ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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最初に言っておきます。
今回は超長いです。


20話

 早朝からククイ博士やムーンと話しているとぞろぞろと起床者が増えていった。中には起きてパンだけ持って仕事に行った運び屋とか島キング・島クイーンもおり、残っているのは俺とムーンと家主のククイ博士、それからグラジオと意外にもグズマの五人である。

 俺は未だに抱いているニャビーに癒され、隣でムーンが俺を観察しており、ロトム図鑑がその記録。グズマとグラジオがソファでテレビを観ている。いや、そこ二人! 普通に馴染み過ぎじゃね?

 

「はい、全員注目!」

 

 そんな中、ククイ博士が急に声を張った。手にはタブレット端末が。何か面白い記事でもあったのだろうか。

 

「………なんだよ」

「ハチマンには言ったが、今カロス地方ではポケモンリーグ大会が開かれている」

 

 ああ、大会関連の話か。

 何か進展でもあったのか?

 

「そしてその大会で新四天王の実力のお披露目があったんだが、またそれがとんでもないものでな。今から観てみようと思うんだが、どうだ?」

 

 新四天王ってことはイロハが何かやったのか?

 この前見たホームページの新四天王紹介動画はあくまでも自己紹介のようなものであって、実力のお披露目は今回ってことなのかもしれないな。となるとバトルを見せるのが妥当な展開だが………。

 

「実力ってことはバトルでもしたのか?」

「ああ、相手は氷の女王だ」

「へぇ、そりゃ観たいな」

 

 氷の女王って………。

 でも、ユキノとバトルしたのか。

 半年前まではユキノの方が強かったが、四天王になったからにはもっと成長していることだろう。

 何はともあれ俺がいなくなってからの二人の実力が見られるんだ。これは観るしかないだろ。

 

「ヒキガヤさんが観たがるくらいなら、相当なカードなようですね。わたしも観ます」

「カロス地方ということはメガシンカも見られる可能性があるということか。オレも観ます」

 

 ムーンとグラジオは賛成派。

 

「グズマはどうする?」

「ハッ、んなの決まってんだろうが。ヒキガヤの兄貴が観るっつってんだ。さっさと観せやがれ」

 

 グズマはよく分からない理屈を出してきた。

 ほんと意味が分からん。何で俺が観るって言ったらお前も観ることになるんだよ。

 

「んじゃ、再生っと」

 

 テレビの入力を切り替えてタブレット画面をテレビに映し出した。

 流れて来たのは人で埋め尽くされたドーム型の施設。その中央にバトルフィールドが広がっている。

 

『それではこの二人に第二回カロスポケモンリーグ大会開催のエキシビジョンマッチを行っていただきましょう! まずはこの人! 新四天王に就任後、これが初の公式バトルとなる今大会の注目人、四天王イロハ!!』

 

 どうやら再生された動画はエキシビジョンマッチを抜き取ったものなのだろう。実況の紹介により盛大な歓声とともにイロハが登場してきた。

 

「ヒキガヤさんは彼女をご存知なんですか?」

「知ってるも何も俺の後輩だ」

「えっ?! 彼女がですか!?」

 

 それは何に対しての驚きなのだろうか。例の後輩が出て来たからか? それとも四天王にしては若すぎるからか?

 前者は俺の立場を考えれば可能性としては考えられなくもないだろうし、後者だと他の地方に俺たちと同年代の四天王のだっているはずだ。もしくは就任当時が俺たちの年代だったか。とにもかくにもイロハが四天王として若すぎるということはないのだ。

 

『そして対するのはこの人! 前理事の右腕でもあった今やカロスポケモン協会の顔でもある、三冠王ユキノ!!』

 

 反対側から黒長髪をポニーテールに纏めたユキノが登場してくる。バトルということもあり、ニット素材のトレーナーにホットパンツに黒タイツという動きやすいスタイルである。ちなみにイロハは白シャツの上からピンクのカーディガンを羽織り、下はミニにしたプリーツスカートである。

 ちょっと危機感足りなくないですかね………。何がとは言わないがテレビで見えないことを祈るしかない。

 

『ルールは今大会同様、フルバトルによる公式戦! ポケモンにつき選択出来る技は四つまでという中で、それぞれどういうバトルを組み立てていくのか! それでは見せてもらいましょう!』

 

 大会のルールの見本も兼ねたバトルというわけだ。これで初めて見る視聴者にもこんな感じに行われると印象付けるつもりなのだろう。ド田舎でもない限り、ポケモンバトルの公式ルールくらい誰でも知ってそうだがな。トレーナー未満の子供たちを意識しているのかもしれない。

 

『バトル、開始!』

 

 開始の合図が出されて互いにボールから最初のポケモンを出すのかと思いきや、睨み合ったまま動かない。いや、正確にはボールにかける手だけが小さく動いているか。

 二人の中では既にバトルが始まっているのだろう。どのタイミングでどのポケモンを出せば相手より先手を突けるか。その一瞬を探しているという感じか。

 

「おいおい、ポケモン出さねぇのかよ」

「もう二人の中ではバトルが始まっている。あいつらはお互いのポケモンを知っている分、最初のポケモンを出すこの瞬間が勝敗を左右するんだ」

「グズマ、このバトルはお前の想像を超えたバトルになるだろう。黙って見ていた方がいい」

「チッ、そうかよ」

 

 丁度二人の手がボールを握った。

 

『ガブリアス、ドラゴンダイブ!』

『マンムー、こおりのつぶて!』

 

 投げ出されたのはガブリアスとマンムー。

 同じじめんタイプであるが、もう一つのタイプによりこの時点で相性に優劣がついてしまった。

 ガブリアスは飛び出す勢いのまま、赤と青の竜を模したオーラを纏ってマンムーへと突っ込み、そのマンムーも行手を阻もうと氷の礫で牽制していく。

 

『最初のポケモンはガブリアスとマンムーだぁぁぁ! 相性ではマンムーに分が出たか!』

 

 礫を砕きながらガブリアスはマンムーの正面に身体を打ちつけた。

 最初からお互いにダメージが入った形だ。

 

『ステルスロック!』

 

 翻ってイロハのところへ戻るついでに、ガブリアスは尖った岩々を地面に植え付けた。植え付けたという表現も何か違和感を感じるが、種のように消えていったのだから植え付けたと表現するしかない。

 

『マンムー、もう一度こおりのつぶてよ!』

 

 距離を取ったガブリアスに対して、マンムーが氷の礫を打ち放った。

 

『ガブリアス! 躱しながら距離を詰めて!』

 

 しかし、そこはガブリアスの身のこなしにより躱され、空いた距離をすぐに縮めていく。

 

『くっ、マンムー、牙で受け止めなさい!』

 

 正面から再度突っ込んで来るガブリアスをマンムーは二本の牙で受け止めた。

 

『ほのおのキバ!』

 

 だが、狙いはその牙だったようで、牙に噛みつき炎で焼き付けていく。

 マンムーにとっては効果抜群の炎技。牙であろうとダメージはしっかりと入ったことだろう。一つ懸念材料といえば、特性があついしぼうかどうかというところだな。今の牙への攻撃ではその判断を下すことは出来ない。

 

『くっ、ゆきなだれ!』

 

 ただ、これで終わるユキノではない。

 すぐに攻守を切り替えてダメージを負いながら、ガブリアスの頭上から雪崩を落とした。

 こっちも効果抜群。何ならドラゴン・じめんタイプということもあり、しかも攻撃を受けた直後のゆきなだれであるため、ダメージはマンムーの比ではない。

 それでも倒れない辺り、相当四天王たちに鍛えられたのだろう。

 

『…………やりますね』

『イロハもね。でもそう簡単に負けるわけにもいかないわ。あなたがここまで上がって来たことは素直に嬉しいけれど、私だってあなたと同じ人が目標だもの。まだまだ先のところに彼はいたのだから、こんなところで負けてられないわ』

『そうですね、先輩ならまだまだサプライズを用意しますもんね。でも私だって……。ガブリアス、にほんばれ!』

 

 二人の会話までマイクが拾っちゃってるよ。

 あれ? てか何かフィールド近くでロトムらしきのが複数体いるように見えるんだが………?

 あの飛んでるのって機械だけど、ロトムの顔が付いてるよな。

 

『マンムー、こおりのつぶてよ!』

『トルネード!』

 

 日差しが強くなった中、再三に渡り氷の礫がガブリアスを牽制していくも、今度は身体を高速回転させて弾き飛ばしてしまった。

 というかイロハまで飛行術を取り入れたのね。

 

『牙で受け止めなさい!』

 

 ユキノはあくまでも同じ算段でいくつもりなのだろう。

 ただ、パターンを態々変えて来たということは、イロハなら何か仕掛けて来るのは間違いない。

 

『今だよ! ドライブB!』

 

 ほら、やっぱり。

 イロハの戦法にドライブBなんてのは聞いたことないが、マンムーの牙に捕まる目前で地面を蹴り上げ、マンムーの背に腕を伸ばして一回転し、反転しながらマンムーの背後に着地した。どこぞの王子様が打ち返したテニス球みたいだ。綺麗に二連続で弧を描いててパッと見マジであのドライブBだわ。

 ともなると、クールドライブとか言って相手側に飛び込んで着地と同時に回転して攻撃とかしちゃったりするのかね………。イロハならやり兼ねんな。

 

『後ろよ、マンムー! ゆきなだれ!』

『そのまま、ほのおのキバ!』

 

 地面を強く蹴り上げたガブリアスは、マンムーの後部に炎を纏った牙で噛み付いた。

 だが、ユキノの反応も早かった。

 ドライブBの形が出来上がった時には驚きを収め、次の展開の対応の指示を出していた。

 噛みつかれたマンムーは後ろを見ることなく、ガブリアスの頭上から雪崩を落とし、豪雪がガブリアスを襲っていく。

 タイミングも見事という他ない。

 指示は早くともマンムーの動き自体はガブリアスの素早さに負けている。だが、これがゆきなだれの威力を倍増させるポイントにもなった。

 

『ガブリアス、戦闘不能!』

 

 そして、敢えなくガブリアスは意識を手放した。

 いや、これで耐えられたら俺も目が点になっていたことだろう。

 てか、審判の周りにいるのやっぱりロトムたちだよな。判定の手助けでもしてるのかね。

 

『お疲れさま、ガブリアス。相性の悪いマンムー相手にいいバトルだったよ』

 

 悪いというか最悪というか。

 一番苦手なタイプを相手にしたんだ。押し切れる程の効果的な大技がないというのも問題だったかもしれない。あるいは後続のことを考えたにほんばれが使える技を制限してしまったのか。

 何にせよフレアドライブとかあればよかったなと思ってしまうくらいには、あの二体の実力からして難しいバトルだったと言えよう。

 

「すげぇ………」

「これが外の人たちの実力…………」

 

 それはあのグズマでさえ感じていることだ。

 それににほんばれを使っていたということは、次に出て来るのはほのおタイプだろう。そいつで一気に攻め落とすつもりか。

 

『目下の課題はステルスロックをどうするかね』

『そりゃこっちもフォレトスがいないことを読んで仕掛けてますから』

『そう、やっぱりそういうことなのね』

 

 お互いに手持ちのポケモンを知っているが故の読み合いだな。

 だが、ユキノのあの顔。何か用意してあるって感じだ。

 

『私がハチマンから得た技術は圧倒的な知識を持つことでバトル展開を読んでいく術。対して、あなたがハチマンから得た技術はフィールドの支配術。ほのおタイプ専門の四天王として最近みずタイプを増やして来た私に対して、あなたがどう仕掛けてくるのかは一通りシミュレーションしているわ。だから、ステルスロックが使われる可能性も考えているのよ。その対策もね。戻りなさい、マンムー』

 

 ガブリアスを切り札にしているシロナさんとかになれば、話は別だろうが、そうでないイロハなら序盤からガブリアスを導入してくることも大いに考えられる。

 だが、これはほのおタイプ専門の四天王としてのバトルだ。手持ちはほのおタイプで固めて来ているはず。ともなれば、ガブリアスを出してくるという確率も大幅に下がるわけだが、その読み合いにすらユキノが勝ったって感じだな。事実、マンムーでガブリアスを撃退しているし。

 

『へぇ、なら見せてもらいましょうか』

 

 ただ、あのイロハがそれくらいで動揺するとは限らない。あいつは元来他人への見せ方に長けている。それが事ポケモンバトルにおいては、ポケモンの技や特性、果てにはポケモンの進化のタイミングやどのタイミングでどのポケモンを出すかで、観客を魅了するのだ。それが結果的に観客を味方に付けることになり、相手には焦りを生み出し、その隙を突くという狡賢さがある。

 

『行きなさい、ボーマンダ!』

『いくよ、ヒードラン!』

 

 ッ?!

