サーナイトが回復して二日。
検査結果も経過観察も問題なく退院し、これでようやくカロス行きの目処が立った。
カロスではもうリーグ大会が終盤に入っている。早ければ今日にも決勝戦が行われるのだとか。
最後のバトルくらいは見たかったのだが、こればかりはしょうがない。
ただ、ククイ博士曰く、明日の閉会式には優勝者とのエキシビションマッチが控えているらしい。それには間に合うといいのだが………。
一応カロスに帰るのにライチさんのところで改めてお土産も買ってきた。そんな高いものは買えなかったが、みんなでお揃いのものがあればと思いライチさんに頼んでみたのだ。
まあ、買ったのは指輪なんだけどな。深い意味はないぞ。そもそもあいつらの指のサイズなんて知りもしないのだから、ちゃんとしたものは来たるべき時にちゃんと渡したい。一人、ついで買いをしたのもあるが。
「あーあ、あっという間に三週間も経っちゃいましたねー」
「そうだな」
現在、メレメレ島のハウオリシティの飛行場にて搭乗便を待っているところである。見送りに来てくれたのはククイ博士とグラジオとムーン。エーテルパラダイスではビッケさん率いる俺たちの世話をしてくれていた職員たちにも見送られている。
「……………」
「………なんだよ」
「い、いえ、別に………」
じっとこちらを見つめてくるムーンの目は何か言いたげなものだった。
それと同時にシャツの袖を一摘みされているのだから、正直になれないムーンの乙女心が窺い知れてしまう。
はあ………。
仕方ない、こちらから甘えさせるか。
「あのさ、ふと思ったんだが、よくカップルとかで女の子が男の腕に絡みついて歩いてるってことあるじゃん?」
「………なんですか、唐突に」
「まあ、聞け。俺なんかにって言うとあいつらに怒られそうだが、所謂女の子に囲まれるような男なわけよ、今の俺って。嬉しいことに」
「自慢ですかそうですか」
「あー、ただな。あんまり腕に抱きつかれたことはないなーと思ってな。しかもほら、戻ったら半年経ってましたって状況なわけでその感触を忘れてるわけよ」
「………やれと?」
「嫌ならいいんだぞ、断ってくれて」
「し、仕方がないですね。ヒキガヤさんの変態性には驚かされましたが女の子に飢えているのも事実でしょうしこの可愛い可愛いムーンちゃんが小さいながらにヒキガヤさんを癒やしてあげましょう」
俺の意図を理解したのか、めっちゃ早口のドヤ顔で左腕に抱きついてきた。
顔を紅くしてなかったらドヤ顔が決まってたんだけどなー。
「…………なんか新鮮ですね」
「ほう」
あんな話の振り方なんだし、感想を述べるのは俺の方な気がするんだけどな。
まあ、いいか。
「………わたしには姉がいるんですけど、家がその………名家といいますか、ちょっと他とは違いまして、なかなかお姉さまに抱きつくこととか出来なかったんですよ」
「へぇ………ん? 実家金持ちなの?」
「………ええ、まあ。一般家庭に比べたら」
「いやいやいや。名家って言ってるし」
それなら何で俺と結婚すれば研究し放題とか言い出したんだよ。
いや、そもそもの話、こんな毒女に育つ家庭環境が一般家庭なわけがなかったんだ。ムーンの知識量は当時の俺よりも遥かに上なんだから、金持ちの家じゃなければこんな育ち方はしてないはずだわな。
「ヒキガヤさんはあまり家柄のことなんて興味ないでしょう?」
「ないっちゃないな。カロスにいる姉妹一組がクチバの名家ってやつに入るみたいだが、そういえばってくらいの感覚だし」
「だからヒキガヤさんはいいんですよねー。ちゃんとわたしを見てくれるから」
「そりゃどうも」
これは褒められているのだろうか。
多分、そうなのだろうということにしておこう。
………………ん? ちょっと待てよ?
