ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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47話

「ハチはいるかーっ!」

 

 鎧島に来てもうすぐ五ヶ月が経とうとしていたある日。

 道場に変なおっさんが乗り込んできた。

 いつもなら道場内にいることは少ないため、客人と鉢合うこともないのだが、今日に限って中でヤドランのための貝殻の鈴を作っていたばかりに、その侵入者とばっちり目が遭ってしまった。

 つか、声でけぇよ。

 

「親父、うっさい!」

「シャ、シャクちゃん!?」

 

 しかも色黒の女の子までいるし。この二人親子か?

 

「およ、ピオちんにシャクちんじゃない。急にどしたの?」

 

 なんか俺のことを探してるみたいだったし、ここはそっと退散しておこう。絶対面倒なことになる。

 正面は塞がれているし、裏のフィールドの片隅にでも避難しておくか。あと少しで貝殻の鈴が完成するんだし、さっさと作ってしまいたい。

 

「ま、待ってよ、ピオニー君………。急いだって事情を説明するのは僕なんだからさ」

「悪ィ悪ィ。気が早っちまったぜ」

「親父せっかちすぎー」

 

 あれ? この声………。

 うん、マジで退散しておこう。

 現役ジムリーダー様まで来てるんじゃ、絶対何かしらある。

 

「ヤドラン、場所変えるぞ」

「ヤン」

 

 作業を中断し、道具をまとめてヤドランとともに道場裏から外へ出ることにした。

 門下生たちもカブさんたちの登場に意識がそっちにいっているため、誰も俺のことを気にしている奴はいない。

 そっと扉を閉めてフィールド端の海の見えるベンチに持ってきた道具を広げた。そして最後の作業である貝殻に頑丈な紐を通していく。紐通しは難なくいけたが、それまでの貝殻に穴を開けるのがすげぇ大変だった。思いの外硬いのよ、この貝殻。シェルダーの抜け殻らしく、そりゃもう無駄に硬い。というか本当に中身はどこにいったんだろうな。

 貝殻の鈴の作り方はもちろんミツバさんに教わった。あの人、何でも知ってるからすげぇ助かる。

 

「よし、完成だ。ヤドラン、右腕出してくれ」

「ヤン?」

「………この辺に巻き付けて、と。ヤドラン、貝殻掴めるか?」

「ヤン………ヤン」

 

 ヤドランの右腕に完成した貝殻の鈴わ括り付け、それを掴めるかどうか試してもらった。

 問題はなさそうだな。紐にも余裕があるし掴みにくさはなさそうだ。

 

「なら、垂らしておくと………?」

「ヤン………」

 

 手を離して宙ぶらりんにさせると掴みやすくした分、紐の長さだけブランと垂れ下がってしまう。

 

「邪魔か?」

 

 小さく首を横に振るヤドラン。

 本人が邪魔でないなら問題はなさそうだな。

 

「そか」

 

 よし、これで完成だな。

 道場前の砂浜でこの貝殻を見つけた時に閃いたはいいが、本当に完成してしまうとは。あとは実践で役に立つかどうかだ。本来の効果としては攻撃する度に振動で鈴がなり、その音が癒しの効果となって回復する、というものなのだが、ちゃんと機能してくれるかどうか………。それにもう一つの使い方も気になるところだ。

 

「ハチーッ! バトルするぞーっ!」

「ハチくーん、ごめん! 僕じゃピオニー君を止められなかったーっ!」

 

 そんなこんなしていると先程の騒がしいおっさんの声が聞こえてきた。

 まだ呼んでるよ。カブさんも諦めモードだし。

 

「ここかっ!」

 

 バーン! と開かれた扉から色黒のおっさんが出てきた。

 

「うるせぇよ、おっさん。バカみたいにデケェ声で騒いでんじゃねぇよ」

「ひぃっ!?」

 

 あまりにもうるさいため、一睨み効かせるとめちゃくちゃ怯えられた。

 

「カカカカブちゃん、なんかヤベェ奴がいるぞ!」

「あ、ハチ君。ここにいたんだね」

「うぇっ!? こいつがハチ?!」

 

 うわっ………なんかカブさんさっきより窶れてない?

 

「………今度は何の用ですか? バトルバトル騒いでますけど、今日はバトルするつもりないですよ」

「あはは………、お見通しだね」

「あんだけバカデカい声で叫んでたら嫌でも聞こえますって」

 

 カブさんには悪いけど、おっさんの要望を受けるつもりはない。そもそも誰だよ、このおっさん。

 

「ねぇねぇ」

 

 するとくいくいと袖を引っ張られた。ヤドランかとも思ったが、見下ろすと色黒の女の子がおり、にこぱーっと笑みを浮かべている。

 

「兄ちゃん、バトル強いの?」

「お、おおいシャクちゃん………そんな近づいちゃ………」

「どうだろうな。相手によるんじゃないか?」

 

 俺より強いトレーナーも普通にいるし、そもそも強いのはポケモンであって俺じゃないし。

 

「アタシ、シャクヤ! 兄ちゃんは?」

「俺はハチだ。シャクヤは偉いな、ちゃんと自己紹介ができて。お前の父ちゃんなんか名乗りもしないで大声で叫び回るような典型的なダメな大人だぞ。シャクヤはあんな大人になっちゃダメだからな」

「うん、わかった! 親父さいてー」

 

 あんな父親の娘とは思えない素直でいい子じゃないか。騒がしくもないし、本当に血が繋がってるのか怪しいレベルだ。

 

「うぐ………」

「ピオニー君、今回は君に非があるんだから、ちゃんと謝らないと。それにシャクヤ君の前だよ?」

「分かったよ、カブちゃん………」

 

 いい歳したおっさんがおっさんに諭されるって…………。

 しかもカブさんの言葉のチョイスよ。どうも娘を溺愛してそうなこのおっさんには効果抜群の言葉だわ。娘を出汁に手綱を握るって、カブさんもこのおっさんの扱い方に慣れてるみたいだな。

 

「あー、その……騒ぎ立てて悪かったよ。オレはピオニー。今朝カブちゃんと久しぶりに会って、げきりんの湖での異常事態の時に手を貸してくれた奴の話になってな。カブちゃんが会ってきたっていうからオレも気になって会いにきたんだ」

 

 まあ、そんなところだろうとは思っていたが。

 はて、このおっさんあの時いたっけか。

 うーん………。

 

