「なあなあ、お客さん。あの人、オレっちよりもリザードン乗りこなせてね?」
「まあ、運び屋さんはいろいろと雑だから仕方ないんじゃない?」
「え? マジ? そういう感じ?」
「いや、どこからどう見てもあれはそういうレベルの話ではないだろ………」
ハイヨーヨーやローヨーヨーという割と簡単な動きで飛び回り、エアキックターンで方向転換し、コブラで海水を巻き上げて小型船まで戻って来てみると、その小型船からそんな会話が聞こえてきた。
この子たち、名前で呼び合ってないのね。ちょっと不思議。
「ハチマンは元々リザードン使いだからな。リザードンは一番手慣れたポケモンとも言える」
「マジかー」
「ハチマン、離れ離れになったポケモンの中にはリザードンもいるのかっ?」
一人、海の上から小型船の会話を聞いていると、グラジオが話を振ってきた。
こいつ、もしかしてぼっちにも優しい奴なのか………? いや、優しいなら放っておいてくれるか。
「ん? ああ、いるぞ」
「ん? なんだってっ!」
あー……。ちょっと声を張らないと海の上って声が届かないんだな。
「いるって言ったんだよっ」
「そ、そうかっ」
すまん、グラジオ。今のは怒ってるように聞こえたかも。
こういう時の音のボリューム調整が未だに慣れない。ぼっちだった弊害だな。
「見えて来たぞ! あれがメレメレ島だ!」
ククイ博士がそう言って前方を指差した。
まあ直線上だし、そうなんだろうとは思っていたよ。そもそも近かったしね。エーテルパラダイスから見えてたレベル。
「オレたちは乗船場に船を置いて行くから先に行っててくれ!」
「いや、行き先知らないんですけどっ?」
「大丈夫だ。リザードンがリリィタウンまで連れて行ってくれるさ!」
「心配なのでわたしもついて行きます。ジュナイパー、お願い」
そう言って、くさタイプのヨルノズクかと思わせるようなポケモンを出したムーン。
見たことあるような気もしなくはないが、名前が出て来ない。
「え、なに? お前、ついてくんの?」
「わたしはヒキガヤさんの監視役みたいなものですから」
「俺は第四真祖かよ」
「はい?」
いや、うん。知らないよな。
イロハも知らないまま俺があの作品から捩った言葉に対して、あの作品通りに返してきたこともあったし。
ここでムーンに「先輩」なんて言われたらどうしようか。
「いや、何でもない。ポッチャマはどうするんだ?」
「抱えていくかボールに戻しますが」
「はあ………、ポッチャマ」
「ポチャ?」
「大人しくしてろよ」
「ポチャ!」
「あ、ポッチャマ!」
手を伸ばすとポッチャマが意図を理解したのか、自身を抱えていたムーンを蹴って飛び込んで来た。
「………いいんですか?」
「構わん。いつもボールから出してるってことは、そこまでボールに入りたがらないんだろ? だったら、俺が連れて行けば問題ない」
「ごめんなさい。お願いします」
「ん」
今回ばかりはポッチャマも大人しくしている。
さすがにリザードンの飛ぶスピードの中で頭に乗ろうとは考えないらしい。
「では、先に行って来ます!」
「おう、ハチマンのことは任せたぜ!」
ムーンはジュナイパーとやらの首から長い布を垂らして、自分の身体にも巻きつけたかと思うと上昇していった。
そしてククイ博士たちに挨拶をして飛び出して先に行ってしまう。置いて行かれないようにリザードンに前進させ、ムーンの後を追わせた。
「それで、リリィタウンとやらはどこにあるんだ?」
ムーンの横に並んだところで、目的地を聞いてみる。
