の同行者はソニア、プラターヌ博士、ククイ博士の研究者組とコマチである。
トツカもコマチと一緒に来るもんだと思っていたのだが、ザイモクザに捕まっていたため、そっちを優先したようだ。
ダイゴさんやシロナさんも流石に長居し過ぎたと仕事を理由に別便で帰るらしい。
ママのんやガハママには次は覚悟しておけと言われる始末で、今度会ったら何されるのか分からないのが怖い。
ユキノたちもソニアとはこれから何やかんやで付き合いが出来るだろうということで、さよならを言うつもりはないと断言していた。
意外と皆してソニアを気に入ったようで、関係を切るつもりはないらしい。
「ねぇ、何で今日も眠そうなの。飛行機の中でも寝てたのに」
その天然人たらしの欠伸をしていたら、訝しむように見られた。
いや、ね。
寝かせてもらえなかったのよ。
「…………お姉様ズに搾り取られたからって言っただろ」
初日はイロハ、二日目はユキノとユイのペアと来て、三日目にしてハルノとシズカさんという肉食獣に骨の髄まで搾り取られたら、そりゃずっと眠気に襲われてるって。
「お嫁さんがたくさんいるってのも大変だね」
「それな。ほんとそれ」
ハーレムは男の憧れと一度は思ったりもしたが、実際その身に降りかかるとかなり大変なのだと、身に染みてきている。
世の男ども、ご利用は計画的に。
「お兄ちゃん、生々しいんだけど」
「お前はトツカとよろしくしてなさい」
「サイカ君に言いつけるよ」
「はいすんませんもうこの話はいたしません!」
「変わり身早っ!」
何を言う。
こんなことトツカの耳にでも入れば、幻滅されること間違いなしだぞ。
いや、それにしてもコマチとトツカがくっついたことで、コマチの手元には常に最強の手札があるんだよなー。
もう勝てる気がしないわ。
「やあ、よく来たね。いらっしゃい、ハチ君」
「うす、お久しぶりっす」
そんなこんなでエンジンジムに辿り着くと、ジムの前でカブさんが立っていた。
「カブさーん!」
「おや、コマチ君も来てたんだね。久しぶり」
「お久しぶりです!」
コマチもカブさんを認識すると一目散に駆け寄っていった。
後ろにいる変態博士たちよりもカブさんに懐いてないか?
まあ、ガラルでは一番まともな大人という認識ではあるから、俺もかなり世話になっているけども。
「ソニア君も久しぶり」
「お久しぶりです、カブさん。今日はよろしくお願いします」
「いいよ、いいよ。こっちも現場に居合わせた身だから、気になってしょうがないんだよ」
ソニアも深々と頭を下げて挨拶する。
「初めまして、プラターヌです。ハチマ……んん、彼から色々と話は伺ってます。場をお借り出来て光栄ですよ」
「いえいえ、ハチ君の頼みですからね。僕も実験を見られるみたいだから楽しみですよ」
「ククイです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、博士たちをお招き出来て光栄ですよ」
変態二人も挨拶をしていくが、どうやら俺の本名は口にしない方がいいと判断したのだろう。
濁すようにして俺を取り扱い始めた。
というかククイ博士は寒くないのだろうか。
カロスよりもかなり寒いと思うんだが…………。
「…………何すか」
すると何故かカブさんがじーっとこちらを見てくる。
何か付いてるか?
