「データ更新、完了ロト。伝説のポケモンのデータが一気に三体もゲット出来るなんて、ホクホクロト〜」
結局、引き分けに終わったイロハの初公式戦の動画も終わり。
出来上がったのは魂が抜けた男と、言葉を失った少年と、「私気になります!」と言わんばかりのキラキラさせた目をこちらに向けて来る少女、そして全十二体ーー内三体が伝説のポケモンーーのデータを更新出来て大満足気なポケモン図鑑である。
ほんと一人だけブレないね。研究者魂をこんなところで発揮するなよ。
「ヒキガヤさんがあの二人とバトルして勝てるのかどうかわたし気になります!」
この子、言っちゃったよ。
あっさり言っちゃったよ。
「どうだろうなー。リザードン、ゲッコウガ、ジュカインにサーナイトとダークライに頑張ってもらうとして、あと一体は………ウツロイドか? まあ、こんなメンバーなら勝てるんじゃねぇの?」
現状、色々と問題が山積しているが、全て取っ払って全員が再会出来たら、これが最強メンバーになりそうな気がする。
ユキノはこのパーティーでやれると思うが、問題はイロハの方だな。一見有利そうなゲッコウガと弱点しかいないジュカインが集中的に狙われそうである。リザードンが全員にじわれを振り撒いていけば完勝もあり得るが、まず無理だろう。
ただ、この三体はバクーダのじわれを受け付けない。従って一撃で倒されることはない。
まあ、対ユキノと対俺では使用技も変えて来るだろうし、何とも言えないな。
「あまり彼女のことを言えないメンバーですね」
「それな。ほんとそれ。何ならヒードランやボルケニオン以上にヤバい奴らばっかだと思うわ」
「俺からすれば、ハチマンが一番ヤバい奴だと思うがな」
「確かに………」
いや、うん、言いたいことは分かるけどよ。
あれは特殊な事例だから。公式戦で出来るわけないでしょうが。つか、やりたくもないわ。
「………正直、彼女たちの実力が恐ろしいと思った。どちらも伝説のポケモンを仲間にする程の実力者だ。凄いのは当たり前だし、高度なバトルを繰り広げるのも彼女たちなら普通のことだと思う。だが、それでもやはり昨日のハチマンの方が上のように感じられたんだ。なあ、何か強くなる秘訣とかってあるのか?」
「強くなる秘訣?」
「それかポケモンを強く育てる方法でもいい。教えてくれ」
そう言って頭を下げてくるグラジオには悪いんだが………。
「いや、特にこれをやったからってのは何もないんだよなぁ………。普通にポケモンの知識をつけて、ポケモンたちに技を覚えさせて、バトルしてってしかしてないし。強いて言えば、強くならないと死ぬ、みたいな状況に追い込まれたくらいか? それもリザードンと………サーナイトもか。それだけだし、何ならリザードンはあいつ自体が特殊だし………ゲッコウガも特殊か。うん、そもそも一般論に当て嵌まらないのばっかだから、同じことやっても意味ねぇな」
何故強くなったのかなんて、俺が聞きたいくらいだ。
リザードンはまあ、ポテンシャルがあったにせよ、ロケット団の実験によるところが大きいし、ゲッコウガは論外。自分で限界を突破したような奴だ。俺の干渉はほとんどない。ジュカインは………出会ったことに刺激を与えすぎたのかもしれないが、使える技の範囲を広げようとしているのはジュカイン自身だし、俺は手伝うだけ。ヘルガーはダークオーラの残骸みたいなものだし、ボスゴドラは群れのボスだっただけ。ここらはまだまともな方だな。ダークライとウツロイドは元々ヤバい奴だし、サーナイトがなー………。サーナイトだけがああはならないようにして来たのに、結局足を踏み込むことになっちまったからなー。それも俺が教えたというよりはダークライとクレセリアが叩き込んだって方が正しいし。
結論、俺いるいないに関わらずポケモンたちで強くなっていますわ。
「チッ」
「あ、おい、グズマ!」