「手前に見えるあの山がテンカラットヒルっていうところで、その奥にある山の麓の丘陵地がリリィタウンになります」
するとそんなに遠くはないらしい。
逆に左手の方にある街に向かう小型船組の方が遠回りなまである。
「へぇ。船降りてから移動ってなると距離あるくないか?」
「アローラ地方はポケモンに協力してもらって移動したりする文化があるんですよ。リザードンの飛行能力で空を移動するのも習慣付いているため、常に座席を取り付けてあるんです」
どうやらそれも杞憂なようだ。
アローラ地方は良くも悪くも田舎地方といったところのようで、人とポケモンが密接した生活をしているらしい。
「あー、これはそういう系なのね。となると博士とグラジオは多分大丈夫だろうが、こいつの主人は大丈夫なのか?」
だから、空を飛べるリザードンにはいつでも乗れるようにこの座席がつけられているのか。
「問題ないですよ。陸の移動用にケンタロスやムーランドもライドポケモンとしていますから」
「ライドポケモン?」
ムーンの口から聞き慣れない言葉が出てきた。
「乗り物になってくれるポケモンたちの総称、みたいなものです」
「あーね。なら、俺は最初から正解を引いたみたいだな」
「まあそうですね。運び屋さんには悪いですけど、ヒキガヤさんがリザードンに乗ったのは結果的に時間短縮になったかと」
運び屋の子には悪いがグズマ依頼のお届け物の俺がリザードンに乗ったことで、あのせっかちにも面目が立ちそうだ。
「ところで、グズマとのバトルの方は大丈夫なのですか?」
「さあな。どういうルールでやるつもりなのやら」
「一応伝えておくと、グズマの手持ちにはグソクムシャとアメモースがいます。ヒキガヤさんのポケモンを考慮するとサーナイトだけでは相性的には不利かと」
「まあ、そこはどうにかなるだろ。さすがにウツロイドを出すわけにもいかんしな」
グソクムシャ………は見たことないな。アメモースはむし・ひこうタイプ。ムーンの言葉から察するにグソクムシャもサーナイトの弱点ーーアメモースと共通するむしタイプ持ちだろう。
あいつ、実は虫取り小僧だったとか?
「にしてもポッチャマは温かいな。人肌の温度にフサフサな毛並みに指が包まれて抱き心地がいい」
「ポチャ?」
「今だけですよ。進化する度に皮膚が硬化していき、エンペルトになると鋼が入ったかのような硬さの部分が出て来ますからね」
「そういや知り合いにエンペルトを連れた人がいたんだが、そこまでじっくりと観察したことなかったな」
エンペルトなんてメグリ先輩が連れていたくらいだしな。それもそこまでじっくり観察したことはない。コマチやイロハのポケモンたちは特訓上、ポケモンの特徴とかも確かめるために色々確認したが、メグリ先輩には必要なかったからな。
帰ったら頼んでみよう。
さて、そろそろずっと気になっていたことを聞いてみるか。
「なあ、超どうでもいい話になるが」
「はい」
「その帽子独特過ぎない?」
そう。
今日ムーンを一目見た時から目を奪われた謎の赤い帽子。頭頂部がパイルの実の葉が分かれたようなデザインをしている。ニット帽、なのだろうか。でもアローラだし、サマーニット系か?
「え? これですか? 可愛いじゃないですか」
「いや、ほら、なんつーの? パイルの実的な。赤いパイルの実って言われても違和感ないんだわ」
ほんと何なの、そのデザイン。オシャレなのかそうでないのかさっぱりなんだが。ユキノならまず間違いなく被らないな。イロハなら文句を言いそう。こんなの被るのはコマチくらいじゃないか?
