ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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39話

「えっと、つまり………? 野生ポケモンのダイマックスは恒常的に巨大化しているから多人数で………最低でもトレーナー四人で挑まないと危険ってことか?」

「はい、僕たちが使うダイマックスバンドによるダイマックスは技を三回程使えば、時間切れとなり元の大きさに戻ってしまいますが、自然発生した野生ポケモンのダイマックスは倒さない限り元の大きさには戻りません。そのため、多人数での対応が推奨されているんです」

 

 はぁ………。

 道場に帰ってきて門下生たちと半袖短パンサングラス君に改めてダイマックスについて説明をされたわけだが………。

 

「それをあなたは単独で、しかもこの島にいるポケモンがダイマックスしたのを一人で倒したんですよ! 無謀にも程があります!」

 

 こいつはさっきからそればっかりだが、そうは言われてもいけちゃったものは仕方ないじゃないか。誰かがやらなければ被害が広がる一方だったし、ギラティナや暴君様を相手にするよりは遥かに楽だったし。

 

「………悪いが俺はもっと上を知っている。巨大化していようがあれよりもっと強いのを相手にしたことがあるし、あれを一撃で仕留めそうな奴も知っている。何ならこれくらい出来なければ俺は死んでいた可能性だってある。お前にはそういう経験があるのか?」

「い、いえ………ありませんが…………」

 

 だろうな。

 そもそも俺みたいな経験をしている奴なんて他にいて堪るかっての。いいとこ図鑑所有者たちだが、一時的にとはいえ記憶をなくしたりタイムスリップしたりなんかはしていないはず。だが、窮地に立たされたというのはどいつも同じだろう。

 それがこの男にはあるかって話だが、どう見てもない。

 災害級とはいえあの程度のことでここまで喚くようでは、伝説のポケモンにすら会ったことがないだろう。

 それが普通だ。

 俺が普通じゃないだけである。だからどちらが危機的状況に強いかなんて比べるべくもない。

 

「だったらお前の物差し程度で俺を測ろうとするな」

「で、ですが単独でなんて………」

「言われなくとも危機管理くらい常にやっている」

「は、はい………」

「だがまあ、心配させたのは事実。その点については謝る。悪かった」

「いえ、こちらもあなたの実力を知りもしないで勝手に測っていました。申し訳ありませんでした」

 

 とはいえ、爺さんまで駆り出してすっ飛んできたことには素直に謝っておく。

 こんなことで面倒事が増えるのは御免だからな。

 

「うーん、青春だねぇ」

「どこがだよ」

「そうだ、マクワちん」

「聞けよ」

「はっちんとバトルしてみない?」

「「はっ?」」

 

 俺の言葉に一切耳を傾けることのない爺さんが、また突拍子もないことを言い出した。

 おかけでマクワと声が重なってしまったではないか。

 

「さっきははっちん本人にああ言われてたけど、やっぱり自分の目で確かめてみないといけないと思うのよ」

「おい、この流れつい一週間前にもあったよな。またか? またなのか?」

 

 ダンデの時も強制的にバトルをさせられたな。しかも全力を見せろって。

 確かにダンデは強かった。バトルしてどうだったかといえばいい経験になったと言わざるを得ない。

 けど、ジムリーダーの息子ってだけじゃあまりにも弱すぎる。ダンデを知ってしまったがために、今更感が半端ない。

 

「はっちん、師匠命令」

「えぇ、それ職権濫用でしょ。それかパワハラだ」

「じゃあ、一週間前のバトルの結果をマクワちんに教えるね? マクワちんのお母さんは現役のジムリーダーだから、すぐに他のジムリーダーたちにも情報が拡散されるだろうね〜」

「パワハラ通り越して脅迫じゃねぇか………」

「どうする、はっちん?」

「やればいいんでしょ、やれば」

「うんうん、はっちん頑張ってね」

 

 この爺い、絶対いつか張っ倒す。

 女将さんにこの爺いの弱み聞いてみようかな。なさそうだけど………。というか女将さんが弱みすら可愛いところとしか認識してなさそうでもあるし。

 

「マクワ、だったか」

「はい」

「俺の土俵の一端を今から見せてやる。ただし、内容は全て黙秘しろ。いいな?」

「はい!」

 

