ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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しばらくは破れた世界の生活になります。


2話

 破れた世界にやって来てからどれくらい経っただろうか。

 腹も空かなければ眠気も来ない。いいとこサーナイトがダークライに扱かれて体力的にも精神的にも疲れが出て来るくらいだろうか。それもクレセリアによりすぐに回復され、一息入れたところでまたダークライがサーナイトを扱き始めるというのがずっと続いている。おかげでサーナイトは次のステップに移ることが出来たが、同時にやっぱり『ヒキガヤハチマンのポケモン』というルートに入りつつある。いやマジでリザードンやゲッコウガみたいになりそうで怖い。ジュカインを辿るのもボスゴドラやヘルガーを辿るのも無しにしたいが、このままだと無理だろうなー。確実に行き着いてしまうのが目に見えている。あの領域は最早強くなるとかいう程度のものではない。あれこそ化け物と言えよう。

 

「随分と成長したんじゃねぇか?」

「最初の頃はダークライの一振りで技を打ち消されていましたからね。それを思うと随分と成長しましたよ」

 

 ほんと暇だよね、このおっさんたち。

 

「サーナ!」

 

 サーナイトが両腕を下から上に突き上げると、一瞬背後に月が現れ光がダークライを襲った。

 今のはムーンフォースか。

 威力はまだまだなようだが、クレセリアに習った技を一つ完成させることが出来たみたいだ。これでサーナイト自身にも自信が付くだろうし、このまま技を習得していけるだろう。

 

『「サーナイト、ソノチョウシダ。ミセテモラッタワザヲ、シッカリトオモイダスンダゾ」』

 

 そう言う俺は未だウツロイドに取り憑かれたままである。生身のままダークライの加護なしでこの破れた世界に来てしまったがために、ウツロイドも解放しないのかもしれない。一応俺の指示は聞いてくれるし、少なくともウツロイドにとって俺は加護の対象にでもなっているのだろう。というかそう思うことにしている。基本的に何を考えているのかは分からない生き物だ。情報のやり取りが出来ただけでも奇跡に近い。

 

「サーナ!」

 

 お、さっきよりも光が強くなったな。

 普通はこうやって反復練習してモノにしていくんだよな………。それがあいつらと来たらポンポンポンポン次から次へと技を習得していくもんだから、俺の感覚も麻痺っていくのも無理はない。

 

「ライ」

「サー、ナ!」

 

 さて、サーナイトの方は基本ダークライに任せておけばいいだろう。それよりも破れた世界に来て問題が発覚した。ウツロイドに取り憑かれているため、すぐには思い至らなかったのだが、俺はとても大事なものを落として来てしまったらしい。

 ここに来る直前、俺はカラマネロたちの襲撃に遭い、背中と腹を刺されている。その際にリザードンたちを呼び出したのだが、どうやらそのままあいつらのボールをあっちの世界に落として来てしまったようだ。あるのはサーナイトとウツロイドのボールだけ。いや、逆に何故こいつらのだけこっちの世界に持って来れていたのかが不思議だ。正味、あの時の俺は二度も刺されて倒れていたんだ。リザードンたちのボールを落としたのだとしたら全員分落としているはず。最後に触れたのがウツロイドのボールだから、そのまま持って来たというのなら、まあそれは納得のいく範疇ではある。だが、そうなるとやはりサーナイトのボールはどうやって持って来たのかが不思議だ。サーナイトが持って来たのかウツロイドが偶々持って来たのか、あるいはゲッコウガが投げ入れたか…………は一番可能性が低いだろうな。あいつは前線で戦っていた。俺の側にいたのは、それこそサーナイトだ。となるとサーナイト、なのかな…………。

 まあ、細かいことは今はどうだっていいか。重要なのは必要なボールがあっちとこっちで綺麗に分かれてくれたということだろう。置いて来てしまったリザードンたちをボールに戻すことが出来なければ、誰かと同行するという選択肢がなくなっている可能性が高い。そうなれば、貴重な戦力を手持ち無沙汰にしておくという勿体無い事態が発生することになる。まあ、合理的主義なあの姉妹ならどうにかこうにかして連れて行くとは思うけども。俺が襲撃されて消えたってだけでも頭を抱えているだろうに、さらにポケモンたちのことまで悩ませてしまうのでは彼女たちに対して頭の上げようが無くなってしまう。