「えー、そこがいいんじゃないですか。ヒキガヤさん、もしやオシャレに興味ないでしょ?」
「あ、まあ、そこは否定しない。が、俺の周りが結構うるさいから、家着以外は気をつけるようにしてるぞ」
取り敢えず、オシャレと言われるよりはダサいと言われないに気をつけていた。
だからこそなのか、ムーンの帽子だけはさっぱり理解出来ん。他はいいのだ。ベージュ基調の花柄のトップに黄緑色のパンツはこの暑いアローラでは何ら違和感がない。なのに、その全てを無にする謎の帽子。
天才はやはりどこか抜けているのだろうか。ハチマンちょっとこの子の将来が心配になってきたよ。
「ほほー。もしかして女の子ですか?」
「そうだな。女ばっかだな」
「モテモテじゃないですか」
「あいつらが物好きなんだよ。まあ、だからと言って誰かにくれてやるつもりもないが」
「わー、すごーい。独占欲の塊だー」
「せめて心込めて言えよ」
「嫌ですよ、こんな女誑しに心なんて込められません」
そもそも推定ルミルミくらいの歳の女の子に聞かせるような話でもないような………。
「ちなみにどんな人たちなんですか?」
「初めての親友にストーカーに後輩にストーカーの姉に俺の妹」
「うわ、なんか想像以上のキャラの濃さですね」
うん、知ってた。
こうやって並べるとユイとイロハがまともに見えてくるって不思議。というかユキノシタ姉妹の表現が酷いだけか。
「他にもスクールの同級生数人に元担任、先輩、あと初めて告白して振られたのは………どうなんだろうな………」
「………どんな脅しをしたらそうなるんですか。通報ものですね」
「いや、俺もどうかとは思うけどな。好きの度合いに差はあれど、俺を好いてくれる奴らを、無碍にしたくなかったんだ。というか俺が離せなかった」
「よく許されましたね」
「それな。けど、初めてだったんだよ。そうやって好きって気持ちをぶつけられたのは」
「ふむふむ、ヒキガヤさんはハーレム鬼畜野郎に認定しておきますね」
「君、ブレないね」
素直に質問に答えてやっているというのにこの言われよう。間違ってないのがムカつくな。
「さて、到着ですよ」
飽きたのか話を逸らしやがった。
てか、この村がリリィタウンか。
バッサバッサと着陸し、リザードンの背中から飛び降りた。
「ほう、ここね。お疲れさん。リザードンもありがとな」
「グォォォ!」
それにしても……………。
何故村の中心部に土俵っぽいものがあるのだろうか。
まさかあれがバトルフィールドとか?
それならちょっとどころではなく狭くね?
「よォ、待ち草臥れたぜ」
「グズマ?!」
はい、早くも登場致しました。今日のお相手。というか超待ち伏せしてただろ。どんだけ俺とバトルしたかったんだよ。
「大丈夫だ。俺も既にこの暑さに草臥れてる」
「ハッ、弱っちぃな。弱っちぃぜ!」
否定はしないな。
さすがにこの暑さは参ってしまう。いやほんと。帽子とサングラスをしていても目はチカチカする時があるし、汗も既に出てきている。下手したら背中が汗で濡れているかもしれない。それくらいにはヤバい。
「否定はしないな。この暑さには負けるわ。逆にお前らが頭おかしいんじゃね?」
「これだから外者は嫌いなんだよ………」
いや、それはお前が喧嘩売ってくるからでしょうに。
「ハチマン君、申し訳ない。売り言葉に買い言葉でつい君のことを口にしてしまった」
「今回だけですからね」
「恩に着る」
ハラさんは今回のことを深く反省しているみたいだ。一応箝口令ではないけど極力情報の漏洩は避けようって話をしたばかりでグズマの登場だったからな。責任を痛感しているのだろう。
「兄ちゃん、習得は出来たかい?」
おっと、ハラさん以外も来ていたのか。
「今回が試し撃ちみたいなもんですよ」
「カカカ、そりゃグズマが気の毒だな」
「結局、島キング島クイーン全員集まったんですね」
見ればクチナシさんの後ろには、この前彼と一緒に病室へと集まってくれた島クイーンの二人もいた。
「グズマに情報が行っちまったのは島キングの責任だからな。オレたちも見届ける義務がある。それにあの問題児のグズマのことは個人的にも興味があるわけよ」
「本音は最後だけですよね」
「まあな。おじさん、ウラウラ島じゃお巡りさんだからな。グズマが率いていたスカル団もウラウラ島を根城にしていたから、面倒見ていたわけよ」
あー………。
この人も働きたくはないけど、どうにも気になってしまうタイプの人らしい。そして気になったが最後、後味良く終わらない燻ってしまうのだろう。
俺も歳取るとクチナシさんみたいになるのかね。将来の俺を見ているようで不安になってくるわ。
「それに、カプたちの様子が気になるのよね」
「うむ」
「カプたちが? 何かあったんですか?」
「まだねぇんだがよ。今日は幾分かパワーを強く感じるんだわ。ひょっとすると兄ちゃんに関係してるんじゃないかってな。オレの予想だが」
「まあ、ないとは言えませんよね。『コレ』もありますし」
そう言って左腕に付けた黒いZリングを見せる。
前にクチナシさんが話していた通りなら、カプたちの様子の変化が俺に起因していると言ってもいいだろう。
ただ、俺がZリングを持っていることに島クイーンの二人は驚いていた。クチナシさん、伝えてなかったのかよ………。
「さあ、やろうぜクソ野郎!」
「何でそんな上からなの? 挑まれてるの俺だよな? それ、俺が言うセリフじゃない?」
「ハッ、んなもんどうでもいいんだよ!」
「はぁ………」
こいつは本当に戦うことしか脳にないようだ。
そんなにバトルしたいなら他の奴らとやればいいものを………。どうしてお前に外者と見下されている俺が相手しなきゃいけないんだか。
「ところでククイ博士は?」
「ククイ博士たちはハウオリシティに船を止めてから来るので、後から来ます。運び屋さんも一緒よ」
「へっ、金は払ってやったんだ。こうしてリザードンが連れて来た。オレさまはそれで充分だぜ」
運び屋本人がいなくても依頼達成と見做されるとは。
宅配サービスってそういうものでいいのかね。それだけ信頼されているのか?
