ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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17話

「ヒキガヤさん、お疲れさまです。体調の方は大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 

 駆け寄って来たムーンがバックからタオルを取り出し、当たり前のように俺に差し出してくる。

 何この用意周到な感じ。確かに汗はかいてますけども。バトルは関係ないんだよなー。無駄に暑いから汗がダラダラなだけだし。

 

「そうですか。それはよかった。Z技はポケモンだけじゃなくトレーナー側も激しく消耗するものですからね。もしやと思いましたけど、杞憂だったみたいですね。安心しました」

「それで言うなら俺よりもあいつの方が消耗激しいんじゃねぇの?」

 

 俺よりも汗がダラダラと滴っているグズマを見やると、ムーンも呆れたような目をした。

 

「あー、確かに。というかヒキガヤさんはよくZ技を途中で止められましたね」

「え? だってあのままやっても押し切られそうだったし、それなら相手がZ技に集中してるところを狙った方が確実だろ?」

「……………」

「………なんだよ」

「いえ、まさかそんな発想になるとは思いもしませんでしたから」

 

 えー………?

 威力デカいけど、言ったらそれだけじゃん?

 消耗が激しいんじゃ、撃った後は隙だらけなんだし、消耗する前にやめて隙を狙う方が得策じゃないの?

 

「どうだ、ムーン。ハチマンのバトルは予想出来なかっただろ?」

「はい、グズマは決して弱くはありません。スカル団を束ねるくらいには強さとカリスマ性を兼ね備えていたと認識しています。ですが、ヒキガヤさんはサーナイト一体で、しかも全て弱点のタイプであるにも拘らず倒してしまいました………」

 

 そりゃ、これでもダークライとクレセリアに鍛えられギラティナと渡り合って来たくらいには強くなってるんだ。グズマ程度では今のサーナイトは倒せないって。

 

「………ムーン、お前もトレーナーの端くれなら覚えておくといい。どんなに威力の高い技でも効果抜群の技でも当たらなければ意味がない。全て躱してしまえば、どんな相手でもこっちのペースだ」

 

 Z技を間近で受けての素直な感想だ。

 あれは躱してこそのもの。躱せないタイミングで放てば絶対的な優位を得られる大技だ。逆に真正面から受け止めようなどと考える方がバカだとも言える。もっと言えば、切り札にするべきではない。元々ないものとして扱って、あったら便利ねくらいが丁度いいだろう。

 それくらい、技後が隙だらけだ。

 

「………それをポケモンたちにやらせるのは中々ハードじゃないですか?」

「そのためのトレーナーだろ? トレーナーが目となり耳となり、情報収集をしてポケモン側に伝える。特にこのポッチャマは猪突猛進タイプっぽいからな。トレーナーが手綱を握って勢いを上手く利用してやる必要があると思うぞ」

「あ、何となく言いたいことが分かりました」

「ポチャ?」

 

 理解が早くて助かる。

 ムーンもポッチャマでそれを経験しているのかもしれない。当のポッチャマは小首を傾げているが………。

 

「っ!? ヒキガヤさん、後ろ?!」

 

 すると急にムーンが叫び出した。

 視線は………俺の背後か。

 声色的に後ろで何かが起こっている。

 となれば、まずは防壁を張っておくか。

 

「まもる」

「えっ………?」

 

 振り向いた瞬間、防壁にピンク色の何かがぶつかった。

 え、なにこれ。特殊な色の隕石?

 

「ハチマン!?」

 

 ムーンの後ろにククイ博士が身を乗り出して俺の安否を確かめてくる。

 焦っているようだが、俺に傷一つ付いていない。

 ダークライ様様である。

 

「………カプ・テテフ」

 

 っ……!?

 

「こいつがカプ・テテフか」

 

 へぇ、こいつがカプ神の一体、カプ・テテフか。

 予想ではカプ・コケコの方が来ると思ってたんだがな。

 

「ムーン、タオルありがとな。下がっててくれ」

 

 タオルを渡してムーンを下がらせ、カプ・テテフの方へと向かう。

 いつの間にか濃いピンク色のオーラが辺り一帯に広がっていた。この色だとサイコフィールドか?

 

「アローラ地方の守り神、カプ神ともあろう者が何で襲撃者まがいのことしてくれてんの?」

 

 以前、ククイ博士やクチナシさんがカプ神は気まぐれだとか言ってたっけ?