「彼はあの時ダンデ君たちと事に当たってたからね。君が覚えてないのも無理ないよ」

「ああ、そういうことか。てことは………鋼の大将、だったか?」

「そうそう。ピオニー君は昔ジムリーダーだったからね。その時の二つ名が鋼の大将だったんだ」

 

 確かヒバナとかいう背の高い色黒のジムリーダーがそう驚いていたはず。あれ? ハナビだっけ? まあ、何でもいいや。

 ということは、このおっさんははがねタイプの使い手、なんだろうな。流石に鋼のような精神で粘り強いバトルをするところから『鋼の大将』と呼ばれてるとは思えないし。つか、このおっさんに粘り強さとか一番かけ離れてると思うわ。もう少し欲望を抑えろよ。娘を出さないブレーキが効かない危険すぎるだろ。

 

「それでだな、頼みがあるんだが………オレとバトルしてくれねぇか?」

「はっ?」

 

 俺、今日はバトルしないって言ったよな?

 それでもバトルを申し込んでくるとか正気か?

 

「カブちゃんに勝ったその実力、オレにも見せて欲しい」

「えぇー………」

 

 面倒くさっ………。

 何でこうも俺の来客はバトルバトルとバトルジャンキーしか来ないんだ。新手の刺客か何かかよ。

 

「親父、すっごく強いんだよ!」

 

 すると真下からキラキラしたオーラが溢れ出した。

 何そのキラキラした目。めっちゃいい笑顔じゃん。目がバトル見たいバトル見たいってすげぇ訴えてくる。頭の周りに効果音として『キラキラッ!』とか『わくわくっ!』とか付きそうな勢い。

 無邪気さって時に恐ろしい。これに抗えとか、マジで無理難題過ぎるだろ。

 

「………そんなにバトル見たいか?」

「見たい!」

 

 そりゃもう一切迷いのないいい返事だった。即答だよ。

 

「はぁ………。おっさん、娘に免じてバトルはしてやる」

 

 負けた。無邪気な好奇心には勝てなかった。

 いや、最強過ぎるわ。あんな純粋な目を向けられたら、俺の心も浄化されちまうっつの。天に召された気分だわ。バトルジャンキーなおっさんのこととか超どうでもいいわ。この子が喜ぶならバトルするのも吝かではない。

 

「ねぇ、ハチ君。君って妹とかいたりする?」

「………よく分かりましたね」

「シャクヤ君への対応が普通に妹を悲しませないように頑張るお兄ちゃんだったからさ」

「何その超具体的なチョイス。そんなに出てました?」

「そりゃもう見事に」

「マジか………」

 

 顔を寄せてきたカブさんにそんなことを言われてしまった。

 えっ、マジで?

 キモすぎるだろ………。

 爺は見てない、よな? 見られてたら絶対後々ネタにされかねないところだぞ。

 

「ところで君、ここで何してたの?」

「貝殻の鈴作ってました」

「えっ? あれって自分で作れるの?」

「ミツバさんが作り方知ってましたよ」

「………彼女、何でも知ってるよね」

「ね。この道場のラスボスってミツバさんなんじゃないかと思う時ありますよ」

 

 ミツバさん、何でも知ってるから恐ろしいの何のって。

 権力つよつよで底の知れない爺よりも底が知れない人だと思う。絶対逆らってはいけない人だ。

 

「いいか、おっさん。これはシャクヤのためだからな」

「いや、うん、バトルしてくれるなら何でもいいんだがよ………。お前にシャクちゃんは渡さねぇからな!」

 

 このおっさん、何か盛大に勘違いしてらっしゃる。

 誰も子供をもらおうなんざ考えてねぇよ!

 いつ誰が子供相手に結婚を申し込んだよ。

 

「あ、はっちんバトルするんだね」

「口説いたのはシャクヤ君ですけどね」

「ほほー、はっちんは歳下の女の子に弱い、と」

「妹さんがいるみたいですよ」

「はっちんはなんだかんだ言いながら面倒見はいいもんね」

 

 早くも観戦組へとジョブチェンジしたカブさんと最初から他人事な爺のなんてことのない会話が聞こえてくる。そういうのは本人に聞こえないように話してくれませんかね。

 

「シャクヤ、危ないからカブさんたちのところに行っててくれ」

「はーい」

 

 ヤドランと戯れていたシャクヤをカブさんのところに行かせて、俺もフィールドへと向かうことにした。

 せっかちなおっさんは既にスタンバイしており、今か今かと待ち構えている。どんだけバトルしたかったんだよ。

 

「んで、おっさん。ルールは? フルバトルは無理だぞ」

 

 三体程出せないポケモンがいるからな。あいつらを抜くとフルバトルはどうしてもできない。いや、やろうと思えばできなくはないが、サーナイトの負担が増えるだけだからな。そんな無茶はさせたくはない。

 

「手持ちの数だけ、でどうだ?」

「………なら、四対四だな」

「おうよ、交代は自由! 技も好きに使え! お前の本気を見せてくれ!」

「へいへい」

「審判は僕がするよ。と言っても戦闘不能かどうかの判断くらいだけどね」

 

 本当にガラルのトレーナーはジャンキーな奴らばかりだな。そんなにバトルに飢えてるのかね。公式戦に則らなくていいのはこちらとしても楽でいいのだが、それならカブさんと二人でバトルしてればいいんじゃないのか?

 態々俺にバトルを申し込んでこなくとも、実力者同士近くにいるんだし。マンネリ化するっていうのなら分からなくもないが、だからと言って俺を選ぶ必要はないだろうに。それこそ爺がいるだろうが。

 まあ、やると決めた以上はやってやりますかね。

 貝殻の鈴の効果も確かめたいところだし、あっちの使い方もできるか試してみるか。ヤドランの出番があればの話だが。

 

「いくぜ、ニャイキング!」

 

 っ!?

 あれ、は………確かリージョンフォームしたニャースの進化後じゃなかったか? 名前もそれっぽいし。タイプはニャース共々はがねタイプだったか。

 

「ニャヒート」

「ニャフ!」

「知らねぇポケモンだな………」

 

 おっさんはもちろんニャヒートを知らないか。

 ニャイキングとやらがどんなバトルをするのかは定かではないが、タイプ相性だけでみればこちらに分がある。

 そこを上手く活かせれば、ニャヒートにも勝機が見えてくるはずだ。

 

「来ねぇならこっちからいくぜ! ニャイキング、ねこだまし!」

 

 速いっ!?