「いや、いい話みたいに言ってるけど、結局甘える対象がいなかっただけじゃねぇか」
「あ、バレました? ヒキガヤさんが甘えたい時は甘えろだなんて言うから、こういう話好きかなーって」
急にしんみりした話をし出したから何事かと思えば、結局姉にも甘えられなかったってだけの話じゃねえまか。実家が名家ってところに引っ張られるところだったわ。
「はあ………、だったら甘え方の練習でもしておくことだな。ちょうどそこにチョロそうなぼっちゃまもいるんだし」
「はあ?! ちょっと待て! チョロそうなぼっちゃまってオレのことか!?」
俺とは反対側のムーンの隣でタブレットに目を落としていたグラジオが、くわっと顔を上げて反論してきた。
こいつ、聞き耳立ててやがったな。
「グラジオは………ねぇ」
「おい、それはそれで傷付くからな。ほら、試しに来い」
「ええー………、じゃあはい」
話を振られて挙句、遠回しに拒否されたことに納得がいかないのか、ほれっとムーンに両腕を広げて待ち構えるグラジオ君。
「………どうだ?」
「うーん、なんというか包み込まれる感がない。もう少し身長差が欲しい」
し、辛辣すぎるだろ。
グラジオが可哀想になってくるわ。
「くっ、チビで悪かったな! これでもまだまだ成長段階なんだよ」
ムーンよりは高いとはいえ、まだまだ成長途中だもんな。肩幅もそんなにないし。
「よいしょっと」
「おい」
「うーん、やっぱりこっちの方がいいかなー。大人の魅力がたっぷりだし」
ムーンはグラジオから離れると再度腕に絡みつくわけではなく、さらに深く、俺の胴へと抱きついてきた。
ちなみにうちの嫁ズの抱きつき癖ランキングはユイ、イロハ、ハルノ、ユキノといった感じである。しかもそれぞれ部位が異なり、胴、腕、正面、背中とくる。他の嫁ズで抱きついてくるのはコマチくらいだが、あれは昔からだから例外だろう。
まあ、何が言いたいかと言えば、ムーンは本来ユイやイロハよりのべったり甘えたいタイプなのかもしれないということだ。
これだけではまだ何とも言えないがな。
「………ハチマン、ムーンの将来は任せた」
「ええー………」
任されても困るのだが、頬を胸に擦り付けられては頭を撫でてやるしか思いつかないわけで…………。
しかもこれがまた丁度いいサイズ感だから収まりがいい。グラジオじゃ包まれない的なことを言っていたし、こういうのも好きなのだろう。
「………あ。なあ、あれ」
「ッ?! グズマ………!」
グラジオが何かを見つけて指し示すと俺たちも目で追い、ムーンが声を荒げた。
その驚きはこんなところにグズマがやって来たことに対してなのか、この恥ずかしい状況をグズマに見られたことに対してなのかは、俺の想像の中だけで処理しておこう。
「ハチマンの見送りか?」
「………あー、やー、その」
グズマのことだから俺の見送り程度でこんなところにまで来るとは考えられないのだが。
何だろうか、この歯切れの悪さは。
「あれ? グズマ」
「………オレさも一緒に連れてってくれ!」
ククイ博士が両手に飲み物を抱えて戻ってきたタイミングで、グズマが口を開いた。
「「「「はい?」」」」
思わぬ一言に一同頭の上に『?』が浮かんでいる。
………………。
いやいや待て待て待て。
そこまでグズマのことを把握しているわけでもない俺ですら、自ら頭を下げるような輩ではないことは理解しているのだが………グズマが頭を下げた、だと………?
「アローラの外を見る機会なんざ、これを逃したらないと思ってる。だから頼む! オレもカロスに連れてってくれ!」
あ、これガチなやつだわ………。
えぇー、どうしようか。どうしたらいいのん?
「お、おう………確認なんだが、お前のお仲間たちには?」
「………言ってない。が、プルメリがいるから大丈夫だ」
「いやいや、お前に対する目は信仰対象みたいなもんだったぞ? それが急にいなくなったら………」
想像すらしたくない。
別に群れたところでバトルに関しては苦にならないだろうが、色々と面倒事を起こされそうで怖い。それにグズマのことになれば余計に執念深くなりそう。
「だったらムーン」
「ふぇ、わたし?!」
「あいつらに伝えておいてくれ」
ここでムーンに頼ったところで、伝えに行ったムーンに迷惑がかかるだけだ。それならここで解決してしまわないとダメか。
最後の最後まで面倒事を持ちかけやがって………。
「ハウの方はいいのか?」
「店のことがあるからな。あいつには伝えてきた」
「扱いの差よ………」
ハウが誰のことを指しているのかは思い出せないが、グラジオの問いへの答えの差が激しく感じる。
お仲間ってその程度のなのん?
