「ようやく上から辞令が下されたであるぞ」
ヒウンジムに行ってから一週間の後。
ようやく仕事が転がり込んできた。
「まずは君の所属部署からであるが、国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係となる。階級は巡査部長。そして、君に与えられたコードネームは『黒の撥号』。わたしの傘下である黒の名を冠することになった」
えっと?
国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係………?
いや、長いわ!
階級はいいとしよう。巡査部長なんて割と下の方だし、変に上の階級を与えられても困る。
それよりもコードネームだ。
何でよりにもよってそんなザイモクザが好きそうなものにしたんだよ。上司が黒の壱号だからって撥号はないだろ。名前とかけるんじゃねぇよ。
「次に辞令の方であるが、正式に上からガラル地方行きが決まった。ミッション内容はガラル地方におけるコネクションの構築、黒またはグレー集団の調査、そして君に課せられているウルガモスの捕獲の三種となる」
辞令の方はこれまで言われてきたことだ。それが正式に決まっただけのこと。コネクション作りが些か不安でしかないが、ジム戦でもすればジムリーダーたちとはどうにかお知り合いになれなくもないだろう。
その変から怪しい集団ないし人物の情報を聞き出せば手がかりくらいは掴めるはず。
ウルガモスに関しては探すしかないが、イッシュ地方を駆け回るよりは断然いい。
「ただ、このまま放り投げたところで何も生まれないだろうということで、君にはガラル地方の鎧島にあるポケモン道場で住み込み調査をしてもらうことになった」
………え?
旅するみたいに練り歩くんじゃないのん?
「期間はこれより三年。できる限りの情報を集めよ。そして、可能ならば組織の壊滅を遂行しろ。とのことである」
「えっと……住み込み?」
「うむ、初めての土地で野宿ばかりというのも経費がかかるである。その点、道場に住み込みとなれば食と住は確保できるし、道場主からコネクションを広げることも可能であろう」
一応考えられてのことか。
道場……道場ねぇ。
「それ、どういうタイプの道場なんすか?」
「ポケモントレーナー育成の道場であるぞ」
「つまり格闘技とかのではないと?」
「少なくともメインではないである」
「………分かりました。不安は拭えませんが、その辞令に従いましょう」
警察本部が用意したところだ。
流石におかしなことにはならないだろう。というかなったら色々と本部の責任が面倒なことになるだろうからないと信じたい。
「それとこれからはわたしは君のサポーターの『マジシャン』ということになる。くれぐれも黒の壱号の名を出すことのないように」
「了解っす。それで、赴任はいつからで?」
「明日にでも出立してもらうであるぞ」
早いな。
まあ、俺としては早いに越したことはないしいいけど。
「なら、準備しておきますよ」
「では、これを。君名義の口座を作っておいた。活動資金及び給料はここに振り込まれるようになっている。鎧島ではどうか分からないがガラル本土にあるATMから引き出せるようになっているから安心していいである」
おー、まさかの口座を用意してくれていたのか。確認する手間が省けたな。
「それとスマホを渡しておくぞ。ガラル地方では大多数の者が所持している通信機器である。イッシュ地方ではライブキャスターが主流であるため、これを持っている者は極僅かであるぞ」
スマホ、だと………!?
ホロキャスターやポケナビよりも優秀だというアレか?!
しかも他の機器ともアプリを通して連動させることが出来て、操作も出来るという………!
すみません、デボンの社長さん。
スマホ使わせていただきます!
