結局、街をブラブラとしてからあのビルに戻ったが、誰かが襲ってくることはなかった。
常に人気を意識して歩いていたから大衆の面前では事を起こさなかったのかもしれないが、そんなことは知ったこっちゃない。
何はともあれ、またしばらくは外に出ない方がいいだろうな。
「プラズマ団であるか………。やはり活動が激しくなってきたようであるな」
壱号さんにプラズマ団のことを報告すると、うむむと唸りを上げている。
既に国際警察でもプラズマ団の言動には注視しているようだな。それでも今回のは表に出てきた方のことらしい。布教活動だったしな。それまでどういうことをやっていたのかは知らないが、表に出てきたというのは強ち間違いではなさそうだ。
つまり、これからイッシュにプラズマ団による事件が起きてくるというわけだな。
………早いとこイッシュから出よう。
「あれは多分面倒な相手ですよ。何を言ってもこっちが悪くなるように言葉を言い換えて民衆を味方につけようとしてましたし」
「外で演説している輩である。口が達者なのは言うまでもないであるな」
詐欺師認定してもいいくらいだわ。
「あー、あと関係なくもない話なんすけど、イッシュ地方のチャンピオンってどんな人なんすか?」
「チャンピオン? チャンピオンというとアデクのことであるか?」
「赤というかオレンジのポケモンみたいな髪型の人っす」
「アデクであるな。アデクは長年チャンピオンを務めているベテランである。一端のトレーナーでは太刀打ちできる相手ではないであるぞ」
あ、じゃあやっぱりあの人がこの地方のチャンピオンなのか。
野次馬の反応からして人気も高そうだ。
「そりゃチャンピオンなんですから、当然でしょ」
「アデクに会ったであるか?」
「長引きそうだったところに現れたんで、強制的な幕引きになってくれましたよ」
「となると、相手もチャンピオンという肩書きがどういうものかは理解しているようであるな」
「あんまりしつこいようだとあの連中の命の方が危うかったと思いますよ」
「サーナイトであるな」
あ、いや、サーナイトもだけど、まだ色々いるんですわ。何ならサーナイトが可愛いレベル。悪夢見せられるか毒を注入されるかその両方を食らってなお、回復されて、またその両方を受け続けるという地獄が待ち受けてたからな。
まあ、そうなったら俺は指名手配とかされそうだけど。確実にどこかのブラックリストには載るだろうな。
「ま、取り敢えず、ゲーなんとかってのには気をつけてくださいよ」
「うむ、情報提供感謝するぞ」
「んじゃ、俺は上でポケモンたちと技の特訓してますんで」
「何かあれば呼ぶである」
壱号さんにプラズマ団の報告を済ませて上の階へ。
パルクールの施設とは別の階にバトルフィールドがある。上の階にバトルフィールドとか耐震性とか諸々大丈夫なのか心配だが、壱号さん曰く特殊素材で建てられているビルらしく、ビルを支える支柱に影響はないんだとか。また、いわやじめんタイプの技を使って地面を抉ったとしても三階分くらいは余裕を持って造ってあるため、下の階の天井が穴開くこともないらしい。しかも空中戦も考慮し、上も三階分は確保している。つまり、バトルフィールドだけでこのビルの六階分くらいは使っているのだ。高層ビルならではの発想と技術の革新が合わさって初めて成せる一級品のビルというわけだな。
報告前に先に行っておくように言っておいたため、バトルフィールドには既にサーナイトとニャビーが戯れていた。
俺を見つけた二人は、飛んで俺のところにまできた。
「さて、お前たち。何となく察してはいるだろうが、あのプラズマ団ってのは超ヤバい奴等だ。頭のおかしいのしかいないと言っていい。そのプラズマ団が表で活動するようになったらしく、俺の予想が正しければ、これからイッシュ地方は面倒なことになる。だから俺としては早いとここのイッシュから出たいと思ってるんだが、そうなるとこの無駄に設備のいい施設を使えるのもそう時間がないことになる」
ひとまず、俺の今後の方針を伝えていく。
