ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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37話

 ダンデとバトルした翌日。

 三日目ということもあり、これからどうしようか道場前の砂浜でボーっとしている。

 水平線になんかデカいのが見えるなーとか、頭が黄色いヤドンが一昨日と同じところに同じ格好をしているなーとか、そんなことばかりが目に入ってくるのだが………いや、つかあのヤドンずっとあそこであのままなのか!? 三日も?!

 ヤドンだから仕方ないのかもしれないが、腹減ったりしないのだろうか。

 

「ニャ、ブ!」

 

 その隣ではサーナイトが操る石に火の粉を当てる練習をしているニャビー。

 ………ひとまず修行のプランでも立てるか。

 まず、ニャビーのニトロチャージ習得が喫緊の課題だろう。そのまま他の技を習得させてもいい。まとめてニャビーの強化ってところか。

 それから国際警察の方のミッションとしてウルガモスの捕獲か。爺さんにでも聞けば居場所は特定できるだろうけど………まず、この島の土地勘を掴まないとどうにもならないな。あと、タイミングが合えばニャビーがどれくらい強くなったか試すいい機会にもなりそうだ。

 ジムチャレンジはどうなるか分からんが、早急に対応する必要はない。年に一回って言ってたし、毎年行われるのなら今年出なければいけない理由もない。あいつら抜きでフルバトルできるくらいのメンツが揃ったら前向きに検討する方向で調整するとしよう。

 

「およ? はっちん、こんなところでどったの?」

「師匠……」

 

 爺さんと呼ぶのも何なので、一応師匠と呼ぶことにした。心の中では爺さんだけどね。

 

「これからの予定を整理してたんすよ」

「へぇ、何するか決まった?」

「そっすね。取り敢えず、ニャビーの強化とウルガモスの捕獲ですかね。この島に来たのもウルガモスがいるってのをネットで見つけたからなんで」

「ウルガモスならチャレンジビーチってところと離れ島海域ってところにいたりするよん。進化前のメラルバは集中の森と円環の入り江にいたりするんだけど………言っても分からないよね?」

「そうなんすよ。だからこの島の地理も覚えないとなーって考えてました」

 

 地名というか、まあ地名か。それぞれ生息域を言われてもこの島がどんな形をしているのかさえ知らないのだから、さっぱり分からんわ。

 一度地図持ってブラブラした方がいいかもな。

 

「はっちんは頭で考えてから動くタイプなんだねぇ。どこかの誰かさんとは大違いだよ」

 

 一体誰のことを言っているのやら。

 まあ、爺さんの言う通り俺は頭で考えてから動くタイプだと思う。ぼっち故の性だったのだろう。

 一度付いた習慣は中々変えられないからな。それが無意識下で行われていることとなれば、最早手の出しようがない。指摘されたところでそう易々と変えられるわけではないので、どうしようもないというものだ。

 

「昔から特に何かあるわけでもなくいつの間にか面倒事に巻き込まれてるってことがありましたからね。情報は多い事に越したことはないし、感情的に動いたらそれこそ命取りになるってことを経験則で知ってるんすよ」

「まだ若いのに苦労してるんだね」

「同年代の中じゃ抜きん出てるでしょうね。普通じゃ味わえないこととかもありますし」

「普通じゃ味わえないことって?」

「あー、例えば伝説のポケモンに出会う、とか?」

「なるほどねぇ。確かに伝説に名を残すポケモンに遭遇できるなんて、ワシちゃんでもなかなかないことだよん。この島を買ってからだね。ワシちゃんが出会ったのも」

 

 ………ん?

 それって………。

 

「………いるんですか? この島に。そういうのが」

「いるよん。ダクマとその進化系のウーラオスってポケモンと、ジャングルのどこかに何かがいるのよね」

「へぇ」

「ウーラオスはダクマから進化するポケモンなんだけどね。元々ガラル本土にいたらしいんだけど、交易やら探検やらで人々と移動し、その行った先で野生化したって伝承があるのよ。その一つがこの島ってわけ」

 

 移住した伝説のポケモンか。

 話を聞く限り複数体いる方の伝説ポケモンみたいだな。

 ダークライやクレセリアと同じ感じか。

 ただ、進化が確認されているってなると、アローラの伝説ポケモンとも共通点がある。

 

「そのウーラオスってのはどういう伝承が残されてるんすか?」

「ウーラオスの伝承は格闘技の元となったとか闘気で邪気を払ったとかそういうの。ガラル地方にはガラル空手ってのがあって、その原型じゃないかって説もあるのよ」

 