………一応これでもスカル団なるチンピラ集団のトップを務めていた男だ。お仲間たちへの思いやりがあったからこそ表に立ったのだろうし、少なくともそんな雑な扱いをするとは思えない。
「いくつか聞いておきたいんだが………何のためにカロスに行く気だ? まさか外を見るためだけじゃないよな?」
「………フン」
こいつ………。
話す気はないってか。
それならそれでこっちにも考えがあるからな。
「なら、この話はなしだ。理由もなく面倒事を増やせるかよ。俺だってカロスに戻ってもどうなるか分かんねぇのに、お前の面倒まだ見れるわけないだろ」
「………チッ、オレは強くねぇといけねぇんだ。じゃねぇと仲間の一人も守れねぇクズの大将でしかない。現にルザミーネの口車に乗せられてあいつらまで危険な目に遭わせちまった。だからオレは二度と同じ過ちを冒さねぇように強くならねぇといけねぇんだよ」
揺さぶるとすぐに口を開く辺り、外に出ようとしているのは本気なようだ。それにお仲間に対する罪悪感も嘘ではないのだろう。
けど、何というか。
何かそれじゃないような気がするんだよな………。
「………本当にそれだけか?」
俺の思い違いならそれでいいんだけど。
この際ハッキリさせておいて、後々面倒な事になるのだけは避けた方がいいだろう。
「何が言いたい………」
「いや、それだけが理由なら別に俺について来る必要もないなと思ってな。外に行きたいならこうして飛行場もあるんだから、いつでもいけるじゃねぇか。だからあるんだろ? 俺じゃないといけない理由が」
口が開くのに任せて御託を並べてみたが、案外俺が気になるのはそこなのだろうな。
外に出るのに俺について来る必要はどこにもない。一人が不安だというのなら誰かと行けばいい。『俺』である必要性が感じられないのだ。
「………因果応報っつーか、オレもウツロイドに呑まれてウルトラホールに連れて行かれたんだ。それを知ったプルメリがザオボーの野郎にいいように使われてムーンの格好までして事態を悪化させるようなことをさせちまった」
「だから責任を感じていると?」
「いや、それもあるが女一人守れねぇような男なんざ格好悪いだけじゃねぇか。オレはそんなオレさま自身を許せねぇ。だから新たな武器としてメガシンカを習得したい」
………ああ、なるほど。
要するに格好良くありたいんだな。
女の前で弱い自分を見せたくない。お仲間さんに対しても似たような感覚なのだろう。こうして頼み込む事自体が格好悪い。だから敢えてお仲間には言って来なかった、と。
ザイモクザ辺りだけが感動しそうな話だな。
ユキノとかなら逆に「先の出来事で迷惑をかけているのだから報連相はしっかりして迷惑かけないようにするのが筋なんじゃないかしら?」くらい言いそうだわ。
「………ああだこうだ言ってた割には、突き詰めると一人の女のためじゃねぇか」
「………悪ィかよ」
「いや別に。お前にもそういう存在がいるんだなって思っただけだ」
「そんなんじゃねぇよ。オレはあいつに借りがあるだけだ」
「はあ………。やっぱりあなたはバカね。ねぇ、そこにいるんでしょ? 出て来たら?」
………え?
誰かいるのん?
「ッ!? プルメリ?! おま、何でここに!? つか、今の話聞いてやがったのか?!」
お、おう………まさかの姐御じゃないッスか。
様子がおかしいグズマが心配で尾けて来たのか?