 はぁ、面倒くさい。

 折角ミッションを一つクリアしたってのに、その報告やらウルガモスをボールから出す暇も与えてくれない。しかも今度は現役ジムリーダーの息子とバトルって………。

 

「ハチさんのバトル、また見られる!」

 

 何か門下生たちは喜んでるし。

 悪いけど、今回は純粋なバトルにするつもりはない。俺の本名がバレるわけにはいかないが、これ以上マクワに拘束されるのも御免だ。きっちり叩きのめしておかないと、また過剰に心配してくるだろう。

 いっそ、心も折ってやろうかな。

 ………いや、そこまでしたら今度はこの道場にいられなくなるか。それだけは避けなくてはな。

 

「セキタンザン、お願いします!」

 

 マクワのポケモンはセキタンザンというらしい。

 さっきカメックス擬きとバトルしていたポケモンか。

 見た目的にはいわタイプであるが………、もう一つのタイプがあるのかどうかも気になるところだな。

 

「………あの、ポケモンは?」

「見えてないポケモンの力を使って俺がバトルするから問題ない」

「はっ?」

 

 そりゃ「はっ?」ってなるわな。

 俺もお前の立場だったらその反応だと思う。

 けど、今の俺は良くも悪くも普通の人間じゃないんだ。サイボーグとかクローンでもないが、ある意味そいつらよりもかなりヤバいと思う。その自覚はある。

 ただ、こっちはまだいい方だろう。黒いのの力はただ俺がポケモンの技を使っているように見えるだけだからな。それよりもあの白いUBさんの方だ。あれ、俺呑み込まれてるからな。下手したらボスキャラだぞ。

 

「ほら、技撃たせてみろ」

「し、知りませんよ、怪我しても!」

 

 攻撃が当たったら怪我どころの話ではなくなると思うけどな。

 だからこそ、当たらないようにするんだよ。

 

「セキタンザン、いわなだれ!」

「まもる」

 

 まあ、初手は何が来てもドーム型の防壁を展開するつもりだったんだけどね。

 しかも使用者が黒いのだから防壁の耐久性も強い。何なら防壁のカーブに沿って角度を変えて弾かれている。

 つか、降り注ぐ岩を弾くって…………、しかも弾かれた岩が他の岩とぶつかって破砕し、その破片が他の岩を貫通して破砕とか、最早気味悪いレベルで連鎖している。

 

「なっ………?!」

 

 大丈夫、俺も驚いてるから。

 サーナイトでもここまでできないと思うぞ。

 

「サイコキネシス」

 

 その砕けた岩も含めて超念力で持ち上げ、セキタンザンにお返ししていく。

 

「くっ、セキタンザン! ニトロチャージ!」

 

 突っ立ってたのではただダメージを受けるだけと判断したのだろう。炎を纏わせてセキタンザンがこちらへ突進してくる。炎と突進の衝撃でそれなりの大きさ以外の破片に近い岩は粉々に破砕されてしまった。

 

「きあいだま」

 

 身体を斜に構えて脇腹辺りでエネルギーをチャージしていく。

 そしてセキタンザンがあと五メートルというところまで踏み込んだ瞬間にアンダースローでエネルギー弾を投げ放った。

 エネルギー弾は上手いことセキタンザンの顎の下に入り、岩の巨体がひっくり返る。

 

「セキタンザン!?」

 

 驚きたいのは俺の方だわ。

 巨体がひっくり返るほどの威力が出てたってことだろ?

 セキタンザンをよく知らないから何とも言えないが、そんなあっさりいくようなポケモンとは思えないんだが…………。

 やっぱりサーナイトやニャヒートが日々成長していくのと同じように、ダークライたちも成長してるってことなのか?