イッシュ地方からはさっさと出て行きたいところであるが、それまでにまたプラズマ団に絡まれる可能性がないとは言えない。それにあの修道士擬きなら刺客を送り込んでくる可能性が高い。そう簡単にやられるつもりはないが、もしニャビーと逸れた場合、ニャビーは自分で自分の身を守らなければならなくなる。だが、今のニャビーでは俺に送り込まれる刺客を相手取るには実力が足りなさ過ぎる。
というわけで、ここの施設を使える間に少しでもニャビーのレベルアップを図っておきたいのだ。
………サーナイトちゃんはヤバい奴らに鍛えられたからね。そこら辺は大丈夫だと思うわけよ。
「サーナイトは破れた世界で鍛えられたからいいものの、ニャビーはまだ戦力としては数えられないからな。今日からニャビーを自分の身は自分で守れるくらいには鍛えていこうと思うわけだが………」
「ニャブ!」
何が言いたいのかは理解したみたいだな。
襲いかかるプラズマ団を前にしてボールに戻されたのだ。そう捉えられていてもおかしくはないか。
「すまんな。お前は昼寝が好きなようだし、俺もそうさせてやりたいんだが、こうなった以上何が起こるか分からない。今よりさらに過酷なことが待っているかもしれない。だから最低限のことだけでもさせてくれないか?」
「ニャブ!」
ニャビーの頭を撫でるともっと撫でろと言わんばかりにぐりぐり押しつけてくる。
結局、俺のポケモンになる奴らは皆鍛えられていく運命なのかもしれないな。ニャビーもアローラに残っていれば昼寝三昧のゆったりとした人生を送れただろうに。
けどまあ、たらればの話をしている場合じゃない。
事はプラズマ団だけに限らないのだ。
こうしてウルトラホールで事故って過去に飛ばされたりしてる時点で、これから元の時間軸に戻るまで何が起こるか分からない。下手したらこのままプラズマ団絡みに巻き込まれる可能性だってある。だからニャビーも強くなっておいて損はない。
「よし、ならまずは今のお前に合った戦い方からだな。パルクールでの動きを見ていた限りでは、身体が小さい分小回りが効く。素早い身のこなしで相手の懐に飛び込んで攻撃するスタイルが基本になるだろう。そこでだ。ニャビーにはニトロチャージを覚えてもらおうと思う」
この一ヶ月パルクールでのタイムアタックを見ている限り、身体が小さい分、小回りが効くのは確か。あとはその特技を技とどう組み合わせるかだ。
まあ、その辺はこれからだが、まずはその特技をもっと使いこなせるようになることは、これからの戦い方の幅を広げてくれると考えている。
「ニトロチャージは炎を纏って突撃する技だ。走って走って走りまくれば、その分加速して素早く動けるようにもなる。ポイントとしては炎を無駄なく纏うことと加速していく素早さに身体が対応出来ることの二つだ。まずは炎を纏う練習からしてみようか」
「ニャブ!」
ニトロチャージ自体はリザードンが使っていたから、技の特徴や感覚を目の当たりにしている。何なら当初は上手く使えなかった技だ。リザードの時に練習していたが、その時の方法が取り敢えず炎を纏うことになれる、だったっけな。炎を纏うことに意識し過ぎるとスピードダウンしてニトロチャージとは呼べないものになったし、スピードを意識すれば炎が消えてしまうなんてこともあった。
ただ、ニャビーとの違いはあの時点で炎を纏うことはできていたということだ。
果たしてニャビーは最初どこまでできるのやら。それによって教え方も変わってくるというものよ。
「んじゃ、まずはひのこを出してみてくれ」
「ニャ、ブ!」
うん、これは難なく出せたな。
それと口から吐き出すのはヒトカゲやリザードの時と同じだ。流石にリザードンともなると、ひのこがひのこじゃなくなるからな。ヒトカゲの時点でかえんほうしゃ使ってた奴だし。
「んじゃ次はその炎を出来るだけ大きくして出せるか?」
「ニャー……」
この様子じゃ、やったことはないんだろうな。
うん、なら。
「俺はニャビーじゃないから正確なことは言えないが、ひのこを出す時に身体のどこかに意識を向けないか?」
「ニャブ!」
俺がそう問いかければ、ニャビーは寝っ転がって腹を見せてポンポンと叩いてくる。
なるほど、つまり腹辺りに炎袋があるというわけだな。
「それ、炎袋っていって、ほのおタイプのポケモンが持ち合わせている臓器みたいなものなんだが、そこを鍛えていくとより強い炎を出せるようになるみたいなんだわ。少なくとも俺のところにいたほのおタイプの奴はその通りだったぞ」