「いやー、本当に顔が広いんだなーと」
そうは言われてもねぇ。
偶然が重なった結果、こうなってるだけであって、俺が自ら望んで関わっていったわけじゃない。
何なら、そのせいで博士たちに二度も嵌められてるくらいだから、罰ゲームか何かなのかもしれないと思えるくらいだ。
「カブさん、ハチくんの顔の広さはこんなもんじゃなかったですよ」
「そんなに?」
だが、二人を連れ立っただけでは、ソニアが許さなかった。
「まず、世界的にも有名なオーキド博士をじーさん呼ばわりするくらいには気心が知れてるようでしたし、カブさんが知ってそうな博士だとホウエン地方のオダマキ博士とも顔見知りって感じで、ポケモン進化論のナナカマド博士とは初対面にも関わらず、既に一目置かれてる感があるくらいには顔が広いですよ。しかも元ホウエンチャンピオンのダイゴさんとかシンオウチャンピオンのシロナさんとも知り合いみたいでしたし」
カブさんに紹介しているようでいて、俺に対する不満を口にしているようにしか聞こえない。
悪かったな、お前より顔が広くて。
「………君、本当にソニア君ばかりに構ってて大丈夫なの?」
それはこれからのことを指しているのだろう。
これだけ著名人と繋がっているのに、一個人に構っていて他は大丈夫なのかと。
何かあればセレビィが介入してくるだろうし、それがないってことは特に問題はないのだろう。
何ならもう既に未来は確定していて、ただそのレールを一つずつ進んでいるだけの可能性が高い。
…………うっわ、そうすると俺の思考回路まで既に組まれた物になっているってことだよな。
まあ、未来なんてそんなもんではあるが、いざ言葉にすると気持ち悪さがあるわ。これについてはもう考えないでおこう。
「まあ、もういないも同然なので。ソニアに構ってるのもこっちはこっちで色々とテストプレイというかモニタリングしているところでもあるんで、別にソニアのためってだけじゃないんですよ」
「怖いねぇ………君の仕事の方も知っちゃってる身からすると、どれだけ裏で進んでる計画があるのか怖くて聞けないよ」
カブさんがジムの中へと歩き出したため、その後ろを着いていく。
どうやら今日は貸切にしてくれたようだ。
受付も休みになって万々歳だろう。
「別に大したことはないですよ。帰る家が欲しいから今作ってもらってるところで、自宅兼職場にするつもりだから、完成するまでの間に仕事の試運転をしているだけですって」
「齢二十歳やそこらで持ち家って………」
実家、というか婆ちゃん家にいるソニアとしては羨ましいのだろう。
これだと建築費用はエニシダさん持ち、なんてことまで言ったらソニアの心臓は止まってしまうかもな。
「で、どんな家を建ててるの?」
家という表現はしているものの、形はそこら辺の家の形をしてないからなー。
取り敢えず、サカキがささっと描いた全体図を思い出してみるか。
「うーんと、ドームが四つ、五つはあって、ビルが一棟? 二棟? まあ、そこはおまかせにしてるんで完成しないことには何とも」
「ねぇ、ちょっと待って。それって家なの?」
「家だよ。完成したら皆で住むつもりだし」
マンションだって立派な家だろ?
だからこれも家だ。
住むんだから、どんな形をしていても家である。
「皆で住むのにドームがたくさんって意味分からないんだけど」
「いやー、だって現役四天王もいれば、最強のジムトレーナーもいるし、な? お前とバトルした奴らと住むんだぞ? それくらいないと無理じゃね?」
それに仕事場にもなるんだから、それくらいないと無理だろ。
そうでなくてもソニアとバトルした奴らの倍はいるはずだし。
それだけの人数がいれば、それだけポケモンの数も相当数いるってことで、発散させる場を用意しておかなければ、ポケモンたちによる暴動が起きる可能性だってあるからな。
知らんけど。
起こしそうなのが、数体心当たりあるから余計に、な。
「ん? ちょっと待って、ハチ君。最強のジムトレーナーってなに?」
ジム内のバトルフィールドに到着するとカブさんがピタッと止まり、振り向いてきた。
「あー、それはですね」
「ハチくんのお嫁さんの一人にジムトレーナーをやってる人がいるんですけど、彼女はそこのジムリーダーよりも強くて、そのジムリーダーはカロス最強のジムリーダーなんです」
「うん? ………うん、うん? つまり………最強のジムリーダーよりも強いジムトレーナー?」
ソニアの説明にカブさんが困惑している。
やっぱり最強のジムリーダーよりも強いジムトレーナーってフレーズ、かなり違和感あるよな。
「そうです」
「それって四天王の域に………」
「そうなんですよ! この人たち、わたしが指摘するまで気付いてなかったんですよ! ヤバくないですか?」
「うん…………因みに四天王というのは?」
「それもお嫁さんの一人です。あと元チャンピオンが二人と、元スクールの教師が一人います」
「うーん………すごいねぇ………」
…………何というか、カブさんもちょっと現実逃避しているように見受けられるんだが?
というか静かにドン引きしてない?
