ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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3話

 しばらくフワフワと移動していると遠くの方に下から上に水が流れているのが目に入った。

 ……………うん、知ってはいたけどさ。

 やっぱここおかしいわ。水が下から上に流れるって………。

 重力もクソもないか。ここは破れた世界。現実世界とは対照的な世界となるところ。

 うん、でも流石に驚くなというのは無理があるな。つか、普通にビビった。

 

『「ココラデイイカ」』

 

 あそこからは十分離れている。変な技が出てきたところでサーナイトに当たることもない。

 さて、始めるか。

 確かウツロイドが使える技は…………。ようかいえき、マジカルシャイン、はたきおとす、10まんボルト、サイコキネシス、ミラーコート、アシッドボム、クリアスモッグ、ヘドロウェーブ、ベノムショック、ベノムトラップ………あれ? 何か増えてね?

 えっと……他には、クロスポイズン、どくづき、ハチマンパンチ、サイコショック、パワージェム、ハチマンヘッド、アイアンヘッド、でんじは、ハチマンキック、くさむすび、ハチマンアタック、まきつく、からみつく、しめつける…………ねぇ、さっきから変なの混じってるよね。何なのこの子。ハチマンパンチとかハチマンキックとか、結局ウツロイドの身体使うことになるんですけど?! そもそもハチマンパンチなりキックなりヘッドなり、君の技じゃないでしょうよ。俺をどうする気だ。

 …………俺の頭はいつの間にか毒されてしまったのかね。怖いよ、この子。怖すぎる。

 

『「イマカラタメシウチヲスル。オマエノチカラヲミセテクレ、ウツロイド」』

「しゅるるるぷ」

 

 ………一体全体、俺とウツロイドはどういう関係になっているのだろうか。刺された痛みを毒で麻痺させてどうにかなっているが、腹を見る限り悪化することもなさそうである。それがウツロイドによる毒の効果なのか、この世界にいるからなのかは分からないが、ウツロイドの毒を体内に入れたのは確か。ならば、その毒を以って俺は支配されているという可能性もないとは言えないのだ。ただ、今のところ俺は自我を保っているし、俺の思うように身体を動かせている。生身の身体では出来ないようなことも既に出来ていたりするし、何ならウツロイドに情報開示を求めるとその情報が頭の中に流れてくる。………ああ、妙なのはここだな。何故ウツロイドの情報が頭の中に流れてくるのか。それも探りながら命令を出してみよう。

 

『「ンジャ、マズハドクワザカラ。ヨウカイエキ」』

「しゅるるるぷぷ」

 

 最初に見たようかいえきはヘドロばくだん並みだった。これでようかいえきなのかと驚いたのを覚えている。

 

『「………トケタカ」』

 

 何の植物なのか分からないが、木が一本毒で溶けてしまった。これでようかいえきなんだろ? ヘドロばくだんとかどうなっちゃうのん?

 

「しゅるるるぷぷ」

 

 あ、こら!

 ………まだ命令も出していないのに、ペペペッと毒が吐き出され辺りを溶かしてしまった。

 これ、ヘドロばくだんってことでいいのか?

 つか、まだ口に出してないのに技を選択しちゃうってどういうことだってばよ。これではまるで俺の頭の中を覗かれているようなものではないか。

 …………いや、待て。頭に直接情報を流してくるくらいだ。覗けたとしても何もおかしくはないのではないか? そうなると最早口に出すのも意味を成さないように思えて来た。

 よし、ならこのまま色々技を頭に浮かべてみるか。

 まずはヘドロこうげき。

 

「しゅるるるぷぷ」

 

 あー………、さっきよりは溶け方が優しい? のかな。取り敢えず、このスタイルでも通じるみたいだな。

 次は……あ、アシッドボムなんていいんじゃね?