 それだけでこんなことをして来るのなら、最早安全などないに等しいぞ。しかも相手は守り神。それ相応の力を有している。その守り神に襲われるんじゃ、治安がクソ悪いにも程がある。

 

「テーテテー」

 

 うん、さっぱり分からん。

 

「分からんが引く気もないみたいだな」

 

 再度攻撃を仕掛けて来たカプ・テテフに向けて右腕を前に突き出す。それだけで、腕から黒いオーラが放たれた。

 

「テテフ?!」

 

 人間の身体から黒いオーラなんぞが出て来たら、例えカプ神であろうと驚きを禁じ得ないようだ。

 その一瞬の隙に左手から禍々しい弾丸を飛ばした。

 だが、そこは守り神。カメックスが甲羅に籠るように、カプ神も卵の殻のような身体に籠り、弾丸が弾き飛ばされていく。

 まあ、本命はそれじゃないからね。

 嬉しい誤算はカプ・テテフが殻に籠ったことだ。これで奴は俺を数秒見失うことになる。

 

「お返しだ。お前が今感じたことを俺たちも感じたんだからな、それ相応の覚悟はあるってことなんだろ?」

 

 再び顔を出したカプ・テテフ背後からもう一発禍々しい弾丸を撃ち込んだ。

 

「え? あれ? ヒキガヤさ………いつの間に?!」

「シャドーボール………、エスパー・フェアリータイプのカプ・テテフには効果抜群だ! それにあくのはどうも普通に通る!」

「いや、ククイ博士! それよりも何でヒキガヤさんがポケモンの技を使えるんですか!?」

 

 特に考えてなかったが、カプ・テテフはエスパー・フェアリータイプなんだっけ?

 なら、あくのはどうも使い所があるな。

 それと終わったらムーンに問い詰められるのは避けられないだろう。

 

「テーテー!」

 

 反撃とばかりにカプ・テテフが周囲にあるものを無作為に浮かせ始めた。

 これはサイコショックか?

 

「チッ、オーラ全開」

 

 ダークライに命令を出すと黒いオーラが俺に纏わりついていき、活性化していく。

 

「テテーフ!」

 

 木の板やら石やらゴミ箱やらバケツといった、本当にそこら辺にある民間人の物を飛ばして来やがった。

 やり方が形振り構わずといった感じで、守り神というよりはただの邪神に見えてくる。

 

「ヒキガヤさん!?」

 

 幸い、その全てが俺に向けて飛ばされているのが救いか。これがムーンたちに飛ばされていたら、俺はカプ神と言えどギラティナ送りにしているところだ。

 

「えっ?!」

 

 黒いオーラで飛来物を呑み込むとサイコパワーを打ち消したのだろう、ぼとぼとと地面に落ちていく。

 これにはカプ・テテフも目を見開いている。

 

「レヒレ!」

「テーテフー?」

 

 おっと?

 何か新しいのが割り込んで来たぞ?

 あれは………?

 

「なっ?! カプ・レヒレ!?」

 

 あれがカプ・レヒレか。

 カプ・テテフを助けに来たのだろうか。それとも止めに来たのか。何かを話しているようだが、これで落ち着いてくれると楽なんだけどな………。

 

「レヒ」

「テテフ!」

「レーヒー!」

「テテーフ!」

 

 やはり加勢側だったか。

 しかも辺り一帯が淡いピンク色のオーラに変わっている。ミストフィールドか。

 こうなるとカプ・コケコとカプ・ブルルだっけ? 他の二体も加勢に来る可能性も否定出来ないな。

 

「二体とも同じ技か」

 

 二体とも地面を叩くと強い衝撃波が俺や俺の後ろにいるムーンたちに押し寄せて来た。

 しかもただの衝撃波じゃない。バランス感覚を持っていかれて下手したら酔いそうだ。俺でこれなんだから後ろの連中は倒れている奴も出ているかもしれない。

 

「しぜんのいかり………っ!」

「………一体カプ・テテフたちは何に怒ってんだ?」

 

 しぜんのいかり?

 そういう技名ってことか。初めて聞くな。

 

「ハチマン、気をつけろ! カプ・テテフたちは本気だ!」

 

 本気?

 この技がか?

 ということはしぜんのいかりとやらはカプ神たちの技なのかもしれないな。それなら、他の技とは一線を画す効果があるはずだ。二度目からは用心するに越したことはない。

 まあ、でもーーー。

 

「そっちが本気だってんなら、こっちも本気で行っていいってことだな」

「「「はあっ?!」」」

「サーナイト、ククイ博士たちの防御に専念してくれ」

「サナ!」

 

 今までムーンの側に控えていたサーナイトにムーンたちを任せて一歩一歩とカプたちに近づいていく。

 

「悪いけどカプ神だろうが何だろうが、ここまでやってくれたんだ。容赦はしねぇ」

 

 こっちも気持ちを戦闘モード、とりわけサカキを前にした時のモードに切り替える。それが伝わったのか黒いオーラもさっきから黒さが増して激しく蠢いているような気がする。

 

「………おいおい、マジかよ」

 

 あれ?