 それでも他に失くなっていたものはない。基本リュックに入れていたものは全部あったし、ウツロイドに取り憑かれてからはリュックごと呑み込まれているため、そもそも落とす可能性すら無くなっている。リュックの中身を出したい時はウツロイドに頼めばいいようだし、それが出来たからこそ持ち物検査に至ったわけだ。

 つまり、何が言いたいかと言えば、ウツロイドから託されたあの球体も無事だったということである。あれが何なのかは未だハッキリとしていない。正体も掴めないものを大事に取っておく必要もないのだが、頼まれた以上アレを最優先に考えておいて損はないだろう。

 

「つくづく異様な光景ですね」

 

 静かに現れたアオギリがそう零した。

 何に対してかは何となく分かる。

 

『「イマサラダロ」』

「ま、テメェの目には見慣れた光景なんだろうがよ。オレたちにとっちゃ異様でしかねぇ」

「君のその姿も、ダークライとクレセリアが他のポケモンを鍛えるという光景も」

 

 俺は長年ダークライという存在を傍らにおいていたため、特段ダークライが何をしていようが驚きはしない。精々、その技も使えたんだなーと見ているくらいだ。それはクレセリアにも当てはまる。クレセリアとは付き合いが長いわけではないが、ダークライと対照的なポケモンという点から見れば、この光景も特別なことではない。ましてやユキノのポケモンもクレセリア相手に技を洗練させていたりしてたからな。

 ただ、唯一初めて目にするのは、ダークライとクレセリアが協力的に動いていることだ。これまでは俺とユキノと別々のトレーナーのところにいたが、この破れた世界においてはその隔たりがない。故にこの珍しい光景も目にすることが出来ているということだろう。

 俺でさえこんなんなんだから、二人が目を疑ってしまうのも当然と言えば当然だ。でも、そろそろ慣れてもいいだろうに。サーナイトの特訓を始めてから結構経つと思うぞ?

 

『「ナァ」』

「あん?」

『「オレタチガキテカラ、ドノクライタッタノカッテ、ワカルノカ?」』

「どうでしょうね。わたしたちには時間の感覚というものが欠けています。空腹なども感じないこの世界では時間の感覚を養うのも至難の業ですよ」

「そもそもオレたちは死人だ。時間だの何だの、宿しちゃいねぇよ」

『「ソウカ」』

 

 やはり目下の課題は時間の感覚だな。この二人を宛にしていたわけではないが、こうも方法がないとは。今はいいが、元の世界に戻った時に何日経っているのか計り知れない。時計代わりにもなっていたポケナビやホロキャスターも操作不能。起動したとしても時間表示はエラーを起こしていそうだ。

 あとは時間の感覚を養うものとしては体感ではあるが、太陽もないわ空腹も来ないわでお手上げ状態である。

 こうなると今この時間を刻んでいくより、戻った時にどうするかを考えておくべきか。具体的には数年前後でタイムスリップをしていた場合。俺はその年月だけあいつらよりも年齢に差が生じるようになってしまう。昔の俺であれば、それはそれで放っておいたかもしれないが、最早俺一人の問題ではなくなっている。それにまだ俺はあいつらとの約束を果たしてないんだ。どうにかしてでも元の時間軸に戻る必要がある。

 今考え得る手段としてはセレビィの時渡りだな。だが、これはあくまでも最後の手段。普通はセレビィに出逢える確率そのものが低いのだから、セレビィだけを頼りにしておくのは危険だ。数年後に戻ってしまえば、死んだ人間が蘇ったみたいに取り沙汰されかねないし、数年前だと『ヒキガヤハチマン』という人間が二人存在することになってしまう。まあ、後者ならどこか別の地方でひっそりと暮らすということも考えておいていいだろうが、その場合はやはり元の俺が消えるまでの数年間はボッチを極めるしかない。

 ーーーああ、想像しただけでこれ程寂しさが募るとは。あいつらが側にいる日常が当たり前にいただけあって、俺もだいぶ弱くなってしまったらしい。

 

「サーナ!」

 

 おっと。

 もうこんな光を迸らせられるようになったのか………?

