水辺に移動した俺たちは、各々が水を飲んだりして休息した。
休むことも大事な特訓だ。
その後、またサーナイトの特訓が始まり男性陣は蚊帳の外となっている。
「随分と技の種類が増えてきたな」
「そうですね。習得の速さもさることながら技術も着々と上達していますよ」
「まるであいつらみてぇだな」
確かに技の種類が増えてきたよなー。
現時点で新たにゆめくい、あくむ、おにび、かなしばり、かげぶんしん、ちょうはつをダークライから教わり、今はクレセリアと技の習得を行っている。めいそうと忘れていたかのようにサイケこうせんを習い、今はみらいよちの習得に取り掛かっている。だが、流石に一筋縄ではいかないようで他の技に比べて時間がかかっている。
「でも流石にみらいよちは難しいようですね」
「エスパータイプの技の中じゃ、高威力の技にして力の使い方が他とは段違いだからな。時間がかかって当然だろ」
そもそもの話、ダークライたちが割と簡単な技も挟んでくれているため、これだけの技を覚えることが出来ているのだ。そして、今はクレセリアが用意した難問。クレセリアたちに上手く乗せられているのもあるし、サーナイトが根気よくついていっているというのもあるだろうが、サーナイトはうぬうぬ言いながら力の調整をしている。まあ、未来に働きかける技だ。そう簡単には習得出来るわけがない。それと悲しいことに、俺もみらいよちに関してはアドバイス出来るようなことも持ち合わせていない。あまり深く考えず時限爆弾を仕掛ければいい、なんてアドバイスで通じるのなら端から言ってるし。
「ヌヌヌヌヌ」
「リア」
さて、こうなるとまだまだ俺たちは暇になるな。持ち物の確認もしたし、ウツロイドの技も確認した。あとやっておくべきことは…………、何だろうな。全然思いつかねぇ。
「ライ」
『「ン? ダークライ、ドウカシタカ?」』
「ライ」
声をかけてきたダークライの方を向くと、おにびで火の中に文字を浮かべ始めた。
えっと………、いつぞやに渡した黒いクリスタルを出せ………?
あー………、アレね。最終兵器から撃ち出されたエネルギーを吸収するのにブラックホールを作り出した時のあのクリスタルね。
確かリュックの中にあったはず。
『「ウツロイド、スマンガリュックヲダシテクレ」』
流石にウツロイドにはあのクリスタルを見つけ出せないだろうからな。
ウツロイドに背中に背負っていたリュックを取り出してもらい、それをダークライに渡した。
『「ソノナカニアルハズダカラ、サガシテミテクレ」』
「ライ」
果たして、あのクリスタルは何だったのだろうか。ダークライが渡して来たものではあったが、他のポケモンに使うこともなかったし、そもそも使い方をいまいち理解してないのだから使いようがない。
ダークライはリュックを漁ると見つけたらしく、チャックを閉めて投げ返してきた。
おいちょっと。もうちょっと大事に扱いなさいよ。特に割れるようなものとかはないけどさ。あの珠も落としたくらいでは割れないだろうし。
『「ソレデ、ソレヲドウシヨウッテイウンダ?」』
「………」
黙りですか、そうですか。
まあ、悪いようにはならないだろう。
そう言えばあのクリスタルって菱形だったよな。菱形のクリスタルと言えば、なんかどこかで見たような気がするな………。何だったのだろうか。
「なあ、理事さんよぉ。テメェの身の回りで死んだ奴とかいねぇのか?」
は?
なに急に。
死んだ奴?