とうとう我慢を抑えきれなくなったグズマが舌打ちをしながら家から出て行ってしまった。
昨日は俺にやられて今日は俺の後輩たちの実力を見せつけられたんだ。強さを求めていたグズマには、苛立つものがあるのも理解出来る。
俺も苛立つようなことはなかったが、それしか見えていない時期は確かにあったから、何となくその気持ちが分からんでもない。今は好きなようにさせておくのが一番だろう。その内、冷静になって考えることを始めるだろうさ。
「ククイ博士、今はそっとしておいた方がいいっすよ。昨日今日でプライドがズタズタにされたんだ。ああなるのも時間の問題だったんすよ。というかククイ博士はちょっとグズマを構いすぎ」
「そ、そうか? 自分では普通にしていたつもりなんだが………」
「普通だと言うなら、そもそも誰も声をかけないでしょうに。人は他人に対してそこまで関心なんてしてないんだから、ましてやチンピラに絡もうなんて誰も思いませんって」
「確かに………」
手のかかる弟とか評していたククイ博士のことだ。どうしても気になってしまうのだろう。だから構ってしまうが、グズマからしたらそれがうざったくて反抗している気がある。
「さて、オレたちもエーテルパラダイスに戻らないとな」
「うっ………、そうね。ウツロイドの毒の解析もしていかないとだし」
うわー、帰りたくなさそう………。
ここに金蔓兼研究材料がいるもんなー。
そりゃ帰りたくなかろう。
「………珍しいな。ムーンがそんな顔をするなんて」
「そんな顔?」
「自覚ないのか………。今のお前、ハチマンと離れたくないって顔をしてるぞ」
「うぇっ?! わ、わたしそんな顔してたの!?」
「こりゃ重症だな」
「た、確かにお世話していたヒキガヤさんがいなくなるのは寂しいけど、でもカロス地方に戻る準備もしないといけないですし、それにあっちに行ってからのこともククイ博士と相談されるでしょうから」
「ったく……」
研究材料以外にもちゃんと人として認識して、離れると寂しいとか思ってるのがポロッと出てるぞ。
それならそれで素直に甘えればいいものを。
自覚ないんだろうなー。家出をした頃のコマチを見てる気分だわ。
「ふぇ?!」
「ほんと甘えるのが下手だよな。少しはイロハのあざとさを勉強した方がいいんじゃねぇの?」
コマチは家出を機によく甘えるようになったし、今ではそれを武器に年上を動かしている。
その上を行くのがイロハで、あざとさ全開の上目遣いは甘えられるのを拒みきれない効果を有しているくらいだ。甘え上手と言えよう。
「別にまだしばらくはアローラにいるんだし、こっちに来ればいいだろ」
「うぅ……、そうですね。そうします」
頭をポンポンと撫でるとようやく素直になった。
周りの奴ももうちょっとムーンのことを甘えさせてやってくれよ。普段からしっかりしてるからって、シンオウから態々親元離れて移住して来た女の子なんだぞ?
「ムーンにもとうとう春が来たのか………」
「はっ?! ち、違うし、そういうのじゃないですし! ほ、ほら! いくわよ、グラジオ!」
「お、おおう」
だが、ククイ博士によって茶化されたムーンは顔を真っ赤にしながら、さっさと家から出て行ってしまった。
この男は………。
「では、ククイ博士、ハチマン。何かあればエーテルパラダイスに連絡をくれると助かる」
「ああ」
「ムーン、待つロト〜」
グラジオはやれやれという溜息を吐いてムーンの後を追った。
「………茶化してやるなよ」
「そうでもしないと本調子に戻らないだろ?」
「そうでもないだろ。スイッチ入れば、すぐ目付きが変わりますって」
いくら帰り際に甘えモードに入ったからって戻してやらんでもいいだろうに。
あいつはあれで研究を目の前にするとちゃんとジョブチェンジするんだから。
全く酷い大人がいたもんだ。
「ニャァ〜」
お?
