島巡り三日目。
今日はポニ島へとやって来た。
メレメレ島や昨日のウラウラ島とは打って変わって、何もない島である。あるのは自然。というか手付かずの自然という感じ、良くも悪くもそのままの状態で放置されている感じだ。
「んで? ここは?」
そんな何もない島の連れて来られた場所には祭壇と思われる空間があった。
「日輪の祭壇というソルガレオやルナアーラを呼び出せる場所だ」
「ほーん」
それにしてもデカいな。
周りは山に囲まれていて、その壁面まで祭壇に利用されている。
上空から見れば、山が陥没して出来た空間のように見えることだろう。それくらい広いし、周りとの高低差があり過ぎる。
「待っておったぞ、ククイ博士」
そして現れたのは小さい島クイーン。
名前は何だったかな………。
それともう一人。
「悪いな、パプウ。こんなところに呼び出して」
「構わぬ。ククイ博士にも何か思惑があってのことだろうからの」
「まあな。ここは必ず見せておきたかったんだ。何せ、アローラの伝説に繋がる重要スポットだからな」
「ソルガレオとルナアーラ。あの時のわしはまだまだ未熟だった故、何も出来なかったのう」
二人の話は恐らくウルトラビースト関連の事件のことだろう。
なんてのはいいんだよ。俺としてはこっちの方が気になる。
「………お前、何でいんの?」
「来てもいいって言ったのはヒキガヤさんじゃないですか。それともわたしの応援は、邪魔ですか?」
「ポチャ!」
会う度にあざとさに磨きがかかってきてるのは俺の気のせいだろうか。
この身長差を利用した上目遣いとか懐かしさを感じるレベルだ。絶対あいつと会わせてはいけないと思う。実現してしまったが最後、ムーンに研究のための結婚を強いられそうだ。
何が怖いって、堕とされた前例があるから次も堕ちないとは限らないことだ。ユキノとユイには過去にそれぞれとの思い出があっての延長戦みたいなものだが、イロハだけはスクールを卒業するまでの一週間程しか接してなかったにも関わらず、籠絡されちまったからな。ある意味、正規ルートで攻略されてしまったようなものである。
そんな奴とムーンを会わせてしまえばどうなるかだなんて、想像するまでもない。
というか、だ。何故にエーテルパラダイスの職員の服着てるのん? コスプレにでも目覚めたか?
「二日振りでさらにあざとさに磨きがかかるとか………。ちゃんとやることやってるんだろうな?」
「当たり前じゃないですか。ルザミーネさんの命がかかってるんですから。今日は息抜きでちゃんとグラジオにも言って出て来ましたよ」
「………あいつが了承してるなら、まあいいか」
「ではでは、そういうことで」
優秀なだけに何も言い返す材料がない。
もう来ちゃったものはしょうがないし、観戦でいいんだけどさ。
「んで、その服は?」
「あ、これですか? どうですか? 似合います?」
「まあ、似合わなくもないんじゃないですかね………」
「ぶー、それってどっちなんですか」
「まあ、似合ってるんじゃないの? 知らんけど」
似合わなくもないが、コスプレしてる感が満載なんだよなー。
服に呑まれてるっつーか、もう少し成長したら似合うだろうが、子供感が抜け切ってないからなー。
「テキトーですね」
「また二、三年後くらいに見せてくれ。その時ならもう少しまともな反応も出来るかもしれないと思われるから」
「それ絶対出来ない人のセリフじゃないですか」
「ばっかばか、二、三年後には俺も成長してるかもだろうが」
「とか三年後にも言ってそうだなー」
「そこは否定出来ないんだよなー」
「否定してくださいよ!」
「まあ、あれだ。可愛いけどもいつもの服の方が落ち着くってことで」
「か、可愛い……?」
「ん? そりゃ世間一般的に見てもお前は充分可愛い部類に入るだろ。それとも自分の中ではもっと可愛いの基準が高かったりするのか?」
「い、いえ、そんなことはありませんけど………わたし、可愛いんだ」
あ、これ可愛いって言われ慣れてないパターンか?
