シリーズ最後の作品になりますが、次回でようやく三分の一くらいが終わることになります。終わるのにあと一年、下手したら二年くらいかかりそうですね………。
でも、ようやく描きたかったところへ辿り着くのでわくわくしています。
それでは皆さん、今年一年ありがとうごさいました。良いお年を。
やって参りました、カロス地方はミアレシティ。
ようやく、ようやくである。
「………マジか。アローラの何倍も人がいるじゃねぇか。しかもクソ寒ィ」
空港にいる時から人が多いと嘆いていたグズマであるが、一歩外に出たらこれである。
こんなもんで絶句していると、この先息が吸えなくなるぞ。
「サナー!」
「ニャブ!」
そして対極的なのはこの子たち。空港を出てから外に出してみると、やはり俺に抱きついてくるサーナイトと俺の腕に抱えられるのが定位置となったニャビーである。
両腕がポケモンたちにより既に使用済みになってしまっているが、頭に乗られるよりは遥かに楽だ。
「大会の最終日だからな。恐らくビルの外に設置されている大画面でライブ配信もするだろうし、野外観戦者も来てるんじゃないか?」
「それでこの人の多さかよ………」
「まあ、それを抜きにしてもミアレはカロスの中心部だからな。人口は一番多いし、こんなのが日常だぞ」
それでもいつもより多いのも事実。
でなければ大会を開いている意味もない。
いつも以上に賑わい、人が行き交わなければ、大会から生まれる経済効果にも期待出来ないからな。
そういう意味では今年も成功したと言えるだろう。あとは何事もなく無事に大会が終わればいい。それも去年みたいなことはないだろうから心配するだけ無駄だろうが………。
さて、俺たちもどこで観戦しようか。
会場内はまず無理だろう。これだけの盛況だ。事前販売でチケットは完売し、当日券はなくなっているはず。
となるとやはり四方に大画面が設置されていそうなプリズムタワーが無難かな。人は多いだろうが、どうにかなるはずだ。
「よし、取り敢えずプリズムタワーに向かうぞ」
「はっ? 会場じゃねぇのか?」
「ポケモントレーナーを舐めるなよ? カロス地方でのトレーナー同士の頂上決戦が行われてるんだぞ? 会場のチケットなんか完売しているに決まってるだろ」
「お、おう………アローラじゃ想像つかねぇな」
「ここはカロス地方だ。アローラ地方の常識なんか通じると思うなよ」
「わ、分かった。やべぇな、外は。マジかよ…………」
アローラとのギャップの差に既に目が死んでいるグズマ。
こいつ、メガシンカとか言ってる場合じゃないんじゃね?
まずは人慣れしないことにはカロスでの生活もままならないだろ………。
はあ、面倒くさい。
やはり一人で来るべきだったかな。せめて同行者がムーンとかグラジオ辺りならここまで俺が気に病む必要もないだろうに。
「なあ、プリズムタワー? ってのは?」
「あー、ミアレシティの中心に聳え立つ街のシンボルみたいなもんだ。中にはジムもあるぞ」
「ジム………? ジムっつーと、あれか? アローラの大試練的なやつとかいう」
「まあ、近からず遠からずって感じだな。今開かれている大会には基本誰でも挑戦可能ではあるが、それだと挑戦者がくそ多くなるからな。篩に掛けるために、大会である本戦に向けての予選が事前に開かれるんだ。ただ、八人のジムリーダーを倒して八つのバッジを手に入れた者だけは予選を飛ばして本戦から参加出来る。その本戦出場者の数で予選枠も加減されるって感じだな。極端な話、バッジを八つ取ったトレーナーが増えると予選すら行われなくなる」
「………シビアだな」
「そういう大会なんだよ。だからこそ、観戦も盛り上がるんだ。優勝者には四天王に挑む権利が与えられ、四天王四人を倒すとチャンピオンと戦える。まさに下剋上するための最初の一歩だな、ジム戦は」
「言いたいことは分かったが………いいのかよ、そういう例えで」
「俺はずっとそういうもんだと認識している。他の人はどうかは知らんが」
下剋上ってのは上手い表現だと思うんだがな。
「極端な話、トレーナーデビューして一年目の奴がバッジを八つ全て集め切り、リーグ大会で優勝して四天王もチャンピオンも倒してしまうことだって考えられる」
これを下剋上以外何と表現すればいいのだろうか。
「………んな奴いるのか?」
「まあ、可能性の話だ。ただ、今の四天王の一人はトレーナーデビューして二年目だぞ?」
「おい、それ大して変わんねぇじゃねぇか!」
「だから有り得なくもない話なんだよ」
「………外の人間が恐ろしいぜ」
「でも、お前が求めていた刺激ってのはこういうのじゃねぇの?」
「ハッ、違いねぇぜ。アローラにいたんじゃ、まずこんな恐怖を覚えることすら出来ねぇ。んなんじゃ、オレさまは強くなるどころか雑魚に成り下がる一方だ」
言いたいことは分からなくもない。
アローラではまず味わえない刺激だ。グズマが燻っていたのも理解出来る。ただ、アローラはそれが売りでもある。刺激が少ないからこそ、ゆったり出来るのだろう。
もう少し外との繋がりを持てれば………それこそポケモンリーグ創設によって、少しは外とのやり取りが増えれば、グズマやお仲間さんみたいな輩がはみ出さずに済むだろうに。
「お、見えて来たぞ、プリズムタワー」
