ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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49話

「あのさ………」

 

 翌日。

 ワンパチに叩き起こされると、適当に朝飯を食って、今日の目的地へと向かうことにした。

 その道中、ずっと黙りこくっていたソニアがようやく口を開いた。

 

「ハチくんに言われてこの服装のリスクを一晩考えてみたわ」

「ほう」

「で、結論からいくと、わたしに欲情したハチくんに襲われるという可能性が一番高いんじゃないかってことになったわ」

 

 …………………………。

 

「ほら、わたしってナイスバディじゃん? ハチくんが異様に心配するのも欲情しないように頑張ってる反動なんじゃない? だからいろいろ理由をつけてわたしに素肌を醸させないようにしてるんだと思うの」

「まあ、客観的に見てその可能性が一番高いかもしれんな」

「ほら、やっぱり」

「だが、悪いが俺には既に先約がいる。それもバラエティ豊かに。その中にはお前以上のナイスバディのお姉さんもいるわけだ。今のところその劣化版でしかないお前に、俺が欲情するとでも?」

「えっ、なに? まさかハチくんってハーレムクソ野郎なの?」

 

 クソはやめろよ。

 否定できないから。

 

「………色々深い事情があるんだよ。これでもそいつらのことをいっぱい傷つけてきたからな。何なら今もその真っ最中って言っても過言ではない。だからこそ、俺はあいつらのことを大事にしたいんだよ」

「傷つけてって、もう傷物にしちゃったの?」

「……………なんか俺の方が貞操の危機を感じるのは気のせいか?」

「ごめんごめん、冗談だから。でも、今も傷つけてる真っ最中ってどういうこと?」

「それ以上はお前の命を保証できないが、それでも聞きたいか?」

「うん、怖いからやめとく。…………ハチくんって、絶対犯罪者じゃないでしょ。目はアレだけど」

「どうだろうな………」

 

 目のことは一言余計だが、俺が清廉潔白とは言い難いから何とも答え難い。サカキのせいでやることやってるっちゃやってるからな。

 

「っと、ハニカームの海はこの先よ」

「ほーん」

 

 アホな会話をしていたら今日の目的地であるハニカームの海とやらの近くにやってきたらしい。

 どこからそのハニカームとやらなのかはさっぱりなのだが………。そもそもハニカームって何ぞ?

 しかもここってチャレンジビーチじゃん。その北に広がる海がハニカームってことでいいのか?

 

「特に異常な現象は見当たらないな」

「今は、かもしれないよ」

「だな。どうやって調べたものか」

 

 爺さんが言っていた海で暴れているポケモンとやらは見当たらない。何なら海は穏やかな波で、荒れているという形跡もない。本当に暴れているポケモンがいたのかね。そういうレベルである。

 

「取り敢えず、ウルガモス。空から異変がないか見てきてくれ」

「モス」

 

 ひとまずウルガモスをボールから出して、空からの調査を依頼した。浜からでは見えないことも空からなら見えることもある。それでも何もないようなら、水中に何かしらがあるかもしれない。

 

「なあ、この先に陸から移動できる場所はないのか?」

「ないよ。この先はずっと海が広がってるだけだもん。ハニカーム島ってのがポツンとあるくらいかなー。あとはもっと北西に小さい島があるくらい」

「マジか………。これ背中に乗れるみずタイプとかひこうタイプがいねぇと調査どころじゃなくね?」

 

 流石に崖を移動する芸当は持ち合わせていないしな。

 こういう時、リザードンがいてくれたら便利なのだが、無い物ねだりしてもしょうがない。

 

「だね。ダンデくんのリザードンがいればひとっ飛びなのになー」

 

 ん?

 えっ………?

 こいつ、まさかの知り合い?