 グズマまで声が弱々しくなってるぞ?

 くくっ、威勢の良かったバトル前を思うと笑えてくるな。

 

「ダークホール」

 

 カプ神たちの周囲に無数の黒い穴を作り出していく。

 

「さあ、どの穴がいいか選べ。特別招待だ。楽しい楽しい悪夢を見せてやるよ」

「テテフ?!」

「レヒィ?!」

「逃げようだなんて思わないことだな。逃げたら最後、悪夢よりも楽しい地獄行きだぞ」

「レ、レヒーッ!」

「テテーフッ!」

 

 挑発したらこんな簡単に乗ってくるとは。本当に守り神として大丈夫か?

 話の通じないウルトラビーストに痺れを切らして、逆に返り討ちに遭ったとしてもこの様子では当然の結果と思えてしまうぞ。

 

「何がしたいのか知らねぇけど」

 

 ………二体同時のムーンフォースか。

 

「そんな攻撃で俺を倒せると思うなよ」

 

 ーーーまもる。

 月の光のエネルギーだろうが何だろうが、防いでしまえばどうとでもなる。しかも力は守り神と同等以上のダークライの技だ。まずこの二体に突破されることはない。

 

「さて、それがお前らの答えってわけだ。なら、残念だがさようならだな。楽しい楽しい悪夢のショーの始まりだ」

 

 警戒しているであろう周囲の黒い穴ではなく、二体の足元に新たな黒い穴を作り出し、一気に呑み込んだ。

 そして、黒い穴をちょっと上へと動かして穴の中から二体を落とす。

 ちゃんとグースカ寝てるようだな。

 なら、これで仕上げだ。

 

「イッツ、ショータイム」

 

 ダークライによるあくむの執行。

 例え守り神であろうとも魘されることだろう。

 

「えっと………勝負有りってことで………いいのか?」

 

 乱入して来た守り神二体が人間にやられたという事実自体に驚いているのか、反応が疑問系だった。

 まあ、無理もない。普通ポケモンと生身で相対しようとする輩はいないのだ。ましてや今回の相手は島の守り神。それも二体とくれば、生身の人間が勝てるような相手ではない。

 

「何やってんだァァァ、グズマァァァァァァッ!!」

 

 ッ!?

 な、なんだっ?!

 

「こんなヤベェ奴に喧嘩売るとか命知らずにも程があるだろォォォ!!」

 

 いきなり発狂し出した奴がいるんだが………。

 何というか、一気に周りの空気が落ち着いたような気がする。

 

「お、おぅ………おう? グズマ、さん?」

「サァーセンシタァァァッ!!」

 

 おう、土・下・座☆

 しかも綺麗なジャンピング土下座。

 グリグリと地面に押し付けるデコからは血が流れて来ている。

 

「お、おう………そうか。分かってくれたか…………」

 

 誰か助けて………。

 これどう反応するべきなのん?

 反応が過剰過ぎて怖いんですけど。

 

「テフゥゥゥッ?!」

「ヒレェェェッ?!」

「ヒィ?!」

 

 あー………カプ神たちが魘され始めた。

 その叫声にグズマが過敏に反応している。

 これ、間接的にもグズマにトラウマを植え付けてしまったのでは?

 

「ど、どうか命だけは! 命だけはァァァッ!?」

 

 こいつは一体俺を何だと思っているのだろうか。流石に命を取ろうなどとは思っちゃいないんだが………。

 それにキャラぶっ壊れ過ぎじゃね? さっきまでの威勢の良さは本当にどこに行っちゃったのよ。

 

「………グズマ? お前キャラぶっ壊れてるぞ。破壊の王グズマさんはどこに行ったんだよ」

「ククイ?! そんなこと言ってる場合じゃねぇだろォォォ! 生身でカプ二体がこの惨状なんだぞ! ヒキガヤのアニキが本気を出せばオレたちなんか一瞬だっ! テメェも頭を下げやがれっ!」

 

 恐怖のあまり狂乱しているグズマにククイ博士が声をかけると、これまたおかしなことを言い出した。

 いや、ヒキガヤのアニキって何よ………。

 

「サナー!」

 

 ああ、やっぱりこういう時はサーナイトに限るよな。

 唯一癒されるわ。

 

「おうおう、サーナイト。よく皆を守ってくれたな」

 

 飛び込んで来たサーナイトを受け止め、頭を撫でながら労うと、「えへへー」という声が漏れ出るような満面の笑みを浮かべて来る。

 これだよ、これ。こういうのでいいんだよ。

 

「えと………その、ヒキガヤ、さん?」

 

 だからムーンさんや。

 そんな難しそうな顔しなさんな。

 あどけなさが残る可愛いお顔が台無しですわよ?