「んじゃ、ムーン。ポッチャマを返すわ」
「あ、はい。ありがとうごさいました」
バトルということで抱えていたポッチャマはムーンに返す。
いい感じの抱き心地だったぞ。サイズも丁度いい。
「ハチマン君、よろしいですかな?」
「いいっすよ」
「へっ、ぶっ壊してやるぜ!」
おいムーン。
そんな今日一番の笑顔で見返してやれとか訴えてくるんじゃありません!
女の子がはしたないわよ。
「では、これよりグズマ対ハチマン君のバトルを行う。グズマたっての希望により手持ちは全て、技にも制限をかけないものとする。全力と全力でぶつかり合うのだ!」
お互い距離を空けて向かい合う。
「いけぇ、アメモース!」
ムーンの情報通り、アメモースが出て来たか。
まあ、誰が来ようと出すのは決まってるんですけどね。
「サーナイト、よろしく」
「サナー!」
「うわっと!」
俺今前に向けてボールから出したはずなんだけどなー………。
どうして抱きつかれているのでしょうか………。
身長がコマチくらいだから丁度受け止めやすくていいんだけどね。あと可愛い。
「君、マジで抱きつき癖付いちゃってない? ほんとに大丈夫?」
「サナサナ〜」
あ、ダメだこりゃ……。
聞いてないわ、この子。
それなら気が済むまで堪能させとこう。
ついでに頭も撫でておくか。ユキノの髪質に近いサラサラ感が気持ちいいんだよなー。
「…………サーナイトさんや。そろそろバトルしましょうや」
「サナ!」
一分くらいして声をかけるとようやくやる気を出してくれた。
それにしてもサーナイトが落ち着くまで待ってくれていたグズマさん。こいつマジで律儀だな。
「チッ、オレさまのペースを乱しやがって! アメモース、エアスラッシュ!」
「サイコキネシス」
アメモースが羽ばたいて作り出した空気の刃を超念力で受け止める。こんなのは準備運動にもならないな。
「そのままサイコショックとして返してやれ」
当然のごとく、空気の刃はアメモースに送り返した。何気に効果抜群だしね。むし・ひこうタイプは自分の技を返されると立場が逆転することもあるからな。むしタイプを使う上での難点といえば難点だ。それを考慮した上での動き方を身につけておかないと今みたいになる。
「チッ、でんこうせっかで躱せ!」
んで、この男も言うだけのことはあって、今ので詰むような奴ではなかったみたいだ。
「そのままとびかかる!」
アメモースは勢いをそのままに飛びかかって来た。
的確にサーナイトの弱点を突いていこうって魂胆なのだろう。だが、これでは一直線過ぎる。もっとジグザグに動かすとかサーナイトの足場を固めるとかしなければ、余裕で躱せてしまうぞ。
「テレポート」
何ならこういう技もあるんだ。
サーナイトは引き付けてからテレポートでアメモースの背後に回り込む。
「でんげきは。でんじはも混ぜてやれ」
そして、電撃の波を送り込んでいく。ダークライが電気技を習得させるのに取った方法は、意外とバトルでも使い勝手がいい。
「アメモース、抜け出せ!」
アメモースが加速したところで電撃の波の方が速い。しかも一度当たってしまえば、後続のでんじはも到達し麻痺させて動きを完全に止めてしまった。
こうなっては最後、効果抜群の技を浴び続けるしかなく、グズマの指示にも応えられなくなっている。
「アメモース、戦闘不能!」
完全に伸びてしまったアメモースをハラさんが判定を下した。
「チッ、やるじゃねぇか」
「そりゃどうも」
褒められたところでこれくらいは出来ないと、ギラティナにけちょんけちょんにされたからな。あいつ俺たちを返すためとは言え本気でバトルしてたからね。
「ヒキガヤさん、めっちゃ強………っ!」
あ、そうか。
ムーンも初めて見るんだったな。
