ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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22話

 翌日。

 今日はウラウラ島に来ている。

 どうやら今日の相手はクチナシさんらしい。待ってるぜとか言ってたもんなー。

 

「よぉ、兄ちゃん。待ってたぜ」

「どーも」

「今日もその帽子とサングラスなんだな」

「一応変装用ってことでもらったんで」

「お揃いを?」

「言わんで下さい。おっさんとペアルックとかマジで恥ずかしいんで、考えないようにしてるんすから」

「悪りぃ悪りぃ。あ、ククイ博士も悪りぃな。付き合わせちまってよ」

「いやいや、好きでついて来てるんで」

 

 嫁がいないからマジで暇なんだろうな。

 

「んで、ここどこっすか」

 

 それよりもこんな寂れたところに連れて来られたことの方が重要だ。

 何なの、この廃墟の町は。

 建物全てが壊れてるか落書きされてるかだし、窓なんか割れているのが当たり前。マジで何なの、ここ。

 

「ククイ博士、言ってないのかい?」

「ええ、まあ。先入観なく見て欲しかったので」

「それ絶対表向きだよな。裏では俺を驚かせてやろうとかって魂胆だろ?」

「当たり前じゃないか。お前は何を言ってるんだ?」

 

 この男、一度海に沈めないとまともな頭に戻らなさそうだな。

 

「何を言ってるんだはこっちのセリフなんだがな。んで、結局ここどこよ」

「ここはポータウンっつー、グズマの根城だ」

 

 ………グズマ、お前何をしたらこんな町を作れるんだよ。

 それとも芸術とでも言うのか?

 明らかに強盗とか、強制的に奪い取った感が強いんだけど。町一つを強盗ってのもおかしな話だが。それもうただの侵略だよな………。

 

「………あいつもいい趣味してんな。強盗でもしたのか?」

「いんや? ちょいと昔にカプさん怒らせちまってな。その後廃墟と化したんだが、そこをグズマ率いるスカル団の溜まり場になってこの様だ」

 

 あ、原因はカプさんでしたか。

 でも結局は廃墟の町をグズマが乗っ取ったんだな。

 

「おじさん、一応お巡りだからよ。そこの交番で悪ガキどもが最悪の事態に走らねぇか見てんだ」

 

 そう言って振り返ったクチナシさんが、後ろにある交番らしきものを指していた。

 一応、監視役なのね。

 

「まあ、オレの予想を遥かに超えた最悪の事態に一枚噛んじまったがな」

「そりゃ自業自得でしょ」

「言えてるな。ただ、おじさん島キングに選ばれちまってるからよ。面倒ったらねぇよ」

「災難だったようですね」

「古巣を思い出したぜ」

 

 ウルトラビーストなんて国際警察管轄らしいからな。

 古巣も古巣だろう。

 まさか地元で現役のような仕事をする羽目になったとか、災難としか言いようがない。

 

「ちょっとちょっとー、なんなんスか?」

「島キングも部外者連れて来ないでくださいッスよー」

 

 廃墟を肴に話し込んでいると、チンピラ二人が現れた。

 恐らく、こいつらがグズマの下にいる奴らなんだろうが…………何というか弱そう。

 グズマほど身体もデカくなければ、目付きも弱い。

 スカル団ってのは、本当にただのチンピラの集まりっぽいな。

 

「スカル団は解散したってのに、相変わらずここにいるんだな」

「アタイらここしか居場所ねぇッスよ。なんで、邪魔しないでくださいッス」

「はいはい、要件が終わったらな。んで、グズマはここに来てるのか?」

「兄貴ッスか? 兄貴は今日来てないッスよ。これで要件済んだッスよね。ほら、帰った帰った」

 

 ………居場所がない、か。

 確かスカル団ってのは元々島巡りを途中脱落した者が多いんだったか? んで、その気持ちを味わっているグズマの元に皆が集まって組織だってしまった感じか。

 案外、こういうところを根城にしているのも、他人の目に触れることもごく僅かだからなのかもな。こんな廃墟に来る人間なんて、よっぽどの奴じゃないといないだろう。そもそもこんなところに人がいるたも思えなかったからな。隠れ家的にはいいのかもしれない。

 

「何だい、アンタたち………って、島キングが何の用だい」

 

 チンピラ二人にしっしっと追い払われていると、また新しいのが来た。

 ただ、この二人とは違い、目力が半端ない。グズマよりも強いかも。しかも………うん、こういう言い方は失礼だろうが、ケバい。

 俺の周りにこんなケバい女子なんていなかったから尚更ケバく感じてしまう。

 やっぱあいつら顔面偏差値異常だわ。あいつらに化粧の必要性すら感じないまである。

 まあ、女子からすれば化粧は礼儀やら嗜みって言うだろうけども。すっぴんで充分いける顔って最強だわ。

 

