ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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40話

 マクワ騒動から一ヶ月。

 ウルガモス捕獲というミッションを終えてしまったため、特にすることがない毎日。やることなんて毎日場所を変えてはニャヒートとウルガモスのバトル育成しているくらいだ。おかげでニャヒートが新たにリベンジを覚えた。

 対して、ウルガモスはぼうふう、ソーラービーム、ほのおのまいの他にも、ねっぷう、むしのさざめき、ちょうのまい、にほんばれを覚えていた。太陽の化身らしく、ちゃんと文献通りに晴れ状態にできるんだよな。多分、使おうとしないだけで大技に昇華する前の技も覚えているだろうし。

 まあ、その変はいいのよ。

 それよりもこの一ヶ月、道場横の浜辺にずっと佇んでいる奴がな………。

 

「今日もそこで日向ぼっこか?」

 

 最早見慣れてしまった光景。

 頭の黄色いヤドンが一体、海を眺めたり伸びていたりしている。時折声をかけると何故か俺の声には反応を示すのだが、どうも他の誰かの声には全く反応しないらしい。

 

「ヤン」

 

 ポツリと啼いて会話終了。

 それでも反応を示すだけで羨ましがられている。

 本当にこいつの目的は何なんだろうな。そもそも目的を持ってここにいるのかすら怪しい。頭黄色くてもヤドンだし。

 

「あ、ハチくん。これからおでかけ?」

「あー、まあ、今日はどうしようかなって取り敢えず外に出てみただけっす」

 

 ぼーっとヤドンを眺めていると、花壇の水やりをしていたミツバさんに声をかけられた。

 よく見ると彼女の横にはゴミ袋に入った枝の塊があった。掃除でもして集めたものだろうか。道場前に枝とか落ちてるイメージなかったんだけどな。道場後ろのバトルフィールド周りならあってはおかしくなさそうだけど………。

 

「………木の枝とかってこの辺落ちてましたっけ?」

「ああ、これ? これはガラナツの枝だよ」

「ガラナツ?」

「この島に生えている木に赤い実がつくものがあってね。この木の枝をブレスレットやリースにするとガラルのヤドンが喜ぶんだよ」

「へぇ、あのヤドンがねぇ………」

 

 俺にしか反応を示さないそこのヤドンも反応するのだろうか。

 

「そうだ! ハチくんも作ってみる? そこのヤドンに気に入られてるんだしさ」

「あー………、あんな感じですけど、喜ぶと思います?」

「もう既に反応してるみたいだよ」

「えっ?」

 

 指を刺された方を見やれば、ばっちりヤドンと目が合った。あいつ、俺たちの会話聞いてたのかよ。

 

「最早ガラナツという単語にすら反応するレベルなんすね。分かりました、作ってみます」

「ヤン」

 

 いや、お前が啼くなよ。

 どんだけ好きなんだっつの。あ、のそのそ動き出したし。ここに着く頃には完成してそうな鈍さだけどな。

 はぁ、仕方ない。連れてくるか。

 

「あいつ連れてきますわ」

「はーい」

 

 一言断ってからヤドンの方へと向かう。

 目の前に立つとじっとこちらを見上げてくる。

 

「ガラナツ」

「ヤン」

 

 マジでガラナツって単語に反応したし。

 何がこいつを虜にしているのだろうか。そんなにいいものなのか? ガラナツってのは。

 

「はぁ………よっと」

「ヤン?」

「完成したら付けてやるからこっちに来てろ」

「ヤン」

 

 ヤドンを抱き上げると最初から抵抗する気もないようで終始力が抜けきっている。ダラーとした両手両足が下に垂れ、しっかり脇に手を入れてないと滑り落ちそうなレベル。

 何故俺にだけここまで気を許しているのだろうか。というか他のやつには何故気を許さないのか不思議だわ。

 

「………連れてきました」

「それじゃ、作ろっか」

「うす」

 

 ヤドンを下ろして地べたに座り込む。

 

「まず二つの枝を取ってね」

 

 ゴミ袋からガラナツの枝を二つ取り出し両手に持った。

 

「軸になるのは枝の下の少し太めな方ね。これをもう一つの枝の先端の枝分かれして細くなったところで編み込んでいくの。こんな感じに」

 

 そして言われた通りに太い方を下にして、もう一つの枝の先を絡めていく。

 