………………………いるさ。ダークホールで呑み込んだ奴ら以外に、もっと大事な奴らが。
「ほぉ、その顔はいるって感じだな」
くっ…………、やっぱりこのおっさん共は組織のトップなだけある。目力が半端ない。にらみつけるを覚えてるのかってレベル。いや、こわいかおかな。
『「…………ムカシ、オレガスクールヲソツギョウシテ、タビヲシテイタトキノハナシダ」』
「トレーナーとしての第一歩を踏み出していた時にですか」
『「アアソウダ。イワレテオモイダシタワ。クソッ………イマオモイダスダケデモジブンガイヤニナル」』
マツブサの野郎、絶対許さないノートにキッチリ書き残してやるからな。人のトラウマを思い出させやがって。
「それは人か? それともポケモンか?」
『「ポケモンダヨ、ソレモニタイ。オレハサカキノワナニマンマトハマッタンダヨ。ンデ、ソイツラハコロサレタ」』
「サカキ、というとロケット団のサカキですか?」
『「アア、タビノドウチュウデアイツニデクワシテ、ソシラヌカオデヤリスゴシテイタラ、アノザマダ。サイショカラシクマレテ、ユウドウサレテオトサレタ。ジュウニサイニナルマエクライノコドモヲ、ターゲットニシテタンダヨ。ワラエルダロ」』
「ガキを狙うとは………。ロケット団も地に落ちたな、と言いたいところだが、オレたちも似たようなもんだ。ルビーだかサファイアだか知らんが、あのガキどもに計画を邪魔されて排除対象にしてたからな」
「右に同じく」
図鑑所有者たちは偶然にして必然である。暗躍している組織に出会してしまうのが運命と言ってもいい。だからこそ狙われるし、窮地に立たされる。なのに、その運命を辿らない俺もロケット団のターゲットにあったのだから怖い話だ。今なら理由も分かるから納得出来なくもないが、腹が立つのは昔と変わらない。殺意が芽生えるのもあいつらのためである。だが、俺一人が敵討ちに走ったとしてもあいつらが帰って来ることはないため、やるだけ無駄だと割り切っている。まあ、許す気はないけど。
『「オレハチョットトクシュナポケモンニエラバレタミタイデナ。ソノポケモンノコトガアッテ、イマデモカンシハサレテイルハズダ。ダカラ、オレガヤラレタッテコトモ、ロケットダンニハシレワタッテイルダロウナ」』
「それはそれは、しつこい輩ですねぇ」
『「トリヒキトハナバカリノオドシトシテ、アイツラヲコロサレタンダ。シタガウイガイニホウホウハナイダロ。サスガニキョウフヲオボエタカラナ。サカラッタラコロサレル。シタガッデドウナルカワカラナイ。トラウマニナラナイワケガナイワ」』
あの時ほど、ロケット団の残酷な姿を見たことはない。それが本来のやり口なのかと。そう思えるほど恐怖を味わった。しかも拍車をかけるように次は家族を狙うとまで言われたんだ。コマチの名前が出た瞬間に俺は首を縦に振ってしまった。
「…………残酷な輩だな。ガキの目の前でポケモンを殺すとか」
『「………モウイイダロ。サスガニコレイジョウハオモイダシタクナイ」』
ああ、マジで嫌なものを思い出した。当時、ダークライに記憶を食われていたから手を出すことはなかったが、ダークライがいなかったら俺は真っ先にサカキを狙い殺そうとして殺されていただろう。
「じゃあ最後だ。今回のことはロケット団絡みか?」
『「イヤ、ベツグチダトオモウ。サカキノバアイハ、マイドアイツガカオヲミセルガラナ。オレヲヤルナラ、アイツミズカラヤルハズダ」』
「そうですか。何かサカキとは複雑な関係なのは分かりましたよ。というか、よく耐えられましたね」
『「ソレモダークライノオカゲダ。ダークライハユメヲクラッテチカラヲタクワエル。オレハキオクヲサシダシ、ユメニヘンカンサセテ、ダークライニチカラヲアタエテイタンダ。ダカラ、オレハキオクソウシツニナンドモナッテイル」』
「なるほど、覚えてなければトラウマも何もねぇわな」
ないわけではない。
現在進行形で身震いしている。
今回もウツロイドがぎゅっと抱きしめてくれているような感覚をくれているため、自我を保っていられるのだと思う。
本当にポケモンたちには感謝だな。皆が皆、俺には必要な存在なのだ。もう誰一人失ってたまるか。
「となると………やはり怪しいのはあのカラマネロですかね」
ん……?
何でこいつらがカラマネロのことを知ってんだ?