 

「しゅるるるぷぷ!」

 

 う………、これでボム、なのか。

 跡形もなく木が消えたぞ。更地じゃねぇか。

 そういう時はこれだな。くさむすびで草を生やそう。

 

「しゅるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 うわ、マジか。

 ウツロイドもくさむすびを応用した方法がいけるのかよ。一体どういう考え方をしているのやら。

 草も元通りというわけではないが戻った。地面には毒が散らばっているはずなのだが、そんなのはお構いなしなようだ。流石ウツロイド。流石ウルトラビーストである。

 

『「ンジャ、ツヅケルゾ」』

「しゅるるるる」

 

 次はクリアスモッグだな。

 

「しゅるるるるぶぷ」

 

 紫色の塊が作り出されて発射された。すると小爆発を起こし、さらに草が消えていく。

 え………、クリアスモッグってこんな技だったっけ?

 だってこんなの………泥投げつけただけじゃん。クリアもクソもないわ。なのに、追加効果だけは名前に則しているというね。まあ、紫色過ぎるけども。ああ、毒々しい。

 

『「ト、トリアエズ、ツギダツギ」』

 

 次は………ヘドロウェーブ辺りか。これは毒の波を送り込む技なのだから、どっちかというと変化が乏しいはず。

 

「しゅるるるるるぷ」

 

 だからそんなしなしな〜っと草が枯れるなんてあり得ないだろ!

 いや、マジで効きすぎだから!

 ようかいえきがあのレベルなのも納得出来ちゃったからね?

 あ、まだ残ってるところもあるわ。でも紫色になってるんだよなー。

 

『「コワイワー。マジ、コワイワー」』

 

 そんなウツロイドが使うベノムショックとかベノムトラップって一体…………。

 

『「ア………」』

 

 とか考えてたら既に身体が動いてました。

 いや、そんな気を利かせて動いてみましたと言わんばかりに毒液を二連チャンで出さなくていいから………。

 あーもう、ほら! 島が一つ溶け出しちゃったよ!?

 

『「イヤ、シマガトケルッテナンダヨ」』

 

 これ、島を溶かした方がベノムショックってことだろうし、二連発放った毒液の一発目がベノムトラップってことなのだろう。ベノムショックもベノムトラップ毒状態の相手に効果を最大限に発揮する技。恐らくヘドロウェーブを放って残っていた紫色の草に発動したのだろう。それが島にも流れ出して溶け出したのか………。

 危険すぎる!?

 こいつの毒技はもしもの時に使用する以外は伏せたおこう。技一つで土地が無くなったり、終いには建物すら溶かし兼ねない。

 そして、これが俺の体内にも流れてるってことだろ?

 逆に死の危険を感じるんだけど。助かった手前強く言えないけども、マジで死なないだろうな………。毒に助けられてその毒で死ぬとか悲し過ぎるだろ………。なら、初めから助けるなよという話になるわ。

 よし、今はこいつを信じることにしよう。じゃないと不安で不安で仕方がない。

 

『「ツギイコウ、ツギ。ツギハオクノクサニクロスポイズンナ」』

「しゅるるるるるるる」

 

 そう言うとウツロイドは前進して奥の島の草の中に入ると触手を全て使い、全方位の草を刈ってしまった。

 ………………。

 待って。これ反則すぎるだろ。触手を二本で一組にして使い、全方位一気に刈り取るとか、他のポケモンたちが見たら泣くぞ。

 

『「コレガウルトラビーストノチカラ、カ」』

 

 なら、どくづきは?

 

「しゅるるるるるぷ」

 

 触手が伸びました。

 そして刈り取ったところの奥に立っていた木っぽいのが折られました。

 うん、どこのゴム人間かな。「ゴムゴムのー! ガトリング!」とか言わないといけないわけ?

 なにこの子。ちょっと親近感湧いてきちゃったぞ。これなら他の技でもいろんなネタいけるんじゃね? 丁度貴重な触手キャラだし。

 べー、マジっべーわ。トベ化しちゃうくらいヤバい。ウツロイドに毒されてきてるよ。

 あ、そういえば。

 ウツロイドってコードネームがあったよな。確か………UB:パラサイト。

 ーーー今の俺の状況にピッタリだ。ただ、パラサイトというには些か異なる点があるんだよな。寄生したなら宿主はそのまま食われていくようなものなのに、今の俺は食われるどころか助けられている。そりゃ誰彼構わずというわけではないだろうが、ただ寄生して宿主を食すという認識は改めた方がいいかもな。そうでなければ、今後俺たちの世界にやってくるウツロイドを始めとしたウルトラビーストたちの排除が加速することになるだけだ。

