ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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25話

「ジュナイパー、はっぱカッター!」

「シルヴァディ、ねっぷうで焼き尽くせ!」

 

 サーナイトが倒れてから二日。

 そう、もう二日も経ったのである。

 だが、一向に目を覚ます気配がない。

 さっきまでずっと病室にいたのだが、そんな俺を見かねたグラジオとムーンに連れ出されて、今はエーテルパラダイスの一角で二人のバトルの指導を行うことになった。

 結局、ククイ博士との見解でメガシンカした状態でのZ技の使用は、使用側のポケモンへの負担が計り知れないのではないかという結論に至った。バトル中に俺の頭に過った仮説はどうやら的を射ていたらしい。それを使ったのだから、結果はこの様だ。

 おかげでこの三日間、サーナイトへの罪悪感だけが募っていくばかりである。

 

「ポッ、チャマーッ!」

「ニャブーッ!」

 

 端の方ではポッチャマが吐いた泡にニャビーが火の粉を当てる練習をしている。

 あの場にいたニャビーにも思うところがあったのか、この三日間ポッチャマとああいうことをやっているらしい。らしいというのはムーンから聞いた情報でしかないため、今初めて実物を見たところである。

 

「シルヴァディ、ニトロチャージ!」

「ジュナイパー、かげぬい!」

 

 何やってんだかなー………。

 

「………と、このくらいか」

「そうね。ヒキガヤさん………? ヒキガヤさん! ヒキガヤさん!」

 

 これカロスに帰ってもエルレイドたちに逢わせる顔がねぇ。大事な娘を預かっているというのに、その娘を俺の思い付きで昏睡状態に陥らせちまったんだ。

 はぁ…………。

 

「ヒキガヤさん、しっかりしてください! 幸い、サーナイトの命に別状はなかったんです。今は極度の疲労によって爆睡しているようなものなんですから、わたしたちに出来ることは無事に目を覚ますことを祈るだけです! 異変が起きないかは職員の方が交代で監視してくれているんですから、ヒキガヤさんも気持ちを切り替えてください!」

 

 さっきから凄い剣幕で呼ばれてる気はしたが、ついにはぐわんぐわんと肩を揺さぶられる始末。

 

「………そうは言われてもだな。そんな簡単に切り替えられる程、俺は図太くねぇんだよな。それに………いや、ムーンは失う怖さをポッチャマで味わってるんだったな」

「ええ、だからヒキガヤさんが今どういう思考に立たされているのかは想像出来ます。感情そのものは人それぞれですが、責任という一点だけに関しては共感出来ますよ。だからこそ、ちゃんと前を向いてください。サーナイトが目を覚ました時に笑顔で迎えてあげてください。彼女はあなたのために頑張ったのですから。まずは褒めてあげないと」

「ああ、そうだな」

 

 それは分かっちゃいるんだけどな。

 そもそも気持ちの切り替え方ってどうやるの?

 てか、もうこの時点で色々とアウトな気がする。

 はぁ………。

 

「………幻滅しただろ。お前にあれこれ言ってきた俺がこの様だなんて」

「いえ、逆にようやくヒキガヤさんの人間らしい部分を垣間見た気分です」

「ふっ、確かにな。オレたちには想像を絶するようなことがあったというのに、一切そんな気を見せなかったからな。人間かどうか怪しいレベルだったぞ」

 

 ………俺ってそんなに人間離れしてたっけ?

 昔からダークライの力を借りてたりしてたからな。その辺の感覚はおかしくなってるだろうけども。

 

「一応まだ人間のつもりだったんだがな」

「いや、カプたちをあんな惨状に仕立て上げられる人間が普通の人間なわけがないだろう? オレもビーストキラーのシルヴァディがいるから一体は何とかってレベルなんだ。それをウツロイドに憑依されたままコントロールして二体相手に圧倒されたんじゃ、無理があると思う」

 

 ビーストキラーねぇ。

 対ウルトラビーストとして人工的に造られたポケモン。

 どこぞの暴君様とは違って一応まともな理由で造られたんだよな。だから、カツラさんみたいなことにもならない。

 まあ、それだけアローラではウルトラビーストが脅威である証なのだろう。

 

「そうは言うけど身体の動きは基本俺の動きだし、技を出す時くらいだぞ。ウツロイドの力なんて」

「そもそも我が物のようにコントロール出来る時点でおかしいんですって」

「まあ、そりゃそうなんだけどよ。割と昔からそういうのを体験している身としては普通のことなんだよなー」

 

 言い換えれば、黒いのに出会った時から人間を辞め始めたことにもなるが。

 十歳やそこらの子供が人間辞め始めるとか、最早正気の沙汰じゃないな。怖すぎる。

 

「それで、オレたちのバトルの感想は?」

「あー………」

 

 全く覚えていません!