健気だねぇ。
「アンタの考えてることなんてお見通しだよ。負けた相手についていくなんざ格好悪い。だけど、これを逃したら本当にダメになっちまう。だからアタイらには何も言わず出てきたってところだろう?」
「んぐ………ああ、そうだ。お前の想像通りだ。お前らのトップが負けた相手に頭下げてんのなんか見せられるかよ」
グズマの思考回路をよく理解されているようで。
俺もよくユキノに考えてること読まれるからなー。女って何でそんなに敏感なのだろうか。マジでビビるからね。
「あんなことをしでかしたアタイのためかい?」
「………チッ、半々くらいだ」
「そうかい。………あいつらのことはアタイに任せな。アンタが帰ってくるまでくらい、どうにかしてやるさ」
あの無秩序な輩たちを一人でまとめるというのか。
まあ、あの目力は半端ないもんな。睨まれると動けなくなるぞ。お仲間たちも姉御には従順だったし問題はないのだろう。
「だから強くなって帰ってきな。どんだけ負けようが挫折しようが、アタイらのトップはアンタで、アンタはアタイらにとって最強のグズマなんだからね」
これで一応問題が起きることはなさそう、かな。
てか、このままだとグズマもついて来るのか…………。
戻ってからのプランすら決まってないってのに、どうしようかなー。
「なあ、ムーン。姐御ってマジ姐御だな」
「男前ですよねー。でも、実際中身は一途に追い続ける乙女ですよ?」
「あー、やっぱりそうなんだな。なんかこう既視感を覚えたもん」
「ヒキガヤさんにも?」
「ほら、ストーカー的なのいるって言っただろ? あいつに近いものがあるなと」
性格は違えど、姐御はユキノに通ずるところがあると思う。
ほら、気が強いところとか。
「ちょっとそこの二人! 変なこと吹き込んでんじゃないよ! それとグズマに何かあったら承知しないからね!」
この素直じゃない感じとか、特に。
うん、一つ面白いこと思いついたわ。これくらいの度量は見せてもらわないとな。俺も人の事は言えないとは思うが………。
「………そうだな。グズマ、一つ条件がある」
「なんだ……」
「その人を抱きしめてやれ」
「「はっ?」」
まあ、当然の反応だな。
横でムーンも驚いてこっちを見てきたが、すぐに二人の方を見て不敵な笑みを浮かべている。
「言葉は漢気溢れてるが、一番寂しいのはその人なんだからな。最後くらい抱きしめてやるくらいしてやれよ」
「そうだそうだー。たまには男を見せやがれー」
何とも棒読みなヤジが一つ飛んでいるが、気にしないでおこう。
てか、ムーンちゃん。もう少し心込めてあげようよ。
「い、いや、待て、待ってくれ! そんな強制的にじゃプルメリが嫌がるだろ!」
「嫌がると思わなかったから言ってるんだけど?」
「乙女を甘く見るなー」
「お、おう………」
なんか反論したいようだが、ムーンの棒読みにその気が削がれてってるな。
あのグズマですら反応に困るのか………。
ムーンちゃん、恐るべし。
「………うぉ?!」
「…………バカ。いってらっしゃい」
だが、姐御には効果抜群だったらしい。
真っ赤になった顔をグズマの胸に埋めることで隠すことに成功した。
「…………」
姐御の急なハグにグズマの方が固まっている。
ガシガシと頭を掻いて、ようやく口を開いた。
「おう、いってくる」
俺もあんな感じなのかね。
嫁ズたちはいいとしてもザイモクザ辺りはどういう気分で見ていたのだろうか。気にしないようにして来たが、いざ見せられる方になると何とも言い難い何かを感じるわ。
まあ、取り敢えず。
ごちそうさん。
「………ヒキガヤさんも人が悪いですね」
「俺が善人に見えるか?」
「いいえー。どちらかというとダークヒーローですよねー」
「それを言ったらグズマもじゃね?」
「グズマはダークそのものじゃないですか」
「おいおい、お仲間からしたらあれでもヒーローなんだぞ?」
「あー、まあそうですね。明確なヒロインもいるわけですし」
「「おい、そこ!」」
この子めっちゃ煽るやん。
それに乗っかる俺もどうかと思うが、仕掛けた手前乗らざるを得ないからどうしようもないんだ。許せ。
「変な想像してんじゃねぇよ!」
「変な想像してんじゃないよ!」
「息ぴったりだな」
「ですねー」
人が悪いのはムーンの方なんじゃないだろうか。
さっきグズマが言っていた姐御の変装ムーン事件を根に持っているのかもしれない。
見かけによらず女って生き物は怖い怖い。
流石に二人が可哀想だし、この下りはこの辺で終わらせることにしよう。