「よお、プルメリ。ちょいとばかしグズマと話をしたかったんだがな。いないならもう一つの要件を済ますとするよ」

 

 どうやらこのケバい女子はプルメリというらしい。

 

「昨日朝帰って来たかと思えば、だいぶ荒れてたんだけど、アンタが原因かい?」

「ん? 荒れてた? どうしてまた……」

「あー、それについては俺というか、俺が見せた動画に触発されたというかだな………」

「ククイ博士、今度はアンタの方だったのか」

「まあな。あ、だが別に喧嘩したとかそういうのじゃないぞ? 単にあいつにアローラの外のトレーナーってのを教えてやっただけさ」

 

 あの後、ここに帰って来てたんだな。

 まあ、昨日のアレを見てプライドをズタズタにされただろうし、荒れるのも想像が付く。何なら、あの地面にデコ打ちしてる画すら見えてくるわ。あれはインパクトあり過ぎて、未だに記憶から消えてくれない。下手したら映像がループしてるレベル。

 

「そういえば、後ろのアンタ、見ない顔だね」

「そりゃまあ、ここ来るの初めてだし。ほんと何で俺を連れて来ちゃったわけ?」

 

 結局、何だかんだ思考を巡らせてみたものの。

 一向に俺を連れて来た理由が分からん。別にバトルなんて他で出来ただろうし、こんなところに態々来る理由が全く思いつかない。

 

「おじさん、ここで兄ちゃんとバトルしたくてな。つーわけで、お前らは俺の応援団な」

 

 え?

 ほんとにここでバトルしたいがために来ちゃったわけ?

 しかも応援団にするつもりで?

 このおじさんの考えてることがさっぱり掴めねぇな。曲者だとは思ってたが、ここまでとは………。

 まあ、そうでなければ国際警察も務まらないのかもな。

 

「バトル? こいつと? ………島巡りか何かかい?」

「ああ、まあそんな感じだ。つってもおじさん勝てる気しねぇんだよなぁ」

「ハッ、島キングともあろう男が実に情けないね」

「いやぁ、それに関しちゃおじさんが弱いってより、この兄ちゃんが強すぎるんだわ。グズマにも余裕で勝ってるし」

 

 ………あ。

 クチナシさん、それ言っちゃダメなやつ。

 もう遅いけど。

 絶対面倒なことになるぞ。

 

「「「「…………ハァッ!?!」」」」

 

 案の定、大声でびっくり。

 静かなところだから、周りに木霊してるぞ。

 

「マジッスか、やべぇッスよ、姐御!」

「ここは一旦引いて作成会議するッス!」

 

 何という弱気な………。

 実は気が弱い奴らばっかりだったりして………。

 

「アンタたちは黙ってな!」

「「は、はぃ………!」

 

 うわー………。

 俺までビクッてなっちゃったぞ。

 こわ、怖すぎるわ、このプルメリって女。グズマもよくこんなのと………ん? 実はグズマの女だったりして…………? 可能性がなくもないけど、やめとこう。こんなこと考えてるなんてバレた日にはその日が俺の命日になってしまう。ただでさえ社会的に死んでるようなのに、物理的にまで死にたくない。何のために戻って来たんだって話だ。

 

「そこのアンタ! グズマはアタイらの中じゃ一番強い上に、アローラ屈指の実力者だよ! それを余裕で勝ったとか、デタラメ抜かしてんじゃないよ!」

 

 というかあいつそこまでのレベルだったのか。

 となると、アローラのトレーナーのレベルって…………。

 そこに島キングとの意見の対立なんて来たら、あいつもやる気がなくなるわな。

 

「いや、デタラメって…………。単にZ技を躱してトドメ刺しただけだしな」

「あ、ついでに言っておくと、グズマのポケモンを三盾してるぞ」

 

 いや、事実だけども。

 そこいらないでしょうに。

 

「やべぇッスよ、姉御! これ絶対オレらを叩き潰しに来たって奴ッスよ!」

「そ、そうッス! 逃げるッスよ!」

 

 こいつら俺を何だと思っているのだろうか。

 お望みならば今すぐにでも叩き潰すぞ。やらないけど。さっきから睨んでくる目が超怖いのなんのって………。

 というか、そんなにZ技って躱せないもんなのか?