なら、もう少しからかってみるか。
「ああ、ムーンは可愛いぞ。超可愛い。妹にしたいくらいだ。あ、でもマイラブリーシスターコマチがいるから妹はなしか。世界一可愛い妹はコマチだけだからな。マスコットにしよう。うん、マスコットだな。ポッチャマと共々可愛いマスコットにしたいくらいだ」
「あああ、もういい! もういいですから! 何ですか、マスコットって!」
「マスコットは皆に可愛がられる存在のことだろ?」
「いや意味を聞いてるんじゃなくてですね! あーもー、何なのこの人………」
あら、ムーンちゃん。お顔が真っ赤よ。
「ポッチャマは可愛いって言われて嬉しそうだぞ?」
「ダメよ、ポッチャマ! この人に堕ちたら最後、元には戻れなくなるわ!」
んな、大袈裟な。
つか、堕ちるって何だよ。
俺を何だと思ってるんだ。
「まあ、ムーンを愛でるのはこのくらいにしておくか。ニャビーを預かっててくれ」
「………揶揄うの間違いでしょ。分かりましたよ」
先の二戦ではその辺で寝ていたり、ククイ博士の腕の中にいたりしたが、流石にこの祭壇らしきところでバトルしようと言うんだ。そこら辺で寝かせておくわけにもいくまい。
「………てか、まだボールに入れてなかったんですね」
「聞いて驚け。意思確認すらしてないぞ」
「わーお、この人ポケモンをたぶらかしてるー」
どちらかと言うと俺がニャビーに誑かされている気もしないでもないんだがな………。
だって、このニャビーちゃん超自由なんだもん。
俺のことベットか何かだとしか思ってないぞ、多分。
朝起きて腹が重たいのは毎日だし、移動は俺の腕の中、食事も何やかんや俺が用意してるし、風呂にだって入れている。俺から離れているのなんて、俺が何かやらないといけない時だけで、それもその辺で寝ているのだ。その癖、どうしたいかっていう意思表示は一切見せて来ない。
あのゲッコウガですら、ケロマツの時に俺のポケモンになることを意思表示してたっていうのに。
「まあ、少なくとも嫌われてはないでしょうし、人間の中では一番気に入られているのでは?」
「そう見えないところが難しいんだよなー」
「アローラのポケモンは人慣れしているポケモンは相当慣れているし、慣れてないポケモンは極端に距離を取りたがることもありますからね。ヒキガヤさんの感覚とは少し違うのかも」
「………地方の特色ってやつか」
環境が違えば感覚も違ってくるもの。
そういうことにしておこう。ニャビーがどうしたいかはその時になれば分かるはず。俺はどっちに転んでもいけるようにしておくだけかな。
「ククイ博士、彼奴は先に誰を倒して来たのだ? わしが最初、ではあるまい」
「ああ、ハラさんとクチナシさんがコテンパンにされて来たところだ」
「あの二人を以ってしてもか。わし、勝てる気せんのじゃが」
「形は島巡りの体を取ってはいるが、ある意味島キング、島クイーンの方が挑戦者感があるからな。パプウも受けて立つって気持ちじゃなくて絶対倒すってくらいの挑戦者のあのギラギラした目でいないと瞬殺されるぞ」
「なるほど、わしらの方が挑戦者であったか。それなら特にシガラミを考える必要もなかろう。かといって、それでわしの勝ちが見えて来るとは到底思い難いがの」
あっちはあっちで俺のことでも確認しているらしい。
確か一人だけまだ子供だったもんな。トレーナー歴もそんなないのだし、他の三人に比べたら経験も浅いだろう。それでも島クイーンに選ばれたのなら、それなりの実力はある、はず。
「まあ良い。それじゃあ、バトルをしようかの」
「了解。ハチマン、いけるかー?」
「あー、大丈夫っすよ」
どうやらあっちの確認も済んだらしくようやくバトルにありつけるようだ。なんかこういうと俺がバトルに飢えてるみたいで語弊を感じるのは気のせいか………?
「よし、ルールを確認しておくぞ。使用ポケモンは三体、どちらかが全員戦闘不能になればバトル終了。あとは公式通りだ。ハチマンはこれまでと変わりないが、パプウは問題ないか?」
「先の二人と同じルールなのじゃろう? だったら問題ないのじゃ」
「オーケー。んじゃ、バトル始め!」
今更ながら気づいたのだが、バトルフィールドは?
まさかフィールドなしのバトルな感じで?
