「本部から君にミッションを言い渡されたであるぞ」
「ミッション………? もう仕事をしろと?」
プラズマ団との邂逅から程なくして、仕事が舞い込んできた。
「いや、今回のは試験を兼ねている」
「はあ………んで、何をしろと?」
試験を兼ねているとか言われても働かなきゃいけないのはどちらにせよ同じことだ。
「チャンピオンのポケモンと同じ種族のポケモンを一体捕獲せよ、とのことである」
「チャンピオン………ていうとあのオレンジ髪の?」
確か名前は………アデク? だっけ?
ポケモンみたいな頭って印象しかない。
「であるな。アデクのポケモンの中から一体選び、それと同じポケモンを捕獲するものである」
「つってもイッシュ地方の地理なんざ一切入ってないんすけど」
「そこは任せるであるぞ! ポケモンの生息地などは自分で調べてもらうが、行き先が決まればその場所の行き方を伝えるである」
はぁ………業務命令だからやるしかないが、知らない土地でポケモンを探せと言われてもな………。
そもそもチャンピオンのポケモンって何がいたよ。
ウルガモスにアギルダーとシュバルゴ、それとバイバニラにあのアフロケンタロスだっけか。あのアフロだけ名前が思い出せない。そもそもが知らないポケモンだし、カロスでもお目にかからなかったからな。仕方ないということにしておこう。
んで、この中から好きに選んで捕まえて来いと。
取り敢えず、アギルダーとシュバルゴはパスで。ゲッコウガと被るというのもあるが、進化前を捕まえた時進化させるのが面倒である。片方捕まえたところでもう片方がいないと進化出来ない奴らだ。チョボマキの殻だけでも手に入るなら別だが、そう簡単に見つかるはずもない。しかも二体揃えたところで進化のタイミングが合わないとってのもあるし、あいつらは無しで。
次にバイバニラだが、こおりタイプ大好きゆきのんに睨まれそうなのでやめておこう。凍てつく視線を送られて無事死ねるレベル。
となると残りはウルガモスとアフロケンタロスだが………名前も分からんのに特徴なんざ知るわけがない。
はあ………消去法でウルガモスになるのか。
ただ、ウルガモスは伝説のポケモン並みの奴だからな。強いし、慣れているほのおタイプを持つからノウハウがないわけでもないのだが、如何せん出会えるどうかの代物。進化前のメラルバですらどこにいるのやら………。
「………一応、ウルガモスにしようかと思うんすけど」
「一番ハードルの高いポケモンに挑戦するであるな」
「やっぱりか。これって進化前を捕まえてくるってのはありなんすか?」
「進化前を捕まえて進化させたというのが確認出来れば、ミッションをクリアしたことになるぞ」
なんか思ったよりも適当だな。
ミッションってのは完遂してなんぼのもんじゃないのかよ。
「………受ける身で言うのもなんですけど、それでいいんすか? 一応試験なんでしょ? それも国際警察としての適正でも調べるくらいのやつの」
「よく分かったであるな。無論、そのつもりであるぞ」
「なら、言われた通りのポケモンを捕まえるのがベストなのでは?」
「上はチャンピオンの現在の手持ちとは一言も言っておらぬ。この意味が分からないわけではあるまい」
つーことは上が何を言おうとも、そもそも指示が悪いと言えるというわけか。この人、そういうところに知恵が働くってことは、結構やり方が汚い時もあるんだろうな。まあ、そうでなければ国際警察で指揮する側にいけないか。
「なら、もう特に言いません。このまま受けますよ。んで、ウルガモスの生息場所とかはどこで調べれば?」
「パソコンなり、資料室なりで調べると良い。何かしらあるはずであるぞ」
というわけで俺は早速ウルガモスについて調べることにした。
資料室にいけば無駄に本があるため、何かしら見つかるだろう。
✳︎ ✳︎ ✳︎
という時期が俺にもありました。
いや、全然ねぇんだけど、ウルガモス!
お前、そんなに記録に残ってねぇのかよ!
くそっ、他に何かそれっぽいのでもないのか………?