 素質というか素養というか、師が師なだけに成長度合いもデタラメなようだ。

 

『「サーナイト、イマノハヨカッタゾ。コノタンジカンデ、ココマデデキレバジョウトウダ。アセラズヒトツヒトツクリアシテイケバイイ」』

「サナ!」

 

 うん、可愛い。

 敬礼とかサーナイトになっても愛くるしくて癒されるわ。いろはすも打算が見え隠れしなければ可愛げがあるというのに。まあ、あいつのはアレがいいまであるがな。あざといからこそ可愛くも見えてくるってもんだ。

 ………変な気を起こしてないといいが。

 

「あ、そういや知ってるか?」

『「ン? ナニヲダ?」』

「この世界には水も草木もあるんだぜ」

『「アー、マア。シナライセカイトイウワケデハナイノデ。タダ、コンカイハマダメニシテナイナ」』

「この世界に慣れているというのもおかしな話ですね。どうします? 次の休憩の時にでも水辺に移動しますか?」

『「ソウダナ。ハラガヘルコトモ、ノドガカワクコトモナイガ、ミズヲノムコトデリラックスハデキルダロウ」』

 

 身体は特に欲することもないが、それでも水を飲むという行為は生きているということの証でもある。俺はさておき、サーナイトにはそこを忘れないでいて欲しい。お前は生きているんだという証をあげておきたい。

 

『「トイウカ、ナニユエソコマデキョウリョクテキナノデ? マエニモキイタヨウナキモスルガ」』

「そりゃ、なあ?」

「ええ」

 

 気持ち悪いくらいに構ってくるおっさん二人が顔を見合わせて息を揃えた。

 

「「暇だから」」

 

 デスヨネー。

 でも気持ち悪いのも本当だからね?

 一応ホウエン大災害の首謀者たちでしょ? その二人がこんなフランクに接して来ているこの状況は、気持ち悪いとしかいいようがないぞ?

 

『「ソッスカ」』

 

 だからマジで聞いておいてなんだけど、返す言葉が見つからなかった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「サーナ!」

 

 ムーンフォースも上々な仕上がりとなり、次はサイコショック。相手はクレセリアとなり、俺はダークライとじっと二体の特訓を眺めている。

 

『「……………」』

「…………」

 

 いくらウツロイドに取り憑かれたとて、ダークライと会話が出来るようになるわけでもない。出来たらよかったのかもしれないが、それはそれでどこか恐ろしいものがある。

 

「サーナ!」

「リア」

 

 クレセリアが呼び寄せた石ころ等に、サーナイトが同じように石ころ等を呼び寄せてぶつけていく、謂わば的当てゲームが行われている。

 

「………なるほどなー。これなら確かにコントロールの訓練になるな」

「自分が使う技のコツ、とでもいうのでしょうかね。あのやり方は」

 

 サイコショックなんて今まで使う奴は俺のところにいなかったからなー。俺もこのやり方を見て勉強になったわ。帰ったらカマクラ辺りで試してみるのも悪くないだろう。

 

「………ライ」

「リア」

 

 ん?

 今何か隣でクレセリアに指示を出さなかったか?

 あ、クレセリアの支配領域が広がった。ということは徐々に範囲を広げていき、飛距離と正確性を高めようってことだな。

 

「サナ、サーナ!」

 

 おおー、外れてしまったが方向を変えて飛ばせたじゃんか。呑み込みが早いなー。

 

「これは面白い! サイコショックの範囲を広げるためには、サイコパワー自体が強くなる必要がある。こうして徐々に広げていくことで基礎となるサイコパワーも高めようというのですか!」

 

 あるぇー?