 伝説のポケモンたちが成長って、ただただヤバい生き物になっていくだけなようにも思えるけど………同じポケモンなんだし、そっちの方が的を射ている、か。

 

「もう一丁」

 

 追い討ちをかけるようにもう一発エネルギー弾を倒れているセキタンザンに向けて放った。

 

「起きてください、セキタンザン!」

 

 セキタンザンに声をかけるが起き上がる気配が一向にない。

 

「くっ、ならばストーンエッジです!」

 

 かろうじて地面を叩いて岩を生やしてくるが、エネルギー弾を相殺するには時間が足りていなかった。

 あの重たそうな巨体では咄嗟の動きなんて無理があると思うがな。

 

「効果抜群の技を二度も………! 致し方ありません! セキタンザン!」

 

 セキタンザンをボールに戻すとリストバンドからエネルギーがボールへ流れていき、どんどん膨張していく。

 確かダンデも同じようにしてたな。ということはダイマックスが来るってことか。

 

「キョダイマックス!」

 

 あ、違った。キョダイマックスの方だった。

 放り投げられたボールから再度出てきたセキタンザンが巨大化していく。何というか火山というか溶岩というか、そんなイメージを彷彿させてくるな。名前が名前だし強ち間違っていないのかも………。

 まあ、それよりもだ。

 

「マクワ、生身の人間相手にこれはやり過ぎじゃないか?」

「いえ、あなたは普通の人間ではない! ポケモンと同列、あるいはポケモンそのものです! であれば、遠慮はしません! 全力であなたを倒す!」

 

 おう、非人間説を唱えられてしまった。

 一応まだ人間のつもりではあったんだが………そうなると俺は随分前から人間じゃなくなってたんじゃね?

 

「キョダイフンセキ!」

 

 するとセキタンザンの背中からまるで噴火の如く高熱の岩が次々と噴き出した。

 技のふんか並みかそれ以上。いわなだれも組み合わせているんじゃないかと思える感じだ。

 

「ダークホール」

 

 あんなもん生身の身体で浴びてしまえば死体も残らず死ぬのは確実。

 両手を開いて黒いのに合図を送って、落下してくる噴石の軌道上に黒い穴を作り出していく。穴の行き先はあちらの世界ではなく、セキタンザンの頭上。自分の技で自分を苦しめるがいい。

 

「な、なんだ今のは………っ?! セキタンザン!!」

 

 気付けば噴石に囚われたのはセキタンザンの方。

 マクワにとっては信じられない光景だろうな。

 

「もう一度、キョダイフンセキ!」

 

 噴き上げる勢いで岩の囲いを弾き飛ばす算段だろうか。

 ならば、俺が陣取る位置は上しかないな。

 足下に黒いオーラで足場を作り、マクワからはセキタンザンで見えない位置から階段を昇るように駆け上がる。

 

「おおー、あいつの背中あんな感じなのか」

 

 ガチの火山だわ、これは。

 噴出口が火口そのもの。名前の通りのセキタンザンである。

 あ、てかキョダイマックスで姿が変わってるんだっけ?

 元の姿も覚えてないから比較のしようがないな。

 

「おわっ!? 危な………っ」

 

 巨大な身体は吹き飛ばす威力も半端ないな。加えて背中からも噴出してるし、ここも危険だったわ。まあ、下にいても変わりはなさそうだけど。

 

「きあいだま」

 

 噴石を掻い潜り、背中の火口にエネルギー弾を投げつけた。

 ああいうのって内部に入ったら中で爆発とかしそうだし、何かしらの効果はあると期待したい。

 

「ザァァァアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッ!?!」

 

 さあ、あと一発。

 

「セキタンザン、何としても次で決めますよ! ダイバーン!」

 

 噴石の方では俺を捕らえられないと判断したか。

 ということは範囲技になるのだろうか。

 ここは潔く引いておこう。

 

「よっと」

 

 セキタンザンから離れて元の定位置に戻るとマグマのような炎が波のように降り注いできた。

 

「まもる」

 

 咄嗟にドーム型の防壁を作り出させる。

 が、それで耐えられないのはダンデ戦で確認済み。かといってテレポートが使えるわけでもない。

 やれるのはあの技でどうにか相殺していくくらいか。

 

「あくのはどう」

 

 黒いオーラで俺の周りを取り囲み、押し寄せる炎の波を黒い渦で呑み込んでいく。

 にしても暑い。超暑い。サウナとかのレベルじゃない。火山の火口を覗き込んで………いや落ちたかもしれないな。それくらいの熱気が肺を支配し、呼吸が辛くなってくる。

 粉塵爆発の中をゆらりゆらりと歩いていたどこぞの第一位さんも酸素奪われてこんな気分だったのだろうか。

 んなどうでもいいことを考えられるくらいには俺も余裕ありそうだな…………。ごめんな、マクワ。

 