「何であいつはあんなに平気な顔していられるんですかね」
「彼女たちよりも強いからじゃないですか? トップの実力者たちしかいないから、基準がぶっ壊れてるのではないかと」
「プラターヌ博士が羨ましいっすわ。あんなチートキャラたちに研究を手伝ってもらえるなんて」
「そうは言いますけど、かなりプレッシャーにもなりますよ? あの頭脳が三人もいるんですから」
「確かに………」
どうもあの頭脳です。
というか、あと二人って絶対ユキノシタ姉妹のことだろ。
ぶっちゃけ、あの二人の方が知識量は上だと思うぞ?
俺は実体験の方がなかなかにヤバいだけで、上位互換がいる以上、そこまで頼られるようなことはないはずだ。
うん、ないったらない。
だからまあ、場所に空きがあれば手伝ってやらんこともない。
今日だって、今から実証実験をやるんだし。
「家が完成したら、そのドームでなら実験を手伝ってもいいぞ」
「マジで?! お前最高かよ! よっしゃ、準備してくるぜ!」
「僕も準備しないとね」
やる気が出たのか、変態二人は計測器やらをセッティングし始めた。
「ねぇ、お兄ちゃん? コマチ、そんな話全く聞いてないんだけど?」
するとコマチがくいくいと袖を引っ張ってくる。
うん、可愛い。
上目遣いなのもハチマン的にポイント高いぞ。
だからそのジト目だけはやめなさい。それがなかったら完璧だから。
いや、このジト目もそれはそれで…………。
「そりゃ誰にも話してないし。気付いたのはユキノシタ姉妹………ユキノシタ家だけだな」
「えっ、それってあのママンも?」
そう、あのママンも。
「ユキノシタ建設にも関わってもらってるからな。というか現場にいるのはユキノシタ建設なんじゃねぇか? あとデボンコーポレーションにも関わってもらってるから、もちろんダイゴさんも知ってるぞ」
「デボン…………そっか、そことも繋がりがあるんだね」
「貰いもんですけど、元々ポケナビのユーザーですしね。カロスでは対応してなくてホロキャスターに変えましたけど、それまではずっとポケナビでしたし」
まあ、ダイゴさんと会った理由にはならないが。
ただ、そういう因果が巡り巡って出会いに繋がったのかもしれない。
たらればの話なんていくらでも組み立てられるが、世間は広いようでいて狭いからな。
そういうもんなんじゃないかと思うんだわ。
「うーん、だからってデボンに協力を得られるなんてまず無理じゃない?」
「そこはまあ、偶然ダイゴさんがカロスにやってきたところに俺もいたってだけなんで。あとはホウエンのお金持ち経由で」
あと、一番のジョーカーはやっぱりエニシダさんだろうね。
あの人に目を付けられたからこそ、こういう頼みが出来ているんだし。
「コマチ君、君のお兄さんは自分がかなりの大物だって自覚はないのかい? 話を聞いてるだけでも次から次へと出てくるから、僕もう結構ビビってるよ?」
「中身が小物なもんで………すみません」
さーせんね、中身が小物で。
こんな好き勝手やってるような奴が大物とか、それこそ世の大物たちに失礼だろうに。
「いやー、まあハチ君だもんね」
「ちょっとお二人さん? なんか俺、バカにされてない?」
「いやいや。そんなことはないよ。ただ、よくよく考えてみれば、ガラルのジムリーダー全員とも面識があるというか、覚えられてるからね。その時点で普通に顔が広いってことにはなるよね」
「確かに。一般人からすれば大差ないわな」
俺の中では最早ジムリーダーなんて、そこら辺にいるって感じの人たちであるが、世間一般的にはジムリーダーであってもレアな存在だ。
もうチャンピオンとかも普通にいるから感覚が限りなく麻痺してるわ。
「あー、カロスでもジムリーダー全員に顔と名前を覚えられてますし、他の地方でも有名人の知り合いがいると思いますよ」
「そうだね。ロケット団のボスの電話番号を知ってるどころか、普通にかけてあっちも普通に出てたもんね」
「君、一応警察でしょ? 何、犯罪集団のボスと友達になってるのさ」