 

「………なぁ、お前ってまさかダンデの知り合いなのか?」

 

 年齢的にも多分近いんだろうし………それに、あの道場に来るのって割とダンデも知り合いっていうか同業者だし。逆にソニアの方が異端な方だ。特に肩書きもない自称研究者見習いとジムリーダーとでは明らかにダンデとの接点の近さが違う。

 

「おいこら、こっち向け」

 

 なのに、この自称研究者見習いはぷいっと顔を逸らしてしまった。しまった!? って感じで顔に冷や汗が垂れそうな勢いだ。

 

「嫌だ。絶対わたしとダンデくんを比較して笑いものにするじゃん」

「しねぇよ。あのバトルバカと比較できる程、ソニアのことも知らんし、何ならダンデのことも知らねぇよ」

 

 一体ダンデと何があったのかは知らないが、ダンデと比較しようだなんて思わねぇよ。向こうはチャンピオンだぞ。

 

「んで、結局どういう関係だよ」

「………幼馴染です」

 

 観念したのかぼそっと爆弾を落としてきた。

 なるほど、だからそんなことを聞いてきたのか。

 距離が近ければ近い程、幼い時は比較されやすいからな。流石に今ではあっちはチャンピオンなんだし、比較対象にもならないだろうが、過去の嫌なことは意外と鮮明に覚えてたりするから、自分からダンデの名を口にしてしまったのに焦ったのだろう。

 

「……………大変だったんだな」

「分かってくれる?! あの方向音痴には手を焼かされてばっかりだったわよ! そのくせ好奇心だけは強いから、ちょっと目を離した隙にフラフラとどこか行っちゃうし! 探す方の身にもなれっての!」

 

 あ、そっち?

 同情した俺がバカみたいじゃねぇか。

 いやまあ、確かにあの方向音痴は常軌を逸しているけども。

 

「………ハチくんはダンデくんとどういう関係なの?」

「道場に入った翌日にたまたまあいつが来て、師匠にバトルさせられた」

「ダンデくんとバトルしたの!?」

「あ、ああ」

 

 えっ、何?

 幼馴染とバトルしたことがそんなに嫌だった?

 

「………よくやるね。ダンデくんとバトルしても結果は見えてるのに」

 

 そう言って顔を背けたソニアはどこか遠くを見ている目をしていた。

 ああ、諦観の方だったか。

 確かにあの強さは方向音痴と同様に常軌を逸しているが、ソニアが想像してる結果とは真逆なんだよなー。

 

「道場に来て二日目の寝起きでどこの誰とも知れない奴とバトルさせられたんだぞ。少ない情報から相手はチャンピオン級なんだろうってことくらいしか分からなかったし」

「分かったのにバトル続けたんだ………」

「ポケモンが巨大化するってのも気になってたからな。チャンピオン級ならまず切り札として使ってくるだろうと思って最後までバトルしたんだよ」

「…………で、負けたと」

「いや、勝ったぞ」

 

 サーナイトに使える手札は全部使ったがな。

 これでダンデと再戦する時は対策もされていることだろうし、何より俺の手札にサプライズがなくてダンデの隙を突くことができなくなってしまった。

 

「はっ?」

「モース!」

 

 ソニアがあり得ないものを見るかのような目で俺を見てきたのと同じタイミングで、ウルガモスが帰ってきた。

 

「おかえり、ウルガモス。暴れてるポケモンはいたか?」

「モス、モス!」

 

 コクコクと首を縦に振るウルガモス。

 マジか。

 ここから見えないだけで奥で暴れてるポケモンが本当にいるのか。

 

「ちょちょちょちょっと! それよりも今聞き捨てならないこと耳にした気がするんですけど!? ダンデくんに勝ったって本当なの?!」

「ほんとほんと。それよりこの先に足場になるようなところとかってあるのか?」

「軽っ!? 君、自分が何したか分かってるの?! 無敗のチャンピオンに勝ったなんて世間に知れたら大問題なんだからね!」

「非公式戦の、それも一対一のサシだ。しかも道場内でのことってなれば、どうにでも言い訳はできる」

「うっ…………、これが終わったらちゃんと聞かせてもらうからね」

「はいはい、お好きにどうぞ」

 

 ダンデに勝ったことが大問題になることくらい、俺も理解してるっつの。だからあの巨大化事件の時も顔出しNGしたんだし。今のところ俺の噂が広まっているという話は聞いてないため、多分大丈夫なのだろう。

 

「うーん………何だったら、ハニカーム島まで行ってみる?」

「え、島なんてあんの?」

「さっき言ったじゃん。この先にそのハニカーム島ってのがあって、その周りの海がハニカームの海なの」

 

