ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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45話

 巨大化現象から数日。

 ねがいのかたまりとやらを除去したからなのか、その後巨大化現象が外で発生することも多発することもなくなった。

 事態が収束したとなればマスコミが動き出すだろうということで、俺は一足先に離脱し鎧島まで帰ってきたのだが、そこでまた門下生たちに質問攻めに遭うという苦難が待ち構えており、まあ疲れたね。

 どうやら門下生たちはテレビで見ていたらしく、帰ってきてからもニュースで取り上げられる程だった。ただ、幸い映像は遠目にドンパチやっているのが分かる程度で、誰が対処しているのかなんて判別もできなかった。パッと見て分かったのは、湖上の巨大化したポケモンが認識できたくらいである。これならダンデに頼まなくても俺が映ることはなかったのかもしれないが、どこで誰が取材しているか分からないからな。念には念を入れておくに越したことはないか。

 ただ、ホエルオーが巨大化した時には相当パニックになったらしく、取材陣も津波から逃れるために一時避難を余儀なくされたようだ。あの時、ダンデたちはどうしてたんだろうな。逃げたか、あるいは距離を取ってバトルを続けたか………いや、逃げることはないだろうな。あのバトルと聞いて二つ返事で了承するバカだ。逆に喜んでそうなまである。それに付き合わされる女性陣からしたら堪ったもんじゃないだろうに。

 まあ、その辺は俺が関わるところの話じゃない。というのも一応壱号さんに事のあらましを報告してあり、新たに指示されたのが島での待機である。どうやら俺が関わったことで国際警察がガラルで公的に動くきっかけになったようで、拠点作りの任務ご苦労とまで言われた。

 拠点作りってこういうのでいいのかよと口から出そうになったが、仕事が増えそうだったため、待機という休暇に甘んじることにしたのだ。

 後は爺さん伝に原因究明の経過を教えてもらうというか聞かされるというかなのだが、情報は入ってくるため自分で動く必要がない。

 今のところ俺たちの推測通りの経緯になっているが、その犯人は未だ特定できていない。まあ、それもその内特定されるだろうしな。

 これで突如現れた非日常は沈静化したと言ってもいい。

 

「ヤドラン、シェルアームズ」

 

 で、俺たちはというと、ヤドランが進化してしまった身体に慣れないようなので、ヤドランとしての動き方を身体に染み込ませているところだ。元々動きが鈍いヤドランはリージョンフォームしてもその性質が変わることはなく、普段の動きはゆったりしている。加えてこのヤドランはそこまで好戦的でもないためバトルになってもその場から動こうとはしないみたいだ。

 ただ、それを補うかのように進化したことで習得したシェルアームズという技がすごい。この技、毒を打ち出す技かと思ったら、シェルダーの部分で殴る技でもあるという訳の分からない技だった。

 一つの技で二通りの攻撃法がある技なんて聞いたことがない。確かに技の応用で変わった使い方をしたりはするが、それでもやはり技の発展の域を出ることはない。それこそ、カメックスがハイドロポンプとして背中の大砲でぶん殴るみたいな話だぞ。カメックスも大砲で殴ること自体はあってもハイドロポンプとしてのものではないのだ。だから、シェルアームズは前代未聞である。

 

「随分と打ち込み方が成ってきたね」

「そっすね。片腕だけってのが使い難いところですけど、最初の頃に比べたら断然よくなってますよ」

 

 で、ヤドランの特訓相手は同じどくタイプを持つエンニュートというポケモンである。シェルアームズがどくタイプの技ということもあり、どく・ほのおタイプを持つエンニュート………引いてはそのトレーナーのミツバさんが相手役を買って出てくれたのだ。

 というかだ。

 普通にこの人強そうなんだけど。

 ヤドランの打ち込みの練習だから本気のバトルなんてしてないが、こう何と言うかフィールドに立った時のオーラがヤバい。それでいてあのエンニュートの技の受け流し方から足の運びまで一切の無駄がない。これが攻撃に転じれば、ヤドランなんて軽くいなされて倒されてしまうだろう。ニャヒートでも無理だな。多分、ウルガモスくらいの実力はあると思う。やっぱり爺さんの奥さんなんだなと納得できてしまうレベルだ。それでいて爺さんと結婚してからバトルの腕を磨いたというのだから恐ろしい。