「それが友達でもなければ、仲がいいわけではないんですよ。あっちは加害者でこっちは被害者。捕まえない代わりに大人しくさせている。牽制し合ってるって言ってもいいですかね。まあ、とにかく普通の関係ではないんで。腐れ縁ですよ、腐敗してしまえばいい方の」
サカキは別よ。
あれはそんな生優しい関係じゃない。
これでもオブラートに包んだ言い方であって、実際はもっと名状し難い関係である。
「うん、どうやらそこは聞かない方が僕の身のためだろうね」
「あ、出た。ハチくんの命の保証がない話」
カブさんも流石にサカキの名前が出てくると追求はしてこなかった。
なら、話を変えるか。
気にはなってたし。
「…………さっきから思ってたんですけど、フィールド荒れてません?」
「それは昨日キバナ君とここでエキシビジョンマッチをやったからね。どうせ今日も壊れるだろうから、補修を入れないでおいたんだよ」
「相変わらずオフシーズンでもバトルしてるんですね」
好きだね、バトル。
「ジムチャレンジの期間は約二ヶ月。残りの十ヶ月はずっとジムリーダーが活動してないってのも問題があるし、興行としてもお金にならないんだよ」
そして世知辛い。
確かに大会の期間なんて一年の内のたった二ヶ月くらいしかないもんな。
その間ジムリーダーたちを好きにさせておくなんて、ジム戦を興行としているガラルでは勿体無いと判断されて当然だ。
少しでも協会や委員会に金が入るような仕組みにしなければ、大会そのものの運営すら難しくなるだろうしな。
「それに次のジムリーダー査定にも響くからね。一応、ジムリーダーの中にも強さのランキングがあって、次のジムチャレンジまでにどれだけ順位を上げられるかを競ってるんだよ」
それは初耳。
ただ、マイナーリーグなんてものも存在するガラルでは、ジムリーダー査定はかなり重要になってくることだろう。
…………カロスでもジムリーダー査定をもっと厳格にしてやろうかな。
とは言っても辞められても困るし、特に問題を起こしそうな人もいないし、強いて言えばフクジさんの引退くらいか?
「ほー、大変っすね」
「因みにカブさんは何位なの?」
「ありがたいことに今は二位をキープしてるよ」
カブさんで二位か。
となるとーーー。
「一位はキバナで?」
「そうだね。三位がメロンさんで四位がルリナ君、五位がサイトウ君で六位がマクワ君、僅差で七位のヤロー君がいて、マリィ君、ビート君、オニオン君って続いてるよ」
「あれ? 十人?」
八人じゃなかったっけ?
あとネズと婆さんがいなくなってねぇか?
あ、婆さんは交代したんだっけか?
「そうそう。ラテラルジムとキルクスジムが今、交代制でやってるんだ」
「何でまた…………」
「んー、メロンさんところは、育児のこともあるからってのは聞いてるけど、サイトウ君たちは何でだったかなー。聞いてないかもしれないね」
なんかマクワが振り回されてるのが思い浮かぶわ。
それにしても十人か。
ソニアのことを思うと当時に近いメンバーにした方がいいだろうし、いなければソニアの知るメンバーの方がいいだろう。
そうなると悪いが若者たちには今回は引いてもらわないとだな。
「準備出来ましたよー」
「へーい」
ようやくセッティングが出来たようだ。
「さて、やるとしますかね」
「ポケモンたちには無理だけはさせないようにね」
「うす」
それはそう。
つってもジュカインは前回の時点でピンピンしてはいたがな。
今回もそうだとは断言出来ないため、油断は禁物であるが、まあ何とかなるだろう。
肩をぐるぐると回しながらフィールドの立ち位置へと移動。
コマチたちもフィールドの傍に退いて観戦モードになっている。
「えっと、一応僕が審判するけど、まあ実験だから一体ずつでいいよね?」
「そっすね。技も好きに使えばいいかと」
昨日までのバトルとは違うしな。
今回は俺がメガシンカさせた上でダイマックスさせるというのをもう一度やってみせるってだけだし。
その相手としてソニアもダイマックスしてくるだろうけど、俺が出すのはジュカインだからな。
前回のことを思うと割とあっさり終わりそうな気はしている。
「了解。ソニア君もそれで大丈夫かい?」