「枝先はしなやかなんですね」

「そう。だから折れないのさ」

「なるほど。んで、これの繰り返しで編み込んでいくんですね」

 

 枝はパキッと折れることはなく、しなやかに曲がり簡単に編み込めた。

 

「うん、そう。でも中には長さが足りない枝や折れちゃう枝もあるから気をつけてね」

「うす」

「あと、なるべく赤い実は残すようにね。実が残ってないとアクセントもなくなって華やかさがなくなっちゃうから」

「うす」

 

 それを繰り返していき、輪っかになるように編み込んでいく。一重ではやはり弱々しいため、簡単には崩れないようにもう一回りさせた。

 慣れれば難しくはなく、いっそマスターして商品として売りに出してもいいかもしれない。

 

「ほら、出来たぞ」

「ヤン」

 

 なんてことを思いながら完成したブレスレットをヤドンの左腕に付けてやった。

 

「………こんな感じかな」

「あら、上手」

「ミツバさんのに比べたら所々飛び出たりしてますけどね」

 

 ミツバさんが作ったのに比べたら素人感満載なのだが、どうやらヤドンはお気に召したらしい。じっと左腕を見て固まっている。

 

「ヤドンにはお気に召したみたいだね」

「ミツバさんの方がいいと思うんですけどね。本人がいいならいいけども」

「それじゃあ、次はリースの方を作ってもらおうかな」

「喜んで」

 

 今日はこのままガラナツアクセサリー製作でもいいかもな。ここのところ毎日、ブラブラしてはバトル育成ばっかりだったし。

 …………よし、今日は休みにするか。

 

「お前ら、今日は好きにしていいぞ」

 

 ボールからサーナイトとニャヒートとウルガモスを出して休みを言い渡した。

 

「サナ!」

「ニャ、ニャヒ」

「モス……!」

 

 …………お前らさ。

 好きにしていいとは言ったけど、サーナイトは俺に抱きついてくるし、ニャヒートはウルガモスともに砂浜を駆けていったかと思うと、バトル始めちゃったよ。

 おい、休みの意味!

 

「元気だね」

「ニャヒートにとってはサーナイト以外ともバトルできるようになりましたからね。相手が同じだとどうしても同じような攻め方にもなってしまいますし、同じほのおタイプってこともあっていつも以上に積極的なんすよ」

「やっぱりウルガモスの方が強いの?」

「今のところは。でもニャヒートにはまだ進化が残ってますからね。まだまだ強くなる素養は充分にある」

 

 まあ、今のところはほのおのうずで捕らえてもぼうふうで掻き消されたり、アクロバットで突っ込んでいっても躱されるのがオチなんだがな。

 やっぱり飛翔能力があるポケモンはそれだけで逃げる位置が増えて、相対的に強くなる。

 

「でも、そうなるとサーナイトちゃんは………嫉妬してるわけではないのね」

「むしろ俺にこうしてられる時間が増えて喜んでますよ」

 

 ミツバさんは俺に抱きついているサーナイトを見て、想像とは違った反応に苦笑した。

 

「ハチくんはポケモンに好かれるのね」

 

 ポケモンに好かれる、か。

 あいつらにも人間には嫌われるくせにポケモンには懐かれるよねーってよく言われたな。

 

「………人間はポケモンの言葉が分からないのに、ポケモンは人間の言葉が理解できる。これ、不思議に思ったことありませんか?」

「確かに、言われてみればそうだね」

「その点で既に人間よりもポケモンたちの方が種として上だと思うんですよ。少なくとも俺はポケモンを下に見ることはできない。それに俺にはポケモンみたいに技を出すこともできないし、いろんな点で負けてるんです」

 

 だから常々思うのだ。

 何故ポケモンたちは不当な扱いをされても人間を殺そうとはしないのか。

 もうそれだけで人間の器の小ささが窺い知れる。

 

「その割にはマクワ君とのバトルで技を使っていたように見えたけど?」

「そう見せているだけですよ。人であろうがポケモンであろうが、人間は技を使えないという認識を利用して動揺を与えるための戦い方です。俺にはこいつらの他にそういう契約をしたポケモンもいるんすよ」

 

 それでも勝てない相手はいる。というかあんなのはどこぞの組織の下っ端に通用してたってくらいだ。ただ初見殺しにはなるし、ポケモンがポケモンだから、生半可なポケモンでは俺には太刀打ちできなくなるため勝手がいいのも事実。

 

「そりゃマクワ君の心配も的外れなわけだ」

「常識が通用しない相手に常識に則ったやり方をしていては、逃げられませんからね。それに、そういうことができる代償が何もないと思いますか?」

「えっ……?」

 

 代償、という言葉に初めてミツバさんの動揺する顔が見えた。

 さすがにそういう話には耐性がないか………?