 俺たちは子供の頃の呑み込みの早さや突拍子のない想像力が育まれる時期にポケモンのこと、バトルのことを叩き込まれたが、大人になってからこの完成度はかなりのセンスがなければなし得なかったことだろう。というか言い換えてみれば弟子一号の完成度がこれだからな。流石現役引退しても尚、今の現役ジムリーダー以上の実力を持つ爺さんだわ。

 

「なら、次は射撃の方かな?」

「そうですね。的とか作れます?」

「んー………エンニュート、おにび」

 

 今度は射撃の練習となり、エンニュートが身体の周りに火の玉を作り出し大きな円を描いて回転させていく。

 

「これとかどうだい?」

「誤射で技がエンニュートに当たることだってあるでしょうけど、大丈夫っすか?」

「ああ、それは問題ないよ。そのためのどくタイプのエンニュートなんだしね」

「なら遠慮なく。ヤドラン、シェルアームズ」

「ヤン!」

 

 毒の弾丸を左腕の巻き貝から打ち出していく。

 一発目二発目は外に大きく外れたが三発目からは火の玉を掠めるようになり、掠めなくとも回転する軌道上をすり抜けていくくらいには感覚を修正できたようだ。あとは回転速度に合わせてタイミングを合わせられれば、第一関門はクリアだろう。

 

「ヤン!」

 

 っ!?

 な、なんだ今の速度………?

 今一発だけ狙った瞬間に発射されなかったか? しかも綺麗に撃ち抜いているし………。

 

「なるほどねー。そのヤドラン、特性がクイックドロウなのね」

「クイックドロウ? 早撃ち……ってことっすか?」

「三割くらいの確率でね。撃つ瞬間に一瞬だけゾーンに入ったみたいに無駄のない動きになって、構えた瞬間には撃ち終わってるってダーリンが言ってたわ」

 

 ゾーン。

 無意識化での最適化された動き………か。

 なるほど。普段動きの遅いヤドランには打ってつけの特性だな。

 これが意識的にできるようになれば、ヤドランが無双するということもあり得るのか。

 ただ、今のところヤドラン自身も自分の特性を理解していなさそうだ。何が起きたのか自分でもよく分かってない顔をしている。女将さんも三割くらいの確率でって言ってたし、これは只管シェルアームズないし、砲撃系の技を撃ちまくって、身体を慣らさせるところから始めないとな。一瞬で形成逆転狙えるような特性に自分が惑わされていたら、それこそ命取りとなる。

 

「で、お前らは何してんの?」

「サナ?」

「ニャフ?」

「モス」

 

 気付けば外に出して好きにさせていたサーナイトたちが、それぞれ火の玉を作り出していた。

 

「きっとおにびの練習してるんじゃないかい?」

「はぁ……そうなのか?」

「サナ!」

 

 どうやらエンニュートのおにびを見て、全員で真似していたらしい。

 ニャヒートとウルガモスはほのおタイプだから分かるが、サーナイトまで手を出すとは………。

 何気にほのおタイプの技は初なんだよな………。しかもサーナイトはダークライから一つの技から発展させて技を習得していく方法で叩き込まれている。その内ほのおタイプの技の数も増えてるんだろうな、きっと。

 はぁ………、着実にあいつらへと近づいていってるよな。このままだと三巨頭が四巨頭になりそうだわ。いっそ呼び名を変えて四天王にした方がいいかもな………ハッ、笑えねぇ。

 

「まあ、覚えておいて損はないか。ニャヒート、ウルガモス。相手はお前たちと同じほのおタイプのエンニュートだ。自分に使えそうなところがあったらしっかり盗むんだぞ」

「ニャフ!」

「モス」

 