「オラオラ、どうしたグズマ。お前の実力はそんなもんか?」
「るっせーな!」
うわ、クチナシさんめっちゃニヤニヤしながらグズマ煽ってるし。煽れるくらいには実力を知ってるってことだろうし、面倒見てるってのは強ち間違いじゃなかったのね。
数回しか会ってない俺ですら、クチナシさんが面倒臭がりであることは伝わって来てるっていうのに、中々に働いてますよね………。なんかこれまでの自分を見てるような気分だわ。
「「ムーン!」」
「お客さーん!」
おっと、ようやくククイ博士たちの到着か。
運び屋はケンタロスに、グラジオは………何だ、あのポケモン。見たことあるようなないような…………。
ククイ博士は………ウォーグルに乗って来たのか。
「チッ、まあいい。いくぞ、グソクムシャ!」
まあいい。
グラジオのポケモンのことは後で聞くことにしよう。
次の相手はグソクムシャだ。生で見るのはこれが初めてだし、相手取るのも然り。ムーンの情報ではむし・みずタイプらしいから、またでんきタイプの技は有効である。
「であいがしら!」
「テレポートで躱せ」
これまた初めて見る技であるが、動きが速いな。指示は飛ばしたが、俺の目では追いつかなかったぞ。
それでもサーナイトは真上に躱しちゃってるけどね。ダークライとクレセリア、それにギラティナを相手にしていれば、これくらいの速さは慣れたのかもしらない。
どうしよう、そう考えるだけでまた一人規格外が出来上がったように感じてしまう。
だが、まだだ。まだサーナイトなら元の感覚に戻せるはずだ。ゲッコウガのような意地の悪い性格とは真逆の純真無垢な子なんだ。そんな子を穢すわけにいくまい。
「アメモースのようにしてやれ」
「そうはいくかよ! アクアブレイク!」
二種の電撃の波をグソクムシャの頭上から送り込むと、振り返ったグソクムシャの右手の水刃により真っ二つにされてしまった。
「テレポートから抱きつけ」
グソクムシャの頭上からテレポートし、懐に飛び込んだサーナイトはその腹へと身体を密着させる。
「10まんボルト」
そして電撃の直当て。
効果抜群な上に無防備に受けてしまえば、あの硬そうな身体も意味を成さないだろう。
「グソクムシャ!」
「かみなりパンチ」
ギチギチとグソクムシャが身体を動かしたので、距離を取るためにも電気を纏った拳を叩きつける。怯んでいる隙にサーナイトは俺の前まで下がって来た。
「どくづき!」
「ムシャ!」
どくづきを命令されたグソクムシャが飛び込んで来るものとばかり思い構えていたら、何故かグズマの方へと戻って行ってしまった。
「ハッサム! ………?」
そしてそのままボールの中へと吸い込まれていき、代わりにハッサムが飛び出て来る。
だが、当のハッサムは状況が読めていないらしい。
悪いけど、俺も状況が読めてないからお互い様だな、ハッサムよ。
「チッ、ハッサム! バレットパンチ!」
「ハッサム!」
よく分からんが交代は交代だ。ルールにも交代なしというのは決めなかったから違反でもない。
だが、むし・はがねタイプのハッサム相手に効果的な技があるわせでもないから厳しいのも現実。
「まもる」
正攻法ではアメモースのように突破するのは無理だろう。
ならば、こうするしかないか。
「さいみんじゅつ」
素早く距離を詰めて来たハッサムをドーム型の防壁を張って受け止め、その中からさいみんじゅつでハッサムを眠らせることに成功した。
「ハッサム!?」
「あくむ」
眠らせてしまえば、後はこちらの思う壺だ。流石にねごとやいびきは警戒しないといけないが、グズマの性格上覚えさせているとも思えない。
「ゆめくい」
ダークライ直伝の眠らせ戦法は実に見事である。