 ………そう来たか。

 これは流石にユキノも一瞬言葉を呑み込んだな。

 ヒードラン。火山の洞穴に生息しているとされる伝説のポケモン。その力は封印せざるを得ない程のもので、放っておけば活火山が噴火し放題と言われるぐらいヤバい奴である。火山が大きければ大きい程、ヒードランが生息しているとも言われており、伝説のポケモンの中では数はいる方ではないかとされている。

 

『な、ななななんとぉぉぉ! ここで四天王イロハ、伝説のポケモンであるヒードランを出して来ました! 一年前の彼女をご存知の方は衝撃的なことでしょう! 私もそうです!』

 

 この実況者、去年の奴か?

 スッとこんな言葉が出て来るなんてそうとしか考えられないぞ。

 

『そうですね。去年の彼女を知る者ならば、今四天王としてここに立っているということだけでも驚きでしょうね』

 

 ん………?

 この声、カルネさんか?

 実況席にいるってことだよな………?

 解説役か何かで呼ばれたのかね。

 

「………なあ、何がそんなに衝撃的なんだ? 伝説のポケモンを手持ちにしている四天王が世界を見ても数少ないとは言え、それ以上のことってあるか? カプと一緒にZ技を撃つあのクソじじいらと変わんねぇだろ」

 

 ………なるほど。

 確かにアローラ民にとってはそう感じるのかもしれないな。

 同じく崇められているカプ神たちは各島に存在し、そのカプ神たちに認められた島キング・島クイーンが一緒に儀式を行う行事があるとか言っていた。ならば、アローラ民には伝説のポケモンであっても身近に感じにいる存在と思っていてもおかしな話ではない。

 

「イロハはトレーナーになってまだ一年半くらいだ。そんな奴が伝説のポケモンを連れて四天王として現れてみろ」

 

 ただ、イロハに関しては話が別だ。

 あいつはまだトレーナーになって一年半強しか経っていないのだ。しかも既に一年前からはボルケニオンという伝説のポケモンがいる。それもヒードランとかの数が多い部類ではない、幻と目される希少種が。そこに二体目の伝説のポケモンともなれば、イロハと関わりのある者は特に驚いているだろう。

 

「去年、身分を隠して出場した身としてはあれは衝撃的だったな。あの時点でまだ彼女はトレーナーになって半年しか経っていない新米トレーナーだった。それが今じゃ伝説のポケモンを引っ提げた四天王になったって言うんだから、流石はハチマンの息がかかってる娘だよ」

 

 いや、俺は関係ないでしょうに。

 

「わたしはそもそもトレーナーじゃなかったですけど、ルナアーラとZ技を撃ちましたよ?」

「お前ら図鑑所有者は例外だ。特別な運命力を持つお前らと一緒にされたんじゃ、俺たち一般人は泣くしかない」

「そんなにですか!?」

『ボーマンダ、きりばらい!』

『マグマストーム!』

 

 ムーンに図鑑所有者たちと比較されていると第二ラウンドが始まった。

 ボールから出て来ていたボーマンダは空高くに移動し、ステルスロックを回避済み。代わりに特性のいかくが機能していなかったが、伝説のポケモン相手にはあってもなくても対して変わらないだろう。

 そして、ステルスロックの岩々を砕くようにボーマンダは両翼から一閃を生み出し、フィールドに撃ち込んだ。

 その間にヒードランがマグマを天高く撃ち上げていく。砕かれた岩々も呑み込まれて行き、フィールド一帯は吹きこぼれたドロドロの赤黒いマグマによって侵食され………。

 

『ハイドロポンプで炎の柱に穴を開けるのよ!』

『ストーンエッジ!』

『な、何という威力でしょうか!? マグマの熱にバトルフィールドが耐えられるのか心配です!』

 

 マグマの柱に呑まれたボーマンダは水砲撃で出口を作り出し、何とか逃げ出すことに成功していた。

 にほんばれによってえげつないことになってしまったな。これではフィールドが使い物にならなくなるのではないだろうか。一応、封印されるくらいにはヤバい奴だぞ? そこに威力アップとか施設が耐え切れるものでもないだろうに………。

 

「………おいおい、届いてねぇぞ」

 

 グズマの言う通り、地面から突き出した岩々はマグマを撃ち上げるくらいでボーマンダには届いていない。

 

『ボーマンダ、フィールドにハイドロポンプよ! マグマを飛ばされないようにしなさい!』

 

 ユキノもその隙にどこかで使われそうなフィールドのマグマを消しにかかる。

 水を浴びたマグマは急激に冷やされ、黒い塊へと変化していった。

 イロハがあんな初歩的なミスをするとは考えられない。ミスと捉えられるように仕向けたと考えた方が無難だろう。となると、あいつは何をしようとしているのか。その一点に尽きる。

 

『ヘビィボンバー!』

 

 ッ?!

 いや、マジか。

 岩が突き出す運動を利用して、あの鋼のボディをボーマンダよりもさらに上空へと打ち上げたというのか………?

 

『ブラスターロールで躱してハイドロポンプよ!』

 

 急降下してくるヒードランを翻って躱し、代わりにヒードランの背中に向けて水砲撃を放った。

 

『マグマストーム!』

 

 鋼のボディは地割れが起きる程の衝撃で着地し、その地割れからマグマが一気に立ち昇っていく。

 上から降り注ぐ水砲撃をも呑み込み、マグマがボーマンダを包み込んだ。

 

『戻りなさい、ボーマンダ!』

 

 と思った瞬間、間一髪でボーマンダをボールに戻した。赤い光が届く範囲だったのがせめてもの救いとなったようだな。

 

「なんつーパワーだ。あれが伝説の力ってことかよ………」

「カプたちも本気を出せば似たようなもんだぞ」

 

 グズマの呟きにククイ博士がボソっと返した。それが聞こえていたのだろう。遠慮のない舌打ちが部屋に響く。

 

『………ヒードラン。だからあなたは一体だけずっと見せてくれなかったのね。時が来ればとか言ってはぐらかしていたのは、この時のためだったと』

『ふふん、このバトルは私がカロスに帰って来た時から既に始まってたんですよ!』

 

 ん?

 それはカントーから帰って来た時ってわけじゃないよな?

 あの時はヒードランなんていなかったし、捕まえるどころか襲撃に遭ったくらいだ。となるとその後でカロスから出ていたということになるのか。ヒードランの神話が残るシンオウか、それとも他の地方か。そこでヒードランを仲間にして帰って来たということだろう。

 行動的というか何というか………。

 

『全く………、そういうところまで似なくていいのに』

『やだなー、若いからって舐められないためですよー。このバトルに関してはついでです、ついで』

『………はあ、そういうことにしておきましょう。ギャロップ、こうそくいどう!』

 

 ユキノが三体目に出してきたのはギャロップ。同じほのおタイプではあるが、ユキノのギャロップの特性はもらいび。マグマストームをこれで封じたようなものだ。とはいえ、相手は伝説のポケモン。はがねタイプを有するヒードランには弱点を突いていかなければ、ギャロップに勝ち目はないだろう。幸い、ギャロップにはドリルライナーがある。それにかくとうタイプの技も覚えているはずだ。だから勝ち目がないわけではない。

 ただまあ………。

 ユキノは気づいていそうだが、ヒードランにもほのおタイプの技は効果がないだろう。ヒードランはその鋼の鎧すら溶かす自らの炎に耐性を持っている。つまりは、ギャロップと同じく特性もらいびを持っている可能性が大なのだ。

 

『特性もらいびで私の炎を無効化しようと準備してたみたいですけど、それくらい私だって読んでますよ! ヒードラン、ストーンエッジでジャンプ!』

 

 イロハのこの言葉をどう解釈するかは人それぞれだろう。ただ、俺には「ギャロップを出されたところでこっちももらいびですし、イーブンなんですよねー」と言っているように聞こえた。

 

『へぇ、流石ね。詰め込んだ知識がこんなところで役に立つなんて、生のヒードランと戦えて光栄だわ。ギャロップ、ドリルライナーで迎え撃ちなさい!』

 

 先程と同様に自身を打ち上げたヒードランを迎え撃つため、ギャロップは角を回転させ始めた。

 ほのお・はがねタイプのヒードランにじめんタイプのドリルライナーは効果絶大だが、あの鋼の身体が落下してくるとなるとギャロップの角では些か力不足感が否めない。

 

「マグマストームを封じられたヒードランでどうするんだろうな」

「ストーンエッジでどうにかするしかないのでは………?」

「さあな。ヒードランは技の一枠がまだ使われていない。その一枠をどの技にするかで勝敗は傾くことだろう」

 

 イロハを知らない三人はここからどうバトルを組み立ていくのか予想がついていないらしい。さりとて俺も今のイロハがどういう戦法を取り入れるようになったのかは定かではないため、取り敢えずストーンエッジで飛ぶ動きからの落下攻撃が数パターンあると賭けよう。

 

『てっぺき!』

 

 ボーマンダに対してはヘビィボンバーだったが、今度はてっぺきで防御力を上げての落下になるのか。しかも展開した鉄の壁は『面』であり、『点』を突こうとするギャロップを押し潰すことも考えられているようだ。

 

『そのままいなして!』

 

 それを悟ったユキノも角が鉄の壁に触れた瞬間に首を傾けさせて滑らせることで、押し潰されるのを避けた。

 

『ストーンエッジ!』

 

 ただ、イロハがそんなことでは終わらせるはずもなく、着地と同時にその衝撃を利用して勢いよく地面から岩を突き出して、ギャロップの身体を撃ち上げた。

 見上げていた空は日差しが弱まり、天気の効果が無くなったことを示している。あってもなくても変わらない気もしなくはないが、あの二人はそうでもないだろう。

 というか、なんか長かったような気がするのは俺だけか?