 一瞬で詰め寄ったニャイキングがニャヒートの顔の前で一拍手し、ニャヒートを怯ませた。

 

「きりさく!」

 

 その一瞬の隙を逃さず、立てた爪で切り裂いてきた。

 ねこだまし。それに続く攻撃技か。

 確かに戦い慣れしているのは分かった。元ジムリーダーというのも間違いではないのだろう。

 

「ニャヒート、撹乱しろ。ニトロチャージ」

 

 なら、こっちも撹乱させるくらいしないとか。

 ニャヒートは炎を纏い、加速しながらニャイキングの周りを取り囲んでいく。

 

「動きをよく見ろ! 捉えたらじごくづきだ!」

 

 ジロジロとニャヒートを観察するニャイキング。その爪は黒く染まり、いつでも攻撃可能状態となっている。

 そして奴がニヤリと口を緩めた瞬間、何もないところに向けて動き出した。

 

「にどげりで弾け」

 

 迷わず俺もニャヒートに次の指示を出した。

 するとニャヒートはバク宙し、前脚でニャイキングの黒い爪を受け止めると、回転する身体を利用して後ろ脚でニャイキングを蹴り飛ばした。

 

「ほのおのうず」

 

 そして逃すまいと炎の渦で取り囲んでいく。

 

「潜れ!」

 

 チッ、あなをほるを覚えてやがったか。

 

「ニャヒート、下からくるぞ。ニトロチャージで適当に走り回れ」

 

 突っ立ってたらただの的でしかない。

 ジグザグに走り回ることで地面から飛び出てきた時に外す可能性は高くなる。

 

「ニャフ!?」

 

 ッ!?

 あいつの目というか索敵能力高すぎるだろ。一応ニトロチャージのおかげで素早さも上がってるんだぞ?

 

「そのままじこくづきだ!」

 

 正確に突き上げられたニャヒートに黒い爪で深く突いてきた。

 いけるかどうか指示してみるか。

 

「ほのおのキバ」

 

 腹をド突かれた状態で攻撃するのはなかなか難しいところだが…………。

 

「ニャ、ニャフ!」

 

 ニャヒートもこのまま負けるのは嫌だったみたいだな。意地と根性だけでニャイキングの腕に噛みついた。

 

「チッ、ニャイキング! なげつけろ!」

 

 本当に戦い慣れしている。

 終始こう来たらこうっていう対応をされている感覚だ。二体には圧倒的な経験の差がある。

 これをどう覆すかはトレーナーの腕次第ってか………。

 

「うーん、こんなもんか………? カブちゃんに勝ったとは到底思えんのだが」

 

 地面をバウンドしていくニャヒートを見て、おっさんが唸り声を上げた。

 

「そうだな。カブさんに勝ったのはこいつじゃないからな。そりゃ期待通りのバトルにはならねぇよ。それにこいつはまだ進化の途中段階だ。発展途上のポケモンに多くを求める方が酷ってもんだろ」

 

 ダークライ、クレセリア、そしてギラティナに鍛えられたサーナイトと一緒にしたんじゃニャヒートがかわいそうだわ。

 

「ヘッ、だったらさっさと倒してお前の最強のポケモンを引き摺り出してやるよ! ニャイキング、シャドークロー!」

「ニャヒート、ニトロチャージで躱せ」

 

 ニャイキングが地面に爪を突き刺した。

 ニャヒートは炎を纏ってその場から離れると、そこに爪の影が地面から生えてきた。

 危ねぇ。一歩でも反応が遅かったらまた突き上げられてたわ。

 

「そのまま奴の背後に回り込め」

 

 加速しているため、そのまま攻撃に移らせた。

 このまま背後に回って一噛みするか、あるいは蹴りを入れるか。

 ………絡め手を入れないことには崩すことはできないな。

 

「かげぶんしん」

「躱してじごくづき!」

 

 あろうことかニャイキングはバク宙してニャヒートを躱し、頭上から本体に黒い爪を突き刺してきた。

 あいつ、分身に惑わされることもねぇのかよ。

 ニャヒートは力が変な方向に加わったのか、またしてもバウンドしていく。

 

「ほのおのうず」

 

 その状態のまま、ニャヒートは炎を放ってニャイキングを取り囲んだ。

 視覚に対する撹乱はあまり意味をなさないのかもしれないな。音や空気の流れから気配を察知していそうだ。

 そうなってくるとまだまだ戦闘経験の浅いニャヒートには分が悪すぎる。

 

「ニャヒート、ふるいたてる」

 

 あの巨大化現象から二ヶ月あまり、おにび以外にも技を習得した。それが先のほのおのキバだったり、このふるいたてるだったりする。だが、やはりというかまだ大技を一つも持っていないのが決定打に欠ける感じだ。相性で優っても経験という面で圧倒的な差があるこのバトル。そろそろ交代も視野に入れておいた方がいいのかもしれない。

 

「ニャフ……!?」

 

 ッ!?

 まさかさっきのを学習して自ら動いていたのか………?!

 おっさんは何も指示を出していなかったから、別の方法で炎の中から出てくると思っていたが………これは俺の失態だ。

 

「ニャ、ヒィィィィイイイイイイイイイイイイイイイッッ!?!」

 

 するとニャヒートが雄叫びを上げ出した。

 

「な、何だっ!?」

「こ、これは………もうかっ!?」

 

 どうやら今の攻撃で特性のもうかが発動したらしい。身体中が赤いオーラに包まれ、ニャヒートの周りの空気がメラメラと揺れている。

 

「ニャイキング、技を使われる前にそいつの動きを封じろ!」

「ニャヒィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

 ニャイキングがニャヒートを地面に突き落とそうとした瞬間。

 ニャヒートから特大の炎が弾け広がった。

 

「ヤベェ……ニャイキング、メタルバーストで押し返せ!」

 

 これはオーバーヒートか?