 ガラル空手がどんなものかは知らないが、カントーにも空手はあった。格闘家とかも普通にいた。だからまあ、あの辺の格闘技をイメージしておこう。

 となると、同じではないがウーラオスと割と近しいのはエビワラーとかサワムラーとかかな。伝説ポケモンということであそこら辺よりも格上としよう。

 実は格闘技はガラルから世界に広まりました、なんて言われても違和感ないかもな。

 仮定の話で想像したところで所詮想像でしかないが。

 

「それで、もう一種類の方は?」

「あっちはワシちゃんもちゃんとは知らないの。時折強い気を感じたり、ジャングルを駆け巡るシルエットが見えるくらいだからね」

「そのウーラオスっていう可能性は?」

「シルエットがウーラオスより細いくて手足が長いから別物だよん」

「そっすか。シルエットが違うなら別物と考えてもいいでしょうね」

 

 実は同じポケモンでしたって展開はなさそうな確率が高いな。

 となるとこの島には伝説の格闘家とジャングルの主の二種族が、それぞれ縄張りを持っているということか。

 のんびりとした島かと思えばこれか。

 なるべく遭遇しないようにしよう。

 

「…………」

「………なんすか?」

「うーん、ワシちゃんの直感なんだけどね。はっちんはジャングルのポケモンに出会いそうだなーって」

「えぇー………」

「あれ? いや?」

「面倒なことに巻き込まれそうですもん」

「大丈夫だよ、きっと。はっちんなら乗り越えられるよん」

「いや、乗り越えられる以前に面倒事にならないのが理想なんですけど」

 

 フラグ立てようとしないでもらえますかね。

 もう現状が面倒事に巻き込まれているんだからね?

 これ以上、事態がややこしくなるとかマジで勘弁してくれ。常人に比べれば比較的経験のある俺ですら、手一杯な事態なんだぞ。これ以上のこととかに発展しようものなら、人もポケモンも近いうちに滅びることも無きにしも非ずだからな。

 

「強者の宿命ってやつよ」

「そんな宿命捨てちまえ」

「事のレベルに違いはあれど、ワシちゃんも結構苦労してるのよ。だからはっちんも大丈夫大丈夫」

「全然嬉しくねぇ…………」

 

 根拠もなければ、同じ目に遭っているわけでもないのに、そんな大丈夫と言われてもねぇ。そりゃこの人にだって想像を絶するようなことがあったはずだ。そこは否定しないし、苦労してきたのも分かる。でも暗殺未遂に遭い、半年かけて戻ったかと思えば三年前にタイムスリップなんてレベルの話は、まず誰も持ち合わせてないだろう。

 一緒にするな! なんて声を荒げる気はないが、大丈夫という言葉で片付けられるようなことでもないのは事実だ。だって、元の時間軸に戻れるかどうか全く読めないんだし。最悪ジョウトに行ってセレビィを見つけ出すって手もあるが、先が長すぎる上に出会える可能性がまず低い。

 

「ま、はっちんも自分のペースで焦らず考えてね。まだまだ若いんだから、焦ってもいいことないよん」

「そうっすね」

 

 そう言って爺さんは回れ右をして道場へと戻っていく。

 爺さんに言われるまでもなく、焦る必要がないのは分かっている。期間は決められているし、異世界にいるわけでもないから、いずれあいつらに会う事はできる。元の時間に戻れなくとも、そこだけは可能だ。

 ただ、同じ時間軸に同一人物が二人いるということに世界がどう反応を示すかが心配ではある。

 

「あ、そうだ、はっちん」

「はい? まだ何か?」

「ニトロチャージ、そろそろ実践に移せば完成すると思うよん」

 

 振り返った爺さんはそう言うだけ言って行ってしまった。

 ………ははっ。

 

「よく見てんな………」

 

 恐ろしい。

 昨日の今日でそこまで分かるのかよ。

 ダンデとバトルした後にニャビーの特訓を行ったのだが、その時にそろそろバトルでニトロチャージを使ってみるかなーなんて思ったけどさ。それも二ヶ月くらい見てきたからの話なのに、それを一瞬で見抜くとは。

 いや、まあ確かに思い返せば俺もそういうところはあったかもしれん。でもここまで早く的確に見抜くことはできていなかったはずだ。

 

「フッ、ハハッ」

 