 

『ギャロップ、もう一度こうそくいどう!』

 

 空中で態勢を立て直したギャロップは、着地と同時に再度高速で走り回り、ヒードランの目を撹乱していく。

 

『ヒードラン、てっぺき!』

 

 ヒードランはいつ攻撃が来てもいいようにか、防御力を高めてじっとその時を待つことにしたようだ。

 恐らくあの二人は今読み合いをしていることだろう。

 身体が重くてそこまで動きに俊敏性があるわけでもないヒードランに対し、機動性のあるギャロップがさらに加速する必要なんて特にない。となると考えられるのはギャロップが使える技の伏線ということ。

 

『バトンタッチ!』

 

 そう、すなわちこの技である。

 ギャロップがユキノの方へ戻る動きを見せると、ユキノの方もボールから次のポケモンを出し、その二体がタッチして能力上昇を引き継いだ。

 

『ここで三冠王のエース、オーダイルの登場だぁぁぁあああああああああっっ!!』

 

 しかも出てきたのはオーダイル。

 ユキノの絶対的エース。特性げきりゅうが発動すれば、さらに強さが増して伝説やメガシンカポケモン級でないと太刀打ち出来なくなる奴。暴走を機に俺には従順になっちまったが………。

 そんなポケモンを四体目に投入となると、それだけヒードランが厄介な相手らしい。

 

『オーダイル、アクアブレイク!』

 

 引き継いだ素早さを活かして一瞬でヒードランの目の前に移動し、水の刃で横一閃。

 しかし、防御力を高めていたヒードランは後退するに留まり耐え切った。

 

『マグマストーム!』

 

 そしてマグマの柱を立たせ、自身をも呑み込みながらオーダイルを襲う。

 

『じしん!』

 

 おお、じしんか。

 オーダイルもじしんを使えるようになってたのか。

 今まで使うところは見たことなかったが、新たに覚えさせたのかね。

 

『ストーンエッジでジャンプ!』

 

 超効果抜群だが、これも耐えたヒードランが再度岩で自身を突き上げて上に行った。

 

『ヘビィボンバー!』

 

 そして落下する力も合わせて全体重を乗せてオーダイルへと落ちていく。

 

『オーダイル、アクアブレイクで受け止めて!』

 

 それをオーダイルが水の刃に滑らせて軌道を変えた。

 

『ヒードラン、そのままストーンエッジ!』

 

 着地の流れから衝撃を利用してオーダイルの足下から岩を突き出すとオーダイルは咄嗟に自分の判断でそれを躱して距離を取る。

 

『………硬いわね』

『そりゃ、ヒードラン相手にこうそくいどうを使うなんて、バトンタッチの伏線の可能性を考えましたからね。そうすると出てくるのは一気に決められるオーダイル。それなら防御力を上げておけば耐えられると思いました』

『そう、私もヒードランがもらいびだろうから、ほのおタイプ同士のバトルを意識させた上で交代するつもりだったわ』

『では、その読み合いは私の勝ちですね』

『それはどうかしら? オーダイル!』

 

 踏み込んだオーダイルはギャロップから引き継いだ素早さで一瞬にしてヒードランの背後に回り込み、右上から一閃斬りつけた。

 

『ドラァ!?』

 

 今度こそイロハのところまで吹き飛ばされたヒードランはひっくり返っている。

 

『トドメよ! じしん!』

 

 そしてオーダイルは容赦なく地面を揺らし反転したヒードランを激しく揺さぶりトドメを刺した。

 

『………ヒードラン、戦闘不能!』

 

 ユキノのポケモンでオーダイルだけはやはり格が違うな。伝説のポケモン相手でも引けを取らない。まあ、ギャロップのアシストがあったからというのもあるが、それがなくともどうにか出来ていただろう。それだけの実力はある。

 

『ありがとー、ヒードラン。これでユキノ先輩の手持ちは何となく分かったよ。あとはみんなに任せてね』

『ヒードラン、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおっ!! やはり三冠王の名は伊達ではない! 新四天王にも引けを取らないどころか、未だ戦闘不能のポケモンを出していません! しかし、四天王イロハの実力も相当なものですっ!! ここまでのバトルだけでも高度な展開を繰り広げているのがひしひしと伝わってきます!』

『私でも相当気を張らないと一瞬の隙を突かれてしまいそうだわ。それくらい読み合いが高度過ぎる。これこそがトップレベルのバトルと言ったところね』

「何というか、凄い攻防ですね」

「ああ、一見四天王側が負けているように見えるが、終始自分のペースに引き込んでいるように感じられる」

 

 ムーンのざっくりとした感想にグラジオも言葉を続けた。

 どうやら二人には負けているはずのイロハが終始自分のペースに引き込んでいるように見えるらしい。

 それもそのはずだ。

 イロハの狙いはにほんばれ下で一気にヒードランで片付けようって算段だと思っていたが、ヒードランを相手取るだけで四体目のポケモンまで見せてしまっている。手札を見せるということは早い内から対策を立てられるということ。ここまで来るとイロハの狙いはヒードランというインパクトを利用してユキノの今回のパーティーメンバーを探ることだったようだ。

 初手にガブリアスを出すことでユキノの得意タイプであるこおりタイプを引き出し、次にほのおタイプを出すことで交代させる。しかもそれが伝説のポケモンで初披露ともなれば、ユキノとて探りを入れていくしかない。そして、結果的にヒードランだけでポケモンを三体見せることになってしまった。決め手もオーダイルしかなかったともなれば、ヒードランの恐ろしさがより伝わってくる。

 

『二つ聞いておきたいのだけれど』

 

 束の間のインターバルなのかユキノがイロハに話しかけた。

 

『はい? 何でしょうか?』

『ガブリアスに何か持たせてない? そうね、例えば熱い岩、とか』

『お見事です。一応ほのおタイプ専門ってことになってるんで、日差しが強くなる時間を延ばすために持たせました』

 

 なるほど、だから日差しが強い時間が長かったのか。

 火山から取れたであろう熱い岩という代物は常に熱を持ち続けている掌サイズの岩というか石であり、持っていることでにほんばれを使うと日差しが強い時間が長くなるのだ。他にも各天候には似たような道具があるのだが、よくそんなものを手に入れていたな。

 

『やっぱりそうだったのね。いつもより長い気がしていたのよ』

『ダイゴさんが四天王就任祝いにって色々くれたんですよ。ほら、あの人石大好き人間じゃないですか』

 

 あ、犯人はあの人か。

 あの石マニアで有名なチャンピオンであれば余裕で持っていそうだわ。しかも四天王就任祝いでポンと出してくるなんて、さすがは御曹司。かねもちは感覚が違うな。

 

『他地方の元チャンピオンにまで目をかけてもらえる四天王ってどうなのかしら………』

『先輩経由の人脈なんで。ユキノ先輩だってそうでしょ?』

『そうね、あなたよりは私個人の人脈はあると思うけれど、彼の人脈の広さは異常だわ』

 

 それはただの成り行きだ。

 ほら、ソネザキさん家のマサキさんとか超成り行きじゃん。道に迷ってたところにポケナビいらないからやるって言われてもらっただけだぞ。あと、カロスで言えばあの変態博士とか。行く先々にいやがるもんだから嫌でも顔を覚えてしまうというね。

 今も成り行きでアローラにいるし、成り行きって恐ろしい………。

 

『もう一つだけれど、ヒードランの特性は?』

『ふふん! もちろんもらいびですよ!』

 

 うわー、ドヤ顔で胸を張ってやがる。

 見ないうちにちょっと大きくなったことない?

 うん、やめとこう。

 

『やっぱりね。炎技を使わなくて正解だったわ』

『いやー、ワンチャン試し撃ちしてくれないかなーって期待してたんですけどねー』

『ヒードランは比較的研究されているもの。特性くらいは余裕で公表されているわ』

『ですよねー。ユキノ先輩なら知ってると思ってましたよ。さあ、次行きましょう!」

 

 それよりもそろそろ再開しないとオーダイルの疲れが少し回復するのではと思ったら、イロハも無理矢理会話を切りやがった。あれ、俺には出来ねぇわ。

 

『マフォクシー、トリックルーム!』

 

 うわ、あいつえげつな。

 バトンタッチでギャロップの素早さを引き継いでいるオーダイル相手に、ボールから出した途端トリックルームとか鬼畜以外の何者でもない無慈悲な所業。いろはす、容赦ねぇ。

 

『………ほんと、いい性格してるわよね。オーダイル、戻りなさい』

 

 素早さが反転した空間をフィールド一帯広げられては、今のオーダイルにはなす術もなかっただろう。例えそれがタイプ相性のいいマフォクシー相手だったとしても。

 

『ギャロップ、マフォクシーを倒すわよ!』

 

 ギャロップのもらいびでヒードラン同様炎技を封じるつもりなのだろう。ただ、ヒードランと違うのはマフォクシーはエスパータイプを持ち合わせている。しかもギャロップが使える技はドリルライナーともう一つのみ。こうそくいどうなんてしばらくは自殺行為だし、バトンタッチはこうそくいどうが使えないと無意味だ。

 さあ、一見ユキノが有利なこの状況でユキノはどう出るのやら………。

 

『でんこうせっか!』

『サイコキネシス!』

 

 同時に指示が出されたが、今回の読み合いの勝ちはイロハだな。

 こうそくいどうが使えない今、ドリルライナーを確実に当てるために急接近出来る技はでんこうせっかしかない。それを読んでマフォクシーに超念力で空中に固定することで動きを封じさせたのだろう。

 ここまで来るとイロハが段々ヤバいトレーナーに見えてくるな。ユキノですら手玉に取っていそうだ。

 

『サイコキネシスで今度は落ちてる岩を操って!』

 

 あ、終わったな………。

 まさかのヒードランが度々使っていたストーンエッジの破片を攻撃手段に用いて来やがった。こういう時の判定はどうなるのか検証したこともなかったが、恐らく効果抜群になるのだろう。

 

『ストーンエッジ、GO!』

 

 サイコキネシスで岩の破片を飛ばす型のストーンエッジを再現し、全方位からギャロップは狙い撃ちにされてしまった。綺麗にコントロール出来ているのは手に持つ木の棒のおかげだろう。まるで指揮者のようである。

 

『ドリルライナー!』

 

 何とか正面から来る岩々を角で砕いていくが、そんなものは四方の一角に過ぎない。身体の方は諸に受けているため、ダメージの蓄積は相当なものになる。

 

『マフォクシー、サイコキネシスで続けて!』

 

 そして、ここからマフォクシーによる一方的な蹂躙が始まった。

 そういえば、マフォクシーってイロハに性格が似てるんだっけか。だからあいつも蹂躙するのに抵抗ないのか…………。

 

「………彼女、容赦ないですね。身動きが取れない相手を狙い撃ちとか、可愛い顔した悪魔か何かですか?」

「強ち間違いじゃないな。あれはあざとい小悪魔だ。男を手玉に取るのは朝飯前。怒ったら笑顔でチンコもいじゃうからとか言い兼ねない女だ」

「「「……………ッ!」」」

「うぇ………」

 

 ちょっと男子ー?