 特殊なケースだろうが、俺はウツロイドに助けられた身。あっちの世界に戻るのなら、その辺も俺がやるべきことなのだろう。

 

『タスケラレルダケジャ、オレノナイニヒトシイプライドガユルサナイシナ」』

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 あの後、ウツロイドがアイアンヘッドからパワージェムやサイコショックを撃ち込んで、さらに島を一つ壊したりしたものの、ギラティナが来ることはなく、マツブサとアオギリが言っていた水辺へとたどり着いた。やはり水の滝が上に登っている。謎だ。ウツロイドに取り憑かれているからか、重力の変化に影響されることがなく、態々身体の上下を入れ替える必要があるのだが、それで酔わないのだからまた不思議である。

 さて、割と一直線で来たし、どうにかここに通うことも出来そうだ。というかここを拠点にした方がいいのではないだろうか。開けた場所だし水もある。

 

「しゅるるるる」

 

 おっと身体が勝手に水辺へと向かってらっしゃる。ウツロイドも水を………あ、触手を伸ばして吸収してるわ。

 結局のところ、ウルトラビーストもポケモンと同列の存在なんだな。使える技も全て他のポケモンたちが使える技だ。逆にウルトラビーストにしか使えない技とかってあるのだろうか。

 そういやウツロイドの特性って何だっけ?

 えーっと………? 相手を倒せば倒す程、能力が上昇するのか。ブースト系、ウルトラブースト? あるいはビーストブースト? ってところかな。

 なんて考えていたら、俺の口を塞がれた。そして口の中に液体を注ぎ込まれていく。水だ。水である。どうやら今し方吸収した水は俺のためだったらしい。

 この子、どんだけ俺に尽くしてくれるわけ? まあ、ありがたく飲むけどよ。

 不思議も不思議だ。これ、帰ったら論文ものだろ。というかウツロイドに取り憑かれたってだけで論文が出来上がりそうだわ。そう簡単には書かないけど。

 

『「イキカエルワー。サンキューナ」』

「しゅるるるっぷ!」

 

 おおう、そういう反応も見せてくれるのね。

 水に映ったウツロイドがくねくねと身体を揺らし、それはまるで恥ずかしがる少女のように見えた。

 …………………ふぅ、そろそろ本題に入るとするか。

 

『「ウツロイド、キカセテクレ。オマエハナゼオレヲタスケヨウトスルノダ?」』

 

 今まで聞くに聞かなかった内容。

 というか聞いてもいいのか悩む内容である。もしここで俺を捕食するためだとか、危険性を伴う内容だったら即刻目的を実行される可能性があった。だが、今し方の技の披露を通じて敵意を全く感じなかったのだ。なんなら、超友好的で俺のこと好きなんじゃね? と誤解するレベル。今の恥ずかしがる少女のような動きとか、まず敵なら見せるわけないだろう?

 だから俺は全てを聞くことにした。

 何故俺について来たのか。何故俺を助けるのか。腹は括った。さあ、ウツロイド。回答を頼む。

 

「しゅるるるるる」

 

 お、おお?

 あれ? 口が思うように動かなくなったような………?

 えっ………?

 

『「ワタシハ、アナタノツヨサヲキニイッタ。ホカノコタイニハ、アマリリカイヲエラレナカッタガ、ワタシハアナタノカノウセイニカケタイ。アノタマヲ、ホンライアルベキトコロニカエセルノハ、アナタダケダトシンジテイル。ダカラワタシハ、アナタヲタスケル」』

 

 俺の口から奇妙な声が出た。というか俺の口調とは別のものですごい違和感しか感じない。俺が聞かせてくれって言ったからか?