「あ、イッシュ建国史………?」
見たことあるようなワードを見つけ、その本を取ってみた。
「前にどこかで読んだ気がするが………」
イッシュ建国史
古代ハルモニア王国。時のハルモニア王があるドラゴンを降した。それにより国民から絶大な信頼を寄せられ、以来国民は一丸となり、国は栄えた。間も無く国王がその生涯を終えると息子である双子の皇子が新たな王の座に就いた。前国王が降したドラゴンも双子に寄り添い、国民も新たな王の誕生ということもあり、一丸となった。しかし、後に双子の王はその意見を違えることとなった。真実を求める兄と理想を求める弟。カロスという大きな国にいずれハルモニア王国が侵略されると語る弟は、先に危険要因を排除するため、カロスへ侵攻。前国王が降したドラゴンも連れて行った。しかし、結果は惨敗。カロスより打ち上げられた光により多くの魔獣と人々が命を落とした。ドラゴンに助けられた弟の元に兄が向かうとまたしても意見が対立。今度こそ修復しきれない亀裂が二人に入り、二人の言葉にドラゴンが分裂した。その姿は白陽な真実と黒陰の理想を感じさせ、そのまま何もかもが無くなったカロスの地で二人の戦争が始まった。だが、二人はすぐに追い出されることになる。巨大な翠の魔獣に襲われたのだ。二人は戦いの場を自国へと移し、国民を巻き込んだの第二次戦争が勃発。激化した第二次戦争は多くの魔獣と人々の命を奪っていった。ドラゴンと同じく前国王の配下にいた三体の魔獣が他の魔獣たちを引き連れ、以後人々の前に魔獣が長く現れることはなかった。ようやく事の重大さに気づいた双子の王は戦争を放棄。分裂した白黒のドラゴンはそれぞれ石となり、遠くへと消えてしまい、ハルモニア王国も滅んだ。そして激戦により失われた太陽の代わりに、太陽のような炎を操る魔獣を配下に置く者が新たな王となり、国を『一種』と名付けた。
そう、二度と国が二つに分裂しないようにと願いを込めて。
「………………」
うっわ、カロスと戦争してるし。しかも何か打ち上げられてるのって最終兵器なんじゃねぇの………?
改めて見ると、これ結構ヤバいこと書かれてるよな………。
いや、それよりもだ。
最後の太陽のような炎を操る魔獣。
ウルガモスもそんな謂れがあったような気がする。
………まさかこれ、ウルガモスのことか?
「まあいい。他も探そう」
イッシュ建国史の中身を読んでいけば、この太陽のような炎を操る魔獣についても何か書いてあるだろうから保留で。
それよりも他に何か………はっ? カロス戦争?
「これってーーー」
これまた聞き覚えのあるフレーズを見つけたので、これも手に取ってみる。
「これ、あの会議でダイゴさんが持ってきてた資料のやつじゃね?」
ーーー元々は一体の神に護られていた。その名はゼルネアス。永遠の命を与えるとも言われている神。人々はその神が造り上げた土地の美しさを称賛し、『カロス』と名付けた。そしてそのカロスを統治する王が誕生した。王はカロスの民に讃えられるも、すぐに王は死んだ。民はゼルネアスに王の復活を願うも神の力は働かず、その後カロスは滅びの一途を辿った。朽ちたのだ。イベルタルという悪魔によって、カロスは朽ち果ててしまったのである。しかし、それだけには留まらずゼルネアスとイベルタルは争いを続けた。民は新たな王の誕生を願い、王の子供が新たな王として立ち上がった。すると『何か』も現れ、神と悪魔の争いを諌め、どこかへと消え去ってしまった。その後、ゼルネアスは樹木に、イベルタルは繭となり眠りについてしまった。これが最初の『カロス戦争』である。
時は千年が過ぎ。新たな戦争が起きた。今度は人や魔獣たちも入り乱れて戦う醜いものである。その戦争で王の愛する魔獣が命を落とした。王はすぐに神を倣って命を与える機械を造り上げた。魔獣は見事復活を遂げるも愛する魔獣が一度死んだという事実に、怒りと悲しみで我を忘れた王は多くの魔獣を使い、機械を兵器に造り変えた。その力で戦争はおろかカロスが無に還り、王の愛する魔獣もその出来事を悲しみ、王の元を去った。神も悪魔も眠りにつき、残された民は一度目に現れたという『何か』を探すも見つけられなかった。
さらに千年後。三度目の戦争……は起きなかった。起きる前に悪魔が朽ちらせ、『何か』が無に還し、神が新たな命を与え、すぐに元の美しいカロスへと戻ってしまったのだ。
その千年後。再び戦争が起きた。今度は人と魔獣が協力し、石を使って新たな力を得ることで戦争に立ち向かった。その力は魔獣の姿を変え、強大な力を引き出すもので例え神であろうと悪魔であろうと立ち向かうことが出来た。その最中、石を使わずに新たな姿を手にした魔獣がいた。その魔獣の力により戦争は一気に終わりに近づいた。そう、近づいたのであって終わったわけではない。最後はやはり『何か』が現れたのだ。民はまたしても無に還ると覚悟をしたが、『何か』は神と悪魔を諌め消え去ってしまった。その後、民はその魔獣を英雄と評し、同時に『何か』をこう呼ぶことにした。ーーージガルデ、と。
我らが子孫たちよ。どうか覚えておいてほしい。カロスには千年に一度ゼルネアスとイベルタルが争い、それをジガルデが諌めるのだ。そして、我らには全てを無に還すジガルデに対抗する刃、英雄ゲッコウガの力が必要になるということをーーー。
「こっちにはイッシュのことは一切書かれてないな………」