 あいつ、この土壇場で大技を習得しやがったよ。自分でも決め技に欠けると思ってたのかもな。

 だが、ニャヒートの覚醒はそれだけで終わらなかった。

 

「進化、だと………?!」

 

 メタルバーストで受け止められ、押し返されそうになると、ニャヒートの身体が白い光に包まれていった。

 そして姿形を変え、二倍以上の体躯になったニャヒートーーいや、ガオガエンはこっちも二倍以上になった業火でメタルバーストを呑み込んでいく。

 

「ガオガエン、ニトロチャージ」

 

 ニトロチャージで追撃させにいくと、纏う炎も二倍以上になっていった。

 

「………ッ!?」

 

 こっちも進化したのか。

 フレアドライブ。激しい炎で身を包み突撃する技。その激しい炎に反動のダメージを受けることになるが、それを抜いても強力なほのおタイプの技だ。

 

「め、メタルバースト!」

 

 ニャイキングに反撃の余地を与えぬまま、ガオガエンはニャイキングを吹っ飛ばしてしまった。

 丸焦げになって地面をバウンドするニャイキングはピクリとも動かない。

 

「ニャイキング、戦闘不能!」

 

 カブさんの判定が下され、まずは一勝を上げた。

 

「まさかあの土壇場で進化までするたぁ驚きだぜ。しかもめちゃくちゃパワーが上がってるじゃねぇか」

 

 俺も正直進化までするとは思ってなかったわ。

 いろいろ攻撃を仕掛けてもみてもニャイキングの方が上手だったのは事実。もうかが発動して一発逆転を狙えるかなってところだったのに、よもや進化して勝利するとは………。

 多分、オーバーヒートやフレアドライブ以外にも技を習得していることだろう。次の相手次第だが、確認するのはおっさんとのバトルが終わってからだろうな。

 

「もうかが発動してる上に効果抜群の炎技だったんだ。そこに進化したという要素が加われば、大ダメージになるのも頷けるだろ」

「にしたってだ。カブちゃんを見てみろよ。お前のポケモンに目をギラつかせてるぜ」

 

 えっ?

 うわっ、めっちゃこっち見てるんだけど。俺というかガオガエンをだけど。

 ほのおタイプのジムリーダーだけあって興味がそそられるのかもしれない。

 

「よし、次だ次! 次はお前だ、ハッサム!」

 

 ………本当自由だな、このおっさん。

 無意識なんだろうけど、自分のペースに持っていこうとしやがる。

 

「距離を取ってからエアスラッシュ!」

 

 出てきたハッサムは早速宙を舞い、上空からガオガエンに向けて無数の空気の刃を降らせてきた。

 

「ほのおのうずで呑み込め」

 

 ガオガエンは自分の前に大きな炎の渦を作り出し、降り注ぐ空気の刃を悉く呑み込んでいく。

 

「今だ、あまごい!」

 

 だが、おっさんの狙いは攻撃がメインではなかったようだ。

 ガオガエンが空気の刃を対処している間に雨雲を作り出させ、雨を降らせてきた。

 さっきから降らせる技が好きだな、このおっさん。

 

「ヘッ、これでハッサムの弱点はカバーしたぜ! ハッサム、バレットパンチ!」

 

 嫌に手の込んだ弱点対策だこと。

 むし・はがねタイプのハッサムにとって唯一の弱点がほのおタイプである。そのほのおタイプから出される炎技を雨を降らせることにより、火力を落とさせる算段だろう。そして元はがねタイプのジムリーダーということもあり、弱点は共通するため、他の手持ちポケモンの弱点対策も兼ねている。

 そして対策した上での得意の接近戦に持ち込むってわけか。

 

「おにび」

 

 殴られつつも、しっかりと火の玉をハッサムに当て、火傷状態にした。

 

「なっ!?」

「よくやった、ガオガエン。ゆっくり休んでろ」

 

 もうかが発動した時点で残り体力は少ないところに、耐性があるものの数発殴られたのだ。ニャイキングを倒してハッサムを火傷状態にしたのだから、充分仕事はしてくれた。

 だからガオガエンを交代させて休ませることにした。

 それにーーー。

 

「ウルガモス」

 

 ーーー雨が降っている状態でも強いほのおタイプがいるってのを見せてやらないとな。

 

「ぼうふう」

 

 出てきて早々、ハッサムを暴風で呑み込んだ。

 雨が降っている状態だと必ず発生する技で、しかも規模も若干大きくなる。だからいつも以上に荒れる暴風に呑まれたハッサムは、抜け出すのに必死だろう。

 

「ハッサム、エアスラッシュ!」

 

 中で何とかして抜け出そうしているようだが、そんな柔な風じゃない。

 

「ちょうのまい」

 

 その間に舞い、素早さと遠隔系の攻撃力と防御力を上げておくことにした。

 

「チッ、ダメか………。なら、次はすなあらしだ! 逆風で相殺しろ!」

 

 おお、考えたな。

 風には風、というか嵐で相殺する気か。

 だが、そこですなあらしを選んだのが命取りだと思うわ。

 逆風によりみるみると嵐が収まっていく。それに伴い雨も上がった。

 そして砂が目視で確認できた時、次の指示を出した。

 

「砂を固定しろ、サイコキネシス」

 

 パワーも上がっているため、ハッサムを覆うようにして超念力で広く砂を固定していく。

 

「ッ!? まさかっ………?!」

 

 今気づいてももう遅い。

 ここまできたら、後は火を放つだけである。

 

「おにび」

 

 火の玉を送りつけた瞬間、ハッサムを中心に大爆発が次々と発生していく。

 まあ、この粉塵爆発でどこまでダメージが入るかはよく分かってないんだけどな。ポケモンの技ってわけでもないし。何ならダメージ計算とか苦手だし。

 

「出たね、粉塵爆発。ハチ君のポケモンにすなあらしや粉系の技は命取りだよ、ピオニー君」

 

 そういえばあの時二人とも見てたんだよな。

 確か実力を見せつけるためか何かで粉塵爆発を起こしたはず。

 意外とこれ、リザードンたちにはできない芸当なんだよな。炎技と超念力を使える奴じゃないとできないから、超念力を使えないリザードンにもゲッコウガにも無理。

 そう考えると今の手持ちーー仮に後輩組とでもしておこう。後輩組ならではの戦い方になりつつある。

 

「ウルガモス、ほのおのまい」

 

 ウルガモスは炎を纏い、羽ばたいて猛烈な炎を送り込んでいく。

 あー……ちょっと収まり出してたのに、また爆発が盛んになっちゃったよ。

 

「ッ、ハッサム! はかいこうせん!」

 

 突如、禍々しい光線が飛び出してきたが、ウルガモスに当たることはなかった。

 多分爆発で焦点を合わせられなかったんだろうな。

 

「………届かなかったね。ハッサム、戦闘不能!」

 

 ドサッという音と共にハッサムが地面に落ちた。

 その身体は煙が出ており、所々黒くなっている。

 

「バトルの次元が違ぇ………。こんなんじいさんでも見たことねぇぞ」

 

 ハッサムをボールに戻しながら、おっさんがそう嘆いた。

 さっきまであんなに好戦的だったのに、いつの間にか意気消沈してないか?