「あん? アローラにはねぇ高さだな。強いて言えばホクラニ天文台くらいか? いや、あれもそんな高いとも思えねぇし………」
ミアレのシンボル、プリズムタワー。
やはり今日もここに人が集まっているみたいだな。会場はもう少し離れたところではあるが、ここ周辺は広場としても優秀だからな。出店も並んでいるし、人が来ないわけがない。
「グズマ、出店の確認していいか?」
「あん? 何かあるのか?」
「最終日ともなれば、人気トレーナーのグッズとか売られてたりするんだよ。それでどういうトレーナーが出てたのか確認しようと思ってな」
「………は? それ、大会期間中に製作してるってことか?」
「まあな。大会後はオンライン販売とかに移るが、企業にとってはこの最終日が商戦になるらしいぞ」
「アローラァァァ………」
この反応を見るにアローラではそういう企業同士の戦いもあまりないんだな。
そもそもあっちにいても大組織なんてエーテル財団くらいしか聞かなかったし、企業化している方が珍しいのかもしれない。
これでは最早、田舎地方とかのレベルではなく時代遅れとも言えそうだ。
「優勝したエックス選手が着ている物と同じジャージが二割引だよーっ!」
「新四天王のプロマイドカード、今ならセット売りしまーす!」
ちらほらと店員の呼びかけで聞こえて来るのはエックスと新四天王という単語ばかりである。
新四天王ということはイロハのことだろう。まあ、そこに目をつけるのは妥当か。初日のユキノとのエキシビションマッチであれだけ派手にやったんだ。大会期間中だけでも名前は大きく広まったことだろう。
となるともう一人の方か。
エックスというのは恐らくあいつのことだろう。過去のトラウマを拗らせた俺みたいな奴。手持ち五体を同時にメガシンカさせた図鑑所有者が、ようやく返り咲いたということか?
『皆さん、早いもので第二回カロスポケモンリーグ大会の最終日がやって参りました! 知恵と経験を振り絞った戦いも昨日で終わり、見事エックス選手が優勝を果たしました! そして、今日はそのエックス選手と未だ明かされていないシークレットゲストがエキシビションマッチを行うことになっております! 果たして、誰がゲストとして現れるのでしょうか!』
プリズムタワーの方からアナウンス? コマーシャル? が聞こえてきた。やはり優勝したのはエックスで間違いないようだ。
まあ、このバトルだけでも見られれば俺は充分だな。一つ気になるのはシークレットゲストだが。
元々は俺がバトルするはずだった。それがこんなことになってしまい、現状では俺が死んだことになっている。つまりはエキシビションマッチの相手も変更せざるを得なくなったというわけだ。
ユキノもイロハも初日にエキシビションマッチをしているため、可能性としては低いだろう。かと言って、他にシークレットゲストに相応しいトレーナーがいるかと言われると、あとはカルネさんくらいしか思いつかないが、優勝者は四天王に挑み勝てばチャンピオンとバトル出来るのだから、その線もないように思える。
実力と知名度を兼ね備えたゲストトレーナーなんて割と候補が絞られてくるな。一体誰を呼んだんだ………?
「オーダイル人形、追加で五十体限定販売いたしまーす!」
「メガシンカしたリザードンや他のポケモンたちの人形もありますよー!」
一部、優勝者でも四天王でもない奴のグッズもあるみたいだが。
この盛況なら、売上も問題なさそうだ。
本当に俺がいなくなっても上手く運営してくれているみたいだな。まあ、そもそもユキノシタ姉妹がほとんど主導してたし、そんなに影響はないのかもしれないが。
「サナ!」
「ん? ………うわぁ」
サーナイトが何かに気づいてくいくいと袖を引っ張ってきたので見てみると、『氷の女王セット』なるものと『アイドル四天王セット』なるものの貼り紙があった。
あれ、何なんだろうな。中身は開けてお楽しみのシークレット福袋みたいだが…………。
そして、値段がヤバい。一万円とか高過ぎだろ。
「非常にマニアックな方たちも参戦しているということにしておこうな」
「サナ」
何が入っているのか気にならないこともないが、買うのはやめておこう。もし買って本人たちに見つかりでもしたら針のような視線が刺されることだろう。
想像するだけで恐ろしい。
『さあ、いよいよ本日のメインイベント! エキシビションマッチの時間がやって参りました! まずはこの方に登場して頂きましょう! 第二回大会優勝者、エックス!!』
プリズムタワーの方からいよいよエキシビションマッチが始まる動きが聞こえてきた。
「グズマ、もういいぞ」
「お、おう………なあ、何でみんな人形なんか買いたがるんだ?」
「知らん。だが、需要があるのは確かだ」
人が多くても大画面は結構な高さに設置されているため、人の頭で見えないということもない。
この点は計算されているのだろう。去年は大画面も設置してなかったし、いい改善点だわ。
『そして、気になるゲストはこの方! 仮面のハチ!』
案の定、あのエックスが出てきた後、続いて覆面姿の奴が出てきた。
『彼はガラル地方で有名なトレーナーのようで、未だ公式戦無敗の現チャンピオン、ダンデを相手にもう少し判定が遅ければ引き分けになっていた、という前代未聞の結果を叩き出しているようですね』
知らない奴だ。
しかもガラルで有名とか、カロスでは知名度低いんじゃないか?