「ニャフー……」
「よし、ならまずはその炎袋から鍛えることにしようか。まあ、鍛えるって言っても炎を出しまくる、つまりひのこを使いまくるってだけなんだがな」
だが、ほのおタイプにとっては一番やる価値のある特訓だと思う。炎袋が鍛えられればニトロチャージより先に他のほのおタイプの技を習得出来るかもしれないのだし。
「的役は俺がやる。遠慮なく俺に向けて撃ってみろ」
そう言って、地面を蹴ると合図だと理解してくれて、俺の周りに黒いオーラが纏わりついていく。
「ニャ……?」
「サナ!」
「ニャブ!」
ニャビーは「いいの?」とサーナイトにでも聞いたのだろう。そのサーナイトはふんす! と頑張れアピールをしている。
可愛いかよ。
「ニャー、ブ!」
そして俺に向けて放たれた火を黒いオーラで霧散させていく。
「ニャー……!」
それを見たニャビーが目を輝かせている。君に見せるの初めてじゃないでしょ。ほら、カプ・テテフやカプ・レヒレを相手にしてた時とか………そういや寝てたなこいつ。
「どんどん来い」
「ニャー、ブ!」
次を促すとさっきに比べてやや速度が増した。
ちょっと遠慮でもしてたのだろうか。
それも難なく黒いオーラで消し去ると、続けて二発飛んできた。
自分から二発続けて撃ってくるとは………。そうやって自分でも考えながら技を放つのはいいことだ。戦うのはポケモン自身。トレーナーの指示ばかりに頼っていては、咄嗟の行動が取れなくなる。トレーナーとの連携は大事だが、何もかもをトレーナーと一緒にってのも無理があるからな。
「ほら、もっとだ。俺をこの場から動かしてみろ」
「ニャー………ニャ、ブ! ブ!」
ニャビーは俺の指示にどう応えるか思案すると、また二発の火を連続して飛ばしてきた。
特に先程と変わりはないため、黒いオーラで呑み込んで掻き消していく。
「ニャニャニャニャニャーッ!」
するとそれらは囮だったようで、高くジャンプしたニャビーが降り注いできた。
「ニャー、ブ!」
なるほど。
頭を狙えばあるいはと考えたのだろう。
だけど、それだけじゃまだ足りないんだよなー。
「まもる」
ニャビーが着弾する前にドーム型の防壁を張り、吐き出された火とともにニャビーを受け止める。
「ン、ニャーッ!」
まだまだー! といった感じで、ニャビーが防壁を足場にして後方へと回転しながら飛んでいく。
うん、アレなんか見たことあるね。
「ニャニャニャニャニャーッ!!」
空気を足場にして一気に方向転換し、俺に目掛けて突撃してきた。
……ああ、やっぱりか。
ニトロチャージのための特訓だったはずが、何でアクロバットを習得してんだよ。
いや、いいんだけどさ。謎すぎない?
「グフッ?!」
しかも減速させようと放った黒いオーラが意味をなさなかったんですけど………?
おかげで腹に諸にタックルを受けてしまった。
よかった、飲み食いしてなくて。危うく吐き出すところだったわ。
「ニャ?! ニャニャ、ニャニャニャ!」
ドサッと倒れた俺に気づいたニャビーがすごい剣幕で俺の顔の横にかけてくる。
「お、おお、大丈夫だ。思いの外、お前の技の威力が大きかったってだけだ」
息を整えてつつ、何とか腹を押さえて起き上がる。
うん、頑丈になったよな、俺の身体も。
「今の技はアクロバットっていって、一旦相手から距離を取ってから突撃する技だ。ちなみにひこうタイプの技だぞ」
ニャビーの頭を撫でながら今の技を解説すると、余程心配だったのか頭を擦り寄せてくる。
かわええのう。
まあ、こんな可愛いのも今の内にだがな。進化したらガオガエンになるし、ガオガエンはその……な。アレはアレでカッコいいんだけど。
「サナ!?」
「おう、サーナイト。大丈夫だけど、ちょっといやしのはどうくんない? 痛みは引くだろうし」
「サナ!」
遅れてやってきたサーナイトにいやしのはどうをかけてもらう。
昔スクールにいた時にハピナスからいやしのはどうをかけられたことがあったけど、気休め程度には人間にも効果があったからな。
「ニャニャー」
「サナサナ」
んー、「大丈夫なの?」「任せなさい!」といったところか?