「大丈夫です」
「博士たちは?」
「いつでもいいですよー」
「なら、二人とも。バトル始め!」
「いくよ、ストリンダー!」
「ジュカイン、仕事だぞ」
ソニアはストリンダーを選んできたか。
どくタイプがあるからジュカインとしてはタイプ不利ではあるのだが、ジュカインだから何とかなるだろ。
「どくどく!」
うん、知ってた。
散々見てきたから、こういうことをしてくるだろうとは思ってたよ。
「ものまねでテクスチャー2」
チート技と化したものまねでどくどくに合わせてタイプ変更を行う。
毒を弾いたということははがねタイプになったということだろう。超当たりを引いたな。
「はっ?」
「何だよ」
なんかソニアが驚いているが、今更だろうに。
「いや、ものまねってそんな使い方だっけ?」
「ものまねには無限の可能性があるってだけだ」
「いやいやいや、絶対おかしいから! ストリンダー、でんじは!」
おかしいとか言いながら、そのノリで指示を出すなよ。
危うくスルーするところだったわ。
「いやなおと」
波には波を、ということで嫌な音を鳴らして、電磁波を相殺。
物理やら化学やらはそこまで得意なわけではーーー何なら苦手な部類に入るのだが、小説を読むために理論だけはどうにか理解出来るように頑張った記憶はある。その際に音も電気も全て大きく捉えれば現象としては『波』ってことを何かで読んで以来、ポケモンたちにもそういうものだと伝えているため、あとはいいようにしてくれているのだと思っている。
詳しいことはゲッコウガにでも聞いてくれ。ここにはいないが。
「くっ、相殺ばっかしてくんなし」
「あっ、そう。なら、グラスフィールド」
ソニアが文句ばっか言ってくるため、こちらから仕掛けてみることにする。
「ストリンダー、オーバードライブ!」
草が生い茂るフィールドに作り変えると、ストリンダーが胸の突起を鳴らして爆音を発してきた。
「グラススライダー」
面倒なので草の上をスライディングさせてストリンダーを崩す。
グラスフィールド下だとグラススライダーって動きが速くなるんだよな。
何がどういう原理なのかは知らないが、それも知ってる人に聞いてくれ。
「なっ!?」
「ワイドブレイカー」
尻尾で叩きつけるとストリンダーが空中で反転してソニアの方へと向かっていく。
「こうなったらいくよ、ストリンダー! キョダイマックス!」
ソニアのボールに自ら吸い込まれていくとボールが巨大化し、それをフィールドへと投げつけてきた。
再度ボールから出てきたストリンダーは四つん這いになっており、見た目も若干変わっている。
「キョダイカンデン!」
「メガシンカ」
キーストーンとジュカインナイトが共鳴し、放出する虹色の光により巨大な雷撃は霧散し、光に包まれたジュカインが姿を変えていく。
それでもまだ落ちてくる雷撃を今度はジュカイン自身がその身で受け止め、吸収していった。
「そうすると思ってたから、ひらいしんが発動するのか見たかったんだけど、ちゃんと発動して無効化出来ちゃうんだね」
「みたいだな。ジュカイン、ハードプラントで地面奥深くを掘り起こせ」
メガシンカしたことで特性ひらいしんに変わるのだが、巨大な雷撃であろうと吸収出来たようだ。
案外、こういうのは試す機会がなかったから、確証を得られたことは大きいだろう。
「ジュ、ジュジュ………ジュァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
そのまま太い根を地面に突き刺し、地下深くまで穴を開けていくと、濃いピンク色の粒子が穴から吹き出し始めた。
その粒子を次々と身に纏っていったジュカインが、徐々に巨大化していく。
「ほ、本当にメガシンカしながらダイマックスしたっ……………!?」
「ダイアース」
ストリンダーはでんき・どくタイプだからな。
じしん辺りがダイマックス技になっていれば、かなりのダメージを与えられるだろう。
それにダイマックス技になると追加効果がそれぞれのタイプの技にあり、ダイアースだと自分の遠距離防御力が上がるんじゃなかったっけか?