つか、誰が呼んだんだよ。あいつらにガラルの人脈があるなんて聞いたことがないんだけど。
ユキノシタ家か?
………人脈あるのがユキノシタ家しか思いつかない俺が言えたことでもないな。
『もう、この事実だけで彼がチャンピオン級の実力者であることはひしひしと伝わってきますが、カルネさん。いかがでしょう』
『私もガラル地方にそういうトレーナーがいるという程度にしか知らなかったので、さっきゲストだって伝えられた時は驚きましたね。一体誰がそういうトレーナーとパイプを築けているのか教えて欲しいくらいだけど。あ、ちなみに名前はあっちでの通り名みたいなものらしいわよ。ガラル地方ではジム戦が観客を入れた一大イベントのようなものになっていて、挑戦者も観客に魅せる必要もあってあの覆面をしているのではないかしら』
『なるほど、ガラル地方ならではということですか』
覆面に関しては去年もまあ、それなりに変なのはいたんだしいいとしてだ。
あの覆面のチョイスはどうなんだよ………。
「ニャブ!」
「………なあ、あれ。ガオガエンの覆面だよな」
「だな。俺にはちょっとどころではない抵抗感があるが、まあ人それぞれってことで」
「………ククイを思い出すからオレさまはパスだぜ」
「あー、それは理解出来なくもないな。あの人なら平気でやり兼ねん」
グズマの指摘通り、ククイ博士ならあの覆面を被っていたとしても違和感ない。嬉々としてやりそうである。
嬉々といえばニャビーも目をキラキラさせている。自分の進化後の姿がモチーフの覆面が羨ましいのだろうか。
でもな、お前が付けたら顔はガオガエン、身体はニャビーって感じのシュールな姿になるからな?
「ガオガエン?」
すると、俺たちの横で車椅子を引いた女性が会話に加わってきた。
「っ?!」
まさかのハルノだった。
だが、多分ククイ博士と色違いの帽子にサングラスをしているため、顔もアホ毛も見えないしバレていない様子。
「あん? あの覆面の元になったポケモンだ」
「ふーん。………あ、なんか見たことがあるかも」
現状を把握出来ていない以上、カロスで下手に身バレするのは不味いだろう。外との交流が比較的少ないアローラだから、俺もフランクにいられただけである。
会話は先に反応したグズマに任せるとしよう。
「ハルノ? 誰かと話しているのか?」
ッ?!
この声………。
「ああ、うん。エキシビションマッチの相手が覆面姿で出てきたからさ。その覆面がガオガエンってポケモンが元になってるんだって」
「ほう」
「どこか悪いのか?」
「目がちょっとね」
「見えねぇのか?」
「んー、医者は極度のストレスによる一過性のものだって言ってたんだけど」
やっぱり、そうだよな………。
えぇ、目が見えないってどういうことだよ。しかも車椅子って………マジでこの半年の間に何があったって言うんだ?
それにしてもいつもの服装からは想像付かないのを着ているな。女性をじっと見るものではないが、いつものギャップ差からつい魅入ってします。
いや、まさか白のニットに花柄のロングスカート姿で車椅子に座っている女性が、ヒラツカ先生だとは思わねぇよ。ハルノがいて、声を聞いてようやくそうだよなって感じなんだから、相当のギャップだと思う。
まあ、これはこれで超有りなので、是非とも今後もそういう服装もしてもらいたいものだ。
『それでは、ルールを説明していきましょう! 今回のエキシビジョンマッチは一対一の一本勝負! 初日のエキシビジョンマッチでは、フルバトルならではのトレーナーの読み合いも試されましたが、今回はバトルに選出するポケモン次第で、バトルの流れは大きく傾きます! ましてや相手はガラル地方のチャンピオン級トレーナー。例え相性が良くてもひっくり返されることだってあるかもしれません!』
初日がフルバトルで最終日が一対一か。
初日のはイロハの実力のお披露目って目的もあっただろうし、最終日の今日は閉会式が控えている。しかも優勝者のポケモンたちは連日バトルが続いていたのだから、フルバトルさせるのも酷な話だ。
それを考慮してこの対極的なバトル形式にしたのだろう。
『あとはこれまでと同様公式ルールに則って行われます。さあ、エックス選手の直感はどれ程のものか見せてもらいましょう! バトル、開始!』
直感か。
確かにそうかもしれないな。
交代もなければ、後続もいない。出すポケモン次第でタイプ相性が決まってしまう。だけど、相手がどのポケモンを出してくるのかなんて分からないのだから、直感に頼るしかない。
ある意味、四天王やチャンピオンと戦おうとしている奴が、直感すら冴えていないんじゃ運も引き寄せられないもんな。
『いけ、サラメ!』
『サーナイト』
エックスはリザードン。
対するガオガエン仮面の男はサーナイト。
そこ、ガオガエンじゃねぇのかよ!
『………その覆面のモチーフのポケモンじゃないんですね。連れていない、なんてことはないでしょう?』
『ああ、ちゃんといるぞ。仮面のハチの切り札として有名だから』
『舐められたものですね。でもサーナイトが相手ならカルネさんとの前哨戦と思っておきます』
まあ、確かに。
チャンピオン級と紹介されたトレーナーが一対一のバトルで切り札を出して来ないってなると、挑戦者からしたら格上に切り札も出してもらえない程度にしか見られてないと思ってもおかしくはないな。
『別に舐めてるわけじゃないんだけどな………。何ならメガシンカ使いが相手だからって理由なんだが』
ガラル地方の情報はあまり持っていないため何とも言えないが、果たして前哨戦ってことで済むかどうか…………。
切り札のガオガエンではなく、敢えてサーナイトを出してきたというところが恐ろしい。
それってつまり………そういうことだよな?