 

「ボスゴドラ、ウルガモスを落とすぞ!」

 

 あ、そうでもなかったわ。

 よかった、まだまだいけそうだな。

 

「いわなだれ!」

 

 今度は飛んでいるウルガモスを落とすのが狙いだな。

 

「ちょうのまいで躱せ」

 

 舞う、舞う、舞う。

 ひらひらと舞いながら雪崩のように降り注ぐ岩々を躱していく。

 

「待ってたぜ! ボスゴドラ、ストーンエッジ!」

 

 ………なるほど。

 岩を避けるために上下左右に動き回っているため、高度が下がったところを狙って地面から岩を生やしてきたのか。

 だがまあ、悪いけどそれくらいでどうこうなるような育て方はしていない。何なら現状後輩組の中で唯一飛翔能力があるポケモンだ。アレを覚えさせていないわけがなかろう。

 

「ブラスターロール」

 

 最初はリザードンと一緒に覚えていった飛行技。

 後にユキノたちも自分のポケモンたちに覚えさせていたくらいにはバトルで有用性がある、アニメの動きの再現した技術だ。

 下からの攻撃を翻ることで躱し、一気にボスゴドラとの距離を詰めていく。

 

「とんぼがえり」

 

 そして、ボスゴドラの腹に体当たりをして、そのまま俺が構えたボールへと戻っていくウルガモス。

 突撃した反動でボールに戻っていくというちょっと不思議な技であるが、ハッサムを倒した今、一旦ウルガモスの役目は終わった。いわタイプを持つボスゴドラに無理して居残る必要はない。次エアームドみたいな飛べるはがねタイプが出てくるまでは、ウルガモスの出番はないかもしれないな。

 

「ヤドラン、みずのはどう」

 

 交代で出したヤドランには、そのまま水を波導で操りボスゴドラを呑み込ませた。

 リージョンフォームしたとはいえ、ガラルのヤドランも水技は扱える。

 

「まだやれるな、ボスゴドラ」

「ゴラァ!」

 

 まあ、今のでボスゴドラが倒れるとは思わないがな。

 のそりと起き上がったボスゴドラは、大きく腕を広げて天に向けて吠える。

 

「バランスを崩せ! じしん!」

 

 そして、勢いよく地面を叩くとグラグラと地面が激しく揺れ、バランス感覚を奪われた。

 

「おわっ……とと………。ヤドラン、なみのりで揺れをやりすごせ」

 

 思わず転けそうになったが、何とか踏み留まり、ヤドランに指示を出した。今ので指示が遅れた分、どくタイプを持つヤドランには効果抜群の大ダメージになってしまったかもしれないな。

 水を広げて波を起こし、その波に乗って後半の揺れをやり過ごしたが、今のは痛かった。

 

「ボスゴドラ、れいとうビームで凍らせろ!」

 

 対してボスゴドラは割と冷静で、目の前に波に焦ることなく冷気を吐き出し、波を凍らせていく。

 妙に芸術作品が出来上がってしまったが、誰もそこに関心を持ってはいなさそうだな。バトル中にそんなことを考えている俺がおかしいくらいだ。

 

「詰めろ、シェルブレード」

 

 波が凍ったところで、ツルツル滑るようになっただけなので、そのまま凍った波に沿ってボスゴドラへと飛びかかっていく。

 

「ヤドランのシェルブレードは左手しかねぇ! ボスゴドラ、かみなりパンチで掴め!」

 

 振り下ろした左腕を電気を纏った右の拳で掴み止められてしまった。

 

「じごくづき!」

 

 そして、左手が黒く染まっていく。

 次期にヤドランに腹に叩き込まれるのだろう。

 

「貝殻の鈴を使え。シェルブレード」

 

 だから早速用意していた策を使うことにした。

 ヤドランは右手に巻き付けていた貝殻の鈴を掴み、水の剣を伸ばして迫り来る左手を上に弾き上げる。

 

「ゴラァ!?」

「みずのはどう」

 

 衝撃で離れた左腕の先から水を放射して、ボスゴドラの顔面に浴びせた。

 ヤドランは放射の反動を使ってちょっとだけボスゴドラから距離を取っていく。

 

「ラァ……ラァ………」

「一旦戻れ、ボスゴドラ」

 

 肩で息をし始めたボスゴドラをおっさんはボールへと戻した。

 まあ、妥当な判断だよな。あのまま続けてたら普通に倒せそうだったし。

 

「ダイオウドウ、お前の力でひっくり返すぜ! 10まんばりき!」

 

 次に出てきたのは知らないポケモンだった。

 軽く三メートルを超える四足歩行の巨体は、身体が青銅でできているような見た目をしている。そして鼻が長い。そこだけはドンファンに近いものを感じる。

 その巨体がドシドシと駆けてくるのだから、まあ恐ろしい。

 

「サイコキネシス」

 

 超念力で足止めをしてみるものの、一歩の距離が縮まるだけで止まることはない。

 

「躱せ」

 

 時間を稼げたために躱すことはできたが、ふとした瞬間に距離を縮まられては堪らないだろう。

 

「まだまだァ! ダイオウドウ、ヘビィボンバー!」

 

 踏み留まる力を利用して高々とジャンプしていくダイオウドウ。あれが降ってくるということは、相当のエネルギーを抱えて落下してくることになる。直撃なんてすれば、一発で戦闘不能になるだろう。

 

「躱してシェルアームズ」

 

 一応知らないポケモンなので、はがねタイプではあるだろうが確かめておくことにする。

 転がるようにして躱したヤドランは、起き上がりと同時に毒を放射してダイオウドウに浴びせた。

 だが、案の定毒は弾けダメージも一切入っている気配がない。

 

「お前正気か? ダイオウドウにどくタイプの技は効かねぇよ!」

「やっぱりこいつもはがねタイプか」

 

 鋼の大将なんて呼ばれてるみたいだから、こいつもはがねタイプってことでいいんだな。

 それが確認できれば、もうシェルアームズを使う必要はない。

 