 下半身の危険を感じなさんな。物の例えだから。本当に言ったことはまだないから。

 

『こ、ここここれは………余りにも一方的な展開だぁぁぁあああああああああっ!? トリックルームで素早い動きを封じられたところにサイコキネシスで身動きすらも封じられ、そこに散らばった岩の破片を打ち付けられていますっ! ギャロップ、万事休すか!?』

 

 実況も頑張って言葉を絞り出したな。

 一瞬言葉を失ってたぞ。

 今それくらいヤバい惨状になってるってイロハは気づいていたのかね。

 

『くっ、ギャロップ戻りなさい!』

 

 と、ここでユキノが交代を選択した。

 

『マフォクシー、サイコキネシスでボールの光の軌道を曲げて!』

 

 だが、サイコキネシスによりボールから延びる赤い光すら、遮られてしまった。

 いや、容赦ないにも程があるだろ。俺でもその発想はなかったぞ。

 つか、あの黒い破片ってボーマンダによって急速に冷やされて固まったマグマだよな………? ということは黒曜石になって…………うわ、マジか。ギャロップがかわいそうでしかないな。

 そうこうしている内に、パリン! と特殊な仕掛けの部屋が壊れた。

 これでギャロップがこうそくいどうを使っても何の問題も無くなったのだが、最早ギャロップにはそんな体力も使う気力も隙すらも残されていないだろう。

 

『トドメだよ! サイコキネシスで地面に叩きつけて!』

 

 マフォクシーは最後にギャロップを地面に叩きつけて意識を完全に刈り取った。

 

『………ギャロップ、戦闘……不能!』

 

 審判も言葉を失いながらも何とか判定を下したようだ。

 あれを間近で見せられたんだもんな。実況よりも言葉を失うのも無理はない。

 

『決まったぁぁぁ! ここで四天王イロハが巻き返しました!』

『今のはえげつなかったわね。彼のゲッコウガにボコられたあの時の記憶が一瞬過ぎるくらいよ』

 

 うん、それは本当にえげつない。

 あいつ、なんつーえげつないバトルを覚えたんだよ。

 

『ギャロップ、お疲れ様。ゆっくり休みなさい。………はあ、容赦の無さは段々と彼に似て来たわね』

『バトル中はバトルフィールドにあるもの全てがバトルの材料じゃないですか』

『そうね。あなたの言う通りだわ。例え使った技の破片だとしても使い方次第で同じような効果を生み出すことだって出来る。でもそれは、あなただけに言えたことではないわよ。ボーマンダ!』

 

 誰だよ、そんなこと教えたの。

 俺は教えてないぞ。多分、恐らく………使える物は使う精神はないこともないけど…………。いや、だからってこんな容赦の無さは………リザードンとかゲッコウガがやってるか……………。

 

『マンダァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 ボーマンダは出て来たと同時に咆哮を上げ、マフォクシーを威嚇した。

 

『ハイドロポンプ!』

 

 そして水砲撃でマフォクシーを狙い撃ちに。

 

『サイコキネシスで軌道を逸らして!』

 

 そのマフォクシーは超念力で水砲撃の軌道を逸らして回避した。

 

『ドラゴンダイブ!』

 

 ただ、狙いはマフォクシーに接近することにあったのだろう。赤と青の竜気を纏い、ボーマンダがマフォクシーへと突っ込んで行く。

 

『マジカルシャイン!』

 

 おお、マジカルシャインまで習得していたのか。

 これはボーマンダが苦戦を強いられるかもしれないな。

 

『ローヨーヨーで躱しなさい!』

 

 マフォクシーが全身から光を迸らせると下降気味だった身体を起こして急上昇していき、空へと退避して行った。

 

『ぼうふう!』

 

 そして上空からフィールド全体を巻き込む暴風を生み出し、マグマやら黒曜石やらストーンエッジの破片やらを全て巻き上げてマフォクシーを襲った。

 

『うぅ………、マフォクシー、ねっぷう!』

 

 風には風を、ということなのだろう。

 マフォクシー手に持つ木の棒をくるくると回して渦巻き状の熱風を起こし、暴風の中で相殺して無風状態の空間を作り出した。

 

『ボーマンダ、ハイドロポンプ!』

 

 そこに水砲撃が上空から撃ち込まれた。

 あれだけのパワーで暴風を起こした後で、この一撃はマフォクシーからしたら確かに重い。ただでさえタイプ相性で不利なのに、先のバトルで使用した技までもが相性が不利ともなると、マフォクシーにとっては辛いバトルだろう。

 

『サイコキネシスで逸らして!』

 

 だが、何とか超念力で軌道を逸らしたか。

 一度同じ要領で対処していたのが効いたな。

 水砲撃が地面にぶつかり勢いで黒曜石やらが弾き飛んだ。それを見たイロハはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。

 

『マフォクシー、今度はねっぷうで岩の破片とかを巻き上げて!』

 

 また何か企んでいるな。

 ただ巻き上げただけでは押し返されたら逆にピンチになるが、それも考慮した上での何かをやるつもりなのだろう。

 

『ボーマンダ、ぼうふうよ!』

 

 ユキノは暴風で強引に上書きするようだな。

 

「っ……」

 

 ただ一瞬。

 マフォクシーの立ち位置が空中に移動したように見えた。

 

『いない?!』

 

 それは俺だけの錯覚ではないらしい。

 ユキノもマフォクシーの姿を見失っている。

 

『マジカルシャイン!』

 

 仕掛けた本人は不敵な笑みのまま、マフォクシーがボーマンダの真下から光を迸らせた。

 

『ボマァ!?』

 

 急に下を向いてマフォクシーの姿を確認してしまったがために、ボーマンダは光で目をやられたようだ。

 

「今、マフォクシーの位置が一瞬ズレたように見えたぞ」

「恐らく蜃気楼だな。ハイドロポンプの水で地面付近が冷やされ、直後にその上空が熱風で温められた。ほんの数瞬しか効果はなかっただろうが、それを上手く利用したんだろう」

 

 グラジオの言葉にククイ博士が推測してくれた。

 なるほど、蜃気楼か。

 あいつ、そんなことまで勉強していたのか。ユイやコマチ程とは言わないが、あいつもそこまで勤勉な方ではなかったし、そんなところまで詰め込んでいるとは思わなかったな。

 

『………そういうこと。あの一瞬でその発想に至らなかったのは私もまだまだということね。ボーマンダ、目は大丈夫?!』

『マンダァァァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 ハイパーボイスかというような咆哮でユキノの問に答えた。

 

『ハイヨーヨー!』

 

 今のはいい一撃だった。マジカルシャインをより効果的にするために蜃気楼の発想に至ったのは、素直に凄いと言える。タイプ相性は不利でも炎と水という相反する技の熱量の差にまで気付くとは………。いや、そういえばあいつはほのおタイプ専門ってだけじゃなかったな。それまでにみずとはがねとドラゴンのジムリーダー試験をクリアしていたはずだ。ともなれば、それぞれのタイプの特徴を詰め込んでおり、その知識を合わせれば蜃気楼の発想にたどり着くのも道理と言えよう。

 

『ハイドロポンプ!』

 

 急上昇してから急下降に切り替え、落下速度を上乗せした水砲撃がマフォクシーを襲う。

 

『もう一度、サイコキネシスで逸らして!』

 

 再三に渡り、超念力による軌道逸らしを選択。

 

『押し込んで!』

 

 だが、今度はそう上手くいかなかった。

 落下する力が上乗せされた上に、さらにパワーを上げて来たことで水砲撃の勢いは増し、超念力では受け止めきれなかったようだ。

 

『ッ!? マフォクシー、後ろに飛んで!』

 

 危機を察したイロハは身体的回避を命じ、半身くらい水を浴びながらもその場から後方へ退避した。

 

『ドラゴンダイブ!』

 

 そこへ落下して来たボーマンダが赤と青の竜の気を纏って突っ込んで来ており、改めて飛行術の恐ろしさが見えた。

 

『うわっ?! ねっぷう!』

 

 ボーマンダを減速させて技の威力を抑えるつもりなのかもしれないが、抑えられたところで元に戻るくらいだろう。だからマフォクシーの危機が去ったわけではない。

 熱風をもろともせず、ボーマンダはマフォクシーに体当たりし、イロハの後方の観客席とを隔てる壁に突き飛ばした。

 

『マフォクシー?!』

『マ、フォ………!』

 

 お、もうかが発動したか。

 だが、あれでは一発小突かれただけでも倒れそうなギリギリの状態だ。それをユキノが見逃すはずもない。

 

『トドメよ、ハイドロポンプ!』

『くっ、マフォクシー、ねっぷう!』

 

 交代では間に合わない。

 かと言って、マフォクシーは木の棒を落としてしまっている。意識が朦朧とした中でどこまで技を練られるか。そして、もうかがどこまで作用するか、だな。

 

『………マフォクシー、戦闘不能!』

『マフォクシー、ここで戦闘不能ぉぉぉ! 三冠王ユキノが三体目を撃破しました!』

 

 マフォクシーをねっぷうを腕の回転で生み出し、制御を放棄し暴走させたまま水砲撃にぶつけた。威力はもうかにより上がっており、最初こそ水を蒸発させていったが、やはり炎に水。鎮火されて押し込まれてしまった。

 これでイロハのポケモンは残り三体。対してユキノのポケモンはまだ五体も残っている。パーティーは半数以上割れているが、倒せなければ意味がない。

 

『ええ、でもマフォクシーは壁に打ちつけられる前にボーマンダを火傷状態にしていったわ』

『グゥ………』

 

 言われて見やると、確かにボーマンダの身体のあちこちが黒焦げており、ダメージを受けているようだった。

 おお、マジか。

 減速のためと思っていたが、追加効果も狙っていたのか。そして確率の低い追加効果発動を引き当てるとは何という勝負強さ。そのおかげでギリギリのところで耐え切ったってことか。

 俺には真似出来ない芸当だ。

 カルネさんもあの位置からよく気が付いたな。

 

『戻って、マフォクシー。ナイスファイトだよ』

『イロハもやってくれるわね』

『私たちだってただでやられるつもりはありませんから!』

「………ヒキガヤさん、このバトルどちらが勝つと思います?」

「戦況的に見ればギャロップしか戦闘不能に陥ってないユキノが優勢なんだが、他の奴らは手負いの者ばかりだ。ここから巻き返されるという展開も充分にあり得るから今はまだ何ともって感じだな」

 

 今のところユキノのパーティーはマンムー、ボーマンダ、ギャロップ、オーダイルが判明している。後の二体はほのおタイプ専門の四天王を冠するイロハを相手取るのにこおりタイプで埋め尽くしているとは考えにくい。そして、ユキノの言葉からフォレトスもいない。となると素早さで翻弄出来るマニューラと他誰かってところか。いや、ほんとさっぱりだわ。イロハがヒードランなんていうサプライズを用意してきてたんだし、ユキノも新しいポケモンを仲間にしている可能性も考えられる。そうなると最早俺には予想のしようがないな。

 対してイロハの方は今のところガブリアス、ヒードラン、マフォクシーと来ている。残りのポケモンもほのおタイプ寄りで集められているだろう。確実にいるのはボルケニオンだな。まだまだ謎が多いポケモンだが、イロハに対しては心を開いているため、切り札とも呼べるポケモンになっているだろう。

 

「そうですね。押されているのにあのしてやったり顔ですからね。まだまだ何かしてくれそうな気がします」

 

 おっとー?