 ニャビーとポッチャマが可愛かったことくらいしか覚えてないっす!

 

「心ここに在らずでしたもんね」

「悪い………。まあ、あれだ。グラジオの方はその、シルヴァディだっけ? 対ウルトラビースト用に全タイプに変化出来るように仕組まれてるんだろ?」

 

 取り敢えず、それっぽく当たり障りのないことを言っておくか。

 

「あ、ああ」

「だったら、そこを活用するしかないんじゃないか? そのためにもトレーナー側がいろんなポケモンや技の知識を持っていないとな。あとはシルヴァディだけに頼ったバトルだけはしないように心掛けることだろ」

 

 対ウルトラビースト用に造られたシルヴァディは耳っぽいところが開き、そこに各タイプのデータを読み込んだCDを挿入することでタイプが変化するんだとか。要は全タイプになれるってわけだ。その元となったポケモンは創造神アルセウス。半年前のカントーでの会議でククイ博士が言っていた話である。グラジオ君、あのおじさん界隈ではちょっと有名人だぜ。

 まあ、そうなるとどうしてもシルヴァディ一強のパーティーになってしまうから、そうならないように心掛けていくのが大事ではある。

 かく言う俺もそこまで人のことを言えた義理ではないが、そもそもリザードンしかいなかったのだから仕方のないことだ。増えたところでゲッコウガにジュカインと規格外なのばかりだし、そうでなくともヘルガーやボスゴドラも四天王のポケモン以上の実力があるのだから、一強とすら言えないと思う。

 つまりあれだな。俺のポケモンたちは皆シルヴァディということだ。何ならシルヴァディ以上の奴らも今ボールの中にいるし。どうしよう、そこにサーナイトも仲間入りしようとしているし、普通のポケモンはいつになったら俺のところに来るのだろうか。

 

「………見流してた割には的確だな」

「そりゃ、シルヴァディの説明は以前にも聞いたんでな。改めてグラジオから聞いたが特に違いはなかったし、その知識だけでもこれくらいのことは考えられるってことだ」

「なるほど………。知識をバカにしていると痛い目に見るというわけか」

「そんな感じだな。相手のポケモンのことも分かっていれば、弱点も突けるし、展開を先読みすることだって可能だ。知識はあってなんぼのもんだと思うぞ」

 

 ポケモンは世界中で発見されて登録されていっている。バトルではその全てのポケモンの中から出されると考えれば、膨大な知識が必要になるため、あって困るようなものではないのだ。

 

「あの、わたしの方は?」

「あー………ジュナイパーだったよな。進化前って確かひこうタイプだったんだろ?」

「はい。モクロー及びフクスローはくさ・ひこうタイプでしたよ」

「だったら、タイプが変わったとはいえ、飛行能力がなくなったわけじゃない。そこにゴーストタイプ特有の消える能力を併せることで、背後とか隙を突きやすくなると思うぞ」

「消える能力………」

「何だ? 知らないとか言わないよな?」

「いえ、ジュナイパーが消えるというのが想像出来なくてですね」

 

 ジュナイパーはくさ・ゴーストタイプ。

 なのだが、見た目はデッカいヨルノズクが顔の周りに草を纏っているような姿なので、ゴーストタイプ感がない。

 それ故に、ムーンはジュナイパーが消えるというのが想像出来ないのだろう。

 だが、ゴーストタイプなのは事実なのだから出来るはずだ。………出来るよね?

 

「まあ、そうだな。ゴーストタイプといえど、ゲンガーとかそっち系のポケモン感がないもんな。でも試してたらその内出来るんじゃないか? ゴーストタイプなんだし」

「そうですね。今は無理でもその内出来るように試してみます」

 

 試してたらその内ゴーストダイブを覚えそうだけどな。それは言わないでおこう。

 そもそもジュナイパーってゴーストダイブに適正あるのだろうか。あれば確実に消えることが出来るんだがな………。

 そういえば、ムーンは最初アローラに来た時は自分のポケモンを連れていなかったらしい。つまりはトレーナーになって一年半くらいってところか。

 ………バトルの基礎ってちゃんとあるのか?