「ダイオウドウ、ストーンエッジ!」

 

 クレーターを作ったダイオウドウは鼻で地面を叩き、岩を突き上げてくる。

 

「ヤドラン、シェルブレードで砕け」

 

 それを左腕の巻貝に水を纏い剣にして次々と砕いていく。

 

「いわなだれ!」

 

 前方の対処をしている間な今度は上からも岩々が降り注いできた。

 

「右手も使え」

 

 貝殻の鈴も使い、二刀流で上方の岩を砕いていく。前方からのはもう止まった様子なのがせめてもの救いか。

 

「ヘッ、この状況じゃ躱せねぇだろ! ダイオウドウ、じならし!」

 

 ダイオウドウはさらに地面を前脚で何度も叩き、揺さぶりをかけてきた。

 前方、上方、さらには下方。

 揺さぶりの掛け方が尋常じゃなく上手い。しかもどくタイプに効果抜群のじめんタイプの技を最後に持ってくる辺り、攻め方に慣れを感じさせる。

 

「ヘビィボンバー!」

 

 急変する攻撃の方向に終にはヤドランもバランスを崩してしまった。

 上方には高々とジャンプした巨体が降り注いでいる。

 

「ヤドラン、躱せ」

 

 アクアジェットでも使えればよかったのだが、無理なものは仕方ない。またしても転がるようにしてその場から離脱するも、即座に落ちてきたダイオウドウの衝撃により吹っ飛ばされてしまった。

 

「………直撃は免れたが、それでもこれか」

 

 ただの衝撃波なのに転がるヤドランの身体はボロボロになっている。見た目だけかもしれないが、あれは衝撃波でも相当のダメージになりそうではある。

 

「チッ、仕留め損なったか。なら! デッカク増量、デカバルク!」

 

 おっさんはダイオウドウをボールに戻すと右手のバンドからエネルギーが流れ、ボールが巨大化していく。

 

「キョダイマックス!」

 

 放り投げられたボールからは姿の差異が見受けられる巨大化したダイオウドウが現れた。

 キョダイマックス。

 姿が変わるダイマックスか。

 

「ダイオウドウ、キョダイコウジン!」

 

 ヤドランが起き上がったと同時に無数の鋼の棘が降り注いできた。

 

「ヤドラン、まもる」

 

 ドーム型の防壁を張って受け止めていく。

 弾けた棘は周りに散っていき、撒菱が広がっているように見える。

 

「………ヤンッ!」

 

 すると次第に棘が防壁に刺さるようになり、刺さった点と点を結ぶように筋が出来上がっていった。

 

「押し切れ!」

「ダァァァァアアアアアアアアアアアアアアアイッッ!!」

 

 地響きのする唸り声とともに、防壁に刺さる棘の数が一気に増していく。筋はヒビとなり、防壁に広がっていく。

 

「ヤンッ!?」

 

 そして、終には防壁が割れ、そのまま無数の鋼の棘にヤドランは襲われた。

 

「…………やっぱり無理があったか」

 

 ダンデとバトルした時にも思ったが、巨大化した時の技の一撃はZ技に匹敵する。防壁を張ったところで力負けするのは当然といえば当然かもしれない。それが三発は必ず飛んでくるとなると普通に耐えるというのは、取るべき策ではないのだろうな。

 それが明確になっただけでもヤドランは充分やってくれた。貝殻の鈴の有用性も確認できたし、ボスゴドラを交代させるまで追い込んだのだ。勝ち星はなくとも初陣としては上出来だと思う。

 

「ヤドラン、戦闘不能!」

「っしゃーっ! 一本取ったぜ!」

「戻れ、ヤドラン。………初陣でここまでやれたのは充分すごいからな。あまり自分を卑下するなよ」

 

 まだまだヤドランの成長はこれからだからな。

 ヤドランをボールに戻して、トリのボールに手をかけた。

 

「サーナイト」

 

 恐らくカブさんから聞いているであろう今バトルのメインイベント。

 おっさんの要望に素直に応えるのは癪だが、現状あのキョダイマックスを打ち破れるのはサーナイトしかいない。

 

「サナッ?!」

 

 ただ、サーナイトがフィールドに降り立つと地面に飛び散った鋼の棘によりダメージが入ったようだ。

 なるほど、あの技にはそういう追加効果もあったのか。撒菱みたいに飛び散るなとは思ったが、本当に撒菱の役割を果たすことになろうとは………。

 

「ヘッ、はがねタイプを使うオレにフェアリータイプを出してくるとか、自殺行為でしかねぇぜ!」

 

 …………ん?

 そりゃカブさんとバトルして勝ったポケモンなんだから出すに決まってるだろ。つか、こいつが目的じゃなかったのかよ。

 そう思ってカブさんに目配せすると、フルフルと首を横に振ってきた。

 あれ………?

 まさかカブさん、俺とのバトルのこと話してない?

 いや、話そうとしたがせっかちなおっさんが即俺のところにきてしまったため、話せなかったってところか?

 有りそうではあるよな。

 まあ、サーナイトの情報を持ってないのなら好都合だ。

 

「ダイオウドウ、キョダイコウジン!」

 

 こう来るのは読めている。

 

「まもる」

 

 だからまずはドーム型の防壁を作り、無数の鋼の棘を受け止めていく。

 

「さっきと同じ戦法じゃ、ダイオウドウのキョダイコウジンは防げねぇぜ!」

 

 だが、やはり防壁に無数の棘が刺さり、次第に点と点が繋がってピキピキと防壁にヒビが入っていった。

 やるならここだな。

 

「サーナイト、メガシンカ」

 

 防壁が壊れる前にキーストーンとメガストーンを共鳴させ、サーナイトを虹色の光で包み込んでいく。

 そしてメガシンカエネルギーの解放と同時に防壁が粉々に砕け、拡散するエネルギーが叩きつけられる鋼の棘を一掃してしまった。代わりにフィールドには淡いピンク色のオーラが立ち上り、ミストフィールドを作り上げていく。

 

「な、ま、まさか………!?」

「頭上だ、テレポート」

 

 おっさんが驚いている隙にテレポートでダイオウドウの頭の上に移動させる。

 

「なっ!? ど、どこへ行きやがった?!」

 

 一瞬で消えたサーナイトをキョロキョロと探し出すおっさん。

 

「サーナイト、きあいだま」

 

 だがもう遅い。

 サーナイトはダイオウドウ自分で確認できない頭上に移動し、エネルギー弾を思い切り叩きつけた。

 

「きあいだま」

 

 叩きつけてーーー。

 

「きあいだま」

 

 ーーーさらに叩きつけた。

 

「ダイオウドウ!?」

 

 三発のエネルギー弾を無防備な背中に受けたダイオウドウは、そのまま伏してしまった。

 すると何段階かに分けて徐々に身体が元の大きさにへと戻っていき、それを見たサーナイトが俺の元まで戻ってくる。

 

「ダイオウドウ!」

 

 おっさんがダイオウドウに呼びかけるが反応はない。

 ………まさかアレでってことなのか?

