ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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18話

「さて、この惨状をどうしたものか………」

 

 現在、リリィタウンはカオス状態になっている。

 魘されるカプ・テテフとカプ・レヒレをリズミカルに振り回すカプ・ブルルに、俺の目の前で超興奮しているムーンとそれを遠目から見ているグラジオ、そして俺の殺気に充てられたのか気絶してハラさんに介抱されている島クイーンの二人と運び屋の少年。その俺に激しい恐怖心を覚えたらしいグズマがククイ博士を巻き込んでデコを地面に擦り付けながら土下座し続け、その傷口を回復させようと頑張っているサーナイト。最後にこの状況をニヤニヤと楽しんでいるクチナシさん。

 ………諦めてエーテルパラダイスに帰るか。

 

「コケー!」

 

 すると新たな鳴き声が聞こえてきた。

 恐らくこの場にいない最後の守り神、カプ・コケコだろう。

 そして俺にZリングを渡して来たであろうポケモン。

 

「カプたちの様子が気になってはいたが、こうも勢揃いするまでのことになるとはな。おじさんも驚きだぜ」

 

 いや、そんな予想が的中したことに感慨深くなってんじゃないですよ。どうすんのよ、このカオス状態。

 

「コケ」

「カプ・コケコ」

 

 俺の目の前までやって来たカプ・コケコは一度辺りを見渡した。流石のカプ・コケコでもこの惨状は驚きを隠せないらしい。

 

「コケ、コケコ」

 

 うん、分からん。

 ただ頭を下げたし、いきなり攻撃してくるどっかのピンクの悪魔よりは礼儀を持ち合わせているようだ。

 

『ドウホウガスマナイ』

 

 ポゥッと現れた鬼火には、そう文字が浮かんでいる。

 ナイスだ、ダークライ。

 

「まあ、俺もやり過ぎた感はあるからな。お互い様ってことで」

「コケ」

『オンニキル』

 

 二つ目の鬼火には感謝の言葉が。

 いや、本当にあのピンクの悪魔はこいつを見習うべきだと思うわ。

 そして、黄色いクリスタルが差し出された。

 

「これは?」

「あ、それはデンキZですね。お詫びと実力を認めたってことじゃないですか?」

「ムーン、ようやく正気に戻ったか………」

 

 それにしてもデンキZとな。

 確かにデンキZならサーナイトさんいけますし、ありがたくもらっておくが………。

 なんか急すぎない?

 

「コケコケ」

「……ん? あ、そう言うことか。ヒキガヤさん、カプ・コケコはそのデンキZを使ってZ技を撃ってみて欲しいみたいですよ? 受けてみたいって」

「コケ」

「え、なに? そんなこと分かっちゃうの? というか受けたくなっちゃうとかドMなのん?」

 

 普通ポケモンの技を受けたくなるか?

 そういえば好戦的とも言っていたっけ?

 一応手順は踏んで来たことだし、相手するのは別にいいのだが………。守り神がドMか。何か嫌だわ。

 

「はあ………。サーナイト、カモン」

 

 そうは言っても話は進まないし、サーナイトを呼び寄せた。グズマはすっかり地べたに這いつくばっている。土下座すら疲れたのだろう。いや、あれは最上級の土下座ということにしておいてやろう。

 

「サナ?」

「カプ・コケコがな。Z技を撃ち込んで欲しいんだとさ。しかもデンキZの方。一応まだ許容範囲の動きだったから覚えているが、サーナイトはいけるか?」

「サナ!」

「よし、なら一発いくぞ」

「サーナ!」

 

 スパーキングギガボルトだっけ?

 まだデンキZはいいのよ。これがグズマが使っていたムシZとかになると最早覚えていない。何だっけ? 超絶なんとかってやつだったはず。

 

「っ?! エレキフィールド………!」

 

 バトルを了承したら、急に地面に電気が走った。

 不意打ちかと思ったら、ただのエレキフィールド。技の効果を上げようと思ったのかもしれないが、いきなりはビビるからやめようね。

 

「カプたちの特性はフィールドメイカーの効果を持つ。カプ・コケコの場合、特性エレキメイカーでエレキフィールドが作られるんだぜ」

「なるほど、さっきのもそういうことか」

 

 グズマを放って来たククイ博士の解説により、現状とさっきの二体のことに納得がいった。カプ・テテフはサイコフィールド、カプ・レヒレがミストフィールドだったのは、それぞれそういう特性を有していたからということだ。となるとあそこでカプ・テテフとカプ・レヒレを振り回しているカプ・ブルルもそれ系の特性を持っているフィールドメイカーなのだろう。