 

「なに? やっぱりZ技って躱せないもんなの?」

「いや、まあ躱せない………こともないんだが、普通躱そうとすら思わないからな。どっちかっつーと、Z技にはZ技をってのが主流だし」

「へぇ」

 

 Z技も当たらなければ意味がないんだけどな。テレポートを駆使すればZ技も怖くないし、何故今まで誰もこの発想に辿り着かなかったのだろうか。主流なんて言葉で片付けていたら、それこそ思考を停止しているのと同じだろうに。

 

「………そこまで言うなら、アンタのバトル見せてもらおうじゃないの」

「お、話が早いじゃねぇの。流石はプルメリだ」

 

 ヤジを飛ばす後ろの二人と比べるまでもなく、彼女はしっかりしているようだ。流石は姉御。………今日日、姉御なんて言葉聞かねぇな。

 

「アンタたち、ここにいる連中全員集めな! 島キングがコテンパンにされるところを目に焼き付けるんだよ!」

 

 うわぁ………了承した理由が酷ぇ。

 応援団に負けるのを見守られるとか、どんな羞恥プレイだよ。

 当の本人は、気にしてないようだけど。

 

「ついて来な」

 

 は、はい!

 姉御について行きます!

 ………めっちゃ目が怖い。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 やって来ました、ポケモンセンター。

 

「いや、壊れてんじゃん」

「中はかろうじて生きてるのさ」

 

 二階部分なんてひしゃげてるぞ。

 マジでカプさん何やったんだよ。

 

「さーて、兄ちゃん。ちょいと汚いところだが、やろうか」

「うす」

 

 ちょっとどころではないけれども。

 しかもなんかギャラリーが増えてるし。いつの間に集合してたのよ。

 

「んじゃ、これより大試練を行う。使用ポケモンは三体。どちらかが全員戦闘不能になれば、そこでバトル終了とする」

 

 これはあと二試合でも同じルールらしい。

 というかフルバトルじゃないんだな、今更ながら。

 グズマも三体しか連れていなかったし、アローラ地方は手持ちをあまり持たないのかもしれない。

 しかしながら、ポケモンリーグの設立、それに伴う四天王の就任ともなれば、フルバトルが出来るくらいには手持ちを揃えてもらわないといけない。

 このおじさん、それも断った理由の一つだったりしてな………。

 

「ニャー」

 

 ニャビーはその辺の木陰で爆睡中。寝言言ってんじゃねぇよ。

 

「それでは、バトル始め!」

「いくぜ、アブソル」

 

 一体目に出てきたのはアブソル。

 災いを事前に知らせにやって来たりするポケモンなのだが、それ故にどうしてもその災いと鉢合わせてしまうため、アブソルがやってくると災いが起こると勘違いされていたりもするちょっとかわいそうな種族である。

 アローラにもいるということはウルトラビースト出現時に、近くにいたりするのかもしれないな。しかも遅れをとることなく対峙していそうなのがミソだ。

 まあ、それくらいには強いポケモンなのだが、カロスではメガシンカもするからなー。翼が生えるとかザイモクザ受けが半端ない。実際、あいつが仲間にしちゃうくらいには厨二心をくすぐられる。

 ともあれ、さすがにメガシンカはないだろうけども、油断は禁物だ。

 

「サーナイト、メガシンカはないと思うが油断はするなよ」

「サナ!」

 

 俺もサーナイトをボールから出して、アブソルに対峙させた。

 目付きは鋭く、気を抜けば一瞬で間合いを詰められそうなプレッシャーを感じる。

 確か、特性にプレッシャーがあったよな。そういうことなのか?

 

「つるぎのまい」

 

 ニヤッと笑ったかと思えば、これかよ。

 攻撃力の高いアブソルの物理攻撃をさらに高めて、一撃で仕留めようって魂胆だな。

 

「そう上手くいかせるかよ。サーナイト、でんじは」

 

 頭の刃によく似た幻影で攻撃力を高めている間に、麻痺させることにした。

 これで痺れが邪魔をして、百パーセントの力を発揮してくることはないだろう。

 

「つじぎりだ」

 

 それでも構わず斬りつけて来た。

 

「マジカルシャイン」

 

 思った程素早いわけでもないので、光でアブソルの視界を奪い、その隙にサーナイトは躱した。

 

「ふいうち」

 

 ッ!?

 ちょ、マジか!

 そういう躱し方するのかよ!

 しかもつるぎのまいからのつじぎりなんて来たら、斬りつけて来るとしか予想しねぇってのに………。

 

「ソルッ………!」

 

 あっぶな!