『リザードン、かえんほうしゃ!』
挨拶代わりの一発。
口から吐かれた炎が渦を巻きながらサーナイトへと襲いかかる。
『サイコキネシス』
それをサーナイトは躱すこともなく炎をその身に受けた。
「………へぇ」
否、超念力で両側に分散させ、炎に呑み込まれたような演出を作り出していた。
「「っ?!」」
な、なんだ!?
バトル中継は………?
これからって時に………トラブルでも起きたのか?!
『突然、放送をジャックしたことはお詫びしよう』
急に大画面で放送されていた内容が変わった。
代わりに一人の男が映し出され、頭を下げている。
『だがしかし、我々には最早一刻の猶予もない。我々の邪魔をして来たフレア団やポケモン協会の前理事は葬り去った』
あの男………!
『昨年、カロスに潜伏していたロケット団も撤退している。最早カロスには勢力という勢力が無くなっているのだ。これは実にいいことである。ポケモンたちを利用する愚かな者たちが一人もいなくなったのだからな』
顔を上げて演説し始めた男の名はカーツ。
アローラ地方でアローラの秘宝と称されるソウルハートを盗み出し、ウツロイドたちに追い回されながら、命からがらカロスに逃げて来た男女一組の片割れ。
元々はジョウト地方で仮面の男の配下でロケット団の残党を指揮していた奴だ。
『そう、機は熟したのだ。我々の夢を実現する時が! 人間たちよ。ポケモンを利用するだけ利用し、売買の道具にし、あまつさえ人間のエゴで環境を破壊し、ポケモンたちの住処を荒らす愚かな人間たちよ! 今こそ死する時が来たのだ! これより、ポケモンのポケモンによるポケモンのための世界作りを、開始する!!』
そして、カーツの後ろに控えるポケモン。
恐らくカーツですら駒としか思っていないであろう黒幕、カラマネロ。
この一年、俺たちはあいつを含めた三体のカラマネロによって襲撃されている。
だからこそ、この演説は信憑性がある。これからこのミアレシティを中心にまた事が起きるのだろう。
「おいおいマジかよ………」
「あなたたちはこの人を安全なところにまで連れて行って!」
過去にやらかした人間ですら、他の大勢の観覧客と同じ反応をしている。ギャーギャー騒ぎ立てないだけまだ正常を保てている方か。というか既に街中は騒然としている。悲鳴は散らばり走る音が聞こえてくる。
「アンタはどうする気だよ!」
「あの男を取っ捕まえるわ」
「奴の居場所が分かるのかよ」
「居場所ならすぐに見つけられるわよ。私のポケモンは優秀なんだから」
………叫び声?
………まさか既にどこかで何かが起きているとでもいうのか?
あり得なくはない話ではある。あんな演説をしておいて、侵攻がすぐに始まらないのは余計に気味が悪い。いっそ侵攻してくれていた方が周到に組まれていた計画だということが伺い知れる。
いや、今のはやっぱなし。侵攻はされないに越したことはない。
俺もそこまで冷静になれてはいないみたいだな………。
「いや、それにしたって無茶だろ。一人でなんて………」
「無茶でも何でもやらなきゃいけないのよ。あの男たちがシズカちゃんのポケモンたちを殺したんだから………!」
「「ッ!?」」
お、おい………。
今なんつった?
あの男たちがシズカちゃんのポケモンたちを殺したとか言わなかったか?
………いやいやいや、聞き間違い………だよな?
「メタグロス!」
ハルノは既にあの男の元へ行こうとしている。
これは、事実………なのだろう。
本当に俺がいない半年間に何があったっていうんだよ!
一つ言えるのは、半年前のあの時には既に奴等の計画が始まっていたのだろう。何ならその前からかもしれない。
「あ、おい……!」
「グズマ、今は従っとけ」
「………いいのかよ」
ハルノならば死ぬようなことにはならないはずだ。逆にあの男の方が殺されそうな勢いである。
まあ、事実なら殺してもいいと思うがな。
「行かせてやれ。それよりも一旦この混乱の外から様子を見たい。それと行きたいところがある」
「チッ。なら、さっさとそこに連れてけ」
こんな騒然としたところにいては冷静にもなれない。
ハルノが先生を安全なところにまで避難させろって言ってきているのだし、それに甘えることにしよう。
だからといって、この状況を見過ごせはしない。
まずは道中に様子を確認しながら方針を立てるとしよう。
「おい、死ぬんじゃねぇぞ」
「当たり前よ。愛しのダーリンが帰ってくるまで死んで堪りますかっての!」
愛しの旦那が誰なのかなんて聞くだけ野暮だから絶対に聞き返すなよ、グズマ君!
「まずは南に向かうぞ」
とにかくここに停留するのだけは危険過ぎる。秩序を乱した集団とか、巻き込まれるだけで二次被害を生み出しかねない。
「ここから逃げるんで、まずは車椅子から降りて下さい」
「な、何をする気だ……!?」
車椅子から先生を立たせる。
あ、アイマスクしてるのか。
下手に光を浴びせないようにってところか?