「………メガシンカを習得って言ってたが、そう簡単に得られるような代物でもないぞ」
「ああ、分かってるさ。逆にそれくらい歯応えねぇと挑む意味すらねぇ」
「ならいい。面倒臭いが同行を許可してやる」
本当に面倒臭いが仕方ない。
「なんか悪いな、ハチマン」
「いいっすよ、もう。あっちに行ってから泣く事になるでしょうから」
主にメガシンカするのに必要な石がそもそも見つけられないってところでな。
流石にそこは自力で探し出してもらいたい。俺に手伝う余裕はないだろうし。
「チケットはあるのか?」
「後に引けないようにするために先に買っておいたぜ」
「お前、そういうところは思い切りがいいのな………」
さっきから本気度は伺い知れるのだが、やり方が極端過ぎるんだよ。もしダメだったらとか考えないのかね。
『間もなく、十時四十八分発、カロス地方ミアレ空港行きのオンバット便の搭乗が開始されます』
おっと。
もう時間じゃねぇか。
「時間だな」
「…………」
「あ、そうだ」
やっべ、忘れてた。
グズマのせいでムーンに渡すの忘れるところだったじゃん。
「ライチさんのところで買ったのを渡すの忘れてたわ。ほれ」
ムーンに小さい箱を渡すと訝しむように受け取り中身を確認し出した。
「………指輪? いやネックレス?」
「一応指輪だが、ぶかぶかだろうからチェーンを付けてもらったんだ。あ、深い意味はないからな。こっちに来てからお前にも世話になったから、その礼みたいなもんだ」
指輪=結婚しようなんて発想になられては困る。
これは何となくムーンに似合うかなって思ったただの月のデザインがされた指輪だ。そんなにお高くもなかったしな。
「………ほんと、ヒキガヤさんは人が悪いですね。こんなのを最後に渡すなんて忘れられなくなるじゃないですか」
「そりゃそうだ。俺は世間一般的には死んだ人間なんだ。お前には俺が生きていることを覚えていてもらわないとだからな」
結局、俺が生きていることを知っているのはアローラの住人しかいないし、その中でも俺のことを知っていたのはククイ博士とクチナシさんくらいだ。グラジオですら、俺の過去の方は知らないようだし。それくらい世界とは閉鎖的なアローラで一から俺のことを知ったムーンには俺が生きていることを覚えておいて欲しいと思ったのは事実。そこに指輪は関係ないが、物があった方が記憶の紐付けもしやすいことだろう。
「………あいつは天然なんだろうか。それとも狙ってやってるのだろうか」
「多分、天然だと思うぞ」
「………何だよ」
「「いや、別に」」
ククイ博士とグラジオが何か言いたげな目で俺を見てくる。
そんな目で見られても男どもには何もないぞ。グラジオ辺りには帰ってから何か送るかもしれないが。
「ほら、グズマ行くぞ」
「あ、ああ。………やっぱりお前には勝てそうにねぇわ」
「何だよ、いきなり」
「別に、こっちの話だ」
何なんだろうか。
ククイ博士といいグラジオといい、さっきからやれやれって空気を醸し出すのはやめてくれ。そこにグズマまで参加されたんじゃ凄く居た堪れない。
「ヒキガヤさん、ごめんなさい。ずっと研究漬けだったので何も用意出来ませんでした」
「別にいいよ。俺が勝手に用意しただけだから」
「だから、その………次に会えた時はわたしが何でも一つ言うことを聞いてあげます」
「何でもねぇ」
「ええ、何でもです」
………女の子が何でも一つ言うことを聞くとか、そんな約束を男とするもんじゃないと思うんだがな。
「だから、無茶しても死んじゃダメですからね!」
…………。
こいつは俺が死ぬと思っているのだろうか。
確かに普通の人間なら既に死んでるような事だったけど、結果として俺は生きている。というか多分死のうとしてもポケモンたちの方が死なせてくれないまである。
「ああ、そうだな。んじゃ、いつかまたどこかでな」
「いや、それ絶対会う気ないやつじゃないですか!」
「冗談だ。お前が頑張ってたら、その内会えるんじゃねぇの? 俺の方は死ぬことだけは無さそうだし」
「不死身ですか………」
「こんなになってまで生きてるんだから、ある意味不死身だろ」
「そうですね………。分かりました。その時は必ず甘え倒してみせます!」
「頑張れよ」
天才的な薬学者はこれでもまだ十三歳くらいの少女である。
何年後になるかは知らないが、この天才少女が有名になる頃にはまた会えることだろう。
これからも何が起こるかは分からないが、これで楽しみが一つ増えたわけだ。
だから、絶対生き抜いてあいつらのところに戻ってやる!