 あ、そういう感じでしたか。

 すんません、聞き流してたわ。

 思いがけずハニカームの正体が分かってしまったな。でもハニカームってどういう意味なんだろうか。

 

「ウルガモス、最初はわたしを連れてって。そのハニカーム島まで案内してあげる」

「モース」

「お前、飛べるポケモンいないの?」

「いないよ?」

「フィールドワークに必要じゃね?」

「と言っても移動はアーマーガアタクシーがあるしねー」

 

 こいつ、贅沢を覚えやがって。

 俺は最初からリザードンだったから飛ぶことに関しては特に問題はなかったが、ユキノなんかは後にボーマンダを仲間にしているし、イロハもフライゴンとかガブリアスがいるからな。あれ? ユイの手持ちに飛べるポケモンっていたっけ? コマチですらプテラに懐かれたっていうのに……………あ、いたわ。あいつのウインディが空を駆けるんだった。翼を持つポケモンがいないから一瞬いないと思ってしまったぞ。

 うん、やっぱり皆手持ちに空から移動できるポケモンは必ずいるな。

 これが文化の違いってやつなのか?

 

「んじゃ先に行ってるね」

「はいよ」

 

 ウルガモスに抱えられたソニアがヒラヒラと手を振ってくる。

 ウルガモス、そいつが何かしたら海に落としてもいいからな?

 

「それにしても………」

 

 あの出島の浜の木製の塔は何なんだろうな。

 ここに来る度にそう思うのだが、帰ると忘れてて結局何なのか聞いていない。

 ただ、ジョウト地方にあんな建物あったよなーとは思う。確かエンジュシティ辺りに。一個は焼けて焼失しているけど。

 実はここにも僧侶的なのがいたりしてな。マスター道場で力を付けた門下生が定期的に試練を受けに来るとか。ずっと試練が与えられない俺が特殊なだけで、普段門下生たちは爺から与えられた課題をこなしているし。その一環でここを使うって考えるとしっくりくる。

 というか、だ。こんな砂浜の上に木製の塔を建てるとか、潮風に晒されてすぐに倒壊するんじゃねぇの? 大丈夫なのか?

 

「モース!」

「お、もう戻ってきたのか」

 

 そんな感じでぼーっと辺りを眺めているとウルガモスが帰ってきた。ソニアがいないということは無事にハニカーム島にまでたどり着いたのだろう。

 

「んじゃ、俺も頼むわ」

「モス」

 

 そういうとウルガモスは俺の背中に引っ付き、身体を持ち上げていく。リザードンの背中に乗って空を飛んでいた時とは違って、俺に翼が生えたかのような気分になるな。そしてそのまま太陽に向かって飛んでいったら翼が溶けて落っこちてしにましたってことにはならないけど。何なら背中が直射日光を浴びたように暑くて、俺の背中が溶けそうだわ。

 しばらく海の上を飛んでいると、ポツンと島があるのが見えてきた。方角的にも目的地はあそこなのだろう。

 

「おーい、ハチくーん!」

 

 あ、ソニアもいた。

 なんだ、ウルガモスに何もされなかったのか。

 

「んな呼ばんでも見えてるっつの」

「だって、ハチくん。まるでウルガモスの餌にされて囚われてるのかと思うくらい顔が死んでたんだもん」

「何でその位置からそんなこと分かるんだよ………」

 

 島に着地すると俺を見てケラケラ笑うソニアに悪態を吐いておいた。

 

「上から見た感じ暴れてるポケモンはいなかったが、もっと奥ってことか…………?」

「んー……………」

「つか、双眼鏡はちゃんと持ってきてんだな」

「当たり前じゃない! ポケモンを観察しなきゃいけないんだから当然でしょ!」

 

 そのせいで俺の顔もドアップで眺めてたってことだろ。悪趣味もいいところだわ。

 

「あっ! いた! なんか一体だけ動きが激しいポケモンがいるよ」

「へぇ……ここからじゃ何も見えんわ」

 

 双眼鏡の先に何かが映り込んだらしいが、生憎肉眼では何も見えない。

 

「えっと……あ、ヤバッ! 渦潮が出来始めたよ! どんどん大きくなっていってるから肉眼でも見えるようになるかも!」

 