それならそれで俺は全然全くこれぽっちも問題ないのだが。
いいのかね、主にあの子的に。
「ゆくのじゃ、フライゴン!」
最初のポケモンはフライゴン。
じめん・ドラゴンタイプ。
イロハが連れていたからそれなり俺にもデータが蓄積されている。
というか俺のポケモンがサーナイトだって分かってるよな?
………やはり手持ちポケモンが少ないのかね。
「サーナイト」
「サナ!」
うん、今日も可愛い。
「やはりサーナイトであったか。フライゴン、まずはすなあらしじゃ!」
ほー、なるほど。
フライゴンは翼で風を起こして砂嵐を作り出した。
視界は悪くなり、フライゴンの姿もかき消されている。フライゴンには砂漠の精霊の異名があるが、それを見事に再現して見せた感じだ。
さて、こうなると厄介だな。
さっさと砂嵐をどうにかするとしよう。
「サーナイト、サイコキネシスで無風状態にするんだ」
「サーナ!」
サイコキネシスって便利よね。
使い方次第でどうにでもなるから使いやすい。対象物を超念力で操る技って貴重だわ。
「なんじゃと?!」
「おおー、砂嵐が止んだ」
受ける側と見てる側とでは反応はそれぞれだな。
「サーナイト、砂はフライゴンの方にな」
「サナ!」
これで無風状態の中に微細な粒子が滞留している状況が出来上がったな。あとは着火出来ればいいんだが、炎技はまだ使えないしな………。
太陽光を集めるにしても燃やす対象がないといけないし、そもそも時間がかかるからこの状況を維持しておくのは不可能に近い。
となると………。
「フライゴン、ストーンエッジじゃ!」
フライゴンが身体の周りに無数の岩の破片を作り出した。
どうやらこのフライゴンのストーンエッジは纏うタイプの方らしい。
あ、それならもらっておくか。
「サーナイト、出来るだけフライゴンの近くで飛んで来る岩と岩をぶつけて砕け」
次々と飛ばされて来る破片を即座に超念力で受け止めさせ、破片同時をぶつけていく。
カツンカツンと砕けていく破片。
その中に一瞬だけ火花が散った。
おお、完成したな。粉塵爆発。まさか思い付きで作れてしまうとは。
「んな?! フライゴン!?」
「よし、サーナイト。こごえるかぜだ」
そういえばこごえるかぜ覚えてたよね、この子。威力はそこまでないが、相手はじめん・ドラゴンタイプのフライゴンだ。超効果抜群なのだからダメージ量も他のポケモン相手に比べたら期待出来る。
「はがねのつばさじゃ!」
どうやらあの爆発の中、何とか耐え抜いたようだ。
煙の中から鋼鉄の翼を携えてフライゴンが飛び出して来た。
凍風の正面から突っ込んで来るなんて無茶なことを………。
「いっけぇぇぇ!」
彼女の叫びとは対象的に、フライゴンの翼が凍りついていき、失速していく。追加効果が現れたようだな。
んじゃ、トドメといきますか。
「サーナイト、サイコキネシスでトドメだ」
飛んでいるのがやっとなフライゴンの身体を超念力で捕らえ、一気に地面に叩きつけた。
「フライゴン!?」
「………フライゴン、戦闘不能!」
まずは一体。
「戻るのじゃ、フライゴン。………何なのじゃ、あの爆発は。いきなりで驚いたぞ」
「パプウさん、あれは恐らく粉塵爆発です!」
「ふんじんばくはつ………?」
あ、知らない系なのね………。
そっか、それはなんか悪いことをしたな。
「はい、粉塵爆発は空気に微細な粒子が充満している中で着火すると、途端に爆発が起きる現象です。詳しい原理は今は省きますけど………今のは砂嵐を無風状態にすることで砂を空気中に滞留させて、ストーンエッジの破片同士をぶつけ合うことで火花を散らして着火したのだと思われます」
流石研究者。よく見てるじゃないの。
「………そんなことも可能なのか?!」
「ククイ博士からも聞いたこの三日間のバトルでの傾向から、ヒキガヤさんはポケモンの技で自然現象を生み出してダメージを増幅させることを得意としていると思われます。パプウさん、気をつけて下さい!」
………ん?