 

「マクワには言いませんでしたけど、あんな芸当を何の代償もなしでできませんよ。俺の場合は一時的に記憶が飛ぶ。そのせいで傷付けた人もいるし、段々おかしくなっていったこともあります」

 

 苦い表情を浮かべるミツバさん。

 俺の言葉の一つ一つを想像しているのだろう。

 

「おかしくなっていったのは何も記憶喪失だけが原因じゃないですからね。それに、そんな代償を抱えてでも俺にはそいつが必要だし、そいつも俺を必要としてくれている。俺にとってはそいつも大事な家族なんすよ」

「………ハチ君は、強いのね」

「別に強くはないですよ。止めてくれる奴がいてくれたってだけです」

 

 今でこそ思い出しているが、一番傷付けたのは最初の関係をすっぱり忘れてしまっていたユイだろうし、一番重い責任を背負わせてしまったのはユキノだろう。あの二人のことは特に傷付けてしまったが、それでもあいつらは俺の側にいてくれた。そして、それが俺の帰る理由にもなっているんだから、俺自身が強くなっているわけじゃない。あの二人が強靭だっただけ。俺はそれに報いたいだけである。

 

「その人たちとは今は………?」

「………訳あって当分会えませんよ。俺がこの島にいるからとかあいつらがガラル地方の外にいるからとかって理由でもないです。それこそ、伝説のポケモンの力を使わなければ会えないような状態ですよ」

「っ……!?」

「だからと言って諦めるつもりはありませんよ。最終手段はありますから」

「………ごめんなさい。ハチ君のこと、無神経に聞きすぎたわ」

「いえ、気にしてませんよ。というか俺の方こそすんません。急に暗い話になって」

 

 聞かれたからつい答えちゃったけど、こんな話するつもりはなかったんだよなー。

 ………ミツバさんは不思議とそういう話を溢させる何かがあるのかも。これも母性だと言われたら何も言い返せないが、爺さんもそういうところに惹かれたのかもな。

 

「………と、こんな感じですかね」

「あ、うん。そうだね。いい感じだよ」

「んじゃ、早速ヤドンにでも………」

 

 ………えっ?

 

「あ、おい!? 腕食われてるぞ?!」

 

 出来上がったリースをヤドンに付けてやろうと視線を泳がせると、そのヤドンの左腕が何かに噛まれていた。

 

「ヤン……?」

 

 ヤドンも俺が言うまで全く気づかなかったようで、ようやく首を動かして確認している。

 つか、あれシェルダーか?

 尻尾に噛み付いたり頭に噛み付いたりするならともかく腕って…………。

 

「はっ?」

 

 すると突然、ヤドンが白い光に包まれた。

 はっ?

 いや、えっ?

 進化………?

 

「ヤン………」

 

 白い光が弾けると、むくりと起き上がったヤドンは不思議そうに左腕を見ていた。

 

「早速進化したわね」

「えっ? 知ってたんですか?」

「そりゃそうさ。今作ってるアクセサリーは両方ともヤドンが好み身につけるとシェルダーがよって来て噛み付くのよ。そしてそれがガラルのヤドンたちの進化の条件」

 

 マジかよ………。

 成長したヤドンの尻尾は旨味を増して、それをシェルダーが求めて噛み付くから進化するんじゃねぇのかよ。

 これがリージョンフォームの違いってことか。

 

「で、これはどっちなんですか?」

「ヤドランの方だよ」

 

 これ、ヤドランの方なのか。

 なんか尻尾にシェルダーがいないヤドランって不思議だわ。

 

「因みにヤドキングの方は?」

「頭にリースを付けてあげるとシェルダーが寄ってくるわ。ガラルのシェルダーはきっとガラナツの実が好きなんだろうね」

 

 だから実も残すのか。

 つまり、ヤドンは実付きのガラナツの枝で作ったアクセサリーを好み、シェルダーはガラナツそのものを好んでいるってことか。リージョンフォームしても自然の摂理ってのは上手く成り立ってるもんなんだな。