お前もそう思うか、ニャビーよ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
午前中はサーナイトとニャビーを愛でたり、アローラのポケモンの資料を見せてもらったりしながらダラーンと過ごし、昼過ぎ。
俺たちはリリィタウンにやって来た。
島キングのハラさんとバトルするためである。
「お待たせしましたな」
「いえ、そんな待ってないですよ」
のっそのっそとやって来たハラさん。
何このデートのやり取りみたいなの。
デートの相手がじじいとか嫌だわー。せめてユキノたちがいい。というかユキノたちがいるから他は遠慮するまである。
未来の嫁さんたちは皆美人だからな。俺には勿体ないくらいだ。だが、誰にもやらん。今こうしている間にも我先にと名乗り出てそうなのに。
ああ、悠長にしてられないな。さっさとやることやってカロスに帰るぞ。
「昨日お話しした通り、ハチマン君は既にカプ神に認められている。Z技もカプ・コケコ直々に見極めなさった。であれば、我ら島キング・島クイーンが見極める必要もないのですがな。我々もハチマン君の実力をこの身で感じたいのだ。そして、ハチマン君にも我々の強さを感じ取って欲しい」
「まあ、アローラについては殆ど知りませんからね。当然、アローラの人たちの実力も。だから俺としてもアローラ地方の猛者のバトルを体感しておきたいってのはありますよ」
今分かっているのはククイ博士とグズマくらいだから。あとはカプ神たちか。
ポケモン協会がなければ、ポケモンリーグも創設されていない。当然、チャンピオンや四天王なんて以ての外で………よく、こんな地方からククイ博士みたいな人が出て来たなと関心するレベルだ。
あるのは今俺が簡素的にやろうとしている島巡りだけ。幸い、これがジム戦に近いものであるため、トレーナーたちはポケモンを育てて挑んでいるらしい。だから、他の地方とは違ってトレーナーの質が未知数なのである。
そして、その島巡りというのが実際は主ポケモンと呼ばれるポケモンの試練をクリアすると島キング・島クイーンとのバトル、大試練を受けられるようになるらしい。その大試練をクリアしていくと最終的に山の頂上で島巡り覇者たちが競う合うのだとか。
それからもう一つの意味合いとしては、カプ神に認められるかどうか。アローラの守り神の加護を受けられるかどうかとか、そんな感じの習慣が昔あったとかなかったとか。詳しいことは聞かされてないが、今でもそういう一面がないこともないらしく、俺はこっちの面で既に島巡りをクリアしたようなものと言われた。実力もまあ、自分で言うのもなんだが島巡りを態々する程の初心者でもないので試練自体が必要ない。
結論、俺には島巡りをやる意味はないらしい。ただ、アローラの人は外のトレーナーを知らないし、俺もアローラのことを殆ど知らないので、島キング・島クイーンとだけでもバトルしようとなったわけだ。
「そう言ってもらえて何よりですな。では、早速バトルといきましょうか」
「そうっすね」
「審判は俺が。ああ、それとハチマン。ニャビーは預かるぜ」
「頼んます」
んで、全四人いる島キング・島クイーンの一人目がククイ博士とグズマの師匠でもあるハラさんだ。
つまり、ククイ博士より強い、はず。最盛期に比べたら衰えているとしてもククイ博士レベルはあるはず。………あるよね?