 

「………ふぅ」

 

 一息いれて。

 ZクリスタルをZリングに嵌めると、サーナイトと一緒に胸の前で腕をクロスさせた。そして、大きく円を描くようにして下ろしていき、両手をグーのまま左手が上になるようにして前に突き出す。次に、右側に大きく両腕を持っていき、再度左側に大きく両腕を降って、右腕はそのまま左脇腹辺りに、左腕を一回転させて右頬辺りにまで持っていった。この時右手は指先が下になるように逆手で開き、左手は指先が上になるようにして開くのがミソらしい。

 

「スパーキングギガボルト」

 

 サーナイトから高電圧の電気が走り、弾丸の形へと収束していく。そして、その弾丸を拳で叩き飛ばすように右拳を前に突き出した。

 

「……コケ!」

 

 カプ・コケコはその高電圧弾を両腕の殻に籠ることで受け止めた。

 

「………まあ、態々受けに来たくらいだし、耐えるわな」

 

 分かってはいたことだけども。

 しかもカプ・コケコもでんきタイプだから、余計に耐えられるとは思っていたけども。

 ………なんかあっさりし過ぎだろ。

 

「………耐えられてしまいましたね」

「分かってたことだ。でないとそれはそれで困る」

 

 撃てと言われて撃ったのだから、それで倒してしまったら逆恨みされかねないしな。流石にないだろうけども………。

 

「コケー! コッコ!」

「む? 何ですかな、カプ・コケコ」

 

 おっと?

 急にカプ・コケコが気絶者を介抱していたハラさんを呼びつけやがったぞ?

 すごく、すごく嫌な予感がする。

 

「コケ、コケ」

「………もしやカプ・コケコもZ技を撃ちたいのですかな?」

「コケ!」

 

 ………はあ。

 やはりか。

 その話は最初なかったはずなんだが?

 撃てというからこっちは撃ったというのに、お返しをされるなんて聞いてないぞ。しかもこっちはお前と違ってでんきタイプでもなければ、じめんタイプ等威力半減以下にするタイプを持ち合わせてないんだが………?

 くっ、ハメられた!

 あ、エレキフィールドもあるんだった。最悪だ…………。

 

「いきますぞ! カプ・コケコ!」

 

 まあ、こうなったら受け止めるしかない。

 躱したら躱したで二次被害が出る可能性もあるし、そうでなくともカプ・コケコが機嫌を損ねるかもしれない。そうなるとカプ神全員で襲いかかって来るということも充分考えられる。

 それは流石に面倒だ。ならば、どうにかして受け止めるしかない。ただ単に防壁を張ったところで壊されるのは目に見えている。それ程の威力を持っているのがZ技だ。

 となると………使うしかないか。

 

「スパーキングギガボルト!」

 

 俺たちが取った動きと同様のモーションでハラさんとカプ・コケコがスパーキングギガボルトを放って来た。

 

「メガシンカ」

 

 技の強化にはポケモンの強化で受けるのが最小限のリスクで済むだろう。

 キーストーンとサーナイトナイトが共鳴し合い、白い光に包まれながら爆発的なエネルギーを発し、撃ち込まれた高電圧弾を相殺していく。ついでにエレキフィールドもミストフィールドに変えてしまった。

 やっぱりうちのサーナイトのメガシンカは特殊だな。カルネさんのサーナイトにはなかった現象だ。まあ、過程が過程なだけにちょっと特殊なケースになっていてもおかしくはない、か。

 

「コケ?!」

 

 おーおー、驚いてる驚いてる。

 そりゃ守り神のZ技に対抗技を放つわけでもなく、ただ姿を変えるためのエネルギーで相殺したんだ。こっちだって平然としていられる方が恐ろしいと言えよう。その場合、既にメガシンカを知っているということにもなる。

 これでこっちも意趣返しが出来たかな。

 

「カプ・コケコ。俺にZリングを託して来たのは、お前か?」

「………コケ」

 

 カプ・コケコは俺の問いに対し、静かに首を縦に振った。

 

「そうか。………何が目的かは知らんが、一応もらっておこう。その上で、これはその返礼とでも思ってくれ。サーナイト、ハイパーボイス」

 