悪夢を見せられている上に、その夢まで食われてしまうなんて、ハッサムはどんな気分なんだろうな。味わいたくはないが感想くらいは聞いてみたい気持ちもある。
「きあいだま」
顔色が悪くなって来たところで、エネルギー弾を撃ち込み、ハッサムをグズマの方へと吹っ飛ばした。
ここまで淡々とこなしちゃってるけど、サーナイトが笑っているのがちょっと怖い。これは単にいつも通りの笑顔なんだろうけど、攻撃が攻撃なだけにハッサムに同情するわ。
「起きろ、ハッサム! シザークロス!」
「……ッサム!」
衝撃でようやく目を覚ましたようだ。
だが、当然バレットパンチよりは遅い。だから、ただ防壁を張るだけでなく次に繋げる方法を取ることは充分に出来る。
「リフレクター」
物理障壁を飛び込んで来るハッサムの目の前に出して動きを阻み、強引に打ち壊して来たところで次の手に出た。
「サイコショック」
砕けたリフレクターを使ってサイコパワーで無数の破片をハッサムに撃ちつける。
「こうそくいどうで躱せ!」
………ふひっ。
「サーナイト、トリックルーム」
俺がそう指示を出すとサーナイトは動く速度が反転する部屋を作り出した。部屋の規模は俺とグズマまでの長さに幅はその半分程。ハッサムがただ躱すにしても攻撃に繋げて来るにしても絶妙な大きさと言えよう。展開に応じて技の大きさを自ら調整出来るようになったのは、ダークライたちの特訓の成果だろう。
「ハッサム、バレットパンチだ!」
グズマの指示は理解出来るが、こうそくいどう使用中にトリックルームに囚われてしまってはハッサムが完全に止まって見える。
「かげうち」
トリックルーム下において部屋の効果を受けない技もある。それがバレットパンチであり、かげうちといった技だ。速く動くという点ではこうそくいどうも同じであるが、こちらは同時に身体的能力も向上させ、根本的に素早くなる。対してバレットパンチやかげうちは技の型とでもいうのか、技のモーションにより結果として素早く動くことになるため、トリックルームの影響を受けないらしい。
何を言っているのかさっぱり分からんと最初は俺もそう思ったが、中々に複雑な技なのだ。完全に理解しろという方が無理難題なまである。逆によくここまで細かい判定基準を持つ技を生み出したものだと感心するくらいだ。こんな技生み出した奴は一体何を考えてたらこうなったんだろうな。
「チッ、後ろだ!」
「10まんボルト」
「サー、ナァァァァァァァァァッ!!」
トドメの10まんボルト。
効果抜群でもないし、相手がハッサムだし、タイプ技でもないしで、そこまでのダメージを期待出来なかったらから、中々使うタイミングを失っていたが、ようやくといった感じである。
やはりほのおタイプの技も覚えさせないとな。リザードンやゲッコウガみたいにこの場で覚えさせるというのは難しいだろうし、サーナイトはじっくりやって行きたいからな。その内ってことにしておこう。
「ハッサム、戦闘不能!」
…………あ、こういう時にZ技使えばよかったんじゃね?
そもそもグズマで試そうってしてたんだし。
使う習慣がないどころか頭から抜けていたまである。
………そうか、こういう時になー。バカみたいな威力を出すZ技だしむし・はがねタイプであるハッサムであろうともう少し楽に切り抜けられたに違いない。
あーあ、やっちまった。
けど、メガシンカを使うまでもなさそうだったしな………。
「チッ、戻れハッサム」
残りはグソクムシャを入れても最大で四体。グズマがどれだけポケモンを連れているかにもよるが、Z技を撃つ機会がなくなったわけじゃない。
「いくぜ、グソクムシャ!」
まだ他の顔は見せない、か。あるいはこれが最後か?
まあいい。機会があれば撃つのもよし、必要なければそのまま倒すのみ。
「であいがしらだ!」
っ?!