なんか段々とサーナイトがお姉ちゃんをしてるな。甘えてくるところは変わりないけど、ゲッコウガたちがいない分、自分がしっかりしなくちゃって思ってる部分もあるのかもね。
いやはや、これも成長の証というものだな。
「………ふぅ。サンキューな、サーナイト。痛みは引いたわ」
「サナ!」
「ニャビーも気にするな。今のは俺が読み誤ったのが原因なんだからな。それよりもだ。もう一度やるぞ。今度はアクロバットも使って、どんどんひのこを俺に当てに来い」
「ニャ、ニャブ!」
俺が立ち上がると黒いオーラも同時に俺わ纏い始めていく。心なしかダークライも申し訳なさそうな気配を出してるな。そんな気にしなくてもいいのに。それだけニャビーの思い切りがよかったって話なんだから。
「ニャニャニャー!」
さて、次はどんなのを見せてくれるかな。
ニャビーは高くジャンプすると、また俺に向かって降ってきた。
「ニャ、ブ! ブ! ブ!」
おおー。
アクロバットを覚えたら、いきなり火を三発続けて出せるようになってるじゃん。
俺がそんな感想を抱きながら、黒いオーラで火を消していると、次は回り込んで俺の背後を取ってきた。
「ニャー、ブ!」
お、今度は火の大きさが三つ分くらいになったぞ。これまでの三発を一つにまとめたのか?
「まもる」
ドーム型の防壁を張って受け止めると、やはり先程と同じように防壁を足場にしてくるくると回転しながら後ろへ飛んでいった。
「ンニャァァァ!」
空気を蹴って一気にこちらへ突撃してくる。
だが、俺もさっき学習したからな。これはもっと確実に受け止めようと思う。
「ニャー、ブ!」
うお?!
お前、そういうのも思いついたのか。
「サイコキネシス」
一直線に突っ込んでくるニャビーは、さらに火を吐き俺にそっちを対処させようとしてきた。
なかなかにいい発想だが、全部まとめて超念力で止めてやった。
「ニャ!?」
急に空中で身体が止まったことで驚いているニャビー。
「ニャニャニャー?!」
身体を動かして脱出しようとしているが、一応ダークライの力だからな。ニャビーが敵うわけもなく、俺の腕の中へと着地させられた。
「よっと、お疲れさん」
「ニャ……ンー」
身体が自由になったのが分かると、ニャビーは俺の胸に顔を埋めてきた。
かわええのう。
でも、こいつオスなんだよなぁ………。もういっそ性別はトツカでいいんじゃないかなぁ。
「ちゃんと火のサイズを大きく出来たじゃないか。今はまだそれでいいから、一つ一つステップアップさせていこうな。そうすれば、炎を纏うことも出来るようになるし、ニトロチャージも完成に近づく。それに予定外のアクロバットを習得したんだ。二回目はちゃんと意識して出来てたと思うぞ」
まだまだニャビーには課題がたくさんあるが、初めてでこれなのだからいずれニトロチャージも完成するだろう。
サーナイトなんかはラルトスの時からゲッコウガたちのバトルを見てきたのに対して、ニャビーはゆったりとしたアローラで過ごしてたんだ。バトルを見る機会もなかっただろう。バトルを直接見ているのと見ていないのとでは、実際に戦う時のイメージが湧かないものだ。それでこれだけのことが出来たのだから充分だと思う。俺もニャビーの実際の動きを見るまではそのことに失念していたくらいだし、お互い気長にやっていこうじゃないか。