 渦潮か。

 となるとみずタイプのポケモンか? ここ海だし。

 目を細めてソニアが指す方を見やると、確かに水面に渦が発生しており、段々と竜巻のように高さが作られていく。

 ここまでくると普通に肉眼でも見えるな。

 

「………あー、あれね。ポケモンの正体は分かったか?」

「渦潮で見えないなー………」

 

 まあ、そうか。

 渦潮を発生させているポケモンはあの渦の中心にいるだろうしな。位置的にも海の中が濃厚かな。

 双眼鏡で渦の中、引いては海の中まで見えたら、その双眼鏡の価値は莫大に膨れ上がるまである。

 

「あれ? そういえばあの方角って…………」

「東だな」

 

 道場から大雑把に西にある浜の木製の塔から北に進んできたのだから、今見ている方向は大雑把に東だろう。

 それが何だというのだろうか。

 特にここら一帯の地理感覚はさっぱりなので、聞かれても困るんだわ。

 

「えっと、確か………」

 

 すると双眼鏡から顔を外して砂の上に六角形を書いていくソニア。

 そしてその東側に少し離れて丸を書き、北にも一つ丸を書いていく。続けて東の丸の上の方に二つの丸をちょっとだけ間隔を開けて丸を書いていき、最後に東の丸の南東にもう一つ丸を付け加えた。

 

「ハチくん、多分あの暴れてるポケモンがいるところってポケモンの巣穴の近くだと思う。それと他の丸がこのハニカームの海のポケモンの巣穴の大体の位置。あ、六角形がここね」

 

 砂に書いた絵を使って説明してくれるソニア。

 なるほど、ポケモンの巣穴か。鎧島に点在してるのはもちろん、本土のげきりんの湖とやらでの巨大化現象の時にも湖上に巣穴があったため、海上にあったとしてもおかしくはない。

 ただ、何だろう。何かすごく嫌な予感がする。

 

「………光の柱!?」

 

 するとボゥッ! と渦潮の方から赤い光の柱が天に向かって伸びていくのが見えた。

 いよいよ以ってヤバい状況になってきたな。発生当初を知らないから何とも言えないが、あの時のことを彷彿させてくるのは言うまでもない。しかもここは離島のさらに離島。ジムリーダーたちがいる本土とは違って、実力者はメインの鎧島にいる爺さんとミツバさんくらいだ。門下生たちも束にならないと対処はキツいだろう。加えてソニアの地理通りなら基本海上で戦うことになる。爺さんも海上でのバトルには向いてないみたいだし、ミツバさんも未知数。門下生に至っては人数が必要な上に何人が海上で戦えるか分からない。最悪、応援を呼んだところで足手纏いにしかならないだろう。

 それならば、俺の手持ちをフル稼働させた方が手っ取り早いか。幸い、口を閉ざさせるのはソニアただ一人でいい。

 

「………ソニア、一応聞いておく。手持ちのポケモンは?」

「え?」

「いいから。今いるポケモンだけ名前を言え」

「えっと、今の手持ちはワンパチにエレザード、それにストリンダーにサダイジャ、ニョロトノとラグラージだよ」

 

 ストリンダーとサダイジャだけ知らないな。

 

「ストリンダーとサダイジャのタイプは?」

「ストリンダーがでんき・どく、サダイジャがじめんタイプ」

「背中に乗って海上移動は?」

「無理だと思う」

 

 つまりでんきタイプが三体、みずタイプが二体ってことか。ただし、ソニアが背中に乗りながら戦えそうなポケモンはいない。つか、ラグラージを連れてることに驚きだわ。留学先のホウエン地方で捕まえたのだろうか。

 

「バトルの腕は?」

「………ジムチャレンジに参加したことはあるけど」

「今は?」

「うっ、わ、わたしも戦うからね! ハチくん一人でレイドバトルなんて危険すぎるよ!」

「正直逃げてくれた方が助かるんだけど」

「何でよ! ハチくんだけ置いて逃げるなんて、わたしがハチくんを見捨てたみたいになるじゃん! それだけは嫌よ! どんなにバトルが嫌でもそれだけはしたくない!」

 