 どうやら俺は当たりの人に出会ったのかもしれない。あれは本物だ。本物の強者だ。見た目はあんなんだが、絶対にまやかしだ。本性を見せてきた時こそが本当の始まりだろう。

 

「いいじゃねぇか。絶対に本性出させてやる」

 

 もう一つ目的が増えたな。

 いずれあの人と本気のバトルができるようにしないと。ダンデとのバトルよりも楽しみなまである。

 

「よし、ニャビー。今日はバトルするか」

「ニャブ!」

 

 爺さんと話している間もサーナイトと的当てをしていたニャビーに声をかけると、てててとこっち駆け寄ってくる。

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

 するとどこからか悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

 え、今度は何だよ。

 

「シャァァァァァァメッ!!」

 

 遅れて海の方からザパーンッ! と何かが打ち上がった。

 大型の口が特徴的な海のポケモン。

 

「サメハダー……!」

 

 ホウエン地方では珍しくもない海のポケモンだが、ガラル地方にも生息してるんだな。カロスには………いたっけ? そんなにアズール湾に行っていたわけではないが見かけた覚えがない。もしかしたらどこか違うところが生息域だったのかもしれないな。そもそもいない可能性もあるが。

 

「た、たすけてくれぇー!」

 

 その先には浜に上がって一直線にこちらへ走ってくる海パン野郎とニョロゾ。

 これ、否が応でも巻き込まれる奴だよな。

 つか、サメハダーがアクアジェットで追っかけて来てるんですけど!

 

「サーナイト、サメハダーにリフレクター」

 

 サメハダーの直線上にピンクの壁を作らせた。

 あの勢いで直線的な動きをしていたら避けられないはず。

 

「ニャビー、アクロバット」

 

 案の定勢いよくサメハダーが激突し急停止した。

 そこへニャビーが突っ込んでいく。

 すると態勢を崩し、砂の上に半身が埋まってしまった。

 そんな威力合ったのか……?

 

「ニャブッ……!」

 

 あ、しまったな。

 サメハダーの特性のことを忘れてた。

 特性さめはだ。皮膚が細かなギザギザになっているのか、直接触れた相手にダメージを与えるため、今のでニャビーにもダメージが入ってしまった。

 サメハダーなんてホウエンで見たか見ないかのレベルだから、細かく覚えているわけがない。

 

「メシャァァァアアアアアアッ!!」

 

 激昂したサメハダーは再度水を纏って加速し出した。

 

「逃げろ、ニャビー」

 

 サメハダーは速い。そして攻撃力が高い。だが、防御力はそこまでないので、はがねタイプみたいに弾かれることはない。上手くやればさっきみたいに吹っ飛ぶくらいだ。

 

「そのまま加速していけ。捕まるなよ」

 

 サメハダーに追いかけ回されるニャビー。

 身体が小さいのを生かして小回りの効いた逃げに徹しているが、直接的な動きのアクアジェットだからどうにかなっているレベルだ。もし他の技に切り替われば、技次第ではすぐにやられてしまうだろう。

 だから、ある意味賭けだな。

 このままニャビーがピンチを打開できるかそのままやられてしまうのか、あいつの底力を見せてもらおうじゃないか。

 

「サーナイト、ニャビーがやられた時は頼むぞ」

「サナ!」

 

 今回はサーナイトに出番を待ってもらうことになるが、それはサーナイトも分かってくれているようだ。

 

「ニャビー、右から来るぞ」

 

 そう言うとニャビーは右に切り返してサメハダーに向かっていき、ぶつかる直前にサメハダーの下に滑り込んでいく。

 目標を見失ったサメハダーはそのまま過ぎていき、後ろの山に突き刺さるまで方向を変えなかった。

 結構浜から山まで距離あったんだけどな。サイホーンみたいに前にしか進めないバカなのだろうか。

 

「シャァァァッ!」

 

 山から抜け出したサメハダーが吠えると俺たちの頭上に岩石が作り出されていく。

 あいつ、ニャビーを見失ったことで目標を俺やサーナイトにしただろ。

 

「サーナイト、まもる」

 

 ドーム型の防壁で降り注ぐ岩石を弾き飛ばしていく。その間にもサメハダーは再度アクアジェットでこっちへと距離を詰めてきている。

 なんか思ったよりもバカじゃないのかもしれない。それとも獲物を狩る時の本能的な動きなのか?