 そろそろ奴らにも起きてもらわないとだしな。

 カプ・コケコは咄嗟に両腕を閉じて殻に籠ったが、浮いていた身体は地につき、転がり始めた。

 殻があっても相当耳が痛いらしい。当然、俺も両手で耳を押さえているし、慣れたとはいえ、俺も耳が痛い。メガサーナイトの特性フェアリースキンのお陰なのだろうか。ノーマルタイプの技がフェアリータイプの技となり、威力が上がるフェアリースキン。取り敢えず、守り神にも効果はあるみたいだな。いいデータが取れた。

 

「レヒ………?」

「……テーテ?」

「ブルル……」

 

 向こうも起きたみたいだな。

 さて、悪夢の方はどうなったのやら。

 これで大人しくなってくれると楽なんだがなぁ………。

 

「ヒ、ヒキガヤ、さん………せめて、使う前に………言っ、て………」

 

 あ、すまん。

 ムーンが一番近くにいたんだったな。

 

「すまんな」

 

 後ろにいたムーンの頭に手を置き、撫で回す。

 それにしても大の大人たちよりもムーンの方が真っ先に倒れそうなのに、よく耐えているよな。この中では一番年下組だろ? もう一人の年下組は妥当だとしても島クイーンの二人は有事の際にあまり役に立たないかもしれんな。

 

「さて、カプ・テテフとカプ・レヒレも起きたみたいだし、な?」

「テテッ?!」

「レヒィィィ?!」

 

 睨みを効かせて二体の方を見ると、予想以上に怯えていた。一体悪夢で何を見せられたのやら………。

 相変わらずカプ・ブルルはマイペース………おい、鼻ほじるなよ。

 島クイーンも島クイーンだが、守り神も守り神だな。まともな奴はいないのか?

 

「………コケ」

「カプ・コケコ。結局、これは何のために俺に渡したんだ?」

「コケコケコッコ。コケコケココーケコケコッコ」

『ヨソモノヲシタガエルモノヨ。アローラノヒホウヲカエスガヨイ』

 

 長い。そして分からん。

 堪らずダークライが火の玉に文字を浮かび上げてくれた。

 余所者? を従える………?

 ウツロイドのことか?

 なら、俺のことで間違いないんだな。

 となるとアローラの秘宝は………アレのことか。

 なるほど、こちらとしてもアレの対処に困っていたのは事実。こいつに渡してしまえば、一応守り神なのだし悪いようにはならないだろう。

 

「えっと………どこだ…………あ、あったあった。これだろ?」

 

 リュックの中から肌身離さず持っていた球体を取り出すと、カプ・コケコへと差し出した。

 

「コケ」

 

 ビンゴ。

 これが何なのかは結局分からず終いだったが、アローラの秘宝と呼ばれるくらいなのだからそれ相応の価値があるのだろう。

 

「………何ですか、それ」

「さあな。俺にも分からん。ただ、カロスにいた頃に二人組の男女がウツロイドにこれを奪われて、数ヶ月後そのウツロイドから何故か俺に託されたんだ」

「………謎すぎません?」

「色々とな。けど、こうしてアローラの守り神に返してしまえば、悪いようにはならないだろ?」

「まあ、そうでしょうね。なんせアローラの秘宝と呼ばれてるみたいですし」

 

 俺が持っていてもしょうがないのは明白。

 こういうのはさっさと当事者のところへ返すに限る。

 

「おい、ハチマン! それ、ソウルハートじゃないか!」

 

 んげ!?

 面倒なのが食いついて来やがった。しかも何か知ってる風だし。

 

「はっ? ソウルハート?」

「ああ、五百年くらい前に造られたからくりポケモン、マギアナの魂だ」

「………はあ? 魂? これが?」

 

 いやいやいや。

 魂って………。しかも五百年前とかそんな技術があったのかも怪しい。

 本当にソウルハートとやらなのか?

 

「簡単に言えば、人工的に造られた機械の身体を動かす本体みたいなものだ。ただ、このソウルハートの製造方法に問題があってな」

「問題?」

「ポケモンの魂を凝縮して造られている。しかも製造場所はカロス地方」

「ッ?! そういうことかよ………」

 

 そりゃ出来なくもない技術だ。その犠牲が多くのポケモンの命だとしても、過去それ以上の犠牲を生み出しているあの最終兵器ならばなおさら。

 

「ああ、幸い造られた当時は悪用されることもなく、世話係ポケモンとして機能していたらしいんだが、どういうわけかここアローラに持ち込まれていたんだ。それ以来、アローラの秘宝として祀られていたんだが、ウルトラ楽園の際に密かに持ち出されていたというのが、今回の話だ」