 痺れで動きが鈍ってなかったらマジで一発もらってたわ。

 

「よく躱した、サーナイト」

「サナ!」

「そのままきあいだまで弾き飛ばしてしまえ」

「サーナ!」

 

 苦い顔を浮かべるアブソルを他所に、サーナイトにエネルギー弾を撃たせた。

 

「アブソル、シャドークロー」

「サナ!?」

 

 うわ、マジか。

 弾き飛ばされる直後に地面に爪を突き刺して、サーナイトの影から攻撃してくるとは………。

 しかも急所に入っていたのか、効果抜群の一撃は結構痛手だ。つるぎのまいの効果もあるだろう。

 ハラさんの一撃に重きを置いた単調な攻撃とは違い、前の技すら伏線に思えてくる程の巧みなバトル展開。

 いやらしい性格が滲み出てるわ。

 

「サーナイト、大丈夫か?」

「サ、サナ!」

「なら、テレポートで詰めてきあいだまだ」

 

 サーナイトはテレポートでアブソルの背後に回った。

 

「アブソル、ふいうちだ」

 

 それを読んでいたかのようにアブソルも振り向き、サーナイトがエネルギー弾を放った瞬間に消えた。

 

「マジカルシャイン」

 

 恐らくサーナイトの背後か下にでも潜り込んでいるはず。そうなるとテレポートで躱してもいいが、それでは同じような流れが続きそうである。

 ならば、光を放って視界を奪ってしまった方が早い。幸い、さっき見せた戦法のふいうちは先に使っているため、連続は無理があるだろう。

 

「目を瞑ってそのまま真っ直ぐにつじぎり!」

 

 ただそこは経験則なのか。

 目を瞑ることで光をやり過ごし、同時にクチナシさんとの信頼度も見せてきた。

 いいね、こういうバトルの方が面白いってもんだ。

 

「きあいだまで受け止めろ」

 

 頭の刃を黒く光らせて突っ込んでくるアブソルをエネルギー弾で受け止めると暴発した。衝撃でお互いに吹き飛ばされている。

 

「サナ……!」

「ソル……ッ!」

 

 痺れている分、アブソルの方がダメージがおおきかったようだな。

 それならそろそろやるか。未だ試したことのない戦法だが、恐らくダークライやギラティナに鍛えられ、メガシンカもZ技も難なく使えるようになった今のサーナイトならいけるはずだ。

 

「サーナイト、連続でテレポートだ」

「………おいおい、これじゃあまるでかげぶんしんじゃねぇか」

 

 テレポートで次々と移動することでアブソルの目を泳がせようとしたのだが、テレポートの発動速度がいつにも増しており、クチナシさんの言う通り、残像が残ってかげぶんしんみたくなっている。

 クチナシさんやククイ博士は不敵な笑みを浮かべているが、その他のギャラリーはお口あんぐりである。

 ごめんな、驚かせちまって。でもそれくらいしないとクチナシさんのいやらしい戦法を圧倒出来ないのよ。

 

「アブソル、つるぎのまいだ」

 

 焦ることはなく、攻撃してこないと判断して攻撃力を高めてきた。

 やはり気づいたか。

 下手にこちらから攻撃を仕掛ければ、ふいうちで返り討ちに合ってしまう。だから、アブソルの目を撹乱させて焦らせることで、先に攻撃させようとしてたのだが、そう上手く事が運ぶこともなかったみたいだ。それでもメガシンカ以外で妥当出来るのなら、その方が得策だ。いつでもメガシンカに頼っているようでは強くなれない。

 ましてやアブソルは麻痺状態だ。必ずその時が来るはずである。

 

「ソルッ……!」

 

 ………来た!

 

「今だ、マジカルシャイン」

「全方位にシャドークロー!」

 

 テレポートをしながらマジカルシャインで光を迸らせるていく。

 アブソルは強引に身体を動かして、全方位から影の爪を伸ばしてきた。

 ………シャドークローってそんな使い方も出来たんだな。覚えとこ。

 

「………目がチカチカする」

 

 指示した俺が言うのもなんだが、次々と光が発せられるとこっちの目までやられてくるな。今後は俺の方も対策をしておくようにしよう。使う度に目がチカチカするんじゃ、次使うのを躊躇いそうだ。

 まあ、おかげで影の爪すら呑み込む程の強い光となってくれたんだから良しとしておこう。

 

「………アブソル、戦闘不能!」

 

 光に呑まれたアブソルはグッタリと横たわっていた。

 

「戻れ、アブソル」

 

 いやー、まさかここまでやってのけてしまうとは。

 サーナイトがどんどん強くなっちゃっていくんだけど。これ、リザードンやゲッコウガと再会した時、あいつらが恐れ慄くぞ。

 

「やっぱり兄ちゃんは強かったな」

「そりゃどうも」

「アブソルの特性はきょううんだったんだが、急所に入って耐えられたんじゃ、おじさんも流石に焦ったぜ」

 

 あ、きょううんの方だったのね。

 まさかとは思ったけど、そっちだったんだな。そりゃ、急所にも入るわ。

 