 

「ムーンのポケモンはジュナイパーとポッチャマの他にデンヂムシ? にアローラのベトベトンとヒドイデってのだっけ?」

「はい」

 

 電車みたいなデンヂムシには驚いたな。ポケモンってそういうところあるから不思議だ。

 

「タイプの偏りはあるが、弱点のカバーとかは考えてるのか?」

「あー、ジュナイパーのカバーはみずタイプのポッチャマとヒドイデ。その二体のカバーをジュナイパーがって感じで、他の二体がその時その時で対処するって感じですかね。まあ、ポッチャマはバトルすらしたことありませんけど」

 

 一応弱点の補完は考えているようだな。

 それでも厳しそうではあるが。

 ポッチャマに関してはまだ手数として数えられるレベルでも無さそうだし。

 

「ああ、それは何となく分かるわ。ニャビーと可愛いことしてんなーってさっき見てたし」

「わたしたちのバトルはそっちのけで、ちびっ子二人の特訓は見てたんですね。残念です」

「サーナイトのことを考えてる時に、ふと目に入ったんだ。それにちょっと癒されて戻ってこれたようなもんだ」

「どんだけトリップしてたんですか………」

「海より深く?」

「はいはい、そういうのはいいんで」

「ムーンが冷たい………」

 

 なんか歳上あしらい方が小慣れてるのがまるでコマチを見ているようだわ。

 あいつもこんな俺を兄に持った故に上手いもんなー。

 

「んで、グラジオのは?」

「オレか? オレはこのシルヴァディとポリゴンとルガルガンの真昼の姿だ」

 

 えっ………?

 マジ………?

 

「ポリゴン……? マジで……?」

「あ、ああ。何か問題か?」

「いや、まあシルフカンパニーが造り出してからもう十年くらい経つもんな。俺のとこにもポリゴンをZにまで進化させた奴がいるくらいだし」

 

 忘れていたが、もうそんなに経つんだよな。

 元祖、人工ポケモン。

 よくザイモクザは手に入れられたと思うわ。あれ、子供が手に入れられるようなポケモンじゃないぞ。コインゲームを当てに当てたらしいが………マジで一生分の運を使ってそう。

 あ、だからずっと進化させられなかったのか。なるほどなるほど。

 んで、そんなポリゴンさんをグラジオ君も手に入れたと。

 金持ち恐るべし。深くは聞かないでおこう。

 

「進化させたのか?!」

「俺が進化用のパッチを持ってたからな。ポリゴンを持ってない俺に渡して来た奴の意図が未だにさっぱり分からんが」

「そのパッチはどこで手に入るんだ?」

「さあ? 俺はシルフの社員に押し付けられた感じだし、実際はどこで手に入るのかは」

「そうか………。一度シルフに聞いてみるしかないか」

「ポリゴンはデータの塊だし、案外ポリゴン2とかZを解析すればパッチを作ることも出来るんじゃね? 知らんけど」

 

 俺にはさっぱりの領域だが、出来る人は出来るんじゃないか?

 ………ザイモクザもそういうやり方は考え付かなかったのかね。

 

「また無茶苦茶な発想をしますね。強ちいけそうなところが怖いですよ」

「いや、ほらもう十年近く経つんだし、誰かやってそうだけどな。何ならデータ改変して新たな姿に進化してるかもしれんぞ」

「………ありそう」

 

 そんなことが起きてたら名前はどうなるんだろうな。

 ポリゴンの正統進化がポケモン2なんだし、そこは変えないだろうが、失敗作とまで言われるZが今度こそ成功してポリゴン3になるとかならありそう。

 

「グラジオ坊っちゃま! サーナイトが目が覚ましたよ!」

 

 っ?!