『「ナゼカラマネロノコトヲシッテイル」』
「見てたからな。オレたちは暇な死人だぜ? そこにダークライたちがテメェを炎に映して観測していりゃ、見るしかねぇだろ」
おいこら、何やってんだよ。
死人からも監視されていたとか、マジ怖すぎるわ。というかダークライさん? だから俺をここに引き込むことが出来たっていうのか?
「……………」
オーケーオーケー。
取り敢えず、このおっさんたちを断罪だな。
✳︎ ✳︎ ✳︎
意外とノリノリでマツブサとアオギリを締め上げたウツロイドは、心なしかツヤツヤしている。何だろう、俺の感情と思考を読み取っての行動なのだろうか。あ、既に思考は読み取れるんだったな。技の確認中も技を思っただけで勝手発動させてくれていたし。感情の方もウツロイドに感情がないわけではないため、同時に読み取れたとしても納得がいく。やだ、もはや俺とウツロイドは文字通り一心同体じゃん。
そんなこんなしているとサーナイトがみらいよちを完成させていた。随分と長いことやっていたのだろう。流石に疲れが見て取れる。
一旦水を飲ませたりして休憩し、しばらくして腰を上げたダークライに続いて特訓が再開された。
ダークライが見せた技はでんじはから始まり、でんげきは、チャージビーム、そして10まんボルト。驚いた。こいつ、電気技も使えたのかよ。リザードンの次くらいには付き合いが長いはずなのに知らなかったぞ。
どうやら次のレッスンは電気技らしい。今まではエスパータイプの技が中心であったが、みらいよちを何とか習得したことで、タイプ一致技以外の攻撃技にもとうとう足を踏み入れるようだ。
「サナナナナナナナ」
サーナイトが力を込めてでんじはを出そうとするが、それらしきものは出なかった。
「ライ」
ダークライが黒いオーラを出して、サイコキネシスで波を描いていく。でんじはのイメージのつもりなのだろう。
あ、てかあいつサイコキネシスまで使えてんじゃん。マジで何も知らなかったんだな。いつの間にか知っている気になって頼り過ぎていたみたいだ。
ーーー情けないな。
それでと今はまた頼らざるを得ない状況である。恥だ何だというのは後回しだ。
『「ウツロイド」』
「しゅるるるるる」
よし、やれそうだな。
意識するのは内側の波。身体の内側から外に向けて一定の間隔で波を描いていく。腹、胸、肩、腕、そして指先に来たところで一気に押し出す!
「うおっ?!」
「な、何ですか、急に!?」
俺の指先からウツロイドの触手を通じてバチバチッ! と電気が走った。
………なるほど。こういう感じか。
『「サーナイト、ジブンノカラダノナカカラ、ナミヲエガイテイクンダ。ソシテユビサキヘトイタルマデノアイダ、ツネニイシキヲナミニムケテユビサキヘトモッテイクヨウナカンジダ」』
「サナ? サーナ」
俺が試しにやってみて、その感覚をサーナイトに伝えると、力任せに絞り出そうとするのをやめて、一度精神を内側へと向け始めた。
『「スマン。オレモモノハタメシデヤッテミタ」』
「やってみたって………いくらその白い生物に取り憑かれているとはいえ、テメェは人間だぞ? これがあっちの世界なら解剖作業もんじゃねぇか」
『「ニンゲンバナレシテイルトイイタイノナラ、イッテイレバイイ。オレハナニカトソウイワレテキテイルシ、ソノジカクモアル」』
「自覚していたのでは手に負えませんね。確信犯じゃないですか」
『「ダカライッタダロ。オレハロケットダンニネラワレテイタッテ。ニンゲンバナレデモシテナケレバ、トクシュナポケモンニエラバレネェヨ」』
認めたくはないが認めざるを得ない。
オーキドのじーさんたちまでもが俺を図鑑所有者たちと同格以上に扱おうとしてくるし。
だから図鑑をもらうつもりはないし、変な二つ名も付けられたくはない。
「サー、ナ!」
おおー、バチバチッと微細ながらも電気が走ったな。
「サナ!」
「ライ」
入りは出来た。あとはダークライがやってくれるだろう。
「ライ」
「サナ。サー、ナ!」
ダークライがもう一度やってみろと促すと、サーナイトの指先? からバチバチッと青白い火花が散った。その先には細い筋が走り、霧散していく。恐らく成功したのだろう。ただ、まだ弱い。もっと回数を重ねて痺れを強く出来るようにならないとだ。
「ライ」
「サナ? サナサナ!」
あれは褒めているのだろうか。中々に感情が読み取れないのがダークライなんだよな。真剣な時は目を見れば大体分かるが、普段は目ですら語らない奴だ。それがポケモン同士ともなると勝手が違うのかもしれない。
それにしてはリザードンたちとの接し方とはまた違うよな。弟子が出来るというのはそれだけ大きなことなのかもしれないな。
「サーナ!」
三度目にして大きな火花を散らし、その先でバチバチと電気を帯電させることが出来たようだ。というかまだバチバチしてるんだけど。え、なに? ダークライが出したわけじゃないよな?