 ソニアの中にも何か譲れないラインがあるのだろう。正直に言えば、ソニアがこの場から離れてくれた方が気兼ねなくあいつらを使えるから楽なんだけどな。巻き込む可能性も考えなくて済むし、俺のやりたいようにやれる。

 

「ヴォォォォバァァァアアアアアアアアアアアアアアアスッッ!!!」

「えっ、な、なんで巣穴の外にダイマックスポケモンが現れてるの…………?」

「チッ、益々予感が的中しそうな嫌な流れだ」

 

 これはもう、そういう流れとしか考えられないな。

 普通はポケモンの巣穴の中でダイマックスが発生するはずなのに、内部のエネルギーが充満しすぎているのか、巣穴の外に巨大化したポケモンが現れてしまう現象はあの時と同じである。いや、もっと前に遡ればウルガモスもそうだったか。

 そうなるとやはり一つだけ俺の手に負えない、というか面倒なのがあるんだよな………。

 

「ド、ドラッ、ドラ………」

「うぉっ!? びっくりした………キングドラか」

 

 なんて考えていたら、いきなり足元にキングドラが流れ着いてきた。

 身体中がボロボロで渦潮にでも呑まれて流れ着いたように見受けられる。

 

「………あっ! 多分この子だよ、暴れてたの!」

「まさかの本人かよ………」

 

 それってつまり自分の技に呑まれたってことか?

 或いはーーー。

 

「おい、キングドラ。起きる元気はあるか?」

 

 キングドラの身体を揺すって意識があるのか確認してみる。

 

「ドラ? ドラ、ドラ!」

「ちょ、おま、イテッ、コラッ、バカ、痛いっつの!」

 

 すると目を開いたキングドラが俺の顔を見るなり、口先で俺の腹をド突いてきやがった。

 いや、マジで痛いから。お前身体デカいんだから、腹にかかる力も相当なんだぞ。リバースしたらお前のせいだからな!

 

「…………お、落ち着いたか?」

 

 口先を強引に掴むと息切れし出してようやく落ち着いてくれた。

 

「ドラ……」

 

 よかった、墨を吐かれなくて。戦う前から汚れるとか、気力を失くすところだったわ。

 

「ウルガモス、こいつが何をしていたのか聞いてくれるか?」

 

 それと同時に黒いのに通訳の合図を送る。

 

「モス、モス」

「ドラ、ドラドラドーラ! ドラ!」

『ハヤクニゲロ。ココノエネルギーガタマリスギテイル。キケンダ』

 

 火の玉に文字が浮かび上がり、そう書かれていた。

 なるほど、ただ単に暴れ回っていたわけじゃないってことか。それにエネルギーが溜まりすぎているということは、まさにあの時と同じ状況ということだろう。つまりは巣穴の中にねがいぼしが大量に投げ込まれている可能性がある。人為的、しかもあの時の犯人が未だ捕まっていないとなれば…………そういうことでいいのだろう。

 あーあ、嫌だなー。働きたくないなー。

 

「……お前、自分が暴れることによってこの周辺に人やポケモンを近づけないようにしてたんだな」

「ドラ! ドラ!」

「分かった、わかった。だから落ち着けって」

 

 まあ、何にしてもキングドラの意図は理解した。理解したらしたで分かってくれたかと、またしても俺の腹に口先をグリグリしてくるキングドラ。痛いからマジでやめてね。

 

「………ふぅ、お前の意図は分かった。だが、これを放置しておいたところで恐らく悪化の一途辿るだけだ。何なら最悪巨大化したポケモンがこの周辺一帯を、いや鎧島の西側が破壊される可能性もある。そうなるとこっちとしても黙っちゃいられないんだわ」

 

 キングドラの目を見てそう伝えると、さっきの反応とは打って変わって真面目な目付きになりやがった。

 最初からそういう反応してくれるとこっちとしても無駄な体力使わなくて済んだんだけどな。もういいけど。

 

「あ、あのさ、ハチくん。君、何気にすごいことしてるよね?」

「何が?」

「ポケモンと普通に会話してるじゃん!」

 

 ソニアの言葉にキングドラと顔を見合わせてみるも、当のキングドラもだから何? って顔をしている。

 俺としては翻訳してもらわないと会話にならないし、割と一方的に伝えてるだけな気もするが………。

 まあいい。やることは決まった。

 ただ片づけに行く前に懸念を一つ潰せるようにしておくか。

 