 様子を伺っているとカブさんがダイオウドウの元へ向かい、顔を覗き込んだ。

 

「………ダ、ダイオウドウ、戦闘不能!」

 

 そして震える声でそう宣言した。

 

「き、きあいだま三発で戦闘不能だと………!? 一体全体どうなってやがる…………!」

 

 こっちもこっちで声が震えているな。

 タイプ相性や撃ち所にもよるのだろうが、普通はきあいだま三発で倒れるはすがないということなのだろう。

 やはりダイマックスにはメガシンカで対抗するしかなさそうだ。Z技では一発しか相殺できないし、使うのならメガシンカする前にか他のポケモンでだろうな。

 

「お、おい………なんだそのポケモンは………。サーナイトのようでいてサーナイトじゃねぇ…………まさかっ!?」

「そうだよ、そのサーナイトの姿こそが僕が勝てなかったメガサーナイトだよ」

 

 サーナイトの姿に頭を回転させるおっさんは、カブさんを見て何かに気づいた。

 

「チッ、これがメガシンカ………ド・強いじゃねぇか!」

 

 ああ、なるほど。

 カブさんがメガシンカ使えることを知っていて、尚且つバシャーモの姿が変わるのも見ているのだろう。

 

「戻れ、ダイオウドウ」

 

 倒れたダイオウドウをボールに戻すおっさんの顔は何故か嬉しそうだった。

 

「ボスゴドラ! お前のド・根性を見せてやれ!」

 

 最後に残ったボスゴドラはヤドランがダメージを与えている。それに加えてダイマックスを既に使っているため、新たに巨大化してくることもない。きあいだまを当てれば負けることはないだろう。

 

「ストーンエッジ!」

 

 地面を叩き、岩を突き出してくるボスゴドラ。

 最後のポケモンになってしまったからか、さっきとは気迫が比べ物にならないくらい鋭さを感じられる。

 

「テレポート」

 

 とは言っても、こっちにはテレポートがあるため、躱すのはそんなに難しいことではない。

 

「まだまだァ! がんせきふうじで自分を取り囲め!」

 

 テレポートで空中に退避するとボスゴドラは岩石で自分の周りを囲んでいく。

 きあいだまを当てられないようにするためだろうか。これだとボスゴドラも視界を塞がれているようなものだと思うんだが………。

 

「岩を使え、サイコショック」

 

 ボスゴドラを囲む岩をサイコパワーで支配し、全方位からボスゴドラを押し潰していく。

 

「なっ………?!」

 

 おっさんも流石に岩を操ってくるとは思わなかったみたいだな。

 となると、まずは脱出を考えるだろう。

 

「チッ、ボスゴドラ! あなをほる!」

 

 穴を掘って逃げたか。

 

「サーナイト、空中で待機だ」

 

 地上にいてはボスゴドラの思う壺になりそうなので、サーナイトを空中で待機させておく。

 どこから出てくるのかは分からないが、距離があればその分対応もできやすくなる。

 

「かげぶんしん!」

 

 うん、前言撤回。

 どこからどれだけ出てくるのかも分からなくなったぞ。

 地中で動き回るとか、洞窟に棲むボスゴドラならではの動きを取り入れてくるとは………。

 

「ラスターカノン!」

 

 するとサーナイトを囲むように全方位から鋼の光線が地面を突き破ってサーナイトへと集約していく。集中砲火だな。ただ、このままテレポートで躱すとそこにボスゴドラが現れるのは読めている。敢えてそれを見越して移動するのも有りだが、ボスゴドラからの直接攻撃をもらいやすくもなる。

 

「まもる」

 

 ここは一旦様子見で塞ぐことにした。

 恐らくその隙に何か仕掛けてくるはずだ。それもボスゴドラのことだからより直接的になるだろう。

 

「そこだ! アイアンテール!」

 

 そして案の定、ボスゴドラはサーナイトの背後から飛び出し、鋼の尻尾を大きく横殴りに叩きつけてきた。

 

「チッ、リフレクター」

 

 咄嗟にリフレクターを作り出して受け止めるも、その衝撃波は半端なく、壁ごと地面に叩きつけられてしまった。

 

「まだまだァ! ボスゴドラ、アイアンヘッドでぶっちぎれ!」

 

 ボスゴドラはそのまま落下運動も加えて頭から急降下してくる。

 鋼の頭は角もあることで別の技に見えなくもないが、一応は頭突きなのだろう。先に二本の鋼の角の方が当たりそうだけど………。

 

「テレポートからのきあいだまだ」

 

 サーナイトはテレポートでボスゴドラの上を取り、背中にエネルギー弾を叩きつけた。

 すると運良くなのかボスゴドラの身体に回転がかかり、背中から地面に落ちていきバウンドしていく。

 

「ド・根性見せろよ! ボスゴドラ、ストーンエッジ!」

 

 おっさんの厳しい要求にボスゴドラは自分から身体を捻り、右手で地面を叩きながら体勢を立て直していった。

 その衝撃で地面からは岩が飛び出してサーナイトに襲い掛かる。

 

「テレポートで躱せ」

 

 再度テレポートで躱し、ボスゴドラの上を取るとーーー

 

「トドメだ、きあいだま」

 

 ーーーエネルギー弾を無防備な背中に向けて投げつけた。

 

「仰向けになれ! メタルバースト!」

 

 ッ!?