「ライ?」
「サーナ!」
「ライ…………」
あ………あれはダークライまでもが手をこまねいているな。やっぱりサーナイトがやったのか。
えー、ちょっとー? うちのサーナイトちゃん、ポテンシャル高すぎじゃない?
「ライ」
するとダークライが電撃を放った。
もう次いくのか?
「サナ?」
見様見真似でサーナイトも電撃を出してみる。ダークライ程ではないが、それでも電撃と言うには申し分なかった。呑み込み早くなってるね。これもここに来てからの特訓のおかげなのだろうか。
「サーナ!」
おお、今度はバチバチバチッ! と電撃が走ったぞ。まだまだ技を打ち慣れる必要はあるだろうが、この様子だとチャージビームも10まんボルトもすぐに使えるようになるだろう。
「何というか、随分と成長速度が早くなりましたね。この様子だとあのダークライをも倒してしまうのではないですか」
「どうだろうな。可能性がないとは言い切れねぇが、そう簡単にダークライがやられるとは思えねぇな」
まあ、そこは大丈夫だろう。こんなんでもまだまだサーナイトにはバトルの経験が少ない。いざバトルとなれば、ダークライの方が上手だ。何ならダークホールで眠らされて終わりになるかもしれない。それだけの差がそうそう埋まるとは考えにくい。それでも、ダークライたちはサーナイトに色々な技術を与えてくれるはずだ。それをモノに出来るかはサーナイト次第。ポテンシャルが充分にあるのはさっきの電撃を見ても分かる。
「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
なんてサーナイトの特訓を見ていると、どこからか聞き覚えのある叫び声が聞こえて来た。
…………マジ?
「チッ、来やがったか」
「一旦隠れるとしましょう」
おっさん二人は既に何度かあっているのか、怯えるどころか舌打ちまでしている。一応この世界の主人なんですがね。
『「…………ムリダロウナ」』
「ア?」
おっさんたちの言う通り、隠れるのには賛成だ。ただ、それは俺抜きでの話である。俺まで一緒にいては見つかってしまうだろう。ウツロイドには悪いが、この世界にとってこいつ以上の異物はいない。狙われるとしたら、確実にウツロイドである。そして、ウツロイドに憑依されている俺も問答無用。
『「ダークライ、クレセリア。サーナイトヲタノム」』
「お、おおおい! どうする気だ!」
『「ニゲラレナイナラ、アイサツシニイクマデダ」』
「マツブサさん、ここは彼に任せましょう。何か算段があるのかもしれません」
すんませんね、アオギリさん。そんなもんは一切ごさいませんのよ。
「チッ、二度も死ぬんじゃねぇぞ! テメェには残されたポケモンがいるってことを覚えておけ!」
『「アタリマエダ。サーナイト、マッテテクレ。カナラズモドル!」』
「サナ!」
ブンブンと大きく手を振って見送ってくれるサーナイト。あの笑顔を失くさないためにも必ず戻らないとな。
『「ウツロイド、イクゾ」』
「しゅるるるぷ」
近づいてくる声の方へと身体を向け、一気に飛び出した。