 本当に不思議な生き物たちだわ。

 ………てか、ヤドキングは結局頭なのかよ。

 

「ヤン」

 

 するとヤドン改めヤドランが、俺のシャツをくいくいと引っ張ってきた。

 

「な、なんだよ」

「ヤン」

 

 いや、そんなどうしたらいいの? って顔するなよ。

 

「と、取り敢えず海に向けてなんか技でも使ってみたらどうだ?」

「ヤン………」

 

 自分の左腕をじっと見つめるヤドラン。

 知らなかったとはいえ、望まぬ進化をさせてしまったのだろうか。そうであれば、俺も責任を感じなくもない。

 ………身体に慣れるまでは俺も側にいることにしよう。

 

「ヤン……!」

 

 フン! って感じで鼻息を漏らすと左腕から紫色の何かが海に向かって飛んでいった。

 何だあれ………。

 毒か………?

 

「なんすか、今の」

「シェルアームズだね。ヤドランがよく使うどくタイプの技さ」

 

 へ、へぇ………。

 やっぱり毒なのか。腕から毒を飛ばすとか、なんて恐ろしい子!

 

「因みにヤドランのタイプはどく・エスパータイプだよ」

 

 みず・エスパーじゃないのか。

 まあ、確かに黄色かった頭が紫になってるわ。そのせいで顔色が悪く見えてしまう。

 

「お前、どく・エスパータイプだってよ」

「ヤン」

 

 うん、全然理解してないね。

 どうしたものか………。つか、何で俺はこんなにもヤドランのことを考えているのだろうか。こいつ、普通に野生のポケモンだぞ? ほぼ道場に居着いているような気もしなくはないが、まだ誰もボールに入れてはいないはず。

 

「それってヤドンもっすか?」

「んーん、ヤドンはエスパータイプのみ。ヤドキングもどく・エスパータイプだよ」

 

 えぇー………。

 なにそれ、シェルダーさんに噛まれたことでどくタイプが増えてんの?

 ガラルのシェルダーって毒持ちとか?

 

「ヤン……」

「進化して両手が使えるようになったのに、シェルダーが邪魔で左腕が上手く使えないってか?」

「ヤン!」

 

 あ、そこはちゃんと自己主張するのね。

 相当不便なんだな。物も上手くとれないのかもしれない。

 

「もうそこは慣れるしかないんじゃないか?」

「………」

 

 うわ、物凄い落ち込みよう。

 ドヨーンとした表情か読み取れるのだから相当なのだろう。

 

「ヤン」

「あ? ………まさか取れってか?」

「ヤン」

 

 いやいやいや!

 そんな簡単には取れないでしょうよ。

 あと痛いから頬にシェルダーだったものを押し付けるな。ぐりぐり痛いからね。

 

「わ、分かったよ。腕が捥げても知らないからな」

 

 言われるがままにシェルダーだったものを掴んで引っ張ってみる。

 

「…………」

 

 うん、分かってたことだがビクともしない。

 というかこんなんで取れていたらバトルに取れまくってると思うんだけどな………。

 

「………ヤン」

「俺の腕が先に捥げそう………」

 

 取れないことに肩を落とすヤドン。

 そんな儚げにされるとこっちも居た堪れない。

 

「つか、これ取れたらヤドンに戻るんじゃねぇの?」

「…………ヤン?」

 

 うん、すんごいアホ面。コテンと首を傾げているのがさらにアホを強調している。

 

「はぁ………、こうなっちまったのは俺にも責任があるしな。上手く使いこなせるように付き合ってやるよ」

「ヤン」

 

 望んでいないタイミングで進化してしまったんだ。その原因が紛れもなくガラナツのブレスレットにあるのだから、作った俺が責任取るしかないだろう。こうなっては野生で過ごすのも大変そうだし。

 

「あ、だったらガラルのヤドンたちのことをハチくんも勉強しないとね」

「そうっすね。何か資料でもあれば貸してください」

 

 こうして、ここに来た初日から何かと見かけるヤドン改めヤドランの面倒を見ることになった。

 いや、にしてもどくタイプって………。

 シェルダーもリージョンフォームとかって可能性もあるよな。折角だし、こっちも追々調べてみるかね。

 

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