その辺の知識は専門外もいいところだから、憶測すらやめておこう。
「はい、こいつを持って」
「ニャブ」
俺の代わりにニャビーを持たせ。
「うわっ、な、何だ……?!」
「何ってポケモンですよ。ニャビーっていうんですけどね。よっと」
そのままお姫様抱っこ。
正直軽くはない。
「お、おい………!?」
「あ、こら、ちょ、暴れんでくださ痛ぇ?!」
見えないから怖いんだろうけど、今は緊急事態なんだから大人しくしててくれると嬉しいんだけどな………。
「サーナイト、サイコキネシスで車椅子を運んでくれ。あ、ちょ、ほんとマジで痛いから」
「サナ!」
車椅子はサーナイトに任せてと。
それにしてもニャビーを落とさないで俺の腕の中で暴れ回るとか、目が見えてないのに器用すぎない?
「ふぅ、見えないと余計に感覚が研ぎ澄まされて、急に生き物を持たされたら恐怖を覚えるでしょうけど、今は我慢して下さい。落としませんから。何ならしばらくの間、浮遊間を感じるかもしれませんけど、絶対に落とさないんで安心してください」
そう言うとようやく先生が大人しくなった。
ただ、顔がちょっと紅くなっているような気がするのは気のせいだろうか。
…………実はお姫様抱っこが恥ずかしかったとか?
先生ならあり得なくもない反応ではある。
まあ、総じて先生の珍しい姿だ。
「サイコキネシス」
地面を二度蹴って影にいる奴に合図を送ると、次第に身体が浮いていく。
「あ、テメェ! 一人だけ狡いぞ!」
「緊急事態なんだからいいだろ、これくらい。ほら、走れグズマ」
サーナイトも車椅子と共に浮いて移動しているため、一人走らなければならないグズマ君であった………。
「………ハルノは?」
「放送ジャックした男を取っ捕まえるとか言って、飛んでいきましたよ」
「相変わらずだな、そういうところは」
まあ、事が事なだけにハルノも仇を討ちたいのだろう。あの人、先生のこと大好き過ぎるし。
「大会期間中ずっとネイティオに偵察させていたからな。居場所もすぐに見つけられるだろう」
「結構広いと思いますけどね」
「予知能力がある」
「なるほど」
だからハルノはさっさと飛んでいけたわけだ。
何気にネイティオって優秀だな。
「どうしました?」
もぞもぞと身体を動かして、頭を俺の胸に押しつけてきた。
「………あまり心臓がバクバクしてないんだな。君はどうしてそう冷静なんだ?」
「別に、冷静ではないですけどね。まあ、慣れですかね」
何を言い出すのかと思えば………。
心拍を確認するために押しつけてきたのかよ。
その割にはまだ顔を埋めたまんまなんだが。
「見えていなくとも状況は何となく察している。それを『慣れ』と言い切れるのはチャンピオンや四天王か忠犬ハチ公くらいだと思うんだがな」
………ん?
これはもしや気付かれてる?
「氷の女王とかもまあ慣れてなくもないでしょ」
「ふっ、確かにな」
あ、うん。
これ気付かれてますね。
「………目が見えないとな、感覚が研ぎ澄まされるってのは君もさっき言っていたことだろう? だから耳や鼻がよく効くようになってな。君の声もしばらく聞いていれば判別出来るし、君のこの匂いは一発で私を落としてくれる」
………なんかもの凄いこと言い出したんですけど。
声はまだいいよ。極力会話を避けたかったのも声でバレるのを恐れてたんだし。でも匂いで一発で落ちるってどういうことだよ。変態チック過ぎるだろ。まさか発情した言い出さないよね?
「………まだバラすつもりはなかったんですけどね。死亡扱いとかされているらしいですし、俺の扱いがみんなの中でどういう風になってるのかも見当がつかなかったので、下手に生きていることが公にでもなったら、面倒なことになるのだけは確かでしょうしね」
「確かにな」
「だからまあ、今の俺には先生に何があったのか知り得ないことなので何も出来ませんけど。死んだポケモンたちに会う方法は必ず用意しますんで。それまでに見えるようになってて下さいよ」
「………あいつらにもう一度会うのは不可能だろ」
「一応、目星はついてますよ? 先生を連れていって無事に帰って来れるか、行った先でポケモンたちの魂に出会えるかどうか。まあ、そもそも俺の発想が本当に上手くいくかどうかの検証も必要ですけど。不可能だとは思ってませんので」
多分、行って帰って来るのはどうにかなるはずだ。それよりも一番不確かなのが、殺されたというポケモンたちの魂が見つかるかどうか。試したこともないことをやろうとしているのだから、そこの保証が一番保てない。
「まあ、最悪あいつを下すのみですね」
「………何をする気かは知らんが、本当に君は規格外の男だな」
だから、最後の手としてはギラティナさんを捕獲して協力を仰ぐしかないだろう。
「………私のことは後回しでいい。他の皆を優先してやってくれ。何なら捨ててくれて構わない。私はもう、穢れた身だ。君に差し出せるような身体じゃない」
「はい? いきなり何ですか?」
「私の純潔は………奪われたんだ。それにトレーナーとしてももうダメだ。カイリキーやサワムラーを失った私では君の役に立てない」
急にしおらしくなったかと思えば、純潔が『奪われた』ってどういうことだよ。まさか強姦にでも遭ったっていうのか?