「これより大試練を行う。使用ポケモンは三体。どちらかが全員戦闘不能になれば、そこでバトル終了とする。技の使用も四つまで。なお、このルールは他の三人とのバトルと共通のものである。ハチマン、準備はいいな?」
「いつでも」
「ニャー」
「では、バトル始め!」
「まずはキテルグマ。行きますぞ!」
「クー!」
最初はキテルグマか。
今朝見たぞ。
タイプはノーマルとかくとう。特性が………なんだっけ? もふもふってな感じなのがあったような気がする。もふもふって………てなったからな。ネーミングのインパクトは凄い。
「サーナイト、さっさと終わらせるぞ」
「サナ!」
タイプ相性はこちらがかなり有利。
ただ、キテルグマは抱きつく癖があるのだとか。しかも力加減が分からないため、骨を折る人もいるらしい。普通に近づかれたら危険なポケモンだな。
「すてみタックル!」
言ってる側から自ら近づいて来やがったし。
ここは何としてでも止めないとな。
「サイコキネシス」
幸い、そこまで素早いポケモンではない。見た目と動きのギャップが激しいだけで、近づかれなければ対処出来るポケモンだ。
「ぬぅ、シャドークロー!」
弱点のカバーはちゃんとしているのか。
ノーマル・かくとうタイプなおかげでゴーストタイプには攻撃が効果なしになる可能性が高い。それをゴーストタイプの技でならカバー出来るというわけだ。
そしてついでにエスパータイプに効果抜群と。ノーマルタイプが含まれると結構色んなタイプの技を習得しちゃったりするからな。ノーマルタイプだからと侮ってはいけない。
サーナイトの影から伸びた影爪がサーナイトを軽く突き上げた。
「テレポートからサイコキネシス」
空中で立て直す前に姿を消し、キテルグマの背後から超念力で地面に叩きつける。
「はかいこうせん!」
血を張ったキテルグマは顔だけ起こして禍々しい光線を解き放った。
「躱して、きあいだま」
だが、それでは単純過ぎて予想も出来るし、この程度なら対処も心配ない。
ひらりと身を翻したサーナイトはそのままキテルグマの懐へと潜り込み、エネルギー弾を腹に撃ち込んだ。
ズドーン! という地響きがするくらいの威力があったらしい。
「………キテルグマ、戦闘不能!」
倒れ伏しているキテルグマの意識はない。
続行不可と見て、ククイ博士が判定を下した。
「戻るのだ、キテルグマ」
いやー、それにしても可愛い顔してはかいこうせんを撃ってくるとは。
「参りましたな。今ので戦闘不能に追い込まれますか。これはサーナイトを倒さなければウツロイドたちともバトルが出来ないということですな。ハリテヤマ、心して行くぞ!」
あ、ウツロイドとバトルしようとしてたのか。
けどまあ………無理だろうな。
こんな見た目でもダークライとクレセリアに鍛えられて、ギラティナと渡り合った子だぞ。俺のポケモンの中では唯一の純真無垢な女の子が、神と称される相手にだぞ?
そんなサーナイトがハリテヤマに倒されるイメージが全く浮かんで来ないのだが………。
ウツロイドの出番は来るのだろうか。
「ねこだまし!」
ボールから飛び出したハリテヤマはそのままサーナイトの目の前で一拍手した。
うわー………。
あれ、急に顔の近くでやるからどうにも躱せないんだよな。目を瞑れば問題ないのだが、そうなると隙だらけになって、次の攻撃を入れられてしまう。
そうでなくとも一瞬の隙が生まれるからな。
「続けてはたきおとす!」
「サナ?!」
こういう風に狙われるんだよ。
それにしてもハリテヤマの掌は大きいし、倒されたサーナイトに取っては衝撃が凄かったんじゃないか? ぐにゃりと曲がってたぞ。
平手を食らった身体より、慣性によって一瞬取り残された頭のせいで首が大丈夫か心配だ。人間だったら骨が折れてそうなレベル。そこは人間よりも強い身体のポケモンだからって思わなくもないが、それでもやる時はやるからな。
バトルが終わったら首を確認しておこう。
「サーナイト、今のは気にするな。あれは島キングとしての意地みたいなもんだ。だからここから巻き返せ。サイコキネシス」
「サナー!」
まあ、完全に今のはキテルグマが倒されたことでの島キングとしての意地ってものが感じられた。