 ムーンはイロハ推しなのかな?

 いや、いいんだけどさ。あいつ、こんなところにもファンを一人作っちゃったぞ?

 

『いくよ、ヒヒダルマ!』

 

 …………ん?

 雪だるま?

 あー、そういやいたな、リージョンフォームに。

 ヒヒダルマって言ったっけ?

 カントーやカロスに生息していなかったから、スクールかどこかの図鑑で原種の方を見たような気もしなくはない。まあ、印象に残ってるのはリージョンフォームした雪だるまの方だから、原種の方はボヤッとした姿しか思い出せない。

 

『な、何でしょうか、あのポケモンは?! カロス地方では見たことも聞いたこともありません!』

『あれはヒヒダルマというポケモンのリージョンフォームした姿ーー謂わば亜種的な存在ですよ。ヒヒダルマ自体がカロス地方には生息していないので馴染みがないでしょうが、あれはガラル地方の環境に適応して変化したヒヒダルマの姿らしいですよ。あ、ちなみに見た目通りのこおりタイプです』

『な、なるほど。よくご存知でしたね』

『カントー地方でオーキド博士たちからお聞きしたので』

 

 ………ん?

 ちょっと待てよ?

 ガラル地方のヒヒダルマを連れているってことは、イロハはガラル地方に行っていたのか?

 ヒードランもそこで?

 コマチやトツカもあっちに行ったんだし、イロハが遊びに行っていてもおかしくはないか。

 てか、コマチらは元気なんだろうか。ガラル地方で俺のことを聞いただろうし、取り乱してないか心配だ。まあ、もう半年経ってるみたいだから落ち着いてはいるだろうが、当時のことを思うと罪悪感が湧く。

 

「なるほど、そういうことか。こりゃ面白い」

 

 ククイ博士は何か一人で納得してるし。

 いや、何に納得してんだよ。

 

「ククイ、どういうことだ」

「あー、見てればその内分かるはずだ。ヒヒダルマは元々ほのおタイプのポケモンだ。だが、彼女は敢えてこおりタイプのガラルの姿を出して来た。ほのおタイプ専門の四天王が、だ。これが意味することが何なのか、分かれば度肝を抜かれるだろうさ」

 

 確かに違和感は強い。

 ただ、イロハは一発目にほのおタイプではないガブリアスを出している。だから、ヒヒダルマも後続の伏線か何かってのが妥当なところだが、ククイ博士の口振りからしてそれだけでは無さそうだ。一体何を企んでいるんだ………?

 

『……ほのおタイプ専門の四天王がこおりタイプを出してくるなんて、まさかボーマンダ対策ってだけではないわよね?』

『そんなわけないじゃないですかー。それだったら最初からボーマンダ相手に出してますって』

『そうね。その通りだわ。ただ、あなたがほのおタイプを六体揃えられていないのは知っているのよ。だから苦肉の策なのかと思っただけなのだけれど、遠慮はいらなさそうね。ボーマンダ、ハイドロポンプ!』

 

 幸いにしてボーマンダの技は既に四枠を全て出し尽くしているため、効果抜群の技を受けることはない。

 

『ヒヒダルマ、躱してフリーズドライ!』

 

 それもあって現状ヒヒダルマが圧倒的優位を取っている。形勢逆転は充分に狙えるだろう。

 

『れいとうパンチ!』

 

 身体の内部が急速冷却されたボーマンダは身体がーーもとい翼が硬直し、飛んでいられなくなった。

 その隙にヒヒダルマは飛び出し、落ちてくるボーマンダの正面から氷を纏った拳で殴りつけて、マフォクシー同様ユキノの背後の観客席とを隔てる壁に打ちつけた。

 

『ボーマンダ、戦闘不能!』

 

 ヒードランに苦しめられ、マフォクシーに火傷状態にされたボーマンダは、ヒヒダルマの拳を受けて意識を手放した。

 

『効果は抜群! 四天王の奇才な起用にボーマンダは抵抗もままならずノックアウト! 一体差に巻き戻しました!』

 

 素早い動きを見せるじゃねぇの。

 しかも拳一発でトドメを刺すとは。

 その前のフリーズドライがかなり効いたと見受ける。

 

「ヒヒダルマは直接攻撃を得意とするポケモンだから。しかも素早い。今のボーマンダのように飛んでいようと翼の制御を奪ってしまえば、忽ち拳の餌食だ。その特徴がしっかり活かされたバトルだったな」

「つまり、フリーズドライは拳を当てるための布石だったと?」

「ああ、そういうことだ。分かってるじゃないか、ムーン」

 

 まあ、根本的にドラゴン・ひこうタイプという組み合わせだったというのもあるだろうがな。しかも疲弊していたのだから、こうなるのも無理はない。

 

『お疲れ様、ゆっくり休んで頂戴』

「………にしても、この女どもはどういう育て方をしてるんだ? アローラのトレーナーとは比べ物にならねぇじゃねぇか」

「ああ、オレたちも小手先で弄ばれて終わるだろうな」

 

 グズマもグラジオもイロハとユキノのバトルに圧倒的な実力の差を感じたようだな。

 俺もグズマとバトルして思ったが、一撃必殺級のZ技があるがために、困ったらZ技なんて感覚がバトルの駆け引きを損わせているように思う。それがトレーナーの実力の差に繋がるのだとしたら、鍛える時はZ技なしでとかZ技に頼らないバトルを叩き込む必要があるだろう。それだけでトレーナーもポケモンもバトルの駆け引きを生み出せるようになるはずだ。

 

『ヒヒダルマには私もこおりタイプの技を習得するのに付き合ったのを覚えているわ。その時から素早いポケモンだとは思っていたけれど、あなた何か隠してるわよね?』

『そうですね。ユキノ先輩はまだ知らないかもしれないですね。ヒヒダルマというポケモンがどういう特徴を持っているのか』

『特徴………?』

『はい、ユキノ先輩も知っての通り、このヒヒダルマは冠雪原に行った時に駅前にいたあの子です。あの時はまだヒヒダルマの特徴を理解してませんでしたが、ある日面白い発見をしたんですよ。それをこのバトルでユキノ先輩にも確かめて頂きます!』

『そう、なら楽しみにさせてもらうわ。マンムー、いくわよ!』

 

 やっぱりヒヒダルマには何かあるのか。

 ほのおタイプ専門の四天王が態々パーティーに入れてくるくらいだ。ただの数合わせでも弱点を補うわけないわな。しかもこおりタイプなんていわタイプのポケモンを出されれば、ほのおタイプの弱点を補うどころか二次被害に遭うだけだ。補完要素としてはあまり機能していない。

 

『ヒヒダルマ、れいとうパンチ!』

『受け止めて、いわなだれ!』

 

 マンムーにこおりタイプの技は効果抜群になるわけではないが、じめんタイプを持つが故に等倍ダメージになる。それにボーマンダを一発で沈めた拳だ。大ダメージとまではいかないにしろ受け止めたならば、それなりにダメージを負うはずなのだが…………。

 

「普通に耐えたか………」

「ありゃ、恐らく特性があついしぼうだな。中々見かけない第三の特性だと思うぞ」

 

 あついしぼう。

 なるほど、それでヒヒダルマの拳ですら受け止められたのか。それならヒヒダルマの頭上から岩を雪崩れ込ませる余裕もあるわな。

 

『………やりますね。それなら! ヒヒダルマ、フレアドライブ!』

 

 ッ!?

 はい………?

 こおりタイプがフレアドライブだと?!

 フレアドライブは炎を纏って突撃する技だぞ?

 身体大丈夫なのかよ。つか、覚えられるもんなのかよ…………。

 ヒヒダルマは指示通り、至近距離から炎を纏ってマンムーに突撃した。効果は抜群であるが、マンムーは普通に耐えている。

 やはり特性があついしぼうってことなのだろう。またユキノも珍しいのを捕まえて来たな。

 

『………こおりタイプがほのおタイプの技を使うなんて耳にしたことがないのだけれど、実際使われているのだから私の知らない知識をあなたが得ていたということね』

『リージョンフォームは原種の姿が覚える技も習得することがありますので』

『原種のヒヒダルマは確かほのおタイプだったわよね』

『はい、だからこおりタイプでもほのおタイプの技もいけちゃうんです! ヒヒダルマ、その岩全部マンムーに投げちゃって!』

 

 ほのおタイプの技を使えるこおりタイプのヒヒダルマを使うほのおタイプ専門の四天王…………もうわけ分かんねぇな。

 

「ククイ、お前の言っていたのはこのことか?」

「半分正解だな。あの子があのヒヒダルマを起用した意味はまだ出ていない」

 

 それでもまだイロハの意図は半分しかないってか。

 つか、ほのおタイプの技を使うことが半分理由ってことでいいのか。

 

『マンムー、アイアンヘッド!』

「確か、ヒヒダルマはイッシュ地方で確認されたポケモンですよね?」

「ああ」

「ムーン、何か知ってるのか?」

「いえ、ただ記憶のどこかにこれもヒヒダルマなのかっていうのがあった気がしまして」

 

 こいつもこの歳でいろんな知識を持ってるよな。まあ、そうでなければ研究なんてやってられないだろうが、素直に凄いと思うわ。

 視線をテレビ画面に戻すと、ヒヒダルマが雪崩れ込んだ岩をマンムーに投げつけて、それをマンムーがアイアンヘッドで打ち砕くという構図が出来上がっていた。

 何あのシュールな光景。色々とおかしすぎるだろ。

 ただまあ、地道にマンムーがヒヒダルマに押し寄せてるんだよなぁ。

 

『ヒヒダルマ、今だよ! 牙を掴んで!』

 

 遂にたどり着いたと思ったら、ヒヒダルマがマンムーの両牙を掴み押さえ込んだ。

 

『持ち上げて!』

 

 そしてそのまま頭上に持ち上げーーー。

 

『フレアドライブ!』

 

 ーーー自分ごと燃やした。

 ヒードランじゃないんだからお前もダメージ受けるでしょうに。

 

『ヒヒ!』

 

 何だろう、あのムカつく感じの笑みは。

 イロハのあざとさを受け継いでいないか? いや、でも可愛くねぇしな。やっぱりあざとかわいいというのは高度な技術なんだな。

 

『マンムー、戦闘不能!』

 

 黒く焦げたマンムーはそのまま意識を手放していた。

 え、普通にヒヒダルマさん強くないですかね。ボーマンダもマンムーも手負いだったとはいえ、二体連続とか………。

 もしや今のイロハのパーティーのメイン火力だったりするのか?

 メガシンカはデンリュウしかいなかったし、ほのおタイプじゃないから四天王としては外した可能性だって充分あり得るぞ。

 

『マンムー、戦闘不能ぉぉぉ!! ヒヒダルマ、連続で撃破しました! 強い、強いぞヒヒダルマ!』

『見事なパワーね。あのマンムーを持ち上げるだなんて』

 

 いや、ほんと。

 それに尽きるわ。

 マンムー持ち上げたところでまたやりやがったなって思ったもん。マンムーといい、ギャロップといい、ちょっとかわいそうになってきたわ。

 

『マンムー、お疲れ様。ここまで強かったとは予想してなかったわ。こおりタイプを扱う者として興味がそそられるわね』

『ユキノ先輩にそう言ってもらえるのなら、この子の強さもお墨付きですね。でも、まだまだここからですよ!』

『そうね、ここまでのポケモンならば、彼女を出しても問題ないわね。いくわよ、クレセリア!』

 

 ッ!?