それにカイリキーやサワムラーを失ったって………まさか、それも全部あいつらの仕業ということかっ?!
「………それが事実なら殺したいですね」
「うっ、そう、だよな………」
「いや、先生をじゃなくてあのクソ男と触手野郎共をですよ」
「ぇ……?」
いやいや。
何でアンタを殺さなきゃなんないんだよ。
やだよ、折角会えたのに。
一番最初の再会がハルノとシズカさんで、そのシズカさんをお姫様抱っこしているのには驚きだけども、それも帰って来たなーって実感出来てるんだからね?
しばらく離したくねぇなって思えるくらいには独占欲がふつふつと湧いてるの知らないでしょ。
「そもそもですね。色々事件のことを抜きにしてもシズカさんはもう俺の家族の一員ですよ。それが身体を穢されたくらいで、いやくらいでっていうのもアレですけど、それで俺があなたを捨てるわけがないでしょ。逆にあなたを守れず、目も見えなくなるまでの被害に遭わせてしまった俺自身が許せないくらいですよ」
あの時、俺がやられていなければシズカさんがこんな目に遭うこともなかったのだと思う。
たらればを言っていたらキリがないが、あの時のこと程、後悔していることはない。
「……と。着いたぞ、グズマ」
シズカさんと話しているとあっという間に目的地へと着いてしまった。
ここはまだ被害が出ていないようで、どんどん人が流れて来ている。その内、ここに避難してくる者も増えるだろうし、敷地内に入ってしまうか。
「ハァ、ハァ………、テメェマジで後で覚えてろよ」
「はいはい、覚えてたらな。サーナイト、車椅子用意してくれるか?」
「サナ!」
振り返れば息が上がったグズマ君。
何だかんだ追いついているグズマは褒めていいと思う。
「シズカさん、車椅子に移しますよ」
「ぁ、ぁぁ」
何ですか、その名残惜しそうな声は。
サーナイトが用意してくれた車椅子にシズカさんを座らせると、寂しそうな声が小さく漏れた。
「ニャブ」
「おう、大人しくしててくれてありがとな」
俺の空いた胸にはニャビーが無事ご帰還なさり、ぐりぐりと顔を押しつけてくる。
うん、可愛い。
だが、こいつ。オスなんだよな…………。
可愛いからいいんだけど。
「………どうしました?」
見えていないはずなのにシズカさんから視線を感じた。というか向きもこっちを向いているし、目で見えないだけで、心の目とかで見えてそう。さてはアレだな。ぜったいれいど撃つ気だな。一撃必殺とか恐ろしいわ。
「い、いや、何でもない」
何でもないって感じではないだろうに。
あ、そうだ。一撃必殺で思い出した。
あれをグズマに渡しておこう。これから一戦交えるとなるとどうなるか分かんないし。メガシンカが欲しいのならそのキッカケくらいは与えないと中々辿り着けないだろうしな。
「………グズマ、こいつを渡しておく」
「あん? ………なんだこれ」
グズマにメガストーンを渡すと全然理解していなかった。
お前、それでよくメガシンカを習得したいとか言い出したな。せめてそこくらいは勉強して来いよ。
「お前が欲しがっていたメガシンカするための道具だ。どのポケモンのメガストーンかはまだ分からんし、キーストーンもないからメガシンカも出来ないが、そのメガストーンを調べて該当するポケモンを捕まえた後にキーストーンを探し出してこい。そうすればキーストーンを見つけた頃にはメガシンカ出来るようになってるかもしれないぞ」
「お、おう………いや、つか、どうやって調べんだよ」
「ここの研究所で調べられるぞ。ここはメガシンカを提唱したプラターヌ研究所だ」
「………まさか、こんな状況でこの石のことを調べるために来たのか?」
「違ぇよ。お前はこの人とここで待機すんの」
流石にこんな状況で調べる余裕があるわけないだろうが。そんなことをしている間に、何人が犠牲になるか分かったもんじゃない。
「………やっぱり行くのかよ」
「当たり前だろうが。こんな状況で逃げられるかっての。それに、人前で奴を出せると思ってるのか?」
「奴って………おい、まさか!」
ああ、奴で通じちゃったよ。
言うてサーナイトとニャビー以外、人前で出せるポケモンではないんだけどね。
でも、多分。グズマの頭の中にはウツロイドが漂っていることだろう。
「………演説してたのは人間だが、背後にカラマネロがいた。恐らく、俺を襲った奴らだろう。男の演説には俺のことと思しき内容も含まれていたからな。決着を付ける時がようやく来たんだ。借りはキッチリ返す。何なら借り以上のものもあるからな。ぶっ殺してやりたいくらいだ」
「お前がそれ言うと冗談に聞こえねぇんだよ。マジで鳥肌が立つ」
冗談ではないからな。
殺れるもんなら殺りたいくらいだ。
つか、マジで殺っちゃおうかな。
アローラの秘宝、俺の暗殺、シズカさんのポケモンたち。最早命を残してやる必要すら感じないんだが。
「というわけで、俺は決着を付けに行って来ます。シズカさんはプラターヌ研究所で待ってて下さい。グズマを置いていきますんで、何かあればグズマを使ってくれて結構ですんで」
「………もう、失うのは嫌だぞ?」
心の傷は相当深いのだろう。
俺が戦いに行くというだけで失う恐怖が蘇ってしまうというところか。
流石に俺もこんな状態でシズカさんを置いて一戦交えに向かおうなどとは思わない。
何とか安心して送り出してくれないと俺も気が気でなくなってしまう。