「ストリンダー、ダイアシッド!」
とはいえ、あっちもどくタイプがあるため、当然ジュカインの弱点を突いてくる。
因みにダイアシッドは遠距離攻撃力が上がるんじゃなかったかな。
それと巨大化したポケモン同士だと、技を躱すということが出来ないが難点だわ。
技がデカい上に自分もデカいから小回りも効かないし、躱すスペースもない。
ある意味、必中と言っても過言ではない。
「ダイアース」
「ダイアシッド!」
こっちは地面からエネルギーを吹き出し、あっちは毒を吐き出してくる。
まあ、前回のことを鑑みるとこれで一旦攻防は終わりだろうがな。
「同じタイミングで元に戻るの………!?」
「バンドを通さないでのダイマックスだから、ダイマックスエネルギーが安定してないんだと思うぞ。前回もそうだったし」
それでもメガシンカしたままでの巨大化はかなりポケモン側に負担がかかることだろう。
まあ、メガシンカ出来る時点でかなり洗練されたポケモンということではあるため、そこら辺にいるポケモンがおいそれと手を出せる戦法ではないのが、せめてもの救いか。
良い子は真似しないでね、のテロップを付けないといけないレベルのことだからな。
あと何気にグラスフィールドも一緒になくなったわ。
まだ効果続いてたのね。
「ヘドロばくだん!」
それよりも今はまだバトルが続いているんだ。
検証ありきとはいえ、ソニアを倒さないとな。
「躱してじしん」
吐き出してきた毒を躱し、地面に拳を叩きつけて激しく揺らしていく。
「くさむすび」
そして、ストリンダーがバランスを崩したところを草を伸ばして全身を拘束していった。
「ハードプラント」
最後は究極技による太い根の餌食になってもらう。
…………見事にフィールドがめちゃくちゃになってるわ。
前回もこんな感じだったため、カブさんもそりゃ修繕を見送るわな。
「ストリンダー、戦闘不能。よって勝者、ハチ君!」
うん、このサシの勝負でも分かったことだが、やはりソニアは一騎当千の育て方をしているというよりは、パーティー総出で盤面を整える構築型だな。
ダンデのリザードンみたいな絶対的なエースというものがいなかったのも、ソニアが拗らせる一因だったのかもしれない。
まあ、今までは、の話ではあるが。
メガシンカを手にした今、絶対的とまでは言わないが、構築したパーティーの要とも言えるポケモンは自ずと決まってくるだろうから、それが刺さればダンデも満足するようなバトルが出来るだろうよ。
いや、あいつはそもそもソニアと本気でバトルが出来ればそれで満足しそうではあるが。
「うぅー、やっぱりハチくんのポケモンは規格外だよぅ。ストリンダー、戻ってゆっくり休んで」
「ジュカイン、お疲れさん。んで、見た感想は?」
ジュカインをボールに戻しながら、博士たちに感想を聞いてみる。
「ダイマックス技ってのはZワザに近いものがあるなって思ったな」
「まあ、Zワザは一発しか無理ですけどね。ただ、ダイマックス技を相殺出来る威力なんで、性質としては似てるかもしれないっすよ」
「なら、要研究ってところだな」
どちらも特殊な技という点では同じであり、究極技であってもダイマックス技を相殺出来ないのに、Zワザではそれが出来てしまうってんだから、案の定この二種類の技の類似性に関してはククイ博士にお任せってことになるだろうな。
「そっちは?」
「ダイマックスを直に見たのは初めてだけれど、メガシンカしながらだとポケモン側への負担がかなりあるんじゃないかい?」
「まあ、あるだろうな。だから通常三発でダイマックスエネルギーが霧散していくところが二発で霧散して解除ってなったわけだし」
やはり博士側から見てもそこは懸念事項になるところなようだな。
「あと、そもそもこれが出来るのは君のポケモンだからっていう可能性もあるね」
「それはどうだろうな。とはいえ、ポケモン側にかなりの実力がなければ暴走する可能性は大いにあるだろうし、そもそも耐えられない可能性だってある」
「だろうね。ただ、メガシンカ出来る時点で相当の実力があるってことでもあるから、根本的に実力者にしか出来ない裏技ってところかな。ひとまず言えるのは、良い子は真似しないでねってことだと思うよ」
「そんな可愛いもんじゃないけどな」
本当に嫌だね。
考えることがさっきからこの変態と一緒なんだもの。
「ソニアはどうだった?」
「え? うん、ハチくんが相変わらず無茶苦茶な存在だなって思った」
「いや、そこじゃねぇよ。メガシンカしながらのダイマックスしたのを聞いてんの」
それはもう聞いたから。
お前に求めてるのは実戦を通しての検証の感想だっつの。
「知ってるよ、分かってるって。メガシンカはポケモンに戦闘の意識が続いていれば継続されるし、その究極的なのが戦闘不能で意識を失うと解除されるってことだけど、ダイマックスの場合はハチくんが言ったように、技を三発使うとダイマックスした時のエネルギーを全て使い切ってしまうため、元の姿に戻るって感じだからさ。似てるようで違うのよ」
おっと?