 なんか俺よりもおっさんたちの方が興奮してるんだけど。いや本当この人たちはどういう存在なのん? 死人? 亡霊? 今のところ単なる暇人でしかないぞ。いや、暇魂と呼ぶべきか。

 

「わははは! ここに酒があったらグビッといきたいところだぜ!」

 

 酒もないのに既に酔っ払いが完成しているようにしか見えないのは俺だけだろうか。

 

「………ライ」

 

 え?

 

「わははは………ぐー……」

「はははっ………すー……」

 

 あ、ダークライさんがオコですわ。右腕の一払いで二人を寝かせてしまった。

 うるさかったみたいだな。まあ、分からなくもない。俺も静かにしてほしいなーと思ってたところだ。

 

「サナー!」

『「ン? サーナイト、ドウカシタカ?」』

「サナ、サナ!」

「…………ライ」

「リア」

 

 何だろうか。

 急にサーナイトがダークライを見て目を輝かせている。それに対してどうしようかというやり取りをしたと言ったところか?

 

「ライ!」

 

 するとダークライが徐に立ち上がり、念波を発し始めた。

 今度は何を教えるつもりなんだ?

 

「サナー……」

 

 サーナイトも見様見真似で腕を突き出し念波を出そうとしている。だが、上手く出ていない。

 ……………さいみんじゅつか?

 タイミング的に見て、サーナイトはダークライがアオギリとマツブサを眠らせるのに使ったさいみんじゅつに興味を示したってことか。それで念波ね。

 

『「モウ、コノサイダカラ、ツメコメルダケツメコンデモラウカ」』

 

 あって困りはしないんだし。

 あーあ、エルレイドに何て説明しようか。

 お宅のお預かりした娘さんは伝説のポケモンにより伝説級に育て上げられました、てか。流石の父ちゃんも目が点になるだろうなー。

 

『「サーナイト、アオギリトマツブサヲマトニシテ、トウカンカクデサイコパワーヲオクリコムヨウニヤッテミロ」』

「サナ? サーナー………」

 

 もう一度、腕を前に突き出し、アオギリとマツブサに向けて念波を送り込んでいく。今度はフワンフワンと等間隔とまではいかないまでも念波が一つ二つと流れ始めた。

 

「リア!」

 

 お、クレセリアが目を見開いた。ということは筋はありそうだな。

 それにしてもどうしてサーナイトまで呑み込みが早いんだ? ぶっちゃけ、リザードンは元々の戦闘力が高い個体に人工的な措置が施されているからだし、ゲッコウガはゲッコウガとしてあることに拘ってなかったからだろうし、ジュカインは一人で草技をコンプリートしてくるくらいだったから理解出来るんだが、サーナイトはまだ子供だぞ? 人間とポケモンの成長速度を比べるのはお門違いではあるが、それを抜きにしても異常だ。

 やはりサーナイトも「何か」があるというのだろうか。それとも生育環境か?

 リザードンはロケット団の実験体、ゲッコウガは反りの合わない人間との関係、ジュカインは森でのボッチ修行、ヘルガーはダークオーラの付与、ボスゴドラは群れ生活。一番ポケモンらしいのはボスゴドラだな。

 ………まあいい。それも含めていずれサーナイトには自力で乗り越える力が必要になってくる。今の内に技術を取得しておいて損はない。

 

『「コレハ……オレモナニカヤッテオクベキカ?」』

 

 俺、というかウツロイド。

 一応、ウツロイドが使える技は直接情報を流し込まれている。だが、咄嗟に俺のモーションで技が発動するっていうのも悪くなくね? 一応繋がってるわけだし、俺の意志で触手等を動かせるわけだし。

 

『「ダークライ、スコシセキヲハズス」』

「ライ」

『「サーナイト、ガンバレヨ」』

「サナ!」

 

 思い立ったら行動あるのみ。

 どうせ俺のやれることなんてサーナイトの特訓を見て、時折口を挟むくらいだし。基本いなくても大丈夫でしょ。

 さて、どこに移動するか。

 ああ、そういえばさっき水辺に移動しないかとか話してたんだったな。ちょっとその辺を探してみるか。

 

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