………なるほど、この技もトリックルームの影響を受けない方だったか。
「サナ!?」
今のは綺麗に入ってしまったな。サーナイトにとっては効果抜群の技だ。俺の目の前まで一撃でサーナイトを弾き飛ばしたあの技の威力からして、ハッサムよりも鍛えられているよう見受けられる。残りのポケモンがいたとしたら、このグソクムシャよりも格上ということになるのだろう。
………いいね、トレーナーとしての血が騒いでくるのが分かる。
「さっきはしてやられたが、最初からならこっちにだって手はあるぜ! シザークロス!」
追撃と言わんばかりに、グソクムシャが突っ込んで来た。動きからしてトリックルーム下での行動に既に慣れたという感じだろう。というよりかは経験があると言った方が正しいか。
「リフレクター」
「同じ手には引っかからねぇよ! グソクムシャ! 屈んでどくづき!」
リフレクターでグソクムシャの両腕を受け止めようとしたが、読んでいたかのように身を屈めて、リフレクターの下からアッパーカットを決めてきた。
「テレポート」
それをギリギリのところで躱し、グソクムシャの背後へとサーナイトが移動したところでサイコな部屋が消えていった。トリックルームの効果時間が過ぎたということだ。今のタイミングではグソクムシャが攻撃を躱すのも一苦労してくれそうだな。
「10まんボルト」
背中から電撃を浴びせていく。
効果は抜群。このまま麻痺もしてくれたら楽なんだが、追加効果なんて宛にしない方がいい。発動したら儲け物くらいに思わないとピンチに陥りやすいからな。特にスクール上がりの初心者トレーナーは。
スクールに行ってない初心者トレーナー? そもそも追加効果を知らないだろう。
「サイコキネシスでグズマに返してやれ」
「サーナ!」
ちょっと焦げているグソクムシャを超念力でグズマの方へと放り投げる。我がサーナイトながら中々にぞんざいな扱いをしてらっしゃいますな。バトル中だからいいんだけど。
「ムシャ………」
おっと、これでもまだ立とうとするのか。こいつにも意地ってもんがあるのだろう。
それならこっちも手を抜くわけにはいかない。
「チッ、これが最後か。いくぜ、グソクムシャ!」
「ムシャ!」
グズマが腕をクロスさせたということは、あいつもZ技を習得しているってことか?
そういえば、島巡りなるものを途中リタイアしたとかって言ってたっけ?
それなら途中リタイアとはいえ、習慣していてもおかしくはないか。こっちも遠慮する必要がなくなったし、今度こそだな。
グズマが変なポーズをしている最中に、こっちも動きを練習した変なポーズを取っていく。
他のZ技の動きもククイ博士に見せてもらったが、エスパーZはまだ比較的良心的な動きと言えるものだった。あとはあくZとかでんきZとかか。一番嫌なのはフェアリーZだな。俺がやったらキモ過ぎて笑えるレベル。何ならオリモトが腹を痛めるレベル。
うん、ウケねぇな。
その両極端のポーズしか覚えていないというのもあり、グズマの放つZ技を断定することが出来ないのが、ちょっと悔しいのはここだけの話だ。
「くらいやがれ! 絶対捕食回転斬!」
「えっと、マキシマムサイブレイカー……」
聞き慣れない技名だわ、ほんと。特に「サイ」の部分が抜け落ちそう。
しかもネーミングの割にサイコキネシスの上位版でしかないというね。
それに対してグソクムシャさんは無数の糸を作り出してサーナイトを絡め取ろうとして来ている。
これ、Z技対Z技だったから、あの糸を止められたのでは………?
「グソクムシャァァァァァァッ!!」
「ムシャァァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」
あ、これ押し返されるやつだ。
それなら早々に放棄した方が良さそうだな。
「サーナイト、テレポート」
別にZ技で決めるつもりもなかったし、拘る必要もない。サーナイトが消えたことでこちら側の押し返す力がなくなり、俺の方にまで巨大な糸が無数に飛んできた。
だが、どうやら俺の影が鬼火で焼き払ってくれたみたいで俺自身には被害はない。
「トドメだ。10まんボルト」
Z技を撃って息絶え絶えになっているグソクムシャの頭上から電撃を落とした。
「グソクムシャ?!」
今度こそ、焦げたグソクムシャは動くことはなかった。
「グソクムシャ、戦闘不能!」
ふぅ………。
先の二体よりは強かったな。
だが、これで残り最大でも三体か。メガシンカもあるし、どうにかなるだろう。
「グズマ、次のポケモンは」
「チッ、いねぇよ。オレさまの負けだ」
「うむ、勝者ハチマン君!」
あれま。
これで終わりですか。
結局、三体しかポケモンがいなかったのか。まあ、終われるのならそれに越したことはない。
さてさて、Z技も使ったことだし、このZパワーリングを持って来たと思われるカプ・コケコの反応はどうなることやら。