「わたしの連絡先しか入っていないが、コネクション作りの道具にするであるぞ」
「連絡先が少ないのは今に始まったことじゃないんで。ありがたく使わせてもらいますよ」
「あと、そのスマホにはまだ仕掛けがあるようだが、それは現地でのお楽しみであるぞ」
「まあ、その辺はあっちの人にでも聞けばいいでしょ。その仕掛けもあっちでは使われてるんでしょ?」
「そっちの使い方の方が一般的ではある」
なら、いちいち調べるよりも聞いた方が早そうだ。
ホロキャスターやポケナビですら使いこなせているとは言い難いし、ホロキャスターに至っては女性陣の方が詳しいまである。
下手に慣れないことはしないでおこう。面倒だし。
「最後にハイパーボールを渡しておく。見事、ウルガモスを捕獲し仲間にするであるぞ」
「了解」
なんだかんだで至れり尽くせりだな。
偶然落ちたところが国際警察関連の施設で、そこで黒の壱号警視長により国際警察官にされてしまったが、そのおかげで口座が作れるくらいの身柄が保証されたわけだ。加えて、これから先の三年間を無意味に過ごすこともなく済みそうだ。しかも食と住に困ることもなく給料も入るというのだから、逆に全てが俺を嵌めようとしている罠だとすら思えてくるレベル。
「毎日とは言わないが、週に一度は報告するであるぞ」
「何も収穫がなくてもいいのなら」
「基より初めはそういうものであるぞ」
「はいはい、分かりましたよ。ここまで用意されたのならやらないわけにはいかないでしょうよ」
スマホを持たせたのも表向きはあっちでの主流機器だからだろうが、真意は報告させるためなんだろうな。
まあ、連絡先が壱号さんしかないってのなら煩わしい連絡も来ないということだろう。全てのやり取りは壱号さんを通してということならば、俺としても情報は揃えておきたいため、連絡せざるを得ない。
大人たちの考えは本当に裏があって恐ろしい限りだ。
「では、任務完了の知らせを楽しみにしておるぞ」
こうして、正式に国際警察官になってしまった。
ポケモン協会本部からカロス支部のトップへ至り、次は国際警察官か………。我ながら中々に異色の経歴の持ち主になってしまったな。ここにさらに元チャンピオンと忠犬ハチ公、新たに黒の撥号って肩書きがくるんだろ?
こんなもん、目の敵にされてもおかしくないわな。
………どうか、これから先も面倒なことが起きないまま三年が過ぎますように。それか早く俺を元の時間軸に戻して………。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日。
半日もかからず早速ガラル地方に降り立った。
カントーに帰るよりもガラルやカロスの方が近いということに今更ながら気づいたのはオフレコにしておこう。
そして、アーマーガアタクシーなる鳥籠に入れられ、東にある離島へとやってきたわけだが………。
「本土は寒かったくせに、離島は暑いとかどういう環境だよ」
ガラル地方は寒いというイメージがあったため、気持ち厚着をしてきたってのにこの暑さ。
南の方にあるわけでもなし、謎すぎる。
道場前に降ろされたものの砂浜だし。
しかも頭が黄色いヤドン? が何体も砂浜に打ち上げられている。あれリージョンフォームか? でもあのボケーとした感じは変わらない。
橋を渡って建物の前に来ると、結構な大きさなのが分かる。
それにしてもどこぞの半裸博士の研究所みたいな立地だな。浜近くに道場って………。
取り敢えず中に入るか。
「……お邪魔しまーす」
「「「新人さん、いらっしゃーいっ!!」」」
パンパパパンパンパンッ!!
扉を開いて中に入ると発砲音とともに目の前が細長いキラキラした紙切れで覆われた。
多分クラッカーとかの類のやつなんだろう、と遅れて気づく。いや、一瞬マジで撃たれたかと思ったわ。
「えっと………」
「ほ、ほら! やっぱり困ってるじゃないですか、師匠!」
「ええー? ワシちゃん、いけると思ったのよー?」
「知りもしない人からのこれは恐怖でしかありませんって………」
中心にいた老人に向かって周りから声が上がっている。
なるほど、主犯はあの爺さんか。
「ごめんねぇ、ウチの人が。今日来る新人さんは集団に溶け込むのが苦手だーって聞いて、なら最初からフランクならいいんじゃないの? って、ダーリンが張り切っちゃったのよ。だから悪く思わないであげてね」
「はあ……そすか…………」
俺のこと何て言われてるんだよ。すげぇ気になるんですけど。
…………ん?