 だがまあ、今のがウツロイドの本心というか目的なのだろう。

 最初は俺も大量に発生したウツロイドをウルトラホールへ返すべく、リザードンを暴れ回させた。そもそもよく分からなかったため、そうせざるを得なかったとしか言いようがない。

 そして、二回目の遭遇で俺はウツロイドにウルトラホールの奥へと連れて行かれた。偶然なのか必然なのかはともかく、俺はウツロイドに背中から引っ付かれたままあの珠を受け取った。その後、元の世界に帰ってみれば、こいつがボールに入ってしまった。

 よくよく考えてみれば、背中に引っ付いていたウツロイドはこいつなのだろう。無関心な個体もいる中でのあの行為だ。既に気に入りられていたのだろう。となると、あの遭遇も必然だったのかもな。

 

『「ワタシハソレマデノアンナイヤク。トキガクレバ、ワタシガアンナイスルコトニナル。ソノトキ、モクテキガタッセイスレバ、ワタシヲステテクレテイイ。ダカラ、オネガイ。アノマイゴノタマヲ、ホンライアルベキトコロニカエシテアゲテ」』

 

 おいおい、それはいくら何でも俺が薄情過ぎないか?

 確かに、あの世界ではお前たちウルトラビーストとカテゴライズされる生き物は排除対象にされている節がある。アローラの内情なんて知らないのだから何とも言えないが、それでも俺はお前をそう簡単に手放す気はないぞ。お前が出て行くというのなら見送ってやるが、そうでないなら是非いて欲しい存在だ。

 

『「…………アリガトウ」』

 

 ………ふっ、まさかウツロイドにお礼を言われるとは。ありがとうなのは俺の方だ。

 だからそんな悲しいことは考えるなよ、ウツロイド。

 

「サナー!」

 

 ん?

 この声はサーナイトか?

 

『「ヨッ、ト。ココダ、サーナイト!」』

「サナ? サナーッ!」

 

 ウツロイドの触手を動かし上に掲げると、サーナイトがそれを発見してくれてこちらへと飛んで来てくれた。

 ん?

 今、飛んで来なかったか?

 え?

 

「サナ!」

『「ヨシヨーシ、サーナイト。オツカレサン」』

 

 抱きついて来たサーナイトを受け止め、触手で頭を撫でてやる。癒されるわー。

 あ、そういや口が動かせるようになってるじゃん。

 

「ライ………」

『「ダークライ、ナンカサーナイトガトンデイタヨウニミエタンダガ?」』

 

 遅れてやって来たダークライに尋ねると目を逸らされた。

 え…………、マジで何をしたわけ?

 

「くははははっ! やっぱお前でも驚くんだな!」

「大声ではしたないですよ、マツブサさん」

 

 もっと遅れてやって来たのは、クレセリアの背中に乗ったアオギリとマツブサ。

 つか、アンタら何しれっとクレセリアの背中に乗ってるんだよ。クレセリアもよく乗せたな。

 

『「ドウイウコトダヨ」』

「サーナイトはな、リフレクターを出したかと思ったら、それで攻撃し出したんだよ。んで、それを応用してサイコパワーでサーフィンの板にしやがってな。それでオレたちようも早く着いたってわけだ。飛んでいたよう見えたのもお前に飛びつくために、サーフィン板から飛び降りてサイコパワーだけで身体を安定させたまま飛んでいったんじゃねぇか?」

 

 ………これ、俺のせいだな。リフレクターでゲッコウガを運ばせたり、カマクラのアホな戦い方を見せている。それを応用して移動手段に変えたのだろう。

 嗚呼、着々と規格外な奴らの路線を辿ってるよ…………。サーナイトの成長に喜ぶべきなのだろうが、素直に喜べないのは何故なんだろうな。

 でもまあ、ここは褒めておくのが無難だろう。

 

『「サーナイト、ヨクヤッタナ。ワザハソノママツカウダケガワザジャナイ。ジブンノチカラトアワセテツカウコトデ、イロンナツカイカタガデキルンダ。コレカラモガンバッテツカイカタヲマナンデイコウナ」』

「サナ!」

 

 うん、可愛い。もうこの子お嫁に出さない。こんな可愛い子をどこぞの輩にくれてやるもんか。

 

『「ヨシヨシ。ソウダ、アッチニミズベガアッタゾ。イッテミルカ?」』

「サナ? サーナサーナ!」

 

 とまあ、こんな感じでしばらくサーナイトを可愛がっていると、心なしか身体をぎゅっと締め付けられたような気がした。

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