 クレセリア、だと………?

 どういうことだ? クレセリアは破れた世界でダークライと共に俺がボールに収めて、今ここにいるんだぞ?

 あれが同一個体ではないとするのなら話は別だが、ユキノにとっては『あの』クレセリアが特別なはず。だから別の個体を仲間にしているとは考えにくいが…………。

 

『で、伝説のポケモンを仲間にしていたのは四天王イロハだけではなかったァァァ! 三冠王ユキノもクレセリアを引っ提げてこのエキシビションマッチに立っています! これはもうエキシビションマッチの域を越えたバトルです!! 皆さん! どうか今この瞬間を目に焼き付けて行って下さい!!』

『ヒヒダルマ、れいとうパンチ!』

『クレセリア、どくどくよ!』

 

 ヒヒダルマが氷を纏った拳を叩き込むと同時に、顔が青ざめていく。

 

「………どうしたんですか? そんなおかしなものを見るような顔をして」

「え、あ、いや………その………」

 

 そういえば、ムーンたちにはクレセリアも連れて来ていることは話してないんだったな。となるとどう説明したものか。

 

「確かにクレセリアはシンオウ地方の伝説のポケモンですけど、ダークライと親交のあるヒキガヤさんが左程驚くようなことではないと思いますけど?」

「それはそうなんだが………ユキノのクレセリアもダークライと同じように力を失って消えていったんだ。だから、またこうして仲間にしていたのに驚いたというか………」

 

 一応これは事実だ。

 事実だから後ろめたいことは何もない。

 

『サイコキネシス!』

「それはつまり、あの人も元々クレセリアを仲間にしていたと?」

「ああ、俺たち程じゃないがそれなりの付き合いではあるみたいだったぞ」

「ほんと、ヒキガヤさんも含めて周りの人たちは特殊すぎません?」

「俺とユキノには色々と複雑な関係が昔から出来上がってたらしいからな。その延長線上にダークライとクレセリアの関係があるみたいで、そこは特殊な事例だと思う」

「何ですか、それ。惚気てます?」

「惚気てねぇよ。ただの事実だ」

 

 クレセリアが青ざめたヒヒダルマを超念力で地面に叩きつけるのを横目、ムーンに反論した。

 ほんと女子はそういう話が好きだね。恋だの愛だの、当事者ともなれば言葉だけで語れるようなもんじゃないんだぞ。その感情ってのは。

 

『フリーズドライ!』

 

 ヒヒダルマは体勢を起こしながら、腕を伸ばしてクレセリアを体内が急速冷却していく。

 だが、その身体は毒に蝕まれているようで、徐々に体力をすり減らしているようだ。

 

『みらいよち!』

 

 フリーズドライ程度ではビクともしないクレセリア。

 代わりに未来へ攻撃を放った。

 

『ダッマァァァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 突如、咆哮を上げたヒヒダルマが白い光に包まれた。あれは進化の光?

 

「え? ヒヒダルマって進化しましたっけ?」

「いや、あれは進化じゃないーー」

『ようやく来ましたね』

 

 白い光が弾けると現れたのは雪だるまだった。

 いや、どゆこと?

 

「ーーフォルムチェンジだ」

 

 フォルム、チェンジ………。

 ヒヒダルマってフォルムチェンジするのかよ。

 …………ん? なんかそんな話聞いたような………。

 

「あ! 思い出しました! 原種のヒヒダルマにはダルマモードという特性があるんですよね!」

「ああ。そしてそれはガラルの姿にもある特性だ」

 

 つまり、あれが特性ダルマモードが発動した姿ってことか。

 まんま雪だるまじゃねぇか!

 

『ヒヒダルマが、フォルムチェンジ………』

『ヒヒダルマ、フレアドライブ!』

 

 え、あの姿で一瞬で消えたぞ。

 まさかあの姿の方が素早かったりするのか………?

 

「ガラルの姿ではダルマモードの時、こおり・ほのおタイプとなる。しかも攻撃力も素早さも上昇した起死回生を図る姿なんだ」

『クレセリア?!』

『クレヒ………』

 

 あのクレセリアでも吹っ飛ばされる程の威力ってか。

 しかもフォルムチェンジによりほのおタイプまで追加されて、フレアドライブがタイプ一致の技になる。

 そうか、イロハがこおりタイプのヒヒダルマをパーティーに組み込んで来たのは、フォルムチェンジによりほのおタイプとなるからか。一応これでタイプの一貫性はあることになり、挑戦者にとってはほのおタイプのバリエーションがあって攻略がし辛くなるな。まあ、まずはイロハの前に立てるかが問題だし、立てたとしてもヒヒダルマ、ヒードラン、ボルケニオンが待ち受けているのだから、攻略自体が無理難題だとは思うが。

 

『カルネさん、ヒヒダルマのあの姿は?』

『ダルマモードという特性からなるフォルムチェンジした姿です。タイプはこおり・ほのおタイプへと変化するんですが………なるほど、そういうことだったのね』

『もう一度、サイコキネシスよ!』

『クーレ!』

 

 それでもまだまだ倒されないクレセリアはさすがと言えよう。今思うとあのクレセリアを倒したリザードンや倒せるであろうゲッコウガが異常なだけだ。本来はこれが普通なんだよ。

 

『ヒヒダルマ!? ………そろそろ限界が近いんだね。なら、にほんばれ!』

 

 ここで日差しを強くしてきたか。

 次のフレアドライブで一気に決めようって魂胆か?

 

『そう。なら、その限界に連れてってあげるわ。クレセリア、サイコキネシス!』

『躱して、フレアドライブ!』

 

 燃える雪だるまは超念力を躱し、クレセリアの正面から炎を纏って突っ込んでいく。

 

『ふふっ、飛び込んで来てくれてありがとう』

 

 だが、今度はユキノが不敵な笑みを浮かべた。

 イロハはまだドヤ顔感があるが、ユキノが不敵な笑みを浮かべると背中がゾクゾクしてくるのは………気にしない方がいいんだろうな。

 ヒヒダルマは背後から貫かれた。

 みらいよち。

 さっき一度だけ仕掛けてたのが、丁度発動したのか。あいつ、狙いやがったな。ユキノの不敵な笑みはやはり恐ろしい。

 

『ヒヒダルマ、戦闘不能!』

『ボーマンダ、マンムーと撃破してきたヒヒダルマ! ここで戦闘不能ぉぉぉ! いやしかし、強かった!! こおりタイプを起用という点にも驚かされましたが、フォルムチェンジによりほのおタイプを得るヒヒダルマとは誰が予想出来たでしょうか!! しかも相手は伝説のポケモン、クレセリア! 残りは二対三と四天王イロハが押されていますが、まだまだ勝負の行方は分かりません!!』

 

 ここに予想出来た人がいるんだよなぁ………。

 多分、あの会議から色々進展があったんだろうな。それで新しい情報として持っていたんだと思う。

 強かったというのも認めるけど、毒状態になりながらフレアドライブを連発して反動ダメージを蓄積させて、尚且つ攻撃を受けたりしてもこれだけバトルを二転三転させていたヒヒダルマの耐久力こそ、異常なんじゃね?

 

「ヒヒダルマって耐久力ある方なんすか?」

「いや? 耐久力はそこまでなんだよなぁ………。だから、ハチマンが言いたいことも分かるぞ。あれはどう考えても異常だ」

 

 あ、やっぱり?

 ユキノはオーダイル、ユイはルカリオと来て、ついにイロハがヒヒダルマという異常枠を手にしてしまったのか。

 俺? 俺のところには三巨頭という異常枠がいるからな。今そこにサーナイトが足を踏み込みかけているのが何とも解せん。緊急事態だったからしょうがないんだけど、まだまだ守られる側にいて欲しかったなぁ。

 さてさて、これでイロハがまた一歩押されている状況になったわけだが、どうにもまだお互いにメガシンカを使ってないのが怪しいんだよな。忘れてるわけじゃないだろうし。かと言ってイロハの方はメガシンカ出来るのがデンリュウしかいないし、最後がボルケニオンすると次はデンリュウが出て来るのだろうか………。

 ユキノもほのおタイプ専門相手にユキノオーはないだろうし、メガシンカ出来るボーマンダも既に倒されている。

 ほんと、まだまだ先が読めねぇバトルだわ。

 

『お疲れ様、ヒヒダルマ。ダルマモード状態の時に伝説のポケモン相手にするのは厳しかったかもね。でもよく頑張ったよ』

『クレセリア、あなたも一旦戻って』

「ククイ博士、ダルマモードってどういう条件で発動するんですか?」

「起死回生を図るとか言ってたくらいだし、もうかとかげきりゅうみたいな感じか?」

「ああ、ダルマモードは体力が半分以上減ったらだな。だからもうかやげきりゅうよりも発動タイミングは早い」

 

 となると、やはり毒と反動ダメージが痛かったか。

 それがなければもう少しやれたかもしれないが、現時点でフレアドライブが最高威力の技なのかもしれないな。それでこれだけのバトルを見せたのだからヒヒダルマの伸び代は恐ろしそうだ。

 

『思いの外、クレセリアがダメージを与えられてしまったわ』

『それでも倒しきれなかったんですから、充分強いですよ。というか硬すぎ』

 

 イロハはクレセリアの耐久力に苦言を呈しているが、ヒヒダルマも何ならヒードランも大概だと思うぞ。

 

『リザードンが異常なだけだったのよね』

『あれは最早伝説のポケモンですから、仕方ないと言えば仕方ありませんよ』

 

 リザードンはね。

 特殊な事例だけど、レシラムやホウオウになったりしたしね。あれは半伝説のポケモンと言ってもいいと思う。

 

『それじゃ、そろそろあなたも使うのでしょう?』

『へぇ、ということはユキノ先輩もですか』

『ええ、あなたにはまだ見せていない姿を見せてあげるわ』

『こっちこそ、ユキノ先輩には見せていない姿をお見せしますよ!』

『ヤドラン! ハイドロポンプ!』

『バクーダ! ふんか!』

 

 イロハは五体目、ユキノは六体目のポケモンとして、それぞれバクーダとヤドランを出してきた。

 タイプ相性ではヤドランが有利だが、現状況下ではそうとも限らない。

 恐らくイロハはそこも見越してのにほんばれだったのだろう。最早イロハのパーティーは晴れパだな。ほのおタイプを活かすには手っ取り早い戦術だと思う。

 

『全然効いてないわね』

『うちのバクーダは特性がハードロックですからね。しかも日差しが強い状態ではいくら効果抜群の水技でもバクーダには思った程効きませんよ!』

 

 背中から炎の柱を噴き上げ、柱から溶岩を飛ばしてヤドランを襲った。ヤドランはヤドランで水砲撃をバクーダのがんめんに浴びせていくも、効果絶大であるはずなのにそこまでダメージが入っていなかった。

 その理由が日差しが強い状態に加えて特性ハードロックによる技の威力の軽減と言うのだから、よく考えられたパーティーだと言えよう。

 