 とは言っても、三巨頭たちとサーナイトとの間にはしっかりとした差がある。それは、俺がいなくともあの三体は自分でバトルを組み立てられることだ。リザードンはずっと俺の指示を受けてたため、身体が覚えているみたいだし、ゲッコウガはポケモントレーナーとしての素質も見せつけている。ジュカインに至っては自分から一人でやらせてくれってよく言うくらいだからな。その点、サーナイトはまだまだバトルの経験が浅いし、俺なしでバトルしたことなんてないに等しい。それを鑑みるとまだまだあいつらの仲間入りは果たせないだろう。

 

「サナナー? サナナー?」

「サーナイトはそうだな………ほのおタイプの技の出し方をしっかり見ておくとかかな。折角おにびを出せるようになったんだし、その炎をどう活かすか自分なりに考えてみ」

「サナ!」

 

 だからまあ、その前段階として自分で技をモノにしていくというのも大事な過程だろう。何でもかんでもトレーナーが口出ししていたら、一瞬の閃きも生まれはしない。サーナイトには頃合いなのだと思う。

 

「………ポケモン自身に考えさせる、か」

「バトルするのはポケモンたちなんで。トレーナーの視点とポケモンの視点は全く別物で、戦っている本人にしか感じられないこともありますからね。普段から自分で考えて技を使うということも身につけておけば、咄嗟の判断をトレーナーなしでも行えると思いませんか?」

「こりゃダーリンも認めるわけだわ………」

「………師匠が何か言ってたんですか?」

「『はっちんがベストメンバーを揃えた時、ワシちゃん手も足も出せなくなっちゃうよ』って。ダーリンがそんなこと言ったのってダンデ君くらいよ」

「それはどうでしょうね。師匠の本気も未だ未知数だし」

「強者同士通ずるものがあるってことかしら」

 

 そもそも爺さんと通じているとは全く思えないんだが。

 飄々としているせいで何を考えているのか掴めないし、厳しい修行をさせられるわけでもない。未だ本気モードの爺さんを見たこともないから、実力も未知数だ。この前は俺の見たことのないポケモンを使っていたが、帰ってきてからは一度も見てないし、分からないことだらけである。これで通じ合っているのなら、誰とでも通じ合ってるようなものだと思うがな。

 

「少なくとも俺は師匠と通じ合ってるとは思ってませんよ。師匠は俺のことを理解したつもりかもしれませんけど、俺はまだまだ師匠のことを理解できていませんからね。マスター道場とは言うものの、基本自主練ですし、未だ師匠直々の手解きを受けたわけでもないので、師匠のことなんてゲーム好きな軽い爺さんというイメージしかありませんって」

「アッハッハッ! そりゃ確かにそうだね。ハチ君は現役の頃のダーリンのことも知らないから、そう思うのが普通だよ」

 

 割と厳しめに言ったつもりだったのだが、ミツバさんは笑ってそう言ってきた。

 

「でもね、ダーリンは今でも強いよ」

 

 かと思えば、ギラつく目で俺を見てくる。まるで背後に爺さんがいるようなプレッシャーだ。

 

「……なら、師匠の本気を出させるにはどうすればいいですかね」

「そうだね………、ハチ君は強い。ダーリンがもう認めてるくらいには強いからね。だからどっちかと言えばダーリンの方かな。ハチ君と本気でバトルするために準備が必要になると思うの」

 

 ………はっ?