 

「何だ?」

「本当に人間ですか?」

「見たまんまだと思うが………?」

「この惨状を見て疑問に思わない方がおかしいと思うがな」

 

 あ、グラジオは平然としてらっしゃる。

 こいつ、何気に出来る奴なんだな。

 

「クックックッ、やるね兄ちゃん。カプさんたちもこれで下手に手は出して来ないだろうよ。特にカプ・テテフは自分の好奇心に後悔してんじゃないの。まあ最も、ライチやパプウ、サンも兄ちゃんの殺気にやられて伸びてるがな」

 

 それに比べてあの三人よ。

 サンとちっこい島クイーンはいいとしよう。けど、ライチさんは耐えてもらわないと困るんだが………。しかも泡まで吹いて一番重症に見える始末。

 

「………ムーンはよく耐えられたな」

「恐怖心より好奇心が勝ちましたから!」

「あ、さいですか………」

 

 この子はちょっと特殊過ぎました。

 好奇心が恐怖心に打ち勝つってどういうことだってばよ。そしてその好奇心はどこに向けてのものだ? 怖いから聞きたくないが………。

 

「取り敢えず、サーナイトさんや。グズマにいやしのはどうをかけてやって」

「サナ!」

 

 一応血を流させておくわけにもいかないので、サーナイトにグズマの回復をお願いした。

 

「ヒキガヤさん、ヒキガヤさん!」

「今度は何だよ」

「さっきの黒い穴、あれダークライの力ですよねっ? ですよねっ?」

「あ、ああ、まあ、そうだけど………落ち着け? 女の子がしちゃいけない顔になってるぞ?」

 

 これはもうハヤ×ハチとか言って語ってくるエビナさん以上だ。涎垂れてるぞ………。

 

「こんなの落ち着いていられません! ヒキガヤさんの話に度々登場していたダークライ! 今回もアローラに来るまでにダークライがサーナイトを鍛えてくれていたって言ってたじゃないですか! そんなポケモンの力をヒキガヤさん自身が使いこなすなんて、いやそもそも人間がポケモンの技を自在に操るなんて前代未聞ですよ!! 学会に発表したら表彰物です!! ぜひ研究させてください!!」

 

 …………………。

 最早何も見えていないのだろう。自分が何を言っているのかすら理解してなさそう。そんな欲望を剥き出しにするようなこと………なのかもしれないが、自重という言葉を覚えてもらわないとこの先この子が心配になってくる。

 だがまあ、これだけは言っておこう。

 

「一つ訂正しておくと、そう見えるようにしてるだけだからね? 流石にそこまで人間やめてないから」

「そ、そんな?! わたしの、わたしの新しい研究テーマが………!?」

 

 ……………。

 どうして研究者というのはこうも残念な奴が多いのだろうか。変わり者しかなれない決まりでもあったりするのか?

 

「ブル」

「お? ……え?」

 

 残念な少女の未来を案じていると、横からちょいちょいと肩を叩かれた。

 そちらを見やるとカプ・ブルルがおり、左腕をグイッと前に突き出してくる。これは……「グー!」ってことなのか?

 

「お、カプ・ブルルは兄ちゃんを認めたみたいだぜ」

 

 どうやらクチナシさんの言う通りらしい。

 普通仲間がやられたら敵討ちでもして来そうなものなんだが………。

 面倒なことにならなかっただけ良しとするか。

 

「ブンルブンルブンルブンル、ブンルブンルルー」

 

 それだけ示して倒れているカプたちの元へと行ってしまった。

 ………うわ、なんか軽快なリズムを刻みながらカプ・テテフとカプ・レヒレを持ち上げると、勢いよく振り回し始めたぞ。

 

「………いいんすか、あれ」

「いいのいいの。カプさんたちも自業自得よ」

「いやでもカプ・ブルルが………」

「目覚ましのつもりなんじゃないか?」

「………あれが?」

 

 ………………。

 取り敢えず、カプ神について分かったこと。どいつもこいつも為すこと為すこと全てにおいて常識外れだ。理解が追いつかん。

 こいつら頭おかしいんじゃないの………?

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