「ねぇ、ムーンさん? 君、俺の応援に来たんじゃないのん?」
「え? わたし一言もヒキガヤさんの応援に来たとは言ってませんよ?」
なんか素敵な笑顔で返された。
「………………」
………確かに「わたしの応援、いりませんか?」的なことは言ってたが、対象が俺とは一言も言ってなかったかも…………。
「………いい性格してんな」
「そ、そんな褒められても何も出ませんよ?」
そこ照れるところじゃないから。
応援云々はこの際どうだっていい。取り敢えず、この女は一回しばくことにして。
「こうなると、ここはこいつの出番じゃな。トリトドン、ゆくのじゃ!」
二体目はトリトドンか。しかも緑と青が基調ということは東の海の方か。まあ、姿の違いで能力に差があるわけではないためどっちでもいいんだけど。
ただ、トリトドンとバトルしたことがないような気がするんだよな………。連れているトレーナーも俺の周りにはいないし、これまで対戦して来たジムリーダーとかも連れていなかったはずだし。
良くて野生のトリトドンとバトルしたかどうかのレベルだ。姿の違いを比較したこともない。
バトル面では、みず・じめんタイプという組み合わせによりしぶといという情報はあるが、それ以上どういうバトルをするのかは知らない。
なので、ちょっと興味が湧いて来ているのは黙っておこう。そこにムーンもいることだし。
「サーナイト、エナジーボール」
しぶといとは言っても弱点がないわけでもないし、サーナイトなら弱点を突くことが可能だ。こっちから仕掛けていってどれだけしぶといのか確かめてみようではないか。
「ッ!? どろばくだんじゃ!」
投げ放った緑色のエネルギー弾はトリトドンの口から吐き出された泥に呑み込まれて消滅してしまった。
「そのままヘドロウェーブ!」
おっと、毒技も使えるのかよ。
「躱せしながら距離を詰めろ」
動きは遅いためテレポートを使う程ではない。
それだけでも技の一枠が空くためありがたい話だ。
「エナジーボール」
トリトドンの正面に移動すると、サーナイトが再度緑色のエネルギー弾を放った。
すると今度は直撃し、トリトドンを小さな島クイーンの下へと押し飛ばしていく。
「トリトドン?! じこさいせいじゃ!」
おう、マジか………。
トリトドンの傷がみるみる消えたいく。
あいつ、じこさいせい使えるのかよ。そりゃしぶといと言われるだけのことはあるわ。
弱点がくさタイプしかなく、かつじこさいせいを使えるとか超持久戦タイプのポケモンじゃねぇか。
これはさっさと倒すしかないな。
「サーナイト、連続でエナジーボール」
まずは回復させる隙を与えないよう攻撃し続ける。
しかも当たれば大ダメージのくさタイプの技。
加えて射撃系の技なため、動きの遅いトリトドンには緊張が強いられる。
「連続でじゃと?! トリトドン、れいとうビームで落とすのじゃ!」
それを理解したのか小さな島クイーンもその場から動いて躱すのではなく、撃ち落とすことを選択したようだ。
まあ、でも。
動かないのなら好都合。
「くさむすび」
動かないでいてくれるため、地面から伸ばした草で一気に絡め取ることに成功した。
ご丁寧に口にまで草を巻きつけちゃってるよ。トリトドンの攻撃手段の何もかもを奪ったみたいだ。使えるのは身体そのものくらいだが、これだけ巻き付かれていれば動けないだろうし、トリトドンのためにも終わらせてしまおう。
「トドメだ。エナジーボール」
貼り付け状態になったトリトドンに緑色のエネルギー弾を撃ち込んだ。
ドカンと爆発し、トリトドンを捕らえた草すらも粉砕していく。
「トリトドン、戦闘不能!」
ドカッと地面に落ちたトリトドンは気を失っていた。
じこさいせい使われなくて良かった。
「戻れ、トリトドン。………やるな、お主。防戦一方どころか、それすらもやらせてもらえぬとは」
「じこさいせい使われると面倒だったんでな」
「お主のポケモンは使える技のタイプが多彩じゃな。おかげで何を出しても弱点を突かれてしまう」
「ポケモンたちは色んな技を覚える。だからポケモンたちが興味を持った技を習得させてやるのもトレーナーの役目ってもんだろ。んで、そんなこんなしてると技のレパートリーが増えて逆にどの技を使うのか取捨選択するのが大変になってくるがな」
「………確かにのう。じゃが、わしには技の知識がないからのう」