「あー、きょううんの方だったんすね。最初出てきた時のプレッシャーが半端なかったので、そっちかと思ってましたよ」

「ははっ、それならこっちの作戦もハマってたみたいだな。アブソルには目力で特性を勘違いさせるように訓練させたんだ。おかげでちょいと目付きが悪くなっちまったが、味が合っていいと思うんだよな」

「まあ、目付きに関しちゃ俺がそうですからね。今でこそだいぶマシになったみたいですけど、目が腐ってなきゃ俺じゃないって言われるくらいですから。いいんじゃないっすか」

「ありがとよ」

 

 コマチ談ではあるけど、イロハとかも絶対そう思ってるだろうな。強いて言うならユイくらいか。綺麗な目になって褒めてくれそうなのは。でもあいつも苦笑いを浮かべそうだよな…………。

 やっぱり俺の目は腐ってるのがデフォルトなんだろうな。

 

「あ、姐御! あれ、絶対ヤバいッス! 逃げた方がいいッスよ!」

「そうッスよ! あのクソ親父でも圧倒されてるんッスよ! ヤバすぎッス!」

「アンタたち! 黙って見てな!」

「は、はいぃ………!」

 

 んなどうでもいいことを考えていると外野が騒がしかった。

 そんなに怖いかな、今のバトル。俺はそっちの姐御の方が怖いんだけど。一喝でピシッと下っ端たちを鎮めたんだぞ。迫力あり過ぎだろ。

 

「んじゃ、二体目といこうか。いくぜ、ヤミラミ」

 

 二体目はヤミラミか。

 あく・ゴーストタイプ。

 フェアリータイプ以外に弱点がない嫌な組み合わせ。きあいだまは封じられたも同然か。

 

「まずはどくどくだ」

「マジカルシャイン」

 

 げっ?!

 まさかの初手でどくどくかよ!

 これでサーナイトに長期戦は出来なくなっちまったな。

 

「ラッ!?」

「どした、ヤミラミ………って、おいおい。ヤミラミまで毒状態じゃねぇか」

 

 あ、そう言えばサーナイトの特性ってシンクロだったな。シンクロは状態異常にかけられると相手にも同じ状態異常にする特性なのだが、これまで状態異常になることがほぼなかったためすっかり忘れていたわ。

 一応これでヤミラミも長期戦は無理となったが、サーナイトはこの後にもう一戦控えている。そのためヤミラミペースのバトルでは最後まで保たない。となるとここは一気に勝負を仕掛けていった方が良さそうだな。ふいうちとか覚えている可能性もあるが、ヤミラミならば問題ない。

 

「ヤミラミ、毒に構うな! あくのはどう!」

 

 自分も毒にかかったことに気を取られていたヤミラミに、クチナシさんが一喝するとすぐに切り替えてきた。

 ほんとすげぇわ。

 

「メガシンカ」

 

 二つの石が共鳴して発生する光に黒いオーラが呑み込まれていく。その間にもサーナイトは変化を遂げていき、姿を変えた。ついでにフィールドには淡いピンク色のオーラが広がっていく。

 

「連続でシャドーボール!」

 

 形振り構わずってわけではないだろうが、メガシンカの脅威はあの時理解してくれたのだろう。クチナシさんの目がさっきよりも鋭くなっている。

 

「サーナイト、連続テレポートで躱せ。んでもって、マジカルシャインだ」

「かげぶんしん!」

 

 連続で撃ち出してくる影弾をテレポートでひょいひょい躱していくが、毒状態ということもあり、先程のようなキレはない。

 尤も、ヤミラミも同じようなものなのであまり問題にはならなさそうだが。

 サーナイトは次々と移動しては光を迸らせ、分身共々ヤミラミを呑み込んでいく。

 あ、ちゃんと俺は目に両手を当ててるぞ。サングラスをしていても目がチカチカするんだから相当だわ。

 

「ヤミラミ、戦闘不能!」

 

 アブソルの二の舞となってヤミラミは散っていった。

 いや、マジでさっさとしないとサーナイトの方がヤバいからね。リフレッシュとか使えたらどんなに良かったことか。ジュカインみたいにものまねを使えないし、そもそも覚えてないし、俺のところにリフレッシュを使うポケモンもいないから、ジュカインのようにものまねが使えたとしても俺が教えられない。攻撃技は理解しやすいんだがな。………身体の中の異物を取り除く感じ、とでも伝えればいいのだろうか。何かそれだと抽象過ぎるから上手くいかないと思うんだよな。

 

「戻れ、ヤミラミ。………やっぱ、それは反則級だな。手の出しようがねぇ。さらにメガシンカで攻撃力も増しているとなれば、手のつけようがねぇな」

「俺もそう思います。まさかここまでのものになるとは思いませんでしたよ。ただ、こっちも毒状態があるんで、そう悠長にバトルしてられないんすよ」

「ま、そこはオレのツケだな。猛毒くらわせて回避してちょいちょいダメージ与えようだなんて考えが甘かったみたいだよ」

 