キテルグマがサーナイトにダメージを与えられたのは、シャドークローの一発のみ。他に何も出来なかったという点を、初手を利用して更新して来たわけだ。
それでもサーナイトが倒されるまでには至ってない。
そんなサーナイトはハリテヤマを宙に浮かせると、やられたお返しと言わんばかりに地面に叩きつけた。
これは効果抜群。
ただ、ハリテヤマは無駄に体力があるポケモンだ。何度かダメージを与えないと倒せないだろう。
「ぬぅ………、よもやハリテヤマが抜け出せないとは。これがカプ・コケコを倒した力ですか。ならばハリテヤマ、ヘビィボンバー!」
起き上がったハリテヤマが高くジャンプした。
今朝の映像を思うとそれ程脅威に感じないから不思議なんだよなぁ。
「サーナイト、ギリギリまで引きつけろ」
確かにハリテヤマは重いだろう。しかもフェアリータイプを持つサーナイトには効果抜群である。
だが、ヒードランの方がもっと攻撃にプレッシャーがあった。あのプレッシャーを感じさせられないのならば、ギラティナを前にしたことがあるサーナイトが動揺するはずもないだろう。
「今だ、テレポート」
落ちて来るハリテヤマをしっかりと目視し、タイミングを合わせて瞬間移動した。
急に目標物が消えたハリテヤマは地面にクレーターを作って、割れた地に尻から下が埋もれていく。
何ともまあ、おいしい状況じゃないですか。
「サーナイト、きあいだまを顔にぶち込んでやれ」
「サナ!」
サーナイトも容赦なくなったよなー。
俺の命令に一切の躊躇いがない。これでは俺が悪の組織のボスみたいではないか。知られたら絶対ネタにされる奴。思い至らなかったことにしておこう。
「インファイトで脱出するのだ!」
埋まった身体を押し出すため、インファイトで地面を激しく殴りつけた。地面のヒビが広がっていき、やがて足下が崩れたが最後に強くやり過ぎたのかハリテヤマの身体が宙を舞った。
勝負を決めるなら今だな。
「サイコキネシスで撃ち落とせ」
超念力で宙を舞うハリテヤマの動きを封じ、再度地面に叩きつけた。流石にハリテヤマが埋もれていたところにまた嵌るということはなかったが、帰って衝撃を強く受けてしまい気絶してしまった。
「ハリテヤマ、戦闘不能!」
審判のククイ博士がハリテヤマの状態を確認して判断を下した。
「………なんと、ハリテヤマでも何も出来ぬというのか」
まあ、ヘビィボンバーに至ってはタイミングが悪かったとしか言いようがないな。イロハのやり口を見せられた後ではどうしても温く感じてしまう。それくらい、あいつがポケモンの技の使い方に長けて来たという証拠でもあるだろう。
成長したんだな………。
「戻るのだ、ハリテヤマ」
「体型的にもヘビィボンバーと相性はいいんですけどね。もっと上の使い方を知ってる身としては読みやすいと言いますか………」
「すまないな。ワシでは君を満足させられぬようだ。だからせめて、Z技だけは受けていって欲しい。ケケンカニ、全力でいくぞ!」
ケケンカニ。
こいつも午前中に見た資料にいたポケモンだ。
確か、かくとう・こおりタイプだっけか?
進化前がマケンカニってので、クラブやキングラーがハサミにグローブを嵌めた感じのポケモンだったはず。それで進化後のケケンカニもこくとうタイプってのは理解出来たが、こおりタイプの要素がなー。恐らく実力的な意味合いのトップを目指すはずが、物理的なトップを目指してしまい、雪山で遭難して寒さを耐えるのに進化していたのだとか。諸説あるのだろうが、考えるよりまず殴って確かめるようなポケモンらしく、強ち間違いってわけでもないようである。
「サーナイト、相手はかくとうタイプを持っている。あの腕からの攻撃を受けなければ、そんな強敵というわけでもない。まずはサイコキネシスだ」
キテルグマ、ハリテヤマと来て、最後にケケンカニ。
どれもパワー系のかくとうタイプであり、近距離戦しかいない。これで島キングとして充分強いというのなら、アローラ地方のトレーナーはそこまで高い水準の実力を持っているわけではなさそうだな。
逆にアレだ。グレたグズマの方がハラさんに挑戦しに来るトレーナーより強い可能性が高い。