 

「………それ、俺どうしようもなくね?」

「そうなんだよ………。道場開いてからここまで強いトレーナーが来たのなんて初めてだからね。今のダンデ君ならハチ君に並べるけど、あの子が来たのはもっと小さい時なのよ。それにダイマックス以外の技術を使ってくるから、ダーリンも調整に難航してるんじゃない?」

「………そんなにですか?」

「そんなによ。気づいてなかったの?」

「いえ、全く。これぽっちも」

 

 あの三巨頭がいないし、俺は精々ダンデに運良く勝てた奴くらいの認識だと思ってたわ。

 違うんだ………。

 

「それにこの前の件の功労者は間違いなくハチ君だって言ってたからね。ダーリンが調整している間にハチ君も仲間を増やして強くなっていくだろうから、相当先を見越してるんじゃないかしら」

「ってことは、当分は無理だと?」

「多分ね」

 

 爺……。

 結局、俺にはどうすることもできないのか。その時が来るまで精々フルバトルできるようにしておくしかないな。

 

「あ、仲間で思い出したわ。ハチ君、ポケモンボックスって知ってる?」

「………ポケモンボックス、箱………? ポケモンを収納……収監でもしておくところですか?」

 

 急に話を替えてきたかと思えば………。

 何だ、そのポケモンボックスって。言い換えてみたものの、ボックスっていうからには多分収納という表現の方が適切なんだろうけど。収監だと檻のイメージが強いし。

 

「まあ、近いっちゃ近いけど、収納するのはボールに入ったポケモンたち。ポケモントレーナーが持ち歩ける手持ちの数は六体って決まりがあるでしょ? そこから漏れた七体目以降のポケモンたちをポケモンボックスに入れることで持ち運べるってわけ。旅の途中でも道端で手持ちの入れ替えなんかもできる便利なアイテムなの」

 

 ああ、なるほど。

 モンスターボール等ポケモン捕獲用のボールは中にポケモンが入っていると七体目以降だと電磁波か何かでロックされるのか出せなくなるって機能もあったりするからな。ポケモンボックスとやらはその電磁波を阻害する作りになっているのだろう。

 

「まあ、確かに。便利と言えば便利ですね。でも何で俺に?」

「サーナイト、ニャヒート、ウルガモス。それにマクワ君とバトルした時の契約してるってポケモンで既に四体。そしてヤドランも可能性があるってなると、この勢いならすぐに手持ちが六体いっちゃうと思ったの。だからおすすめしてみたんだけど………」

 

 それでか。

 まあ、もう六体いるんですけどね。

 確かにこのままヤドランが加わることになったら、数の上では七体目になっちまうもんな。一応ダークライは常にボールの外に出て俺の影に潜んでいるから、ヤドランまでならとは思っていたが………。

 そういう製品があるのなら、是非に欲しいところだ。六体いるとはいえ、その半数は表立って出せるポケモンじゃないから、ジムチャレンジに参加するのであれば、あと三体は捕獲したいところ。そのポケモンボックスがあれば数を気にせず捕獲することできるだろう。ボックスの上限にもよるが。

 ただ…………。

 

「そもそもこの島、店ないですよね」

「あ、そこはほら、通販で何でもいけちゃうから」

「輸送料とかバカにならんでしょ」

「それも大丈夫。なんせ届け先がダーリンの道場だからね。お金なんて取れないって配達業者さんが負けてくれてるの」

「権力の乱用じゃねぇか」

 

 何だそれ。

 めちゃくちゃ優遇されてるじゃねぇか、この島。

 

「ダーリンはそれくらいすごい人だったのよ」

 

 それだけの影響力があの爺さんにはあるってことか。ある意味、ガラルの影の支配者だな。

 

「なら、注文しておいてください。金はある………ここって金の引き出しとかできましたっけ?」

「そこも問題ないよ」

「何でもありだな、この島は………」

 

 この島に来てから金の使いどころがなかったため確認すらしてなかったが、何でも揃ってるじゃねぇか。

 

「だって、この島の所有者はダーリンだもの」

 

 ………………………………。

 

「………マジで?」

「マジで」

 

 ………………………………。

 うん、俺は何も聞いてない。何も知らない。

 さらっとすごいことを言われたような気がするけど、何も知らない。聞いてないぞ。

 

「よし、射撃の訓練再開させてもらいますよ」

「逃げたね……」

 

 マジかー………。

 この島自体、あの爺さんのものだったのか……………。

 権力つよつよなくせに一ミリもそんな素振りを見せることもない爺ほど、恐ろしいものはないわ。

 

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