『よく考えられているわ。さっきのにほんばれはヒヒダルマだけへの恩恵じゃないのは分かっていたけれど、特性と併用することで弱点を補っていたとは』

『タイプに統一性がある分、弱点は突かれやすいですから。さあ、いきますよ! バクーダ、メガシンカ!』

『そうね、挨拶はこれくらいにして。ヤドラン、メガシンカ!』

 

 とうとう両者共にメガシンカを使って来たか。

 メガシンカしたところでタイプ相性は変わらないが、能力が上昇するため、一撃の重さがより鮮明になってくるだろう。

 

『おおっと、ここで両者メガシンカを使って来たぁぁぁっ!! しかもどちらもこれまで見せて来なかった新しいメガシンカポケモンです! メガバクーダにメガヤドラン! ここからどう展開が変わっていくのでしょうかっ!!』

「これも、メガシンカなのか………?」

「ああ。俺もバクーダとヤドランのメガシンカした姿は初めて見るが、トレーナーが持つキーストーンとポケモンが持つそれぞれのメガストーンが共鳴していた。だから白い光に包まれて姿も変わっている」

 

 グズマはカプ・コケコに見せたサーナイトのメガシンカが初メガシンカだったため、そもそも他のポケモンがメガシンカしたのに驚いているようだ。多分、こういうのを見越してククイ博士はグズマを誘ったのだろう。

 

『バクーダ、もう一度ふんか!』

『ヤドラン、殻に籠ってサイコキネシス!』

 

 それにしてもバクーダの背中がミニ火山に変化ってのはまだ予想の範疇だが、ヤドランが尻尾のシェルダー(らしいが全くそうは見えない貝殻擬き)に全身呑み込まれることになるとは…………。

 あれ、どうやって立ってるんだ?

 やっぱりサイコパワーか? それとも貝殻が地面に突き刺さってる?

 どちらにしろ、これは予想外だったわ。

 しかもどう戦うのかと思えば、殻に籠っただけで一切動かずに炎の柱から飛び散る溶岩を超念力で受け止めていっている。

 

『お返しよ!』

 

 ヤドランはサイコパワーで受け止めていた溶岩を次々とバクーダに返していった。

 まるでマフォクシーのようだ。

 ユキノも意図して指示したのだろう。

 

『あなをほるで躱して!』

 

 バクーダは一旦地面に潜ることで溶岩群を回避した。そして、このまま次の攻撃に繋げていくのか。

 

『ヤドラン、地面にボディプレス!』

 

 と、ここでユキノも動いた。

 ヤドランが巨大化した貝殻シェルダーボディを地面に激しく打ちつけたのだ。その衝撃で地面は割れ、地中を這っていたバクーダが掘り起こされてしまい、宙に舞っている。

 

『ハイドロポンプ!』

 

 そこに水砲撃で追い討ちをかけた。宙を舞っている状態では躱すこともままならないのを見越しての戦術か。

 

『こうなったら、ふんかの勢いで突っ込んで!』

 

 それをイロハも悟ったのか無理に躱すことをせず、背中のミニ火山を噴火させて、その勢いで水砲撃を受けながらヤドラン目掛けて一直線に落ちていく。

 

『じわれ!』

 

 そして、地割れを起こしてヤドランを埋め込んだ。

 一撃必殺。

 そもそも習得するだけでも超難易度の高い技。故に習得しているだけでそのポケモンの力量もそれなりに図ることが出来る。結果としてバクーダはヤドランを上回っていた。だから一撃必殺で倒せたのである。

 

『ヤドラン、戦闘不能!』

『一撃必殺が決まったァァァ!! メガシンカ対決を勝利したのはバクーダぁぁぁっ!! タイプ相性の不利を一撃必殺のじわれで覆し、勝負を振り出しに戻しました!』

「一撃必殺、だと………?」

 

 あーあ、完全に言葉を失ってんな。

 まあ、これで上には上がいることを実感出来ただろ。

 

「あの、ヒキガヤさんは一撃必殺使えるポケモンっているんですか?」

「ああ、いるぞ。つってもリザードンがじわれを使えるだけだが」

「ということは彼女のポケモンがじわれを使えるのはヒキガヤさんが教えたから………?」

「そういうわけでもないぞ。あいつのポケモンは自力で覚えていたからな。使い方のコツとかはリザードンがフライゴンに教えたかもしれんが、その程度じゃなかったかな」

「マジかよ………」

 

 最早涙目のグズマ君。

 また頭を打ちつけないかが心配だ。

 あれの方が俺には衝撃的だったからな。また見たいとは全く思わん。

 

『完成していたのね』

『はい、バクーダは今後四天王としての火力担当になりますから、フライゴンにきっちり叩き込んでもらいました』

『そう、これで何体目なのかしら。一撃必殺持ちは』

『フライゴン、ラプラスに続いて三体目じゃないですか? キングドラとかボスゴドラも覚えられたら良かったんですけどね……。こればっかりはしょうがないです。そういうユキノ先輩もユキノオーやマンムーが使えるじゃないですか』

『確かにユキノオーは使えるけれど、マンムーやクマシュンはまだまだ実用レベルに至っていないわ。そういう意味ではあなたに既に追い越されているのかもね』

『またまたご謙遜を。一撃必殺が使えたところでユキノ先輩のポケモンたちにはどれだけ通るのやらですよ。ヤドランはまだ捕まえてそこまで経ってないから狙えただけです』

 

 へぇ、ヤドランってまだ捕まえてそこまで経ってないのか。それでエキシビションでメガシンカを使って来たってことは、少なからずプラターヌ博士が関わってるんだろうな。

 

『そういうことにしておきましょう。まずはバクーダに退場してもらわないとね。クレセリア、もう一度お願い!』

 

 日差しも弱まり、水技も普通に使えるようになったが、出て来たのはクレセリア。

 やっぱり同一個体にしか思えないんだよなぁ。

 けど、そうなると同じ時間軸に同一個体が複数存在することになるから、それは矛盾が生じることになる。

 

『どくどく!』

『だいもんじ!』

 

 俺が実はタイムスリップしてましたって話なら辻褄が合わないこともないが、どうやらそうでも無さそうだし。それか破れた世界が時間加速していて………いや、ないな。それよりも可能性があるとすれば、あのユキノが未来から来たユキノだったらだな。そうすれば、俺がこの後ユキノに再会してクレセリアを託せば辻褄は合う。そしてそれを可能とするのがセレビィなんだが………どうなんだろうな。さっぱり分かんねぇ。

 

『みらいよち!』

『もう一度、だいもんじ!』

 

 そんな考えを張り巡らせていると、顔色を悪くした燃える雪だるまが大の字の炎でクレセリアを襲った。

 んで、ちょっとした爆発が起きた。

 えっ、だいもんじで爆発ってどゆこと?

 

「………そうか。メガバクーダの特性はちからづくなのか。ふんか、あなをほる、じわれに追加効果はないが、だいもんじには火傷にする効果がある。その効果を上乗せすることで小規模爆発が起きるってとこだな」

 

 へぇ、そういう感じなのか。

 メガバクーダとか、ほんとお初なんで全然知らねぇや。精々資料で姿を確認したくらいだな。周りにいなかったら情報が偏るのも致し方ないことだろう。

 

『………ごめんなさい、クレセリア。あまり使わせたくはないけれど………お願い』

 

 ん?

 ユキノ………?

 一瞬だが、険しい顔をしたユキノが次の技を指示した。

 

『ーーーみかづきのまい!』

 

 みかづきのまい。

 自分の力を出し切って、後に続くポケモンを全回復させる技。技を使ったクレセリアは戦闘不能になってしまうため、ユキノはあまり使いたがらない技だった。

 そして、さっきの表情はいざ使うって時の覚悟を決めたって顔だった。そう思わせるだけの絆がユキノとクレセリアにはある。

 ただ、それが他の個体ならばどうなのかは分からない。だが、俺の勘は『同じ』だと感じている。

 一体、これから何が起きるって言うんだよ。そろそろゆっくりさせてくれてもいいだろうに。

 

『オーダイル!』

『オダァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 ヒードランとのバトルで負ったダメージも全回復させたオーダイルが雄叫びを上げた。

 クレセリアの影響が先程とは気迫が違って見える。

 

『アクアブレイク!』

 

 そして、地面を蹴り上げたオーダイルは一瞬でバクーダの正面に移動し、横一閃に斬り込んだ。

 実はげきりゅうが発動してますと言われても納得してしまうような威力で、バクーダが観客席とを隔てる壁のヒードランが作ったクレーターの横に新しくクレーターを作った。

 

「………は?」

 

 堪らずグズマが息を吐く。

 うん、分かるぞ。その気持ち。

 じわれを使うようなメガシンカポケモンをこうもあっさりと戦闘不能に追い込むオーダイルとか、意味分からんよな。

 

『バクーダ、戦闘不能!』

 

 メガシンカの解けたバクーダは意識を失っていた。

 確かみかづきのまいにパワーアップの効果はなかったはずなんだけどなぁ………。

 やっぱり異常枠ってぶっ壊れてんなー。

 

『ババババクーダ、戦闘不能ぉぉぉ!! い、今一瞬何が起きたのでしょう!? オーダイルが一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間にはバクーダが壁に突き刺さっているではありませんか! ヒードランを相手にしていたオーダイルとは打って変わって、パワーも気迫も段違いになっています!』

『戻って、バクーダ。お疲れ様』

 

 こうなるとコマチにも異常枠が既にいそうで怖い。

 カビゴンとか怪しいが、それ程脅威には感じなかったしな。ガラル地方で新しく仲間にしたポケモンが異常枠になっていないことを願うしかない。コマチまで異常枠を作る必要はないんだぞ。

 

『そういうことでしたか。絶対オーダイルを大トリにしてくると思っていたのに中盤で出して来たから、何か策でもあるのかと思っていましたが、削るだけ削って残り体力の少なくなったクレセリアにオーダイルを全回復させて最後に挑む。こんな単純で簡単なことなのに全く思いつきませんでしたよ』

『私としては、あれは予定外の運用だったのよ。二体目のポケモンでここまで狂わされたのは初めてだわ。こうせざるを得なくなるまで私を追い込んだのだから、素直に誇っていいわよ』

『そうですね。私もこれで勝てば名実共に四天王として堂々と立てるってもんですよ』

 

 果たして、イロハはどこを目指しているのだろうか。

 四天王の他の御三方の思惑としては最強の四天王に仕立て上げることってのがある。ただ、もうこのバトルでその座は決まったようなものだ。終わった後に実は四天王の各タイプのジムリーダー試験を合格してるんですー。何なら四天王としての実力も太鼓判もらってますーって公表したら確定レベル。

 そうなると懸念材料は各タイプのパーティーが組めるかどうかだな。ほのおタイプはこれでいいだろう。だが、他のみず、はがね、ドラゴンはポケモンを揃えないと多分足りない。

 まあ、実際どうしようと思っているのかはイロハとその周りしか知らないだろう。今の俺は口を挟むべき立場じゃない。大人しく見守っていよう。

 

『では』

『ええ』

『最後のバトルと行きましょう! ボルケニオン!』

 

 お互い最後のポケモン、ラストバトルの火蓋が上がった。

 

『な、何でしょうか、あのポケモンは! 見たことがないポケモンです! 四天王イロハ、まだ隠し球を用意していました!!』

『あれはボルケニオンという幻とも称される伝説のポケモンです。タイプはみずとほのお。彼女の切り札とも呼べるポケモンです』

『で、伝説のポケモン………ということは二体目』

『ええ、どうやら彼女は伝説のポケモンを二体も引っ提げて四天王に成り上がったみたいですよ』

『み、皆さん聞きましたでしょうか! 彼女は伝説のポケモンを二体も連れた歴代最強の四天王かもしれません!』

 

 まあ、伝説のポケモンを連れた四天王自体がいるかどうかだからな。それが二体もいれば歴代最強と持て囃されるのも無理はない。

 イロハもこれからが大変だな。

 

『オーダイル、じしん!』

『ヒートスタンプでジャンプ!』

 

 出だしが早かったのはオーダイル。

 拳を地面に叩きつけて激しく揺らし、ボルケニオンのバランスを崩しにかかった。

 だが、何とか揺れながらジャンプ。

 

『えぇ?!』

 

 そしてその直後、ボルケニオンが撃ち落とされてしまった。

 今のは………みらいよちか?