またこいつは小難しい話をし出したぞ。
「ただ、ダイマックスもダイマックスしている間に戦闘不能になると解除されるから、こっちにもポケモン側の戦闘の意識があるかどうかが関係してくるってのはあると思ってるの」
戦闘中のポケモンの意識の有無か。
戦闘不能になれば、両者とも強制的に解除されるもんな。
「その二つが一つになった時、メガシンカしているのなら許容出来るダイマックスエネルギーの量も上がってそうなのに、現実にはその逆で二発しか撃てなくなっている。それとダイマックスが解除されてもメガシンカは解除されなかったってところは、戦闘の意識の有無って点の証明になるんじゃないかな」
なんでまたこういうところに視点が行くかね。
「ふっ、ふふっ………」
「な、なな、なに?」
「いや、すまん。やっぱお前すげぇわと思って」
本当にもう………。
この無自覚さよ。
バトルしながらそんなとこに視点がいってるって、ある意味ダンデよりもバトル中の集中力は上な気がするわ。
割と短いバトルだった印象なのに、その間のソニアの頭の中はどれだけ渦巻いているのやら…………。
「いやー、バトルしながらここまで観測出来て、尚且つそれぞれの特徴を把握してその差を言語化。さらには今後どの面を研究するべきかの粗方の道筋まで立てられるなんて…………自信をなくすよ」
「っすね。ハチはどこまで言語化出来てたんだ?」
同じ研究者としても脱帽状態の二人。
ソニアの強みはやっぱりこういう部分だろうな。
「あー、ダイマックスは虚像っていうのをどこかで見た覚えがあって、その感覚でいくとメガシンカは実体のフォルムチェンジみたいなものだから、メガシンカしたらベースとなる姿はこっちに固定される。そこにダイマックスエネルギーを纏うことで、その姿の虚像を実体を持って作り出す。ただし、虚像はダイマックスエネルギーで出来ているため、技を使うたびにエネルギーがなくなり、虚像を固定化出来ずに霧散するってところかな。しかもダイマックスバンドで安定したエネルギーでダイマックスさせてるんじゃなくて、地面から吹き出したダイマックスエネルギーでダイマックスさせているから、纏っているダイマックスエネルギーの量も違う。だからメガシンカしてのダイマックスでは、技が二発しか使えないんじゃないかと。あとダイマックスしてからのメガシンカは無理だと思う。出来たとしても姿を変えるのにダイマックスエネルギーも動くことになり、結果的に技を一発使えるかどうかってところじゃないか?」
まあ、簡単な話、メガシンカは本体そのものが姿を変えて、ダイマックスは光の屈折で現した本体のホログラム、みたいな感じだな。
その光の屈折をダイマックスエネルギーが引き起こしているから、普通の虚像とは違って実体があるように見える、みたいな。
「こっちもこっちで、でしたね」
「ですね。やっぱり彼は彼でしたよ」
俺が考えを纏めてやったってのにこの反応よ。
ハゲればいいのに。
「ダイマックスのゲシュタルト崩壊だよ………」
「よく噛まなかったね」
「それな、ほんとそれ」
コマチとカブさんはもう思考を放棄してるっぽいし。
俺もよく口がゲシュタルト崩壊に負けなかったな。
「くっ、なんか研究者としてもハチくんに負けたようで悔しい…………」
「いや、お前が言語化したのを聞いて、こっちも言語化しやすくなったんだからな?」
「………わたしのおかげ?」
「まあ、ないとは言わない」
「よし、なら許す」
「何で許しを得ないといけないんだよ」
こんなところでも俺に張り合おうとするソニア。
お前は充分異常だから、俺と比べるまでもねぇよ。
「まあ、取り敢えず言えるのは」
「「「非公表で」」」
「だろうな」
取り敢えず、三人の研究者と見解は一致した。
こんなもん、遊び半分で研究はしても仲間内くらいでしか共有出来ないわな。