「え? ダーリン?」
「そうよ、あたしはミツバ。ダーリンのお嫁さんよ!」
「わぁお、初対面の子に大胆だねん、マイハニーは」
そう言って爺さんに抱きつく女性。
………………………。
え、この爺さんと見た目三十、四十辺りのミツバさんとやらが夫婦………?
「…………あ、はい」
うん、特に問題があるわけじゃない。昨今では歳の差カップルなんて普通だ。それこそ、誰にもやらないと誓った静さんと俺も歳の差カップル予定みたいなもんだ。まあ、俺の場合は嫁さん候補がまだ数人いるし、全員もらおうとしてるわけだけど…………。
問題があるとすれば俺の方だわな。うん、だからこれは至って普通のことだ。問題ない、問題………ない。
「つ、強者だ………っ!? 初対面でこのツーショットを見せられてもあっさり受け入れたぞ!」
「すごい!」
いやいやいや!
んなことで強者認定するなよ!
「あ、いや、その、なんつーか………そういう人もいていいのではってだけ、です」
さっきから衝撃の連続でまともに頭が働いていない。何なら口も回らない。
「改めて、ようこそマスター道場へ。ワシちゃんがこの道場の師範をしてるマスタードだよん。よろぴくね〜」
いや、軽っ!?
爺さんが一番ノリが軽いってどういうことだよ!
つーか、マジでこの人が道場主なのかよ。
………大丈夫か、この道場。
「チミの名前は〜?」
「あ、ハチです」
「なら、はっちんね〜」
「おい」
もうね。
出だしからツッコミ所満載な道場なんですけど。
ここ、本当にポケモントレーナーの道場なのか?
お笑い育成所って言われても違和感ないぞ。
「あれれ〜? 嫌だった〜?」
「いや、いいですけど………さっきから衝撃が走りまくって処理しきれない」
「真面目だねぇ」
「最早真面目云々以前の問題でしょ、このカオスっぷりは」
コミュ力お化けなユイやイロハ、コマチですら対処しきれないと思う。
いや、ほんとマジで誰か助けて………。
こういう時の対処法を教えてください!
「歳はいくつ〜?」
聞いてないな、こんちくしょう!
つか、歳?!
俺、今いくつだよ。十七? ……いや、半年経ってたんだから十八になってた、のか?
あ、でも三年前に飛ばされて…………身体的には十八ってことにしておこう! 知らん!
「……あー、多分十八くらいじゃないですかね。きちんと数えてないもんで」
「およよ〜? 若いうちからそれだとワシちゃんみたいな歳になった時、すごいことになってるかもよん?」
「久しぶりに祝われたのが十七の時で、それが一年くらい前だったなーって感じなんすよ」
「そっかそっか。なら、ここにいる間に誕生日が来たら盛大にお祝いしないとね。そりゃもう、忘れられない誕生日にしてあげるよん」
………それはそれで何か怖いんだけど。
今しがた起きたクラッカー事件がパワーアップして起こりそうな予感しかしない。
「はあ、まあその時はよろしくお願いします」
「うんうん、楽しみにしててねん」
………いや、つーか。
何でいきなり誕生日の話になってんだよ。
俺今来たところだからね?
しかも次の誕生日ってあと半年以上あるし、その間に次の命令が出されたらここを離れることになるだろうからね?
「………えっと、それよりなんか入門試験とかあったりしないんすか?」
「え? ないよ、ないない。そんなものはここにはないよーん」
えぇー………。
勝手な思い込みだろうけど、道場ってそういうのあるもんじゃないのか? 一応トレーナーの実力を把握しておかなければ、指導も何もないと思うんだが。
「あ、でもどんなバトルをするのかは見てみたいねー。だからいつか見せてね」
「いつかって………そんな先でいいんですか?」
「ここではトレーナー自身のペースで鍛えていくからね。ワシちゃん、若い子たちを焦らせる気はないよん。それにチミに釣り合うトレーナーは今日いないからね」
どういうことだってばよ。
釣り合う相手とか………えっ? ここの門下生ってそんなに強いのか?