さっきのイッシュ建国史と照らし合わせると、最終兵器が使われたこの時にイッシュも攻め入ってきたことになる、よな。でもあっちは明確な時期を一切記してないから、確証は得られない。どちらも伝承をそのまま本にしただけのようにも感じられる。
結局は当事者たちが残した資料でしかない。それを本にまとめたようなものなのだから、矛盾しているというか曖昧なところがあって然るべきということだろう。
まあ、何にせよ何が真実で何が虚偽なのか当時の人間にしか分からないが、少なくともそれぞれの伝説のポケモンが暴れ、太陽のような炎を操る魔獣と石を使わずに新たな姿を手にした魔獣が人間側に付いたのは事実だろう。
どちらも後世では伝説のポケモンになりきれなかったという共通点がある。
やはり太陽の魔獣について調べてみる価値はありそうだな。
「ひとまずイッシュ建国史の中身を確認するか」
パラパラとめくっていき、ドラゴンが分裂してハルモニア王国が滅んだ辺りを探す。
まあ、目星をつけた通り、後ろの方にあった。
ご丁寧にイラストもある。あるんだけれどもーーー。
「なんつー絵だよ」
太陽のような炎を操る魔獣って書いてはあるが、すげぇ絵が下手。後ろのヒラヒラが全部で六枚ーーー六枚羽のポケモンってことしか読み取れん。
何でこんな大事な資料を残すってのに、絵がクソ下手なやつに書かせたんだよ。もうちょいマシな人材がいただろうに。
「まあ、一応姿は見てるしクソ下手な絵のことは流しておいてやろう。それよりもだ」
火山が噴火し、空が黒く染められていく中、太陽のような炎を操る魔獣が太陽の代わりに輝き続けた。光を浴びた人々は感激し、魔獣を太陽の化身だと崇め祀った。
非常に寒い冬が訪れた時、燃え盛る炎の繭から生まれ、その炎で震える人々や他の魔獣を救った。
「………ウルガモスはメラルバの進化形だから文字通り生まれたってわけではないよな」
となると六枚羽を折り畳んだ姿が繭に見えた、か。
炎の中から現れればそれだけで神降臨みたいなシチュエーションにもなりそうではある。
ピンチの時に目にすれば崇めたくなるのも頷ける。
それ故にイッシュ王国ではウルガモスが祀られていたのだろう。
「あとは………」
イッシュ王国も多様化する時代の流れの中で衰えていき、終わりを迎えた。だがしかし、イッシュという名はそのまま残り、多様性を象徴する言葉となった。
王城は人々から忘れ去られるも今も尚、イッシュのどこかに眠っていることだろう。そこには未だ太陽の魔獣がいるかもしれない。
「………ヒントになりそうなのはこれくらい、か」
結局、居場所を特定出来るような手がかりはなかった。
どうしたものかね。
ウルガモスよ凄さは伝わってくるのだが、今肝心の居場所のことは一切ない。
もうウルガモスをやめて他のポケモンにするか?
するとしても次の候補はバイバニラかアフロケンタロスになるだろうが…………どうせならウルガモスを仲間にしてみたい気分になってるんだよなー。
居場所さえ判れば、どうとでもなりそうなんだけど、その居場所が判らないのが痛い。
そもそもこのテストはどういう意味があるんだろうな。標的を設定して、それを調べ上げてミッションをクリアする力でも審査されてるとか?
それとも進化前を捕まえて進化させてもクリアなるみたいだし、捕獲する力とか?
捕獲する力とか俺にはないと思うんだが………。捕獲される力なら超ありそうだけども、この力変な組織にも働くのが難点なんだよな。いや、そもそもそんな力があるとは思ってもいないが。
ただ、一度外に出ただけでプラズマ団に遭遇するくらいだ。最初はロケット団でシャドーには誘拐され、ロケット団の残党狩りをさせられて、カロスに来ればフレア団ってのもある。絶対イッシュに長居をすればその分巻き込まれるリスクが高まるのは明白だ。
つか、ミッションにイッシュ地方で捕まえろとかは一切言われてないよな。
………………。
「………俺の行き先はガラル地方とか言ってたよな」
………調べる分には問題ないよな。
本での居場所特定は無理だ。それっぽいのを探すのだけでも一苦労だし、いざ見つけても内容が抽象的すぎて特定には繋がらない。
早速パソコンを起動させて、検索をかけた。
「………出たよ」
ガラル地方ウルガモスで検索したら見事にヒット。
「鎧島……?」
見かけたという写真付きの投稿にはガラル地方鎧島と書かれている。他にもウルガモスの動画とかもテロップで『鎧島で発見!』とか書かれている。
ここまでくるとそういうことでいいんだよな。
ウルガモスはイッシュ地方以外にも生息している。恐らくイッシュ地方ではイッシュ王国の守護神的扱いをされているみたいだが、ガラル地方では一ポケモンでしかなさそうだ。それでも珍しいのには間違いないようで、こうして動画なり画像がアップされているわけか。
「ちなみにカロスは………?」
カロス地方でも検索をかけてみる。が、ヒットせず。
やはりカロス地方にはいないみたいだ。
さっさとカロスに帰りたいところだが、今帰ったところで誰もいない。みんなまだカントーにいる時だ。ポケモン協会の立て直しもしてなければ、フレア団とやり合ってすらしていない。
となると急いだところで何も変わらないのは同じだ。ただ、イッシュを早々と出たいのは決定事項。
ならば、やはりここはガラル地方に行ってしまうのがいいのかもしれない。ミッションについてもガラルなら交渉の余地はありそうだ。