 

『今よ! アクアブレイク!』

 

 不意打ちを食らったボルケニオンの前にオーダイルが現れ、右腕で水刃を振り下ろした。

 

『………効果がない?』

『かみなりのキバ!』

 

 斬撃の衝撃はあったものの、ダメージとしては入っていない。

 むしろ回復しているまである。

 

『オダァ!?』

 

 隙が出来てしまったオーダイルに、ボルケニオンが電気を纏った牙で噛み付く。

 

『実はボルケニオンの特性ってちょすいなんですよねー。だから回復しちゃいましたっ!』

 

 てへぺろ! って感じのあざとさ全開のいろはす。

 うわぁ、もうこれ挑戦者泣かせのパーティーだぞ。

 ほのおタイプ専門と聞けば、対策として真っ先に連れて行くのがみずタイプのポケモン。なのに、いざバトルしてみれば、水をマグマで打ち消されて黒曜石に変えられたり、ハードロックでダメージを軽減されたり、ちょすいでそもそも効かなかったり。あと、フリーズドライで体温を急激に下げられたりもあるな。

 それを抜きにしてもやろうと思えば、ずっと日差しが強い状態にされていそうだし、そうなるとソーラービームがバンバン飛んでくることになるだろう。

 うわ………、想像しただけで嫌になるわ、このパーティー。

 

『はあ………、ハチマンが疲れる理由が何となく分かった気がするわ』

 

 お、ユキノさんや。ようやく分かってくれたか。

 物覚えはいいのよ。要領もいいし、初心者三人で括ったあの中では一番楽だったと思う。ほら、ユイとか一から教える必要あったじゃん? ただ、そういうのがない分、成長は早いわ、クセの凄いポケモンを仲間にしてくるわ、四天王に直談判に行くわで気苦労が絶えなかった。

 ボルケニオンを仲間にして来た時には、お前もかと深い溜息が出たものだ。

 そして、今回はそれプラスもう一体伝説のポケモン連れて来たり、リージョンフォームのフォルムチェンジでほのおタイプになるこおりタイプを連れて来てるからな。頭を抱えたくもなるわ。

 

『でもそうと分かれば、特性込みでバトルを組み立てるまでよ! オーダイル、じしん!』

 

 本当にユキノには頑張って欲しい。

 この頭のおかしい子にお灸を据えてやってくれ。

 

『オダ……!?』

 

 と思っている側からオーダイルが痺れていた。

 いや、運良すぎだろ。何麻痺させちゃってんのよ。

 

『ボルケニオン、スチームバースト!』

 

 ボルケニオンは水蒸気を発生させて、白いモヤでオーダイルの視界を埋め尽くしていく。

 

『オーダイル、アクアブレイクで吹き飛ばしなさい!』

『そう来ると思いましたよ! ボルケニオン!』

『あいよ!』

 

 ボルケニオンは見越していたかのように、モヤを払うオーダイルの水刃を自ら受けに行った。

 

「………は? ポケモンが喋った?」

「ん? ああ、ボルケニオンは会話出来るぞ」

「マジかよ………」

 

 ここにもさらにダメージを負った男が。

 何というか、この男も昨日今日で不憫な目に遭ってるよな。遭わせている俺が言うのもなんだけど。

 

『捕まえましたよ! ソーラービーム!』

 

 そして、背中のアームでオーダイルの両腕ごと身体を挟み込んで捕らえた。

 あっれー?

 これヤバいんじゃないの?

 与えたダメージが回復されていってるぞ。代わりにオーダイルは翻弄されてダメージを負うばかりか、捕らえられてるし。口のエネルギーが半チャージからフルチャージにされるまでに何とか抜け出さないと、大ダメージになるぞ。

 

『くっ、いわなだれ!』

 

 動けないながらも使える技ともなると、消去法でいわなだれとかになるだろうな。ちょすいを持っているというのも痛い。口から放つ系の技は水系ばかりだし、使おうものなら回復されてしまうだけである。

 ソーラービームの発射と共にボルケニオンの頭上から岩々が雪崩込んでいく。今更攻撃をやめられなかったであろうボルケニオンは諸に食らい、押しつぶされていく。

 

『じしん!』

 

 対するオーダイルは太陽光線で飛ばされ、地面に叩きつけられる勢いを利用して地面を激しく揺らした。こういうところはさすがと言えよう。

 

『こうなったら……! スチームバースト!』

 

 岩に埋もれたボルケニオンは水蒸気を爆発させて岩々を弾き飛ばしていく。

 

『オダッ……?!」

 

 白いモヤに再び埋め尽くされる頃には、ボルケニオンの姿が痺れているオーダイルの前にあった。

 

『かみなりのキバ!』

 

 さらに痺れさせるつもりなのか、電気を纏った牙でオーダイル腕に噛み付いた。

 電気はオーダイルの身体に流れ込み、さらなる雄叫びを上げている。

 

『オダァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 段々とその雄叫びも雄叫びだけではなくなって来た。

 オーダイルの身体が青いオーラで包まれ出したのだ。

 げきりゅう。

 オーダイルが御しれずに暴走させた力。

 特性が発動したということは、バトルの展開は一転することだろう。

 

『げきりん!』

 

 最早特性の効果なんて気にしていない。

 青いオーラに赤色も混じり竜の気へと変わると、オーダイルはボルケニオンをイロハの後方の壁へと打ち込んだ。

 

『ヤッバ、……ボルケニオン、しばらくチャージしながら耐えて!』

『………チッ、来やがったか』

 

 ここまでダメージを与えられては水刃を受けて回復して来たボルケニオンだが、それももう期待出来ないだろう。

 げきりん状態に入ったということは他の技の使用はしばらくない。そして、げきりんこそがオーダイルの最高パフォーマンスであり、映像のように容赦なく打ち込んで来る。

 

「さっきまで押されていたオーダイルが一気に巻き返してる………」

「おいおい、本当に伝説のポケモンなのか? いくらヒードランを倒したオーダイルだからって、ちとやられすぎだろ」

 

 まあ、確かにユキノのオーダイルを知らなければそう見えなくもないわな。

 

「あれはボルケニオンが弱いわけじゃない。げきりゅうが発動したオーダイルのげきりんが異常なだけだ」

「はっ? どういうことだ?」

「今のオーダイルは伝説のポケモンやメガシンカをも凌駕する程なんだよ」

「「「ッ!?」」」

 

 事実を突きつけると三人の目が見開いた。

 そして恐る恐る画面に視線を戻すと、コテンパンにされながらもどうにか背中のアームでオーダイルを捕らえたボルケニオンの姿があった。それでもまだオーダイルのげきりん状態は収まらない。

 

『いっけぇ、ソーラービーム!』

『トドメよ、オーダイル!』

 

 殴られ続けながらもチャージしていた太陽光を一気に解き放つボルケニオンと防御無視で突っ込んでいくオーダイル。

 両者の攻撃がぶつかり激しい爆発が起きた。

 目の前の光景に言葉を失う観客と、一緒に観ている三人。

 程なくして煙が収まり始め、審判も動いた。

 

『オーダイル、ボルケニオン、共に戦闘不能! よって、このバトルは引き分けとします!』

 

 恐る恐る状態を確認しに行った審判が、声高々にそう判定を下した。

 そして、その判定を裏付けるように煙が晴れて倒れた二体の姿が醸された。意識を失っており、ピクリとも動かない。

 

『ひ、引き分けぇぇぇーっ!! 最後まで勝負の行方が分からなかったこのバトル! 四天王イロハの初公式戦は引き分けで終わりました!! 何という高度なバトル! 何という高度な駆け引き! いずれ彼女に挑戦する者は今、言葉も出ないことでしょう!! それくらい圧巻のバトルでした!!』

 

 圧巻も圧巻。超圧巻だわ。

 イロハがついにユキノと引き分けか………。

 あのイロハがなー………。

 感慨深いというか何というか。俺を超える日はもうそこまで来ているのかもしれないのか…………。

 

『お疲れ様、ボルケニオン。ユキノ先輩に引き分けは上等な結果だよ。ありがとね』

『オーダイル、お疲れ様。実質技を一つ使えなくされながらもよくやったわ。今はゆっくり休みなさい』

 

 だが、もう俺は公式戦でイロハと戦うことが出来ないだろうからな。死人がフィールドに立っていたんじゃ、逆にそっちが問題になるし。イロハのこれからを同じフィールドで見届けられないのがちょっと寂しい………かな。

 そういう意味では、ユキノが羨ましい………。




〜使用ポケモン〜(控え含めてのは次の行間にて)

ユキノ
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム、アクアブレイク、じしん、いわなだれ

・ギャロップ ♀
 特性:もらいび
 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ、ドリルライナー、スピードスター、まもる、こうそくいどう、バトンタッチ

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル、ぼうふう、きりばらい

・マンムー(ウリムー→イノムー→マンムー) ♂
 特性:あついしぼう
 覚えてる技:こおりのつぶて、ゆきなだれ、いわなだれ、アイアンヘッド

・クレセリア
 特性:ふゆう
 使った技:どくどく、サイコキネシス、みらいよち、みかづきのまい

・ヤドラン
 持ち物:ヤドランナイト
 覚えてる技:ハイドロポンプ、サイコキネシス、ボディプレス、からにこもる



イロハ
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム、まもる、マジカルシャイン、ねっぷう

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 持ち物:熱い岩
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん、アイアンヘッド、アイアンテール、メタルクロー、がんせきふうじ、ほのおのキバ、にほんばれ

・ボルケニオン
 特性:ちょすい
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート、ヒートスタンプ、かみなりのキバ、ソーラービーム

・ヒヒダルマ(ガラルの姿) ♂
 特性:ダルマモード
 覚えてる技:フリーズドライ、れいとうパンチ、フレアドライブ、にほんばれ

・バクーダ
 持ち物:バクーダナイト
 特性:ハードロック←→ちからづく
 覚えてる技:ふんか、あなをほる、じわれ、だいもんじ

・ヒードラン
 特性:もらいび
 覚えてる技:マグマストーム、ストーンエッジ、ヘビィボンバー、てっぺき
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