 そうは言うけど、本当に毒状態は痛手なんだよなー。

 他の状態異常よりもみるみる顔色が悪くなっていくのが分かるから気が気じゃないんだよ。すげぇ居た堪れない。

 

「んじゃ、最後だな。いくぜ、ペルシアン」

 

 出てきたのはペルシアン。

 ただし、アローラ地方のペルシアンである。あの丸く太々しい顔がインパクト絶大なペルシアンである。

 ………こいつもあくタイプだっけな。

 

「わるだくみ」

「きあいだま」

 

 ………何だろう。不敵な笑みがクチナシさんそっくりである。

 だからだろうか。サーナイトが思いの外、力強く投げていた。

 

「まあ、そう来るわな。ペルシアン、躱してあくのはどう」

 

 追尾機能があるわけでもないし、躱せないことはないもんな。

 

「テレポートからマジカルシャイン」

「ペルシアン、遠慮はいらねぇ。ゼンリョクの悪に飲み込まれちまいな!」

 

 ………腕をクロスさせて来た。ということはZ技か。

 専門タイプがあくタイプのクチナシさんだし、あくタイプのZ技のポーズは比較的簡単なので、あれがあくタイプのZ技のポーズだということも覚えている。

 

「ブラックホールイクリプス」

 

 ペルシアンから放たれる高密度の黒いオーラが収束していき、巨大な球体が出来上がっていく。それにつれて風が起き、砂やら何やらが飛ばされ吸い込まれていっている。

 ………この感じ、覚えがあるぞ。確か、カロスで最終兵器を止めるため、というか放たれたエネルギーを吸収するのにダークライに使わされたあの技と似ている。

 あの時はダークホールの強化版みたいな認識だったため、ブラックホールなんて名付けた気がするが、あれもZ技だったんだろうな。今はサーナイトナイトに変化した黒い菱形のクリスタルを渡されたのもそういうことなのだろう。ただ、Zリングなしだったため不完全ながらの発動だったから球体のようにならなかった、ということなのかもしれない。

 真相はダークライのみぞ知るってな。

 まあ、それならそれで対策は思いついた。要はキャパオーバーを起こさせれば自然消滅するはずだ。

 

「サーナイト、きあいだまを連続で投げ込め!」

 

 上手く吸収されるのか分からない光を吸収させるよりは、エネルギー弾を撃ち込む方が確実だろう。

 ちなみにだが、クチナシさんのZ技のポーズはどこかかっこよく感じてしまったのは内緒である。あの脱力感から放たれる渋さがいい。

 

「………おいおい、これもなのかい? おじさん参っちゃうぜ」

 

 予想通り、撃ち込んだエネルギー弾がブラックホールのキャパオーバーを生み出し大暴発した。

 やるならここだな。

 

「連続テレポートからのマジカルシャイン」

 

 Z技を使った直後はマラソンした直後のような疲れが残る。Z技の一撃で仕留めなければ、そこが大きな隙となるため、Z技はある意味諸刃の剣と言えよう。

 そこを突く俺も性格が悪いとは思うが、これもポケモンバトル。Z技を使うのなら、そのリスクも考慮した上でのことだ。今日は特にギャラリーがうるさそうだが、こっちもサーナイトが心配なのだ。さっさとバトルを終わらせて回復してやりたい。

 

「………完敗だよ」

 

 サーナイトが次々と光を迸らせてペルシアンを呑み込み、一気に戦闘不能へ追いやった。

 サーナイトも必死だったんだろうな。

 これでゆっくり休ませられる。

 

「………ペルシアン、戦闘不能! よって、勝者ハチマン!」

「サナ……」

 

 ククイ博士が判定を下すとサーナイトが元の姿に戻りながら、へなへなとその場に崩折れた。

 

「サーナイト!」

 

 やはり猛毒がかなり回っているようだ。急いで処置しないと。

 

「ハチマン、ムーンからの差し入れだ!」

 

 ククイ博士は持って来ていたバックごと俺に投げつけて来た。

 え、ムーンからの差し入れって………投げて大丈夫なのか?