それ、島クイーンとしてどうなのよ。
まあ、アローラならそれでも通用するんだろうけど。
「トレーナーの見せ場はどんな知識を持っていて、その知識を使ってどんなバトルを展開させていくかだ。島クイーンである以上、挑戦を受ける側なわけなんだし、挑戦者を導くためにも広い知識は必要になってくると思うぞ」
「知識か………」
「幸い、アローラにはククイ博士やムーンがいる。他にもポケモンの知識を持った奴はいるはずだ。そいつらに聞けばいいだろ」
「自分で勉強せえとは言わんのだな」
「情報が少なそうなこの島にいる限り、限界があるだろうからな。使えるものは早い内から使えばいい」
人がいるのも港ばっかりだし、その港人も船を停泊させている旅や漁師の人たちばかりのようだからな。島の住民はほとんど見かけなかったし、そうなると入って来る情報なんて偏って来るというもの。
ポケモンの知識を付けようと思うのなら、この島にいるのでは難しいだろう。
「よかろう。じゃがその前に。まだあと一体わしのポケモンがいるのでな。お主にもわしらの力を見せてやるとしよう!」
そう言って出して来た三体目のポケモンは見たことのないポケモンだった。
茶色で厳ついギャロップとでも表現すればいいのだろうか。
恐らく彼女のポケモンの傾向から推測して、じめんタイプか。
「バンバドロ、10まんばりき!」
馬力ということは相当な力の持ち主なのだろう。
あれを正面から受けるのはサーナイトにとって得策ではない。
ならば………。
「サーナイト、あいつの直線上に向けてこごえるかぜ」
重たそうな身体を駆け出したバンバドロの足下に向けて冷気を放った。地面はみるみる凍りつき、若干バンバドロの足音のリズムに乱れが出て来たように聞こえる。
「ヘビィボンバーで凍ったところを躱すのじゃ!」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。小さな島クイーンも自分のポケモンの変化に気づいたようで、凍りついた地面から大ジャンプで退避させた。
やっぱり足を滑らせてくれてたんだな。それでも足を止めないのだから、あっちが指示を変えなかったらどうなっていたことやら………。
「サイコキネシスで受け止めろ」
落下して来るバンバドロを超念力で受け止めさせるが…………減速したくらいで受け止め切れていない。
「くさむすび」
なので、さらに草で物理的に絡め取ることにした。
だが、重過ぎて草が千切れサーナイトが咄嗟に躱すこととなってしまった。
「………重過ぎだろ」
恐るべし、バンバドロ。
下手したら着地するごとに地面に穴が空くんじゃないか?
「ゆくぞ、バンバドロ! ポニ島に張り巡らされし大いなる根よ、我らに力を与え給え!」
小さな島クイーンは腕をクロスさせ、Z技を発動させ始める。
動きを見てもピンと来ない。ということは使いたくない類のZ技だったのだろう。
「サーナイト」
凄いな、あんな恥ずかしげもなくポーズを取るなんて。
あ、くるって回った。これだな、俺が拒否反応を示したのは。
「ライジングランドオーバー!」
なんて考えながらも俺たちもZ技で迎え撃つ準備をしていく。
いやね、ポーズとタイプの組み合わせを覚えてないんだから、対処法がピンと来ないのよ。そうなると同じZ技ぶつけた方が確実なわけで………。
その間にもバンバドロは地面に潜っていく。
マキシマムサイブレイカーはサイコキネシスの上位版でしかなかったし、あれもあなをほるの上位版みたいなものなんだろうな。
「マキシマムサイブレイカー」
地面から飛び出して来たところで超超念力によって押さえ付ける。力は拮抗しているが、上から押さえつける形を取れたサーナイトの方が若干有利なようで、じりじりとバンバドロが地面に近づいて行っている。
「サーナイト、地面に叩きつけろ」
あと一歩ってところなため、一気に仕掛けることにした。
Z技は全パワーを出し切る技なため、最初から全力である。ただ、一瞬くらいならいけるんじゃね、という安易な発想だったが、そこはやはりポケモン。いけちゃったらしい。
素直に凄いと思う。マジで。
「………これでも耐えるとか、トリトドン以上にタフだな」
まあ、それでも倒れないバンバドロもどうかしてると思うけどな。
Z技で押し負けて地面に叩きつけられたのよ?