 すげぇな、あのボスゴドラ。

 身体を転がして反転し横腹にエネルギー弾を受けながらも、そのダメージの一切をメタルバーストに乗せて打ち上げてきた。

 流石に対応しきれず打ち上げられてしまい、高く舞い上がったサーナイトは俺の方へと落下してくる。

 

「サーナイト」

 

 何とか受身を取って着地したサーナイトのメガシンカは解ける気配がない。一応、戦闘不能になることはなさそうだ。

 

「ボスゴドラ!」

 

 対して、ボスゴドラの方はおっさんの呼びかけにも応じる気配がない。

 様子を見に行ったカブさんは静かに首を横に振った。

 

「………ボスゴドラ、戦闘不能。ピオニー君、君の負けだ」

 

 ふぅ、ようやく終わったか。

 何つーか、ダイオウドウがエースなのかボスゴドラがエースなのか悩む気迫だったな。キョダイマックスを使っていたからダイオウドウの方がエースなんだろうけど、最後に残ったボスゴドラの気迫は鬼気迫るものがあった。

 それに油断していたわけではないが、まさかこの直感で動いていそうなおっさんが地中で影を使って手数を増やしてくるとは思わなかった。もっと直接的になるんだろうと予想していただけに、驚きは強かったな。

 

「すっげぇーっ! 親父に勝っちゃった!」

「だぁーっ、クソッ! 進化した辺りから全然勝ち筋が見えねぇ!」

 

 シャクヤは目をキラキラさせて俺を見てくるし、おっさんは両手で頭を押さえて天を仰いでいる。

 二人とも声デケェよ。流石親子だわ。

 

「ヤドラン倒しただろ」

「んなもんオレたちの意地でしかねぇよ」

 

 ヤドランが倒されたことを突っ込んだら、なんか違うと返されてしまった。

 勝ちはしたものの納得のいくバトルではなかったのかもな。俺としてはヤドランの先が見えるバトルだったから充分だが、純粋に勝ちを望んでいたおっさんには色々思うところがあるのだろう。

 

「つか、キョダイマックスが圧倒されるってどういうことだよ! 聞いてねぇよ!」

「テレポートがあんなチート技だとは思わなかったしねー」

「………ダイマックスは技が強化される上に巨大化することで攻撃に重さを乗せることができる反面、的がデカいからな。対応できない箇所からの攻撃にはなす術もないと思ったんだよ」

 

 だからこそ思う。

 ダンデのリザードンには隙がねぇ。

 テレポートで移動したところで、あの獄炎はフィールド全体を呑み込んでしまえる。その上、獄炎の柱でもあるため縦にも攻撃が飛んできて正直逃げ場がない。

 あの時は様子見で守り、Z技で相殺し、メガシンカ時のエネルギーで吹き飛ばして何とか耐え切ったが、そこまでしないといけないのだからダイオウドウの比じゃないのが分かる。

 

「ねぇねぇ、ハチ兄。アタシも自分のポケモンが欲しい!」

「はっ?」

 

 ハチ兄?

 それって俺のことか?

 俺にはコマチという世界一の可愛い妹がいてだな………。

 おいやめろ。そんなキラキラした目で俺を見上げるな。

 

「…………ポケモンスクールとか行ってるのか?」

「行ってるよー?」

「成績は?」

「親父の偏った知識のせいでアタシも偏ってる」

「なら、ポケモンのことをもっと勉強しないとな。ちゃんと賢くなった子にはポケモンを捕まえにいくのに付き合ってやるよ」

「ほんと!?」

「ああ、だからちゃんと勉強するんだぞ。あと、どのポケモンがいいのかも候補を絞っておいてくれると助かる」

「分かった! アタシ頑張る!」

「おう、頑張れ」

 

 …………これでいいよな。

 先のことなんて分からないのだし、具体的な数値も出していないし。その場だけでの口約束なんて、時間が経てば忘れるもんなんだからさ。何かあったら未来の俺に託そう。

 

「あ、あれほど勉強が嫌だったシャクちゃんがこうもあっさりやる気になるなんて………」

 

 …………これは多分、もっと先のことになりそうだな。

 

「あっ、そうだ。ハチ君」

「ん? 何すか、カブさん」

 

 何かを思い出したカブさんが俺を手招きして呼び寄せてくる。三人に見えないように背中でガードしながらスッと一枚の写真を手渡された。

 ………人の顔?

 

「この前の件の犯人と思われる人物だそうだよ。目撃証言などから警察が割り出したみたいで、あの時対応に当たってくれた人含めてジムリーダーに公開されてるんだ。君もこの顔の人物を見かけたら注意してね」

 

 なんとまあ、まさかの被疑者と思われる人物の顔だった。

 

「………本来の用件ってこれですか?」

「そう、なんだけど来る途中にピオニー君に君の話をしたら………」

「ああ、そういうことでしたか。カブさんも大変ですね」

「彼は昔からそういうところがあるからね。僕はそれで救われた身でもあるから、なるべくフォローするようにしてるんだよ」

 

 この人、苦労してるんだな。

 それでもあのおっさんをまあまあコントロールできているのだから、長年の付き合いの賜物だろう。

 心の中で手を合わせる他ないわ。お疲れ様です。

 

「それとシャクヤ君のことだけど、知識が偏ってるって言っても基礎的なことは理解してるよ。ただ、父親がピオニー君ってこともあってはがねタイプのことは他より詳しいって感じかな。あと自分のポケモンがいないからバトルの経験は乏しいね」

 

 なるほど。

 父親があんなんで勉強が嫌いってことだったから、てっきりおバカなのかと思ってしまったが、実はそうでもないようだな。

 特別賢いというわけでもないのだろうが、基礎ができていて得意分野が一つでもあるのなら、それでいいと思う。

 あとはそこからさらに他のことに関心を向けられれば、だな。

 

「それなら、他のことにも目を向けさせれば……」

「うん、だからシャクヤ君に聞かれたことはできるだけ丁寧に説明してあげて」

「了解です」

「ハチ兄、カブさん。何コソコソ話してるの?」

 

 そんな会話をヒソヒソとしていたら、後ろからシャクヤに声をかけられてしまった。

 写真をポケットにしまって振り返ると、誤魔化すようにシャクヤの頭を撫でる。

 

「別に深い話はしてないぞ? シャクヤのことよろしくお願いねって頼まれただけだ」

「じゃ、じゃあ、勉強で分からなかったところとか教えてくれる?」

「俺の分かる範囲でならな」

「うん!」

 

 一体何がやる気にさせたのかは分からないが、自ら勉強しようとする気持ちがあるなら俺もそれに応えるまでだ。

 と言っても本土の方に帰るだろうし、連絡先とか交換しておくべきかね。

 

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