 

「……とと」

 

 キャッチして中身を確認すると、手書きで「回復の薬」と書かれた回復薬が入っていた。要するに何かあれば使えって感じで用意してくれていたらしい。

 あいつ、準備良過ぎだろ。超助かる。

 

「サーナイト、解毒薬だ。飲み薬みたいだから、取り敢えず口を開けてくれ」

「サナ………」

 

 サーナイトが小さく口を開けてくれたため、そこに瓶の淵を付けて中身を流し込んだ。

 少し口から漏れ出たが、呑み込むことが出来たようで、次第に顔色が落ち着いていった。

 ふぅ、良かった。猛毒にかかると回復にかなり時間がかかるからな。少しでも早く処置出来て良かったわ。

 それにしてもムーンの薬は効き目がすごいな。あっさりと猛毒を解毒しやがった。

 

「サナ!」

 

 うぇ?!

 もう起き上がれるくらいまで回復したのか!?

 いやいや、あいつ優秀過ぎるだろ。いくらミス・ポイズンって言ってもこれは出来過ぎだわ。天才の薬は万能ってか。

 

「おおう、マジか。効き目ヤバすぎだろ………」

 

 ッ?!

 

「ダークライ」

 

 急に何かが飛んで来る気配を感じたため、ダークライに対処を任せた。

 

「………何のつもりだ」

 

 攻撃して来たのは、スカル団の姐御ーープルメリだった。

 横には黒いジュプトル的なのが不敵な笑みを浮かべている。あれは確かエンニュートとか言ったか?

 

「悪いね、こうでもしないとこいつらが何しでかすか分かったもんじゃないんだよ」

「へぇ」

「でもまさか躱すどころか届きもしないなんてね」

「躱す必要がないからな」

 

 下手に躱すとダークライが対処に困っちまうしな。任せたのなら動かない方がいい。

 

「んで? 俺に直接攻撃して来たということは、そういうことでいいんだよな?」

 

 ここはパフォーマンス的に低い声で殺気を放っておいた。それに加えてダークライさんが黒いオーラも付けて盛り上げてくれている。

 

「「「ヒィ!?」」」

 

 うん、そうなるよな。

 姐御だけだわ。殺気を向けられても平気な顔をしているのは。胆力あり過ぎだろ。カプ・テテフに向けたくらいの殺気を放ったつもりなんだけど………グズマで慣れてるからか?

 

「あ、あれは!」

「ウルトラホールだと!?」

 

 蚊帳の外となっていたおじさん二人は関係のない方向を見て驚いていた。見上げてみると空が割れて輝きを放っているではないか。

 そこからぬっと白い触手が伸びて来たかと思うと、見覚えのあるウルトラビーストが現れた。

 

「ウツロイド………!」

 

 姐御かその他の誰かか。

 呟きの通り、姿を見せたのはウツロイドである。俺のところにいるのとは別の個体だろう。

 

「極度の緊張や不安を感じると現れるとも言われている。これだけハチマンの殺気に醸されれば、ウツロイドを呼び寄せたとしてもおかしくはない」

 

 なるほど、確かに人数が多いわな。カプたちの時とは数がまるで違う。

 

「ククイ博士!」

「分かってます! 出てこい、ガオガエン!」

 

 サーナイトもクチナシさんのポケモンもバトル後ということで、ククイ博士に対処を任せるつもりか。

 けど、あいつらって下手に刺激しない方がいいんじゃないか?

 

「しゅるるるるー」

 

 ふわふわと降りて来たウツロイドは俺と目が合う? とゆっくりと近づいて来た。

 えっ、まさか俺を攻撃するつもりなのか? それともこっちのウツロイドに用事でも?

 

「しゅるるるるるぷぷ」

「………え、何?」

 

 触手が俺の右腕に絡みついて来た。

 慣れたとはいえ、いきなりはマジで怖いからね。心づもりくらいさせて欲しい。

 

「しゅるるるるるぷー」

 

 そして何かを握らされた。

 えっ、本当に何なの?

 超怖いんだけど。

 

「………ん? Zクリスタル?」

 

 色は紫。どくかゴースト辺りか?

 何でまたウツロイドが俺に?

 

「しゅるるるるー」

 

 しかも用はそれだけだったらしい。

 他に何かをするわけでもなく触手から解放され、ウツロイドは自らウルトラホールへと戻って行った。

 

「………………」

 

 謎なんだけど。

 ウツロイドの行動がさっぱり読めない。マジで何がしたかったんだ? 俺にZクリスタルを渡すためだけに登場したのか? しかもこのタイミングで?