「くっ、キョダイマックスでも降参させられない………!」

 

 時間切れになったようでセキタンザンが元の大きさへと戻っていく。

 畳み掛けるならここだな。

 

「ダークホール」

 

 元に戻った瞬間に足下から黒い穴を開いて落とした。そして、再度出すとセキタンザンは眠りこけていた。

 

「ゆめくい」

 

 ここぞとばかりにダークライの養分をもらっておくことにする。

 対価に俺のを使われても今回ばかりは辛いからな。

 

「………なっ、なにが……………」

 

 最早続きの言葉も出てこないって感じだ。

 ちょっとやり過ぎたかな。いや、現実は甘くないってのを解らせるためだ。これくらいやらないと優しい世界でまとめられてしまうか。

 

「これはワシちゃんもびっくり。セキタンザン、戦闘不能。はっちんの勝ちだよん」

 

 ドサッと倒れたセキタンザンはピクリとも動かない。

 眠りこけながら戦闘不能になったのだから当たり前っちゃ当たり前か。

 

「………と、こんなもんだな」

「戻ってください、セキタンザン………」

 

 呆然としているマクワだったが、何とかセキタンザンをボールに戻す思考は持ち合わせているみたいだ。

 バトルしてみて一つ分かったことがある。爺さんが唐突に俺とバトルさせた理由だ。まがいなりにも爺さんはここの道場主。元チャンピオンという経歴を持つ実力者である。ダンデとのバトルで俺の実力は把握しているはずだ。それを分かった上でバトルさせたのは、恐らく俺に何かしらを求めているから。

 そしてそれは、敢えてジムリーダーの息子という情報を俺に与えてきたところを察するに、英才教育を受けてきた甘ちゃんを圧倒的な実力で叩きのめせということだったのだろう。どういう意図でそんなことを要求してきたのかは定かではないが、だったらここから先が重要になってくる。俺の立ち回り次第では、こいつがここに来るのも最後になるかもしれない。

 

「どうだ、分かったか? お前の価値観なんて俺には無意味だって」

 

 と言っても、やはり俺にはこれしかない。

 ここまでやったのなら徹底的にこっち側を演じる以外、俺はやり方を知らないんだ。

 

「そういえば、ウルガモスを発見する前にお前と会ったけど、あの時のポケモンにすらお前は手こずってたよな。その程度の実力で俺に価値観を押し付けようだなんて自己中にも程があるんじゃねぇの?」

 

 タイムスリップさせられてまでこんなことをやる羽目になるとは………。

 

「ハッキリ言って、ウルガモス相手でも余裕だったからな? それなのに一般的には最低四人で挑むものだとか、一般論に縛られ過ぎだろ。ましてや公式バトルでもなく対人戦でもないレイドバトルとやらで、そこまでルールに縛られていたらお前、死ぬぞ」

 

 ルールはあくまでも人間が決めたルールだ。

 それを危機的状況に陥ってもなお守っていたら、死の確率を上がるだけである。

 ああ、なるほど。こいつはまだ死と隣り合わせの状況に放り込まれたことがないのか。だからこんな甘ったれた考えでいられるんだな。

 

「…………あなたは」

 

 ようやく口を開いたかと思えば、何を言っているのか聞こえない。

 

「あなたは何者なんですかっ!」

 

 ………急だな。

 得体の知れない強さに恐怖を覚えているって感じか。

 

「………俺が何だったらいいんだ? ジムリーダーか? チャンピオンか? それとも、悪党か?」

 

 言葉と同時に殺気も放っておく。

 睨みを効かせるとマクワは一瞬怯み、一歩後ろずさった。

 

「一ついいこと教えてやるよ。悪党ってのは俺よりももっと無慈悲だ。狡猾で悪巧みの知恵が働く、それでいて残酷で残忍だ。今のバトルの口封じとしてバトル中の事故に見せかけて、お前を殺していた可能性だってある。悪党ってのはそういうやつらだ」

 

 ロケット団って殺しもしてたしな。

 フレア団なんか人もポケモンも関係なく殺そうとしてたし。

 

「んで? こんな得体の知れない強さの男を前にして、お前はどうしたい?」

 