「何かあっても必ず帰って来ますから。まあ、時間かかったらごめんなさいとしか言えませんけど、取り敢えず死にはしないので」
「何故そう言い切れる………」
「多分、俺には何か役割があるんでしょうね。そのために何があってもポケモンたちが俺を生かそうとするんですよ」
「それでも限界というものがあるだろ?」
「それがそうとも限らないんですよね。今の俺にはダークライがいます。そして、その後ろにはギラティナがいます。何なら今ここに俺がいるのもギラティナによるものです。それにまだ使えるカードが二つあるんですよ。………そんな人間が死ぬと思います?」
サーナイトがメガシンカ出来ることはグズマ以外は誰も知らない。それ以上にウツロイドのことは誰も知らない。この二つのカードもダークライやギラティナに並ぶ俺の手札と言えよう。
いや、ギラティナは手札とまでは言えないか。
「ダークライにギラティナ、だと………? ダークライは消えたとか言ってなかったか?」
「ええ、一度は俺に力を託して消えましたよ? でも冥界で生きていたんで連れて来ました。というか冥界の王直々にダークライ共々送り返されたと言った方がいいかもしれないですね」
「………何を言っても君の異常さの方が上回ってしまうみたいだな。不安よりも頭が痛くなってきた」
お、取り敢えず極度の不安は抜けたみたいだな。
呆れたという姿は、快活だった頃のシズカさんを彷彿させてくる。
「今はその異常さを発揮する時なんだと思いますよ」
とは言っても、不安がなくなるわけではない。
トラウマを抱えている以上、再び恐怖に呑み込まれることも想像に容易い。
何か気を紛らわせる物でもあれば…………あ、あるわ。
グズマばかりに気を取られてたけど、土産のメインは彼女たちにじゃん。
俺はリュックからアローラの土産を取り出してシズカさんの背後に回った。
「シズカさん、あなたはもう俺のものです。誰が何と言おうとあなたを誰かに渡すつもりも死なせるつもりもありません。全てが片付いたら、その身体に嫌と言う程俺のものだっていう証を刻みつけますんで」
耳元でそう伝えながら、首元に取り付けていく。
ちなみにニャビーは俺の肩に移動している。
こういう時、頭に移動したがった誰かさんとは大違いだな。
「今はこれで許して下さい」
「これは………?」
「指輪です。指のサイズは分からなかったので、チェーンを付けてネックレスにしてもらいました」
ライチさんのところで買った指輪だ。
チェーンを付けてあるため、今はネックレスになっている。
これで少しは不安が緩和されるといいんだが………。
「まあ、不安になったらぎゅっと握りしめて下さい。気休めですけど、何もないよりかはマシかと」
ダメ押しで後ろから抱き締めた。
うん、まあ。俺が抱き締めたかっただけなんだけどね。なんかこう、弱っているシズカさんは物凄く庇護良くを駆り立てられるんだよ。
「………いいんだな? 私はすごく重たいぞ?」
「何を今更。声と匂いだけで判別出来るような人が重たくないわけがないでしょうに。それに、俺にとっては愛なんて重たいくらいが丁度いいんですよ」
声と匂いだけで判別されたのには驚いたが、シズカさんが重たいのなんて今に始まったことでもないしな。それに重たい愛なんてユキノとかユイも相当なもんだと思うぞ。俺自身も重たい自覚はあるし。
だから、重たいってのは拒否る理由にはならないんだよなー。
「ちゃんと帰って来いよ。私は何年でも待ってやるから」
「ええ、約束です」
そう言ってシズカさんから離れると、今度は寂しそうな顔にもならなかった。
愛の証として物を渡すのは昔からの常だが、ようやくその必要性が分かったような気がする。
物の力というのも捨てたもんじゃないな。
「んじゃ、グズマ。この人をよろしく。危なくなったらZ技ぶっ放していいからな」
「へいへい。ったく、オレさまは何を見せられてんだか………。この人がお前にとってどういう人なのかはよーく分かったから、さっさと行きやがれ。人一人くらいならこのオレさまが守ってやらァ」
放置されてちょっとドロドロなシーンを見せられていたグズマ君は、ヤケ糞モードに入っている。
ごめんな、そういうつもりではなかったんだけどな。思いの外、傷が深そうだったから安心してもらう必要があったんだよ。許せ。
「ニャビー、サーナイト。一旦ボールに戻っててくれ」
「ニャブ!」
「サナ!」
「では、シズカさん。行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
この人から快活さを奪った奴らは何が何でも倒す。
そう心に誓ってダークライに合図を送ると、足下からゴゴゴッ! という地鳴りが聞こえてきた。
嫌な予感がする………。
「グズマ、シズカさんを守れ!」
「ヒ、ヒキガヤ!?」
グズマに一声上げると足下から衝撃が走った。一瞬で景色は変わり、青空一面に投げ出されたようだ。
次第に視界が反転していき、向こうに見えたプリズムタワーは逆さになっている。それでもまだ上に飛ばされていく感覚は無くならない。
「あれは………!」
人やポケモンも小さく細々といるなという印象だったが、確かにプリズムタワーの頂上付近に人影があった。その周りでは空中戦が繰り広げられている。
小さくてよく見えないが、メタグロス………だろうか。ということはハルノか?