何ケロッと起き上がってんだよ。
「バンバドロ、ヘビィボンバー!」
もうこれはあれだな。
根本的に強くなるしかないな。
「サーナイト、メガシンカ」
大ジャンプから落下してくるバンバドロに向けてメガシンカエネルギーを解放してやると、白い光に呑まれてサーナイトを見失っている。
「サイコキネシス」
そこをすかさず捕らえた。
「くさむすび」
そして、サーナイトのメガシンカの副産物として生まれる淡いピンク色のオーラが広がった地面から、草を伸ばして雁字搦めに巻きつけていく。トリトドンの比じゃないな、あれ。磔の刑に処されてるみたいだ。
「トドメだ、エナジーボール」
これだと刑の執行って感じだな。
バンバドロ、南無三!
「………バンバドロ、戦闘不能! よって、勝者ハチマン!」
ちょっとククイ博士の頬が引き攣ってるのは見なかったことにしておこう。なまじ知識がある分、俺みたいに見えていたのかもしれない。
「………完敗じゃな」
「バンバドロのタフさには驚かされたけどな。頑丈過ぎない?」
「バンバドロは丈夫じゃからのう」
「ちなみにだがハチマン。バンバドロにはじきゅうりょくという特性があってだな。物理攻撃を受けるとさらに頑丈になるところだったぞ」
「何それ、えげつな」
あれ以上に頑丈になるとか、一体バンバドロの祖先とやらは何を目指していたのだろうか。
まあ、一芸に秀でたポケモンというのは時に恐ろしい存在に化けるからな。
「バンバドロの長所はそのタフさだろうな。今後はそこに重点を置いた戦いからを考えてみるのも面白いかもな」
「確かにな。バンバドロのタフさに挑戦者が投げ出すのが想像出来るぜ」
「タフさであるか………」
ククイ博士のお墨付きを得たところでムーンも入って来た。
「お疲れさまです、パプウさん。惜しかったですね」
「ムーン、最初から勝ちは見えてなかったがのう。こうも実力の差を見せつけられると悔しいのう」
悔しいと思えたのなら彼女は強くなれるだろう。あのおじさんたちはとっくにその領域を卒業してるからへらへらとしてたのだろうが、彼女はまだ島クイーンになったばかりの新米だ。
ここから強くなれたのなら、本物の島クイーンというものだろう。
「この鬼畜、悪魔!」
するとキッ! とムーンに睨まれた。
「いや何でだよ。鬼畜っていうのはな。チャンピオンとフルバトルして一体で五体倒してなお余裕があるのに交代するポケモンのことを言うんだぞ」
「それ、結局はヒキガヤさんのポケモンですよね………」
「そうなんだよなー。しかもあいつポケモンのくせにトレーナーデビューするような異常者だからなー。俺の手にも負えんわ」
「………はい?」
あ、これは変なスイッチが入るパターンか?
「フルメンバーを揃えられておったら瞬殺もあり得たかもしれんの………」
たが、その前に小さな島クイーンの一言でムーンのスイッチが入ることはなかった。
「………ヒキガヤさんのフルメンバーってそんなにヤバいんですか?」
「………ムーン、あれはヤバいなんてものじゃない。恐怖すら覚えるレベルだ」
フルメンバーを知っているククイ博士が遠い目をしている。
俺も明後日の方を向きたくなるくらいだから気持ちは分かるわ。
「あ、そうじゃ。忘れておったわい。お主にこれを渡しておくぞ」
現実逃避でもしたくなったのか小さな島クイーンが強引に話を変えて来た。
なんか、ごめんな。
「……ジメンZ?」
手渡されたのはブラウン系のクリスタル。
さっきも使ってたことだし、十中八九ジメンZだろうな。
「うむ! わしに勝った証じゃ! と言ってもサーナイトは使えんかもしれんが」
「いや、もらっておくよ。サーナイトが使えなくともカロスに戻ったら使える奴はいるんだし」
「そうであったか。では遠慮なくもらってくれ」
「おう、サンキューな」
………使うかは別として。
もらえるものはもらっておく。嫌でもいざという時には選択肢の一つになるだろうし、損することはない。
「ヒキガヤさん、わたしいつかヒキガヤさんの本気のバトル見てみたいです!」
「そうだな、お互い落ち着いたら招待してやるよ」
「はい!」
残る島クイーンもあと一人。
あの肌の黒い女の人は一体どんなバトルをするのだろうか。
最後ともなるとちょっと楽しみにもなってくるな。