「えっと、取り敢えず割と自由ってことでいいんすかね」
「そうね。そんな感じでいいと思うよ。焦ってもいいことはないからねー」
「そりゃごもっともで」
何というか、食えない爺さんだな。
こんな軽い爺さんでも爺さんなりの考え方があるみたいだし、その考えにも共感できなくもない。
俺自身、別に時間に追われてるわけではないから共感できるのかもしれないが、焦ったところで何かが変わるわけでもない。何をしたって時間の流れには逆らえないのだし、流れに身を任せるが吉だということは身に染みている。現在進行形で起きているタイムトラベルは時間の流れに逆らっているのでは? という意見も出てくるだろうが、どうせどこか他のタイミングで世界の修正が入るのだ。例え時間の流れに逆らえたとしても世界そのものには逆らえない。結局、焦ったところ世界にとっては数瞬程度のこと。
というわけで爺さんの教育方針に則ってここでのんびりすることにしよう。
「はい、それじゃあ、はっちんへの質問ターイム!」
はっ?
おい、待てやこら。
いきなり過ぎるだろ!
それにまだ玄関入ってそのままなんですけど?!
まさか、ここで一通りやるつもりなのか?
「あ、じゃあはい!」
「はい、そこのチミ!」
「ハチさんはどんなポケモンを連れてるんですか!」
連れてるポケモン………えっ、どうしようか。やっぱあいつらは出せないよな。となると………。
「えっと、出てこいサーナイト、ニャビー」
「サナ!」
「ニャブ」
取り敢えず一般的なポケモンであるこいつらしか見せられないよな。口に出すのもやめておいた方がいいだろう。
「サーナイト!?」
「かわいいー!」
「そっちのチョロネコみたいな子もかわいいー!」
「おおー、ニャビーを連れてるなんて、さすが外から来ただけあるねぇ」
「師匠、このポケモンは?」
「うん、ニャビーと言ってね。アローラ地方に生息するほのおタイプのポケモンだよ。ガラル地方には生息してないからね。みんなが知らなくても当然なのよん」
「あ、いないんですね」
「でもサーナイトはいるよん」
「へぇ、詳しいんですね」
「ワシちゃん、これでも世界を旅してたからねん」
「その時、ゲットされちゃったのがあたしだよ!」
ねー! って顔を合わせるラブラブ夫婦。
……………うーん、そんなラブラブっぷりを見せられても俺にどうしろと? ポケモンゲットみたいな言い方されても、笑えばいいんですかね……?
「サーナイト、ニャビー。一応ここが今日からお世話になるマスター道場だ。約二名程キャラが濃過ぎるけど、まあ慣れてくれ。俺も努力するから」
「サナ」
「ニャブ」
一応警告だけはしておいた。
こんなキャラの濃い夫婦に突然会わされたんじゃ、ビビるだろうからな。俺なんか超ビビったからね。
「はい、次!」
「押忍! 先程外から来られたみたいなことを師匠が仰ってましたが、ハチさんのご出身は?」
「カントー地方」
「の?」
の? って………。
もっと詳しく言えってか、爺さん。
「………クチバシティ」
「おぉー、港町だね」
この爺さん、自分のペースに巻き込むのが上手過ぎて怖いわ。この独特な軽さは不意を突かれたら終わりだ。突かれたが最後呑まれてしまう。
「ほんとに詳しいですね」
「これくらいは有名だよん」
「はあ、まああの………取り敢えず上がっていいすかね。ちゃんと質問には答えるんで」
「あ」
おい、爺さん今気づいたのかよ!
「ご、ごめんね〜。ワシちゃん新しい子が来るってもんで張り切りすぎちゃってた。てへぺろ」
「…………さて、お邪魔します」
「師匠をスルーした、だと………!?」
「ハチさん、マジ最強」
おい、そこの二人。
そんなことで関心しなくていいからね。
こりゃ前言撤回だな。
門下生たちもそれなりにキャラが濃いわ。
俺、ここでちゃんとやっていけるのか逆に不安になってくる。
もしダメだったら………その時はその時だ。