そうか、あいつ何気にアローラでは強い方なのかもしれない。
「ゆきなだれ!」
身体が重たいケケンカニには打って付けの技だな。
超念力で浮かせたところで、サーナイトの頭上に雪雲を発生させることは可能だ。
「テレポート」
こうなるとテレポート様々である。
サーナイトも使う度に使い慣れていっている。最初の頃は怖がってたのに、今では背後を突けるまでになっている。
「きあいだまだ」
重たい身体ではすぐに振り向くのは無理があるだろう。
「右手で後ろにアイスハンマー! 打ち返すのだ!」
ケケンカニが氷で覆った拳をハンマーのように後ろへ振り回した。
なるほど、裏拳か。
しかもケケンカニの太い腕ならば、技として動かすだけでエネルギー弾を打ち返せるだけの威力が出るだろう。
「サイコキネシス」
だから超念力で打ち返されたエネルギー弾諸共、ケケンカニの動きを封じた。
「アイアンヘッド!」
だが、強引に抜け出して来やがった。
キテルグマともハリテヤマとも違う、こいつがハラさんの絶対的エースなのだろう。
「インファイト!」
サーナイトに咄嗟に躱されるも地面を蹴って反転し、両腕でガトリング攻撃を仕掛けて来た。
「サナ?!」
躱した後の体勢がバランスを崩していただけに、流石のサーナイトもガトリング攻撃の餌食になってしまった。効果は今一つでも、とにかく攻撃を当てるという執念を感じられる。
「ケケンカニ、行きますぞ!」
サーナイトが地面に打ち付けられている間に、ハラさんとハリテヤマはZ技のポーズに入った。
「我、メレメレの島、そして守り神カプ・コケコと意思を共にする島キングなり! 今こそが全ての力をひとつにする時!」
今し方見せたガトリング攻撃のようなモーション………かくとうZだったよな? ハラさんの専門タイプもかくとうタイプなようだし、間違いないだろう。
それよりもその口上!
そういうの恥ずかしくないのかよ! 頭のおかしい子とかがいる紅い瞳の種族が絶対好む奴だぞ! あとザイモクザとかな!
「全力無双激烈拳!」
インファイトよりも激しい猛攻。
例えタイプ相性でかなり有利なサーナイトであってもまともに受けたら大ダメージを避けられないだろう。
ならば、こっちはこっちでやるしかない。しかも手っ取り早い方を。
「サーナイト、メガシンカ」
サーナイトに持たせたサーナイトナイトとキーストーンが共鳴し、サーナイトが光に包まれた。
そこへ無数の拳が叩きつけられていく。
ポケモンを強化するエネルギーと技を強化するエネルギーが激しくぶつかり爆発も起きる。それでも光の位置は変わらない。エネルギーが拮抗しているからこそ、ハリテヤマも攻めきれないのだろう。
「サナ!」
やがて姿を変えたサーナイトが白い光と共にエネルギーを弾き飛ばした。衝撃で淡いピンク色のオーラがフィールドに広がっていく。
普通のサーナイトのメガシンカと唯一違う点。何故かメガシンカ後にミストフィールドが発生するのだ。
姿を変えた後にまで影響を及ぼす程の力である。例えZ技であろうとも相殺してしまうらしい。これはこれで新しい発見だな。
「ハイパーボイス」
メガシンカしたことでサーナイトの特性はフェアリースキンに変化している。そのためノーマルタイプの技が一時的にフェアリータイプになり、かくとうタイプを持つケケンカニには効果抜群となる。しかもZ技を放った直後の疲弊したタイミングだ。躱されるどころか、轟音に身体が揺さぶられてバランスを崩して倒れてしまった。
何気にZ技直後のハイパーボイスはポケモンによっては酔ってしまうのかも。俺だって疲れた時にこんな轟音を聞かされたら、耳が痛いとかそっちのけで気持ち悪くなるだろう。
「ぬぅ、ケケンカニ。これがメガシンカの力であるか」
倒れたケケンカニはピクリとも動かない。
それが何を意味しているのかは三人とも理解していた。
「ケケンカニ、戦闘不能! よって、勝者ハチマン!」
取り敢えず、アレだな。
タイプ相性が良すぎたわ。しかもハラさんのポケモンは遠距離からの攻撃に滅法弱い。弾丸系や、使ってないが障害物を飛ばす系の技にはその拳で何とか対処出来そうだが、水とか炎とか電気とかには対策の手立てがないように感じる。