「ソニア、お前はここで待機してろ」

「えっ? ちょ、わたしもいくって言ってるじゃん!」

 

 置いていくと言われたソニアはビクッと身体を揺らして焦った様子で反論してくる。

 

「北にもあるんだろ。ポケモンの巣穴」

「う、うん………それが何?」

「最悪を想定した場合、そこにもダイマックスしたポケモンが地上というか海上に現れる。その前に北東の二つにも現れる可能性があるが、幸い東側は縦ライン上に点在してるっぽいから俺が何とかする。だが、一個だけ遠い北側のだけはソニアに頼みたい」

「それって………」

「俺の予感が的中しないことを祈るが、四ヶ月前のワイルドエリアと同じかもしれない」

 

 置いていく理由を説明すると、ソニアも四ヶ月前のあの事件を知っているのか、状況が伝わったみたいだ。

 

「で、でもそれじゃ一人でレイドバトルすることになるじゃん。四人は必要なのに。だからせめて二人でやらないと」

「それは違う。レイドバトルに必要なのは四人のトレーナーじゃない。四体のポケモンだ。トレーナーが一人だろうが、ポケモンが四体いればどうにかなる」

「っ!?」

「いいか、常識だけに囚われるな。ここは公式バトルの場じゃないんだ。使えるものは全部使え」

 

 ソニアは恐らくこうあるものこうあるべきという固定観念が強い方のような気がする。頑固ってのもあるな。

 研究者の孫らしいし、周りからの期待に応えていく内に決まった型に嵌っていったってところかな。

 だが、緊急事態なんてそんなことを気にしていたら、手札がショボくなるだけである。そこにあるもの全てを使わなければ、最悪こっちが死ぬ羽目になる。そうでなくても死にそうになるんだから、俺みたいに。

 

「………分かったわ。北側はわたしが何とかする」

「頼む。それとソニア、シンオウ地方の伝説ポケモンについてはどこまで知ってる?」

「えっ? なに? 急に話変わってない?」

「いいから」

「一応創造神アルセウスからディアルガ、パルキア、ギラティナ。それに湖の三体と満月島と新月島のポケモンとレジギガスについては勉強したけど」

「よし、ならこいつを使え」

 

 それだけ分かっているならこいつの力を見せても大丈夫だろう。口外しないように念を押しておかないとだが。

 あ、ヒードランには心の中で合掌しておこう。

 

「うぇ!? ク、クレセリア?!」

 

 ボールからクレセリアを出すと、流石のソニアも口元を押さえて驚いている。そりゃ、目の前に伝説のポケモンが現れたら、その反応が普通だよな。お前かよ、みたいな反応になってしまう俺が異常なのは重々自覚してるさ。

 

「俺がこいつを連れていることは誰にも言うなよ。例え師匠でも」

「う、うん………命の保証がなくなるんだよね………?」

「ああ、そういうことだ。留学して培った知識をフル活用してこいつを使いこなしてみろ」

 

 昨晩の会話がいい感じに機能しちゃったよ。

 あれ、単なる脅しという名の冗談だったんだけどな………。まさかアレを信じてくれるとは。

 

「クレセリア、ソニアを頼む。拙い指示になるかもしれんが、お前の機転でフォローしてやってくれ」

「リア!」

「いくぞ、ウルガモス」

「モス!」

 

 クレセリアにソニアを預け、俺はウルガモスに抱えられながら赤い光の柱へと向かうことにした。

 

「ドラ! ドラ!」

 

 するとその下からボロボロのキングドラが自分も連れてけ! と言わんばかりの目で追いかけてくる。

 

「キングドラ、お前も一緒に戦うってか?」

「ドラ!」

 

 その目はさっきと同様真剣な目をしていた。

 

「分かった。なら、力を貸してくれ」

「ドラ!」

 

 ボロボロだろ、というのは野暮だ。

 こいつは元々自分が暴れることで周りに警戒させていたくらいだから、俺たちがいなくても戦っていただろう。

 

「ザァァァァメェェェエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!」

 

 どこか別の場所で別のポケモンが現れた咆哮を聞きながら、俺たちはまずは一つ目に向かった。

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