空中戦はそこだけではないようで、所々にそんな雰囲気が感じ取れた。多分、ポケモンが一箇所に固まっているようなところは既に抗争が始まっているのかもしれない。
そして、プリズムタワーから南に下がった辺りにこっちを見ている奴がいた。結構距離が離れていて顔の輪郭すらあやふやなくらいなのだが、確かに目が合ったような気がする。
するとオレンジ色のそいつは加速し、段々とこっちに向かって近づいて来た。
「フッ」
足下を見れば、地面に穴が開いており、そこからドサイドンが雄叫びを上げている。
あいつか、犯人は。
グズマとシズカさんは………研究所の敷地内に上手く避難出来てたみたいだな。ただ、車椅子の上で今にも穴に向かおうとしているシズカさんをグズマが必死に止めているように見えるのは気のせいだろうか。
それよりも俺の身体がいよいよ落下運動を始めたぞ。ドサイドンの攻撃を受けて無事なのだから、多分大丈夫だろうが。
よくもまあダークライも的確に動いてくれたものだ。おかけで無傷である。
だからこのまま着地もよろしくお願いします。攻撃は別に来てるんで、俺に専念してくれていいからね。
「シャア!」
はい、早速到着なさいました、リザードン君。君、全速力で来たでしょ。あの距離を十秒弱で辿り着くとか超驚きだよ。それだけの距離に打ち上げられたのにも驚きだけどな。
「リザードン、じわれ!」
折角整備されていた道路に穴を開けやがって。塞ぐの大変なんだぞ。お前は自分が作った穴に埋めてやるからな。覚悟しておけよ、ドサイドン。
俺を通り過ぎていったリザードンはドサイドンの顔を掴んで、開いた穴に頭から突っ込んだ。
上から見ているとエグさがよく伝わってくるな。妙な位置に腕か何かが引っかかったみたいで下半身だけ地面から生えた状態になっている。
「よっと」
いつの間にかゆっくりと降下していたため、無事着地も成功。超念力はとても優秀な技である。
「久しぶりだな、リザードン」
「シャア!」
「再会を喜びたいところだが………この状況ではそうも言ってられないか」
地中から襲われたとなると、他でも地中からの襲撃が起こり得るということ。ただでさえ、市街地内での戦闘はやり難いことこの上ないというのに、さらに下も気にしないといけないのは単純に被害が大きくなりやすい。
………ところで、だ。
何故リザードンはあそこにいたのだろうか。
俺がいなくなって野生に還ったとかまでは思っていないが、ユキノ辺りといるもんだとばかり思ってたわ。
それにあそこにいたのならば、上空で戦闘を繰り広げていたハルノに気付かないとも思えないし。
となると、リザードンにも何か目的があった、とか?
その割に俺を見つけたらすぐに飛んで来たような気がするが………。
「お、おい、アニキ………。そのリザードンは?」
「俺の最初のポケモンだ」
「はっ………? マジか………一撃必殺を使えるリザードンとか見たことねェぞ」
そりゃ、お前。ロケット団首領直伝の技だし。
覚えられない技でもないのだから使えたって不思議ではない。まあ、アローラにはいなさそうだが………。
「よっと」
俺はリザードンの背中に乗り込んだ。
うん、なんか落ち着く。
やっぱり長年感じていた熱は感覚的に覚えているもんだな。
さて、これからどうするか。
見た感じ戦闘はあの空中戦だけではなさそうだ。建物で見えないだけで、そこら中で戦闘が起こっていそうだ。
そうなるとサーナイトたちで対処するより、ウツロイドを纏って俺が直接対処した方が動きやすい、か。
ウツロイドを使うならドクZでもセットしておくかな。使ったことないけど、ウツロイドのお仲間さん? がくれたんだからこいつも使えるはず。というか憑依されている以上、俺の動きがそのままウツロイドの動きになるわけで、俺が失敗しない限りいけそうな気がする。
ちゃんと踊れるかな……。
『西側はシャラ組に任せる! ユキノ隊は北側でおでぶと合流、ハチマン隊は東側へ急げ! 南側は我らイロハ隊が制圧するのだ!』
ん?
誰だ?
なんかユキノやらハチマンやらイロハなんて単語が聞こえてきたが…………。
「ヒキガヤ、大丈夫なのか?!」
「大丈夫ですよ。シズカさん、俺は今の不意打ちですら傷一つ付いてませんって。なあ、グズマ」
「ああ、マジで人間やめたとしか言えない事実だがな。まあ、これがカプ二体を相手に生身で戦ってトラウマを植え付けた男となれば、この程度屁でもねぇわな」
「は、はは………昔はこういう時、怪我をしてでも戦ってたのにな。強くなったんだな、ほんとに」
そう言ってしみじみと昔のことを思い出しているシズカさん。
それってひょっとするとスクール時代のことだったりする? 特にオーダイルの暴走時とか。
「んじゃ、今度こそ行ってきます」
「ああ」
「グズマ、ドサイドンの他にも来るかもしれないから、警戒はしておけよ」
「あ、ああ。分かってるって」
さて、取り敢えずは声のした方へ向かってみるか。
なんか少し気になるんだよな。もし俺の知っている奴だったら情報共有したいところだ。
「リザードン」
「シャア!」
俺が特に指示しなくとも、その足取りは気になる声の方へと向かい始めリザードン君。
………君、実はあちらにいる方たちのことを知ってたりする?