 

「どゆこと?」

「いや、俺たちが聞きたいくらいだわ。ハチマン、どういうことだよ」

「知らねぇよ。急に出てきてこれ握らせて帰って行ったんだぞ。こっちがどういうことか聞きたいんだっつの」

「………ちなみに何のクリスタルだい?」

「さあ? 紫色ってだけなんで」

「ああ、ドクZじゃねぇか」

「あ、これどくタイプか」

 

 ドクZかー。

 ウツロイドはどくタイプだし、共通点はあるか。ただ、そもそもの話、ウツロイドないしウルトラビーストがZクリスタルを持っていて、あまつさえ人に渡すとかってよくある話なのだろうか。

 

「ニャー」

 

 緊張が場を支配する中、呑気な鳴き声が聞こえてきた。

 どうやらニャビーが起きたらしい。

 

「お、起きたか。お前はいいよな、悩みとか無さそうで」

「ニャ?」

 

 テクテクと擦り寄って来たので抱き上げると何を言われているのかさえ理解していないような素振りを見せてきた。

 

「意味が分からねぇッス………」

「ウツロイドが人を襲わないとかどういうことッスか!」

「そもそもウツロイドがZクリスタルを持っていること自体があり得ねぇッスよ!」

「あれ、絶対あいつの仲間ッスよ! んで、オレたちをハメる気ッス!」

 

 現実を直視出来ない輩共は口々に俺を非難していく。

 反応からやはりウツロイドがZクリスタルを持っていること自体がかなり珍しいようだな。

 

「テメェら、何やってんだァ?」

 

 すると背後からドスの効いた声がした。

 

「グズマ?!」

「「「グズマさん!!」」」

 

 振り返るとそこにはチンピラがいた。

 昨日振りだな。

 

「プルメリ、その辺にしておけ。このお方は一種のポケモンみたいなもんだ。テメェらが敵う相手じゃない」

 

 グズマはどの辺から見ていたのだろうか。

 クチナシさんとのバトルやウツロイドの行動を見ていたのならば、少しは驚いていそうなんだが…………超冷静だな。

 

「………だってさ。アンタらも諦めな」

「………はいッス」

 

 グズマに指摘されたら一気に意気消沈である。

 グズマの言うことは素直に従うんだな。

 それだけグズマが信頼されている証ってわけか。

 

「ククイ、こいつらを下手に刺激するんじゃねぇよ。圧倒的な強さってのは、時に恐怖を与えるもんなんだよ。テメェも分かってんだろ」

「ああ、よく知っているさ。その象徴が何を隠そうお前なんだからな。だから、これはお前らへの問題定義でもある。しっかり解決しろよ」

「ざけんな!」

 

 一体この男は何を企んでいるのやら。

 俺はいいように使われただけっぽいし。

 アローラ地方、大丈夫か?

 

「よし、帰るか」

「え、あ、はい………」

 

 えっ、このまま放置してくのん?

 大丈夫か、こいつら………?

 暴れ回って島一つ無くなるとかないよな?

 

「………あー、プルメリ、さん?」

「………何だい?」

「あんま無理するなよ」

「う、うるさい!」

 

 あ、やっぱそうなのね。

 グズマが現れた途端、緊張の糸が切れたかのように座り込んだから何事かと思ったけど、腰抜かしただけなんだな。

 仲間を守るために顔に出さずに我慢してただけとか、姐御も大変だな。

 

「フッ、強気なプルメリでも無理だったか」

「おっさんは黙ってな! アンタ! この借りは絶対に返すかんね! 覚えときな!」

「おー、こわ」

 

 プルメリの姐御はなんか負け犬のようなセリフを吐いて行ってしまった。

 恥ずかしかったんだろうな。ちょっと涙目でぷるぷるしながらだったし。

 

「あ、兄ちゃん。これもやるよ。おじさんに勝った証だ」

 

 姐御を見送るとクチナシさんがポケットから黒いZクリスタルを差し出してきた。

 

「あざっす。………アクZ、ですよね?」

「ああ、約束したしな」

「正直、Z技のポーズって恥ずいんですよね」

「あー、まあ慣れだな。オレもかっこいいとは思っちゃいねぇし」

 

 だろうね。

 でもいいのかよ、島キングがそんなんで。

 

「それでもまだ我慢出来るレベルなのがあくとかエスパータイプのなんすよね。フェアリータイプのだけは絶対使いたくない」

「まあでも、あれだ。そこにどのZ技でも完璧にかっこよく熟す超人がいるからな。なあ、ククイ博士」

「………かっこいいかはともかくとして、Z技は全力を出す技だ。トレーナーが全力でやらなかったら意味ないだろ?」

「もう少しポーズを考えて欲しかったわ………」

「それは俺に言われても困るってもんだ。別に俺がポーズを決めたわけじゃないんだし」

「そりゃそうなんだけど………。はあ、まあいいか。対応するタイプの技を覚えていないと使えないんだし」

 

 エスパー、でんき、かくとう、どく、あく………か。今のところ全部誰かしらが使えるな。

 ドクZのポーズは見直しておこう。使い時は中々ないだろうけど、いざという時に使えないのでは意味ないのだし。

 さて、この島の中心街であるマリエシティで何か食って帰るか。

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