「………なるほど。やはりあいつらが取った側だったってわけだ。それをウツロイドが追いかけて奪い返し、何故か俺に託したと。最後は謎だが、概ね理解はした」

 

 シャムとカーツ。

 やはり奴らは本物のようだ。

 ただ、未だ解けない謎なのが、何故ウツロイドがあの二人を追いかけてまで取り返したのか。そして、それを何故俺に託したのか。

 

「恐らくカプ・テテフが襲って来たのもソウルハートが狙いだったのだろう」

「それならそうと言えばいいものを………だからああなるんだ。あいつは自業自得だな」

 

 取り敢えず、カプ・テテフに襲われた理由としては納得出来た。

 だが、反撃したことに対する罪悪感は一切ない。

 

「んじゃま、ソウルハートは返したからな。Zリングも交換って意味合いなんだろ?」

「コケ」

「了解。サーナイト、もう解いていいぞ」

「サナ!」

 

 カプ・コケコの意図も掴めたしバトルを続行する目的もないようなので、サーナイトに姿を戻すように促した。

 

「も、戻った?!」

「ヒ、ヒキガヤの兄貴! 今のは!?」

 

 白い光に包まれたサーナイトは、どこにでもいるサーナイトの姿へと変わり、意識のある一同がギョッとしている。まあ、一人だけ知っているためその限りではないが。

 

「メガシンカだよ、メガシンカ。Z技でポケモンの技がパワーアップするように、メガシンカでポケモン自体がパワーアップするんだよ」

「メガシンカ………そういえば、聞いたことがあります。確か進化を超えたメガシンカ。バトル中にしか起きない現象だけど、最終進化形ですらさらに姿を変える現象………でしたっけ?」

 

 ほう、流石はムーン。

 メガシンカのことも概要だけでも頭に入れていたか。

 

「まあ、そんな感じだな」

「………つまり、グズマとのバトルは全然本気ではなかったと?」

「そうなるな。フルでかかってくるなら、後半戦にでも出さざるを得ないかと思ってたんだが………杞憂だったみたいだ」

 

 グラジオはグズマとのバトルでの状況をようやく把握したのか、あり得ないと一体顔で確認にしてきた。

 

「………何やってんだグズマァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 それを聞いていたグズマは、またしても発狂している。

 何ならさっきよりも酷い。

 

「こんな隠し玉持ってるようなお人に端から勝てるわけがないだろうォォォッ!?」

 

 あーあ、またデコを地面に打ち付けちゃって。そんなに地面が大好きなのかよ。

 

「情緒不安定だな………」

「その原因はハチマンなんだけどなー………」

 

 うるさいよ、そこの上半身半裸の男!

 原因が俺なのは重々自覚してるっつの。

 それでも確認したかったのは、それだけのインパクトがあったということだろ。

 

「ク、ククイ博士。実はわたしたちはとんでもない人物を匿っていたんじゃないですか………?」

「え? 最初からそう言ってたと思うんだが…………? ハチマンはカロス地方のポケモン協会の理事だって」

「…………そういえば、そうでしたね」

「実感湧かないな………」

 

 なんだ未だにその話を信じられてなかったのか。

 

「何なら死んだことになってるような人間だぞ?」

 

 ボソっとそう呟けば「うっ……」とムーンとグラジオが言葉を詰まらせた。

 グズマの方を見やると……。

 

「あ、ついにグズマまで意識飛ばした………」

 

 土下座のまま顔だけ上げて既に気絶していた。

 どうやらグズマでも現実を受け入れられなかったようだ………。

 

「………この光景、シュールだな」

 

 現状、俺の周りにムーン、グラジオ、ククイ博士と少し離れてカプ・コケコ、ハラさん。そしてそんな俺たちを土下座のまま顔だけ上げて気絶しているグズマに、その奥で今もなお気絶したままな島クイーン二人と運び屋、加えて抱き合ったまま俺を見て真っ青な顔でプルプル震えているカプ・テテフにカプ・レヒレ、最後にニヤニヤと終始面白がっているクチナシさんに鼻ほじってるカプ・ブルル。

 おい、最後! 静かだと思ったら楽しんでんじゃねぇよ! あと鼻ほじるな! あ、鼻くそカプ・テテフの方に吹きやがった………。

 

「まあ、これで正式にカプたちに認められたんだ。ハチマン、今日はオレのところに泊まってけ。明日からどうするか決めようじゃないか」

 

 ………そうだな。退院したことだし、行く宛もないんだ。お邪魔させてもらうことにしよう。

 

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