 

「メェェェェッ!!」

「ニャビー、ほのおのうず」

 

 ずっと走り続けているニャビーに次の技を指示すると、ニャビーの上を通過しようとする時に纏った水ごとサメハダーが炎の渦の中に呑まれていった。

 だが、すぐに内側から水の渦に呑まれていき消火されてしまう。

 

「うずしおか………?」

「ンニャ!?」

 

 気付いた時には大きくなっていった渦が下にいたニャビーも呑み込んでしまっていた。

 

「ニャビー、アクロバットで抜け出せるか!」

 

 声をかけてみるがやはり聞こえてないようだ。

 仕方ない、サーナイトに頼もう。

 

「サーナイト、ニャビーをサイコキネシスで脱出させられるか?」

「サナ!」

 

 敬礼! したサーナイトが渦に囚われたニャビーを超念力で救出していく。

 ぐったりしたニャビーを地面に下ろすとブルブルと身体を振るった。

 

「ニャビー、大丈夫か?」

「ニャァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 これは……。

 

「………一撃でもうかが発動するにまで至るのかよ」

 

 あのサメハダーとはそれだけの力量差があるというわけか。

 

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャーッ!!」

 

 すると、もうかが発動したニャビーが炎を纏い始めた。いつも見ていた炎よりも安定していてしっかりしている。ポケモンがよくピンチなると新しい力に目醒めることがあるが、今がまさにその時らしい。

 

「ニャビー、思うがままにやって来い。ニトロチャージ」

 

 ダッ! と走り出したニャビーは徐々に加速していく。

 そして、うずしおに気が入っていたサメハダーに体当たりした。

 

「シャア!? シャァァァァァァッ!!」

 

 くるくると回転したサメハダーが口を大きく開いて噛みついてくる。

 

「とんぼがえり!」

 

 ニトロチャージが完成したこともあり、俺はニャビーを戻すことにした。

 

「ンニャァァァッ!!」

 

 だが、身体を捻ったニャビーが決死の覚悟でサメハダーに噛み付いた。

 

「シャァァァッ?!」

「………あれはかみつくか?」

 

 ………それにしては悶えすぎな気がするが。

 サメハダーは噛み付かれたところで効果は今ひとつなため、あそこまで悶えることはない。となれば、何か他の技………しかも効果抜群レベルの技……………。

 

「きゅうけつ……?」

 

 今思い浮かべられるのはそれくらいだ。

 みず・あくタイプのサメハダーに効果抜群を取れるとすれば、でんき、くさ、むし、かくとう、フェアリーの五タイプ。その中で噛み付く系の技となれば、むしタイプのきゅうけつくらいしか思いつかない。

 きゅうけつは相手に噛み付いたりして体力を吸い取り自分は回復する技だ。

 だが、いくら効果抜群の技でも力量差のあるニャビーの攻撃でここまで悶えるものだろうか。急所に入って尚且つ振り払えない位置で長く噛みつかれていたとしても、だ。アクロバットで全然ダメージが入らなかった時と差がありすぎるように思えてしまう。

 

「ンニャァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 すると突然ニャビーが雄叫びを上げると白い光に包まれた。

 ………ああ、そういうことか。

 なんてことはない。ただ単にニャビーが進化できるところまで達していたというだけの話だったみたいだ。ニトロチャージを完成させたことで一気に力が解放されたのだろう。だからその次に使ったきゅうけつが思った以上のダメージを与えることに繋がったのだ。

 

「ニャヒ!」

 

 進化して姿が変わったニャビー改めニャヒートはサメハダーを蹴り上げ、海の方へと蹴飛ばした。

 あ、あれにどげりか。

 あいつにどげりも覚えたのか。

 サメハダーもなすがまま、海へと帰って行った。

 

「ニャヒ」

「おう、お疲れさん。ニトロチャージも完成して新技を二つも習得したんだ。サメハダーには感謝しないとな」

 

 進化しても飛びついてくるところは変わらないらしい。

 図体だけが大きくなり、受け止める俺としては足腰をもっと鍛えないといけないのでは思ってしまったくらいだ。

 

「帰ってお前の身体も回復させような」

「ニャヒ!」

「サナ!」

 

 思わぬところでニトロチャージが完成し、ニャヒートへと進化を果たした。進化のことなんて一切考えてなかったから、またプランを練り直さないとな。そんな変更することとかはないだろうけども。

 つか俺、全然進化の予兆を感じられなかったわ。そろそろかなーとか漠然的に思ってたくらいで、これをバトルの展開に組み込むいろはすってマジパネェのでは………?

 


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