「戻るのだ、ケケンカニ。………総じて、テレポートは厄介であったな。あの動きにより背後を取られると対処が間に合わないか」
島キングに意見するのも何だが、これもアローラのためだ。上の者が強くならなければ、挑戦しに来る若者も伸びない。何なら、挑戦者の弱い部分を指摘することすら出来ないだろう。
そう思うとイロハとか超恵まれてるよな。周りには俺たちがいるし、そうでなくとも四天王に直談判しに行けた。というかみんなメガシンカ出来るというのが強みだな。技の強化はその一発だが、メガシンカは倒されるまで続く。一撃に賭けるのも面白いが汎用性となるとメガシンカに分があるし、そもそも当たらなければ意味がない。
「あー、一ついいですかね」
「む? 何ですかな?」
「ハリテヤマってストーンエッジを覚えてたりします?」
「いや、覚えていない。それがどうかしたのかな?」
「これは今朝見たバトルからの受け売りなんですけどね。ストーンエッジって地面から出て来るパターンがあるじゃないですか。その突き出す動きを利用して自分を打ち上げるって戦法があったんですよ。んで、その落下するのを利用することで、ヘビィボンバーの威力を高めることが出来るみたいですよ」
なら、せめて個の力を底上げしておくしかない。
使い方次第で技には汎用性が生まれる。それを最大限に活かすことでZ技に頼らない強さを手に入れられるだろう。島キングであろうとも、そこが感じられなかった。唯一見られたのは、ハリテヤマがインファイトで地面に嵌った身体を打ち上げたことだな。
「………なるほど、ジャンプの際に脚を使うよりもかなり高く飛べそうですな。そうなると確かに技の威力も期待出来る。是非とも採用させていただきましょう」
「それと、ハラさんが他にどんなポケモンを連れているのか知らないのでアレですけど、スピード系のかくとうタイプをパーティーに入れると戦術の幅が出来ると思いますよ。パワー系だけでは今のバトルのように、サーナイトのような遠距離からの攻撃に長けた相手には、攻撃がそもそも届かない可能性があります。テレポートを上手く使われたりしたら、それこそ機動力がないと苦しいかと」
「ふむ、以前ククイ博士にも言われましたな。やはり機動力が課題か。四天王に就任するに当たり、その辺も熟考しませんとな」
言われてんのかよ。
やっぱりククイ博士だけはアローラでは別格なのかもな。
となると他の四天王も解決しておかないといけない問題とかありそうだな。
「ポケモンの技には使い方次第で汎用性が生まれます。何ならケケンカニが裏拳できあいだまを弾いたように、ポケモンの技以外でも技術を取り入れることは悪いことではない。ましてやZ技があるからとZ技に頼りすぎている節があります。グズマでも思いましたが、アローラのトレーナーはそういうところが伸び悩む原因だったりするんじゃないですかね」
「なるほど、確かにそれは一理あるかもな。あまり外の世界を知らないアローラ地方ならではの問題かもしれん。俺はお前らを知ってるからこういうバトルもあるのかと勉強になるが、アローラのトレーナーは………それこそグズマのように島巡りをリタイアした連中はそういう発想にすら辿り着けないのかもな」
「ワシを含めてそれを指摘出来ない大人の責任でありますな」
「取り敢えずはZ技に頼らないバトルを覚えるのが手っ取り早いかと」
「ふむ、そうしてみるとしよう」
ポケモンリーグが出来れば、世界から挑戦者が集まるだろう。そうなればレベルの低い四天王というレッテルを貼られる可能性がある。
ポケモンリーグ創設までにまずはハラさんたちがどこまでレベルアップ出来るかで、これからのアローラの見られ方が変わるだろう。
「おおっと、忘れていた。メレメレ島の島キングであるこのワシに勝利した証です。是非受け取ってくだされ」
「………Zクリスタル、ですよね?」
「うむ、それはカクトウZ。島巡りの挑戦者にはワシに勝利した証として渡していましてな」
「では、ありがたく」
「ええ、是非使ってくだされ」
カクトウZ。
ということはハラさんと同じあの動きをしないといけないってことだよな………? 足上がるのか………?
それにサーナイトには………似合わないよなー………。