 容赦ない自覚はあるが、あの妙に定石に当てはめたがる感じが癇に障ったのも事実。死と隣り合わせの状況を経験してないからなのは分かるが、今ここでその状況を作り出すわけにもいくまい。なら、心が折れたならばそれまでと割り切ることにしよう。

 

「………悪党、じゃないのですか?」

「はっ、悪党みたいな顔してるってか。元々だよ、コンチクショウ」

「あ、いえ………そういうことでは…………」

「ま、答え合わせをするならば、俺はチャンピオン並みの実力者ってとこだな。それ以上でもそれ以下でもない」

「チャンピオン並み………」

「………あっ、ごめんねマクワちん。実ははっちん、一対一の非公式戦でだけどダンデちんに勝ってるのよ」

 

 言ってなかったね、と続ける爺さん。

 おい、それトドメ刺しにいってるぞ。自覚ないだろ。

 俺知らんぞ。最後にへし折りにいったのは爺さんだからな!

 

「マクワちん。何でもかんでもルール通りに事を運ぶ人生ほど、つまらないものはないのよん」

 

 ルールは破るためにあるもんな。

 あ、違う?

 

「チミの人生はチミだけのもの。メロンちんの後をそのまま継がなくだっていいんだよ」

「………今日のところは帰ります。ありがとうございました」

 

 今にも消えそうな蝋燭の炎みたいだ。実際、マクワの心がそんな感じになってるのかもしれない。

 トボトボと歩く悲しい背中を見送っていると脇腹に肘が入った。

 いや、めちゃくちゃ痛いやめろよ。

 お説教なら後でちゃんと受けるから。

 

「………はっちんが生きてきた世界は残酷で残忍なものだったんだね」

「現在進行形でって言ったらどうします?」

「それはどうだろうね」

 

 どうだろうねって言われてもマジで現在進行形なんだよなぁ。

 タイムスリップって当事者になると結構残酷だぞ?

 ようやく手にしたというか自覚した大切な存在に会えないんだからな。

 

「………あいつ、どうなりますかね」

「ここから先はマクワちんの問題だよん。ワシちゃんたちが気にすることじゃない。というかワシちゃんとしてはこんなやり方しかできなさそうなはっちんの方が心配なのよ」

「生憎、そういう機会には恵まれなかったんでね。ただ、明確な敵がいれば再起する可能性もある。少なくとも俺がそうだったんで」

 

 サカキに直接会ってから、いろいろ変わったからな。それまではぼんやりとしていたリザードンの問題もサカキと出会ったことでいろいろと知ることとなった。何ならマチスとナツメがお仲間だったと知ったのもサカキと出会った後だったからな。

 

「さすがハチさんッス! 悩んでいるマクワ君に敢えてヒール役に徹する事で師匠がマクワ君の欠点を指摘できるような機会を作り出すなんて、すごいッス!」

 

 え、何よいきなり。

 

「あ、いや、俺は別に………」

「尊敬するッス!」

 

 で、このキャラの濃い門下生は………?

 好意的なのが異様に見えるんだけど。

 

「あれは演技だったのか……?」

「超怖かったよ」

「呼吸が止まったかと思った」

 

 この異様な門下生に感化されてか周りもなんだーって感じで受け止め始めた。

 こいつ、実は爺さんの仕込みなんじゃ………?

 まあいい。嫌悪感を持ち続けられる可能性はちょっと下がったようだ。シコリで残るやつもいるだろうけど、それはそれ。

 今日明日出て行かないといけないなんてことにはならないだろう。

 

「………マクワが何に悩んでいるかなんて知らないし、師匠が何をしたいのかもさっぱりだが、あいつに言ったことは全部本心だ。演技でも何でもない」

 

 ただ、あれを演技だったってことにしておくのは、何か違う気がした。マクワと同じ感覚のやつは門下生の中にもいる。というかジムリーダーの息子ですらないのだから、より甘い考えになるだろう。相手がマクワでなくとも今回のようなことは起きていたはず。

 なら、そんな煩わしいことが今後起きないように門下生にも同じように認識しておいてもらわなければならない。

 ………ダメだな。今この場に居続けたらまた新たなシコリが生まれそうだ。門下生の一旦引いた嫌悪感も再び再熱してきそうだ。

 

「ちょっと外の風当たってきます」

 

 俺は逃げるようにして外に出た。

 

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