 

「本当か?!」

「はい!」

 

 声の主はビッケさんだった。

 そうか、ようやく目を覚ましてくれたのか。

 よかった、本当によかった………。

 

「ハチマン!」

「ああ、いこう」

 

 グラジオに言われるまでもなく俺の足は既に建物の中へと向いている。

 三人を引き連れて駆け足で病室へと向かった。

 

「入るぞ」

 

 中に職員がいるだろうから、グラジオを先頭にして入室。

 多分、俺が先頭でも大丈夫だとは思うが、坊っちゃまの一声の方が確実だろう。

 

「サーナイト………」

 

 ベッドに上半身だけ起き上がらせていたサーナイトが、俺の姿を見るや否やベッドを蹴って飛び込んで来た。

 

「サナ!」

「よかった、目を覚ましたんだな」

 

 受け止めて抱き締めると俺の胸に顔を擦り付けてくる。そのまま頭を撫でるとより一層抱き締めてくる力が増した。

 

「ごめんな。無理をさせちまったようだ。高エネルギーを扱うメガシンカとZ技の併用は危険過ぎた。一瞬頭にも過ったんだ。だが、俺はお前に使わせちまった。これは俺のミスだ。だからお前が責任を感じる必要はないからな」

 

 危うくエルレイドとの約束を果たせなくなるところだった。それくらいの失態である。

 確かにサーナイトは強くなった。だが、それでもまだ子供だ。メガシンカやZ技を難なく扱えている方が珍しいまである。それを同時になんて無茶でしかない。

 ………今後はちゃんと方針を立てよう。サーナイトは俺のもう一人の妹のような娘のような、そんな存在だ。大事なこの子を失ってたまるか。

 

「ヒキガヤさんが初対面のポケモンでも従えてしまうのは、こういうところがあるからかも」

「だろうな。少し愛が重い気もするが………」

「おい、そこの二人。俺にとっちゃ自分のポケモンたちは家族なんだぞ。これくらい当たり前だろうが」

「いや、うん、まあ、いいんじゃないか、うん………」

「そ、そうね。いいと思いますよ」

 

 あ、こいつら絶対愛が重いって引いてるわ。

 けど、仕方ないだろ。こんなことになってしまうような俺と一緒にいてくれるって言ってくれてるんだから、重たいくらいの愛をぶつけて何が悪い。

 あ、悪いとは言ってないか。

 

「そうだ。これライチさんからだ。お前が勝った証のZクリスタル」

 

 ライチさんに最後渡されたイワZをサーナイトに見せた。

 

「これで島キング・島クイーンを全員倒すことが出来た。よく頑張ったな」

「サーナ!」

 

 うん、やっぱりサーナイトはこの無邪気な笑顔が一番だな。

 身体は大きくなってもこれはラルトスの頃から変わらない。俺はこの笑顔を守れるようにもっと知識やら経験やらを蓄えないとな。

 

「ニャブ!」

「ん? ニャビー?」

「サナ?」

 

 サーナイトを褒めちぎっていると俺の足元でニャビーが鳴いた。

 見るとその口にはモンスターボールが加えられている。

 へ? 何故?

 

「あ、この子いつの間にモンスターボールを………」

「………あ、オレの空のボールだな」

「て、ことは………」

 

 グラジオとムーンの視線もニャビーへと集まった。

 

「何だ? くれるのか?」

「ニャブ」

 

 はよ取れと言わんばかりにボールを前に突き出してくる。

 言われるがままにボールを受け取ると次の瞬間あら不思議。ニャビーが自ら開閉ボタンを押して吸い込まれちゃったぜ!

 

「はっ………?」

「「ああー………」」

 

 訳がわからない俺とやっぱりという顔の二人。ビッケさんと職員の方はずっとにこにこしている。

 え、動揺してるの俺だけ?

 

「多分、ヒキガヤさんのサーナイトへの愛を見て、自分もその愛が欲しいってなったんじゃないですか?」

「んなバカな……」

「いやいや、ヒキガヤさんの方がそういうのには詳しいでしょうに」

「そうは言ってもだな………。そんな、ねぇ」

 

 ムーンの言わんとしていることは理解出来る。特殊なケースが多々あったとは言え、心当たりがないわけじゃない。

 だが、決めてがサーナイトへの愛って、小っ恥ずかしすぎるだろ。

 取り敢えず、出してみよ。

 

「ニャビー」

「ニャブ!」

 

 ボールから出すとそのまま俺の胸にダーイブ!

 サーナイトとの隙間に身をよじ入れてくる。

 ………………。

 

「ふっ、くく」

「サナナ!」

 

 サーナイトとばっちり目が合うと笑いが込み上げてきた。

 何だよ、こいつ。マジで可愛いとこあるじゃねぇか。

 

「分かったよ。改めてよろしくな、ニャビー」

「ニャブ」

 

 むふーっとご満悦顔のニャビーにいろいろ持っていかれてしまったな。

 まあでも。

 たまにはこういうこともあっていいんじゃないか?

 

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